10年後m@s





《 X day - 180 days 》記者会見場


律子「――――竜宮小町、やります!」


 10年前、伝説の「タイフーンライブ」から始まった765プロの快進撃。
 そのブースターを努めたのは、言うまでもなく「竜宮小町」でした。
 水瀬伊織、三浦あずさ、双海亜美のトリオユニットを率いたのは、
 その後「名伯楽」の名を欲しいままにするプロデューサー、秋月律子。

 7年前に惜しまれつつ解散し、それぞれの道を歩き始めた「竜宮小町」。
 5年前に独立し、アイドル事務所「スタジオ・オータムーン」を立ち上げた
 秋月律子と、765プロダクション会長・高木順二朗両名による合同記者会見の
 席上で明らかになったのは、仰天の「再結成」プロジェクトでした。


…… ※ ……


――――結成から10年。今また「再結成」に至った経緯は。

律子「解散から10年でも良いかなとは思ったんですけど、何となくですね。
   やれるうちにやっとこうよ、みたいな思い付きと言いますか」

――――「やれるうち」と言うのは?

律子「高木会長の元気なうちにとか、あずささんが踊れるうちにとかね(笑)
   まぁそれは冗談ですけど、将来また集まれるかな、って考えた時に、
   できないかもしれないと思ったんですね。100%できないんじゃなくて
   『かもしれない』って言う。今ならまだ『やれそう』って思ったんで」

――――秋月さんは既にプロデューサーとして多くの実績もある。

律子「おかげさまでやっていけてますけど(笑)
   やっぱり『竜宮』には、ほんとうにいろんなことを勉強させて貰って、
   今思うと拙いことばっかりなんですけど、あの個性の塊みたいな連中が
   よくついてきてくれたなぁ、って思うとね。感慨は一入ですよ(笑)」

――――かつてピンチヒッターとして舞台にも立った。今回も?

律子「代打の件はもうなんか、うまいことハメられた感がしますが。
   さすがにプレイングマネージャーは無理ですね、体力的に(笑)
   その代わり、再結成して大人になった『竜宮小町』を存分に見て欲しい。
   そのための再結成ライブですから、プロデュースに徹したいかな、と」


…… ※ ……


 竜宮小町「復活ライブ」のニュースは、瞬く間に全国を駆け巡りました。
 しかしこの時より既に3ヶ月前から、「竜宮小町・再結成プロジェクト」は
 極秘裏に進められていたのです。

 結成から10年、解散から7年の月日を経て甦る伝説のユニット「竜宮小町」。
 私たちは9ヶ月に及ぶ、メンバーへの密着取材を敢行しました。



       ―――― BACK STAGE OF "Ryugu Komachi" ――――

             再び舞い踊る乙姫たちの270日


ナレーション:天海春香


…… ※ ……


《 X day - 270 days 》都内レッスンスタジオ・ロビー


 「竜宮小町」のリスタートは、都内にあるレッスンスタジオから。
 このスタジオは、かつての現役時代から練習場として使われた馴染みの場所。
 私も幾度となく通い詰めた、懐かしいスタジオです。


あずさ「おはようございます~、よろしくお願い致します~」


 最初にスタジオに現れたのは、あずささん。


スタッフ「おはようございます。迷われませんでした?」

あずさ「違うスタジオだったら、危なかったかもしれませんけど……」

 (一同笑)

あずさ「ここはもう、何度も通った場所ですからね。目を瞑っても来れますよ」


 「竜宮」解散後もドラマや映画に出演していた、三浦あずささん。
 5年前に結婚・引退の際の、涙の記者会見。未だに忘れられません。
 そんなあずささんも、今や1児のママさん。歳月は経過して環境は変わっても、
 あずささんはいつまでもあずささん。おっとりした大人の雰囲気は、寧ろ年相応?


…… ※ ……


――――実に5年ぶりのライブステージ。

あずさ「ねぇ、もうすごい昔みたいな気がしますよねぇ……。
    最初に律子さんからお話が有った時は、正直どうしようかと思いまして。
    答えはやるかやらないかの、どちらかでしかないんですけど。
    心の中では『やりたいけどできなそう』って言う不安が強くって」

――――それでも「やる」方向に舵を切った。

あずさ「やっぱり、今やらないともうできないかもしれない、って言うか……。
    律子さんにもそう言われて、ああそうよね、あと3年したらもう動けない
    かもしれないわね、とかいろいろすっごい考えちゃって。
    再結成って言っても、昔みたいにそれでまた長いことツアーで回るとか、
    そういうわけではないですからね。だったらやってみようかしら、と」

――――結婚して引退。その後の心境の変化は。

あずさ「そうですね、私一人落ち着いてしまったと言う感じでしょうか……。
    伊織ちゃんも亜美ちゃんも現役で、私一人だけ引退選手で(笑)
    大丈夫かしら、とは思いましたけど。
    再結成できる、って言うのも解散したユニットの特権ですし、子供にも
    『ママは昔アイドルだったのよ』って胸張って言えますしね(笑)」


…… ※ ……


伊織「おはよーございまーす」


 高級ブランドのサングラスがおしゃれな、水瀬伊織さん。
 生まれも育ちもお嬢様のセレブタレントとして、また現在は個人事務所社長、
 アパレル業界への進出など、多彩な活躍でお馴染みの彼女、これでもまだ25歳。
 この風格は、いったいどこから来るのかしら。ねぇ、伊織?


スタッフ「三浦さん、先に入られてます」

伊織「あずさ!? 来れたの!? ……まぁ昔は、イヤになるほど来たしね」

 (一同笑)


 業界では有名なあずささんの「方向音痴」は、今でも伊織の心配のタネ?


…… ※ ……


――――7年ぶりの再結成。

伊織「本当のことを言うと、最初再結成って反対したのよね。
   別にメンバーの誰かが嫌いとか、律子が嫌いとか、そういうのはなかったし、
   それはもう、わだかまりの一欠片もない状態で『竜宮小町』は発展解消した。
   そう言う気持ちが強かったから、綺麗なままで、取って置きたかったのね」

――――結局は同意されたわけだが。

伊織「いつだったかしらね、別の仕事でたまたま律子と会ったのね。
   そしたら、なんかもう知らないうちにパタパタと手筈を付けたって聞いて、
   ああもうこれは逃げられないわね(笑)、って言う気分にね」

――――今やタレント兼社長兼プロデューサー。多忙を極める毎日。

伊織「暇は性に合ってないから全然困ってないんだけど、その上にコレなのよね。
   まぁでも『やる』って言っちゃった以上は、もう引込み付かないじゃない?
   『伊織のせいで、再結成話が潰れた』なんて言われるのは、ゴメンだもの。
   とは言え、そこまで用意周到に外堀埋めてたのは律子なんだけどね……」

――――どんな舞台にしたいか。

伊織「そりゃまぁ、7年前と寸分違わずね。むしろ越えたいくらいよ。
   7年前にはできなかったことが、今ならできるかもしれないじゃない?
   その代わり7年前にできたことが、できなくなってるでしょうけど(笑)」


…… ※ ……


亜美「おっはよーざーっす、よろしくおねっしゃーっす」

 (一同笑)


 現役アイドルの余裕? かるーい挨拶で入ってきたのは、双海亜美さん。
 機転の効いた軽妙なトークでバラエティに引っ張りだこの彼女ですが、
 他にもドラマに歌に活躍中。最近はアニメの声優にもチャレンジしました。
 今やアイドル界では大御所の一人でも、「竜宮小町」では最年少。


亜美「うぁーだるっ、めっちゃだるっ。こんなんで踊れんのかな」

スタッフ「いやぁ、双海さんなら大丈夫ですよ」

亜美「なんだぁ? そのヨイショは秋月律子の差金かぁ?」

 (一同笑)


 うーん、何という減らず口! これぞ亜美。大人になっても表裏のない子です。


…… ※ ……


――――『竜宮小町』メンバーで唯一の現役アイドル。意気込みは。

亜美「もちろん、成功させたいよね。双海亜美にとっての『原点』だから。
   あずさお姉ちゃんもいおりんも、ちょっと渋ってたみたいだけど(笑)
   りっちゃんから話聴いたときはもう、即答したしね。『やる!』って」

――――今やアイドル界の重鎮の『原点回帰』。

亜美「そんなに偉かないよ(笑)でも、やっぱ今でも『竜宮』を見てアイドルに
   なろうと思ってた、って言う子もたまにいるしね。
   それはそれでうれしいんだけど、亜美も年取ったなぁ、とか思ったりね。
   あずさお姉ちゃんに聞かれたら、ぶん殴られるかもしんないけどさ(笑)
   『竜宮』に戻れば、亜美が一番ガキんちょに戻れるじゃない?
   そういう点では、すごく気楽。ヘンに息まずに、ライブに臨みたいかな」

――――やはりリーダーは水瀬さん?

亜美「他に誰がやるって言うのさ?(笑)
   何年経とうが『竜宮小町』のリーダーは、いおりんだよ」


…… ※ ……


律子「いらっしゃーい。いやー、お三方ともジャージがよくお似合いで~」

伊織「うっわ。律子めっちゃニコニコしてんだけど……」

亜美「あの、律子さん? 初日なんですから、ゆっくり入りましょ~」

あずさ「……なんで私の真似したのかしら?」

  (律子・伊織:笑)

亜美「いやー、説得力あるかなーと思って」

伊織「とりあえず一言言っとくわ。似てないから」

律子「昔のほうが似てたのになー、あー、亜美さん腕が落ちましたねー」

亜美「なんでモノマネのダメ出しされてんの!? 指摘そこ!?」

律子「はいはい、まぁ何から行く?」

伊織「ラジオ体操でもする? 準備運動で」

  (一同笑)


 こうして初日のレッスンは、まさかの「ラジオ体操」からスタート。
 4人が一堂に会するのは、解散以来初めてだったとか。
 とてもそうは見えない、和気藹々とした雰囲気です。
 ……これがベテランの味?


律子「んじゃあ、身体もほぐれたところで、本題に入りましょうかね、と」

亜美「なにからやる? スモーキー? 七彩?」

あずさ「ファーストバイト辺りにしない?」

伊織「律子せんせぇー、三浦さんが地味にセンター主張してまーす」

あずさ「いえ、あの、そんなつもりではなくって……」

律子「ふふっ、わかってますよ。いきなりは自信がないんですよね?」

あずさ「って言うか、細かいところ忘れてるかもしれなくて……」

律子「まぁでも、一先ずスモーキーから入りましょう。できなくていいですから」

亜美「うーん。さすが鬼軍曹」

律子「誰が鬼軍曹よ」

亜美「こないだオータムーンの新人泣いてたよ、社長は鬼畜眼鏡だって」

律子「それ、アンタが泣かせたんじゃないの?」

  (伊織、あずさ:笑)

律子「はい、それじゃあ各自位置についてちょうだい。
   アタマ8拍ドンカマ鳴るから、ラス1食い気味に合わせて行くわよ!」

亜美「おー、ドンカマ有るだけ昔よりマシだぁ」

  (一同笑)


…… ※ ……


――――練習とは言え、7年ぶりに『竜宮小町』のセンターから見た景色は。

伊織「なんて言うのかしらね、もっとこう、うわーってこみ上げてくるものが
   有るかもとか、ちょっと期待してたのよね。全然なかったけど(笑)

   やっぱり『竜宮小町』としての3年間って言うのは、その10年って言う
   タイムスケールの中で見たら、もうすごく短くなりつつあるんだけど、
   そこが基礎になっていたんだな、と言う感じよね。
   なんか特別なことじゃなくて、音が鳴り始めれば自然に身体は動くし、
   うろ覚えだった気がする歌詞もつるつる出てくるし、なんだ私やっぱり
   まだイケるじゃない、って思ったわね。一瞬だけね(笑)」

――――かつての日常が帰って来た。

伊織「そうね。その表現が一番正鵠を射ている気がするわ。
   ただ違うのは、毎日これが続くわけじゃない、って言うことだけね(笑)」


…… ※ ……


――――やはりひとたびレッスン場に入れば、秋月Pは「鬼軍曹」?

