響(……ん、 ……あー、朝かぁ)


  響(今日はオフだし…… さむそうだし、まだ寝てよ……)


  響(そうだ、貴音…… は、もう起きたのかな? いないや)


  響(起きてるなら、早く朝ごはん作ってあげなきゃ……)


  響(でも、ちょっとだけ…… あと5分だけごろごろしたら、起きよ)


<ガシャーン

  響「!?」ガバ






  響(なんだろ、貴音、お皿でもひっくり返したかな)

  響(まったくもう、おかげですっかり目が覚めちゃったぞ!)

ガチャ

  響「貴音、どうしたの? 今の音、いったい」



たかね「!」



  響「…… んん!?」



たかね「……」

  響「えっ…… ええと、あの、キミ、誰かな……?」


  響(この子…… 見たとこ小学生くらい? にしても、臙脂色の目に、腰までの銀髪って、まるで……)

  響「……その髪の色とか、長さとか、それに目の色とか…… もしかして貴音なの!?」

たかね「む…… そなた、なにやつです。なぜわたくしのなまえをしっているのですか!」

  響(やたら時代がかったしゃべり方もそっくり…… って!?)

  響「ちょっ、えっ…… 自分のことわかんないの!? ほら響だよ、我那覇響!」

たかね「…… がなは、ひびき……? しらぬなです」

  響「そ、そんな!」

たかね「それより、わたくしをこのようなところにつれてきたのはそなたですか!?」

  響「うがっ!? 違うよ、自分そんなことしてないぞ!」

たかね「おだまりなさい! わたくしをかどわかしてどうするつもりですか!」

  響(あ、この話聞かないあたり間違いない、これ貴音だ!)


  響(ど、どうしよう…… そうだ、とりあえずプロデューサーに連絡!)

たかね「……? そなた、そこでなにをしているのです」

  響「ごめん貴音、ちょっと待ってて。すぐ終わるから」

たかね「……なぜわたくしのことをきやすくよぶのか、りかいしかねますが、まあよいでしょう」

  響(しっかりしてるようで案外チョロい! やっぱりこれ貴音だ!)

プルルルル

  響(プロデューサー、早く電話出てよ……! 今日はお休みだし、朝だから大丈夫なはず……)


