千早(今日は私の誕生日……萩原さんの時も、四条さんの時も、誕生日会があった)

 千早(だから、きっと、私の誕生日会が開かれるはず……)

 千早(別に、それが当たり前だとは思ってはいないけど……)

 千早(八割……いえ、九割方は何かしら催されると思って間違いないはず)

 千早(昨日はそのシミュレーションに追われ、夜更かしをしてしまったわ……)

 千早(その結果、遅刻。ふふっ。でも今日くらいは、許してくれますよね、プロデューサー?)ギュッ

千早(いけない……少し緊張してきたせいで事務所のドアノブを握る手が汗ばんできたわ……)

千早(……手に汗握るとはまさにこのことね。ふふっ)

千早(大丈夫よ、千早。あなたの勝ちは揺るがない。これは約束された勝利なの)

千早(事務所に入った瞬間、クラッカーの祝福と、みんなのおめでとうが私に降り注ぐ)

千早(私はみんなの嬉しそうな、してやったり顔をきょとんとして眺めるだけで良い)

千早(……ただそれだけで良い。それなのに何故かしら……)

千早(この胸の底に澱のように溜まっていく、言い知れない不安は……)

千早(何か忘れてる……と、いうより重要な何かを見落としている気がする……)

千早(………………………あっ!!?)

千早( サ プ ラ イ ズ ! ? )

千早(もしかしたら……サプライズの可能性もあるのかしら……!?)

千早(いいえ、もしかしたらなんてものじゃないわ……むしろ、サプライズの方こそ本命っ!)

千早(萩原さんの時も前もって打ち合わせをしていた……そして四条さんの時も……)

千早(……と、なれば当然そろそろ当事者が身構えるのは自明の理!)

千早(きっと裏をかいて来るに決まってる……!! 嘲笑うようにっ!!)

千早(想像通りにことが運ぶなら、今頃私はとっくにトップアイドルになっているもの)

千早(理想という幻想に目が眩んでいたと言わざるを得ないわね)

千早(これはつまり……。慢心……みんなを甘くみていた私の驕り……! くっ……)

千早(なんてこと……私はなんてとんでもない思い違いをしていたのかしら……っ!)

千早(有頂天になっていたところで足元を掬われる寸前だった……!)

千早(まさに悪魔……! 悪魔的発想っ! グズほど容易く引っ掛かる……っ!)

千早(危ないわ。これは危なかった。危うく引っ掛かるところだった……)

千早(いえ……むしろ、この発想に至ったことが奇跡! 僥倖……っ!)

千早(私は何が何でも引っ掛かったふりをしなければいけないのだから……)

千早(もし、私がみんなのサプライズを最高の形で受け取れなければ興醒めも良いところ……)

千早(もし、私が堪えきれずに笑ってしまえば、みんなの想いを台無しにしてしまう……)

千早(そう……私は全力で引っ掛からなければいけない……全力で受け止めなければいけないのよっ!)

千早(頑張りなさい……如月千早。今、求められるのは演技力)

千早(限りなく自然に……。かつ、大袈裟に……)

千早(もう幕は上がってるのよ。あとは流れに身を委ねるだけでいい……)

千早(きっとみんなが連れて行ってくれる……っ!)

千早(────輝きの、向こう側へ……っ!!)ガチャ

「「「おめでと~!」」」

千早「っ!?」

千早(まさかのNOSURPRISEっ!? むしろ逆にサプライズだわっ!?)

千早(いえ、これは言わば当初の想定通り……! プランBに戻せば良いだけのこと……!)

千早「……えっ? みんな……どうしたの?」

千早(よしっ!! 最高よ如月千早! 今の貴女ならきっとアカデミー主演女優賞だって夢じゃないわっ!)

千早(春香、あなたはきっと次にこう言う。『やだなぁ、千早ちゃん……』とね)

千早(昨日のうちにこなしたイメージトレーニングは18932回……。そのうち18697回はこの入りだった)

千早(この勝負……貰ったわっ!!)

春香「あれ……? なんだ、千早ちゃんかぁ……」

千早「……………………えっ?」

真「あちゃー……」

千早「!?」

真美「みんな揃ってると思ってたのに~……」

亜美「まさか千早お姉ちゃんが遅刻してくるなんて、思うわけないもんね……」

伊織「紛らわしいたりゃありゃしないわね?」

律子「はいはい、なにもそんな言い方しなくてもいいでしょ」

あずさ「ごめんなさいねぇ~、千早ちゃん」

千早「!?!?!?」

千早(待って……? い、いったい何が起こってるの……!?)

千早(みんなのテンションゲージがぐんぐん下がって行くのを見て取れる……)

千早(試行回数18932回の中に、ただの一回も無かった反応……っ!?)