亜美「まぁ、確かに茶化してそう言ったけどさ(笑)

   なんだろうね、優しくなったんじゃない? これから売り出すアイドルとは
   ワケが違うからね、亜美たちの場合。今々の時点でギリギリまで限界性能を
   引き出さなきゃいけないワケじゃないし、りっちゃんにしたって亜美たちに
   したって、どっかお互いやっぱ、さぐりさぐりになっちゃうんだよね。

   昔はそうじゃないからね。りっちゃんのアタマの中にある像を、きっちり
   指先一つブレずに再現するって言う、結構大きな目標が有って、それが
   有ったからりっちゃんも厳しかったわけだし、それは亜美たちをしごいて
   イジメたいってことじゃないしさ(笑)」

――――まだ理想実現へ向けてのレッスンと言う感じではない?

亜美「そうだね、そう言ったほうが正しいかも。
   こっから先だよ、『鬼軍曹』が本気出してくるのは(笑)」


…… ※ ……


――――久々のレッスン。率直な感想は。

あずさ「疲れましたね……(笑)ただ、思ったよりは動けたかしら、とは思います。

    それこそ昔から、どうしてもみんなより遅れてしまうところが有って、
    その辺は解散した頃よりもひどくなってて(笑)、律子さんも大丈夫かと
    不安になったんじゃないかしら。

    でも、なんかこう楽しくなってきちゃったんですよね、途中から」

――――昔を思い出したから?

あずさ「それもあるかもしれませんけど、もっとシンプルに、歌って踊ってって言う
    それだけで楽しいんですね。今でもときどきカラオケ行ったりしますけど、
    もっとそういう体験よりもこう、純粋に楽しいんです。

    現役の頃はそれこそ、いつまでに覚えていつまでに仕上げて、すべて完璧に
    できあがってなくちゃいけない、って言う使命感も有りましたから、楽しい
    とか言ってられないんですね。でも、そういう積み重ねがあるからちゃんと
    ステージでできるし、決まったときはそれはもう、飛び上がりたくなるほど
    うれしいんですよね。でも今は、もう一度あのときのうれしさに出会えると
    思うと、レッスン自体がもう楽しくて(笑)」


…… ※ ……


――――初日からいきなりの合同練習。

律子「準備期間は有りますけど、全部をまるまる使えるわけじゃないんですよね。
   伊織や亜美は別の仕事もありますし、あずささんはお子さんがまだ小さいし。
   当然私も仕事は有るわけですから、みんなのスケジュールを縫うようにして、
   こなして行かなきゃいけない。

   そう考えたとき、じゃあ最初にすることはなんだろうって思ったら、やっぱり
   みんなが顔合わせして、昔みたいにやってみようよ、って言うところから入る
   しかなかったんですよね」

――――プロデューサー目線からみた、7年ぶりの「竜宮小町」は?

律子「最初からSMOKY THRILLで入ったんですけど、こう3人が、最初の入りの構えを
   取ってるの見てちょっとキましたね。10年前がオーバーラップしそうになって。
   あー、変わってない! 見た目老けたけど変わってない、って(笑)

   やっぱり私が一番彼女たちのファンなんだと思うんですよ。この3人なら絶対
   セールスになるって言う野心も当初は有りましたけど、それをもう乗り越えて
   ただのファンだった自分に気が付きましたね(笑)」

――――様々な課題も見えてきた。

律子「見えてきたどころじゃない、課題だらけですよ(笑)でも、それで良いと。
   そもそも全部が全部7年前、解散当時と同じにはできないことは、当然私も
   みんなもそう理解しているわけですしね。何が問題って体力ですよ体力(笑)」


…… ※ ……


《 X day - 252 days 》都内某所


 そう、問題は3時間のライブをこなすための、体力作り。


スタッフ「おはようございます」

あずさ「おはようございまーす。こんな朝早くからお疲れ様です(笑)」


 Tシャツにハーフパンツ、カジュアルなキャップ姿で現れた、あずささん。
 愛犬のお散歩のついでに、ジョギングで体作りに努めていました。
 もちろん今日は、スタッフも一緒に走ります! ……大丈夫?


スタッフ「どちらまで行かれるんですか?」

あずさ「この子(犬)に訊いてくださ~い」


 ……大丈夫?


…… ※ ……


《 X day - 252 days 》都内公園


 ワンちゃんに連れられて辿り着いたのは、大きな自然公園。
 あずささんは割とけろっとしていますが、スタッフは……?


カメラマン「あ゛ー……げぇ出そう……」

 (一同笑)


 体力作り、したほうが良いんじゃない?


…… ※ ……


――――毎朝走っている?

あずさ「そうですね、主人と子供が起きる前に朝ご飯の用意をして、着替えて。
    この間のレッスンからずっと、朝と夕方に走ってます」

――――現役時代にもこうして体力づくりを?

あずさ「んー、特にしてませんでしたねぇ……若い頃は(笑)
    むしろ日々のレッスンそのものが、体力作りの場でも有りましたし。
    『竜宮小町』として出る前も出た後も、スケジュールの合間を縫うように
    レッスンが入ってて、特にライブ前ともなれば特訓みたいでしたから」

――――その頃に比べれば。

あずさ「自分で体作っていかなくちゃいけないんで、やっぱりこれかしら、と。
    道具も要らないですし、毎日少しずつ速くなったり距離が伸びたりして、
    実感できるんですよ。

    あと、運動のあとのご飯って、美味しいですよね(笑)」


…… ※ ……


《 X day - 248 days 》FM局サテライトスタジオ


亜美「――――はーい、と言うことで今週はここまで。
   来週もこの時間にサテライトスタジオからON AIRなのでよろしくねーぃ!
   来週のお題は『トイレで見掛けた、こんなアミーゴ』。みんなからの熱い
   アミーゴ・アミーガ発見報告、お待ちしちゃってるかんね!
   それでは今週の " Hallo, Amigo " この辺で、! Hasta luego !」

ディレクター「……はい、OKです! お疲れ様でした!」

亜美「あーい、お疲れー。どもどもー。観覧者の皆さんもお疲れー!」


 歩行者天国に面したサテライトスタジオから、2時間の生番組。
 " Hallo, Amigo " とは、スペイン語で「友達発見」の意味。
 「竜宮小町」結成中に初めて持った冠番組は、もう9年目を迎えました。


…… ※ ……


――――初練習以降、何か変わったことは?

亜美「変わったこと? うーん……なんか有ったっけ……(笑)
   ジムに行く回数を増やしたくらいかな。ランニングマシン乗ったりとか、
   プールで泳いだりとかね。その辺は割と、意識的にやってるつもり。

   あと家で昔のライブとか見て、振りの再確認とかしてたんだけど、
   夜中にドタバタうるさい、って家族に怒られたんで、やめちった(笑)
   まだほら、いくら肉親でも言えないじゃん。プレス打ったわけじゃないし、
   あずさお姉ちゃんだって、マネージメントどこがやるのか決まってないし。
   オトナのジジョーってヤツだよね(笑)」

――――" Hallo, Amigo " はもう9年目。

亜美「最初はね、自分一人の番組だー、って思って、すっごい嬉しかった。
   だいたいいつも3人で一緒だったから、物珍しいって言うか。
   でも、番組で『竜宮』解散するんだ、って言ったときはツラかったなー。
   あれ多分、唯一じゃないかな。亜美があの番組で泣いたの」

――――もっと続けたかった?

亜美「んー……いや、どっかのタイミングで解散はするんだろう、ってのはね。
   それは思ってたよ。亜美だけじゃなくて、いおりんもあずさお姉ちゃんも。
   " Hallo, Amigo " 始めたのも、正直『解散後』を睨んでたわけだしね。
   今にして思えば良い時に解散したのかな、って思うけど、あの頃はちょっと
   すぐには受け入れ難い事実だった、って言うのは有ったよ。なんか道半ばで
   やめちゃうみたいで悔しかったし、番組でもそんなこと言った気がする。

   みんなで……って言うのは、りっちゃん含めて4人で『竜宮小町』だから、
   ずっと続けていられるとは思わなかったし、それぞれが新しい世界に向かって
   飛び込むためには、解散はあの時が最善だったんだろうね。

   ただやっぱり、あの頃にはまだできなかったこと、みたいなのがあるよね。
   忘れ物しちゃった、みたいな」


…… ※ ……


マネージャ「双海さん、そろそろ……」

亜美「おっと。次どこだっけ、さくらテレビ?」

スタッフ「それじゃ双海さん、がんばってください」

亜美「おー! がんばれよ、竜宮密着取材チーム!」

  (一同笑)


 こうして亜美は次の現場へ。
 その背中には「竜宮小町」復活への見えない闘志を感じました。


…… ※ ……


《 X day - 231 days 》都内レッスンスタジオ


 約1ヶ月ぶりの再集合なのですが……。


スタッフ「今日、秋月さんは?」

伊織「律子は、今度デビューする新人のレコーディングで忙しいのよ。
   だから今回は、リーダーの私がメンバーを自主的に召集したわ!」

亜美「ちょいとちょいと、亜美だって忙しいところこじ開けて来てんだからね?」

  (一同笑)

あずさ「でもすごいわね。3人で自主練習だなんて、現役時代にもなかったわ~」

伊織「あんだけ律子がべったり貼り付いてりゃ、自主練習なんてする気にならないわ」

亜美「全くだね。むしろ少しでも早くレッスンから抜け出したかったよ」

伊織「……ちょっと待って。これ録ってんのよね?」

亜美「やべっ。今んとこコレして、コレ」(両手でハサミを作りながら)

  (一同笑)


 律子さん抜きの、3人による「自主練習」。
 「竜宮小町」再結成へ向けての意気込みは、こんなところでも現れていました。


…… ※ ……


――――異例の「自主練習」。

伊織「異例ってわけでもないわね。少なくともプレス発表が有るまでは、
   どっかで集まって確認しましょ、って言う話はしていたから。
   でもまぁ、昔のことを考えたら異例も異例ね。律子倒れたのかと思うくらい。

   さっきも言ったけど、昔は律子にしてみればほぼ私たちだけ見てたわけよ。
   だから自主的に練習しなきゃ、なんて言ってる余裕もなかったし、
   その余裕自体が起こり得ない現象だったわけ。あの頃のスケジュールなんて
   思い出すだけでも熱が出るくらい、べったり練習漬けだったもの」

――――水瀬さんは初練習からここまで、何か新しいことをしていた?

伊織「待ち時間にぼーっとしてんのやめたわね。楽屋でもなるべく運動したりね。
   やっぱりダンスは足腰のバネが弱いとキマんないのよ。それはもう、初練習で
   鏡見ながら思ったしね、『うわ、私できてない!』って。
   だからなるべく、こう楽屋でスクワットしたりね。本番前なのに(笑)」

――――水瀬さんをして、そこまでしなければいけない気になっている。

伊織「そうね。自分でもときどき、なんでそこまで肩入れしてんのかと思うけど、
   これが仮に私一人の、すごく個人的な何かだったらそこまでしてないわね。
   亜美だってああやって減らず口聞くけど、たぶん一番乗り気なのは亜美で、
   私が一番まだ、あやふやに乗っかってるんじゃないかしら」


…… ※ ……


伊織「あれ、亜美? 今のステップおかしくなかった?」

亜美「おかしくないって。た・たん・た・たん・たん♪ でしょ?」

伊織「ちっがうわよ! たん・た・たた・たん・たん♪ でしょうが! あずさ!」

あずさ「えっと……たん・たん・たん・たん……」

伊織「全部一緒じゃない!(笑)」

  (亜美:笑)

亜美「姉さん、事件です! 三浦さんが今の今まで踏めてなかったです!」

あずさ「あ、あら~……でも、ほら……こうで、こうで……こう、でしょ?」

伊織「いやいやいや! 何が『こう』で『こう』なのか説明してあずさ!(笑)」

亜美「ちょっとさぁ、亜美といおりんのどっちが正解なのかどうでも良くね?」

  (一同笑)


 ……どうでも良くありません!


…… ※ ……


《 X day - 228 days 》スタジオ・オータムーン社長室


    『伊織「いやいやいや! 何がこうでこうなのか説明してあずさ!(笑)」』

 『亜美「ちょっとさぁ、亜美といおりんのどっちが正解なのかどうでも良くね?」』


律子「……良いわけないでしょうがっ(笑)」


 律子さん。先日の自主練習風景のビデオを見て、ご立腹。
 そりゃあ、そうですよね。


…… ※ ……


――――以前はできていた?

