■STORYM@STER



IA大賞を完全制覇してから数ヶ月、春香と千早と自分でユニットを組んでから初めての全国ツアーをやる事になった。
名実ともに自分たちはトップアイドル、そのトップアイドルが全国を回るツアーという事で、話題性は十分にある。
律子から聞いた話だと、チケットは即日完売、急遽ライブビューイングなんてものもやる事になったとか。
久しぶりに律子の目がお金に染まっていて少し懐かしくなったな。

そんな自分たちのツアーは、名古屋から始まり、大阪、広島、福岡、仙台と続いて、次の会場は沖縄。
自分にとっては凱旋だ。ツアーの準備やら雑誌のインタビューやらテレビ出演やら、纏まった休みが取れなかったお陰で、
今日まで沖縄に帰ってくる事が出来なかった。アイドルとして忙しいのはとても楽しいから良いんだけど、
トップアイドルになって凱旋する、って立ててきた目標が別の目的と一緒くたになって達成する、と言うのは少しだけ複雑な気分。

那覇空港に降り立った自分たちは、照りつける沖縄の太陽に迎えられて今日の宿へと向かう。

「あっついねー!この前まで仙台だったから余計暑く感じない?」

「そうね。あそこは涼しかったものね…。我那覇さん…じゃない、響はやっぱり平気なのかしら?」

「いやー…流石に涼しい所から来るといくら自分でも辛いぞ…。」

「そうなの?…意外だわ。」

「千早は自分を何だと思ってるんだ!?」

「…島人?」

「ち、千早ちゃん、あははははははっ!その答え方はずるいよ、あははは、あははははっ!」

「うがー!!春香は笑いすぎだぞ!!」

騒ぎながら道を歩き、タクシーに乗る。行き先は、港。そこから、自分の生まれ育った島へ船で行くんだ。
そう、今日の宿は自分の実家。民宿を営んでいるから部屋数には余裕があるので、折角沖縄に行くんだから、と春香の猛プッシュでここに決まった。
…気を遣ってくれたのかな?




「めんそーれ!いらっしゃい、みんな。」

実家に着くと、アンマーが出迎えてくれた。少し歳を取った事を感じさせたけど、でも元気そうでそんなに変わってなくて、何となく嬉しくなった。

「お世話になります。」

「お世話になります!あ、これ、ライブのチケットです。」

「あらまあ、ありがとう。」

ぺこりとお辞儀をする春香と千早。春香はアンマーに沖縄ライブのチケットを手渡している。

「なま、ちゃん、アンマー。」

「けーたんなー。…チケットありがとうね、春香ちゃん。必ず行くわ。これからも娘と仲良くしてあげてね。」

「えへへ、はい!」

「あれ?アンマー、はしゃいでないね?自分は春香ちゃんのファンだから来たらきっとキャーキャー言っちゃうわ、って言ってなかった?」

後ろから、にーにーがやってくる。どうやら、アンマーは春香のファンみたいだ。なんか複雑だぞ。自分の娘が一番!じゃないのか?

「ちょっ、ちょっと!ばらさないでちょうだい!」

「あはは、嬉しいなぁ。ありがとうございます、響ちゃんのお母さん!」

春香は春香で暢気だし。

「春香ちゃんにこんな事言われるなんて、とってもうれしいわぁ。」

「やっぱりはしゃぐんだな。…ああ、響。けーたんなー。」

「あっ。なま、ちゃん。にーにー。」

いきなりにーにーに声を掛けられて、ちょっとだけびくっとなる。すると、その様子を察知されたのか、にーにーが少しだけ申し訳なさそうな顔になって、

「響。トップアイドルおめでとう。それと、すまなかったな、できっこないって決めつけちゃって。」

なんて謝ってきた。予想もしなかった事態に自分はちょっと面食らって、

「へ?え、いや、気にしないでよ!自分だって頑固だったし、こっちこそごめん。」

と、少し慌ただしく返答した。春香も千早もにーにーもアンマーも、誰も言葉を発しない少しだけ居心地の悪い空間が出来上がって、
部屋に荷物を置きに行こうか、と言おうとした時に、にーにーが口を開いて、

「ところで、俺…ああいや僕、如月さんの大ファンなんです。是非サインを頂けないでしょうか?」

なんてきっもちわるい台詞を吐いた。

「サインですか?いいですけれど、私で良いんですか?」

「はい、貴方のサインがほしいのです!」

「なんか、にーにーが気持ち悪いぞ…。」

「言ってろ。」

だけど、サインを書くにもまずはこの荷物を置かないといけないって事で一度荷物を置きに行く事になった。
自分は、昔使ってた部屋…を使おうと思ったら、物置にされていた。
仕方ないので客室に荷物を置こうと、客室があるフロアに行くと丁度春香が部屋から出てきて、不思議そうな顔をした。

