あらすじ:朝廷に恨みを持つ鳴神上人(なるかみしょうにん)が竜神を滝壺に封じこめたことにより、雨が降らなくなり世界中で干ばつがおこる。困った朝廷は絶世の美女、雲の絶間姫(くものたえまひめ)を鳴神上人の元へと送り込む

出演

鳴神上人:如月千早

雲の絶間姫:高槻やよい

黒雲坊:双海亜美
白雲坊:双海真美

粂寺弾正:水瀬伊織

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亜美「ねえねえ」

真美「なになに?」

亜美「なんで師匠は竜神を滝壺に封じ込めたのかな?」

真美「なんでも朝廷に恨みがあるみたいで、その仕返しみたいだよ→」

亜美「それでその封印が破られないように、あの封印の注連縄の番をしろってことで二人が呼ばれたと」

真美「そういうことっしょ→」

亜美「めんどくさいなぁ…気が滅入るよ…」

真美「んっふっふ~、だろうと思ったよ…ほい!!」

亜美「あっ、お酒じゃん!この横着坊主め!これは師匠に報告…というところだけど、息抜きも大切だからね~」

真美「そういうことそういうこと!でも肴がないのがなぁ…」

亜美「んっふっふ~、こんなこともあろうかと…それ!!」

真美「あっ、蛸じゃん!坊主のくせに蛸を食べるなんて、これは師匠に報告…というところだけど問題ないよね~」

亜美「そうだよ!早速飲んじゃおう!」

真美「師匠に見つからないうちに…」

「黒雲!白雲!」

亜美「げえっ!!まずい!!」

真美「は、早く隠さないと…」

千早「……」

亜美「し、師匠、なんですか?」

千早「先程滝壺の方から念仏を唱える声が聞こえて来ました。もしかしたら朝廷からの刺客やも知れません。何者が来たか見て来なさい」

真美「めんどくさあ…」

千早「なにか言いましたか?」

亜美「い、いえ!じゃあ早速見てくるね!」

千早「早く行きなさい」

あみまみ「へ~い」

真美「めんどくさいなあもう…師匠は人使いが荒いよ」

亜美「まったくだよねえ…あっ!」

真美「どうしたの…あっ!」

やよい「南無阿弥陀仏…」

亜美「き、綺麗だなあ…天女かな?」

真美「きっと竜女だよ」

亜美「天女!」

真美「竜女!」

千早「二人とも…」

あみまい「ご、ごめんなさい…」

千早「もういいわ…そこの女」

やよい「はい…」

千早「このような深い山の中へ女の身で、しかも一人で来るとは…一体何者?」

やよい「私はこの麓の村に住む者です。死に別れた夫の薄衣を洗いたいのですが、井戸の水は干上がり使えません。どうかこの滝の水で洗わせてはくれませんか?」

千早「南無阿弥陀仏…そこまでするということは、余程仲が良かったのでしょうね」

やよい「良いなんてものじゃありません!本当に愛していました…例えば夫が仕事に行く時は必ずキスをしてましたし…」

千早「!!!」(た、高槻さんのキス…)

千早「私も!!私もしてもらいたい!!あっ…」ドンガラガッシャーン!

亜美「し、師匠!?」

真美「急に壇上から転げ落ちてどうしたんだろう?はるるんじゃあるまいし…」

やよい「だ、大丈夫ですか!?今水を…ん…」

あみまみ「!?」

千早「う…」

亜美「あ、気がついた」

千早「…心を乱してしまったようね…でもさっき飲ませてくれた水のおかげで随分とスッキリしたわ。黒雲、あなたが飲ませてくれたの?」

亜美「いえ、あのぉ…」

千早「? 言いたいことがあるならハッキリ言いなさい」

真美「水は、その…そのお方が…」

やよい「はい、私が口移しで」

千早「え…口移し?…本当?」

真美「はい…」

千早「あ、ああ…」(お、落ち着きなさい私!!)