律子「できてましたよ、もちろん(笑)
   ただ、どちらかと言えば顔に近い部分の動きに目が行きやすいですから、
   多少ステップは間違ってても、あんまり目立たないと言えば言えますね。
   あずささんはステップだけならできてても、口で説明しながらとなると、
   途端に覚束なくなるんです。昔から変わってないですね」

――――ちなみに正解は?

律子「たた・たん・た・たん・たん。伊織も亜美も、何となくで踏んでたんですね。
   これは相当鍛えないと、元に戻らないかもしれないわ……」

――――「自主練習」を見て。

律子「私もこの話は実は聞いてなかったんですよね。本当に伊織が自主的に調整を
   してくれて。やっぱり個人練習だけでは、不安だったんでしょうね。
   こんなに楽しそうな練習なんて、そうそうありませんし、何より、みんなが
   今回の再結成をすごく真剣に考えてくれている、と言うことがうれしいです。

   ……出来のレベルは、まぁまだうるさく言いません(笑)」


…… ※ ……


《 X day - 209 days 》スタジオ・オータムーン会議室


 ただ歌って踊るだけが「竜宮小町」のライブではありません。

 来場したファンの皆さんに、心行くまで楽しんでもらえるよう、メンバー全員が
 アイディアを持ち寄ってステージを盛り上げるのも、再結成ライブに向けての、
 とても大事なステップなんです。

 今日はそのための初会合。決定しているライブ会場の図面を見ながら、その場所
 ごとのセットリストや演出について、全員で話し合って決めるのも「竜宮小町」
 ならではのこだわり。


亜美「……で、いったん亜美が下手に逃げるようにハケて、いおりんが追ってきて」

伊織「もう一回下手から出てくるの?」

亜美「舞台下って抜けられない? 奈落吊るんでしょ?」

律子「3mはあるから、(舞台下を)抜けるのはできるわよ」

あずさ「でも間奏終わる前に戻ってくるには……走らないとですよね?」

伊織「基礎が立ってるから、難しいわね。中に電球吊っても危ないわよ」

律子「うーん……3番のバトンから幕吊って、その裏通って上手に回るのは?」

亜美「下りないよ。真下にドラムがいるしね」

伊織「もう少し真ん中に持ってきて、前に迫れないのかしら?」

律子「PA的にクリアになれば行けるけど、舞台監督さんと話してみないとね」

あずさ「じゃあ、下手でハケて下手から出てきてでも良いかしらね……」


 全員の眼差しは、まさしく真剣そのもの。
 ピリピリとした緊張感こそ有りませんが、成功に向けての意気込みが伝わります。


…… ※ ……


――――全員で演出を考えるのは伝統?

あずさ「うーん、最初はそんなことはなかったんですよ。ほとんど律子さん任せで。
    まる1年くらい経ってからかしらね、いつの間にかみんなで会議をして、
    それで決めていく、って言うスタイルになりました。

    何度かステージを経験して、自分たちの中にも『ああすれば良いかも?』
    みたいな考えが浮かぶようになってきて、だんだんそれを律子さんに対して
    投げ掛けてみるようになって。自然発生的にこうなっていったんですよ。
    律子さんが『みんなで考えよう』みたいに、言い出したわけでもなくて」

――――いわば「竜宮」成長の証し?

あずさ「そう思います。自分たちのステージなんだから、まず自分たちが盛り上がる
    仕組みを作り込もう、って言うのが強くなってきたんですよね。それまでは
    全部律子さんにお任せだったから……言い方は良くないですけど、割と、
    『やらされてる』って言う感覚も有ったんですよね。

    だから、ただ『やらされてる』んじゃなくて、自分たちのステージくらいは
    自分たちで作ろう、って言う気持ちにみんなが自然となっていったんです。
    ですから今回も、皆さんに精一杯のおもてなしをしたいと(笑)」


…… ※ ……


――――自主的に始まった会議が、定例化した。

律子「そうなんですよね。昔は全部私一人で考えてて、もう『きーっ』ってなったり
   してたんですけど(笑)、後期はみんなで考えるのが決まりになってました」

――――メンバー全体が、良い感じに臨戦態勢に入っている?

律子「そうですね、なんかもう『再結成』って言うキーワードを時々忘れそうになる
   くらい、昔に戻った気がしますよ。もちろんその頃は会議室なんかじゃなくて
   レッスンスタジオでレッスンして、その休み時間に私が図面持ち出して。
   練習の合間に会議、みたいな詰め込み日程でしたけど(笑)

   昔からやっていたことを、昔やっていた通りにやる、って言うのもそうだけど
   たぶんこれ自体、もう昔と違ってるんですよね。伊織も亜美も今まで一線級で
   やってきて、いろんな舞台に立って、いろんな舞台演出に触れて来てますし、
   そう言った意味では、アイディアと言う面では、私よりもっと豊富ですから。
   だから本来の意味で、『自分たち全員で作る』ライブになりますよ。
   その部分においては7年前さえ超えている。そう確信しています。

   竜宮城は『小町』が解散しても、しっかり時を刻んでいたんですよ」


 熱のこもった打ち合わせは、その日の深夜まで続きました。
 「全員で作る」竜宮小町。その言葉の意味の大きさは、計り知れません。


…… ※ ……


《 X day - 183 days 》都内レッスンスタジオ


 記者発表前としては最後の全体練習。
 ここまで綿密な打ち合わせと、個人練習によるリハビリの積み重ね。
 止まっていた「竜宮小町」の時計の針は、現在へ向かって刻一刻と、
 近付きつつ有りました。


律子「はい、わん・つー・すりー・ふぉー、ふぁい・しっ・せぶん・えいっ!」


 律子さんの手拍子と掛け声に、メンバー三人の靴音がキュッキュッと鳴り響いて、
 それだけでも一つのアンサンブルを奏でています。


律子「亜美、視線正面! 伊織、指先っ! わん・つー・すりー・ふぉー!
   あずささん遅れてる! ふぁい・しっ・せぶん・えいっ!」


 いよいよレッスンは、本番の舞台を見据えて厳しさを増して行きます。
 およそ三ヶ月前、再結成後初めての合同練習の頃に比べると、現場の空気は緊迫感に
 溢れていました。歯を食いしばり汗を散らし『竜宮小町』たちはまだ見ぬステージを
 その視線の向こうに、すでに捉え始めていました。


…… ※ ……


――――まだ本番までは半年近くある。

伊織「『半年しかない』と思うのが正解ね。毎日レッスンしてられるわけじゃないし、
   一回一回のレッスンが、全部本番に結び付いていくことを考えたらね。

   もちろん10年前と同じくらい動けてるとは思わないけど、解散当時と同じじゃ
   ダメなのよ。そう思ってないと、しょっぱい結果になっちゃうじゃない?
   できるかできないかの話じゃなくて、そこを目指さなくちゃダメ。目指しても
   届かないのと、最初から目指さないのは、最終的な結果が絶対違うの。それは
   理屈じゃなくて、ただの経験上からのことでしかないけれど(笑)」

――――以前お話されていた「7年前」を超える自信は?

伊織「もちろん有るわよ。あの頃の小娘にはなかった大人の余裕と技量ってモノを、
   しっかり見て帰って貰わないとね。そもそも私たちは『再結成』した時点で、
   すでに解散当時を乗り越えたと言う自負はあるんだもの。自負だけね(笑)

   みんなとも話しするんだけど、7年前にできたことが今できないってことは
   あると思うのね。もちろんできるように戻して行くために、私たちは何度も
   こうして練習するんだけど、やっぱりできないものはできないのね。だから
   その分『7年前にできなかったこと』ができるようにならなきゃいけない。
   先に引き算をしてから、元より大きくなるように足し算をしていくの。

   そうやって私たちは、解散当時を超えた『竜宮』を見せるってことね」


…… ※ ……


――――いよいよ本気モード突入。

亜美「ね。なんか割りと、ここまではリハビリっぽかったって言うか、言い方悪いと
   思うけど、あんまり切羽詰まってなかったんだよね。主にりっちゃんがね。

   もうすぐプレスリリースするし、やるよ、って言っちゃうワケじゃん?
   そうなったらもう、引込み付かないのわかってるから、亜美たちも自然とさ、
   そろそろマジでやってこうよ、って言う空気になるんだ。自然とね。たぶん、
   りっちゃんはそれを待ってたんじゃないかな。

   亜美たちが、そろそろ本気でやらないとヤバくない? って言う空気出したら
   スイッチ入れてやろうって。ズルいよねぇ、自分から言わないの」

――――それは昔からそうだった?

亜美「昔はそんなのないよ、りっちゃん年がら年中本気だったもん(笑)」


…… ※ ……


《 X day - 181 days 》765プロダクション


 記者会見を前日に控えたこの日。
 律子さんとあずささんは、765プロを訪れていました。


あずさ「ずいぶんと、大きなビルになっちゃいましたね~」

律子「昔がおかしかったんだと思いますけどね。でもなんか立派になっちゃって、
   とは思いますよ。雑居ビルの3階がちょっと懐かしいな、って」

あずさ「昔の事務所って、いまはどうなってるんでしょうね?」

律子「あー、そう言えば知らないですね……」

スタッフ「……今日はなぜ古巣を訪問されたんです?」

律子「ふふふ。これです、これっ! じゃーんっ!
   『三浦あずさ』のタレントマネジメント契約を、取り交わして来ました!
   これであずささんは何しても、ギャラが発生します!!」

あずさ「まぁ……レッスンでも発生するんですか?」

律子「します! させます! 765プロの取っ払いで!」

  (一同笑)


 ……さすがにレッスンでは、ギャラ発生しませんよ?


律子「何はともあれ、これであずささんも半年限りですが業界復帰と言うわけです。
   最初はウチでやらせてほしいと言ったんですけど、やっぱりそこはね」

あずさ「オトナのジジョウと言うことですね~(笑)」

律子「まぁそうでなくとも、765プロからは亜美借りてる状態ですんでね(笑)」


 いやはや。大人の世界っていろいろ難しいですね。


…… ※ ……


《 X day - 180 days 》記者会見場


 迎えた記者会見。最初は、765プロの高木順二朗会長と律子さんだけが登壇。
 カメラマンの皆さんが頻りにフラッシュを焚き、シャッターを押す姿は、
 いつになっても背筋がピンとする、そんな雰囲気の場所です。


律子「――――かねてより弊社、および765プロダクション様と協議を重ねて
   まいりました、あるプロジェクトにつきまして……今回は記者の皆様に、
   ご報告を申し上げたく存じます」


 一方、三人はその頃、会見場の「次の間」に控えていました。


亜美「お、始まったね記者会見」

あずさ「なんかもう、こういう雰囲気が久し振りで、私のほうが緊張するわね~」

伊織「あずさはとりあえずニコニコしてれば良いから、今日は私たちに任せなさい」

亜美「そうそう、泥船に乗ったつもりでね!」

伊織「……またベタなボケを(笑)」


                    律子「――――竜宮小町、やります!」

                             おおおおおおっ!?


亜美「おーい、今のどよめきなんだよー(笑)」

あずさ「皆さんの期待の大きさを、ひしひしと感じるわね~」

伊織「さぁて、それじゃあ行くわよっ!」


律子「――――帰って参りました、竜宮小町の三人ですっ!」

  おおおおおおおっ!! 

伊織「どうもー、皆様お久し振りです~♪」

亜美「やぁやぁ会場の兄ちゃん姉ちゃん! 元気だったかなー?」

あずさ「あら~、フラッシュが眩し過ぎて、何も見えないわね~」

律子「カメラマンの皆様、お気持ちはわかりますが、あずささんはぼちぼち白内障を
   患わんとするお年頃ですので、フラッシュは控え目でお願い致します」

  (会場爆笑)


…… ※ ……


――――7年ぶりの『竜宮小町』としての記者会見。

伊織「控室ではちょっと緊張してたのね。それで律子が『やります!』って言った後、
   すごいどよめいてたじゃない? それ聞いたら、ああ私たちなんかすごいことを
   しようとしてるんじゃないかしら、って思ったのね。それで余計にね(笑)」

――――ツアー日程も明らかになり、いよいよ本格的な『再始動』。

伊織「まぁ、今回はツアーが終わったら終わりでしょ? そう考えたら、割と気楽では
   あるのよね。あとは無事に終われることを祈ってるわ、神様にも仏様にも」


…… ※ ……


――――久し振りのフラッシュはやはり眩しかった?

