1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:34:49.29 ID:WJc3nC3DO
これは『時をかける少女』の設定を一部お借りしたアイマスSSです。

こちらでSSを投下するのは初めてですが、よろしくお願いします。

では、次レスから投下していきます。
2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:37:50.29 ID:WJc3nC3DO
高校最後の夏休みも後半を迎えた8月19日。
3人で腰掛けたベンチは、空と同じ薄い青色だった。

「両手に華だね、真君」

右隣に座った美希がボクの顔を覗きこむように言った。
左隣の雪歩はいつものように穏やかに笑ってる。

「ボク、いちおう女なんだけど……」

1日1回は言ってる気がするなぁ、このセリフ。

「それはそれ、これはこれなの!あはっ」

このセリフを聞くのもボクの日課。
ここは765プロの事務所が入っているビルの屋上。
ここに来てお昼ご飯を食べるのは、ボクら3人の日課になっていた。
いまから1ヵ月ほど前、雪歩が765プロに移籍してきた日からのね。

3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:40:14.28 ID:WJc3nC3DO
まだアイドル候補生のボクらは、できるだけたくさんのオーディションを受けるように促される。
場慣れさせるって意味もあるし、運良くオーディションに合格してそのままデビューする可能性だってある。

残念ながら、竜宮小町以外のメンバーはいまだに候補生のままだったけど……。

「そういえばあと10日だね」

「へ?何が?」

「えへへー。真ちゃんの誕生日まで、だよぅ!」

「あっ、そっか!ミキ、プレゼント考えなきゃ!」

そういえばそうだった。
10日後の8月29日は、ボクの18歳の誕生日だったね。
だけど、「誕生日が来る」=「もうすぐ夏休みが終わる」だから、あんまり嬉しくないんだよなぁ、毎年……。

4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:42:27.05 ID:WJc3nC3DO
「あっ!ミキ、そろそろボーカルレッスンに行かなきゃ!」

携帯電話の時計を確認すると、14時45分だった。

「ボクと雪歩は16時からダンスレッスンだね」

「うん!今日もお手本にさせてもらうね?」

「むー。ミキもダンスレッスンが良い!」

拗ねたような口調でそう言いながら、ゴミを白いビニール袋に入れてる美希。
おちゃらけてるように見えて、けっこう公共のマナーとかにうるさかったりするんだよね。

この前3人で駅まで歩いてたときなんて、タバコをポイ捨てした「そちら系」のお兄さん3人組に向かって。

「ちょっとそこの人たち!歩道は灰皿じゃないの!」

って叫んでたし。

5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:44:47.78 ID:WJc3nC3DO
そのあと当然のように絡まれたボクたちだったけど、雪歩の、

「わ、私のお父さんは萩原建設の社長なんですぅ!」

って一言を聞くなり、顔を真っ青にして走り去っちゃった。
予想外の出来事に唖然としたボクと美希だったけど、雪歩のお父さんが何者なのかは、ついに聞けなかったんだ。
世の中には知らない方が良いこともたくさんあるってことだよね?

「それじゃミキ、行くね!」

「頑張ってね美希ちゃん!」

「頑張って!」

「ハイなの!真君と雪歩もね!」

大きな荷物を抱えて屋上を後にした美希。
青いベンチにはボクと雪歩が残った。

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:47:06.48 ID:WJc3nC3DO
「みてみて真君!あの子とっても可愛いの!」

あれは確か今年の1月。
同じオーディションに参加していた美希に言われて視線を送った先には、透き通るような白い肌の女の子が、怯えたように立ちすくんでいた。

「なんだかあの子、『自信ないですぅ』って顔に書いてあるね。あんなに可愛いのに」

「せっかく可愛いのに、あれじゃ受かるものも受からないの。ねぇ、声かけてみよっか?」

美希がそう言い終わると同時に、審査員の人たちがオーディション会場に入って来ちゃったから、このときは声をかけることができなかったんだよね。

そして、残念ながらそのオーディションはボクも美希も不合格。
だけど、ボクも美希も、その儚げな佇まいを忘れることは無かったんだ。

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:48:53.91 ID:WJc3nC3DO
「美希!あの子!」

「真君もやっぱり覚えてた?」

夏休みに入って1週間が過ぎたころ。
クーラーが壊れて蒸し風呂状態の事務所で、ボクと美希は再びその子を見た。

「諸君!今日から765プロの仲間に加わる、萩原雪歩君だ!」

「は、萩原雪歩ですぅ……。よろしくお願いします………」

セミの大合唱にかき消されてしまいそうな声で、雪歩が自己紹介した。
それっきり俯いて黙り込んでしまった雪歩を見かねたのか、社長が代わりに紹介し始めた。

「萩原君は先月まで別の事務所にいたんだが、残念ながら倒産してしまってね。ウチで引き取ることになったんだよ」

この業界では、プロダクションの倒産ってそんなに珍しくないみたい。
クーラーの修理もできない765プロは……大丈夫なのかなぁ?

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:52:39.41 ID:WJc3nC3DO
「学年は高校3年生。ウチの事務所だと…そうだ、菊地君と同学年だ!」

社長の声に反応したみんなが、一斉にボクの方を見た。
そしてその視線をたどるように、雪歩も。

「き、菊池真です!よろしく!」

なぜかアタフタしながら言うと、雪歩は微笑みながら頷いた。

(ひょっとして……向こうもボクのこと覚えててくれたのかなぁ?)

そんなふうにも思ったけど、どうやらボクの勘違いだったみたい。
あとで雪歩に聞いた話だと。

「何で男の子がいるんだろ?」

って思って可笑しくなっちゃったんだってさ。
そう思われるのには慣れてるけどね、うん……。

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:55:31.20 ID:WJc3nC3DO
「私、天海春香って言います!よろしくね、雪歩ちゃん!」

「こちらこそ。あと、呼び捨てでいいよ?」

「ホントっ?じゃあ……よろしくね、雪歩!」

「わたくし、双海姉妹の姉、双海真美であります!こっちは妹の亜美!」

「よろしくねんっ!えっと……ゆきぴょん!」

「ゆ、ゆきぴょん……?」

「あら~。早速、可愛いニックネームを貰ったのね。うふふ」

765プロはやっぱり765プロで、雪歩に緊張する時間も与えなかった。
そして、あっという間にみんなと打ち解けた雪歩を、ボクと美希は屋上のベンチに誘ったんだ。
それから今日までの間、たくさんの時間をここで過ごしてきた。

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 02:57:55.79 ID:WJc3nC3DO
「あっ!私、ちょっと事務所に行ってくるね」

「うん、行ってらっしゃい」

何か確認しておくことでもあったのか、食べかけのサンドイッチを置いたまま、雪歩は事務所へと降りて行った。
1人残されたボクはベンチの背もたれに背中を預けて、軽く眼を閉じた。
……そのときだった。

「クワァーッ!」

「うわぁっ!!!」

1羽のカラスが雪歩のサンドイッチに向かって急降下してきた。

「こら待てっ!!!」

真っ黒なカラスは、まるで、「お前の声なんて聞こえちゃいないよ」と言わんばかりにサンドイッチを掴み、あっという間に飛び去って行ってしまった。
そしてあとには、雪歩の白い肩掛けバッグからこぼれた中身が、屋上のコンクリートの上に散らばっていた。

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 03:01:16.68 ID:WJc3nC3DO
「あ~あ……」

ボクは肩掛けバッグを手に取り、軽く叩いてホコリを払った。
そして散らばった中身をバッグの中へと戻していく。
ポーチ、財布、手帳、リップクリーム、白いハンカチ、そして……、

「香水……かなぁ?」

最後に残ったのは小さく透明なガラス製の容器。
その中には、薄く紫がかったピンク色の液体が半分くらいまで入っていた。
容器の真ん中あたりに貼られたラベルには、雪歩の几帳面な字で、

『2012/8/18』

と書かれている。

「昨日の日付?」

ボクは少しだけフタを開け、その隙間から香りを嗅いでみた。

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 03:04:32.13 ID:WJc3nC3DO
容器の中から漂ってきたのは、甘く優しく、そしてどこか儚い香りだった。
そう、まるで雪歩のような……。

「あ…れ……?」

いつの間にかコンクリートに尻餅を突いている自分に気付き、何とか立ち上がろうとする。
だけど膝にはぜんぜん力が入らず、すぐにまぶたも重たくなってきた。

「ゆき……ほ?」

遠くなっていく意識の中、屋上に戻ってきた雪歩の姿が見えた。
ゆっくりとボクに歩み寄ってくる雪歩。

「真ちゃん……」

雪歩の手のひらがボクの頬に触れた。
そしていつものように、ボクに微笑みかけた雪歩。
その微笑みが、何故だかとても、悲しそうなものに思えた……。

14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 03:34:13.25 ID:WJc3nC3DO
額に冷たさを感じて眼が覚めた。
まだ重たいまぶたをゆっくり開けると、事務所の天井が見えた。

「ボクは……」

まだはっきりしない意識の中で呟くと、誰かがボクの顔を覗き込んできた。

「お、眼が覚めたわね?」

「りつ……こ?」

「そうよ。もうしばらく横になってなさい」

もう一度眼を閉じると、右頬に風が当たり始めた。
どうやら律子がうちわで扇いでくれてるみたいだ。
そして額には、氷嚢が乗せられていた。

「大変だったのよぉ?雪歩ったら、大慌てで事務所に駆け込んでくるなり、涙声で、『真ちゃんが倒れちゃいましたぁ!』って叫んでたんだから」

雪歩が?
あのときボクは確かに、頬に雪歩の手のひらが触れたのを感じた。
そのあとは……。

「……雪歩は?」

「ダンスレッスンに行ったわ。20分くらい前にね」

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 03:45:43.53 ID:WJc3nC3DO
ダンスレッスン……。
レッスン……。
ん?