千早「ふ、二人とも!ゆゆゆ油断するんじゃないわよ!!」

やよい「な、何をするんですか!」

千早「あなたは私を誑かして、竜神を解き放つために朝廷から送り込まれたスパイね!さあ白状しなさい!!」

やよい「そんな…私がそんな女に見えますか…ひどいです…その疑いを晴らすために、私はあの滝壺に身を投げて死にます!死んで身の潔白を証明します!」

千早「そ、そこまでしなくても…」

やよい「さらば!!」

千早「と、止めなさい!!」

あみまみ「は、はい!!」

やよい「放して!」

千早「私が悪かったわ…あなたの目を見る限り嘘をついてるとは思えない…お詫びとしてなんでも願いを聞いてあげるわ」

やよい「本当ですか?それなら…上人様と二人っきりでお話がしたいです…」

千早「お安い御用よ!!黒雲、白雲、下がってなさい」

あみまみ「へ~い」

亜美「師匠、大丈夫かなあ…」

真美「ちょっとまずいよねえ…」

千早「なにこそこそ話してるの。早く行きなさい!麓の村で酒飲んできてもいいから」

あみまみ「早速行ってまいります!!酒が飲めるぞ~♪いえ~い!!」

千早「あの馬鹿弟子ども…これで邪魔者はいなくなったわ。で、話というのは」

やよい「しょ、上人様…」

千早「ど、どうしたの!?急に苦しみ出して…」

やよい「急に…苦しい…」

千早「薬はないし…落ち着くまで私が介抱しましょう」

やよい「そんな、もったいない…」

千早「気にしないで…苦しいのはこのあたり?」

やよい「はい…」

千早「ここね…どう?」

やよい「落ち着いてきました…ありがとうございます…」

千早「擦ることくらいしかできないけど……!?」

やよい「どうしました?」

千早「今、手になにか柔らかいものが…」

やよい「上人様、それは胸です…お恥ずかしい…」

千早「胸…女性の胸元へ手を入れるなんて初めてだから…き、気を取り直して…」

やよい「上人様…」

千早「こ、ここここの胸のところが鳩尾で、そそそその下が心血…そしてここが!!」

やよい「な、何をなさるのです!?」

千早「ご、ごごごごめんなさい…坊主の身でありながら…」

やよい「本心じゃありませんよね?」

千早「破戒したという事…」

やよい「上人様?」

千早「堕落した…堕落した!!もう我慢できない!!あなたは私と夫婦になってもらうわ!嫌だとは言わせない…もし嫌だというなら…」

やよい「上人様…わかりました、あなたと夫婦になりましょう…私は嬉しいです、上人様」

千早「ほ、本当!?」

やよい「でも私は坊主の女房にはなりたくありません」

千早「今すぐ還俗しましょう!!」

やよい「でも名前が…」

千早「今すぐ名前を変えましょう!!」

やよい「なんて名前にしましょうか?」

千早「如月千早!!!」ドヤァ

やよい「うわあ、良い名前ですね!」

千早「じゃ、じゃあ早速布団を敷いて!!」

やよい「上人様、私は盃事がしたいです」

千早「も、勿論よ!しましょうしましょう!!あの馬鹿弟子達が隠してた、この酒と盃を使わせてもらおうかしら」

やよい「では私から」

千早「私がお酌するわ」

やよい「ありがとうございます……次は上人様ですね!」

千早「いや、酒はちょっと…」

やよい「私がお酌しても飲んでくれませんか…」

千早「飲みます!飲みますとも!……ぶるるるる!」

やよい「だ、大丈夫ですか!?」

千早「お腹がひっくり返るかと思った…な、なんとか飲みほしたわ…」

やよい「じゃあもう一杯!」

千早「さ、さすがにもう…」

やよい「上人様…」

千早「飲ませていただきます!!……こうなったらヤケよ!!」

やよい「良い飲みっぷりですね!!ではもう一杯…わあ!!」

千早「ど、どうしたの!?」

やよい「お、お酒の中に蛇が!」

千早「蛇…あの注連縄が酒に映っただけよ。蛇なんていないわ」

やよい「え…本当だ…でもあの注連縄って何なんですか?」

千早「誰にも言っちゃ駄目よ…あの注連縄は、竜神を封じ込めるためのもので、あれが切れると封印が解けて雨が降るのよ」

やよい「雨が…わかりました!だれにも言いません!!気を取り直してもう一杯!!」

千早「ど、どんどん注いで…ヒック」

やよい「さあさあ!」

千早「う~ん……も、もう飲めない……zzzzzzzzz」

やよい「上人様?寝ちゃった…今がチャンス…上人様ごめんなさい、勅命に逆らうことなんてできなかったんです…どうか許して下さい…南無諸天善神海竜王!雨を降らせてたび給え!帰命頂礼!えいっ!」

ゴロゴロゴロ…ザァー…

やよい「やった…雨が!上人様、さようなら…」

あみまみ「師匠!!」

千早「黒雲、白雲…」

亜美「うわ酒くさ!?」

真美「そ、そんなことより、雨が降ってるよ師匠!」

千早「雨が…?」

亜美「あの女、やっぱり朝廷からの刺客だったんだよ!!」

真美「雲の絶間姫って言う官女で、師匠を堕落させて竜神を解き放つ魂胆だったんだよ!!」

千早「そう…そうだったの……最高じゃない…」

あみまみ「へ?」

千早「私を誑かすなんて…高槻さんはほんと小悪魔ね!!小悪魔な高槻さんも最高に可愛い!!!」

亜美「し、師匠?」(ま、まずい…)

