店員「らっしゃあせぇ! 食券をお買い求めくぁっさーい!」



 ラーメンのスープを濃い目に作り、濃厚に極太麺に絡める。
 茹で上げられ冷水で締められた麺の、押し返すような歯応えと喉越し。
 麺によって冷まされてもなお、強烈な個性を残す味覚を伝えるスープ。

 【沈黙のグルメ】。今宵のテーマは、そう。「つけ麺」である。



店員「特製濃厚魚介つけ麺の大盛りでよろしかったでしょうかー」

貴音「……はい」

店員「麺は熱いのと冷たいのお選びいただけますがー」

貴音「冷盛りで」

店員「かしこまりましたー! 4番さん、特選つけ大いただっきゃーしたー!」



 いわゆる日本そばでは、ポピュラーな食べ方である「ざるそば」。
 一方で中華料理における麺料理を由来に、独自の発展を発展を遂げた「ラーメン」。
 いわば「つけ麺」は、この二つのメニューを融合した、新たな試みとも言えよう。



貴音「…………」



 さて、日本における「つけ麺」の元祖には、諸説問われている。
 その一つの大きな潮流が、東京・池袋「大勝軒」にて供された「もりそば」である。
 元は賄い料理の一つだったものを、冷やし中華にヒントを得たスープで供した。
 冷たい麺であることで食が進むことも考慮し、通常の中華そばよりも大盛りに。
 また温かいラーメンよりもスープを濃厚にすることで、印象の強い味付けを産んだ。



貴音「…………」



 つけ麺は、時間がかかる。

 近年主流となった「つけ麺」は、2000年頃に登場するようになった。
 魚介と豚骨を合わせ、さらに乾燥魚粉を加えることで、よりパンチの効いたスープ。
 ずっしりとした極太麺は、濃厚なスープに程よく絡み、味のハーモニーを奏でる。

 じっくりと、柔らかく口の中でほどけるチャーシュー。
 長く煮込まれて、とろけるような味わいを演出する、味付け卵。
 食感に刺激を与え、また乳酸発酵を元に独特の食味を与えるメンマ。

 しかし「つけ麺」の本懐は、食と言う行為を「パワー」として考えることにある。



店員「お待たせしゃっしたぁ! 特製濃厚魚介つけ麺の大盛りです!」

貴音「ありがとうございます……」

  ぱきっ



 通常のラーメンよりも、普通盛りでさえ量は多い。
 しかし「つけ麺」を愛する人々にとっては、この「量」こそが「つけ麺」の醍醐味。
 食べごたえのある麺、こってりとしたスープ。すべてを、たくさん味わい尽くす。



貴音(……ずるずるっ! ずるるっ! ちゅるるんっ!!)モグモグ

貴音「…………っ!!」



 水で締められた麺に、すだちを軽くしぼって混ぜることで、味に爽やかさが加わる。
 熱々のスープと冷たい麺の相乗効果により、どっしりと舌に乗るスープの味わい。
 小麦の香りを鼻腔の奥深くに感じられる、その極上の太麺。



貴音(……ずるるっ! ずぞぞぞーーーっ!!)モグモグ

貴音(……じゅるっ!! ずちょちょちょっ!! ちゅるるるるんっ!!)モグモグ

貴音「…………ふぅ」



 このハーモニーを長く長く味わうために、そして必要以上にスープを冷まさぬよう。
 麺とスープの丼、二つの世界をせわしなく行き交う、箸。
 時として、啜り上げた麺の先がハネて、スープを散らすもまた「つけ麺」なり。



貴音(……ずるずるるるーーん!! ちゅるりんちゅるりんちゅるるるらー!)モグモグ



 少しずつスープは冷め、また少しずつ薄まり、その味わいを変えてゆく。
 その変わりゆく味わいもまた、かつて大勝軒に供された「もりそば」が目指した物。
 時の移ろいとともに変わりゆく様を受け入れ、最後の瞬間までをも、味わい尽くす。



貴音「…………」コポコポコポコポ



 そして、ざるそばに欠かせない「そば湯」の存在と対比するように。
 そのまま賞味するには味の濃すぎるスープを、透き通った鶏ガラ出汁で割る。
 俗にいう「スープ割」。いまや「つけ麺」の仕上げには、欠かせぬ存在だ。



貴音(ずぞぞぞぞぞっ! ずるるっ! じゅぶるるるるるっ!!)ゴクゴク

貴音「……ごちそうさまでした。真、美味しうございました」



 東京・萩窪、麺屋ほつがい。萩窪駅南口から、徒歩5分。
 女性客ように、髪ゴムや前掛けも用意されている。



D「はい、オッケーっす!」

千早「…………四条さん、ほんとに毎回よく食べるわね」

(ナレーション:如月千早)





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