ガチャッ

   P『……んぁ、響か? まだ8時過ぎたばっかりだぞ…… いきなりどうしたんだ、いったい』

  響「プロデューサー! 休みの日にごめん。あのさ、落ち着いて聞いてほしいんだ」

   P『あ、ああ……? どうした、なにか問題でもあったのか?』

  響「そうなんだ…… あのね、た、貴音が、ちっちゃくなっちゃったんだぞ!」

   P『……』

  響「……」

   P『……響。お前な、せっかくの休日の朝に電話してきてマギー審司の改変とか、そりゃないだろ』

  響「ほ、ホントなんだってば! っていうかマギー審司って誰さー!?」

   P『待て、俺はそのジェネレーションギャップが地味にショックなんだが』


   P『まあいいや…… 貴音がちっちゃくなっちゃったってなんだよ、どういう意味だ?』

  響「いや、どういう意味もなにもそのまんまだぞ! 朝起きたら貴音が小学生くらいになってて!」

   P『……ん? ちょっと待てよ響、起きたら貴音がちっちゃい子になってた?』

  響「もう、だから自分がさっきからそう言ってるじゃないかぁ!」

   P『なぁ、そもそもなんで朝起きた時点で響と貴音が一緒にいるんだ』

  響「えっ? だって今日は貴音も自分もオフだから、貴音、自分の部屋に昨日から泊まりに来てて……」

   P『お泊まりィ!?』


  響「うわぁっ!? なに、プロデューサー、どうしたのさ突然」

   P『泊まりって…… 響お前、貴音とそんな関係だったのか!?』

  響「え? そんな関係って…… えっ、どういうこと?」

   P『そ、そんなって…… あれだよ、その…… なんだ、百合百合しいというか、キマシタワー的な』

  響「キマシ……? ゆりゆりし…… ……は、はあぁ!?」

   P『い、いや、響、いいんだ、愛の形にはいろいろあっていいと思う、俺は気にしないぞ?』

  響「ななななに言い出すんだプロデューサー!? やっぱり変態だったんだな!」


  響「だ、だいたい、仲のいい同性の友達が家に泊まりに来ることなんて珍しくないだろ!」

   P『そ、そうか? 俺はそういうのって怪しいんじゃないかなーと思うんだけど……』

  響「全然怪しくないよ! そもそもプロデューサーだってそういう経験あるでしょ!?」

   P『……』

  響「プロデューサー?」

   P『なかった』

  響「えっ」


   P『俺、友達が泊まりに来たことも、友達の家に泊まったこともないし』

  響「あ、そ、そうなんだ」

   P『そういえば、仲のいい友達ってもの自体、あんまり』

  響「ごめん! プロデューサー、自分が悪かったぞ! だからもう」

   P『ノート貸してとか頼まれることはあっても、俺、飲み会とか、合コンとか、ぜんぜん』

  響「ぷ、プロデューサー! しっかりして、元気出して! もうこの話やめよう!?」


  響「ごめんってば、プロデューサー…… 落ち着いた?」

   P『うん…… グスッ、うん大丈夫、もう大丈夫』




  響「なんにしてもさ、貴音がちっちゃくなっちゃってるのはホントなんだ」

   P『そうは言われてもなぁ…… やっぱり俺もにわかには信じがたい』

  響「んー…… あっ、そうだ! じゃあちょっと待ってて、自分、証拠の写メするから!」

   P『写メ、なぁ…… まあいいや、わかった、とりあえず待ってるよ』


たかね「……」

  響「よーし、じゃあ貴音、ちょっと動かないで、そのまんまだぞー」

  響(えっと…… ピント合わせて、っと) <ピピッ

たかね「!」サッ

  響「あっ!?」 <カシャッ

  響「もー! なんで動くの!」

たかね「……わたくしの、たましいをぬこうとは」

  響「はぁっ!?」

たかね「かくしてもむだです。そのめんようなきかいのこと、わたくしはしっております」

  響「え、面妖な機械って、これただのスマホだよ?」

たかね「いいえ、それで"かしゃっ"とされると、たましいがぬかれるとききました」

  響「めんどくさいなこの子ホントに!」


  響「……ここだぁっ!」 <ピピッ

たかね「あまい!」 シュッ

<カシャッ

  響「うがーっ! だーかーら、写真撮るだけで魂抜いたりしないから! 大丈夫だから!」

たかね「だいじょうぶだから、さきっちょだけだから、などといってわたくしをたぶらかすつもりですね……」

  響「ど、どこでそんなことば覚えたんだー!? いいからじっとするさー!」

たかね「いやです! わたくしのたましいはわたしません!」

  響「ぐぬぬ…… しょうがない、こうなったら最終手段だぞ…… おーい、ちょっとこっち来てー!」

たかね「ふん、しょうし! たすけなどよんだところで、このわたく」


へび香「……?」 ニョロ


たかね「しじょっ」 キュウ

  響「よくやったへび香! ナイスタイミング!」


  響「目を回してるこのスキに、まずは撮影して…… っと」 <ピピッ カシャ

  響「…… しかし、貴音、なんでこんなことになっちゃったんだ……」

  響「さておき、これならプロデューサーも信じてくれるはずさー。よし、送信っ」


<ピロリン

  響「わっ、返信早いなぁ…… でも当然だぞ、こんな一大事だもん。えーと、なになに?」


   『1枚だけじゃ判断がつかない もっと沢山、それもいろんなアングルから撮った写真が必要だ』


<ピロリン

   『はよ  画像はよ』

  響「」






<ピロリン

   P「お、響もさすが対応が早いな」

   『この変態ロリコン』

   P「!?」


  響「……で、変態プロデューサー、自分の言ってること信じてくれた?」

   P『ああ…… 確かに写真見る限り貴音が幼児化してるな…… あと俺は断じて変態じゃ』

  響「この子、喋り方とかも貴音によく似てるし、間違いないと思うぞ。でもさ……」

   P『なんだ、この上まだなんかあるのか』

  響「……貴音、自分のこと、覚えてないみたいなんだ」

   P『なんだって!?』

  響「まだはっきり確かめたわけじゃないけど、記憶もこの年齢のころに戻ってるとかじゃないのかな……」


   P『なんてこった…… 貴音が直近で大きな仕事とか控えてないのは不幸中の幸いってやつだな』

  響「うん、どうすれば元に戻るかとか、現状ぜんぜんわかんないからさ……」

   P『そうだな。とりあえず、響はその子をしっかり保護しといてやってくれ』

  響「もちろんそのつもりだぞ。プロデューサー、貴音のスケジュール調整とかお願いできる?」

   P『ああ、できるだけのことはやっとく。明日、事務所で相談しよう。少し早めに来れるか?』

  響「うん、大丈夫。今日は自分もできるだけこの子から話聞いてみるね」

   P『それがよさそうだな。そっちは任せたぞ』






たかね「……ううん」

  響「!」

たかね「……はっ! あ、あのかいぶつはいずこに!?」

  響「ここにはもういないから大丈夫だぞ。それよりさ、ねえ貴音、ちょっと自分とお話ししよう?」

たかね「わたくしには、そなたとはなすことなどありません」




  響「……"ひびき"!」

たかね「え?」

  響「さっきも言ったでしょ? 自分の名前、響って言うんだ。ひ、び、き」

たかね「……ひびき?」


  響「そ、ひびき。そなたなんて他人行儀じゃなくてさ、名前で呼んでよ」

たかね「なぜですか、わたくしは、ひび…… そなたのことを、しらないのに」

  響「……ん、でもね、自分は貴音のことよく知ってるんだ」

たかね「そうなのですか? あったこともないのに、なぜですか?」

  響「まあ、いろいろ事情がね。だから、貴…… たかねも、自分のこと、これから覚えてよ」

たかね「……」

  響「それに自分たち、しばらくは一緒に暮らすことになりそうだしさ」

たかね「なんと!?」

  響「だってたかね、ここ出てったとして行くあてとか、あるの?」

たかね「う…… それは……」


  響「たかね一人くらいなら、家族が増えても自分、なんくるないぞ。なんたって自分はカンペキだからな!」

たかね「…… いたしかたありませんね。では、こんごについてはなしあいましょう」

  響「よし、そうこなくっちゃ」

たかね「なによりも、さしあたっては…… その……」

  響「うん?」


< ぐぎゅるるるるる


  響「!」

たかね「……わたくし、たいへん、おなかがすいておりまして」

  響「…… あははは! うん、やっぱりたかねは貴音なんだな、間違いないよ、絶対」

たかね「めんような…… もう、なにをひとりでなっとくしているのです!」


  響「まあ、あとのことはおいおい話するとして、まずは腹ごしらえしなきゃね」

たかね「ええ、そのとおりですとも」

  響「たかね、何が食べたいとか希望はある?」

たかね「いえ、とくには。ひび……、そなたにまかせます」

  響「あはは、なんでそこ言い直すの? 自分のことは"ひびき"でいいよ、って言ったでしょ」

たかね「かんちがいしてもらってはこまります」

  響「えっ、何が?」

たかね「わたくしはまだ、ひ……、そなたに、きをゆるしたわけではないのですよ」

  響「まだそんなこと言うのかー、たかねはやっぱり強情だなー」

たかね「とうぜんでしょう、わたくしからすれば、わからないことだらけなのですから」


  響(さてと…… 食べ物で記憶が戻る、なんてことがないともいえないし、ここはやっぱり!)

