響「なぁ貴音。自分にも分かるようにちゃんと説明してくれない?」

貴音「きしめん」

響「!?」

貴音「呼んでるのです」

響「何が!? きしめんが!?」

貴音「らぁめんが」

響「どっち!?」
貴音「響、らぁめんときしめん、どちらを食しますか」

響「いや、だから、自分に分かるように説明してくれよ!」

貴音「ですから、きしめんが呼んでいると」

響「呼んでないでしょ!?」

貴音「さあ、行きますよ響。食事の時間です!」

響「うぎゃー!!誰かー!貴音がー!!」

…… ※ ……

貴音「着きました。名古屋ですよ、響」

響「新大阪ってアナウンスしてるぞ!? 新大阪って書いてあるぞ!?」

貴音「大丈夫です、食の都大阪ならば、名古屋の料理も食せます」

響「そうじゃなくて! 通過しただろって言ってるんだ自分は!」

貴音「さぁ、まずは小腹が空いておりますのでたこ焼きを食しましょう」

響「きしめんが呼んでた話はどこに行ったんだよ!?」

貴音「……はて。きしめんの声が聞こえなくなってしまいました」

響「都合のいい幻聴だな!!」

貴音「いけません。まずはたこ焼きです!」

響「なにが『まずは』だ!!」

貴音「……響、私としたことがとんでもない間違いを犯す所でした」

響「大分前から間違ってるけど?」

貴音「自らが食すものを、他人の手にゆだねて良い物でしょうか」

響「外食ってのはそういうもんだろ?」

貴音「いいえ響。この近代化された社会において、私達は何をすべきか」

響「その文明を享受しようよ」

貴音「響!文明に頼りきりでどうするのです!」

響「貴音が今乗ってきた新幹線は何なんだよ!」

貴音「……作りましょう、響」

響「えっ……?」

貴音「たこ焼きを、作りましょう」

響「意味が分からないぞ」

貴音「さあ響、行きますよ」

響「ちょっ、まって、どこ行くんだよぉ貴音ぇぇぇ!!」

貴音「たのもーーーーーーーーーー!!」

響「いきなり道場破りをするな!!」

春香「はいなー、いらっしゃいませー」

貴音「この店の主人はそなたですか?」

響「よく見ろ貴音! だからメガネ買えって言ってるんだよ!」

春香「はいはい、私がここの主人ですけど?」

貴音「たこ焼きの作り方を、教えていただきたいのです!」

春香「たこ焼きの……作り方を……?」

響「貴音もだけど春香もだ! お前が止めないでどうするんだよ!?」

春香「……お客人。あんさん、たこ焼きに必要な『たちつてと』って知ってますやろか?」

貴音「たこ焼きの……『たつちてと』……っ!?」

響「誰かー! 律子呼んできてー!!」

春香「『た』はもちろん、たこの『た』や!!」

貴音「たこ……!!」

響「あぁぁ!! 勝手に話を進めるなぁぁ!!」

春香「そして『ち』……縮れ麺の『ち』!」

響「いやっしかもたこ焼き関係ないだろ!!」

貴音「縮れ麺の『ち』……」

春香「『つ』は勿論……」

貴音「ごくり……」

春香「使いっ走りの『つ』だぁーー!」

響「無視すんなーーー!」

春香「さあついに残るは2つ……覚悟しいや」

響「覚悟しなきゃなんないようなものなの?」

春香「て……ては」

貴音「て……」

響「て……」

春香「鉄板の、て」

響「案外普通だなぁおい!」

貴音「ては鉄板の……て!」

響「そんなに驚く事じゃないよ」

春香「……最後や、これで最後や、今までのはほんの小手調べや、正直なくてもかまへん」

響「ならやんなよ!何だよこの長い前振りは!」

貴音「師匠……教えてください、最後の……最後のと、とはなんです……」

春香「……あかんな」

響「へっ?」

貴音「な……」

春香「今日はもう帰りなはれ」

貴音「なっ……何故です!最後の「と」は何なのです!」

春香「まだあんさんにはこの「と」を教えるには早いんや……まだ、な」

響「何なんだよぉ!もうさぁ!」

春香「せやな……そしたら」

貴音「そしたら……?」

…… ※ ……

貴音「……と言うわけで、私たちは東京に戻らされてしまいました」

響「うう……お腹へったぞぉ……きしめんもたこ焼きも食べられずに……」

貴音「あの『師匠』のおっしゃっていた『たちつてと』の『と』……その鍵を探さねばなりません」

響「もうなんでも良いからさぁ、何か食べて事務所帰ろうよ貴音ぇ~!」

貴音「……響」

響「はっ、はい!?」

貴音「ここまできて引き下がるようでは……私たちの『アイドル』に賭ける気持ちも安く思われます」

