あらすじ:ここは大阪新町の廓にある井筒屋。飛脚問屋亀屋の養子、忠兵衛は恋仲の井筒屋の遊女梅川を身請けしようと手付金を払ったが、後金の算段がつかずその期日も過ぎてしまっていた。そこへ恋敵丹波屋八右衛門が梅川を身請けしようと横槍を入れる <封印切>(ふういんきり)

出演

亀屋忠兵衛:サイネリア
傾城梅川:水谷絵理

阿波の大尽:桜井夢子
仲居おふさ:日高愛
槌屋治右衛門:尾崎玲子
井筒屋おえん:秋月涼


丹波屋八右衛門:水瀬伊織

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夢子「おえん、おえん!」

涼「はい、何でございましょう?」

夢子「梅川に逢わせてほしいのよ。この前話しておいたじゃない」

涼「梅川さんなら奥に来てますよ」

夢子「奥にいるなら早く呼んで!」

涼「は、はい、おふさちゃん、梅川さんを呼んできて」

愛「はーい!!!梅川さーん!!!梅川さーん!!!」

「今そこへ…行くわいなぁ…?」

夢子「おお、梅川!さっきから待っていたのよ。ささ、早くこっちに来てお酌して頂戴」

涼「お大尽様、ここは店先でございます。せっかく梅川さんも来たので、どうぞ奥へお出でなされませ」

夢子「そうね、梅川が来たんだから、奥の座敷で飲もうかしら。さあ梅川、私と一緒に奥へ行きましょう」

絵理「私は…もう少しここに…」

涼「お、お大尽様、梅川さんには私がちょっと用事がありますので、先に奥へ行って待っていてくださいませ」

夢子「それなら先に行ってるから、早く来てね。じゃあ行きましょうか」

涼「……梅川さん、なんだか顔色が良くないみたいだけど…」

絵理「あなたも知っての通り…忠さんが身請けの手付金を払ったけど…後金の用意が出来ず…手付の日限も昨日で過ぎて、しかもそこへあの意地の悪い八右衛門さんの身請け話…おえんさん…推量してほしい…?」

涼「そ、そうだったの…私も忠さんの事を案じてなりません」

絵理「もう…十日も忠さんの顔を見てない…ちょっとだけでも顔を見せてと手紙を書いたけど…まだ返事は来てない…」

涼「梅川さん…忠さんは今どこにいるのでしょうね…」

ネリア「……手付の日限も切れて、どの面下げて廓へ顔出し出来るか…でも、梅川に逢いたい逢いたいと思うていたところへ梅川の手紙、どうか首尾良う逢えはしないデスかね…でも今日は堂島の御屋敷へこの公金三百両をお届けしないと…でも梅川に逢いたい…でもお届けしないと…逢いたいけど…ここまで来たら逢わないほうが男じゃないデス!いや~鎌倉一の風流男、梶原源太はアタシのことデスかね~♪」