たかね「……」ジーッ

  響(これ、貴音が大事にとってたやつだけど…… うん、貴音自身が食べるのと変わんない、はず)

たかね「…… そのつつのようなものは、いったいなんですか?」

  響「出来上がってからのお楽しみさー」

たかね「…… とても、おりょうり、というか、たべものにはみえませんが……」

  響「たかねはきっと気に入ると思うよ。ちょっと待ってて、すぐ作るからね」


  響(あ…… でもそういえば、こんなちっちゃい子にカップ麺って食べさせていいのかなぁ?)

たかね「……」キョロキョロ

  響(うーん…… たかねの年齢的には、たぶん問題ないと思うんだけど……)

  響(念のためネットで調べてみよっと。スマホどこに置いたっけ…… あった)スッ

たかね「!」

  響「ん?」

たかね「ま、またそのめんようなきかいを!?」バッ

  響「うがっ!? ちょっと待ってたかね、そうじゃないよ落ち着いて!」


たかね「た、たべものでつっておいて、やはりそなたのねらいはわたくしのたましいなのですね!?」

  響「ちーがーうってばー! ほ、ほら自分、今これそっちに向けてないでしょ、ね?」

たかね「……ほんとうですか? "かしゃっ"としませんか?」

  響「本当本当、絶対しないぞ! あ、じゃあ背を向けとくよ、これならいいでしょ?」

たかね「まぁ…… それならば、よしとしましょう」

  響(……さっき目回してるときにもう撮ってるって、絶対言わないようにしなきゃ……)


  響(うん、ざっと調べた感じ、幼稚園児くらいならたまに食べさせる分には問題なさそう)




  響「ってことで、お湯を入れまして、ふたをする!」

たかね「つつに、おゆをいれて…… それでどうしようというのですか?」

  響「これがね、ちょっと待つとたかねのご飯になるんだぞ」

たかね「なにをいっているのですか。そのようなことがあるわけ、ありません」

  響「ふふふ、どうだろね? っと、自分のもついでに作っとかなきゃ」


たかね「……?」スンスン

  響「どう? いいにおい、してきたでしょ?」

たかね「これは…… そこにずっとすわっているだけなのに、ふかしぎな……」

  響「ちょうどいいくらいだな、じゃ、ふたを開けるぞ!」

たかね「ふた……?」

  響「はい、ごたいめーん」ペリペリ


たかね「……おお!? な、なんなのですか、これは!」

  響「ラーメンっていう食べ物さー」

たかね「らぁ、めん?」

  響「そ、ラーメン。ねえたかね、見た目とかにおいとかで、なんか思い出したりしない?」

たかね「いいえ…… しかし、とてもおいしそうなかおりがします……!」ゴクリ

  響「あー、まあ、そううまくはいかないよね…… よし、まずは食べようよ」

たかね「これを、わたくしがしょくしてもよいのですか?」


  響「もちろんだぞ。貴音が言ってたんだけど、これ限定ものかなんかでおいしいらしいから」

たかね「……わたくしがいっていた?」

  響「あ…… ああ、いや、ごめん、気にしないで。それより、早く食べないと伸びちゃうよ」

たかね「のびちゃう…… とは、どういうことです」

  響「えーと…… おいしくなくなっちゃう、ってこと。それに、ほっとくと冷めちゃうし」

たかね「そ、そうですね、では、いただきます」

  響「はい、おあがりなさい」


たかね「これが…… らぁめん……」

  響「出来立てであつあつだからね、気を付けて」

たかね「では…… いざ……!」ズズズ

  響(においや見た目じゃ思い出さなくても、実際味わったら…… ひょっとして……!)

たかね「……」ズズズズズ

  響(…… うーん、わかってたけど、無理っぽいかな…… 表情も変わんないし、淡々と)

たかね「……」ズズズズズズズズズ

  響(…… って、 ん……?)



たかね「……」ズズズズズズズズズズズズゾゾゾゾゾゾゾ



  響「!?」

たかね「……ぷはっ」




  響(麺とスープはおろか…… ね、ネギの一片すら残さずに! やっぱり貴音だ!)


たかね「ひびきっ!」

  響「は、はい!?」

たかね「わたくし、おなじものをもうひとつしょもうします! いますぐに!」

  響「ダメに決まってるぞ」

たかね「なんと! なにゆえですか!?」

  響「いや、あのね、おいしいのはわかるけど、あんまり身体によくないからね」

たかね「ごしょうです、もうひとつ、もうひとつだけ!」

  響「だいたいその体格でそれひとつ食べたら十分でしょ!」

たかね「いいえ、たりません! まったくもってたりません! ひびき、どうか、どうかぁ!」

  響「そもそもそれ、さっきも言ったけど限定だとかで1個しかないんだってば」

たかね「ううう…… そ、それなら、そこのひびきのぶんをください! それでがまんしますから!」

  響「そのムチャクチャな理屈とか、もう貴音で間違いないな!?」






たかね「むぅ…… ひびきは、いけずです……」

  響「なに言ってるの、自分のぶんだいぶ分けてあげたでしょ。 ……あ」

たかね「どうしたのです?」

  響「たかね、いま、"ひびき"って呼んでくれてたね」

たかね「え…… …… あ…… これは、その……、そうです、らぁめんとやらのおれいです」

  響「そっかそっか。ありがと、たかね」

たかね「む、き、きやすくあたまをなでないでください」

  響(……貴音のときは、なかなか手が届かなかったもんなー)