「律子、いま何時何分!?ボクもダンス」

「いいから寝てなさい!トレーナーの先生には休むって連絡しといたから」

「……わかった」

半分起き上がりかけた身体をもう一度ソファーに沈める。
律子は床に落ちた氷嚢をタオルで拭い、再びボクの額に乗せてくれた。

「軽い日射病じゃないの?ちゃんと水分採ってた?」

日射病かぁ。
そんなヤワな鍛え方はしてないハズなんだけどなぁ。

「あとで雪歩にお礼言っときなさい。電話でもメールでも良いから」

「はい……」

横目で壁掛け時計を見ると、16時ちょうどを指していた。


16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 04:06:28.54 ID:WJc3nC3DO
そのあと30分ほど横になっていると、次第に身体も気分もスッキリしてきた。

「もう大丈夫そう?」

「うん、おかげさまで!ありがと律子」

「これもプロデューサーの務めよ。……って、そうだ。あんたのプロデューサーにもちゃんと連絡しとくのよ?」


「プロデューサーは?」

「千早とやよいを連れて営業に行ってるわ」

「そっか。わかった、仕事が終わる頃合いを見計らって連絡しとく」

もう少し事務所にいたい気もしたけど、

「今日はもう帰って休みなさい」

律子からそう促されたボクは、大人しく指示に従うことにした。
鼻の奥にはまだ微かに、あの香りが残っていた。

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 04:19:16.88 ID:WJc3nC3DO
「ただいま」

「ん?真か?今日はやけに早いな?」

うちに帰ると、黒いタンクトップに白いハーフパンツという出で立ちの父さんが、玄関先でスクワットをしていた。

「なんかボク、日射病で倒れちゃったみたいでさ。今日はもう帰りなさいって」

「日射病だぁっ!?鍛え方が足りねぇから、そんな腑抜けたモンになるんだ!!!」

言われると思ってたよ。
まぁ、倒れたボク自身が信じられないんだけどさ。

「まぁ、あれだ。さっさとシャワーでも浴びて汗を流してこい!」

相変わらず分かりやすいツンデレだよね、この人。
伊織と良い勝負かもね、へへっ。

20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 17:59:35.03 ID:WJc3nC3DO
シャワーを浴びて自分の部屋に戻ると、まずは雪歩に電話をかけた。

『もしもし、真ちゃん?』

「あ、雪歩?いま大丈夫?」

『うん!体調良くなった?』

「おかげさまで。心配かけちゃってごめんね」

携帯電話の向こうからは、電車の通り過ぎる音。
まだ帰宅途中だったのかな?

『真ちゃんでも倒れたりするんだね』

そう言って笑っている雪歩にちょっとだけ拗ねたフリをして、ボクは電話を切った。
すぐあとにプロデューサーにも電話をかけたんだけど、雪歩と同じこと言われちゃったよ

『真でも倒れたりするんだな』

ってさ。失礼しちゃうよ、まったく!

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 18:01:37.26 ID:WJc3nC3DO
晩ご飯はカレイの煮付けと豚肉の野菜炒め、それからポテトサラダだった。

「しっかり食えよ?食わなきゃ体重増えないからな。体重が増えれば、突きも蹴りも重くなる」

早々と3杯目をおかわりしながら、父さんが言った。
ボク、体重なんて増やしたくないんですけど。
これでも年頃の女の子なんですけど。

「明日の午前中は補講なんでしょ?今日は早く寝なきゃダメよ?」

ボクのグラスに麦茶を注いでいる母さんから言われて、思い出してしまった。
あぁ、そうだった……。
当然ながら予習復習なんてしてるハズもなく、一気に憂鬱になる。
しかも英語なんだよなぁ……。

「英語なんて簡単なもんだろ。要は度胸だ」

かつてレーサーとして世界中を転戦してた父さんは、どうやら英語が堪能らしい。
もっとも、母さん曰わく、

「2/3はボディランゲージ」

みたいだけど。

22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 18:04:45.27 ID:WJc3nC3DO
晩ご飯の後片付けを終えて部屋に戻ると、押し入れの奥から黒猫のぬいぐるみを取り出した。
去年の誕生日に母さんが買ってくれたんたよね、この子。
もちろん、父さんには内緒でね。
見つかったら問答無用で捨てられちゃうから、出かけるときは押し入れに隠れてもらうことしてるんだ。

「もうすぐうちに来て1年だね」

「うん!あっという間だったにゃ!」

ニャン太の頭を撫でながら、しばしのあいだ1人芝居に没頭する。
……女の子ならこれくらい普通だよね?
伊織だって、ウサギのぬいぐるみ相手に同じことしてるよ、きっと。

「ふわぁ……」

大きなあくびをしながら時計を見ると、時刻は22時を過ぎていた。
いつもならまだ起きてる時間だけど、今日は母さんの言い付けを守って、もう寝よっと。
電気を消して、ニャン太を抱いたまま布団に入ると、心地いい眠気があっという間にボクを包んだ。

24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 18:39:53.98 ID:WJc3nC3DO
次の日は朝8時に母さんに起こされた。
寝たのが22時過ぎだから……10時間くらい寝ちゃったのか。
やっぱり疲れてたのかなぁ、ボク。

目覚めのシャワーを浴びてから制服に着替え、美味しそうな匂いのしている居間に向かう。

「いただきまーす!」

白いご飯とネギをかけた納豆、そして焼き魚と味噌汁。
これが菊地家の、いつもの朝ご飯。
やっぱり朝は白いご飯だよね!

「補講は何時から?」

「10時半から」

「遅刻しないようにね」

「はーい」

余裕を持たせるために、9時50分には家を出た。
学校までは自転車で20分ほど。
今日も天気が良くて、顔に当たる風も気持ちいい。

27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 21:36:34.15 ID:WJc3nC3DO
「おはよう、真!」

「おっはよ!」

補講開始の10分前に教室に入ると、いつものメンバーが揃ってた。
繪里子、宏美、智秋、直美の4人にボクを加えた5人が、補講のレギュラーメンバーってわけ。

「今日は小テストっぽいよ?」

窓際の自分の席に座ったボクに、2列隣の宏美が教えてくれた。

「えっ、マジで?」

勘弁してほしいなぁ……。
頭を抱えてうなだれたボクに、廊下側の繪里子から声が飛ぶ。

「ちゃんと予習復習してこないからだよ」

「じゃあ繪里子は、予習復習してきたの?」

「私がそんなことするわけ無いじゃないですかぁ!てへっ!」

相変わらずウザいキャラだ。

28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 21:39:11.53 ID:WJc3nC3DO
始業のチャイムが鳴り、先生が答案用紙を配り始める。
どうやら宏美の予言は的中したみたいだね。
もっとも、だからどうなるってワケでもないんだけどさ。

「えっと……」

開始から1分も経たないうちに頭が痛くなる。
『comparison』ってどう意味だっけ……。
他の4人の様子を横目でチラリと伺ってみたけど、みんな早くも諦めムード。
はぁ……卒業できるのかな、ボクら。

グラウンドからはソフトボール部と陸上部の元気な声に混じって、セミの声も聞こえてくる。
その上に広がる空には、いくつかの白い雲が気持ち良さそうに浮かんでた。
もう少しのあいだ、夏は続きそう。

29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 22:03:59.54 ID:WJc3nC3DO
終わりのチャイムが鳴ると同時に、ため息を吐く音が5つ聞こえた。
無理やり埋めた答案を先生に渡すと、他の4人と一緒に教室を後にした。

「ねぇあんた達。ついでにお昼ご飯食べてかない?」

智秋の呼びかけに直美が即答する。

「いいね!じゃあ、二郎にしない?」

「はぁ?あんたねぇ、女子高生が5人集まって、昼間からラーメン?」

っていうか、全員で行くって決まってるんだね……。
屋上の青いベンチに座る美希と雪歩の姿が思い浮かんだけど、昨日あそこで倒れてしまったばかりということもあって、ボクは智秋たちに付き合うことにした。
行き先はどうやらカレー屋さんに決まったみたい。
よーし!半熟タマゴをトッピングしよっと!

