仕事と仕事の合間の時間
今日は兄ちゃんが真美を次の現場に車で送ってくれるそうだ
少し楽しみだけど、ちょっとイヤでもある・・

兄ちゃんをからかうのは楽しい、いつも亜美としてた
だけど最近は亜美も真美も仕事が忙しくてそんなに遊べて無いし
そもそも亜美無しで真美と二人っていうのが、あの、その

ブツブツ

なんてしてたら、お迎えが来ちゃった。




「ご苦労であったぞ兄ちゃん!」

ビシッ!と敬礼をしながら、助手席に座る
そのまま、シートベルトを締めて、出発。

「おーお疲れ。ちょっと走るぞ」

「んえ?どれくらい?」

「ん~・・道路の状況にもよるけど・・2~30分くらい?」

「ふ、ふ~ん」

そうかぁ。そんなにかあ。

ゴソゴソと鞄から仕事の資料を取り出して、少し目を通すことにした

「酔うなよ」

「あーい」





カーステレオから小さくラジオが流れたり
ずっと走って、カチカチとウインカーの音がしたり
たまに赤信号で止まったり
あと、たまに兄ちゃんのひとりごと

なんだかこういうの、こういうゆっくりした時間って、実は久しぶり?
学校行っても勉強は難しくて眠いし、体育は張り切っちゃうし
休み時間は友達と一緒でめっちゃ楽しいし

毎日ワイワイガヤガヤ

でも今のこの時間ってすっごい静かだなあって

「どうした?」

「へ!!?!!!?」

「いや、なんかすごい視線を感じてた」

「え、あ、そう!?いや、あの」

「あ、ごめん青になった」



いつの間にやら兄ちゃんを見てたらしい
・・・いやいや、そんな、ありえないし
真美は超すっごいイケてるアイドルだから、今はオシゴトの資料を見なきゃで
見なきゃなんだけど

けど


兄ちゃん髪少し伸びたな
毎日忙しくて大変そう、白髪の1本でもありそう
眼鏡、もうヨレヨレじゃん。
765プロに入ったときからずっと同じ眼鏡?
あ、ちょっと額に汗?西日が暑いもんね
腕まくりしてるから、いつもより腕が見えてるし
ハンドルを持つ手はゴツゴツしてて、指はちょっと長くて
それから、運転中はキッとした目するんだなあ、珍しい



またハッとして視線を自分の手元に戻した


顔が暑い。
喉渇いた。
体の奥が痺れている感覚。
麻痺しているみたい。



「ねえ兄ちゃん」

「なんだ?」

真美の手にある台本や資料が、クシャリと音をたてる
なんとなく強く握ってしまっていたようだ

「ねえ」

「・・なんだよ」

真美も資料から目を離さないし、兄ちゃんも運転してて前を見てる
こんな、目も合わせない愛の告白なんて嫌だな、でも、合わせなくてよかったな

ん?愛の告白?ってなに?

「あの、さ」

「・・・どうした?」

赤信号、ゆっくり止まって、ブゥンと鳴るブレーキ音
こちらを向く兄ちゃん。いつもの顔だった。


「あの、


(このまま、一緒に逃げちゃおうよ!!)



・・・なんでもないよー!」

いつものパッとした真美の笑顔

「おいおいからかうのはやめろよー」

頭にポン、と兄ちゃんの鉄拳制裁
ちょっとムカつくくらいのドヤ顔?なんて言うんだろう、優しい顔?



信号が青に変わって前を向く
一瞬だけの真美独り占めの表情だった


真美は、逃げることを選んだ
逃げる?兄ちゃんから?
逃げちゃおうって、そういう意味??


ん?何かヘンでしょ?これじゃまるで、真美が兄ちゃんのこと好きみたい!


































そんなの無理。叶うわけないじゃん。
なんていうの?リアリスト?そう、現実主義者なの、真美は。
フツーに考えて無理っしょ?
だから気付いちゃっても知らないふりをしてフタを閉めるの


全速力でそこから逃避行するんだ。