あずさ「まぁ、何も見えないと言うのは冗談ですけど(笑)なんて言うんですかね、
    一瞬飲まれそうになったんですよね、あの光の海に。この記者会見からある
    意味、本当の再結成が始まると言っても過言ではないと思っていたので、
    何かこう、軽口を言いたくなってしまって(笑)」

――――5年前の引退会見を思い出した?

あずさ「そうですねぇ……思い出さないと言えば、やはりウソになってしまうんだと
    思います。ただ、あのときに引退すると言う決断をしたこと自体は、一つも
    後悔はしてませんし、あの決断が有ったからこそ、逆にいまが有るんじゃな
    いか、と思うんですよね。そう言う意味では、ちょっと帰って来てみました
    みたいな感覚って言うんでしょうか……一時帰郷みたいな(笑)」


…… ※ ……


律子「――――と言うわけで、半年だけですけど、『竜宮小町』復活しますんで、
   是非とも全国のファンの皆様に喜んで、懐かしんでいただけるようなステージを
   頑張って作っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!」

 律子さんの口から改めて刻まれた、『竜宮小町』復活の期限。
 あと半年、再び私たちの前に踊り出た乙姫たちが、舞い踊ります。


…… ※ ……


《 X day - 168 days 》都内レッスンスタジオ


 この日は記者会見後に初めて行われる、合同ダンスレッスン。
 このレッスンに、とても素敵な「先生」がサプライズゲストとして訪れました。


伊織「……あれ。見慣れないヤツがいるわね(笑)」

亜美「うわ……なんであの人、あんなニッコニコしてるんだろうね?(笑)」

真「ちょっと! なにしてんの、早く入ってきてよ! 時間もったいないだろ!?」

伊織「うるさいわね、地獄行きを少しでも先送りしたいだけでしょ!?」

  (一同笑)


 菊地真さん。彼女もまた、「タイフーンライブ世代」の同窓生です。
 現在もタレントとして、またアクション女優としても活動中。
 さらにその傍らで、ダンススタジオを経営しているんです。
 未来のアイドルたちに、時に厳しく、時に優しくダンスレッスンを行っています。


真「おっかしいなぁ、ボクにレッスンをしてくれ、と頼んできたのは伊織じゃないか」

伊織「そんなこと言ってないでしょ!?
   気になるなら来ても良いわよ、って言っただけじゃない!」

真「なにをぉ!?」

伊織「なによぉ!?」

亜美「お二人さん、カメラ回ってますけど?(笑)」

真・伊織「「知ってる」」

  (一同笑)


 うーん、10年前と何も変わってないですねぇ、この2人。


…… ※ ……


――――特別コーチと言うことで。

真「本当は、私が最初に伊織に電話したんですけどね(笑)
  えーっ、『竜宮』復活なの!? なんで教えてくんなかったのさーっ!
  みたいな感じで。記者会見のニュースを見て知ったんで、すごく驚いたんですよ。
  伊織とは仕事でよく会いますし、割と頻繁に連絡も取っていたんで、ちょっとね、
  秘密にされていたことに憤りを覚えた、と言うと語弊がありますけど(笑)」

――――菊地さんから見た『竜宮小町』は。

真「当時はやっぱり、私たちより何歩も先に進んでたイメージが、強かったですよね。
  テレビに出てもメインは彼女らで、私たちはなんだろう、オマケみたいな感じで。
  それこそあの『タイフーンライブ』までは、ずっと彼女たちの背中を追い掛けてた
  ような気がするんです。だからほとんど同期なんだけど、『竜宮』はちょっとだけ
  先輩格って言う感じで、いつかあのポジションまで行ってやるんだ、っていう。

  ただ、やっぱり『竜宮』がポーンとね、勢い良く行ってくれたからこそ、って言う
  ことも多かったと思うんですよ。頑張れば私たちだって、って言う勇気と希望を、
  与えてくれたって言うんですかね」

――――10年前とは、関係性は変化している。

真「そうですね、まるっきり同じではないんだけど、なんですかね、彼女たちと一緒に
  いると、何もかも昔に戻っちゃうんですよね。気持ち的なものがね。もう私は27に
  なってて、当然みんなも10年分歳は取ってるし、亜美なんかすっかりね、貫禄つい
  ちゃってね(笑)

  今日はこう、特別コーチとか言って稽古付けたんですけど、もしかしたらこのまま
  私もステージに立つんじゃないか、そのためのレッスンなんじゃないか、って言う
  あらぬ勘違いをしそうになるくらいで。もう何もかも気持ちだけは10年前から何も
  変わってないんだなぁ、って。つい『ボク』って言っちゃいますしね(笑)」


…… ※ ……


真「わん・つー・すりー・ふぉー! ほらぁ、伊織ぃ! ムーブ雑になってるよ!!
  しっかり目線こっちに向けてぇ! ふぁい・しっ・せぶん・えいっ!!」

伊織「なっ、なんで、私ばっかり、イジメんのよぉっ!!」

真「これはイジメじゃないんだよ、伊織! これはボクの愛のムチだ!!」

伊織「愛のムチだって、愛がっ、こもってなけりゃっ、ただの暴力よっ!」

  (一同笑)

真「はい意識切らさない! ボクの動きちゃんと見て! 目線こっちだよ!
  わん・つー・すりー・ふぉー! ふぁい・しっ・せぶん・えいっ!!」


…… ※ ……


――――うらやましい?

真「うーん……どうだろう。私は特にユニットを組んで活動していたわけじゃないし、
  たぶん『再結成』と言うのはもう、当時の『765 ALLSTARS』なんですよね。そう
  考えると、確かに『再結成』を謳えると言うのは、うらやましいかな」

――――『765 ALLSTARS』再集結の可能性は?

真「少し考えると『竜宮』も含めて13人のスケジュールを合わせるだけでも、それは
  もう目がクラクラするくらいのプロジェクトになるんじゃないかな……もっとも
  誰かが強く『再結成』を望むなら、いつかはできるのかも知れないですけど。

  まだこの業界に残っている人間もいますけど、全員が765プロにいるわけじゃ
  ないですし、ましてや業界を離れている人だっていますし。あずささんみたいに
  復帰できるかどうかは、そのときになってみないとわからないんじゃないかな。

  でも『竜宮』の復活ライブを見たら、もしかしたら考えが変わるかもね(笑)」


…… ※ ……


真「うーん、まだまだ練習量が足りないなぁ……」

律子「あの、真、みんなもう、あの頃のみんなじゃないの。あずささんに至ってはね、
   経産婦さんなの。もうちょっとそこらへん、気を使ってあげて? ね?」

  (一同笑)

真「まぁ、ここから少しずつでも増やしていけば、ライブの成功は間違いないから。
  律子、今後のレッスンスケジュール、共有させてくれないかな?」

伊織「アンタこの地獄の特訓、続けさせる気なの!?」

亜美「りっちゃーん! あずさお姉ちゃん、酸欠の金魚みたいにぱくぱくしてる!!」

伊織「ちょっと取材スタッフ! ぼーっと立ってないで酸素持ってきなさいよ!」

  (一同笑)


 真コーチによる集中ダンスレッスンは、どうやらまだまだ続きそう……。


…… ※ ……


《 X day - 163 days 》都内写真スタジオ


 「竜宮小町」が見せるものは、ダンスばかりではありません。
 三人の息の合ったボーカル、そして何と言っても三者三様に魅せるビジュアル。

 今日はツアーパンフレットに使う、写真撮影の日。
 三人の乙姫が、久し振りにかつての『竜宮小町』の衣装に身を包んで登場です。


カメラマン「双海さん、視線ちょっと上でお願いします」

亜美「こうかい? こんな感じ?」

カメラマン「はい、バッチシっす!」


 最初の撮影は亜美から。
 慣れたものよ、とばかりに次々とカメラマンの注文に答えていきます。


カメラマン「……はい、オールオッケーです! お疲れ様でした!」

亜美「どーもー、お疲れ様でーす」


…… ※ ……


――――思い出の衣装でのパンフ撮影。

亜美「ね、懐かしいよね。こんなん着てたよ、SMOKY THRILLの頃さ。さすがに当時のを
   そのままってわけには行かなかったらしくてね、デザインだけ合わせてリメイク
   した結果なんだけど。これ着ると、ビシッと背筋が伸びるんだよ。不思議とね」

――――これまでの撮影とは何か気持ちが違う?

亜美「あー……それはないかな、別に。あんまりね、『こう言うの撮るぞ!』って言う
   感じじゃないよね。何となく場の空気で、今日はこんな感じかなー、とかね、
   そんな風に決めてるから。今日は確かに『竜宮小町』としては久し振りだしね、
   懐かしい衣装も着てね、って言うのはあるけど、それはそれかなぁ、って。

   これがさ、たぶん三人で集合でってなって、初めてその時になってから、ああ、
   ホントにまた『竜宮』やるんだなぁ、って言う気分にはなるかもね」


…… ※ ……


カメラマン「ちょっと首だけ俯いて、目線だけ正面にください」

伊織「……こう? ちょっとキツい感じじしない?」

律子「良いんじゃない? ソロのショットだし、カッコいい画も欲しいしね」

伊織「そんな画、要るの?(笑)」


 2番目の撮影は、伊織。
 『竜宮小町』デビュー当時の衣装と言えば、伊織の大きな帽子が目を引きました。


カメラマン「はーい、オッケーです! お疲れ様でした!」

伊織「お疲れ様でーす……あー、暑いわこの帽子」

  (一同笑)


…… ※ ……


――――久し振りにこの衣装を着た感想は。

伊織「そうねぇ……やっぱり、ふっと思い出すわよね。10年前を。いま考えたら、
   私たちはなんでそんなに前向きだったんだろう、って言う時代をね(笑)

   もう何もかもが挑戦だったのね、あの頃は。全面的にプロモーションも打って、
   大々的にテレビにも出て、さぁやれることはやったわよ、って言う。なんだけど
   だからと言って、誰も『売れる』とは確信できなかったはずなのよ。普通の感覚
   だったら、不安でしょうがなかったと思うのね。

   そう言うの、無かったのよね。考えれば考えるほど不思議なくらい、不安だとか
   心配だとかそういうの無かったの。絶対私たちはこれでブレイクするんだ、って
   言うエネルギーが有った。それが当時、たぶんこの衣装だった気がするのね」

――――『竜宮小町』の、はじまりの一つ。

伊織「いまでも『竜宮小町』と言えば、この衣装って言う人も多いんじゃないかしら。
   だからこそ私たちはいつだって10年前に戻ることができるし、現在を歩くことも
   できるの。シンボリックなステージ衣装が有るって、幸せよね」


…… ※ ……


あずさ「……こんな感じでしょうか?」

カメラマン「良いですねぇ、ちょっと小首を傾げてみましょうか?」

あずさ「ふふっ、こうですか?」

カメラマン「はーい、良いですよー三浦さーん」


 ソロの撮影、最後はあずささん。
 これまで日課としてきたジョギングで、現役当時のボディラインが見事復活!
 いやぁ……これでママさんとは。お子さんがうらやましい!


律子「……ここだけの話、あのカメラマン、あずささんの大ファンですから(笑)」


 カメラマンさん!? 職権乱用は犯罪ですよ!?