「あれ?響ちゃん、部屋に荷物置くって言ってなかった?」

「行ったら、物置にされてたんだ。しょうがないからこっちで寝る事にするさー。」

「あはは、物置なんだ。」

「自分、ビックリしちゃったよ。入ったら目の前に古いソファーが置いてあってさ。自分のベッドの上も小物がごちゃごちゃ置いてあったし。」

「あらら。じゃあ響ちゃんも一緒の部屋にする?」

「え、いいの?」

「うん、千早ちゃんも一緒だよ。女子会しよ♪」

「おお、やった!ありがとな、春香!」

春香達の部屋に入ると、千早は色紙にサインを書いている所だった。千早が顔を上げて自分を見る。

「響も、書く?」

「それ、にーにーに上げる奴だろ?なら書かない。」

「そう…。出来ればお世話になるのだし、お兄さんとお母様にみんなのサインを渡したかったのだけれど…。ダメかしら?」

「千早…うん、分かった。じゃあ、書くよ。」

千早に促されるまま、二枚の色紙にペンを走らせる。慣れた物で、ぱっとサインが出来上がった。
春香に手渡して、春香もぱぱっと書き上げる。

「うん、いい出来♪じゃ、渡しに行こっか。」

部屋を出て、多分この時間だと…アンマーが昼の支度をしてるんじゃないかな?と言う事で、食堂へと向かう。
案の定、アンマーは食堂にいた。忙しなく台所の中を動き回る。とても良い匂いだな。
食堂の扉が開いた事に気がついたのか、アンマーは自分たちの方に顔を向ける。

「もうすぐ出来るから、待っててね。」

「はーい!あっ、響ちゃんのお母さんにって、サイン書いてきました!」

「嬉しいわぁ!後で額縁に入れて飾らせて貰うわね!」

「えへへ…。」

照れ笑いをした春香は、そのまま近くの手頃な席に座る。そのまま、机に突っ伏した。

「はぁ~、お腹空いちゃったよ~。」

「だらしないわよ、春香。」

「そうだぞ。もしかしたらこの机拭いてないかも知れないぞー?」

「えっ!?」

「冗談さー。安心して突っ伏すといいぞ。アンマーは働き者だからな。」

なんか春香がばつの悪そうな顔をしていると、お昼ご飯が運ばれてきた。アンマーのご飯は久しぶりだな。
…あ、これは。

「イリチャー…。」

「好きだったでしょう?帰ってくるって聞いたからお昼はこれにしようって思ってたのよ。」

アンマーのイリチャー。東京に出る前は良く作ってもらったっけ。思わず喉を鳴らしちゃったぞ。

「おおっ……アンマー、にふぇーでーびる!でーじ、うっさんやー!くわっちいさびら!」

「うさがみそーれー。」

早速一口。…これだ!アンマーの味、変わってないな…。凄く懐かしい。
懐かしいなーって思っていると、じわりと目の辺りが熱くなってきて、涙がこぼれだした。
なんで自分泣いてるんだろう?ぽろぽろと溢れる涙を拭いながら、もう一口。
優しい味が口の中で溶けていくのと同時に、少しだけしょっぱかった。
それがまた懐かしさを醸し出して更に涙が溢れる。

「響ちゃん…?」

春香が心配そうに声を掛けてきた。千早も、口には出さないけれどとても心配そうな顔をしている。
ううん、悲しいんじゃないんだよ。

「違うさ、これは、またアンマーのご飯、食べられたのが嬉しくて…。」

そうだ。自分は、嬉しかったんだ。そう、嬉しい。沖縄に帰ってきた、って言う実感が、このイリチャーで一気に溢れちゃって。
まーさん、まーさん言いながら涙を流して食べる自分。ぼやけた視界に、春香と千早まで泣いている所が映った。

「二人まで泣いたら、ダメだろ…。」

「だって、響ちゃんがっ、泣くからっ、ぐすっ。」

「私も、響を見て、母を思い出して……。」

トップアイドル三人が泣きながら食事をしている姿は多分他の人が見たら変な風景なんだろう。
お昼を食べに来た島の人達が何事だ、と周りに集まってきたのに気が付くまで、自分たちは泣きながら食事を続けた。




夜になって、自分たち三人は部屋でのんびりしていた。明日は会場入りして最後の打ち合わせ。
テレビをつけると、丁度芸能ニュースで自分たちの事をやっていた。

「響、特集されているわよ。」

「え?…あ。ホントだ。なんか照れくさいな。改めて見ると。」

「いいじゃない。地元のヒーロー扱いで。」

「ヒロインだぞ。…ま、凄く嬉しいけどな。自分は、アイドルになる為に上京してさ。って、この話は多分沢山したよね。」

「響ちゃん、感極まるのはまだ早いよ。明日からが本番でしょ?」

「そうだったな。ふふ、昼のでちょっとしんみりしちゃってるかもな。」

「大変だったんだからね。みんなに質問攻めにされちゃって…。」

「あはは、そんな事言われても出ちゃった物はしょうがないさー。」

「うんうん。んーそれじゃ、寝ようか!明日早いもんね。」

「ええ、おやすみなさい。」

「そうだな、おやすみー。」




翌日。ライブ本番前。
舞台袖に集まった自分たちは、観客の多さに改めて驚く。赤、青、水色、三色のサイリウムに染まった会場は、
ちょっとだけ自意識過剰に考えて、自分の凱旋を歓迎してくれているのかなと自信になっていった。

「みんな自分目当てに来てくれてるのかな?」

「えー、響ちゃんだけ目当てって事はないよ!…でも、おかえり、って迎える為にみんな来てくれてるのかも。ちょっと羨ましいな。」

「ふふーん。何たって自分は、沖縄のヒロインだからな!」

「流石にそれは言い過ぎだと思うのだけれど。…そろそろ始まるわね。」

「準備しないとだね。よーし、集まってみんな!」

「お、いつものだな?」

「うん!さあ、会場全体に声を届けるよ!」

「力一杯歌を歌いきるわ!」

「育ててくれた沖縄に、恩返しさー!!」

「いくよー!!」

「「「ファイトー!オー!!」」」

声を上げて、自分たちは光り輝くステージへ駆けだしていく。

「みんなーー!!!お待たせー!!なま、けーやびたん、ただいま!!うちなぁーー!!」


おわり