たかね「なにをにこにこしているのです、ひびき! きいているのですか」

  響「聞いてるぞー、うりうりー」

たかね「きいていないではありませんか、かるがるしくなでてもらっては」

  響「たかねは自分になでられるの、イヤなの?」

たかね「……べつに、いやとは、いいませんが」

  響「じゃあ、いいってことだよね!」

たかね「む、そういうことに…… いえ、しかし、そういうことでは…… ああっ、もう……」


  響「さて、お腹もふくれたことだし…… たかね、いくつか確認させてね」

たかね「わたくしで、こたえられるはんいであれば」

  響「まずさ、名前、フルネームだとなんていうの?」

たかね「……ふるねえむ?」

  響「あー……、ええっと…… そうだ、つまり、名字はなに?」

たかね「…… しじょう、たかね、ともうします」


  響「やっぱりそうなんだ…… じゃあたかね、年はいくつ?」

たかね「とうねん、とってごさいになります」

  響「5歳かぁ…… へー、5歳のころの貴音は、こんな感じだったのかー……」

たかね「ひびき?」

  響「あ、ご、ごめん。それから…… ここに来る前どこにいたか、たかねは覚えてる?」

たかね「くににおりました」


  響「くに?」

たかね「はい。くにです」

  響「くに…… そのくにって、どこにあるんだろ?」

たかね「……それは、とっぷしいくれっとです」

  響「うがっ、そんな歳のころからもうそれ使ってたのか!?」

たかね「な、なにがですか?」

  響「ああ、いや、ごめん、こっちの話」


  響「その…… "くに"ではお父さんやお母さんと一緒だったの?」

たかね「もちろんです。わたくしがきのまたからうまれたとでもおもっているのですか」

  響「い、いや、そういうことじゃなくて」

たかね「ほかに、おてつだいのものもたくさんおりました」

  響「へえー、そうだったのか。ひょっとして、じいやさんもいた?」

たかね「む…… なぜひびきは、わたくしのことをそんなにしっているのです」

  響「ふふん、たかねのことよく知ってるって言ったの、嘘じゃないってわかった?」

たかね「ますますあやしいですね……」

  響「もー、もうちょっと信用してくれてもいいでしょー」


  響「じゃあさ、どうやってここに来たのかって、覚えてる?」

たかね「それが…… めがさめたら、ここでねていたようなしだいで……」

  響「そうかー…… まあ、そりゃそうだよね……」




  響「それから、さ…… ねえ、たかね。アイドル、って言葉に、聞き覚えない?」

たかね「あいどる……? ありませんね。それはなんでしょう、たべものですか?」

  響「いやいや、食べ物じゃないぞ。 ……そっか、 ……覚えがない、かぁ」


たかね「ところでひびき……、は、っくちゅっ!」

  響「……あ! うっかりしてたぞ、寒かったよね、ごめん」

  響(たかね、貴音のパジャマの上だけ羽織ってるんだもん…… そりゃ冷えもするさー)




  響「とりあえず自分のカーディガンと、あとスリッパと…… これで少しはマシだろうけど……」

たかね「ふわふわして、あたたかですが…… てが、てがでません……!」

  響「…… 当然、そうなっちゃうよなぁ…… ちょっと今はそれで我慢してて、ね?」

たかね「む、むむ…… いたしかたありませんね」

  響(だぼだぼずるずるのカーディガンと髪のボリュームのせいで、毛玉みたいだぞ……)