…… ※ ……


――――率直なお気持ちを。

あずさ「なんでしょう、やっぱりちょっと気恥ずかしい感じが半分、本当に私また舞台
    に立つんだなぁ、と言う気持ちが半分でしょうか。もう何年もスタジオで写真
    なんて、撮られてないものですから……はい、緊張しました(笑)」

――――久し振りにこの衣装を着た。

あずさ「そうですねぇ、この頭の上のちょこんとしたお帽子がね、最初の頃は心配で。
    何かの拍子に落ちたりしないかしら、なんて思いながら、おっかなびっくりで
    振りを踊ってたりとか、そんなことも思い出しますね。

    何よりも、ああ、これから『私たち』でがんばって行くんだ、もう一人で悩む
    こともないんだ、って思いましたね。目にするものが全部新鮮で。衣装はそれ
    こそ何着も作っていただきましたけど、この小さいシルクハットと一緒に舞台
    に上がっていた頃のことは、いつだって鮮明なんですよ」


…… ※ ……


伊織「あずさ、もうちょっと中に入りなさいよ」

あずさ「そんなこと言われても……これ以上は反れないのよ」

伊織「半歩下がれば良いでしょ?(笑)」

亜美「亜美ももうちょっと、いおりんにくっついた方がいい?」

伊織「アンタはもうちょっと離れて!(笑)」

カメラマン「良いですねぇ~!」

伊織「アンタなんでいまシャッター切ったの!?」

  (一同笑)

 そして三人揃って、デビュー当時を彷彿とさせるような揃い踏みの撮影。
 これから再結成ライブで舞い踊る乙姫たちの姿を先取りです。

律子「……ふふっ。なんだろう、ホント10年前みたいね」

 律子さんがカメラマンの更に後ろから、じっと三人を見つめていました。


…… ※ ……


――――久々に衣装を着て『竜宮小町』いよいよ復活。

律子「そうですね、なんて言うんだろう、ここまで来てやっと形になってきたって言う
   感じでしょうか。どことなくぎこちなさを感じるところも、結成当時を思い出す
   ような空気で(笑)」

――――あえて少し下がったところから見ていた。

律子「昔はたぶん、そういう余裕なかったと思うんですよね。やっぱり自分でチェック
   しないと気がすまないところはありますし、近くにいて指示を出すのが私の仕事
   みたいなところは有ったので。

   でも今回はそうじゃないんですよね、スタッフに任せてメンバーに任せて、私は
   いまと言う時間をなるべく俯瞰で見ておこう、と言う気持ちが大きかった。心境
   の変化と言うよりは、『竜宮』に対する絶対的な安心感なんだろうな、と。

   だから、ちょっと離れて見てみたかったんです。あの三人をね」

――――律子さんは撮らないんですか。

律子「今回はほんっとに、衣装作ってないですから(笑)」


…… ※ ……


 このあとも、何パターンかのステージ衣装と、カジュアルスタイルでの撮影。
 最初は緊張していたあずささんも、徐々に自然とポーズが決まるようになってきて、
 とても楽しそうに撮影は進行しています。


伊織「……なに、この子わざわざ連れてきたの?(笑)」


 スタイリストさんから伊織に手渡されたのは、うさぎのぬいぐるみ。
 昔は伊織といつも一緒だった、大事なアイテムの一つ。


亜美「おーおー、ずいぶん黄ばんじゃったねぇ。シャルル」

伊織「黄ばんでないわよ、なに言ってんの。それより、このワンピ子供っぽくない?」

亜美「大丈夫だよ、いおりんまだまだ子供っぽいから」

伊織「なんですってぇ!?」

  (一同笑)


 亜美としては、褒めたつもり……なんじゃないかな?


…… ※ ……


――――昔はいつも一緒だった「シャルル」と一緒に撮影。

伊織「そうね、本当にいつも一緒だったわね。いつからだったかしら……ああ、たぶん
   解散した頃からだったわね、シャルルが長いお留守番に入ったのは。

   私、ずっと小さいときから、周りにいるのはほとんど使用人でね。家族と一緒に
   なんて言うことがなくて。だからシャルルは、私の家族みたいなものだったわ。
   一緒にいてくれる存在が欲しかったの。それはもう、私がもう良いと言うまで」

――――どうして『お留守番』に。

伊織「まぁ、一番大きいのは『子供っぽ過ぎる』と思ったからじゃない?(笑)恐らく
   それが遠からぬ本音だと思うけど、もう一方では、もう一人で大丈夫だと思える
   ようになったからでもあるのよね。

   そもそも私がアイドルになろうと思ったのは、私と言う人間の承認欲求を満たす
   ための手段の一つでしかなかったの。子供っぽい欲求よ、それこそ。だけどね、
   はじめて『竜宮小町』と言う形で脚光を浴びるようになって、アイドルとしての
   成功と言うものがね、それ自体が私の目的になったのね。はじめて成功できる、
   と言うイメージを作ってくれて、その後も私が、タレントとしてやっていく上で
   物凄く大きなウエイトを占めてたの。『竜宮』と言うユニットがね。

   昔はそりゃあ、自信の塊だったのよ。なんでこの私がオーディションに落ちたり
   すんのよ、みたいなね。本気でそう思ってたわ、何も知らなかったから。だから
   そういう物じゃない、そんな生易しいことじゃないんだ、って言うことを一から
   教えてくれたのは『竜宮小町』だし、『竜宮』から教わることができたのも律子
   やあずさ、亜美のおかげ、応援してくれたファンのみんなのおかげ、そう素直に
   思えるようになって、それで思ったのね。

   『ああ、私はもう、一人じゃないんだ』、って」

――――解散は辛かった?

伊織「…………辛くないと言ったら、ウソになるわよ。
   でも、いまの私だから言えるの。解散は必要だった、ってことをね」


…… ※ ……


《 X day - 94 days 》都内ボーカルスタジオ


 この日は改めて、ボーカルの総点検。
 おやおや、スタジオの向こうで誰かがお待ちかね?


亜美「あれ……千早お姉ちゃん?」

伊織「あらほんとだ。千早、いつ帰って来たの?」

あずさ「あら~、おかえりなさい、千早ちゃん」

千早「ふふっ、実は今朝、成田に着いたばかりなの。そう、律子は秘密にしてたのね」

律子「そりゃあねぇ、地獄の特訓は突然であればあるほど面白いから」

亜美「ダンスはまこちん、歌は千早お姉ちゃん……考え得る限りのフルコースだね」

伊織「げっぷが出そう……」

  (一同笑)


 如月千早さん。現在はアメリカに活動拠点を移し、シンガーとして活躍中。
 最近では自ら作詞・作曲をこなし、アコースティックギターを自らが弾くと言う、
 とても野心的な活動も行っています。うーん、千早ちゃんカッコいいなぁ!


千早「はい、じゃあ発声練習からね」

伊織「これが長いんだまた……ちょっと!? 千早なにすんのいきなり!?」

千早「……腹筋が緩いわね。これはトレーニングが必要だわ」

亜美「千早お姉ちゃんの腹筋と一緒にして欲しくは、ないもんだねぇ……」

  (律子・あずさ:笑)


 有無を言わさぬ千早ちゃんの攻撃に、みんなもタジタジ。がんばって……。


…… ※ ……


――――実は3年ぶりの帰国。

千早「そうなんです。別に向こうでそんなに忙しいわけでもないので、時間は作ろうと
   思えば作れるんですけど、詞を書いたり曲を書いたり、イメージトレーニングの
   ために旅行に行ったり、そんなことをしているうちに、つい帰国が疎かになって
   しまって……『竜宮小町』の再結成のニュースを見て、律子に連絡を取ったら、
   なんかこういう話しになって(笑)」

――――如月さんは、アイドル時代の曲もライブで披露するとか。

千早「はい。ドメスティックなツアーなどでは、やはり昔から応援してくださっていた
   ファンの皆さんも来てくださいますし、私を育ててくれた歌たちの一部ですから
   大切に今でも歌わせていただいています。最近は自分でギターも弾くようになり
   ましたので、アコースティックにアレンジしたりして」


…… ※ ……


千早「あー・あー・あー・あー・あーーー♪ はい」

3人「あー・あー・あー・あー・あーーー♪」

千早「亜美、ブレ気味よ。しっかりお腹に力入れて! もう一回!
   あー・あー・あー・あー・あーーー♪ はい!」

3人「あー・あー・あー・あー・あーーー♪」

千早「水瀬さん、震えてる! 喉絞め過ぎない! 上げるわよ!
   あー・あー・あー・あー・あーーー♪ はい!」

伊織「ちょっと、ストップストップ! いきなり出ないわよ、そんなオクターブ!」

あずさ「千早ちゃんがボーカルの先生だと、音域が広くなって大変ね~」

亜美「呑気なこと言ってる場合じゃないよ、亜美お腹痛いんだよもう……」

千早「まったく……あなたたちはいったい今までなんのレッスンをしてきたの!?」

伊織「少なくとも、オペラのソプラノを歌おうとはしてないわよ?」

  (一同笑)


 歌のことには手の抜き方を知らない、千早ちゃんの特別コーチ。
 こりゃあ、大変そうだね……。


…… ※ ……

――――如月さんから見た『竜宮小町』は。

千早「少なくとも私たち……ああ、『竜宮』メンバー以外よりは、と言う意味なんです
   けど、私たちの先を開拓してくれたと言う感じですね。でも当時は、それほどの
   イメージはなかったんです。それが、いまこうやってこのスタイルで、やりたい
   ことをやっていられるのも、私のアイドルとしての活動が有ったからだと思うし
   アイドルとしてやっていけたと言う事実の先には、やはり『竜宮小町』が有った
   と思えるようになったんですね。

   私は元々、アイドルになりたくてなったとは、言えないんです。ただ、歌を歌う
   こと、歌を聞いてもらうためのステージの一つとして、選択肢に有っただけで、
   そう言う意味では、アイドルになりたいと強く思っていた『竜宮』メンバーとは
   意識の相違が有ったんですよね。だから、あの当時はそんなに強く意識していた
   わけじゃなかった。でも、ああやって10年も経って、それでもみんなで集まって
   またやろう、って言ってできる関係性には、憧れますね」

――――『竜宮小町』のように、かつての『765 ALLSTARS』再集結となれば。

千早「うーん……どうでしょう(笑)もちろん参加したいですけど、実現可能性と言う
   側面からは、難しいんじゃないかと。仮にそれさえも乗り越えて来ると言うので
   あれば、それはもう喜んで参加したいですね。それこそ、同窓会みたいなことに
   なるんだろうと思いますけど、だからと言って誰一人手を抜かず、歳のせいにも
   せず(笑)出せる力の全力でステージに臨むでしょうね。

   もし、本当にその日が来る、そのお手伝いが何か私にもできるのなら、是非とも
   協力したい。そう思わせてくれるのが、あの頃のメンバーだったと」


…… ※ ……


3人「はじめまして~ぼ~く~に~♪」

伊織「でーあーってくれてー ありがーとおー♪」

千早「……うん、まぁ今日はこのくらいで良いかしら」

亜美「今日『は』って言った! 千早お姉ちゃんも『は』って言ったよ!」

千早「もちろん、ゲネもリハも付き合うわよ。真と一緒にね」

伊織「ねぇ、律子。本番迎える前に、私たち倒れるわよ?」

  (律子、千早:笑)


 みんなで『竜宮』復活のその日まで、全力投球。これがかつての765流。


…… ※ ……


 こうして臨時特別コーチとして、真と千早ちゃんを迎えた『竜宮小町』。

 自らの仕事と並行して行われるレッスンに会議、広報活動、番組出演など、
 綿密に織り上げられたスケジュールのタペストリーの上を、彼女たちは
 軽やかに駆け抜けて行ったのです。


…… ※ ……


《 X day - 34 days 》都内レッスンスタジオ


 初日の大阪公演を3日後に控えたレッスンスタジオは、最終調整に入っていました。


3人『しらぬ~が~♪ ほとけほ~っと~けな~い…… ♪』

真「あずささん、ターンもっとゆったり入って大丈夫ですからー!」

千早「……この分だと、本番は大丈夫そうね」

真「あー、あとは本番まで怪我さえしなきゃあ、大丈夫だよ」

律子「ホントに二人には、随分お世話になったわね。改めて、お礼を言うわ」

真「ははっ、そういうのは楽日が無事に打ち上がってからで良いって」

千早「そうね。まさかこんな形で、6人だけでも集まれるなんて思わなかったし」

伊織「ちょっとぉ!? ちゃんと見てくれてんのコーチ陣!?」

  (一同笑)


 そんな話題で盛り上がっている中、曲が終わるとスタジオの扉がすぅっ、と。


真美「……よっ。がんばってるかい、皆の衆?」

亜美「おーーー真美だぁ!」

あずさ「あら~真美ちゃん、お久しぶり~」

伊織「なによ真美、忙しいんじゃなかったの?」

真美「忙しいよ。忙しいから今まで、顔出せなかったんじゃん。はい、陣中見舞い」

律子「真美もすっかり、こういう気遣いが出来るようになったのね~」

真美「そりゃあ、真美だってもう23ですから?」

  (一同笑)


 双海真美さん。言わずと知れた、亜美の双子のお姉さん。
 現在でも現役でアイドルを続ける亜美とは対照的に、高校3年に進級した頃に
 真美は芸能活動の「無期限休止」を宣言しました。現在はとある医大の5年生。
 ……そうなんです、真美は現在、お医者さんを目指して勉強中なのでした。


