律子「春香、リボンの角度が左右で違うわよ?」


律子がメガネを買い替えた。


律子「これもしかして千早の楽譜じゃない? テーブルの上にあったわよ」


前のメガネでは度が合わなくなったから、との事だ。


律子「美希、仕事に出る前に、よだれの痕、拭いときなさいね」


元々、色々な事に気が付く律子だったが。


律子「真、靴紐が緩んでるわ、危ないから直しときなさい」


メガネを変えてから。


律子「雪歩、今日はいつもより顔色が悪いわよ? 大丈夫?」


より一層、色々な事に気が付くようになったと、思う。


律子「やよい、そのちらし、昨日のよ?」


そう、それは。


律子「あずささん、携帯、携帯忘れてますって!!」


仕事も。


律子「亜美、何か歩き方おかしくない? 足痛いの?」


事務所の事も。


律子「真美、今朝から亜美と話していないようだけど、もしかして喧嘩したの?」


皆の事も。


律子「貴音、この前のグラビアなんだけど、貴音はこの角度も凄く綺麗だと思うの」


律子は、そのメガネで何でも見つける。


律子「伊織、がんばり過ぎて身体壊しても意味が無いのよ? 少し休みなさい」


そして、それは。


律子「響、ほら、ハム蔵、見つけておいたわよ」


俺も例外では無いのだ。


律子「ん? 何ですか? プロデューサー、ほら、ネクタイ、曲がってますよ?」


だから俺はそのメガネを外して。


律子「な、何ですか、ちょっと、返してください!」


律子が、唯一見えてないモノを、そのレンズ越しに、見る。


律子「……ふふふ、プロデューサーには少し度が強いでしょ?」


歪んでぼやけた映像でも。


律子「ほら、もう返して下さい、指紋とか、つけないで下さいよ?」


律子の、色々な疲れは、良く、見えた。


律子「……プロデューサー?」


自分のメガネを、律子にかける。


律子「えっと、こ、これじゃあ、あんまり見えませんよ?」


丁度良い。


律子「…………でも…………その」


少し、見え難いくらいが。


律子「……ありがとう、ございます」


丁度良い。