◆オーディション
自分、沖縄から上京してきてアイドルをやってるんだけど、
ある日オーディション会場で事故にあいそうになったんだ
ステージの上でパフォーマンスしようとしたら、照明の器具が降ってきて、床はぐっちゃぐちゃ
もしあそこに立ってたら死んでいたかも…
それから毎週オーディションを受け続けたけど、毎回照明は落ちてしまう
しかも回を重ねるごとに、確実に自分の立っていた場所に近づいてくる…
怖くなった自分は同じ事務所のTさんに助けてくれってお願いしたんだ
Tさんは「ほう」ってそっけなく聞いてたんだけど、自分のオーディションに来てくれることになった
オーディションの日、いつも通りステージの前で名前を言ったんだ
「我那覇響です! よろしくお願いします!」
すると審査員の男がピクリと身体を動かしたような気がした…
何かがおかしい、そう思って舞台袖のTさんをちらりと見た
心得た、と言ったようにTさんは「破ぁーーー!!」と叫んだ
するとTさんの手からカーマインレッドの光線が飛び出し、あの怪しい審査員の身体を貫くと、
照明の器具がばったばったと落下してきた!
すべて落ちたあとで「これで安心ですね…」と片手でどんぶりを持ってラーメンをすするTさん
月生まれってすごいぞ…そのとき初めてそう思ったんだ
自分、沖縄から上京してきてアイドルをやってるんだけど、
ある日オーディション会場で事故にあいそうになったんだ
ステージの上でパフォーマンスしようとしたら、照明の器具が降ってきて、床はぐっちゃぐちゃ
もしあそこに立ってたら死んでいたかも…
それから毎週オーディションを受け続けたけど、毎回照明は落ちてしまう
しかも回を重ねるごとに、確実に自分の立っていた場所に近づいてくる…
怖くなった自分は同じ事務所のTさんに助けてくれってお願いしたんだ
Tさんは「ほう」ってそっけなく聞いてたんだけど、自分のオーディションに来てくれることになった
オーディションの日、いつも通りステージの前で名前を言ったんだ
「我那覇響です! よろしくお願いします!」
すると審査員の男がピクリと身体を動かしたような気がした…
何かがおかしい、そう思って舞台袖のTさんをちらりと見た
心得た、と言ったようにTさんは「破ぁーーー!!」と叫んだ
するとTさんの手からカーマインレッドの光線が飛び出し、あの怪しい審査員の身体を貫くと、
照明の器具がばったばったと落下してきた!
すべて落ちたあとで「これで安心ですね…」と片手でどんぶりを持ってラーメンをすするTさん
月生まれってすごいぞ…そのとき初めてそう思ったんだ
◆車
いつも通り、事務所からテレビ局に行くときのこと
普段は律子の運転する車に乗るけれど、この日は律子の都合でタクシーを使うことになったわ
伊織一人で大丈夫?
とか聞かれたけど、タクシーぐらい乗れるわよ!
って啖呵を切った
「汐留まで」
そう言って運転手を見たら、どこかがおかしい
「シオドメ?」
「ひっ!」
運転手は人間とは思えない顔色で、後ろの席に座ると私を見つめていた
このタクシーに乗っていたら死んでしまう、直感的にそう思った
私はドアを開けようとしたけれど、ピクリともしない
そのうち、タクシーは猛スピードで走り始めてしまった!
赤信号の列にこのままだと突っ込んでしまう…
そう思いながら顔を伏せようとしたその瞬間、車の正面に見覚えのある顔があった
「社会に溶け込み不埒な……」
正面に立っているのは……月生まれのTさん!
