「はぁ、疲れた……」

「お疲れ様、冬馬。迎えにいけなくてごめんな」

「げっ、765プロの……!」


担当しているアイドルだというのに、いつも驚かれてしまう。一緒に居る期間も長いというのに、『天ヶ瀬 冬馬』はいつも嫌な顔をして一向に心を開いてくれない。


「765プロのって……冬馬も今じゃ立派な765プロのアイドルじゃないか。そろそろその呼び方をだな」


冬馬は自分の事務所、961プロを辞めてからはずっと自分達の力を信じてくれる事務所で頑張っていたみたいだが、そこでもまた色々あったみたいで、今は765プロに所属している。最初は抵抗があったみたいだけど、今はすっかり765プロに溶け込んでる。

春香達とも仲良くやっているけど、どうしても俺だけ微妙な反応をされてしまう。やっぱり俺が男だから微妙な反応をされるのだろうか?


「いや、なんか恥ずかしいんだよ」

「恥ずかしい?」

「気恥ずかしいというか、なんというか、今の呼び方が一番慣れてるんだよ」

「ぷっ、なんだそれ」

「うるせぇ! 今まで俺達の帰りを待ってくれる奴なんていなかった。だから嬉しい。でも、なんかプロデューサーって呼ぶのは恥ずかしいんだよ」


そうか、今までジュピター……冬馬にはお疲れ様を言ってくれる人が周りにいなかったんだ。961プロ、前の事務所、どんな扱いを受けていたかは分からない。でも、今は『765プロ』のジュピター、天ヶ瀬冬馬なんだ。これからは俺がしっかりとお疲れ様を言ってあげないとな。

なんだ、別に嫌われている訳じゃないみたいだな。ホッと一息付くと、冬馬の方に視線を向ける。さっき自分で言った事が恥ずかしかったのか、頬を赤く染めてそっぽを向いていた。


「冬馬、これからは俺がプロデューサー。絶対に見捨てたりしない。最後まで俺が面倒を見るから」

「なんでなんだ……。なんでアンタは余所者の俺にそこまでしてくれるんだ? 765プロの事も散々言ってきたし、認めてなかった。それなのに、961プロも辞めて次の事務所も辞めた。そんな俺に……んっ!?」


俺は冬馬を抱き締めた。声が震えて、涙を堪えている冬馬を見ていると少しでも安心させてあげたかった。冬馬はずっと気にしていたんだ。今までの事を。忘れるなとは言わない、でも今は今、冬馬は俺のアイドルなんだ。


「いつか言ってたよな。俺がプロデューサーだったらって。そして今は俺がプロデューサーで冬馬がアイドル。冬馬が選んでくれたんだ。だったら、その思いに答えるのが俺の仕事だ」

「だからっていきなり抱き締めるなよ………。あのリボン達をトップに連れていったように、俺も連れていってくれよ。俺も頑張るからさ、赤羽根プロデューサー……」

「あぁ、約束だ……」


冬の寒い事務所の中で、生暖かい唇と唇が重なりあう。二つの吐息が無音の部屋に響き渡り、何度も何度も重なりあう。アイドルとプロデューサー、冬馬と俺、二人だけの空間がいつまでも続くように。