雪歩「で、でも、今度こそこれでみんな揃ったってことだから……」

千早(萩原さんの謎のフォローが、心にジンジンとした痛みを連れてくるのだけれど……)

響「そうそう、やっぱりみんな揃ってなきゃね!」

千早(耳が遠くなっていく……っ……)

貴音「やはり、主役は遅れてやってくるモノなのですから」

千早(みんな、何を言ってるの……? 主役ならここに……)

やよい「じゃあ、今度こそみんなでおめでとうって言いましょう!」

千早(猛烈な吐き気が容赦無く襲いかかってくる……何かがおかしい……)

ガチャ

美希「おはようなの~」

P「おはよう、みんな。おっ、全員ちゃんと揃ってるみたいだな」

千早「プロデュー……?」

小鳥「おはようございます、プロデューサーさん!」

P「いや~、みんな、すまん。美希のやつがなかなか起きなくて、すっかり遅くなってしまった」

美希「そう言うハニーだって、朝ご飯のあと、随分、のんびりさんだったって思うな?」

P「えぇ、そ、そうだったかな……?」

千早「」

社長「はっはっは。早速、見せつけてくれるねぇ」

千早「」

春香「ふふっ、じゃあ、みんな揃ったところで、せーのっ!」

「「「結婚おめでとうございます!!」」」

P「みんな、ありがとう」

美希「ミキね、絶対に幸せになるからっ!」

伊織「あら? アンタ一人で幸せになるつもりなの?」

美希「むぅ~。でこちゃんのイジワルっ!」

亜美「んっふっふっ~。いおりんはヤキモチ焼いてるんだよね?」ニヤニヤ

真美「大事なミキミキがにいちゃんに取られてしまいましたからな~?」ミヨミヨ

伊織「ちょっとっ!? 誰がヤキモチなんて……」

美希「でこちゃん」

伊織「な、何よ、まさかアンタも私がヤキモチ焼いてるとか勘違いしちゃってるワケ?」

美希「ミキね、でこちゃんに叶えて欲しいんだ」

伊織「……なにを?」

美希「ミキはハニーのお嫁さんになっちゃったでしょ?」

伊織「そうね……」

美希「だから、ミキがなれなかったトップアイドルになるって夢は、でこちゃんに託しても良いかなっ?」

伊織「……あ、アンタに言われなくったってトップアイドルになってみせるわよ!」

美希「トップアイドルになったら忙しいかもだけど、家に遊びに来てね?」

伊織「美希……」

美希「ミキ、でこちゃんが遊びに来てくれるの、ずっと待ってるから」

伊織「し、仕方ないから、たまにはスケジュールを開けてあげてもいいわよ?」

美希「ありがとう、でこちゃん」

伊織「……ふんっ。私だってたまにはアンタの顔が見たくなるかも知れないからそれまで待ってなさいよね?」

真「伊織は相変わらず素直じゃないんだから……本当は寂しいくせに~」

伊織「寂しくなんかっ……!? ぐすっ……寂しくなんか……」

真「伊織……」

律子「ほらほら、湿っぽいのは無しよ? 笑顔笑顔!」

やよい「そうだよ伊織ちゃん! 友達なんだからちゃんと祝ってあげなきゃ!」

響「そうだぞ! どうせなら、みんなで二人の家に遊びに行こうよっ!」

貴音「ふふっ。それは名案ですね」

あずさ「あらあら~、じゃあちゃんと住所を聞いておかないと~」

響「あずさは、迷うから誰かと一緒に行かないとダメだぞっ!」

真「あははっ」

雪歩「あの~。プロデューサーと美希ちゃんのお家は事務所から、近いんですか?」

P「あぁ、割と近いぞ? 車で25分ってとこかな?」

小鳥「新築なんですか?」

P「まぁ、はい。どうせ二人で住むなら新しい方が良いかなって……ちょっと無理しちゃいました」

社長「すぐに二人から三人になるんじゃないのかね?」

P「しゃ、社長っ!?」

みんな「あははは!」

千早「何が面白いのかしら……?」

シーン……

美希「ち、千早さん……?」

千早「まぁ、面白いといえば面白いわよね、確かに……ふふっ。本当に滑稽だわ」

P「ど、どうしたんだ、千早…?」

千早「気安く私の名前を呼ばないで下さいっ!」キッ

ザワッ

真「……なんでそんなにピリピリしてるのさ?」

千早「なんで、今日なのよっ!?」ビリビリ

やよい「ひっ!?」ビクッ

伊織「千早っ!? なんで、自分の袖をっ!?」

響「こ、コートの下に着てたトレーナーごと袖を引き千切ったぞ……」ブルブル

千早「楽しみにしてた……! 楽しみにしてたのに……っ!」ワナワナ

亜美「なんか、世紀末のタフボーイみたいになってるよ……?」