響「どう関係があるんだよ! たこ焼きの奥義とアイドルは関係ないぞ!?」

貴音「『たこ』『縮れ麺』『使いっ走り』『鉄板』…………はっ!?」

響「どうした貴音!?」

貴音「そうですか……『師匠』はこうおっしゃりたかったのですね……深く染み入ります」

響「わかったのか!? 最後の『と』が!」

貴音「はい……たこ焼きの『たちつてと』、最後の『と』は……――――

   ――――『ともだち』の『と』だったのですね。師匠」

響「…………貴音」

春香「あ~、悪いけど全然ちゃうで?」

響「!?」

貴音「師匠……!」

響「春……じゃなくて、師匠も東京来てたの!?」

春香「なんなら同じ新幹線でやで? いやあ、うちもなんやかんやで心配でなぁ?」

貴音「師匠、先ほどの言葉は真でしょうか? 本当に『ともだち』ではないのですか?」

春香「全然、ちゃう。ええか? ともだちがナンボのもんや。そんなもんで粉もんの味が変わるわけおまへんがな」

響「765プロそのものを全否定された気分だぞ!? その言葉、千早の前でも言えるの!?」

貴音「……だとすれば、一体『と』とは?」

響「うぎゃ~!? 自分を無視して進めないでよ!」

春香「とりあえず、北。行こか」

貴音「はい……!」

響「ああ、東北まで行く流れなんだ……?」

貴音「さあ、行きますよ響、ぼさっとしてないで!」

響「で、自分も行く流れなんだ……」

…… ※ ……

貴音「さあ、着きましたよ響。ここが青森。津軽らぁめんの地ですよ!」

響「……たこ焼きは?」

貴音「そう、でしたね……ああ、津軽らぁめん……しばしの別れです……」

響「まだ食べてすらないだろ……」

春香「ほな、こっからバスで移動するから、早よ乗って」

響「わあ!? 袖を引っ張らないでよ!……って言おうと思ったら」

貴音「?」ズルズル

響「ズルズルって、らぁめん啜る音!? せめて向こうに着くまでは我慢しようよ!?」

貴音「ほうしわけありわへん」モグモグ

春香「何しとん、早よ行くで!?」

…… ※ ……

響「いやあ、思えば遠くまで来たもんだ。青森って思ってるよりも遠いんだな?」

貴音「この地に師匠の言う『と』があるのですか」

春香「あるんやで」

響「自分が言うのもなんだけど、春……じゃなくて師匠の関西弁の胡散臭さ、もうちょっとどうにかならないの?」

春香「ほなら、うちはここまでや。この先はこのメモに書いてある通りに進んでそこにおる人を訪ねたらええ。ほな、さいなら」

響「一体なんだったんだ……」

貴音「では行きましょうか、響」ズルズル

響「ビックリするくらい寒いぞ……」

貴音「ほうでひょうか」ズルズル

響「どんだけラーメン啜ってんだよ! ていうかラーメン食ってるから寒くないだけでしょ!」

貴音「七味あります」

響「そんなもん持ってないぞ!」

貴音「間違えました。一理あります」

響「ただのダジャレじゃないか!」

貴音「しかし七味をかけたら辛さでもっと温まると思いませんか?」

響「ラーメンに七味って美味しいの?」

貴音「えぇ、味噌などは特に」

響「へぇ」

貴音「さて、腹ごしらえも終わりましたし、こちらのめもにある様に行きましょうか」

響「もう、どうにでもなれ……」

…… ※ ……

貴音「たのもーーー!!」

あずさ「あら?貴音ちゃん」

貴音「たこ焼きの『と』の教えを学びに参りました」

あずさ「ああ、春香ちゃんの教えね……ふふ、覚悟は出来てる?」

貴音「ええ、その覚悟は出来ております」

あずさ「『と』、それは……」

貴音「それは……!」

あずさ「オクトパスの『と』よ!」

響「たこじゃないか!!!しかも頭文字ですらないし!!!」

貴音「響……」

響「なに……?」

貴音「たこ焼きは、たこで始まり、たこで終わるのです」

響「ああ、そう……」

あずさ「良く気づいたわね、貴音ちゃん……私から、教える事は何もないわ……」

響「いや、あずささん、『と』以外何も教えてないよね?」

貴音「いえ、全ては師匠の教えのお陰……」

あずさ「たこ焼き道に行き詰まったら、いつでもここにいらっしゃい」

貴音「はい、あずさ……。さぁ、帰りますよ、響」

響「ようやく解放されるのか……!」

貴音「いいえ、響……まだまだ、これからですよ」

響「へ?」

貴音「私たちは登り始めたばかりなのです……この、果てしなく長い、コーチン坂を」

響「そこはたこ焼きだろぉぉぉぉ!!!!!!」


おわり