うちのプロデューサーは、優しい。
気遣いも良く出来るし、事務所でもとても紳士的に振舞っていると思う。

悪く言えば、優柔不断で仕事以外の物事を即断出来ない。
そういう時はいつも私が背中を押してあげなければいけない。

「いつもごめんな、律子」

泣きそうな顔で、毎回プロデューサーはその台詞を言う。

「困ってる時はお互い様です」

納得しているように見えないけれど、納得しているという事にしておく。



うちのプロデューサーは、動物が好きだ。
昔は良く捨て猫や捨て犬を拾っては、親を困らせていたらしい。

「今は一人暮らしだから、困らせる人も居なくて良いんだけどな」

……それはつまり、拾う癖は直ってないという事では。
問いただしてみると、その予想は概ね合っていたようで、
後日プロデューサーの家に泊まりに行ったら、大量の動物で溢れかえっていた。

「部屋は分けてるから、そこまで迷惑掛けないと思う」

そういう問題では無いのでは。
これから先、こんな家に住み続ける予定があるのかと考えると気掛かりでしょうがない。



うちのプロデューサーは、泣き虫だ。

飼っている子たちの命が消える度に、プロデューサーは涙を流す。
「今まで生きてくれてありがとう」、と。

そんなに悲しい気持ちになるのなら、飼うのをやめたらどうと言っても、
首を縦に振る事は一度も無かった。

「この子たちは、俺と一緒で幸せだったのかな」

決まってプロデューサーはそう言う。

「私は動物の心を読めませんから……。 解りません」

決まって私もそう言う。

結婚して6年。 この掛け合いの回数も大台に乗ってきた。



どれだけ歳を取っても、どれだけ皺を増やしても、あの人の癖は直らなかった。
直しちゃダメだと思ったから、私も強く言う事も無かった。

惚れた弱みかもしれない。

真っ白い部屋の中に隣同士、ベッドで横たわり小さくなる波を見ながらそう一人ごちた。
自動で吹き込まれる酸素と点滴で意識だけは鮮明なまま。
隣の貴方はどうなんだろうか。

「いつもごめんな」

呼吸器のせいで、こもって余計に年寄りの耳には聞こえづらいしゃがれた声。
やっとの思いで首を傾けると、ようやく顔が見えた。

「お前は、俺と一緒で幸せだったか」

そんなシワシワな体をしてるのに、どこからその量の涙が出るんだか。
貴方はいつも、冷たくなった子を抱いては涙を流してそんな事を言ってましたね。
私もいつも、解らないと言ってお茶を濁してましたね。

けど、今なら貴方に飼われた子たちの心が読めますよ。
そしてこれは、私の心からの言葉。 気遣い出来るほど若くありませんから。

「        」