30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 22:29:04.13 ID:WJc3nC3DO
「またねー!」

カレーを食べ終わったあともお喋りは続いてたけど、14時からの演技レッスンを控えているボクは1人でカレー屋さんを出た。

「10分前には余裕で着きそうだね」

携帯電話の時計は13時12分。
レッスンスタジオまではここから自転車で20分かからないくらい。
10分前行動は、体育会系の基本ですから!

駐輪場で自転車にまたがりペダルをこぎ出すと、少し湿った空気が顔を撫でた。
空を見上げると、いつの間にか黒い雲に覆われつつあった。

「ヤバっ!降ってきちゃうかも!」

夕立の気配を感じたボクは、ペダルをこぐ脚に力を込めた。
グングン加速していく自転車。
頬には小さな雨粒が当たり始めた。

31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 23:02:38.20 ID:WJc3nC3DO
「やった!間に合った!」

レッスンスタジオが入っているビルが見えたとき、思わず叫んじゃった。
夕立はまだ本格的に降り出してはいなくて、相変わらず小さな雨粒がパラついてるだけだった。
最後の横断歩道で信号待ちをしながら、もう一度時間を確認してみた。

「まだ13時25分かぁ。早く着きすぎちゃうなぁ」

だけど、びしょ濡れになるよりはマシだもんね。
信号が点滅し始めたから携帯電話をしまい、自転車をこぎ出す用意をする。
そのときだった。
ビルの方角からこちらに向かって走ってきた猛スピードの車が、信号ギリギリで右折して、そしてスリップした。

「雨は降り始めが一番怖いんだ。道のゴミやホコリが浮くからな」

かつてレーサーだった父さんから聞いたそんな話を、ボクは呑気に思い出していた。
ボクに向かってすっ飛んでくる車を、やっぱり呑気に眺めながら。

34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/21(木) 23:53:21.71 ID:WJc3nC3DO
―高そうな車だなぁ。
―あ。いま、運転手さんと眼があっちゃった。
―父さんと同年代くらいの人かなぁ?

ゆっくりと流れていく時間の中で、そんなとりとめの無いことを考えてた。
それが終わると、今日までの記憶が次々に頭をよぎり始める。
ひょっとして、これが走馬灯ってやつなのかな?
だとしたら……。
死んじゃうのかな、ボク?

スローモーションでボクに近付いてくる車。
身体は次第に、心地いい感覚に包まれてきた。
右足はペダルに、そして左足は地面に着いている。
それなのに、身体が少しずつ浮かび上がっていくような感覚。
視界は霞がかったように白くなってきて、両手の指先にはくすぐったいような痺れ。
そして……。
ボクの世界は真っ白になった。
全身を包み込む、浮翌遊感の中で。

35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/22(金) 00:32:49.81 ID:Fsaj4ffDO
白かった世界がどんどん暗くなっていく。
全身を包んでいた感覚も徐々に消えていった。

(あぁ、死んじゃったのか、ボク)

自分の死をまるで他人ごとみたいに扱いながらゆっくりと眼を開けると、月明かりに照らされた1棟のビルが見えた。
14時から演技レッスンを受けるはずだったスタジオが入っている、あのビル。

そっか。
ここで死んじゃったボクは、ここでお化けになったんだ。
だけど……。
何で自転車にまたがったままなんだろ、ボク?
自転車もお化けになっちゃうの?
どうやら壊れてる様子も無いし。

「……あれ、そういえば?」

事故現場だっていうのに、周りがやけにキレイなことに気付いた。
そんなに早く片付いちゃうものなの?

36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/22(金) 21:18:17.80 ID:Fsaj4ffDO
「君、高校生だよね?こんな時間に何やってるの?」

「へ?」

声をかけられて振り向くと、お巡りさんが2人立っていた。

「あ、あの……」

「あの、じゃ分からないよ。いま何時だと思ってるの?」

な、何時って言われても……。
っていうかこのお巡りさんたち、ボクの姿が見えるの?

「いくら夏休み中だからって、夜中の4時まで遊ぶのは感心しないな。しかも君、制服を着たままじゃないか。どこの学校の生徒?」


一気にまくし立てられて、頭が混乱してきた。
えっと……。
ボク、死んだんだよね?
ちゃんと足は生えてるけど、お化けなんだよね?

37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/22(金) 21:45:20.50 ID:Fsaj4ffDO
「ボ、ボク……えっと……事故で……」

混乱した頭のままで、途切れ途切れの言葉を発しているボク。
これじゃあ、どこからどう見ても怪しい子だよね……。

「事故だって?君、いったい何の話をしてるんだい?」

「だ、だからぁ!昨日の昼間にここで起きた事故で!」

ボクに職務質問していた年配のお巡りさんが、不振そうな顔つきでもう1人の若いお巡りさんに確認する。

「おい。昨日の昼間、ここで事故なんて起きたか?」

「いえ。我々の所轄内では、昨日8月19日は無事故でした」

……え?
8月19日?
8月19日が『昨日』だって!?

38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/22(金) 22:15:10.93 ID:Fsaj4ffDO
年配のお巡りさんはさっき、『夜中の4時』って言ってた。
ボクが事故に合ったのは確か……。 !
混乱し過ぎてクラクラしている頭をフル回転させて、昨日あったことを振り返る。

英語の補講を受けたあと、智秋たちとカレー屋さんでお昼ご飯を食べた。
演技レッスンに行くために、ボクだけ先にお店から出た。
本格的に夕立が降り出す前にスタジオに入ろうと、いつもより自転車のスピードを出した。
そしてここで最後の信号待ちをしている間に、もう一度携帯電話の時計を確認した。
そのときの時間がたしか……13時25分!
8月20日の13時25分だ!
だからいまは、8月21日の午前4時になるハズだよ!

39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/22(金) 23:14:28.65 ID:Fsaj4ffDO
「何をブツブツ言ってるんだね?」

「へっ?あ、えっと……その……」

「まぁ良い。ちょっと交番まで良いかね?」

……マズい。
なんだか良く分からないうちに補導されちゃう。
こうなったら、父さんから教わった秘伝を使うしかない。
どんなに強い相手にだろうと効果を発揮するという、あの秘伝を!

「ごめんなさい!!!」

「あっ、待ちなさい!」

秘伝『三十六計逃げるに如かず』
徒歩で巡回中だったお巡りさんたちが、全力でペダルをこぎ出したボクに着いてこれるハズもなく、秘伝はあっさりと成功した。
もちろん罪悪感はあったけど、何を言っても信用してもらえそうにないんだもん。
何よりもボク自身が、現在の状況を信じることができないんだから。

40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/23(土) 00:00:18.67 ID:+qQwClRDO
ペダルをこぐ脚を止めることなく、自分の家を目指した。
とにかくいまは、落ち着いて考えることができる時間と場所が欲しい。
ニャン太を抱いたまま布団に転がって、もう一度『昨日』を振り返ってみよう。

明かりの消えている家に着くと静かに自転車を片付け、バッグからカギを取り出した。
音を立てないように玄関のドアを開け、忍び足で部屋に向かう。
こんな時間のこんな姿を父さんに見つかったら、しばらく外出禁止になっちゃうもん。
寝静まっている父さんと母さんを起こさないように、抜き足差し足のボク。
なんだか一気に『悪い子』になっちゃった気分だよ……。

「はぁ……」

部屋に入ってドアを閉じると、やっと大きく息を吐き出すことができた。
ドアの前にへたり込みながら、携帯電話を取り出す。
ディスプレイには『8/20 4:32』と表示されていた。

41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/23(土) 01:49:58.99 ID:+qQwClRDO
「ホントに8月20日なんだ……」

理解不能な現実を突きつけられて、また頭がクラクラしてきた。
制服を着たままで布団に仰向けになり、天井に向けて両手をかざした。

「夢…じゃないよね?」

右手で軽く頬を叩いてみると、ちゃんと痛みを感じた。

「夢じゃない……」

脳みそをフル回転させすぎたせいか、なんだかおかしなテンションになってきた。
もう何でもいいや、みたいな、開き直ったテンション。

「生きてるもん、ボク」

自分に納得させるように、そう呟いた。
それから目を閉じて大の字になると、強烈な眠気が襲ってきた。
そいつに抵抗すりことなんてできずに、ボクはあっさりと、眠りに落ちた。

42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/23(土) 02:25:18.99 ID:+qQwClRDO
「あんた、何で制服着たままで寝てるの?」