ネリア「おえんサン…おえんサン…」

涼「はいはい、何でございましょう…手だけ出して気味の悪い人…どなたですか?」

ネリア「はい、アタシ」

涼「あっ!?ちゅ、忠さん!」

絵理「忠さん!」

ネリア「梅川!」

絵理「忠さん♪忠さん♪」

ネリア「川さん♪川さん♪」

「梅川さーん!!!」

涼「ちゅ、忠さん、隠れて…」

愛「梅川さん、早く来て下さい!!!お大尽様がお待ちかねですよ!!!」

絵理「わ、わたしはもう少しここに…」

涼「梅川さん、あなた酔ってるみたいだから、裏で少し酔いを醒ましてきなさい」

絵理「おえんさん、ありがとう…」

愛「梅川さん!!!さあ行きましょう行きましょう!!!」

絵理「そ、そんなに急かさないで…」

涼「ふぅ…忠さん、忠さん」

ネリア「はぁ…梅川…」

涼「忠さん、ちょっと耳かしてくださいな」

ネリア「耳?……お、おえんさん!ありがとうございマス!!」

涼「ふふ、えらい色事師やな」

ネリア「おだてとくなはんないな♪」

りょうすず「おほほほほほほ」

涼「裏は暗いから気をつけてな…」

ネリア「ハイ!」

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絵理「おえんさん…」

涼「梅川さん、暗いから気をつけて…ちょっとここで待っててな」

ネリア「…あの、おえんさんデスか?」

涼「忠さん、来ましたか」

ネリア「えらい暗いデスね…おえんサン、どこでございマス?」

涼「ここですよ」

ネリア「ちょ、ちょっと手を…こう暗いと、どこがどこやら…」

涼「ここですよ…忠さん」

ネリア「おおきに、ありがとう」

涼「こちらへ…梅川さん」

絵理「はい…」

ネリア「慣れてるつもりでもな、こう暗いと…あっ!?」

絵理「ちゅ、忠さん…」

涼「梅川さん、今日ははっきりと話をしやしゃんせや!」

絵理「わかってる…」

涼「忠さん、さっき私が梅川さんに言うた通りな、きっちりと話をしてあげて下さんせや!」

ネリア「アタシも最初からそない思うとりマス!」

涼「そうですか!そんなら私は、奥で座敷の用意をしてきますから、お二人共、ここでゆっくりと…」

ネリア「え?」

涼「お話を」

ネリア「あ、アハハ、話でおますかいな…おえんサン、あなたにはいつも御厄介ばかりおかけして…」

涼「いえいえ、そんなことは…」

ネリア「この御恩は一生忘れまセン!」

涼「忠さん…気をつけてくださんせや。では私はこれで…」

ネリア「ありがとうございマス!」

絵理「忠さん…」

ネリア「梅川…」

絵理「忠さん、いつからわたしに逢ってないか…覚えてる?」

ネリア「うーん…あんまり忙しいて、忘れちゃいまシタ」

絵理「…あなたが手付金を払ってから日限が切れるまで…ずっと忠さんと逢えなかった…わたしがどれだけ辛い思いをしたか…」

ネリア「梅川!アタシだってお前と逢えなくて辛い思いをしたんデス!…そういえばさっきおえんサン、はっきりと言うてしまえと言うとったナ…お前がそんなこと言うならいっその事、ワタシはあんさんのようなお方は嫌いになりましたから、八右衛門のところへ身請けする。とはっきり言うてしまえばいいんデス!!」

絵理「忠さん…なんでそんな事…例えあなたがどうなろうとも、八右衛門さんのところへ何て…絶対に行かない!」

ネリア「梅川…アハハ…キツイこと言い過ぎた…堪忍して」

絵理「忠さん…」

ネリア「梅川…」

涼「ばあ!」

えりすず「ひゃあ!!!」

ネリア「お、おえんサン!ビックリした…」

涼「二人があんまり睦まじいものでつい…あ、梅川さんそろそろお大尽様のところへ行かないと、早う行きましょう」

ネリア「ア、アタシは大事な用があるのでこれで…」

絵理「忠さん!…ござんせいなぁ…」

ネリア「う、うんうん!行きましょ行きましょ!」

絵理「早く…行きましょ…?」

ネリア「そ、そんな急かさんでも行きますヨ!」

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尾崎「おえん、おえん!」

涼「はい…あっ!これは治右衛門さん!今宵はえろう遅く来ましたな」

尾崎「梅川を呼んでくれる?」

涼「はい、梅川さん!」

絵理「はい…親方さん…今日はどうしたの?」

尾崎「お前も知っての通り、忠兵衛殿に頼まれて他の男からの身請け話は断ってきたけど…ちょっと金が必要になってね。そこへ八右衛門殿があなたをすぐに身請けしたいと二百五十両持って来たのよ…悪いけど梅川、八右衛門のところへ行ってもらうわよ」

絵理「そんな!…わたしと忠さんは深い仲…そ、それに…忠さんからまとまった金が入ったと手紙が来た…だから親方さんもう少しだけ待ってほしい…お願い…」

尾崎「…あなたがそれほど言うなら、八右衛門殿の方は断って忠兵衛殿の方へ行かせるわ。安心しなさい」

絵理「親方さん!ありがとう…ありがとう…」

尾崎「私に任せといて」

伊織「治右衛門居るか!あっ、梅川も居るか!こりゃちょうどええ…治右衛門、約束の梅川の身請け金二百五十両、受け取りなさい!…何してんねん、早よ座布団出さんかい!」

愛「はいはい…」

伊織「相変わらず無愛想やな」

尾崎「治右衛門殿、その態度は何?おえんさんを女と侮って偉そうにあぐらかいて…あなたみたいな人のところへ我が子同然の梅川をやるわけにはいきません!この金はお返し申しましょう」

伊織「治右衛門、お前えらい味なところへ異目をつけるなあ。客がお茶屋へ来てあぐらかいたらあきまへんか?お茶屋も面倒な所になったもんやなあ。でもな男と男が約束した身請けの相談、今更反故にはさせないわよ」