Tさんは両手を車に向けてかざし、「破ァ!!」と叫んだ
次の瞬間、タクシーは急停車し、運転手からは黒くおそろしい塊が飛び出して消えていった…
急いで車外に出て、「これ、どういうことなの?」と訊ねる
するとTさんは「霊園の横を通ったのでしょう、車は霊を呼びますから」と言って去っていった…
月生まれってスゴイ、私は改めてそう思った
◆人形
毎日、毎日、ポストに人形が入っているんです
私の風貌とよく似ている、ズタズタにされた布の人形
必ず手紙も添えてあって、赤い文字で私の名前と、メッセージが記してあります
【ユキホ、またくるね】
一人暮らしをもう辞めたい…私は追い詰められていました
ポストを塞いでも、止まりません
私は実家のお弟子さんふたりにお願いして、ポストを監視してもらうことにしました
お父さんがお弟子さんを連れて来てくれるんです、最初は迷惑をかけられないと言ったんですけど
朝、マンションの一階に行ってポストの前を覗いてみると、そこには重なって倒れているお弟子さんの姿がありました
「お弟子さん…!」
ポストのフタは空いていました、1日ひとつだった人形は3つ、そのうち2つはお弟子さんに良く似ています
【次はあなた】
血で書かれたような文字、私は怖くて怖くて手紙を破り捨ててしまいました
それでも、きょうの夜は自分で犯人を捕まえなきゃと決心したんです
ポストの前で、実家のヘルメットをかぶって…
日付が変わり、照明もなんとなく暗くなりました
ただ、怖かったんです。それでも、犯人を捕まえなきゃ止まらない…
そのとき、電気が突然消えたんです
まっ暗闇のなか、ビックリして身動きが取れないでいると、突然私は首を掴まれました
「いやあ! 離して!」
ふふふ、という奇妙な声が響く暗闇の中で、私の意識がだんだんと遠のいたのです
そのとき、ふと首に加わっていた力がなくなりました
「なんという陰湿な…わたくしが許しません!」
この声は…月生まれのTさん!
Tさんの「破ァ!」という声と共に、青い光が見えます
あの奇妙な声は、たちまち消えてしまいました
段々と目が暗闇に慣れて、私はポストに手を当てるTさんの姿を見ることができました
「あの…」
「これで悪霊は消えました、雪歩。もう闇を恐れることなどありませんよ」
そう言って去っていくTさんを見て、月生まれってスゴイ、私は改めて思いました
◆パティスリー
私、散歩中に見つけたケーキ屋さんでケーキを買ったりすることが趣味なんですけれど、
その日見つけたお店は、いま思えば少しおかしかったような気がします
「あら……?」
いつも通り道を歩いていると、チャペルのような建物に入っているパティスリーを見つけました
「あのぅ、プリンは16個ありますか?」
そう聞くと、店員さんは驚いたように、そんなに召し上がるんですかと聞き返しました
私は大慌てでお土産ですと言いましたが、
「そんなに……ソンナニ……」
店員さんの様子はどこか変でした
そのとき、お店のシャッターが突然閉まったのです
「ひっ!」
「フトリマスヨ……フトリマスヨ……」
店員さんはこの世のものとは思えない表情で私に近づいて、腕を掴んできました
あり得ないぐらいの強い力……
私は必死に、助けてと叫びました
「助けにきましたよ」
そのとき、シャッターとドアが爆発し、その穴から人が入ってきました
「食べる自由は平等……誰からも奪えるものではありません!」
あれは……月生まれのTさん!
Tさんが店員さんに向けて手をかざし、「破ァ!!」と叫ぶと、
手のひらから出た赤い光線が店員さんを貫きました
店員さんは真っ黒な塊を吐き出し、動かなくなってしまいました
「甘いものを好きなだけ食べる……自分への甘さは、ぷりん一つ分で充分ですね」
Tさんは、私の買ったプリンを1つ平らげると、微笑んで去って行きました……
月生まれってスゴイ、私は帰り道に迷いながら思いました
◆海
亜美たちが事務所のみんなで合宿に行ったときの話
千早お姉ちゃんやゆきぴょんは旅館に残ったけれど、
亜美と真美とはるるんの三人で海に行ったんだ
「私、犬かきなら得意なんだ!
