満月の輝く、美しい空。
この光が、わたくしの心を落ち着かせてくれるのです。
食事が終わり客室に戻り、こうして見上げる空。
黒色と青色の混ざるこの景色に、一筋の光がさしこみ――
響「貴音」
貴音「……はい?」
響「それ、さっきも聞いたぞ」
貴音「…………そう、ですね」
椅子に座ります。
響はベッドに寝転がって、眠いと何度も呟いていました。
2: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 22:45:04.79 ID:aDtc1WdFo
時刻はもうじき、22時となります。
貴音「もし、響」
響「んー……?」
貴音「入浴しませんか」
響「そーだね……」
貴音「…………」
響「…………ぐぅ……」
貴音「響っ」
響へと近づき、ゆっくりと身体を揺らすと……。
響「……んー…………」
3: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 22:47:50.15 ID:aDtc1WdFo
貴音「……眠いのですか?」
響「そうだな……でも、お風呂も入りたいぞ……」
貴音「ええ、ここは前に亜美達が自慢していた浴場ですので」
響「でもそれ……朝風呂じゃなかったっけ……?」
貴音「……入浴は夜でこそ、ではありませんか?」
響「んー……でも、自分疲れてるし……」
貴音「その疲れを癒すためには……入浴かと」
響「……じゃあ、ちょっと待ってて」
響は立ち上がり、洗面所へと向かいました。
4: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 22:50:21.00 ID:aDtc1WdFo
しばらくして、さっぱりした表情の響が戻って来ました。
響「よーし、準備出来たぞ! はいっ、タオル」
貴音「あ、ありがとうございます、響……何をしたのですか?」
響「うん? あぁ、自分がよくやる目覚めの体操」
貴音「体操……疲れていたのでは?」
響「まあ、だるいけど……それは大丈夫! お風呂入ってなんくるなくしよう!」
貴音「ええ、それでは……!」
響「誘おうか!」
貴音「響、鍵を」
響「ちょ、ちょっと待って貴音! 下着持ってかないと!」
貴音「そうですね……いっそ、このばすろぉぶなるものを着るというのは」
5: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 22:53:25.12 ID:aDtc1WdFo
響「バスローブかー」
少し前の撮影で、これを着たことがありました。
一緒に撮影をしていた美希は「貴音、すっごく似合うのーっ!」と言っていましたが、わたくしにはどうなのかは分かりません。
響「それじゃあ、これを着て隣の部屋に行こう」
貴音「ええ」
響「うわぁ、久しぶりだなー」
貴音「響は、よく旅館に泊まるのでは?」
響「そうなんだけど、これを着て動くことはないかなぁ。寝るときに着るだけだからさ」
貴音「なるほど……ばすろぉぶは就寝時にも着るのですね」
そうして、ばすろぉぶを身に纏い。
隣の部屋の呼び鈴を鳴らしました。
6: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 22:56:39.28 ID:aDtc1WdFo
「はぁい」という声と共に、ばすろぉぶ姿のあずさが扉を開けます。
あずさ「あら、二人共」
貴音「あずさ、真……大浴場に行きませんか?」
響「お風呂行こうよ!」
真「いいねいいね! ボクたちも、ちょうどそんな話をしてたんだ!」
響「そうなの?」
あずさ「ええ、今これに着替えていたのよ」
貴音「あずさ……」
あずさ「はい?」
貴音「美しいです」
あずさは普段よりも妖艶でした。これが、ばすろぉぶ効果なるものでしょうか。
7: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 23:03:03.11 ID:aDtc1WdFo
あずさ「ええっ!? そ、その……貴音ちゃん?」
真「もう準備はできてるからねっ」
響「それじゃあ、行こう! なっ、貴音、あずささん!」
貴音「行きましょう、あずさ」
あずさ「は、はい……」
何故だかあずさが顔を紅潮させていました。
三階の客室から階段を降り、地下の大浴場入口へとたどり着きます。
自動販売機が隙間なく置かれ、少し奥まった場所には機械が多く置いてあります。
響「麻雀ゲームだね」
真「こういうところって、多いよね」
どうやらそれは、麻雀の機械。
あずさ「こういうところでしか、見ないわねぇ」
8: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 23:05:27.09 ID:aDtc1WdFo
脱衣場のかごは数個を除いてどれも中身がなく、人があまりいないことを教えてくれました。
貴音「とても楽しみです」
響「春香たちが朝風呂で入ったんだっけ? いいよね」
真「ボクたちも朝風呂行こうよ!」
あずさ「ええ、とっても楽しみねぇ」
真「あずささん、朝起こしますからね!」
あずさ「うふふ、大丈夫よ、真ちゃん。わたし、8時ぐらいには」
真「6時に出発しますよ!」
あずさ「は、早いのね……」
9: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 23:12:40.20 ID:aDtc1WdFo
大浴場への扉を横に動かすと、湯気が顔に当たりました。
響「うわー、広いなぁ」
あずさ「早く入りたいわねぇ」
真「あっ、”かけ湯”をするみたいですよ」