尾崎「ある人にちょっと頼まれてね。だからあなたに梅川は身請けさせないわ」

伊織「頼まれた?ああ、その頼んだって奴はあのならず者の忠兵衛、なら忠の事やろ。あいつに頼まれたんやろ?あんな奴の言う事ほんまにしてたら、仕舞いにどえらい目に遭いまっせ!この前な、あいつが納めよった前金五十両、あれな店の金使いこみよったんや。ほんまやで!」

涼「は、八右衛門さん!さっきから黙って聞いてれば忠さんの悪口ばかり…あなたがどれだけ忠さんの悪口を言おうとも、忠さんはそんな男じゃない!それに忠さんがな、この廓へ入ると全ての人が忠さん忠さん、台所の鼠もチュウチュウと言います!それだけ忠さんは皆に好かれとります!」

伊織「…何や今聞いてたら、鼠までもがチュウチュウ?当たり前や!鼠がニャアニャア鳴いたらこの首やるわい!それにな、私はお前らにいくら嫌われようとも好いてくれるもんがあんねん。何やと思う?…金や。それにな、あんな田舎のどん百姓の、肥取り百姓の倅の忠兵衛なんかより私みたいなお育ち柄の良い男のところへ来た方が良いと思うけどなあ」

ネリア「あ、あいつ…好き勝手言いやがってえ…もう我慢できない!!八右衛門!!」

伊織「忠兵衛!!」

ネリア「八右衛門!さっきから聞いてれば、でたらめなこと言いやがって!!…お前が言ったこと、なんや証拠あるんかい!証拠!それにな、さっきアタシの親の事、貧乏百姓だかなんだと言ってたけど、アタシの親父さんは大和の国の大百姓!この前親父さんが大阪見物に来た時に金貰ってな、今その金持ってんのジャイ!!」

伊織「忠兵衛、お前も二階で聞いてたとおりな、こっちもついついカーッときてしもうてなあ、堪忍してや~」

ネリア「触らんといテ!!」

伊織「そんな怒らんでもええやないか…忠兵衛、今聞いてたらな、お前のところの親父さん、大和の大百姓って言ったな?」

ネリア「そうデス!」

伊織「それ、よその親父さん違うか?」

ネリア「嘘やと思うたら大和まで行って聞いてみたらええワ!」

伊織「暇な時に行ってみるわ…その親父さんから小遣い貰うて今持ってる言うたな?」

ネリア「ここにちゃ~んと持ってマス!」

伊織「その金、ちょっと見せてえな」

ネリア「何であんたなんかに…ここに持ってると言うたらそれでええやないカ!」

伊織「ほんまに持ってんのかちょっと見せてえなあ~♪…見せられへんの?…ほんまは持って無いんやろ?嘘なんやろ?」

ネリア「な、なんで嘘つかんな…この手ちょっと貸してみ…それ、ここに固い物があるやろ?」

伊織「ある」

ネリア「これが金!」

伊織「…何や手触りの悪い金やなあ…ぷっ!ふふふ…わかった♪お前な、みっともない事したらあかんわあ。私がお前の事あんまりぼろくそに言うたもんやさかい、裏庭に行って石や瓦懐へ入れてそれを金や金や…そら見せられんわなあ!あはははは!!」

ネリア「おい!ほんま、なんで石や瓦持って金や金や言わなならン?」

伊織「ほな出して見せたらええやないか!」

ネリア「触ったらわかるやろ!」

伊織「手触りが石や瓦やて言うとんねん!ああ、やっぱこいつ持っとらんわ!」

ネリア「持ってル!持ってル!」

伊織「やめとけやめとけ」

ネリア「お、お前、そんなに金見たいんカ?」

伊織「見たい」

ネリア「な、なら見せてやる…それっ!ほらっ!ちゃんと金百両って書いてあったやろ!」

伊織「…お前出すよりも仕舞う方が早いなあ…その金、おもちゃの夷小判やろ!ああ、それなら見せられんわなあ」

ネリア「ほ、本物ヤ!」

伊織「そこまで言うなら…封切って見せてもらおうか」

ネリア「そ、それは…」

伊織「なんや出来んのか?ほんなら私から封切って見せてやるわ…おい見てみいな。小判というものはええ色してるなあ。これがほんまの山吹色!チンチロリ~ン!…大和の金もこんな色してまっか?」

ネリア「か…金っちゅうのは…見せびらかすために…持ってるんじゃないワイ…」

伊織「私かてそんなの百も承知や。でもな私がこうやって見せてんのや。何でお前見せられへんねん」

ネリア「う…うう…本物ヤ!見てみい本物やないか!!」

伊織「もっとちゃんと見せんかい!!ちゃんと見せられへんってことはおもちゃってことやなあ」

ネリア「本物ヤ!!」

伊織「忠兵衛!みっともないことしいなや!!!このど甲斐性無しが!!!」

ビリッ!