あのブイまで泳ぎ切ったらアイスおごって!」って
返事をする前にはるるんは海に飛び込んだ
確かに不格好だけど猛スピードでブイにたどり着いたはるるん
沖から手を振るはるるんに二人で手を振り返したけど、なんか様子がヘン
「もしかして、溺れてない!?」真美が叫んだ
確かに今にも沈みそう!
亜美たちは急いで助けに行った
でも泳ぎが苦手だからたどり着けない…
いまにもはるるんは沈みそうに…
「こんなの、おかしいよ!」
そう思った亜美が水中に潜ると、そこにははるるんの身体にしがみついて、
海の底に引きこもうとする黒い影が!
このままじゃ亜美たちも…
そう思った瞬間、水平線の彼方から一人のサーファーが!
月生まれのTさんだった!
「海の静けさを奪う者は許しません!」
Tさんはサーフボードを真っ二つに割ると、そのまま波に乗って陸地へ
「破ぁ!!」
振り返らずにTさんが叫ぶと、Tさんのサーフボードが波を起こし泡が浮き輪に!
みんなでそれに捕まって陸へ帰ることができた
「ありがとうTさん、でもなんでここに?」
「ここは毎年、水難事故が多発していますゆえ…」
そう言いながらはるるんに手を当てて呪文を唱えるTさん、
はるるんは汚れた水を口から吐き出して意識を取り戻した
「ここの潮の流れは早すぎますね…」
目を細めて水平線を見るTさんを見て、月生まれはスゴイ、亜美は改めてそう思った
◆もやし
近所のスーパーが大セールをやってたんです!
妹のかすみがお肉を食べたがったので、わたしは普段よりたくさん買おうと思って大きなマイバッグを持っておうちを出ました
スーパーに向かう細い道路に入ると、そこにはスーツを来た背の高いおじさんが立っています
「あ、あのう……そこ、通してもらえませんか」
「お嬢ちゃん、あのスーパーに用事かい」
「はい!」
わかってもらえた、わたしは安心しました
でも、おじさんは急に怖い顔をして、わたしに詰め寄ります
「あそこはな、俺が轢き殺されたスーパーなんだ。そんなとこに行こうなんて、許さねえ」
轢き殺された……その言葉を聞いておじさんの足元を見ると、おじさんは少し透き通って見えました
まさか……おじさんは、幽霊……?
このままでは命を奪われてしまう、でも逃げられない……わたしは覚悟して、目を閉じました
そのとき、目を閉じていても分かるぐらいのまばゆい光が!!
「貴方の勝手な感情で、命を奪うことなど許されません!」
月生まれのTさんです!
Tさんは私とおじさんの間に立ち、おじさんに向けて手のひらをかかげます
「成仏していただきます!破ァっ!!」
Tさんの手のひらから出た紫色の光が、おじさんを綺麗さっぱり消してしまいました……
「ありがとうございます、Tさん!」
Tさんはわたしの顔を覗き込んで、
「貴女が幸せな『もやし祭り』を開催できるように……祈っております」
割り箸を懐から取り出し、手に持ったまま去っていきました……
月生まれってスゴイ、わたしはお腹を鳴らしながらそう思いました
◆ワンピースの女
いつもの通り、アイドルを家に送った後、事務所近くの駐車場まで車を走らせているときのことでした
ふと歩道を見ると、赤いワンピースを着た女の人が立っていたんです
綺麗だな……と思ったあと視線を戻すと、そこにはトラックが……
車はトラックに衝突し大破しましたが、私はなんとか助かりました
それから半年ぐらい経ったある日のこと
良く事務所に来てくれたスタイリストのBEKKOさんが、バイク事故にあって亡くなってしまいました
BEKKOさんは病院に運ばれる間際、赤いワンピースの女の話をしていたそうです
この話を聞いた私は、震えてしまいました
私はアイドルで月生まれのTさんをテレビ局へ送っている途中、この話をしてみました
Tさんは「それは酷い…」と言っていましたが、やがて「あれですか!?」と窓の外を指さしました
そこにはあの赤いワンピースを着た女が立っていたのです!