真美「お、落ち着いて…」(千早お姉ちゃんの悪い病気が…)

千早「高槻さん、私の高槻さん!!!逃さないわよ!!!さあ夫婦になりましょう高槻さーん!!!」

亜美「ち、千早お姉ちゃんがやよいっちを思うあまり…生きながら鳴る雷になった→ッ!!!」

真美「千早お姉ちゃんは完全に歌舞伎をしているということを忘却しているッ!!!」

亜美「このままじゃ、やよいっちがマジで危ないッ!!!」

真美「あと、色々と危ないッ!!!止めないと…」

あみまみ「師匠!どうか気を確かに!!!」

千早「邪魔よ!!!どきなさい!!!」

あみまみ「うわあああああ!!!」

亜美「が、鎧袖一触とはこのことか…」

真美「このままじゃ、やよいっちが…」

千早「今行くわよ高槻さーん!!!」

「「ちょっと待ったあ!!!」」

三人「!?」

千早「何者!!」

伊織「待った待ったあ!!」

響「ちょっと待ってもらうぞ!!」

千早「水瀬さんに…我那覇さん…どうしたの?」

伊織「役名で呼びなさいよ、私は今、粂寺弾正よ…まあそんなことはどうでもいいわ…やよいに手を出す気なら承知しないわよ!あと、響!あんたキャスティングされてないじゃない!何で出てくんのよ!」

響「飛び入りってやつだぞ!細かい事は気にしない気にしない!それにほら、お客さんの反応も最高だぞ!」

\沼倉屋!/ \水瀬屋!/ \如月屋!/

千早「この前の弁慶が評判良かったからって、調子に乗らないことね…それに私の邪魔をするなら誰であろうと容赦しないわよ!!私は今から高槻さんと祝言をあげるというとても大事な用があるのよ!!」

伊織「祝言だあ?寝言言ってんじゃないわよ!!やよいは私だけのものよ!!誰にも渡さないわ!!」

響「ちょっと待て!やよいは自分のものだぞ!!他の誰のものでもない、自分だけのものさあ!!」

千早「………」

伊織「………」

響「………」

亜美「まずい…火に油だよ…」

真美「余計に収拾がつかなくなっちゃった…」

千早「まさかこんなところで決着をつけることになろうとは…」

伊織「最高の舞台じゃないの」

響「いつかはこうなると思っていたぞ」

千早「あの歌舞伎の花道を通り」

伊織「誰がやよいを手に入れるか」

響「今こそ決着つけん!!」

千早「いざ!」

伊織「いざ!」

響「いざ!」

三淑女「いざいざいざ!!!」

あみまみ「うわああああ!!」

「待ったあ!!!」

五人「!?」

「待った待ったあ!!!一番待ってもらおうか!!!」

千早「いらぬ止め立て!」

伊織「怪我せぬうちに!」

響「退いた!」

三淑女「退いた!!!」

「いいや退かねえ!!退かれねえなあ!!」

「初雷も早すぎる 氷も解けぬ川端に」

あみまみ「はるるん!!」

春香「ちょ!?いいところだったのにぃ…」

千早「春香、これは私達の問題よ」

伊織「部外者のあんたは引っこんでなさい!!」

響「それに春香じゃあ自分達は止められないぞ!!」

春香「ふ~ん……この光景をやよいが見たらどう思うかなあ…」

三淑女「!!!」

春香「やよいの事を考えないなら、もう思う存分喧嘩すればいいよ。だけど三人が喧嘩すればするほど、あなた達の太陽は、どんどん沈んでいって最後はもうずっと天に昇ることはないかもしれない。それにあんな綺麗な笑顔を涙雨で汚しちゃうのは、三人とも絶対に嫌でしょ?」

三淑女「………」

春香「それが嫌なら、抜きかかったその白刃、どうか納めてくんなせえな」

亜美「はるるん、なんかいつもと雰囲気違うね」

真美「四月にやる公演、人一倍気合入ってたからねえ。それでじゃない?」

千早「わかったわ…」

伊織「ここは大人しく引き下がってあげる」

響「やよいの涙なんて見たくないぞ…やよいにはいつでも笑っててもらいたい!!」

千早「その通りよ、たまには良いこと言うわね」

響「……やよいのためにも、我慢するぞ……」

伊織「でも…この決着はいつか必ず…」

千早「……」

伊織「……」

響「……」

春香「では…御来場の皆様!」

亜美「今日のところはこれまで!」

真美「また会う日まで!」

三淑女「さらば!!!」

六人「さらば!!!」

やよい「うっう~!!!早く終わってほしいかなーって!!!」

歌舞伎十八番の内『鳴神』 終幕