ネリア「はぁ…はぁ…あっ!?…あ…ああ…こ、公金の…封が…うう…ああああああああああああああ!!!見せてやる!!!見せてやる見せてやる!!!五十両!!!百両!!!」

伊織「え!?」

ネリア「ア、アタシだって…アタシだって持ってんのヤ!!!…よう、よう見とけヨ!!!百!!!五十!!!二百両!!!」

伊織「なあ!?」

ネリア「まだ…まだまだあるワイ!!!…それ三百両!!!八右衛門、どどど、どんなもんジャイ!!!」

伊織「……偉いもんや……それでこそ亀屋の若旦那、恐れ入りました…けれどもな忠兵衛、こりゃ友達のよしみじゃによって言うといたるがな…この金、お前の金なら良いがひょっとして味な金なら…この首!!」

ネリア「ひっ!」

伊織「…胴に付いてはいぬぞよ…ふふふ…」

ネリア「な…何を…けったいなことせんといテ…ほっといテ…」

伊織「おお怖…急に寒気がしてきたわ…もう去なしてもらいまっさ…おっと、手拭い落としちゃった…さあて、どなたもおおきに、おやかましさん……さっき手拭いと一緒に拾ったこの金包みの紙…あっ!?、やっぱりあいつ、公金を…早く役所へ!」

ネリア「治右衛門サン!こ、これが梅川の身請け金二百両デス!受け取ってくだサイ!」

尾崎「これはありがとうござります!では私は身請けの支度をしてまいりますのでこれで…忠兵衛殿、梅川をよろしくお願いいたします」

ネリア「ハ、ハイ!」

涼「忠さん、さあ奥で祝いの宴でもいたしましょう!」

ネリア「ああ、いや…八右衛門の手前、梅川を早う連れて行きたい…門出はまだデスか?」

涼「ああ、そうでした。身請けが済んでも月行事から札を取ってこないと外に出られませんから…では一走り行ってまいります」

ネリア「よろしゅうお頼み申しマス…」

涼「留守を頼みましたよ」

ネリア「二人で留守番しておりマス…」

絵理「忠さん…」

ネリア「梅川!今の内に!今の内に!」

絵理「ちゅ、忠さん!?…どうしたの?なんでそんなに急かすの?…わたしに訳を話して…」

ネリア「梅川…今の金は…お屋敷へ届ける公金…その封を切ったということが知れたら、アタシの首は胴には付いていナイ…」

絵理「え!?…そんな…そんな…」

ネリア「梅川…一緒に…一緒に死んでくだサイ!アタシと、アタシと一緒に…」

絵理「忠さん……どこまででも、あなたについていきます…一緒に死にましょう…でも、せめて三日だけでいいから、夫婦になって…死にたい…」

ネリア「梅川…梅川…あああああ!梅川!ごめんなサイ…ごめんなサイ…」

絵理「忠さん…良いの…わたし今、幸せ…」

涼「忠さん!外に出る許可が出ましたよ。これが西口の札です」

ネリア「そうデスか…梅川、先に西口へ行ってて下さい…アタシはあとから行くから…」

絵理「はい…」

愛「梅川さん!!!おめでとうございます!!!…なんで泣いてるんですか?あっ、嬉し涙ですね!!!」

絵理「嬉しいやら…悲しいやら…夢のよう…忠さん、西口で…待ってる…」

愛「では行きましょー!!!」

ネリア「…おさんサン、これは少ないけど皆さんへの祝儀デス」

涼「こ、これはありがとうございます」

ネリア「治右衛門さんにもよろしゅう…」

涼「はい、わかりました」

ネリア「おさんサン…さようなら…」

涼「またお出でなさってくださいね」

ネリア「近日中には…さようなら…さようなら!!」

『恋飛脚大和往来』<封印切> 終幕

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<新口村>(にのくちむら)

あらすじ:ここは雪の降り頻る大和国新口村。公金の封を切るという大罪を犯した亀屋忠兵衛は、実父孫右衛門にひと目逢いたいと、梅川を伴ってやってくる

出演

亀屋忠兵衛:サイネリア
傾城梅川:水谷絵理

忠三郎女房 おかく:桜井夢子

父親 孫右衛門:三浦あずさ

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絵理「忠さん…寒い…」

ネリア「梅川…アタシのせいでこんな辛い思いをさせてしまって…」

絵理「忠さん…それ以上言わないで…」

ネリア「……ここはアタシの生まれ故郷、新口村。もう少し行けば、実家まで行けるケド…罪人であるアタシが逢えるわけもない…この先の家はアタシの家の小作人、忠三郎の家デス。休ませてくれるように頼んでみましょう……忠三郎、居ますか?」