呆れたような母さんの声で眠りから覚める。

「いま……何時?」

「8時よ。朝ご飯の用意するから、シャワー浴びてきなさい」

まだ8時かぁ……。
母さんてば、何で今日はそんなに早く起こしたんだろ?
今日は何かあったっけ?。

「……ん?今日?」

今日はたしか……ボクにとって2回目の8月20日。
そういえば1回目も8時に起こされたんだっけ。
そして今日の予定は……。

「……補講だ。10時半から英語の小テスト!」

布団から跳ね起きると15分くらいでシャワーを済ませ、英語の教科書を片手に居間に向かった。
小テストの問題の8割くらいを、ボクはまだ覚えていた。

43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/23(土) 02:48:16.19 ID:+qQwClRDO
「おはようみんな!」

1回目と同じように、補講開始の10分前に教室に入った。
2列隣に座っている宏美に、今度はボクの方から声をかけた。

「今日は小テストらしいね」

「何だ、真も知ってたのかぁ。朝から鬱にしてやろうと思ってたのに」

「へっへー、残念でしたぁ!」

余裕の言葉を宏美に投げつけると、廊下側の繪里子に声をかける。

「ちゃんと予習復習してきたかい、繪里子?」

「私がそんなことするわけないじゃん……真は?」

「ちゃんとしてきたに決まってるじゃないですかぁ!てへっ」

「うわっ、ウザっ!」

予習復習どころか、答え合わせまでしてきちゃったよ!
もっとも、1回目と同じ問題が出るとは限らないんだけどね……。

44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/23(土) 03:20:49.15 ID:+qQwClRDO
始業のチャイムが鳴り、1回目と同じ服を着てる先生が答案用紙を配り始める。
手元にやってきたそれを見るなり、思わずガッツポーズしてしまいそうになった。

(まったく一緒だ!)

そんな衝動を何とかこらえ、問題を解きかかる。

問1 次の例文を訳しなさい。
『make a comparison between A and B』

(出たな、comparison!)

1回目には手も足も出なかった問題が、何でも無いモノのように思える。
まぁ、当然と言えば当然なんだけどね。
っていうか、勉強できる人たちって、普段からこんな感じで解いちゃうんだろうなぁ。
ボク、ちょっとだけ気持ちが分かったよ。

『AとBを比較する』

開始1分も経たないうちに答えを書き込み、次の問題へ。
横目でチラリと覗いた空には、いくつかの白い雲。その形まで、1回目と同じだった。

47: >>46 仕様です 2012/06/24(日) 01:49:10.89 ID:uoOHMsMDO
終わりのチャイムが鳴るのとほとんど同時に、先生に答案用紙を差し出した。
1人で教室を飛び出そうとしたボクに、直美から声が飛ぶ。

「あっ、真!お昼ご飯は?」

「ごめん、事務所で食べる!」

またね、とみんなに向かって言いながら教室をあとにして、駆け足で駐輪場に向かう。
事務所から演技レッスンのスタジオまでは、歩いても10分はかからない。
夕立が来るのはもう分かってるから、少しでもスタジオに近い場所にいたかった、っていうのも理由の1つ。
だけどそんなことよりも、誰かに話したくてウズウズしてたんだ。
もちろん、ボクが体験した不思議な出来事についてね。

校舎の壁に備え付けられた時計は11時半を回ったばかり。
屋上のベンチには、もうすぐ雪歩と美希がやってくるハズ。
あの2人がどんな顔をするか、いまから楽しみだ。

48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/24(日) 02:12:29.39 ID:uoOHMsMDO
「真君、大丈夫?熱でもあるの?」

お昼ご飯のおにぎりを頬ばりながら、美希が言った。
雪歩は『可哀想な人』を見るような目で、黙ってボクを眺めてる。

「ホントなんだって!」

予想外の冷めた反応に、思わず足をバタバタさせちゃったよ。
もっとも、テンションが上がってたせいで考える余裕が無かったけど、ボクが同じこと聞かされたら、やっぱり2人と同じような反応になっちゃうんだろうな……。

「ダメだよ真君?もう高校3年生なんだから」

ゴミを片付けながら、中学3年生の美希がお姉さんぶった。
雪歩は相変わらず黙ってボクを見つめてる。

「ホントなのになぁ……」

自分のゴミを片付けながら呟くと、雪歩が空を見上げながら言った。

「じゃあ……このあと夕立が降り出して、演技スタジオの近くで車がスリップ事故を起こすんだね?」

空はまだ、気持ちいいくらいに晴れていた。

49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/24(日) 21:13:23.22 ID:uoOHMsMDO
1回目の8月20日のことを、頭の中でもう一度振り返った。
智秋たちとカレー屋さんに行って、先に店を出たのが13時を10分ほど過ぎたころ。
その時間にはもう、空は黒い雲に覆われ始めていた。そしてスリップ事故が起きたのが、13時25分。
携帯電話の時計を見ると、いまは12時40分だった。

「あと20分くらいで空が曇り始めるよ。それから雨がパラついてくる」

「はいはい。ミキ、もう営業に行くね?」

これ以上付き合ってられない、といった様子の美希が、ベンチから立ち上がる。
雪歩はまだ空を見上げたまま、流れていく雲を眺めていた。

「13時25分だよ、美希。事故の時間」

「覚えとくね。じゃあ、行ってきますなの」

背中越しにそう言い残して、美希は階段を降りて行った。
雪歩は最後まで、ボクと目を合わせようとはしなかった。

50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/24(日) 21:36:13.28 ID:uoOHMsMDO
雨が降り出す前にレッスンスタジオに入り、更衣室で身体をほぐす。
レッスンが始まるころには、強い雨がスタジオの窓を叩いてた。

「すぐそこの信号で事故があったみたい」
スタジオに入ってきたトレーナーさんが、少し興奮した様子で教えてくれた。どうやら野次馬に行ってたみたいだ。

「雨でスリップしたんだって。幸い、巻き込まれた人はいなかったみたいね」

それも分かってた。
だって、あのとき信号待ちしてたのは、ボクだけだったんだもん。
だけど……。
美希たちに信じてもらうためとはいえ、事故が起こるのを待ち望むような格好になってしまったのは、けっこうな罪悪感。
その気になれば、事故そのものを防ぐことだって出来たかもしれないのに……。

何だか申し訳ない気持ちになりながら、演技レッスンを受けた。
16時過ぎにスタジオを出るころには、雨はもう止んでいた。

51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/24(日) 22:06:43.80 ID:uoOHMsMDO
「戻りました」

事務所のドアを閉じながら言うと、奥から美希が駆け寄ってきた。

「真君スゴいの!」

そう言いながらボクに抱きついた美希。
何に対してそんなにはしゃいでるのかは、聞かなくても分かった。

「ホントにタイムスリップしちゃったんだね!」

「う、うん……取りあえず離れてくれるかな?」

『タイムスリップ』という言葉聞いた小鳥さんと律子が怪訝そうな顔でボクらを見てたから、ちょっと慌てちゃったよ。

「誰かに喋った?」

「ううん、まだ喋ってないの」

危なかった……。
もう少し遅かったら、事務所中に広まっちゃうとこだったよ。

52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/24(日) 22:19:01.08 ID:uoOHMsMDO
「これは3人だけの秘密。いいね?」

「うーん……」

そんなに喋りたいのか……。
まぁ、気持ちは分からなくもないけどさ。

「ダメだよ美希。もう中学3年生なんだから」

どこかで聞いたことのあるセリフで美希を諭すと、頬を膨らませて無言の抗議。

「みーき!」

「……ハイなの」

渋々といった表情で頷いた美希。
ご褒美代わりに軽く頭を撫でてやると、

「……えへへ。えへへへー」

って、嬉しそうに笑った。
王子さまキャラもたまには役に立つみたいだね。
あんまり嬉しくはないけどさ……。

53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/25(月) 02:18:57.07 ID:uFdW4hRDO
「おかえりなさい、真ちゃん」

美希とのやり取りが終わるのを待ってたようなタイミングで、雪歩が声をかけてくれた。

「ただいま雪歩」

なんだか久しぶりに、雪歩と眼が合った気がする。
事故のことは耳に入ってるハズだけど、浮かれてるワケでも、怖がってるワケでもなさそう。
ただただジーッと、ボクを見つめてる。

「どうしたの、雪歩?」

そう言いかけたとき、美希がボクの耳元で囁いた。小鳥さんと律子に聞こえないようにっていう、美希なりの配慮かな?