…… ※ ……


――――現在は医学部の5年生。

真美「まだ中学の頃なんだけど、ドキュメンタリーに関わってね。そのときのテーマが
   小児医療だったんだ。真美と同い年くらいなんだけど、何百万人に一人みたいな
   難病だったり、虚弱体質で大人になるまで生きられないって言われてたり、でも
   そういう現実に患者さんもお医者さんも、みんなが全力で戦っているんだって。
   そんな番組に関わったのがきっかけなんだよね。

   ウチは親が医者だから、どんだけ大変な仕事かって言うのも、親の背中を見てて
   感じてはいたんだ。誰でもできる仕事じゃないし、だからこそ大学だって難しい
   だろうさ、って言う感じでね」

――――アイドルに戻りたいと思ったことは。

真美「うーん……ない、と言ったらそれはごまかしかなぁ、とも思うけどね(笑)でも
   真美の分も、亜美ががんばってくれてるんじゃないの? 亜美に言わせりゃ誰も
   そんなことした覚えないよ、って言うだろうけどね。ただ、自分としてはそんな
   気持ちだし、そもそも今の生活は両立なんて出来ないしね。芸能活動とは。

   そんな生半可な気持ちで医学部入ったんじゃないんだ、って言うのも有る。意地
   とかメンツとか、そういうのとは別にね。アイドルやってた頃はもちろん楽しい
   思い出いっぱい有るしさ、ステージでお客さんの前でパフォーマンスするのって
   すごい気持ち良いのも知ってる、けどもう、いま改めてアイドルに戻りたいかと
   言われたら、それはノーだね」


…… ※ ……


律子「まぁまぁ、ちょっと復活した『竜宮小町』見て行きなさいな」

真美「そうだね、せっかくだから。ライブには残念ながら、行けないからね」

伊織「亜美、パス渡してなかったの?」

亜美「ううん、あげるって言ったんだけど、無理だからって言われて」

真美「そんな強く言ってないっしょ? 『むーりーでーすー』って言ったじゃん」

  (一同笑)


…… ※ ……


――――真美さんから見た『竜宮小町』とは。

真美「んー……『理想のライバル』、かなぁ。亜美がいるって言うのは、あまり関係が
   なくってね。いおりんもあずさお姉ちゃんも、みんなを束ねるりっちゃんも全部
   含めて、『竜宮』と張り合うことで自分たちも成長できた部分って、少なからず
   有ったと思うのね。それでて、同じ事務所で同じくらいの芸歴で、って言うのも
   有ったから、当時思っていたのは、そんな感じ」

――――期間限定と言う形で復活と言うお話があったら。

真美「難しいかなぁ、それは。イヤじゃないんだ、そりゃまたみんなとも会いたいし、
   みんなでライブとかできたらうれしいよ。うれしいけど、その頃真美はまだ大学
   にいるかも知れないし、研修医になってるかも知れない、どのくらい後のことに
   なるのかはわからないけど、いまの真美の目標を最優先に考えたら、やっぱり、
   厳しいと思うんだよね。

   亜美だって今回『竜宮』再結成だって言って、昔みたいにレッスン漬けになって
   やっと、大方昔と遜色のない状態まで持っていった。あの人まだ、現役アイドル
   なワケじゃん? あずさお姉ちゃんとかすごいよね、ちょうど真美が休止宣言を
   した前後くらいで引退してさ。それっきりテレビなんか出てなくて、それであれ
   だけ歌って踊れて身体絞ってきてね。再結成にかけた意気込みとその時間がね、
   それだけの成果をもたらした、ってことだと思うんだ。

   真美にそれだけの時間が取れるとはね、ちょっといまの段階では思えない」


…… ※ ……


真美「ほんじゃあ、真美帰るわ。まこちんも千早お姉ちゃんも、何卒ウチの出来の悪い
   妹のこと、どーか! どーかよろしくおねげぇいたしやす!」

  (一同笑)

亜美「もう良いよ、早く帰れもう!」

真美「おんやぁ? 亜美は真美にそんなこと言って良いのかなぁ?
   なんなら今日はレッスンが終わるまで、待っていてあげてもいいよぉ~?」

亜美「亜美このあと夜から収録有るんだから、帰って良いよもう!」

  (一同笑)

真美「素直じゃないねぇ、亜美ってばー。んっふっふー♪」

亜美「ああもうコイツマジうざい!」


 口では憎まれ口を叩く亜美も、本当はうれしいんだと思いますよ?


…… ※ ……


《 X day - 32 days 》大阪・カーニバルホール


 大阪公演は、いよいよ明日。
 明日になれば、この舞台の上に『竜宮小町』たちが帰ってきます。

 昨夜からの突貫工事で、セットの建込みも無事終了。
 今日は、本番さながらの通し稽古、いわゆる『ゲネプロ』の日。


亜美「おはよーございまーっす、よろしくお願いしまーす」


 最初に舞台に現れたのは、亜美。
 これまでも数々のステージを踏んできた亜美は、ゆっくりとステージを見回します。


…… ※ ……


――――ステージに立った、その時の気持ちを。

亜美「でっかいなぁ……って(笑)

   なんだろう、やっぱり初心を思い出すんだと思うのね。これがさ、もっと小さい
   300人くらいのハコで、こじんまりやるんだって言うんなら、気にも留めないと
   思うんだけど、改めてね。7年の歳月を隔てて、明日ここで『竜宮小町』として
   ライブやるんだ、って思ったらさ。なんかすっごいデカいハコに見えてきて」

――――気合十分と言うところ。

亜美「ツアーの初日ってね、緊張するんだよね。どのステージだって。やっぱり初日に
   うまくいかないと、幸先が悪いじゃん? だから、初日と楽日は気合の入り方が
   ちょっと違うんだよね。初日は『何とかうまくやってやろう』と思ってるけど、
   楽日は『最後なんだから亜美も楽しまなきゃ』って言う(笑)

   まぁ、そんなんで、まさに気合はじゅーぶん!」


…… ※ ……


スタッフ「双海さん、インカムテストお願いしまーす」

亜美「あーあー……天気晴朗なれど波高し、皇国の興廃この一戦にあり。
   でんがなまんがなでんがなまんがな、えーきもちっ! わおっ!!」

スタッフ「……(笑)はい、オッケーです。お疲れ様でしたー」

亜美「お疲れマンボ! お疲れマンボ! お疲れマンボできゅっ!」

  (一同笑)

伊織「初めて聞いたわ、そんなマイクテスト(笑)」


 次に現れたのは伊織。
 上手のソデから現れた伊織は、じっくりと客席側を見回していました。


…… ※ ……


――――実は初めての大阪の舞台もここ。

伊織「そうね、厳密にいえば改築前だったけど、初めて全国ツアーなんて言い出して、
   ぶっちゃけ全国でもなんでもない、名古屋行って大阪行って福岡行って、最後は
   東京で締めましょうなんてね、全国でもなんでもない、って言う話で(笑)」

――――ここは伊織さんのお気に入りの会場とか。

伊織「ここはね、音響がすっごく良いの。それこそオーケストラとかオペラとかね、
   そういう壮麗なステージとか、物凄く映えるのね。神様の作ったホールとまで
   賞賛されるくらいにね。だから3,000入るんだけど、すごく音が近くに感じて、
   ステージと客席の距離をあまり感じないの。

   また大阪でやれるのなら、ここでやりたい、そう思ってたわ。満願叶って、
   あとは私たちがうまくやるだけね(笑)」


…… ※ ……


スタッフ「水瀬さん、インカムテストお願いします」

伊織「あー、あー、わん、つー、わん、つー。名も知らぬ~ 遠き島よ~り~♪
   流れ来る~椰子~の~実~ひとつ~♪ ……どう?」

スタッフ「はい、オッケーです、ありがとうございます」

伊織「はーい、よろしくお願いしまーす。んー、いい音ねぇ~!」


 このホールの音響に、大満足の伊織なのでした。


あずさ「おはようございます~、よろしくお願い致します~」


 最後に入ってきたのはあずささん。
 心なしか、表情には緊張の色が見受けられます。


…… ※ ……


――――ステージに立つのは6年ぶり。

あずさ「頭では割と冷静な気持ちでいるんですけど、やっぱりセットが建込まれてね、
    照明さんもテストに余念がなくて、って言うところに立つと、改めてなんだか
    身が引き締まる思いをすると言うんでしょうか……早くこう、ステージの空気
    に馴染まなくちゃって思えば思うほど、なんでしょう、ドツボにハマって行く
    ような(笑)そんな感じがどうしても……」

――――おうちのことも心配なのでは。

あずさ「子供は主人の実家に預かってもらってますんで、それはあまり心配していない
    ですけど、もう5年以上もね、あまり家を離れない生活をしていたものだから
    昨日から大阪に入って、どこかずっとフワフワした心持ちですね。どこに心の
    置所を作ればいいのかしら、とかいろいろと。

    でも明日はもう本番ですし、いつまでも旅行気分じゃいけませんよね(笑)」


…… ※ ……


スタッフ「それでは、三浦さんもインカムお願いしまーす」

あずさ「あー、あー……ちぇっく、わんつー。な~やんでもし~かたな~い♪
    ま、そんな~♪ ときも~♪ あるさゆけばわかるのさぁ~♪」

スタッフ「はい、ありがとうございます、オッケーです」

あずさ「はーい、よろしくお願いいたします~」

亜美「なんでポジティブ歌った、いま?(笑)」

伊織「アンタがテストで笑い取ろうとしたからでしょ?」

律子『はいはい、いつまでも遊んでないでゲネ入ってくださーい(笑)』


 客席側コントロールブース、照明さんの席に律子さんは陣取っていました。
 ステージを遠くから、何か昔を懐かしむような、優しい笑顔で見守っていました。


…… ※ ……


――――ついにステージに3人が立った瞬間は。

律子「いやぁジャージですからね今日は。ゲネなんで(笑)感慨があるかと言われると
   何とも言えないなぁ、と言う感じですけど、まぁこの8ヶ月……特に真がコーチ
   やってくれるようになって、目に見えて動きも変わってきて、それほどもうね、
   心配とかしてなかったですし。いち早くステージを見られて、楽しかったと言う
   感じでしょうね。ええ、楽しかったです」

――――どうですか、立ちたくなりませんか。

律子「その手には乗らないんですー、って言ってるでしょお(笑)」


…… ※ ……


《 X day - 31 days 》大阪・カーニバルホール


 『竜宮小町』再結成ライブツアー初日、大阪公演。

 チケットは抽選倍率およそ5倍にも及ぶ激戦となってソールド・アウト。
 開場前から、会場の前には早々とファンの皆さんが長蛇の列を作っていました。


スタッフ「客入れしまーす!」


 一方楽屋では、ライブの直前まで準備が続いていました。
 ピンと張り詰めた緊張感が、バックステージを包み込んでいます。


伊織「――――ね、京の着倒れと言えば、大阪の!」

亜美「行き倒れ!」

伊織「違うでしょ!? なんで行き倒れちゃうの!?」

亜美「京都でいっぱい着込んで、大阪で暑くて倒れちゃうんだよ!」

伊織「京都で一旦脱げば良いでしょう! ね、あずさ! 京の着倒れ、大阪の!」

あずさ「共倒れ?」

  (伊織・亜美、コケる。スタッフ苦笑い)

律子「はい、おっけぃ!」

伊織「……ねぇ、律子。これホントにやるの?(笑)」


 合間のMCのネタ合わせをする『竜宮小町』……いや、漫才じゃないんですよ?
 そんな、緊張感があるのかないのかわからない楽屋に、不意に来客が。


  こんこん

スタッフ「はーい!」

響「おーーー!! みんな、久し振りだなーーー!!」

伊織「響!?」

亜美「ひびきん!?」

あずさ「あら、響ちゃ~ん!」


 我那覇響さん。現在は故郷でローカルタレントとして活躍中。
 また『第二の我那覇響』を育成する養成所を設立し、後進の育成もしています。
 そんな響ちゃんが、楽屋に予告もなくサプライズ訪問!