夢子「はい、どなたでござんす?忠三郎なら今出掛けて…申し遅れましたが、私は最近ここへ嫁いできたばかりで、旦那の知り合いなどはあまり知らないのですが…もしやあなた様方は大阪のお人じゃありませんか?親方の孫右衛門様の息子殿も、大阪へ養子に行ってけんせん…?だかなんだかってのを買うのに人の金を盗んで代官所からキツ~イ御詮議を受けてるんですってね!それでこちとら大騒ぎ!もう迷惑極まりないわねもう!」

ネリア「……アタシ達は近くの寺にお参りに大阪から来たんデス…それで久しぶりに旧知の仲の忠三郎殿に逢いに来たんでデスよ…大阪の人と言わずに呼んで来てくれませんか?その盗人と間違えられると面倒だから…」

夢子「まあお安い御用だけど…じゃあ早速行ってくるわね。戻るまで中でゆっくりしてって」

絵理「はい…ありがとうございます…」

夢子「一走り行って来ましょうか!」

絵理「忠さん…大丈夫なの…?」

ネリア「忠三は信頼できる男デス…それに、死ぬにしても生まれ故郷で死ねるなら本望デス…」

絵理「わたしも…忠さんの故郷で死ねるなら…」

ネリア「!…梅川、人が来た。一先ず家の中へ…」

絵理「あの人…」

ネリア「あ、あれはお父サン!!」

絵理「あの人が孫右衛門様…お義父様…」

ネリア「お父サン…」

あずさ「……ああっ!…うう…鼻緒が…」

ネリア「お、お父さん!」

絵理「わたしが…!」

ネリア「う、梅川!」

絵理「大丈夫…ですか…?」

あずさ「あなたは…どなたか知りませんが、忝い。おかげで怪我もありません」

絵理「良かった…鼻緒もわたしが…挿げ替えます…」

あずさ「お優しい人だ…でも、ここらでは見かけぬ女中…あなたは一体…」

絵理「わ、わたしは…」

あずさ「……もしや、梅川さんでは?」

絵理「!…は、はい…」

あずさ「あなたが…私が忠兵衛の父であるから助けてくれたのね。それについては礼を言いますが……私は腹が立って仕方がないのだ!」

絵理「え…」

あずさ「大阪へ養子に出した息子が盗人になって追われる身になり、縁を切って良かったなと言われるのが悲しい…褒められるのが悲しくてならない!それも全て嫁のせい…愚痴になってしまったわ…御免ね…それに養い親の妙閑殿が一昨日牢に入れられた…一日も早く妙閑殿を牢から出すのが孝行…覚悟を決めて早く名乗り出て…うう…」

絵理「お義父様…」

あずさ「実の息子に、早く死ねというのが…浮世の義理か…でも、でも…息子はかわいいもの…死なせたくはない…」

絵理「お義父様…」

あずさ「これは京の御本寺様へ上げようと思っていた金。息子の嫁だから上げるのではない…さっきのお礼よ…これを路銀に、少しでも遠いところへ行って…」

絵理「全ては…わたしのせい…わたしのせいで忠さんは罪人になってしまった…全てわたしの責任…どうか、許して…許して下さりませ…せめて最後にひと目、忠さんに逢ってやってください」

あずさ「やめて、そんなこと出来ない!忠兵衛を見たら私の手で縄を掛けないと、養い親の妙閑殿へ義理が立たない!でも…それだけはしたくない!!」

絵理「それなら…目隠しをして触れるだけなら…」

あずさ「忝い…手先だけでも触れれば本望です…」

ネリア「お父サン!!お父サン!!」

あずさ「忠兵衛!!忠兵衛!!」

絵理「目隠しは、必要ない…」

あずさ「ああ、忠兵衛!!忠兵衛!!うう…ああああ!」

ネリア「お父サン…あああああああああ!!!」

ドンドンドン!!!

あずさ「あの音は、捕手の太鼓の音…この裏道を行きなさい。さあ早く!」

絵理「ハイ…忠さん…!」

ネリア「お父サン…」

あずさ「早く!」

ネリア「さようなら…お父サン…」

絵理「さようなら…お義父様…」

あずさ「忠兵衛…忠兵衛…忠兵衛ー!!!」

『恋飛脚大和往来』<新口村> 終幕