貴音「湯を身体にかけるのですね」コトン
響「どれどれ……おっ、良い感じのぬるさだぞ」バシャア
真「そう? それじゃ! ……うん、丁度いいね」バシャン
貴音「……良いですね」バシャ…
あずさ「温かくて、言葉が間延びしちゃうわぁ」
響「あずささん、いつもそうだぞ」
かけ湯をした後は、自由に入っていいと書いてありました。
四人で、一番大きな浴槽へと入ります。
……おや、他に入っている方々は、露天風呂にいるのですね。
10: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 23:23:19.78 ID:aDtc1WdFo
真「ふぅー……気持ちいいなあ」
あずさ「ええ、とっても……」
響「疲れが取れるなぁ」
貴音「ええ、今日の収録は楽しめましたが、同時に疲労も溜まるものでしたからね」
あずさ「楽しかったわよね」
真「でも、貴音の言うとおりに疲れましたね……」
響「あずささん、マラソンで疲れてたね」
あずさ「みんなが早すぎるからねぇ」
真「そ、そうでしたか?」
貴音「響も真も、最後は競争をしていましたからね」
11: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 23:30:07.28 ID:aDtc1WdFo
響「だ、だって真が!」
真「響が急に加速するからだろ!」
響「むぅー……」
真「ぬぅー……」
響・真「……ふー」
あずさ「うふふ」
貴音「それにしても……気持ちが良いですね」
響「そうだねぇ」
真「後で、露天風呂にも行ってみない?」
あずさ「それじゃあ、あの人が露天風呂を出たら、にしない? 急に大勢で行くと、気を遣わせてしまうから」
貴音「そうしましょう」
12: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 23:42:15.49 ID:aDtc1WdFo
真「また行けるかな、事務所のみんなで旅行」
あずさ「楽しかったわねぇ」
貴音「皆で、入浴したいですね」
響「でも、みんな忙しいもんなぁ。この仕事だって本当は……」
真「仕方ないよ。雪歩は舞台だし、美希はファッションショーに出なきゃいけないんだからさ」
響「うん……もう、あんまりみんなで集まれないのかな」
貴音「忙しいことは喜ばしいことですが……少し、残念ですね」
13: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/24(金) 23:50:07.94 ID:aDtc1WdFo
あずさ「いっそのこと、プロデューサーさんにお風呂レポートのお仕事を頼んでみるとか」
響「……うーん、どうかなぁ」
真「いいとは思いますけど……そんなお仕事、あるんでしょうかね」
貴音「様々な温泉を楽しめるのは、良いですね」
響「そうだ、様々な温泉っていえば……このホテル、温泉街の中にあるんだよな」
真「そうなの?」
響「うん、タダでいろんなお風呂に入れるらしいぞ」
あずさ「明日、巡ってみましょうか」
貴音「ふふっ」
14: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 00:09:55.32 ID:AgX8rZCio
響「ふーんふふーん♪」
響の鼻歌は「READY!!」ですね。
真「お風呂って、やっぱりいいなぁ」
露天風呂の扉が開き、入っていた女性がそのまま大浴場を後にしました。
あずさ「それじゃあ、行きましょうか」
貴音「はい」
真「やーりぃ! 露天風呂ですね!」
響「楽しみだなぁ」
15: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 00:21:12.98 ID:AgX8rZCio
夜空の下、落ち着いた雰囲気の岩風呂が見えます。
響「つ、つめたっ」
真「寒いっ」
あずさ「は、早く湯船に」
貴音「ゆっくり、温かさを感じるのです」チャポ
響「……おぉ」
真「……ふぅー」
あずさ「気持ちがいいわねぇ」
16: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 00:28:22.72 ID:AgX8rZCio
真「やっぱり、露天風呂と中のお風呂は違うね」
響「そうだなー……」
貴音「……月が、綺麗ですね」
あずさ「……あら」
響「……本当だ」
真「……そうか、このへんは、あまり明るいものがないから……」
貴音「客室の窓よりも、美しく見えます」
満月の輝く、美しい空。
その光が、わたくし達の佇むこの場所を、深く深く照らしてくれるようでした。
17: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 00:34:18.08 ID:AgX8rZCio
響「ねぇ、貴音」
貴音「はい?」
静寂。ただ湯の流れる静かな音だけが聞こえています。
響「貴音は、月をよく見るよね」
貴音「ええ」
響「貴音にとって、月って……なに?」
貴音「わたくしにとって、月とは……ですか」
真「難しい質問するね、響」
あずさ「月……」
18: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 00:36:54.43 ID:AgX8rZCio
貴音「母親のようなものでしょうか」
あずさ「母親?」
貴音「ええ。本当の母親とは違いますが、空を見上げるといつもそこにある……」
真「……母親、かぁ」
貴音「ええ。皆はありませんか? 月を見ると、心が安らぐことが」