響「いやー、大阪チケット取れなくてさ~。結局事務所に泣き付いたんだけど」

亜美「最初から頼めば良いじゃん。765プロだったら喜んであげるよ(笑)」

響「これお土産な。ウチのタレントさんの実家で作ってる泡盛。これ美味しいぞ」

あずさ「あら~、こんな重たそうな一升瓶を……」

伊織「アンタこれ、手荷物で持ってきたの?」

響「当たり前じゃないか!」

伊織「はぁ……うん、ありがと、響」

響「なんだぁ? あんまり嬉しそうじゃないぞ?」

伊織「マネージャー、これ事務所へ宅急便に出しておいて?」

響「持って帰れよ!!」

  (一同笑)


…… ※ ……


――――現在は郷里で、タレント兼養成所の運営。

響「養成所って言っても、自分はダンスくらいしか教えられないんだけどね。
  東京でデビューしたい子もいるし、地元で活動しながらキャリアを積み重ねようと
  してる子もいるけど、そんないろいろに対応できる地方事務所も兼ねてるんだ」

――――全国の仕事はセーブ気味。

響「そうだね……年に2,3回かな? キー局の仕事もするけど、どちらかと言えば、
  もう自分は、全国レベルについては裏方なんだよね。やっぱり自分にとって東京は
  忙しすぎるし、なにより狭かったから、拠点を故郷に移してのんびりやりたいって
  思うようになってね。高校卒業と同時に、もう基本的にこっちに引っ込んでね。
  ……うん、『竜宮』が解散する前だね。同じ年だけど」

――――東京で続けようと思えば、続けられた?

響「うん、それはそう思う。ただ、続けられるから続けると言う選択肢も有ったし、
  田舎に帰ると言う選択肢も有った。そのどちらかを選べるうちに選ぶのを取った、
  みたいな感じかな。もう、そうするしかない、それしかできないって言うことに
  なったら、それこそ窮屈な思いをすることになるんじゃないかって。
  そんな思いが、やっぱり有ったんだよね」


…… ※ ……


響「じゃあ、今日は関係者席から、サイリウムも振らず、コールも打たず、ずーっと
  じぃーっと、みんなのこと見ててやるぞ! いやぁ、楽しみだなぁ~」

亜美「そりゃ、関係者席でリウム振ったら、つまみ出されるよひびきん(笑)」

伊織「アンタ袖にいれば? 亜美のスタ→トスタ→の時、飛び入りで踊りなさいよ」

響「やだよ! これ今日、自分の私服しかないんだから!」

  (一同笑)


 いついかなる時でも、かつてのメンバーが顔を合わせればこんな感じなんです。
 余計な緊張も解れて、気持ちは解散前の『竜宮小町』とのライブ前のように。


…… ※ ……


――――我那覇さんから見た『竜宮小町』とは。

響「うーん……結成当時で言えばやっぱり『目標』だったよね。ちょっと自分たちより
  前を走って、自分たちを引っ張って行ってくれている、あの背中がまずは目標だ、
  って言う。なんか近からず遠からずで、普段は同じ事務所の仲間なんだけど、実際
  同じ『アイドル』としては、向こうがやっぱり先に行ってたからね。

  でも、なんか自分たちも仕事が多くなって、忙しくなってきて、いつしか『竜宮』
  は単なる『仲間』になっちゃっててさ。あれ? って思ったんだけど、それが、
  いつどんなタイミングだったのか、って言われてもピンと来ないんだ。だから、
  今度再結成します、なんて話しが出たときにも、すごく単純にああまたやるんだ、
  みたいな感じになっちゃってたね」

――――もし、かつての『タイフーンライブ世代』再集結、となれば。

響「いやぁ、そりゃあ行くって言うさ。断る理由ないもの。ただ、その再集結ってのが
  集まれる人だけで集まって、って言うんだったらちょっと考えちゃうよね。やっぱ
  全員が集まってあの頃の『765 ALLSTARS』になるんだから。そこで一人でも欠けて
  しまったら、あの頃の自分たちじゃないと思うぞ。あれほど、みんなが一緒である
  ことに拘った連中がさ、集まれるだけ集まろうなんて、ハンパなことはして欲しく
  ないし、したくないだろうしね。だから……うん、難しいのかなぁ、やっぱり」


…… ※ ……


響「よし、じゃあがんばれよ! しっかり見てるぞ! お土産持って帰れよ!」

伊織「亜美、あずさ、これもう今晩ホテルで空けましょ」

あずさ「あら~、今夜はいっぱい飲めそうね~♪」

律子「あずささん? やめてくださいね?(笑)」


 その場をぱっと明るくしてくれる、響ちゃん。
 これからステージに立つ『竜宮』メンバーをしっかり励まして、
 響ちゃんは一人、関係者席へと向かって行きました。


伊織「……よかった、響、来てくれたわね」

あずさ「ええ、ホントによかった……」

スタッフ「開演30分前でーす!」


 もう、間もなく。
 『竜宮小町』、正真正銘の復活の瞬間が訪れます。
 満員の客席が『竜宮小町』の登場を、固唾を飲んで見守っています。


アナウンス「――――それでは、『竜宮小町・大復活祭』大阪公演、開演です」

 おおおおおおっ!!


 開演を告げるアナウンスで、客席から4色のサイリウムが一斉にきらめきました。
 伊織のピンク、亜美の黄色、あずささんのパープル、そして律子さんの緑。





『知らぬが仏ほっとけない♪ くちびるポーカーフェイス♪

 Yo灯台 もと暗しDo you know!? 噂のFunky girl♪』



 うわあああああああああっ!!!!

伊織「大阪ぁー!! 初っ端から、トバすわよーっ!?」

亜美「はい! はい! はい! はい!」

あずさ「はい! はい! はい! はい!」


 突き上げられる拳とともに揺らめく、4色のサイリウム。
 ホール全体が脈打つほどに、轟く歓声。
 観客に向かって放たれるコール&レスポンスを受け、踊る『竜宮小町』の乙姫たち。
 客席では、スタートからすでに涙を流すお客さんの姿もありました。


…… ※ ……


――――7年ぶりにステージで歌った『SMOKY THRILL』、お三方のそれぞれのお気持ちを。

伊織「何で終わろうか、って思ったときにはいろいろ考えるんだけど、何で始めるかを
   考えたら、これしかないのね。もうスモーキーじゃなきゃいけない、と思って。
   当然、7年越しで改めてやってるわけだから、新しいこともできたかも知れない
   のね。そういうことだってこの8ヶ月の間、検討されなかったわけじゃないし。
   でもファンのみんながね、『竜宮小町』の再結成ライブだ、って言われてね?

   何が見たいか、何を見せたら私たちが帰ってきた、って強く思ってくれるだろう
   と考えたら、下手に新しいことやるよりは、昔のままにね。解散した頃の気持ち
   そのままに冷凍保存したものを、解凍するような感じよね」


亜美「いやぁ、ちょっと危なかった(笑)スモーキーっていきなりボーカル始まるし、
   いつでもアレはちょっと緊張するのね。イヤモニ来てても出トチしやすいから。
   でもこう、ビシーッと3人ぴったり揃ってさ。あの昔のライブ映像とか流してた
   スクリーン幕がね、ぶわっとバトンから落ちたらさ。

   まるで解散ライブの再現VTRみたいに、わーっとサイリウム揺れててさ。みんなの
   歓声が、固まりになって亜美の身体にがーんとぶつかってきてね。ああ、みんな
   待っててくれたんだなぁ、って思ったら鼻の奥がツーンとしてくんのね(笑)
   帰ってきたよー、『竜宮』復活だよー、って。みんな手ぇ振ってくれてね」


あずさ「なんて言うんでしょう……ホントに始まる前はもう、不安でしょうがなくて、
    アナウンスで開演ですって言ってる頃にはもう、私たちは幕の後ろで待ってて
    聞こえてくるんですね、もうホントに、地鳴りのような歓声が。

    でも幕が降りて、客席が一望できて、ぱーって辺り一面をこう、サイリウムが
    照らしてるのを見たら、ウソみたいに不安がなくなっちゃったんです。これが
    ライブステージの魔力なのかしら、って。お客さんと一緒に、『竜宮小町』の
    復活をお祝いするような、そんな気分でした」


…… ※ ……


伊織「大阪のみんなーっ!! せーのっ」

3人「竜宮小町、でーーーすっ!!」

  わあああああああああっ!!!!

伊織「7年経ったからって、老けこむ私たちじゃないわよーっ!」

  おーーーーーーっ!!

亜美「どうしたどうしたぁ、大阪ぁ!? もう疲れてんじゃないだろうねーっ!?」

  うおおおおおおおおおおっ!!

あずさ「今日は皆さん、私たちの復活ライブ、たっぷり楽しんでいってくださいね~」

  いぇえええええええええええっ!!!


 こうして『竜宮小町』は、ついに7年の時を超えて、大阪で復活を遂げました。
 ツアー初日のステージ、その様子をずっと、コントロールブースから、
 律子さんは見ていました。


…… ※ ……


――――ズバリ、初日の出来は。

律子「80点かな。いや、立派な合格点でしたよ。舞台監督さんとも話してたんですけど
   やっぱり舞台度胸が違うな、って感じでしたね。あずささんもブランクを感じて
   臆するようなこともなかったですし」

――――100点を目指すには。

律子「いやぁ、良いんじゃないですか? 100点なんて取られたら、後が続かなくなる
   ような気がするんですよ。毎回毎回、概ねうまくいって、どこかここがって言う
   ポイントが有るくらいがやり甲斐も有るんじゃないかと。

   昔は確かに、理想が先に有って、こうでなければいけない、みたいな思い込みが
   有った時期もありましたね。完璧主義って言うほどでもないとは思いたいんです
   けど、それに近かったのかも知れないな、って言う。

   ただ、できることをやらないのはね、やっぱりダメだから。そう言う意味で今回
   初日、大阪公演について言うなら、もうできることは全部きっちり残さずやって
   みせたんですよね、メンバーは。だから80点。残り20点は、たぶん私の計算外の
   何かを感じたときに、加点する感じじゃないかな」


…… ※ ……


《 X day - 15 days 》札幌・すすきの


 大阪で華々しく復活を遂げ、幕を開けた『竜宮小町・大復活祭』ツアー。
 メンバーは福岡、名古屋、仙台と全国を飛び回り、明日は札幌。
 これが終われば、残すは東京国際ホールのみ。

 また再び、『竜宮小町』が竜宮城に帰ってしまう日も、着々と近付いていました。


律子「はい、それではー、大阪・福岡・名古屋・仙台、お疲れ様でした!
   えー、そして明日は地方公演ラストの札幌、これが終わればあとは東京公演を
   残すのみとなりましたので、メンバー・スタッフ、更に気合入れて行きましょお!」

  (一同喝采の拍手)

律子「それじゃ、かんぱーーーい!!」

  かんぱーーーーーーい!!


 この日札幌入りしたメンバーと、前日から設営に入っていたスタッフが合流、
 ツアーの中打ち上げと慰労と兼ねて、今日はジンギスカンで乾杯です♪

 ……うーん、見てくださいこのお肉の量! 美味しそうっ!


伊織「ちょっと亜美、それ私が焼いてた肉でしょ?」

亜美「ダメだって、焼き過ぎたら固くなるっしょー。ミディアムくらいで良いの」

伊織「ミディアムが良かったら、自分で焼きなさいよ、なんで人の持ってくの!」

亜美「はいはい、いおりんかんぱーい!」

伊織「か、かんぱーい!!」

  ぐびっ ぐびっ

亜美「……っかあああっ! 男は黙ってサッ○ロビール!」

伊織「……っあああっ! ジンギスカン、最高! ビールも、最高っ!」

  (一同笑)


 ツアーの楽しみと言えば、ご当地の美味しいお料理に、美味しいお酒。
 10年経って大人になった『竜宮小町』たちも、ほろ酔い気分でリラックス。


あずさ「りーつこさぁん♪ グラス空いてますよぉ~♪」

律子「私はっ! 私はいまさっき、烏龍茶オーダーしましたからっ! 平気ですよ!」

あずさ「そ~ですかぁ~♪ それじゃあ、私だけ、かんぱ~い♪」

律子「まったく……あずささんはこの状態が長いんですよ。もうちょっと飲むとね、
   こてーっとその辺に、寝転がるんですけど(笑)」


 ……あずささん、明日はステージがありますよ?


…… ※ ……


《 X day - 14 days 》札幌・Gepp札幌


 昨日の宴会でエネルギーは満タン?


伊織「……札幌のみんなーーーっ!!」

  いぇええええええっ!!

亜美「最後までみんなノリノリで、楽しかったよーっ!!」

  いぇええええええええっ!!

