■STORYM@STER





「…雨ばかりで、憂鬱ですね」
「梅雨、ですからね…あずささん、すいませんでした、連絡がもう少し早ければ」

窓から見える空は、最近何時もどんよりと暗い色をしている。事務所の中も、自然と薄暗い雰囲気になりそうで、少し憂鬱です。

「来週が少し忙しくなりそうですね……ドラマの撮影の日は、俺が送るのは変更ありませんからご安心ください」
「はい、頼りにしてますよ、プロデューサーさん」

仕事が増えてきた765プロでは、律子さんも竜宮小町だけでなく、他の子達のフォローに忙しい日々です。プロデューサーさんも同じで、律子さんが手が回ら無い時には、私達のお世話もしてくれます。
もっとも、一番多いのはきっと、私が迷子になった時の捜索活動と、私を現場に送り届けると言う事でしょうけれど。

「今度のドラマ、どうです?」
「ええ、本当にいい役を貰えて……プロデューサーさんのお蔭ですよ」
「俺は何も。あずささんらしい、明るい役ですよ」

実を言うと、このドラマ撮影を私は心待ちにしていました。
何故かというと、ドラマ撮影のロケ地へ行く間の1時間と少し、私とプロデューサーさんは二人きり…
何時もなら、他の子達も居てゆっくりお話もできないプロデューサーさんを独り占めにしている感じがします。

「……雨じゃ外にご飯食べに行くのも億劫ですね」
「そうですね……プロデューサーさんは、お弁当ですか?」
「いえ、たるき亭でランチにしましょう、あずささんも一緒に」

その言葉で、私も思わず顔がほころびます。
たるき亭とはいえ、プロデューサーさんとのランチですもの。
今日は小鳥さんが事務手続きの関連でお出かけ、律子さんはテレビ局との会議で外出、高木社長は遠方へ出張。他の子達は試験期間に掛っているので、事務所に来るのは後は貴音ちゃんくらいでしょうか?

「…そういえば、家の近くの公園に咲いてました」

ふと、何かを思い出したのかプロデューサーさんが自分のスマートフォンのカメラで撮った写真を見せてくれました。

「紫陽花、ですか?」

画面を覗き込むと、綺麗な紫色の花が映っていました。
プロデューサーさんのお宅の近くにこんな所が……
ここで、「一緒に、見に行っても良いですか?」何て言えたら……

「ええ、綺麗な紫色をしてますよ」
「そうですか…最近、紫陽花を見てないですねぇ」
「小学校の時にも結構植えてあって、理科の授業でよく見に行ってました」
「あら、そうなんですか?」
「やりませんでしたか?えーと、土が酸性だと青色で、アルカリ性だと赤色で、みたいな」
「ああ、そう言えば」
「子供心にも不思議でしたねぇ、同じ花なのに、何でこんなに色が変わるんだろうって」

真面目に考え込むような顔をするプロデューサーさんが何だか可笑しくって、つい私も頬が緩みます。

「ところでプロデューサーさん、紫陽花の花言葉ってご存知ですか?」
「え?花言葉、ですか?えーと、学生のころになんかやったなぁ…辛抱強い愛情、だったかな」
「あら、よく御存じですね。他にも移り気、高慢、冷淡とか」
「へぇ、色が変わるから、ですかねぇ…でも俺、紫陽花はあずささんらしいお花かなぁ、とも思うんですよ」

プロデューサーさんの言葉に、私は少しムッとしてみます。

「あら?私がそんなに高慢で移り気で浮気性に見えますか?」
「ち、違いますよ!辛抱強い愛情、の方です」

その言葉に、私はほっとしました。
もしプロデューサーさんに移り気だとか高慢だとか思われて居たらどうしようかと。

「あずささん、運命の人を探してるでしょう?もしかしたら、凄く長い時間がかかるかもしれない、でも、その運命の人に、あずささんは恋焦がれている……正直、羨ましいですよ」
「羨ましい?」
「はい」

羨ましい……か。
他人の気も知らないでこの人は。

「……じゃあ、プロデューサーさん、一つお聞きしても、良いですか?」
「はい」
「その運命の人が……もし、自分だったら、どうしますか?」

ちょっと、言い過ぎたかしら?
でも……プロデューサーさんにはこのくらい言っても……
だって、あなたは、私の……

「……もしあずささんは、俺が知ってましたって言ったら、どうします?」
「えっ?!」
「何て、びっくりしましたか?」
「……酷いです、冗談で返すなんて」

少し嬉しそうに笑うプロデューサーさんを、軽く睨み付けてみました。

「……俺は、あずささんに例え話でもそう言って貰えた、それだけで幸せです」

少し寂しそうに、プロデューサーさんは俯きました。
違うんです、そう言う事じゃ無くて……
上手く言葉が継げない。
小細工なんて無駄なんだ、この人は…鈍感だから。
そう思った瞬間、私はプロデューサーさんに抱き着いていた。

「ちょっ……あずささん!」
「……本当に、鈍感ですね。プロデューサーさん」

2人分の体重を支える椅子が軋む音だけが、しばらく事務所の中に響くだけ。私はプロデューサーさんの耳元で、囁いた。

「……運命の人、みーつけた」
「俺なんかで、良いんですか……?」
「プロデューサーさんだから……貴方だから良いんです……他の子達が居ない今だから言えるんです……私は、あなたの事が、好きなんです」

抱き着いたまま、クーラーで冷えた体にプロデューサーさんの体温が伝わってくる。
言ってしまった。ハッキリと。

「……俺も、です。俺もあずささんの事が好きです、愛してます…でも、言えなかった。俺はプロデューサーであずささんはアイドル……でも、あずささんがそこまで言ってくれているのにこれ以上はぐらかすなんて事出来ません」
「じゃあ…!」
「あずささん……初めて会った日から、俺はあなたの事が好きでした」

そんなプロデューサーさんの、赤くなった顔を見て、私はもう一つ、思い出したことを囁いてみます。

「そう言えば、プロデューサーさん、紫陽花の花言葉、他にもあるってご存知ですか?」
「えっ?」
「紫陽花の花言葉、それは―――――」

それを聞いたプロデューサーさんは、一瞬驚いたような表情を浮かべていましたが、その後私を思いっきり抱きしめてくれました。
何時か、それが実現すれば…なんて、私は遠い未来かもしれないし、もしかするともう少しかも知れない、そんな事を考えていました。