「ねぇ、真君?」

「どしたの?」

「自分の好きなタイミングでタイムスリップできちゃうの?」

好きなタイミングで、かぁ。
まだ試したことないんだよね、そういえば。

54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/25(月) 22:39:18.42 ID:uFdW4hRDO
自分の部屋に戻ると制服を脱ぎ捨て、ジャージに着替えた。
押し入れからニャン太を連れ出し、テーブルの上に座らせる。
それから床の上にあぐらをかいて、ボクは静かに眼を閉じた。

ゆっくりと深呼吸しながら、あのときの感覚を思い出してみる。
そしてイメージする。ニャン太が押し入れで眠っていた、つい数分前のこの部屋を。
(軽く、軽く……)

頭の中で何度も唱えるうちに、指先が少しだけ痺れてきた。
あのときと同じ、くすぐったいような痺れ。
そして徐々に、身体が浮かび上がっていくようなあの感覚が、ボクを包み込み始めた。
何もかもが白くなっていく……。
何もかもが浮かび上がっていく……。
霞の中に浮翌遊しているような、心地いい感覚。

やがてその感覚は消え去り、頭の中もハッキリしてきた。
ゆっくりと眼を開けると、テーブルの上には誰もいなかった。

55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/26(火) 00:54:28.72 ID:FtaBuhsDO
押し入れを開け、「もう一度」ニャン太を連れ出した。
今度は膝の上に載せ、頭を撫でてやる。
なんだか、不思議な感じだなぁ。

ボクの中での数分前、ニャン太は押し入れの中で寝てた。
ボクの中での1分ほど前、ニャン太はテーブルの上に座ってた。
数分前のニャン太と、いまボクの膝に抱かれてるニャン太は、同じニャン太なの?
そしてボクは?

数分前のボクはどこに行ったんだろう?
初めて時間を遡ったとき、たどり着いた先は8月20日の午前4時ごろだった。
その時間のボクは、ホントならこの部屋で寝てたハズ。
だったら、布団の中にいたボクはどこに消えてしまったの?

そんなことを考えてると、なんだか恐ろしいことをしてしまったような気持ちになってきた。
いつかボクは、「やってはいけないこと」をしでかしてしまいそうな気がする……。
空恐ろしさのせいか小刻みに震え始めた腕で、ボクはニャン太を、キツく抱きしめた。

56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/26(火) 01:18:12.08 ID:FtaBuhsDO
「そんなのもったいないの!」

8月21日の正午過ぎ。
いつものように3人でベンチに座ってお昼ご飯。

「もうタイムスリップはしないよ。なんだか怖くなっちゃったから」

夕べ部屋で起きたこと、そして思ったことを伝えると、美希はオモチャを取り上げられた子供みたいな顔と声で、ボクに抗議した。
雪歩はその話題を避けたいのか、手帳でスケジュールを確認してる。

「ねぇ、雪歩はどう思う?」

「ふぇっ?え、えっと…私は……そのぉ……」

どうにも納得できない様子の美希から唐突に声をかけられ、雪歩が慌てる。
だけど横目でボクの顔を見たあと、雪歩にしては珍しく、ハッキリとした口調で言い切った。

「真ちゃんは正しいと思う」

そして再び、手帳に眼をやった。
美希ももう、何も言わなかった。

57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/26(火) 01:58:35.35 ID:FtaBuhsDO
そのあとボクは、響と2人でオーディションを受けに行った。
とある有名ボーカリストのバックダンサーを決めるオーディション。
結果は……。

「どうしたんだ真?ぜんぜん踊れてなかったよ?」

体調は良いハズなのに、ちっとも身体が動かなかった。
脳ミソと身体が切り離されてしまったような、そんな感じ。
夕べ珍しく、頭を使いすぎたのが良くなかったのかなぁ……?

「自分はけっこういい感じだったぞ!」

更衣室に帰ってからも嬉しそうにはしゃいでる響を尻目に、ボクはさっさと着替えを済ませた。

「ごめんね響。なんだか疲れちゃったから、先に帰るよ」

「そっか。調子悪いならゆっくり休まなきゃダメだぞ?」

その言葉に小さく頷いて、ボクは家路に着いた。携帯電話の時計は17時を回ったところだった。

58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/27(水) 19:02:15.79 ID:KT0GpgrDO
このまま帰宅します、ってメールをプロデューサー宛に送ると、すぐに電話がかかってきた。
自転車をこぐ脚を止めて、ジーンズのポケットから携帯を取り出した。

『どうした真?具合でも悪いのか?』

「そういうワケじゃないんですけど……ちょっと疲れちゃって」

『そうか。社長がアイスを15人分買ってきてくれたんだけどな』

「ボクの分は欲しい人にあげて下さい。ごめんなさい」

『分かった。ゆっくり休んでくれ』

ありがとうございます、と言って電話を切ると、再び自転車をこぎ出す。
西日が街並みを、鮮やかなオレンジ色に染め初めていた。

59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/27(水) 19:35:03.69 ID:KT0GpgrDO
晩ご飯後の自分の部屋。
溜まっている夏休みの課題を片付けようと、ボクは机に向かった。
ハズなんだけど……。

「やる気出ないなぁ……」

10分もしないうちに投げ出しちゃった。
なんかこう……集中できないというか。

「ちょっと走ってこよっかなぁ」

膝の上のニャン太に向かってそう呟いたとき、携帯電話が鳴った。

「プロデューサー?今度は何だろ?」

時刻はもうすぐ20時を迎えるところ。
この時間にプロデューサーから電話が入るのは珍しい。

「もしもし?どうしたんですか、プロデューサー?」

『真か?えっとな……』

いつになく沈んだ声。こんなプロデューサーも珍しい。

60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/27(水) 19:50:13.08 ID:KT0GpgrDO
「何かあったんですか?」

普通では無い様子のプロデューサーに、なんだか不安な気持ちになる。

『美希が…美希がな……』

「美希?美希がどうかしたんですか?」

問いかけるボクに返ってきたのは、言葉ではなく嗚咽だった。

「プロデューサー!美希がどうしたんですか!?」

恐怖と怒りの混じったボクの問いかけに、プロデューサーが声を絞り出した。

「平田記念病院に来てくれ……みんなそこにいる……美希も…いるから……」

途切れ途切れの言葉を聞き終わる前に、ボクは部屋を飛び出していた。

61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/27(水) 20:04:02.61 ID:KT0GpgrDO
平田記念病院の5階には、美希以外の全員が揃っていた。

「真……」

メガネの奥の眼を真っ赤にしながら、律子がボクを抱きしめた。

「律子!美希は!?」

「いま、お父さんとお姉さんに会ってる…お母さんと一緒に……」

その口調が、ボクの不安をより一層掻き立てた。

「美希は…美希は!」

病院内に響くボクの声。
他のみんなは、うなだれたまま声も出せずにいた。

「私から事情を説明しよう。風に当たりながらね……」

「社長……」

社長に促されるまま、ボクは屋上へと向かった。
着いてくる人は、誰もいなかった。

62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/28(木) 21:09:31.55 ID:5wF/YYJDO
少し湿った夜風に当たりながら、社長がボクに説明してくれた。
まるで自分自身を納得させるみたいな口調で。

18時を少し過ぎたころ。事務所では、社長が買ってきてくれたアイスをみんなで食べていた。
予想通りというか、ボクの分は美希が食べてくれたみたい。
そんな中、美希の携帯電話が鳴った。

「ママが車で迎えに来てくれたみたい。いま、近くの交差点にいるって」

そう言うと、2つ目のアイスを急いで食べ終え、事務所をあとにした。

「みんな、また明日なの!」

いつもと何ら変わらない挨拶。
明日また会うことは、疑う余地も無い、当たり前のことのハズだった。
だけどその数分後……。

美希を乗せた車に、信号無視のトラックが突っ込んできた。
美希が座っている助手席に向かって、一直線に……。

63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/06/28(木) 21:26:58.70 ID:5wF/YYJDO
「霊安室の遺体を見たのは私とプロデューサーだけだ。他の子たちには…とても見せられない……」

言葉が途切れ、社長の肩が震え始める。
ボクはそれを見ないように、街灯りを見つめた。

「私は…みんなのところに戻るよ」

溢れてくるものを堪えきれなくなったのか、いつもより低い声で社長が言った。

「ボクは…もう少しここにいます」

社長はもう何も言わずに、ボクの肩を軽く叩いた。
その手すら、かすかに震えていた。

屋上に1人残ったボクは、もう一度街灯りを見つめた。
ここから事務所まで、全力で走って20分くらい。
これからやろうとしていることが正しいのかどうかなんて、ボクには分からない。
だけど……。
もう一度だけ、時間を越えよう。

64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/09(月) 23:08:35.21 ID:m9EqWN5DO
美希を乗せた車が事故にあったのは18時を過ぎたころ。
ここから現場までは走って20分くらい。

オーディション会場を出たとき、街はオレンジ色に染まり始めてた。
それなら、時間を遡る先は…。
この屋上が、夕陽に照らされ始めたころだ!

眼を閉じたまま、深呼吸を繰り返す。そしてイメージする。
(軽く…軽く……)
頭の中で何度も唱えながら、あの感覚がボクを包み込ものを待った。
だけど……。

視界は白くならない。
指先は痺れてこない。
身体はちっとも軽くならない。

(なんで…なんで!)