真「ボクは分からないけど……ホッとすることなら、少しはあるよ」
貴音「そうですか……やはり、不思議な力を秘めているのかもしれませんね」
あずさ「ふふっ、貴音ちゃんみたいね」
貴音「はい?」
19: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 00:38:47.65 ID:AgX8rZCio
あずさ「不思議な人だけれど、みんながとっても信頼している、月のように光で辺りを照らす」
貴音「……」
響「あずささん……かっこいいな」
あずさ「うふふ、少し子供っぽいたとえだったかもね」
貴音「わたくしは、月のようになれているでしょうか?」
真「……うん。ボク、貴音に何度も助けられたしね」
貴音「はて」
真「無意識に、みんなのことを支えてくれているんだよ」
20: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 00:56:59.81 ID:AgX8rZCio
響「そうだな、自分もフェアリーで貴音に何度も助けられたぞ」
あずさ「私も、番組でフォローしてもらったり、事務所に連れてってもらったり」
貴音「……ありがとう、ございます」
真「……でも、急にどうしたのさ、響?」
響「いや……なんだか、思いついて」
あずさ「ええ、わかるかも。なんだかお湯のせいか、おかしな気分になるのよね」
貴音「皆の言葉を聞けて、とても嬉しいですよ」
21: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 01:10:29.43 ID:AgX8rZCio
身体を洗い、最後にもう一回湯船に入り……
……響がのぼせそうだと言うので、すぐにあがりました。
のれんをくぐった先にある、椅子で響は横になっています。
時刻は、まもなく23時になろうという頃。結構な時間、入っていたのですね。
響「ひうー……あついぞー……」
真「……大丈夫? 水でも買ってこようか」
響「水なら……フルーツ牛乳がいいな……」
真「フルーツ牛乳? じゃあ、買ってくるよ」
あずさ「真ちゃん、ちょっと待って。私が買ってくるわ」
真「えっ? いいんですか?」
あずさ「ええ。せっかくだから私がみんなにおごりましょう」
貴音「ありがとうございます、あずさ」
真「わ、悪いですよぅ!」
あずさ「ほらほら、気にしないで」
22: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 01:18:04.59 ID:AgX8rZCio
ガコン、と自動販売機が音を立てました。
一本ずつ瓶を取り出していきます。
あずさの横で、わたくしは二本のフルーツ牛乳を持ちました。
響「ありがと……」
真「ありがとう、貴音」
あずさ「それじゃあ、飲みましょう」
貴音「ええ」
亜美は言っていました。
「お風呂あがりのコーヒー牛乳は最高だけど、フルーツ牛乳もいいよNE」と。
フルーツ牛乳とやら、お手並み拝見です。
一体どんな味がするのか、試してあげましょう。
23: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 01:20:00.62 ID:AgX8rZCio
貴音「――!」
響「やっぱりおいしいなー……」
真「うん……あっ、響!」ペタッ
響「つめたっ」
真「顔真っ赤だし、瓶を顔につけると気持ちがいいよ!」
響「なるほろ……サンキュー真、やってみるぞ」
あずさ「ろれつが回っていないし、今日は早く寝たほうがいいわねぇ。お願いね、貴音ちゃん……貴音ちゃん?」
貴音「はっ……すみません、あまりの美味さに言葉を失っていました」
あずさ「貴音ちゃん、フルーツ牛乳は初めて?」
貴音「……はい。幼少時は、風呂あがりはコーヒー牛乳一択とじいやに言われていましたので」
24: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 01:22:34.83 ID:AgX8rZCio
あずさ「うふふ、きっとやみつきになるわねぇ」
真「この味はクセになりますよね、火照った身体に最高ですし!」
響「フルーツ牛乳、おいしいよねぇ」
貴音「……ふふっ、やはり入浴というものは、面白いですね」
ごく、ごく、ごく。
瓶に残ったフルーツ牛乳を一気に流します。
25: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 01:23:33.85 ID:AgX8rZCio
これは、朝風呂後のフルーツ牛乳も楽しみになってきますね。
貴音「皆……朝風呂も、ぜひ行きましょう」
あずさ「ええ」
真「そうだね!」
響「うんっ」
貴音「では、わたくしはおかわりを」
真「ええっ!?」
26: ◆K8xLCj98/Y 2013/05/25(土) 01:24:38.94 ID:AgX8rZCio
入浴後のフルーツ牛乳ってやつも素晴らしいですよね。甘さで言えば断然こっち。
お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。
28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/05/25(土) 02:59:13.13 ID:YjQt9cVho
朝風呂の人か!
今回もゆったりしててよかったよ!
今回もゆったりしててよかったよ!
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