  響「何よりもまずは、たかねの服を用意しなきゃいけないな」

たかね「ふく、ですか?」

  響「そ、いくら小柄っていっても、自分の服じゃたかねが着るにはまだ大きすぎるからね」




  響「ってことで、とりあえず間に合わせのもの買ってくるぞ。たかね、その間お留守番してて」

たかね「わたくしをひとりにして、だいじょうぶですか? こっそりにげだすかもしれませんよ」

  響「たかねはそんなことしないって自分、信じてるさー。じゃ、ちょっと待っててね」

ガチャッ パタン

たかね「……まったく、ひとのよい。いってらっしゃいませ」


  響「あったかい部屋着と、いちおう外出用の服と、靴…… ああ、下着とか靴下とかもいるなぁ」

  響「あんまり一人で待たせてちゃさびしいだろうし、早く済ませよっと」




  響「……あっ! そういえばあの子たちにたかねのこと、ちゃんと紹介してなかったぞ」

  響「たかねにも説明しとけばよかった…… ま、そんな長い時間じゃないし、大丈夫かな」

  響「帰ったらお互いちゃんと、顔合わせさせてあげなくちゃ」






たかね「……さて、することがありません」

たかね「そうです、このやしきのなかをたんけんしてみましょう!」




たかね「ふむ…… ここが、おだいどころのようす。あまりひろくありませんね……」

たかね「これでは、おりょうりをするのにくろうしそうですが」

たかね「こちらのおへやには、なにが?」


ガチャ


いぬ美「! ばうっ」

たかね「!?」

バタン


たかね「…… な…… い、いまのけだものは、いったい?」

たかね「い、いえ、おちつきましょう、きっとみまちがえたのです」

たかね「あらためて、いざ!」

ガチャ

いぬ美「はっはっはっ」ダッ

たかね「ひいい!?」

いぬ美「へっへっへっ」ペロペロペロ

たかね「ちょっ、やめ、ひゃあっ、お、おかおをなめないでくださ、ああっ」

いぬ美「はっはっはっ」ペロペロペロペロ


たかね「うう…… わるぎはなかったのでしょうが、ひどいめにあいました」

たかね「あのようなけだものがいるとは…… これは、きをひきしめねばなりませ……」

ねこ吉「……」スタスタスタ

たかね「!」

ねこ吉「!」

たかね「そなたはさきほどのものより、だいぶちいさいですね。こちらへよりなさい」

ねこ吉「……」ススス

たかね「む、なぜさがるのです。まちなさい」

ねこ吉「……!」ダッ

たかね「あっ!?」




たかね「……いってしまいました」シュン


たかね「それにしてもこのやしき、どれだけのけだものがいるのでしょうか」

たかね「つぎはいったい、どのようなものが……」

モモ次郎「……」

たかね「!?」

モモ次郎「……」ビューン

たかね「…… めんような…… へやのなかで、このようなものをみることになるとは……」




ブタ太「ブヒッ」

たかね「なんとっ!?」


たかね「ひびきは、よほどけだもののたぐいがすきとみえます」

たかね「…… まさか、わたくしも、あいがんどうぶつとしてみられているのでは……」

オウ助「……」

たかね「……こんどはとりですか、もうあまりおどろかなくなってまいりました」

オウ助「……」

たかね「つぎはなにがでるやら…… ゆだんしないようにしなくては……」

オウ助「オハヨー」

たかね「なにやつですっ!?」バッ

オウ助「……」

たかね「…… はて、たしかに、おはようというこえが…… そらみみでしょうか……?」キョロキョロ

オウ助「カンペキダゾ!」

たかね「!?」バッ

オウ助「……」

たかね「ひびきがいないのに、ひびきのこえが! ど、どこです、どこにいるのです!?」キョロキョロ

オウ助「……」



たかね「おへやのなかをあるきまわるだけで、これほどつかれるとは…… む?」


シマ男「……」

ハム蔵「ジュイッ」

うさ江「……」


たかね「まだいたのですか!? ……はっ!?」


モモ次郎「……」

いぬ美「はっはっはっ」

ねこ吉「……」

ブタ太「ブヒッ」

オウ助「ウガー」


たかね「な、なんというおおじょたい……」



たかね「いつのまにか、かこまれてしまいました…… ここは、ひくがとくさく!」

ガチャ バタン




たかね「ふう…… こうしてとをしめておけば、さすがにおってはきますまい」


たかね「さて」クルッ


ワニ子「?」

へび香「?」


たかね「」



たかね「しじょっ」 キュウ




  響「んしょっと、ただいまたかね、ちょっと荷物運ぶの手伝ってー! たかねー? おーい、たかねー!」






  響「……でもみんな、特になにもしてないって言ってるぞ?」

たかね「いいえ! そやつらは、くちうらをあわせているのです!」

  響「……そうなの、いぬ美? 誰かウソついてる子とかいる?」

いぬ美「ばうっ」

  響「ほら、違うって。たかねのこと歓迎しただけだって」

たかね「なにが『ほら』です!? ひびきにはなにがきこえているのですか!?」


  響「ま、そんなことよりさ、たかねの服買ってきたからお着替えしよっか」

たかね「そんなこととはなんですか、ひびき! わたくしがどれほど……」

  響「みんなには改めて言い聞かせとくからさ。それよりたかね、動きづらいでしょ?」

たかね「……たしかに、しょうしょう、ひきずるかんじはします」

  響「だよね? 見た感じのサイズで選んできたから、ぴったりってわけにはいかないかもしれないけど」

たかね「かまいません、きられればじゅうぶんです」


  響「はい、ちゃんとバンザイして」

たかね「は、はい」

  響「じゃ、かぶせるよ、よいしょっ」

たかね「わぷっ!?」

  響「あ、ちょっとたかね、あんまりじたばたしないで」

たかね「し、しかし、まえが、みえ…… あの、あたまはここでよいのですか?」

  響「えっ、なにが?」

たかね「ど、どうも、あなのおおきさが、いたたた!」

  響「……ああそこ袖だ! ごめん、すぐ抜くからちょっとじっとしてて!」


  響「……うん、とりあえずで選んだ割にはなかなか!」

たかね「ほう…… このようなふくが、こちらではふつうなのですね……」

  響「自分で言うのもなんだけど、けっこうオシャレだと思うぞ」

たかね「それに、うごきやすいのに、あたたかです。すばらしいですね」

  響「見立てがカンペキだからなー。アイドルに服選んでもらえるなんて、なかなかないんだからね?」

たかね「…… しかし、こう…… その、あしがだいぶでているきがしますが、はしたなくはないでしょうか?」

  響「うっ……」ギク

たかね「ひびき?」

  響(…… 言えない…… 貴音に着せてみたかったコーディネート試してみたなんて言えないぞ……!)


  響「ありあわせだけど、どうだったかな、夕ごはん」

たかね「ええ、びみでした。ひびきは、おりょうりもできるのですね」

  響「そりゃね、一人暮らしもけっこう長いし、家族みんなのご飯も作ってるし!」

たかね「ずっと、ひとりでくらしているのですか?」

  響「いや、違うよ。前は沖縄ってところにいたんだけど、引っ越してきたの」

たかね「おきなわ……」

  響「そうそう。ちょっと遠いけど、あったかくて、海がすごくきれいなんだ」

たかね「……うみ?」

  響(そこから!?)