焦りとともに、冷たい汗が吹き出してくる。
その汗が一滴、背中をゆっくりと滑り落ちていった。

65: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/09(月) 23:23:24.03 ID:m9EqWN5DO
「なんでだよ!」

気がつくとボクは、眼を閉じたままで叫んでいた。

「飛べよ…飛べったら!」

全身を汗まみれにしながら、何度も叫んだ。
呼吸は乱れ、眼には涙が溜まってる。
それでもボクは叫んだ。
何度も何度も何度も……。
やがて、浮遊感ではなく絶望感が、全身を包み込み始めた。

「無理だよ、真ちゃん」

「えっ!?」

荒い息づかいのまま振り返ると、そこには雪歩が立っていた。
悲しそうな眼は、まっすぐにボクを見据えている。

66: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/09(月) 23:40:42.04 ID:m9EqWN5DO
「もう無理なんだよ、真ちゃん」

ボクを諭すような口調で、雪歩が繰り返した。

「なんで雪歩がそんなこと……」

―分かるの?
そう言いかけたときだった。
雪歩がポケットから何かを取り出した。
そして白く細い右手で、ボクに向かって差し出す。

「これ、覚えてる?」

「それは……」

ボクは確かに、『それ』を見たことがあった。
混乱した頭をフル回転させ、何とか思い出そうとした。
やがて浮かび上がってきたのは、薄い青色のベンチ。
そうだ!ボクが倒れた日の、あの屋上だ!


67: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/09(月) 23:58:46.39 ID:m9EqWN5DO
飛んできたカラスのせいで屋上のコンクリートに落ちた、雪歩の白い肩掛けバッグ。
そのバッグからこぼれた中身の1つが、『それ』だった。
小さく透明な、ガラス製の容器。
中身は確か、薄く紫がかった、ピンク色の液体。

「思い出した?」

「……うん。だけど、それは一体?」

また頭が混乱してきた。
なんで雪歩が、「もう無理だよ」なんて言えるのか。
なんで今、『それ』をボクに見せたのか。
雪歩に見据えられたまま何も聞けないでいるボク。
先に口を開いたのは雪歩だった。

「これが正体だよ。真ちゃんに身体に起こった出来事の。つまり……」

「……つまり?」

「真ちゃんが、時間を飛び越えられたことの」

69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/12(木) 21:32:31.37 ID:boNXm6IDO
聞きたいことはたくさんあった。
だけど相変わらず、ボクの頭の中は混乱したまま。
月明かりに照らされた雪歩の姿は、現実離れしたものみたいに思えた。
その雪歩が、何かを決意したような口調で言った。

「美希ちゃんを助けたいんだね?」

ボクを見据えたまま、返答を待っている雪歩
華奢な身体が微かに震えてる。

「真ちゃん?」

さっきよりも強くなった口調は明確に、ボクに返答を促していた。
だからボクも、それに負けないくらい強い口調で、雪歩に言った。

「助けたい!どうしても!」

湿った夜風が、ボクらの間を吹き抜けて行った。

70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/12(木) 21:56:09.10 ID:boNXm6IDO
「よく聞いて、真ちゃん」

透き通った雪歩の声。
儚くてキレイで、そして稟とした、ボクの大好きな声。
いまはその声に、不思議な力強さが加わっていた。
ボクはまるで抱きすくめられたみたいに、身動きできなくなってしまった。

「これから私たちがやろうとしてることは、絶対にやっちゃいけないこと」

自分に言い聞かせるように語る雪歩。
身体の震えはもう止まっている。

「1人の人生を変えることは、後に続く歴史を変えること。
 この『時代』にとっては小さな変化かもしれないけど、何百年先の未来ではすごく大きな変化になっちゃう」

何かを聞き返すことすらできずに、ボクは雪歩の言葉に耳を傾けた。

71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/12(木) 22:28:02.49 ID:boNXm6IDO
「事故の時間は18時過ぎ。真ちゃん、ここから事故現場まで何分で行ける?」

「……走って20分くらい」

「じゃあ、事故の起きた15分前に飛ぶよ」

「えっ!?それは、どういう……」

「分かって、真ちゃん。これが私にできるギリギリの譲歩なんだよ」

戸惑うボクを突き放すように言った雪歩。
だけどその言葉とは裏腹に、雪歩の表情は悲痛とも呼べそうなほど苦しげだった。

「私だって美希ちゃんを助けたい。お友達になれたから。仲良くしてくれたから。
 だけど……これ以上のことはしてあげられない」

それだけ言い終えた雪歩は、ゆっくりと眼を閉じた。

「あとは真ちゃんが決めることだよ」

そう言っているみたいに、ボクには思えた。

72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/12(木) 22:42:53.83 ID:boNXm6IDO
「……ホントに、時間を越えられるの?」

しばらくの沈黙のあと、やっと言葉を絞り出した。
それに反応した雪歩が眼を開く。

「ホントだよ。今度は、私と2人で」

相変わらず、頭の中は混乱してる。
聞きたいこともたくさんある。
だけどいまのボクには、雪歩を信じることしかできなかった。

「良いんだね、真ちゃん?」

「……うん。それで美希を助けることができるのなら」

「もしも間に合わなかったら、美希ちゃんのことは」

その言葉は最後まで聞きたくなかった。
だからボクは、思いっきり大きな声で叫んだ。

「間に合わせる!絶対に!」

その声はあっという間に、夏の夜空に吸い込まれていった。

73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/15(日) 01:32:09.88 ID:51rTRIsDO
柔らかな微笑みを浮かべた雪歩が、ゆっくりとボクに歩み寄ってくる。
そして右手を差し出した。
その手のひらに、自分の右手を重ねる。
もう、2人の間に言葉は無かった。
同じタイミングで眼を閉じ、呼吸を合わせる。

徐々に軽くなっていく身体。
白くなっていく頭の中。
痺れてきた指先を丸め、雪歩の指と絡める。

雪歩が何者なのかは分からない。
だけど彼女は言ったんだ。

「私だって美希ちゃんを助けたい」

って。お友達になれたから、って。
いまのボクらには、それだけで十分だから……。

身体を包み込んだ浮遊感が消え、再び眼を開けたとき、ボクらは夕暮れの中にいた。

74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/15(日) 01:57:05.44 ID:51rTRIsDO
夜から夕暮れどきに飛んだせいか、頭が少しボーっとする。
だけど、雪歩の強い口調で一気に我に返った。

「走って、真ちゃん!」

……そうだ。
興味本位で時間を飛び越えてしまったあの時とは、まったく状況が違うんだ。

「雪歩は?」

「私の脚じゃ、真ちゃんには着いていけないから」

雪歩にどんな秘密があるのかなんて、ボクには知る術も無い。
だけど雪歩はチャンスをくれた。
たぶんボクには理解できないくらいの、大きな決意を込めたチャンスを。
だとしたら、ここからはボクの仕事だ。

「分かった。ぜったいに美希を助けるからね!」

言い終わる前に走り始めたボク。
オレンジ色の逆光のせいで、雪歩の表情は見えなかった。

75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 01:35:26.30 ID:4qmmSL/DO
沈んでゆく太陽を背に、ボクは走った。
空にはオレンジ色に染まった大きな入道雲。その入道雲に向かって、わき目もふらずにただ走った。
15分間の全力疾走なんて経験したこともないから、すぐにわき腹が痛くなってきた。頭もクラクラするし、心臓も激しく鼓動してる。
だけど脚だけは、懸命に動かし続ける。

だって、これはただの徒競走なんかじゃなくて、かかっているのは美希の命なんだから。
ボク、いまならメロスの気持ちが分かる気がするよ。
走らなきゃ友達を助けることができないんだったら、走るしかないじゃん!