「そう!あの女よ!」
「でもこちらではない…まさか!」
女は私たちの前を走っていたトラックにふらふらと近づき、いまにも運転席に入ろうとしていました
「律子嬢、このまま真っ直ぐ走ってください…」
Tさんは助手席の窓を開けて両手を女に合わせると、「破ァーー!」と叫びました
その瞬間、女は溶けて消えてしまいました……
Tさんは、助手席でどんぶりを片手に持って、
「これで安全運転ができますね……」と微笑みました
月生まれって本当にスゴイ、私は集合時間に遅れつつ思いました
◆髪の毛
ボクは初めて千早を家に泊めることになった
春香も加えて3人で泊めることはあっても、ふたりだけなのは初めてだったから、ちょっと緊張した
結局ボクたちはアクション映画を見た後、疲れてお風呂にも入らずに倒れるように寝てしまった
夜中に妙な音で目を覚ましたら、誰かがブツブツ何か言ってる…
「うふふ、うふふ、きれいなおへや」
そこには、一心不乱に自分の髪の毛を抜き取って、たんすやベッドの下に詰め込んでいる千早が!
ボクは恐怖で声も出せないまま、彼女に気づかれないようにじっと眠ったふりをしていた……
朝、何事もなかったかのように眠る千早…
ボクは相談しようと思い、アイドル仲間で月生まれのTさんに電話をして、ワケを話した
静かに話を聞いてくれたTさんは「少し待っていて下さい。すぐ行きます」と言ってくれた
ボクは千早に気づかれないようTさんを部屋にあげた
千早を見たTさんは「これは…」とつぶやき、「わたくしの後ろに居て下さい。絶対に前に来ないように」と言って千早の前に立った
Tさんは呪文のようなものを唱えて「破ぁ!!」と叫んだ
その瞬間、部屋中に隠されていた髪の毛が燃え上がり、千早の髪の毛までもが燃え上がった!!
「姿を見せなさい」
Tさんがそう言うと千早の長かった髪の毛がバサリと抜け落ち、知らない女の生首になった!
「千早に取り付いて、自分の結界を広げようなどと……恥を知りなさい!」
生首をガシリとつかむTさん
次の瞬間生首は燃え上がり、灰になって消えた……
Tさんは、無残にも焼け残った千早の髪の毛に触れると
「元の場所にお帰り下さいまし」と優しくつぶやき、髪の毛は元通り千早の頭に生え移った
「きっとこれからのことは、カミ様がなんとかしてくれます」
そう言って部屋を出て行ったTさん
月生まれってスゴイ、ボクは改めてそう思った
◆夢
毎日、毎日、変な夢ばっかりを見るの
事務所で寝てるミキに、ナイフを持った知らない男の人が近づいてくる夢…
眠るたびに、男の人とミキの距離は近づいていって、
いっつも、刺される寸前に目が覚めるんだ
「はあ、はあ……やな夢なの」
これを同じアイドルで月生まれのTさんに相談してみたら、
手のひらに収まるぐらいの小さなおまもりをくれた
「これを枕元に」
ほんとに効くのかな? と思って、ミキはまた仮眠室のソファに向かったの
夢の中、いつもと違ってミキの目は最初から覚めてたの
そして近づいてくる男の人……顔はタコの足みたいになってて、人間じゃない
ミキが起きてることに気がつくと、ナイフを持って突進してきた!
枕元に置いたはずのおまもりを探したけど、どこにも無い!
「どうして…!? どうしてなの!」
ナイフがお腹に突き刺さるその直前、おまもりが突然男の人とミキの間に表れたの
ぴかっと光ると、おまもりは男の人をナイフもろとも吸い込んだ!