あずさ「またいつか、皆さんとお会いできる日を楽しみにしていますね~♪」

  うおおおおおおおおおおおおっ!!!


 あっと言う間の3時間、メンバーもお客さんも、汗びっしょりです。
 『竜宮小町』が見られるのは、あと2週間。


…… ※ ……


――――実は地方では、売上と言う面で苦戦していた。

律子「やっぱり東京・大阪とはちょっと違うんですよね。東京ではソールド・アウトに
   なってるけど福岡では当日売りが出るとか、そんな感じでしたから、今回も全国
   ツアーとは言っても、地方は空きが出来るかなー、とか漠然と思ってましたよ。
   でもね、心配はしてないんです。盛り上がりはぜんぜん、東京・大阪に負けない
   ですから。だから昔みたいに、また盛り上がれるだろうとは思ってて」

――――今日の札幌は、比較的早くソールド・アウト。

律子「札幌って、解散ライブ以来なんですよ。その前にも行ってなくて。だから、札幌
   ソールド・アウトって聞いた時は、待っててくれた人がそれだけいたんだな、と
   思いましたね。みんなもそれ知ってましたし、長いことお待たせしちゃったのは
   みんな一緒なんだけど、ライブでお返ししたい、って言う気持ちは札幌に関して
   言うと結構大きかったかなぁ、って感じましたね」

――――いよいよ、楽日を残すのみ。

律子「ここまで来たらもう、ジタバタしてもしょうがないですし(笑)
   みんななら、きっとうまくやってくれますよ……うん、大丈夫」


…… ※ ……


《 X day 》東京国際ホール


 前日から徹夜で行われた建込み作業も終わり、『竜宮小町・大復活祭』の楽日を
 迎えた東京国際ホール。


スタッフ「おはようございます!」

律子「おはようございまーす、よろしくお願いしまーす」


 一番乗りは、律子さん。
 実は昨日の徹夜作業もしっかり見守って、一度帰宅してからの再登場です。


スタッフ「眠くないですか?」

律子「…………いや、眠いですよ(笑) 眠いですけどね、今日はね」


 眠たげな目でも、足早に私たち取材チームの前を通り過ぎて、まっすぐステージへ。
 このツアーで最大のステージと言うことで、演出面でもこれまでとは違った側面を
 出していく必要があることから、舞台監督さんや照明さんを交えて、熱のこもった
 打ち合わせが始まりました。


伊織「おはようございまーす、よろしくお願いしまーす」

スタッフ「おはようございます!」


 続いて会場入りしたのは伊織。
 本日は、あのツアーパンフレットの写真でも一緒だったうさぎのぬいぐるみ、
 「シャルル」を伴っての現場入りとなりました。この姿も、昔を思い出させます。


伊織「建込み徹夜だったんですって? 大丈夫?
   ……ああ、あそこでトドみたいに寝てるのがいるわね(笑)」


 さりげなくスタッフを気遣う伊織ですが、表情はこれまでのツアーと少し違って、
 きりっとした印象がありました。7年間の空白と、10年分の時間。その答えを出す
 ための千秋楽、感慨は人一倍に有るのでしょう。


亜美「おはよーございまーっす、にょろしくぅお願いしまぁす」

  (一同笑)


 カメラが回っていることを知り、愛嬌たっぷりの挨拶で亜美も到着。
 ふざけているようにも見えますが、これが彼女なりのやり方。
 楽日だから、最後だからと、構える様子を見せない、亜美流のカッコ付けなんです。


あずさ「おはようございます~、よろしくお願いいたします~」

スタッフ「おはようございまーす! 三浦さん入られます、誘導!」


 大きなホールだけに、バックステージもより広くなります。
 そこで、会場入りと同時にスッとスタッフさんが誘導に入るんです。
 ……そうじゃないと、あずささん、会場内で迷子になってしまうんで。


あずさ「すみません、ちょっと遅くなってしまって……」

スタッフ「大丈夫ですよー、予定よりは早かったですから」

あずさ「あ……あらあら、なんか恥ずかしいですね……」


 良いんです! それがわからないスタッフじゃあ、ありません!


…… ※ ……


《 X day 》東京国際ホール・楽屋


 新しい舞台演出も取り入れたリハーサルも無事終了。
 あとは開演を待つばかりとなった楽屋で、メンバーが思い思いに時間を過ごします。


伊織「あー……楽日かぁ…………」

亜美「ね、早いね。あっと言う間だよ」

伊織「亜美。アンタ、泣くんじゃないわよ(笑)」

亜美「いおりんこそ泣いちゃダメだよ。解散ライブん時ぐずぐずだったじゃん!」

伊織「アンタだってぐずぐずだったじゃないの!(笑)
   ぶっちゃけ一番がんばってこらえてたの、あずさだからね!?」

あずさ「私はやっぱり、みんなの中では一番お姉さんだから」

亜美「まぁそう言いながら、舞台ハケて楽屋で号泣してたの知ってますけどね我々」

  (一同笑)

亜美「てか、あずさお姉ちゃん、何してんの? 編み物?」

あずさ「そうよ、うちの子の靴下。冬用のね」

伊織「あずさのとこの子、大きくなるの早いわよねー」

亜美「いおりん、子供が大きくなるのが早いんじゃあない……亜美たちがぁ、それだけ
   年を取ったってことなんだよぉ……」

伊織「まだ『取った』と言うほどの歳でもないわよ!(笑)律子、何か言ってやって!」

律子「みぃんな平等に取って行くのはねぇ、歳だけなのよぉ、伊織ぃ……」

  (一同笑)


 メンバーはそれぞれ、10年前であり、7年前を思い起こして、
 その歳月の長さに思い至るのでしょう。


スタッフ「開演10分前でーす!!」

伊織「よっし、じゃあ行くわよっ!」

亜美「あいあいさー!」

あずさ「さ、行きましょう、律子さん?」

律子「よーし、泣いても笑ってもこれが最後だー!」

伊織「律子、アンタ早く帰って寝たいとか思ってんじゃないの?」

律子「当たり前じゃない、こちとら徹夜明けなのよ(笑)」


 ……いやいや。終演までは、帰れませんよ?


…… ※ ……


《 X day 》東京国際ホール・舞台袖


スタッフ「開演5分前です!」

律子「了解です! みんな、じゃあ行くわよ!」


 舞台袖で、4人で円陣を組みます。
 ステージに立たなくても、律子さんだって大切な『竜宮小町』のメンバー。
 辛い時も、うれしい時も、この4人でやってきたんです。


伊織「今日はもう、終わってぶっ倒れても大丈夫よ! ガンガン行くからね!」

亜美「5,000入ろうと負けない! 『竜宮小町』ここに在りを見せるよ!」

あずさ「最高のステージにしましょう。私たちの、10周年の!」

律子「行くわよーっ! 『竜宮小町』ぃーっ!!」

4人「ふぁいとーーーーーーーーっ!!!!」


 公には、わずか半年。
 長い歴史から見れば、ほんの一瞬の出来事のように、『竜宮小町』は再び
 私たちの前から、姿を消してしまうのです。その最後のステージが。



『キミが触れたから七彩ボタン 全てを恋で染めたよ♪

 どんなデキゴトも越えてゆける強さ キミがボクにくれた♪』



 うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!

伊織「東京ぉー!! 血管ブチ切れるまで、突き抜けるわよーーーっ!!」

亜美「思い出に浸ってるヒマが有ったら、拳を上げろーーーっ!!」

あずさ「『大復活祭』千秋楽、どうぞ全力でお楽しみくださいね~~!!」



 …………幕を、開けました。


…… ※ ……


――――最後の質問です。
    あなたにとって、『竜宮小町』とは。


…… ※ ……


あずさ「『竜宮小町』とは、ですか……難しいですね。すごく。

    たぶんメンバーでなかったら、このユニットの一員でなかったら、少なくとも
    いまの私の人生は、もっと違うものになっていたんですよね。それくらい私の
    人生にとって、大きな大きな、かけがえの無いものだと思います。

    いまは主人がいて子供がいて、やっぱり家族の存在ってすごく自分にとっても
    大きいんですよね。それは少しの疑いもないんですけど、それと同じくらい、
    『竜宮』のメンバーも、いっしょにやってきた時間も、すごく大切なもので、
    それが有ったから、いまの私がいるんだ、と。10年経って、こうしてまたね、
    改めてライブもやってみて、痛感しましたね。

    だから……そうですね、やっぱり『宝物』でしょうか?」

――――9ヶ月、振り返って一言。

あずさ「本当に長いようで短い間でしたけれど、こうしてまた、昔のアイドルがライブ
    と言う大舞台を味わえて、本当に楽しかったです。ありがとうございました」


…… ※ ……


亜美「『竜宮』とは……ねぇ。やっぱ『学校』かな。

   りっちゃんって言う先生がいてさ。委員長のいおりんと、クラスで一番の美人の
   あずさお姉ちゃんと、亜美と。歳も違うけど、そんな感じだった気がするよね。
   ずっと10年やってきたけど、その残りの7年って言うのは、学校でみっちり3年
   勉強してきた成果だと思ってんのね。だからある意味、7年前の解散は『卒業』
   でも有ったんじゃないかな、って言うね。

   みんなある意味『竜宮』の同窓生なんだよね。だからこうやって集まれちゃうし
   昔はできなかったようなことも、できるようになってることに気付けるんだと。
   その時には気付かなかったことにね、『卒業』してから何年も経って、みんなで
   ああそうだった、って気付くんだよね」

――――7年前の『忘れ物』、取り戻せましたか。

亜美「…………うん。もう、置いてったりしない。絶対にね」


…… ※ ……


伊織「『生きた写真』ね。

   ほら、写真ってね。昔の銀塩写真とか、色褪せたりするでしょ? 最初はもっと
   きれいな色味だったものが、だんだん色褪せてきて、それはそれでまた当時とは
   違った歴史の重みみたいなのを感じさせてくれるんだけど、それとは別に写真を
   撮った頃の思い出って、どんどん美化されていくじゃない? 色味が褪せていく
   過程とは、まるで逆らうようにきれいなものに見えてきてね。

   でも、私たちはたぶん、いまが一番きれいで在り続けられるんだって思ったの。
   昔のことなんて、アルバムの中に封じ込めておけば良いはずのものを、わざわざ
   もう一度現像し直してるようなモノだと思うのね、こういう再結成とか。だから
   あんまり乗り気じゃなかったの、最初は。

   そうじゃなかったわね。私たちは7年前とは違った私たちとして、いつだって、
   歴史の合間合間において輝いていられるんだって。だからホコリ臭いアルバムに
   閉じ込めておいて、良いものじゃないんだわ。生きてるんだもの」

――――さらにここから10年後。もし、できるなら。

伊織「いまは想像できないわね。それはやっぱり、10年経って初めてわかることよ」


…… ※ ……


律子「言い方は悪いですけど……やっぱり『実験場』なのかな。

   私のプロデューサーとしてのキャリアの中では、『竜宮小町』が最初に手掛けた
   ユニットでしたから、自分がステージに立っていた頃の経験とかも役に立つとは
   限らないし、むしろ役に立たなくなっていたことも多かったんですね。だから、
   順風満帆とは行かなくて、手探り手探りで。だから『竜宮』で試したことが後に
   なって活きてはいるんですけど、当時からしてみたらとんでもない空手形を切る
   場面だって、ちょいちょい有ったんですよね。

   だから、そんな私の……なんだろう、やっぱりわがままだったのかな、そういう
   のにみんなそれぞれ、まぁまぁ文句も言いながらついて来てくれて、10年経って
   みんなそれぞれに活躍していても、またこうやって、私の『実験』に付き合って
   ありがとう、と……うん、ホントに。みんなありがとう、って」

――――次は『765 ALLSTARS』再集結も。

律子「このツアーが終わる前は、正直無理よそんなの、って思ってたんです。
   でも、みんながこのソフトを見て、ライブの様子も見てくれたら、きっと気持ち
   変わるんじゃないかな、って思ってます。だから、いつか……ね(笑)





■BACK STAGE OF "Ryugu Komachi"
 再び舞い踊る乙姫たちの270日

   出 演 秋月律子
       三浦あずさ
       水瀬伊織
       双海亜美

       菊地真
       如月千早
       双海真美
       我那覇響 (出演順)

ナレーション 天海春香

  制作協力 765プロダクション
       スタジオ・オータムーン
       ミナセエージェンシー





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