ボクのそんな思いが通じたのか、歩行者用の信号は常に青。
神様がいるのかどうかなんて分からないけど、雪歩以外の誰かも、美希を助けるためにボクに力を貸してくれているような気がした。

76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 01:55:59.27 ID:4qmmSL/DO
事故現場までの最後の信号を越え、事務所が入っているビルの前を走り過ぎた。
そこからさらに走ると、交差点の路肩に停まっている一台の車が見えた。
その傍らには、夕陽を受けて輝く金色の髪。

美希だ。
車に乗り込もうとしてる。
脚は動かし続けながら、荒い息づかいのまま思い切り叫んだ。

「美希ー!!!」

届いた。
車のドアを開けたまま、辺りをキョロキョロ見回してる。
もう一度、さっきよりもさらに大きな声で叫ぶ。

「美希ー!!!!!」

こっちを見た。
ボクに気付いたのか、手を振っている。
ボクはそのままのスピードで美希に走り寄り、そして思い切り抱きついた。
全身が汗まみれになってることなんてお構いなしで。

77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 02:19:35.10 ID:4qmmSL/DO
「美希…美希!」

抱きしめたまま、美希の名前を呼んだ。

「ま、真君?」

当たり前だけど、困惑してる美希。
だけどその様子さえ愛おしかった。

「あ、あのね真君?ミ、ミキにも心の準備が必要で…それに……」

腕の中の美希が頭を動かして、車の方へ視線を送った。
美希を解放してその視線をたどってみると、運転席に座っている女性と眼が合った。

「ミキのママなの」

慌てて頭を下げると、美希のお母さんは苦笑しながらそれに応えてくれた。

78: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 02:32:57.06 ID:4qmmSL/DO
「王子さまの菊地真ちゃんね?」

美希とは違う低い声。だけど、悪戯っぽい口調はよく似てる。

「は、はじめまして!菊地真です!あの…その……」

おかしな関係だと思われちゃったんじゃないかと、ドギマギしてるボク。

「美希から話は聞いてるわよ?とっても格好いい女の子だって」

美希に眼をやると、ボクらのやり取りを聞きながらニコニコ笑ってた。

「私のことは気にせず、続きをどうぞ」

さっきよりもさらに悪戯っぽい口調で促す、美希のお母さん。

「い、いえ!もう大丈夫です!」

我ながら間の抜けた返事だよね、まったく。

79: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 02:44:14.97 ID:4qmmSL/DO
「ところで、どうしたの真君?汗びっしょりだよ?」

……そう聞かれても、返答のしようがないよね。

「美希を助けるために時間を越えて、それから走った」

なんて言えるわけないし。
何も言えずにオロオロしてるボクに、美希が心配そうな声をかける。

「真君、大丈夫?ホントに熱でもあるんじゃない?」

……まぁ、そう思われても仕方ないよね。
ボクが美希でも同じこと言うだろうし。

「美希?そろそろ帰らないと」

運転席からの声に、美希が元気よく返事をした。

「また明日!」

そう言って車に乗り込んだ美希。
走り出した車が見えなくなるまで、ボクは手を降り続けた。

80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 02:59:20.03 ID:4qmmSL/DO
車が見えなくなると、一気に全身の力が抜けた。
張り詰めていたものが切れたのか、膝にもまったく力が入らない。
ボクは路肩にへたり込み、走った大きく息を吐き出した。

美希を助けられたことへの安堵感と、未来を変えてしまったことへの恐怖感。
その2つが交互に頭の中を行き来してる。

そう。まだ終わっていないんだ。
ボクには聞かなきゃいけないことがたくさんある。
膝に手をあてがい、立ち上がる。
そしてさっき走ったきた方向きを振り返った。

ゆっくりと歩いてくる、1人の女の子。
ボクの親友。そして……。

「雪歩」

その呟きは、夕暮れどきの喧騒にかき消された。

81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 04:14:55.73 ID:4qmmSL/DO
「間に合ったんだね?」

ボクの前に立った雪歩が、微笑みながら言った。
軽く頷いてその問いかけに答える。
それからしばらくの間、ボクらは見つめ合った。

ねぇ雪歩?
ボクはキミに聞きたいことがあるんだ。たくさんたくさん。
聞いてしまったことで、何かが変わってしまうかもしれない。
だけどボクらは、それを乗り越えられるハズだよ。
だってボクらは……親友だから。

頭の中にはいくつも言葉が溢れてる。
それなのに、口からは何も飛び出していかない。
そんなボクを見かねたのか、雪歩が先に口を開いた。

「真ちゃん?」

そして、いつものように優しくて儚い声で言った。

「ベンチに座ろ?あの、青いベンチに」

82: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 04:35:00.19 ID:4qmmSL/DO
「綺麗な夕焼けだね」

ベンチに座って空を見上げた雪歩が、なんだか名残惜しそうな口調でそう言った。
それからボクの方へ向き直り、ゆっくりと語り始めた。


「これからするお話は、全部本当のこと。 真ちゃんに信じてもらえるかどうか分からないけど……」

そこで一度言葉を切って、眼を閉じた。
駅の方からは走り去っていく電車の音。
その音が消えたとき、雪歩は再び眼を開けた。
そして何かを決意をしたような表情と声で、ボクに言った。

「私の住んでいる世界のことだよ」

東の空はオレンジから紫へと、その色を変えて始めていた。

84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 05:18:01.06 ID:4qmmSL/DO
2876年。
それが雪歩の住む世界。
何度もの大きな戦争のせいで地上は荒れ果て、空気は汚れてしまった。

だからその時代の人たちは地上を捨て、地面の下で暮らしている。
大きな穴を掘り、地下に建物を造って。

「時代を遡って来たときも地面の下で暮らしてるんだよ?
 穴を掘って、1人用の居住ルームを備え付けるの」

―私が自分で掘ったわけじゃないけどね。そう言って照れたように笑った雪歩。
2876年の技術を用いた道具なら、それくらいの穴は30分ほどで掘れてしまうみたいだ。

「そして、時間を遡る理由は、これ」

そう言ってポケットから取り出したのは、例のガラス製の容器。
薄く紫がかったピンク色の液体が、小さく波打ってる。

「これはね?コスモスの花びらから抽出した液体に、特殊な溶液を混ぜ合わせたもの」

「コスモス?」

「うん。私たちの世界からはもう、失われてしまったお花」


85: >>83ありがとう。今回で一気に終わらせるつもりです 2012/07/20(金) 05:33:55.26 ID:4qmmSL/DO
雪歩が生まれる10年前。
科学者である雪歩のお父さんは、ある発見をした。
特定の品種のコスモスから抽出される液体に特殊な溶液を混ぜ合わせると、時間を飛び越えることができる、って。

その頃の地上はまだそれほど汚染されていなくて、コスモスも簡単に手に入れることができた。
飛び越えることの出来る時間が数秒から数分になるまでに、5年の歳月が費やされた。
数時間、数日、数ヶ月、そして数年……。

発見から27年が経ち、好きなだけ時間を越えられるようになった頃、最も大きな戦争が巻き起こった。

「トドメ、ってやつだね。コスモスだけじゃなく、地上に存在する総てに対しての」

そう言って力無く笑った雪歩の表情は、ボクなんかよりもずっと大人びていた。

86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 05:43:06.42 ID:4qmmSL/DO
「最初はお父さんが時間を遡ってたんだけどね。いまは私のお仕事」

「どうして雪歩が?」

「お父さんには研究に集中して貰いたいから。それに……」

「それに?」

「やっぱり楽しいから。この時代は」

そっか……。
人々が地面の下で暮らす世界に、年頃の女の子が喜ぶ娯楽なんてあるハズないもんね。

「でも、今回はちょっとハメを外しすぎちゃったかも。
 だって、アイドルになっちゃったんだもん!」

満面の笑顔でそう言った雪歩。
彼女が「ハメを外しすぎた」ことに、ボクは大いに感謝した。
だってそうでなきゃ、ボクらは出会えなかったんだから。
そして美希は助からなかったんだから。

87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 05:54:40.46 ID:4qmmSL/DO
再び真顔に戻った雪歩が話を続ける。
あるとき、雪歩のお父さんはこう考えた。

「時間を越えることが出来るのなら、空間も越えることも出来るのではないか」

って。
それが実現できれば、どこにだって行ける。
汚れてしまった地上から、他の星に旅立つことだって……。

「無責任だって言う人もいるよ?汚れてしまったんじゃなくて、『汚してしまった』んじゃないか、って。だけどね……?」

すでに半分ほど紫色に染まった空を見上げながら、雪歩は言った。

「生き物はやっぱり、お日さまの下で生きるべきなんだよ」

ボクには想像も出来ない世界に生きている雪歩の言葉に、胸が痛んだ。

88: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 06:09:36.28 ID:4qmmSL/DO
「ねぇ真ちゃん?コスモスの語源、知ってる?」

「…何語?」

「ギリシャ語だよ」

『comparison』の意味も分からなかったボクに、ギリシャ語なんて分かるハズもない。
無言で首を横に振ると、雪歩はからかうような微笑みを浮かべた。

「もともとはね、『Kosmos』っていうギリシャ語。秩序とか、美しいっていう意味の」

「そう…なんだ」

「当時のギリシャの人たちはロマンチックだったんだね。夜空の星が整然と並んでいるのを見て、宇宙のことを『Cosmos』って呼ぶようになったんだって」

突然始まったギリシャ語の講義に、頭の回転が付いていかないボク。
2876年の常識なのかな、それ?