静かになった事務所、おまもりは床に落ちたの……
目が覚めたミキは、それをTさんに伝えに行ったんだ
「ふふ、そうですか……しかし、本来ならばおまもりは燃えて灰になるはずなのですが……
まだまだわたくしの力は、父に届いていないようです」
少し憂いを帯びた目でミキの頭を撫でるTさん
月生まれってスゴイ、ミキは本当にそう思ったの
◆ラーメン
あの時、俺は馴染みのラーメン屋でいつも通り塩ラーメンを頼もうとしていたんだ
「おっちゃん、塩ラーメン一つ」
そうやって注文したが、おっちゃんの様子がおかしい
さっきから背中を向けたままだ
「おっちゃん?」
俺が呼び、おっちゃんが振り向くと…そこには顔面が麺になった化物が!
「アアアアァァァァァアアァ!!!」
言葉になっていない声、化物の手には包丁がある
店内には俺ひとりしか居ない…このままだと殺されてしまう…
厨房を飛び出し、包丁を持ちながら歩み寄る化物、もうだめだ…俺は目を閉じた
そのとき、入口の向こうから無数の閃光が!!
「食の場にまで出てくるとは…叩きのめします!」
俺の担当アイドル、月生まれのTさんだった!
包丁を持ってTさんに向かって歩く化物に向かって、Tさんは両手をかざして「破ァ!!」と一閃
その瞬間、化物の身体は赤色に光り、やがて黒い塊が飛び出すと元どおりのおっちゃんになった
Tさんは、おっちゃんの作った大盛りのラーメンを食べながら
「噛み応えがあるのは麺だけで充分、霊はもう少しやわくても良いでしょう」と笑う
月生まれってスゴイ、俺は本当にそう思った
いつも通り、事務所からテレビ局に行くときのこと
普段は律子の運転する車に乗るけれど、この日は律子の都合でタクシーを使うことになったわ
伊織一人で大丈夫?
とか聞かれたけど、タクシーぐらい乗れるわよ!
って啖呵を切った
「汐留まで」
そう言って運転手を見たら、どこかがおかしい
「シオドメ?」
「ひっ!」
運転手は人間とは思えない顔色で、後ろの席に座ると私を見つめていた
このタクシーに乗っていたら死んでしまう、直感的にそう思った
私はドアを開けようとしたけれど、ピクリともしない
そのうち、タクシーは猛スピードで走り始めてしまった!
赤信号の列にこのままだと突っ込んでしまう…
そう思いながら顔を伏せようとしたその瞬間、車の正面に見覚えのある顔があった
「社会に溶け込み不埒な……」
正面に立っているのは……月生まれのTさん!
Tさんは両手を車に向けてかざし、「破ァ!!」と叫んだ
次の瞬間、タクシーは急停車し、運転手からは黒くおそろしい塊が飛び出して消えていった…
急いで車外に出て、「これ、どういうことなの?」と訊ねる
するとTさんは「霊園の横を通ったのでしょう、車は霊を呼びますから」と言って去っていった…
月生まれってスゴイ、私は改めてそう思った
◆人形
毎日、毎日、ポストに人形が入っているんです
私の風貌とよく似ている、ズタズタにされた布の人形
必ず手紙も添えてあって、赤い文字で私の名前と、メッセージが記してあります
【ユキホ、またくるね】
一人暮らしをもう辞めたい…私は追い詰められていました
ポストを塞いでも、止まりません
私は実家のお弟子さんふたりにお願いして、ポストを監視してもらうことにしました
お父さんがお弟子さんを連れて来てくれるんです、最初は迷惑をかけられないと言ったんですけど
朝、マンションの一階に行ってポストの前を覗いてみると、そこには重なって倒れているお弟子さんの姿がありました
「お弟子さん…!」
ポストのフタは空いていました、1日ひとつだった人形は3つ、そのうち2つはお弟子さんに良く似ています
【次はあなた】
血で書かれたような文字、私は怖くて怖くて手紙を破り捨ててしまいました
それでも、きょうの夜は自分で犯人を捕まえなきゃと決心したんです
ポストの前で、実家のヘルメットをかぶって…
日付が変わり、照明もなんとなく暗くなりました
ただ、怖かったんです。それでも、犯人を捕まえなきゃ止まらない…
そのとき、電気が突然消えたんです
まっ暗闇のなか、ビックリして身動きが取れないでいると、突然私は首を掴まれました
「いやあ! 離して!」
ふふふ、という奇妙な声が響く暗闇の中で、私の意識がだんだんと遠のいたのです
そのとき、ふと首に加わっていた力がなくなりました
「なんという陰湿な…わたくしが許しません!」
この声は…月生まれのTさん!
