「はい、はい――本当にすみませんでした。失礼します」
 僕が受話器を電話機に置いてもまだ、彼女は泣きべそをかいていた。ソファーに座るよう促しても彼女は座ろうとしなかった。
「なあ、気にするなよ。誰だって……例えば春香だって似たようなミスはやったさ」
 ずずっと鼻水をすすって、彼女は疑わしそうな目を僕に向けた。
「本当?」
「本当本当」
 ほら、と僕はソファーに座って、隣の席をぽんぽんと叩いた。ようやく彼女は腰を下ろした。
 彼女はテーブルの上のティッシュを一枚引っ掴んで、涙をぐしゃぐしゃと拭った後、ちーんと鼻をかんだ。何となく、子供らしさを残したその仕種に僕は頬を緩めた。
「落ち着いた?」
「ん……」
 こくりと頷いた彼女の細い首には、幼さと女性らしさを漂わすなだらかなカーブがあった。
 落ち着いた、らしいが、僕は今しばらく黙っていた。
 時々思う。女性と言うのは、例えいくつ年を取っても永久に少女なんだと。彼女もまた、その永久の少女期間の始めに立っていた。
 そして、今日は彼女の誕生日。いや、彼女たちの誕生日――十四歳だったか。
 彼女はふん、と一つ鼻から息を吐いてから言った。
「誕生日のお祝い、やっぱりいらないや」
「それは……どうして?」
「……上手く……できなかったから」
 僕の隣の彼女は悲しげに俯いた。普段は見られない、静かで憂いのある表情が蛍光灯の白に色を輝かせる。
「――に、申し訳ないか?」
「……それもあるけど」
 僕は彼女の悲しみが伝染してこないよう、多少無理に微笑みを作ってやった。
「思ったことを言ってごらん。……何せ、今日は誕生日だから、誰も文句を言えないさ」
 まるで教師だな、とは僕の友人の弁だ。僕のアイドルのプロデュースという、一見華やかな仕事について訊かれ、ありのままを話したらそう返された。
「もし、ああなったのが――じゃなかったら。……今ここに居るのが――だったら」
 はあ、と彼女は溜息をついた。
「もっと、上手くやってたと思うんだ」
「それは、今の仕事のこと?」
「ぜーんぶっ」
 彼女は身体をばたんと僕の方に倒して、膝の上に頭を乗せた。結び髪が楽しげに揺れているのを僕は眺めていた。
「きっとね、僕は思うんだ……」
「何を……?」
 彼女はまた小さく溜息をついた。その悲しげな考えが詰まっているであろう可愛らしい頭を、僕は優しく撫でた。彼女は目を閉じたようだった。見なくても分かった。
「きっとね、――も、同じことを言ったと思うんだ」
「どうして分かるの……」
 彼女は目を瞑ったまま返事をしたんだと思う。
「だって、双子じゃないか」
 僕の膝を枕にしてソファーに寝転がった彼女の身体が、静かに震えたようだった。少し呼吸を置いて、綺麗なすすり泣きが聴こえてきた。目を瞑ったまま泣いているのかな。僕は彼女の髪や肩を撫でた。
 すすり泣きに混じって、笑い声も聴こえた。
「そうだよね、そうなんだ。――もきっと同じことを言ったよね」
 彼女は身体を起こして、またティッシュで涙をごしごしと拭って、鼻をかんだ。
「兄ちゃん、ケーキ食べよっ」
「うん、そうだな。二人の好きなケーキを、僕は買ってきたんだ」
 僕はソファーから立って、冷蔵庫にしまっておいたケーキを取り出してテーブルに置いた。
「二人とも、誕生日おめでとう。これからもよろしく」
「兄ちゃん、ありがとう。これからもよろしく!」
 僕と彼女の二人で、ケーキを食べた。いつか見た金木犀みたいに甘い匂いが、僕らを暖かく抱いてくれた。