  響「さて、お風呂できたよ。おいで、たかね」

たかね「おふろ…… ああ、ゆあみのことですね」




  響「たかね、ちゃんと目つぶってないと、しみるよ」

たかね「しじょうのいえのものは、よのなかのあくにめをつぶったりはせぬのです」

  響「いや、悪とかじゃなくて、シャンプーするからなんだけど」

たかね「しゃんぷう……? きかぬなですが、なにするものぞ」

  響「…… まあ、たかねが大丈夫だって言うならいいんだけどさ……」


たかね「い、いたい、ひびき、いたいです、めが、めがああ!」

  響「だから言ったのに…… って、わわっ、暴れるなたかね!」

たかね「だっていたいのです、ひびきぃぃ! いやああああ!」

  響「だっ、ちょっと、落ち着いてってば、あっこら目こすっちゃダメだって!」

たかね「うわあああん! うわああああああああん!!」




  響「あーあーもう、ただでさえ赤い目が真っ赤になっちゃって」

たかね「うえっ、ぐしゅ、ひ、ひびきは、いけず、でしゅ」

  響「だから目を閉じとくようにって言ったのさー、自分……」


たかね「ひっく、ぐす、うええ、え、ひぐ、っ、げほ、ぐしゅ」

  響「ほーら、たかね、もう大丈夫だから…… 目、まだ痛い?」

たかね「い、いたく、など、ひっく、あり、ましぇん……」

  響「うん、ちゃんと強く言わなかった自分も悪かったぞ…… そうだ、ちょっと待ってて」

たかね「ぐすっ、すん、ひっ、く、……」






  響「お待たせ。はい、これ」

たかね「……ひびき、なんですか、このどろみずは」

  響「ど、泥水って! ま、いいから飲んでみてよ。あったまるし、おいしいぞ」

たかね「わたくしをいじめておいて、これできげんをとろうというのですか?」

  響「そんなつもりは全然なかったんだけど、痛かったよね。それは、ごめん」

たかね「……」

  響「機嫌をとるっていうか、お詫びのしるし。冷めないうちに、ね?」

たかね「…… たしかに、よいかおりがします。それほどまでにいうのであれば……」ズズ


たかね「!」

  響「いかがでしょう、姫さま…… なんちゃって」

たかね「あまいです…… たいへんあまくて、ぽかぽかします!」

  響「ん、喜んでくれてよかった。おいしいでしょ?」

たかね「とてもびみです! ひびき、これはなんというのみものですか?」

  響「それはね、ココアっていうんだぞ」

たかね「ここあ…… ここあ、ですね、ではひびき、」

  響「ときどき飲ませてあげるけど、これから毎日作ったりはしないからなー」

たかね「なんと!? なぜわたくしのいうことがわかったのです!?」

  響(……だって、初めて貴音にココア出したときの反応と、ばっちり一緒だから)

  響「んー? そりゃ、自分、カンペキだからね」

たかね「うぬぬ…… めんような……!」


たかね「……」ポケー

  響(ココアでおなかふくれて眠くなったんだな、いぬ美のちっちゃいころみたいだ)

  響「じゃあたかね、そろそろ寝よっか」

たかね「……ふぁ、そう、でしゅね」




たかね「……これは、いったい」

  響「ベッドだけど…… ああ、ひょっとしてこれも知らない?」

たかね「おふとん…… ではないのですか?」

  響「似たようなものだけど、まあちょっと違うかな」

たかね「……わたくし、おふとんになれておりますので」

  響「うーん、じゃあ布団出そうか。でもたかね、ひとりで寝られる?」

たかね「なっ! とうぜんです、もうごさいなのです! ばかにしないでください!」

  響「あはは、ごめんごめん」


  響「今日のところはとりあえず、この布団使ってよ」

たかね「はい」

  響(いつもは貴音にベッド譲って、自分が布団使ってたけど…… わかんないもんだなぁ)

  響「自分はもうしばらく起きてるから、何かあったらすぐ呼んでね」

たかね「わかりました」

  響「よーし。じゃ、おやすみ」

たかね「…… あの、ひびき」

  響「ん?」

たかね「その……」

  響「なあに? あ、寒い? それとも、なにか欲しいものある?」

たかね「いえ…… ……なんでもありません」

  響「そう? それじゃあたかね、おやすみ」






  響(…… ん、この感じ…… ああ、ねこ吉だな)


  響(あの子、自分が呼んでも絶対来ないのに、夜中勝手にベッドに入ってくるからなぁ)


  響(まったく、寒いなら最初から素直に来ればいいのに……)




  響(……それにしてもねこ吉、ずいぶん大きくなったなぁ)ナデナデ


  響(自分と暮らし始めて結構経つもんね…… 毛もだいぶ伸びてる、そのうち刈ってあげよう)




  響(…… 最近カットしてないとはいえ、ねこ吉の毛、ここまで長かったっけ……)サワサワ


  響(というか、ちょっと大きすぎないか……?)


  響(サイズ的に、いぬ美……? いや、あの子はお行儀いいから、ベッドに入ってきたりは)




たかね「…… ん、くぅ…… すぅ……」

  響「…… なるほど、ね」



  響(いつの間に入ってきてたんだろ? 自分に気づかせないなんて、気配消すの上手だなぁ)

  響(……「ひとりで寝られる」なんて言ってても、やっぱり寂しかったんだろうなー)

  響(ああ、寝る前に何か言いかけてたの、そういうことか。素直じゃないんだから)ツンツン

たかね「…… むにゃ…… らぁめん……」

  響「ぷっ…… くくっ、どんな夢見てるのさ」

  響(まったくもう。 ……ちっちゃくなった以外、ほとんど変わってないじゃないか)




  響「これからどうなるか、わかんないけど…… いまは、おやすみ、たかね」

◆◆◆◆◆

  響「もう一回確認するぞ、たかね」

たかね「はい、なんなりと」

  響「今から自分たちが行くところは?」

たかね「なむこぷろの、じむしょです」

  響「そのとき気をつけることは?」

たかね「だれにもみつからぬように、ちゅういします」

  響「よーし、よく覚えたね。ちなみに特に危ないのは?」

たかね「ええと…… ふたご! そうでした、あみとまみのふたごです」

  響「そうそう。もし見つかっちゃったら…… どうなるか、わかんないぞ」

たかね「は、はい、こころします……」


  響「じゃあ、次に、今日の予定は?」

たかね「まず、ぷろぢゅ…… ぷろで、ぷろじゅ……」

  響「プロデューサーね」

たかね「はい、ぷろで…… ぷろぢ…… ぷろ…… そのひとにあいます」

  響「よしよし、ちゃんとわかってるな。ほかに、たかねが会っていいのは?」

たかね「ことりじょうと、しゃちょうだけです」

  響「うん、カンペキだぞ、たかね」
  
たかね「このくらいはとうぜんです!」

  響(まだみんなには伏せといたほうがいいだろうって、プロデューサーも言ってたからなー)