Tさんの「破ァ!」という声と共に、青い光が見えます
あの奇妙な声は、たちまち消えてしまいました
段々と目が暗闇に慣れて、私はポストに手を当てるTさんの姿を見ることができました
「あの…」
「これで悪霊は消えました、雪歩。もう闇を恐れることなどありませんよ」
そう言って去っていくTさんを見て、月生まれってスゴイ、私は改めて思いました
◆パティスリー
私、散歩中に見つけたケーキ屋さんでケーキを買ったりすることが趣味なんですけれど、
その日見つけたお店は、いま思えば少しおかしかったような気がします
「あら……?」
いつも通り道を歩いていると、チャペルのような建物に入っているパティスリーを見つけました
「あのぅ、プリンは16個ありますか?」
そう聞くと、店員さんは驚いたように、そんなに召し上がるんですかと聞き返しました
私は大慌てでお土産ですと言いましたが、
「そんなに……ソンナニ……」
店員さんの様子はどこか変でした
そのとき、お店のシャッターが突然閉まったのです
「ひっ!」
「フトリマスヨ……フトリマスヨ……」
店員さんはこの世のものとは思えない表情で私に近づいて、腕を掴んできました
あり得ないぐらいの強い力……
私は必死に、助けてと叫びました
「助けにきましたよ」
そのとき、シャッターとドアが爆発し、その穴から人が入ってきました
「食べる自由は平等……誰からも奪えるものではありません!」
あれは……月生まれのTさん!
Tさんが店員さんに向けて手をかざし、「破ァ!!」と叫ぶと、
手のひらから出た赤い光線が店員さんを貫きました
店員さんは真っ黒な塊を吐き出し、動かなくなってしまいました
「甘いものを好きなだけ食べる……自分への甘さは、ぷりん一つ分で充分ですね」
Tさんは、私の買ったプリンを1つ平らげると、微笑んで去って行きました……
月生まれってスゴイ、私は帰り道に迷いながら思いました
◆海
亜美たちが事務所のみんなで合宿に行ったときの話
千早お姉ちゃんやゆきぴょんは旅館に残ったけれど、
亜美と真美とはるるんの三人で海に行ったんだ
「私、犬かきなら得意なんだ!
あのブイまで泳ぎ切ったらアイスおごって!」って
返事をする前にはるるんは海に飛び込んだ
確かに不格好だけど猛スピードでブイにたどり着いたはるるん
沖から手を振るはるるんに二人で手を振り返したけど、なんか様子がヘン
「もしかして、溺れてない!?」真美が叫んだ
確かに今にも沈みそう!
亜美たちは急いで助けに行った
でも泳ぎが苦手だからたどり着けない…
いまにもはるるんは沈みそうに…
「こんなの、おかしいよ!」
そう思った亜美が水中に潜ると、そこにははるるんの身体にしがみついて、
海の底に引きこもうとする黒い影が!
このままじゃ亜美たちも…
そう思った瞬間、水平線の彼方から一人のサーファーが!
月生まれのTさんだった!
「海の静けさを奪う者は許しません!」
Tさんはサーフボードを真っ二つに割ると、そのまま波に乗って陸地へ
「破ぁ!!」
振り返らずにTさんが叫ぶと、Tさんのサーフボードが波を起こし泡が浮き輪に!
みんなでそれに捕まって陸へ帰ることができた
「ありがとうTさん、でもなんでここに?」
「ここは毎年、水難事故が多発していますゆえ…」
そう言いながらはるるんに手を当てて呪文を唱えるTさん、
はるるんは汚れた水を口から吐き出して意識を取り戻した
「ここの潮の流れは早すぎますね…」
目を細めて水平線を見るTさんを見て、月生まれはスゴイ、亜美は改めてそう思った
◆もやし
近所のスーパーが大セールをやってたんです!
