前作:音の無い日常で



夜空を見上げると、いつも音が聴こえてくる。キンキンキン……キンキンキン……星が奏でる金切り声。夜空の波に流されて、星はいつも歌ってる。耳が聞こえない私に音を届けてくれる。何も考えずにボーッと星を眺めるだけ、そんな夜を過ごす日々。

頭に響く星の音。自分の歌声も765プロのみんなの声もこれっぽっちも聞こえてこないくせに。あの日、耳が聞こえなくなって以来私はボーッとする事が増えた。勿論、アイドルとしての仕事も休ませてもらっている。


『春香?』


あっ、千早ちゃん。千早ちゃんはいつも私の側に居てくれる。メモ帳片手に笑顔で側に。あの日聞こえた音、ドクドクドク……ドクドクドク……千早ちゃんの音。私に教えてくれた音、星とは違う重低音。


『また星を見ているの?』

「…………」


千早ちゃんは私の方を見ると小さく微笑んだ。私も小さく微笑んだ。また夜空を見上げると星の音が聴こえてくる。点と小さく輝く星。千早ちゃんには聴こえてない、私だけに聴こえる音。


「…………」

『それは春香が決める事じゃないかしら?』


今の私が事務所にいる理由。正直言ってなにもない。答えなんて一つもない。社長はゆっくり休んでいいよと。でも、休んだ所で耳が治るわけじゃない。それだったら、今やめても問題はないんじゃないかな?


『でも春香はアイドルをして色んな人に元気をあげたいんでしょ?』

「……」

『だったら一緒に治していこう。歌が歌えなくなったあの時の私を治すように』

「千早……ちゃん……!」

「いつもみたいに元気な春香を見ていたいから……」

「………? …………!」


少しだけの間だった。小さくて今にでも消えそうな声だったけど、自分の声も千早ちゃんの声も。すぐに音は無くなって、またさっきと同じ星の音だけが私の耳に届いていた。

元気な私を見たい……そっか。千早ちゃんはそう思ってくれてるんだ。歌えなくなったあの時の千早ちゃん、私はずっと待っていた。きっとそれと一緒なんだ。

何もしないうちから諦めて、私はダメだなぁ。治ると信じて頑張ってみよう。千早ちゃんはまた笑顔を作ると私も笑顔を作ってみせた。星の音が聴こえる夜空、千早ちゃんと二人、見つめていた。


END