  響「あとは…… 念のためにもう一度聞くけど、留守番しとく気はな」

たかね「ございません!!」クワッ

  響「あ、そ、そう」

たかね「ひびきはわたくしを、あのけだものたちのただなかにおいてゆくつもりですか!?」

  響「ひどい言いぐさだなあ…… 自分の家族は賢いし、たかねをいじめたりしないってば」

たかね「あれはいじめなどではありません! いのちのきけんをおぼえたのですよ!?」

  響「うん、それだけぎゃーぎゃー騒げる元気があれば大丈夫さー」

たかね「とにかく! わたくしはひびきについてゆきます!」

  響「わかったわかった、もう言わないよ」


  響「よし、じゃあ行こうか、たかね」

たかね「…… ひびき、なんです、このては」

  響「はぐれちゃ困るからね。しっかり手にぎって、自分についてくるんだぞ?」

たかね「む…… なんどもいっております、こどもあつかいはやめてください」

  響「なに言ってるのさ、どこからどう見てもお子様のくせに」

たかね「ちがいます、わたくしはれっきとしたしゅくじょです!」

  響「あはは、ちっちゃいレディもいたもんだな、よしよし」

たかね「ま、またあたまを、なでて…… うぬぬ、ぶれいなー!」






たかね「…… おお、おおお! こんなにたくさんのひとが……!」

  響「今日は平日じゃないから、いつもよりは少ないけどね」

たかね「ひびき、ひびき。このかたがたは、なぜここへきているのです?」

  響「え? そりゃみんな電車に乗りに来てるんだよ、ここ駅だから」

たかね「えき……? でんしゃ……?」

  響(…… これもたかねには未知の領域かぁ。ほんと、世間知らずのお姫様、だなー)

  響「Suica1枚しかないから、先にたかねの分の切符を…… あ、そうか、5歳の子はいらないのか」

たかね「はて…… わたくしがごさいだと、なにかあるのですか?」

  響「ん、そうだね、タダで電車に乗れるの」

たかね「すると、わたくしはとくべつあつかいなのですね」エッヘン

  響「特別…… まあ確かにそうなんだけど、別に勝ち誇った顔するところじゃないぞ?」

たかね「なんと!」


たかね「これが…… えき、ですか」

  響「そう、出かけるときにはちょくちょく使うことになるからね」

たかね「ふむ、ずいぶんとひろいのに、かべがなく…… ……む?」

  響「おっ、ちょうどいいタイミングで来たさー。あれに乗るよ」

たかね「…… ひびき、なにかむこうから、ちかづいてきております」

  響「うん、あれが電車だぞ」

たかね「ど、どんどん、おおきくなってきました……! めんような……」

  響「大丈夫だよ、乗り物だから。それともなあに、こわいの? 淑女なのに」

たかね「なっ! ……いいえ、わたくしは、こ、こわくなどありません!」

  響(お、これ使えるな、ふふ)


ガタンゴトン

たかね「おお……! こんなにながくておおきなものが、こんなにはやく……」

  響「ねっ、乗っちゃえば楽しいでしょ」

たかね「そとのけしきが、どんどん、とぶようにうしろへ……!」

  響「たくさん人が乗れるし、時間通りに来るし、速くて便利。電車のこと、もう怖くないよね?」

たかね「はい、もうだいじょうぶです。これは、すばらしいのりものです!」

  響「……ぷっ、ほんとはやっぱり怖かったんだな、たかね」

たかね「え? …… あ、あっ、ちがいます、はじめから、こわくなど、もう、わらってはなりません!」




  響「よーし、着いたぞ! ここが765プロの事務所さー!」

たかね「……これはまた、ずいぶんと、てぜまなところですね」

  響「ば、バカにしたもんじゃないぞ!? 確かにあんまり大きくないけど!」

たかね「ひびきは、ここではたらくのですか?」

  響「そうそう。ここでっていうか、ここに集合して、お仕事に出かける感じかな」


 小鳥(……夜も遅くなってプロデューサーさんからメールが来たから、ちょっとドキドキしたのに)

 小鳥(ふたを開けてみたら仕事のお話、しかも事務所に定時前に来てほしい、だなんて)

 小鳥(えーえー、期待なんかしてなかったですよーだ、今年のクリスマスもおひとりさまですよーだ)

 小鳥(今日のことは響ちゃんと貴音ちゃんに関係があるらしいけど、なんでわたしまで……)

 小鳥(……どうせ予定なんかないから、早出残業なんでもアリですけどね! いいですよーだ!)

ガチャ

  響(よし、まだほかのみんなは来てないみたいだな)