妹のかすみがお肉を食べたがったので、わたしは普段よりたくさん買おうと思って大きなマイバッグを持っておうちを出ました
スーパーに向かう細い道路に入ると、そこにはスーツを来た背の高いおじさんが立っています
「あ、あのう……そこ、通してもらえませんか」
「お嬢ちゃん、あのスーパーに用事かい」
「はい!」
わかってもらえた、わたしは安心しました
でも、おじさんは急に怖い顔をして、わたしに詰め寄ります
「あそこはな、俺が轢き殺されたスーパーなんだ。そんなとこに行こうなんて、許さねえ」
轢き殺された……その言葉を聞いておじさんの足元を見ると、おじさんは少し透き通って見えました
まさか……おじさんは、幽霊……?
このままでは命を奪われてしまう、でも逃げられない……わたしは覚悟して、目を閉じました
そのとき、目を閉じていても分かるぐらいのまばゆい光が!!
「貴方の勝手な感情で、命を奪うことなど許されません!」
月生まれのTさんです!
Tさんは私とおじさんの間に立ち、おじさんに向けて手のひらをかかげます
「成仏していただきます!破ァっ!!」
Tさんの手のひらから出た紫色の光が、おじさんを綺麗さっぱり消してしまいました……
「ありがとうございます、Tさん!」
Tさんはわたしの顔を覗き込んで、
「貴女が幸せな『もやし祭り』を開催できるように……祈っております」
割り箸を懐から取り出し、手に持ったまま去っていきました……
月生まれってスゴイ、わたしはお腹を鳴らしながらそう思いました
◆ワンピースの女
いつもの通り、アイドルを家に送った後、事務所近くの駐車場まで車を走らせているときのことでした
ふと歩道を見ると、赤いワンピースを着た女の人が立っていたんです
綺麗だな……と思ったあと視線を戻すと、そこにはトラックが……
車はトラックに衝突し大破しましたが、私はなんとか助かりました
それから半年ぐらい経ったある日のこと
良く事務所に来てくれたスタイリストのBEKKOさんが、バイク事故にあって亡くなってしまいました
BEKKOさんは病院に運ばれる間際、赤いワンピースの女の話をしていたそうです
この話を聞いた私は、震えてしまいました
私はアイドルで月生まれのTさんをテレビ局へ送っている途中、この話をしてみました
Tさんは「それは酷い…」と言っていましたが、やがて「あれですか!?」と窓の外を指さしました
そこにはあの赤いワンピースを着た女が立っていたのです!
「そう!あの女よ!」
「でもこちらではない…まさか!」
女は私たちの前を走っていたトラックにふらふらと近づき、いまにも運転席に入ろうとしていました
「律子嬢、このまま真っ直ぐ走ってください…」
Tさんは助手席の窓を開けて両手を女に合わせると、「破ァーー!」と叫びました
その瞬間、女は溶けて消えてしまいました……
Tさんは、助手席でどんぶりを片手に持って、
「これで安全運転ができますね……」と微笑みました
月生まれって本当にスゴイ、私は集合時間に遅れつつ思いました
◆髪の毛
ボクは初めて千早を家に泊めることになった
春香も加えて3人で泊めることはあっても、ふたりだけなのは初めてだったから、ちょっと緊張した
結局ボクたちはアクション映画を見た後、疲れてお風呂にも入らずに倒れるように寝てしまった
夜中に妙な音で目を覚ましたら、誰かがブツブツ何か言ってる…
「うふふ、うふふ、きれいなおへや」
そこには、一心不乱に自分の髪の毛を抜き取って、たんすやベッドの下に詰め込んでいる千早が!