千早「私がどれだけ今日という日を楽しみにしてきたと思ってるのっ!?」ビリビリ

律子「コートのボタンを飛ばしたっ!? なんて大胸筋っ!!」

貴音「なんとっ!」

真美「いや、お姫ちん、あれは北斗だよっ!」

千早「てめぇらの血は何色だぁあああああっ!?」ダバダバ

小鳥「やっぱり南斗よっ!」

あずさ「あの~、そこはこの際、関係無いと思うんですけど……」

社長「血の涙なんて生まれて初めて、この目で拝んだよ……」ゴクリ

P「お、おい、千早っ……」ガシッ

千早「……ふっ!」ドスッ

P「ぐっ……!?」ドサッ

美希「ハニーっ!?」

千早「ふははははは! 気安く私の名前を呼ぶなと忠告したはずですよね?」

美希「なんでこんなこと……っ! いったいハニーが何をしたって言うの!?」キッ

千早「本来なら、祝福されるのは……みんなに祝われるのは……私だったはずなのに……」

千早「みんなの笑顔に囲まれて……幸せを噛み締めて……こんなはずじゃなかった……」

千早「でも誰も悪くない……。ただ、タイミングが悪かっただけのこと……」

千早「いえ、そもそも、みんなに期待を押し付けた私が悪いのかも知れない……」

春香「千早ちゃん……あの……」

千早「春香……私はどこかでアナタだけは違うと信じていた」

千早「みんなが、美希たちを祝う中で……それでも、アナタだけは思い出すんじゃないかって」

春香「何を……?」

千早「ふふっ。どうやら、ただ、私の愛がみんなよりも重たかっただけみたいね……」

千早「それなら……こんなに苦しいのなら……!」

千早「 愛 な ど い ら ぬ ! ! 」カッ

真「っ……」ゴクリ

春香「こんなの間違ってる……間違ってるよ、千早ちゃんっ!!」

千早「春香はいつも、私を導いてくれた……」

春香「……友達だもん。当たり前だよ」

千早「ならば止めてみせなさい! この私をっ!」シュバッ

春香「千早ちゃんが、消えっ……!?」

雪歩「春香ちゃん後ろっ!!」

春香「っ!?」

千早「遅いわよ、春香……」トスッ

春香「うっ……!?」クラッ

亜美「はるるんっ!?」ガバッ

真「ねぇ、響……。今の千早の動き……見えた? ボクの位置からじゃ見えなくて……」

響「あぁ、恐ろしく早い手刀……自分でなきゃ見逃しちゃうね……!」

真「響に見えたのなら……」

響「真にも見えるってことさ……!」

真「……ねぇ、千早?」タンッタンッ

千早「…………二人がかりで、どうぞ?」クイックイッ

真「それじゃ、遠慮なく……!」タッ

響「行かせてもらうさっ……!」ッターン

律子「拍子をズラしての二段攻撃っ! これならいくら千早が速くてもっ……」

貴音「いえ! 響すら囮に使った三段攻撃です!」

伊織「美希っ!」

美希「たぁああああああっ!」

ドガガッ!!

真・響・美希「っ!?」

千早「三人がかりで、この程度……? まぁ、なんでもいいですけれど」

あずさ「そんなっ……避けずに全部、受け止めただなんて……」

貴音「なんという……ぽてんしゃる……」

美希「こんなに硬い腹筋……初めてなの……」

真「くそっ……ボクたちが……」

響「三人がかりで手も足も出ないなんて……」

千早「次は、こっちの番かしら?」

??「 待 っ て ! ! 」

千早「この声は……まさか、そんな……」

春香「……そんなに、びっくりするような事かな? あはは♪」

千早「私の一撃を食らってこんなに早く復帰するなんて……」

春香「ねぇ、千早ちゃん……なんで私はすぐに転んでたと思う?」

千早「春香? アナタ、何を言って……まさかっ!?」

春香「ふふっ。真、美希、響ちゃん。悪いけど下がっててくれるかな?」シュルル

ドスッ

亜美「はるるんが解いたリボンが……」

真美「床にめり込んだ……っ!?」

春香「私が身に着けていたリボンは片方、50キロ……」

春香「つまり私の首は常時100キロの重さを支えてたんだよっ」

春香「千早ちゃんの手刀如きでダメージが通るわけないじゃん」

千早「ふふっ。言ってくれるじゃない。その割には足下が覚束無いみたいだけれど?」

春香「……そういう演技だったりして……ねっ!」シュバッ

千早「っ!?」

真「速い……っ!」

響「あの千早と良い勝負だぞっ!」

美希「春香……お願いっ、ハニーの敵をとってっ!」

ζ*'ヮ')ζ(千早さんと春香さん、ドラゴ○ボールみたいかなーって)

