私は歌があればそれでよかった

歌うことが私の全て

そう思っていた

真っ暗な空間に響き渡る、私の声

そこには誰もいない

観客も、家族も


私は独りだった

たった独り、この暗い空間で私は声を響かせる

それは滑稽で誰にも届かない、声

私のやってきたことは、なんだったのか

私が歌だと思ってやってきたのは

ただ声を出していただけ

それは歌ではなかった

まるで氷のよう

私の歌はそう評された

冷たくて、血の通ってない、ただの声

それは、私を否定し打ちのめすには充分すぎる言葉だった


真っ暗な絶望の淵で、それでも未練がましく声を響かせる

誰にも届かなくても

それでもただ一人、あの子だけには届いて欲しい

そう願って


誰もいない空間

真っ暗闇の中に

赤く輝く光が一筋

それは暖かくて、打ちのめされた私を支えてくれるような

そんな温もりを感じる

気がつけば、暗闇の世界にいくつもの色の光が現れた

白、黄色、臙脂、緑、浅葱、黄緑、橙、桃、紫、黒

とても綺麗な光が私を包む

それは、打ちひしがれた私に力をくれた

立ち上がり、前に進む勇気を

温もりが

氷を少しだけ溶かしてくれた


私には歌しかない

歌だけが私の全て

そう思っていた

けれど、私の傍にはこんなにも綺麗で

そして大切な仲間がいてくれた

10の光が寄り集まり輝きに変わり

寄り添った赤い光が私を包む

独りじゃない、だから大丈夫だと

そう言ってくれているみたいに

集まった輝きのその先に、あの子の

優の姿を見た

記憶にある笑顔のまま、それでも口は

歌って

と、動いていた

優は、いつも笑っていた

その笑顔が大好きで

その笑顔が見たくて

だから私は歌を好きになった

嬉しくて、楽しくて

ただそれだけで歌っていた

もう一度そんな風に

笑顔で

楽しんで歌えるようになるから

そこで見ていてね、優

輝きの向こう側に届くように

私は歌おう