ボクは恐怖で声も出せないまま、彼女に気づかれないようにじっと眠ったふりをしていた……
朝、何事もなかったかのように眠る千早…
ボクは相談しようと思い、アイドル仲間で月生まれのTさんに電話をして、ワケを話した
静かに話を聞いてくれたTさんは「少し待っていて下さい。すぐ行きます」と言ってくれた
ボクは千早に気づかれないようTさんを部屋にあげた
千早を見たTさんは「これは…」とつぶやき、「わたくしの後ろに居て下さい。絶対に前に来ないように」と言って千早の前に立った
Tさんは呪文のようなものを唱えて「破ぁ!!」と叫んだ
その瞬間、部屋中に隠されていた髪の毛が燃え上がり、千早の髪の毛までもが燃え上がった!!
「姿を見せなさい」
Tさんがそう言うと千早の長かった髪の毛がバサリと抜け落ち、知らない女の生首になった!
「千早に取り付いて、自分の結界を広げようなどと……恥を知りなさい!」
生首をガシリとつかむTさん
次の瞬間生首は燃え上がり、灰になって消えた……
Tさんは、無残にも焼け残った千早の髪の毛に触れると
「元の場所にお帰り下さいまし」と優しくつぶやき、髪の毛は元通り千早の頭に生え移った
「きっとこれからのことは、カミ様がなんとかしてくれます」
そう言って部屋を出て行ったTさん
月生まれってスゴイ、ボクは改めてそう思った
◆夢
毎日、毎日、変な夢ばっかりを見るの
事務所で寝てるミキに、ナイフを持った知らない男の人が近づいてくる夢…
眠るたびに、男の人とミキの距離は近づいていって、
いっつも、刺される寸前に目が覚めるんだ
「はあ、はあ……やな夢なの」
これを同じアイドルで月生まれのTさんに相談してみたら、
手のひらに収まるぐらいの小さなおまもりをくれた
「これを枕元に」
ほんとに効くのかな? と思って、ミキはまた仮眠室のソファに向かったの
夢の中、いつもと違ってミキの目は最初から覚めてたの
そして近づいてくる男の人……顔はタコの足みたいになってて、人間じゃない
ミキが起きてることに気がつくと、ナイフを持って突進してきた!
枕元に置いたはずのおまもりを探したけど、どこにも無い!
「どうして…!? どうしてなの!」
ナイフがお腹に突き刺さるその直前、おまもりが突然男の人とミキの間に表れたの
ぴかっと光ると、おまもりは男の人をナイフもろとも吸い込んだ!
静かになった事務所、おまもりは床に落ちたの……
目が覚めたミキは、それをTさんに伝えに行ったんだ
「ふふ、そうですか……しかし、本来ならばおまもりは燃えて灰になるはずなのですが……
まだまだわたくしの力は、父に届いていないようです」
少し憂いを帯びた目でミキの頭を撫でるTさん
月生まれってスゴイ、ミキは本当にそう思ったの
◆ラーメン
あの時、俺は馴染みのラーメン屋でいつも通り塩ラーメンを頼もうとしていたんだ
「おっちゃん、塩ラーメン一つ」
そうやって注文したが、おっちゃんの様子がおかしい
さっきから背中を向けたままだ
「おっちゃん?」
俺が呼び、おっちゃんが振り向くと…そこには顔面が麺になった化物が!
「アアアアァァァァァアアァ!!!」
言葉になっていない声、化物の手には包丁がある
店内には俺ひとりしか居ない…このままだと殺されてしまう…
厨房を飛び出し、包丁を持ちながら歩み寄る化物、もうだめだ…俺は目を閉じた
そのとき、入口の向こうから無数の閃光が!!
「食の場にまで出てくるとは…叩きのめします!」
俺の担当アイドル、月生まれのTさんだった!
包丁を持ってTさんに向かって歩く化物に向かって、Tさんは両手をかざして「破ァ!!」と一閃
その瞬間、化物の身体は赤色に光り、やがて黒い塊が飛び出すと元どおりのおっちゃんになった
Tさんは、おっちゃんの作った大盛りのラーメンを食べながら
「噛み応えがあるのは麺だけで充分、霊はもう少しやわくても良いでしょう」と笑う
月生まれってスゴイ、俺は本当にそう思った
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