小鳥(若いって良いわねぇ……)

社長(ふっふっふっ。若いねぇ……)

バババババッ

千早「春香の本気はこの程度なのかしら?」

ババババババババッ

春香「まさか。 千早ちゃんこそ、息が上がって来てるんじゃない?」

ババババババババババッ

千早「ふっ。心配しなくても、もうすぐ終わるわっ!」シュバッ

春香「待っててね、千早ちゃん。すぐに止めてあげるからね!」

律子「お互いに距離を取った……」ゴクリ

雪歩「これは恐らく……」

伊織「次で決まる……!」

千早「…………」ジリッ

春香「…………」ジリッ

やよい(あ、そろそろ特売の時間だ)

千早「……っ!」シュバッ

亜美「千早おねぇちゃんが先に仕掛けた!」

真美「はるるんっ!?」

ドスッ

真「!?」

響「!?」

美希「!?」

律子「!?」

貴音「!?」

あずさ「!?」

亜美「!?」

真美「!?」

伊織「!?」

雪歩「!?」

ζ*'ヮ')ζ<!?

小鳥「!?」

社長「!?」

春香「!?」

千早「!?」

千早「どうして……アナタが……?」

ポタ……ポタ……

P「俺は……みんなのプロデューサー……だから、な……ぐっ」ガクッ

春香「プロデューサーさんっ!?」

美希「ハニーっ!?」ダッ

P「二回もただやられるだけなんて……格好悪いとこしか見せられなくて……ごめん、な……」

美希「そんなことないっ! ハニーは凄くカッコいいよっ! 最強なのっ! だからっ……」ジワッ

P「ははっ……。千早……千早は、側にいるか?」

春香「プロデューサーさん、もしかして……目が……」

P「あれ、そういえば……なんで……真っ暗……なんだ……?」

律子「小鳥さん! 救急車をっ!」

小鳥「はっ、はいっ!」

伊織「そんなんじゃ、間に合わないわよ! 新堂を呼ぶわっ!」

P「千早……聞こえるか……?」

千早「プロデューサー! はいっ! 聞こえますっ!」

P「はは……なんで、そんなに遠くから呼ぶんだ……?」

真「プロデューサー、まさか耳もっ……」

真美「っ!? にいちゃんしっかりしてよぅ!?」

亜美「うぁうぁああああ……」

響「プロデューサー……」

美希「みんな、静かにして! ハニーが千早さんに何か言いたいみたいなのっ……」

P「千早……こほっ……」

千早「はい! ここに居ますっ!」

P「誕生日……おめでとう……」

千早「……っ!」

P「」

千早「プロデューサー……?」

やよい「うぅ……息……してません……プロデューサー、息して……うぅぅ……」

雪歩「伊織ちゃんっ! 新堂さんは……っ!?」

伊織「まだ、よ……」ギリッ

雪歩「そんな……早くプロデューサーを助けてよ……!」ユサユサ

貴音「やめなさい、萩原雪歩!」

社長「美希クン……彼は幸せ者だ。こんなにも慕われて……そして、そんな彼に選ばれた君も、同時に幸せだと思わんかね?」

美希「うん。ミキ、とっても幸せ者だよ。お疲れ様……ハニー」

千早「私は……私はただ……私の……私が……」ブツブツ

春香「………………ねぇ、今────」

千早「っ!? 春香……?」

春香「見つめているよ、離れていても」

千早(なんで……)

真・雪歩「もう涙を拭って微笑って」

千早(私は、ただ……)

やよい・伊織「一人じゃない、どんな時だって」

千早(幸せに浸りたかっただけ……?)

響・貴音「夢見ることは生きること」

千早(違う、そうじゃない……)

あずさ・亜美・真美「悲しみを越える力───」

千早(ただ……みんなと……)

  『歩こう 果てない道』

千早(過ぎ行く今を大事にしたかっただけ……)

  『歌おう 天(そら)を越えて』

千早(誕生日なんて、口実で……)

  『想いが 届くように』

千早(ただ、みんなと……)

  『約束しよう 前を向くこと Thankyouforsmile』

千早(笑いたかった……ただ、それだけ……)

美希「…………歌って……千早さん」

千早「でもっ……!」

美希「ハニーの、為に……」

千早「……」

  『────誕生日……おめでとう……』

千早「っ────!」

千早『歩こう 戻れぬ道』

P「」

千早『歌おう 仲間と今』

P「」

千早『祈りを響かすように』

P「」

千早『約束するよ 夢を叶える Thankyouforlove』




なんやかんやで、水瀬財閥の医療機関がプロデューサーを生き返らせてくれた。

私の誕生日は、その次の年の2月25日、二年分した。


誕生日おめでとう。

ζ*'ヮ')ζ<アッキー結婚おめでとー