「ふぅ、疲れたぜプロデューサー」

「今日は特に大変そうだったな北斗。お疲れ様」


疲れたといいながらもいつも通り笑顔の北斗。その両手には小さな箱から大きな箱まで袋一杯に積めてある。予想はできる……今日は 二月十四日、バレンタインであり北斗の誕生日。ジュピターが765プロダクションにきて初めてのバレンタイン。予想以上のチョコの数に戸惑っているが、一番は大半が北斗宛てという事だ。


「しかしすごい数だな」

「毎年プレゼントとチョコレートをくれるけど、今年は今までの中で一番多いかも。あっ、でもエンジェルちゃん達もこの日を待ち望んでいただろうし、当然かな? 流石に貰いすぎだけどね」


箱一杯の袋をソファーに置くと、満更でもなさそうな表情を浮かべて俺の方に視線を向けていた。貰いすぎと言いつつもどこか嬉しそうで、自慢気な態度に、やっぱりなにか凄い魅力を感じてしまう。

北斗は一つ一つ箱を手に取り、その箱を開けるとファンレターを読み上げていく。読んでいる途中に当然といった様な顔をちらつかせながらもやっぱり嬉しそうだった。


「なぁ、プロデューサー。俺さやっぱりアンタに感謝してる。こうやってまた表舞台で輝けて、可愛い子ちゃん達から声援もらってさ。このプレゼントにチョコレート……まぁ、前から貰えてたけどさ」

「お礼を言うのは俺だよ。765プロのアイドル達と兼任してジュピターもプロデュースしてるし、あんまりジュピターに手を掛けられていない状態なのに、それでも俺についてきてくれて」

「まぁ、確かに765プロのエンジェルちゃんや冬馬達とばっかりだよね」

「ごめん、ごめん。気持ちと言ってはなんだけどこれプレゼントだ。誕生日おめでとう北斗」


自分なりの感謝の気持ちと謝りの気持ち、たまたま北斗と二人での仕事、誕生日でバレンタイン。どっちも含めて俺は腕時計とチョコレートを手渡してみた。北斗はプレゼントを受け取ると、キョトンと少し驚いたような顔をしていたが、頭をかきながらありがとうと小さな声で呟いた。

プレゼントしたチョコレートを開けてみると、少し悪そうな、何か企んでそうな 笑みを浮かべ俺の方に近付いてきた。


「どうした、北斗……?」

「そうだよね、僕に構ってくれない赤羽根プロデューサーにはお仕置きが必要だよね」

「ちょっ、ちょっと待っ……」


壁に手を当て身動きが取れない俺に、北斗はチョコレートを口に加えて、少しずつ顔を近付けてきて、チョコレートが俺の唇に触れる。強引に押し込んでくる北斗に俺はつい口を開けてしまう。口の中にはチョコレート、柔らかい唇が俺の唇に触れ熱を感じる。

舌と舌、チョコレートが溶け込んでビターな苦味、北斗の甘い香り、頭の中がとろけてしまう。チョコレートが口の中に無くなると北斗は唇を離し、俺は至近距離で北斗の目を見詰めていた。綺麗な瞳に写るのは今にでも俺を食べてしまうんじゃないかと錯覚してしまう野獣のような目。そんな、北斗の目に見とれてしまっていた。


「赤羽根プロデューサー、これからもよろしく。じゃあ僕は春香ちゃん達にもチョコを配ってくるよ。チャオ☆」


いつも通りの北斗に戻ると、部屋を出ていった。やっぱり何処か魅力的な北斗。でも今日の北斗の目、瞳の奥に見た野獣を俺は忘れない。また一つ、知らない北斗の顔を見た。


END