89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 06:27:09.52 ID:4qmmSL/DO
「そして整然と花びらが並んだ可愛らしいお花にも、同じ名前を付けたんだよ」

「それがコスモス?」

「うん。人間って凄いよね。何千年も前に、宇宙とお花を結び付けたんだから」

興奮気味に話してる雪歩。
それを見て戸惑っているボクに気付いたのか、大きく深呼吸した。

「『Cosmos』から作られた液体を使って、『Cosmos』に飛び出してゆく。
 もう一度、お日さまの下で暮らすために」

また空を見上げた雪歩。
だけど今度は、空を見ているわけじゃなかった。
その先にあるもっと大きなものに思いを馳せているのが、ボクにも分かった。

「『Kosmos,Cosmos』それが私たちの世界の合い言葉」

ボクを見ながらそう言った雪歩の表情は、とっても誇らしげだった。

90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 06:42:12.89 ID:4qmmSL/DO
「……もう一つ、お話ししておかなくちゃいけないことがあるの」

さっきまでの表情とはうって変わって、悲しげな顔をした雪歩。

「……なに?」

雪歩が何を言うのかなんて見当も付かないけど、それを聞きたくはなかった。
聞いてしまうことで、何かが終わってしまうような予感がしたから……。

「この液体を作るのに、1ヶ月くらいの時間がかかるの」

手のひらに載せたガラス製の容器に視線を落としながら、声まで悲しげになっていた。

「完成しちゃったから、もう帰らなくちゃいけないんだよ。私の世界に」

―みんなが待ってるから。
その呟きはまるで、自分に言い聞かせてるみたいだった。

91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 06:50:52.34 ID:4qmmSL/DO
「……また、帰ってくるんだよね?」

ボクと眼を合わせようとしない雪歩に、返答を促す。
だけど返ってきたのは、期待しているものとは大きく異なる答えだった。

「帰ってくるよ。だけど……真ちゃんは私のことを覚えてない。真ちゃんだけじゃなく、みんなも」

「……どういうこと?」

「そういう決まりだから。飛び越えた先の時代で関わった人には、私の記憶を残しちゃいけないって……」

「そんな!?」

言っている言葉は理解できた。
だけど、言っている言葉の意味はちっとも理解できなかった。
正確に言うと、理解しないように努めてた。

92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 07:03:56.63 ID:4qmmSL/DO
「真ちゃんが初めて私を見たのはいつ?」

雪歩を初めて見た日……?
うん、よく覚えてるよ。
あれは今年の1月。美希と2人で受けたオーディションの会場に、怯えたように立ち竦んでいる女の子がいた。

「それが雪歩だった。そうでしょ?」

「ごめんね真ちゃん。それは偽物の記憶なんだよ。初めて見たのは私が765プロに入った日」

俯いたまま申し訳なさそうな声で喋っている雪歩。
泣くのを我慢しているようにも見えた。

「……どういう…こと?」

「この時代では催眠術って言うのかなぁ?」

「そんなの…そんなの信じられるわけないじゃないか!」

「そうだよね……。だけどね?催眠術っていうのは、1人にかけるより大勢にかける方が簡単なんだよ。
 記憶を植え付けるのも、そして、消してしまうのも」

93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 07:15:30.78 ID:4qmmSL/DO
2人の間に流れる、重い沈黙。
ボクは拳を握りしめ、なんとか声を絞り出した。

「……どこまでが偽物の記憶なの?」

「……私のお父さんのこととか。もちろん、この時代のね」

「萩原建設の社長、っていうのは?」

「あのときとっさに思い付いた会社名。ごめんね……」

雪歩を責める気なんてなかった。
だけど、ボクの知ってる雪歩が、どんどん消えていくような気がした。
それが悲しくて、辛くて、悔しくて……。気が付くとボクの眼からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
そして、雪歩の眼からも。

94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 07:26:05.93 ID:4qmmSL/DO
「……雪歩のこと、誰にも喋らないから」

嗚咽混じりの声で、途切れ途切れの声を投げかけるボク。

「雪歩は親友だから…忘れたくないから…だから……」

ボクから雪歩の記憶を消さないで。
そう叫びたかった。
だけど、涙が邪魔をして、声にはならなかった。

「ダメだよ真ちゃん…ダメなんだよ……」

ボクを諭すような雪歩の声。
儚くてキレイで、だけど稟とした、ボクの大好きな声。
この声を忘れてしまうことなんて、考えられなかった。

95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 07:41:43.78 ID:4qmmSL/DO
「もう…行くね?」

そう言ってベンチから立ち上がった雪歩。
ボクも雪歩に引っ張られるように立ち上がり、行かないで、って叫ぼうとした。
だけどその前に、雪歩の細い腕で抱きしめられていた。

「言わないで真ちゃん…帰りたくなくなっちゃうから…このままでいたくなっちゃうから…お願い……」

震えている雪歩の身体を、ボクも強く抱きしめた。
こんなに華奢な身体に、あんなに大きな覚悟と使命をしまい込んでる。
そう思ったとき、雪歩の頭を撫でながら自然にこう言っていた。

「分かったよ、雪歩」

腕の中の雪歩が、震える声で「ごめんね」って言った。
何度も何度も、「ごめんね」って。
そして最後に、今までで一番透き通った声で言ったんだ。

「ありがとう、真ちゃん」

って。

96: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 07:51:26.74 ID:4qmmSL/DO
ボクの腕から離れた雪歩が3歩ほど後ずさった。
ボクの眼をまっすぐに見つめたままで。

「お願い真ちゃん。後ろ向いてて」

ボクは雪歩が望む通りに、背中を向けた。
空はまだ少し明るくて、夏の余韻を感じさせた。

「眼を閉じて」

声のままに、ゆっくりと眼を閉じる。
背中の向こうで雪歩が動く気配がした。
そして後ろから抱きしめられた。
背中から伝わる雪歩の温もり。
ボクの大好きな雪歩の、優しい温もり。

97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 08:01:49.95 ID:4qmmSL/DO
「約束するよ、真ちゃん」

「何をだい?」

「いまから何年か先の未来。きっと真ちゃんの前に現れるよ。真ちゃんに私だって分かるような形で」

「……うん」

「だから、さよならは言わないよ?」

「うん。ボクも言わない」

少しずつ頭の中が白くなっていく。
背中の温もりも消えていく。

「またね、真ちゃん」

「またね、雪歩」

2つの声が混ざり合い、溶けていった。
そして再び眼を開けたとき……。
ボクは1人で、いつもの屋上に立っていた。
自分がどうして泣いているのかも分からずに。

98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 08:04:00.44 ID:4qmmSL/DO
不思議な感覚だった。
まるで自分の父さんや母さんの顔を忘れてしまったかのような、不思議な感覚。

「……ボク、何を忘れたんだろ?」

頭をフル回転させてみたけど、何も浮かんでは来なかった。

「……ま、いっか。思い出せないってことは、大したことじゃないってことだよね、きっと」

自分で勝手に納得すると、屋上の出入り口に向かって歩き出そうとした。
そのとき、ジーンズの後ろポケットから、何かがコンクリートの上に落ちた。

「これは……?」

膝を屈めて、それを手に取ってみる。

「花?えっと、この花はたしか……コスモス、だよね」

それは薄く紫がかったピンク色の、一輪のコスモスだった。

99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 08:06:07.00 ID:4qmmSL/DO
8月28日、快晴。
ボクはいつものように、美希と2人でお昼ご飯を食べていた。

「いよいよ明日だね!」

「へ?何が?」

ゴミを白いビニール袋に入れながら、美希が思い出したように言った。

「真君の誕生日、なの!」

あ、そっか。
明日8月29日は、ボクの18歳の誕生日だったね。

「あんまり嬉しくないんでしょ?夏休み終わる直前だから」

「そうなんだよね……」

「誕生日を迎える」=「もうすぐ夏休みが終わる」だから、今年もあんまり嬉しくないなぁ。
しかも、学生生活最後の夏休み……。

100: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 08:07:52.83 ID:4qmmSL/DO
「ミキ、もう行くね?ダンスレッスンに遅れちゃうの」

「うん、わかった。頑張ってね」

「ハイなの!」

レッスンに向かう美希を見送ると、ボクはベンチの背もたれに背中を預けた。
そしてバッグの中から、白いハンカチを取り出した。
ハンカチを開くと、その真ん中にはコスモスの押し花。
薄く紫がかったピンク色の、優しく、そして儚いコスモス。


101: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 08:10:43.20 ID:4qmmSL/DO
あの日うちに帰ると、不器用な手付きでこれを作った。
なんでこんなことを思い付いたのかは、自分にも分からない。
だけど、こうするのに十分な理由を、ボクは持っているような気がしたんだ。

ハンカチを畳み、空を見上げた。
ベンチと同じ、薄い青色の空。
その空の真ん中を、一筋の飛行機雲が貫いていた。
太陽が昇る方角に浮かぶ大きな入道雲を目指して、真っ直ぐに。

もうすぐ夏が終わり、コスモスの季節がやってくる。


お し ま い

102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/07/20(金) 08:12:14.24 ID:4qmmSL/DO
終わりです
時間かかってごめんね

104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) 2012/07/20(金) 12:01:59.17 ID:eSgTGyZGo
おつん
面白かった、やはり雪歩は天使だった

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