  響「……いいかたかね、音を立てないように、静かにそっと入るんだぞ」ヒソヒソ

たかね「こころえました」コソコソ

 小鳥「…… あら、響ちゃん? おはよう」

  響「わああっ!? って、ピヨ子か、よかった。おはよう!」


 小鳥「プロデューサーさんに呼ばれて待ってたのよ。本人がまだ来てないけど」

  響「迷惑かけてごめんね、ピヨ子…… プロデューサーからはどこまで聞いてるの?」

 小鳥「実はまだ、貴音ちゃんと響ちゃんになにかあったってことだけ。ねえ、説明してもらえる?」

  響「説明、って言っても…… 見てもらうしかないよね、たかね、おいで」

 小鳥「あら、貴音ちゃんももう来てるの? それにしては姿が見え……」


たかね「……おはつに、おめにかかります」ヒョコッ


 小鳥「ん? …… んんん?」

  響「……こういうこと、なんだけど」

たかね「おなまえはきいております、ことりじょうでいらっしゃいますね?」

 小鳥「んん? どういうことなんですって?」

  響「ピヨ子の見ての通りだぞ」


たかね「わたくし、しじょうたかね、ともうします。ひびきのせわになっております」

 小鳥「えっ? なに、夢?」

  響「自分も最初はそう思ったんだけどね……」

 小鳥「……」

  響「……ピヨ子? おーい、ピヨ子聞いてる?」


 小鳥「これはッ!」クワッ


たかね「!?」


 小鳥「765プロのアイドルの中でもいちばん背が高くてスタイルも雰囲気も大人っぽい貴音ちゃんがロリ化することで普段との大きなギャップを生み出しつつも高貴な印象は変わらず漂わせそして王道と名高い響ちゃんとの組み合わせ自体はそのままに――」


たかね「ひいぃっ!? ひ、ひびきぃ!」

  響「…… あー…… たかね、とりあえずこっちにおいで」



 小鳥「――ただでさえ萌え要素の塊である凸凹コンビと呼んでも過言ではない年の差や身長差が逆転した状態で響ちゃんに甲斐甲斐しくお世話をされるロリ貴音ちゃんという光景の癒され具合はまさに萌えと萌えの足し算ならぬ掛け算いやもはやこれは累乗いいえ階乗とすら呼ばれるべき」


  響「なんとなくやな予感はしてたけど、やっぱりこんな風になっちゃうのか」

たかね「あ、あの…… ふつつかものですが、いご、おみしりおきを……」

 小鳥「ヒビタカッ」バターン

たかね「ひゃあっ!?」

  響「ちょっ……!? ピヨ子!? ピヨ子ぉぉー!!」




  響「よいしょっと…… ふう。やっぱりピヨ子には刺激が強すぎたかぁ……」

 小鳥「」

  響「プロデューサーもたぶんこうなるってわかってたから、事前に情報あげなかったんだろうなー……」

たかね「いまのおはなしで、どこにしげきがあったか、わたくしにはわかりかねるのですが……」

  響「うーん、自分もよくわかんないぞ。たぶんそうだろうな、ってだけ」


ガチャ

   P「おはようございます」

  響「プロデューサー! おはよ!」

   P「おっ響、早かったな。おはよう」
  
たかね「……」

   P「そして、君が…… たかねちゃん、だね」

  響「ほらたかね、これがさっきも言ってたプロデューサーだぞ。挨拶、あいさつ」

たかね「……しじょう、たかね、ともうします。ゆえあって、ひびきのせわになっております」

   P「ああ、事情は響からも聞いたよ。はじめまして。俺は響のプロデュースを担当してるプロデューサーだ」


たかね「ぷろじ…… ぷろで、ぷろでゅーす……」

   P「えーと、つまり、アイドルとして活躍する舞台を準備してるって言えばいいかな」

たかね「ひびきもいっていましたが、その"あいどる"というのは、なんなのですか」


  響(……ね? こんな感じで、本当にアイドルやってた時の記憶とかないみたいなんだ……)ボソボソ

   P(本当だな…… いずれ思い出すか、年齢的にももとに戻ってくれればいいんだが……)ボソボソ


   P「アイドルってのは…… 人に夢を与えて、人を笑顔にする職業のこと、かな」

たかね「ひびきもその"あいどる"である、と?」

   P「ああ、そうだよ。 ……それに、貴音もそうだったんだ」

たかね「わたくしが? "あいどる"……?」

  響「ちょっとプロデューサー、そんなこと急に……」

   P「嘘じゃないし、恥じるようなことでもないだろ? 知っといて悪いことはないと思うんだ」


   P「で、たかねちゃん、君の今後についてちょっと相談しなきゃいけないな」

たかね「ひびきのせわになっていれば、よいのではないのですか?」

  響「基本的にはもちろんそれでいいんだけど、自分、学校にも行かなきゃいけないしなー……」

たかね「がっこう……?」

   P「……マジか。このくらいの歳の貴音の一般常識、そういうレベルだったのか」

  響「貴音ならそれもありえるかな、って思えちゃうのがまたこわいぞ……」




   P「そういや響、音無さん見てないか? 一緒に相談しようと思って声かけたんだけど」

  響「ピヨ子ならそこのソファでノビてるよ」

   P「ハァ!? なんで!? 何があった!?」

  響「たかねを一目見たら、なんかいろいろ止まらなくなったみたいで……」

   P「…… ああ、なるほどな……」


  響「幼稚園とか保育園とかに通うのが、この年の子なら普通だと思うんだけど」

   P「でも書類なんかがまず用意できないし、そもそも施設のほうに空きがあるかも怪しいな」

  響「といって、うちで留守番させとくのも、もしものことがあったら怖いしさ」

   P「うーん…… あ、でも、響の部屋ならお前の家族たちがいっしょに」

たかね「いやです! わたくしはまだしにたくありません!!」

   P「……この反応、どういうこと?」

  響「あんまり深く聞かないでほしいぞ」




  響「自分が学校とか現場とかにたかねを一緒に連れて行く、ってのは無理があるよね?」

   P「そりゃちょっとな。子連れアイドルなんて斬新ではあるけど、どんな噂が立つかわからないし」

  響「だよね…… そういえばプロデューサー、貴音の仕事のスケジュールは大丈夫そう?」

   P「ああ、それはだいたい調整がついた。むこう1か月くらいはどうにかなりそうだ」

  響「1か月、かぁ…… その間に、解決の糸口でも見つけられたらいいんだけど……」



 小鳥「うーん…… ひびたか…… たかひび…… ピヨッ!?」ガバッ


  響「あ、ピヨ子が復活した」

   P「おはようございます音無さん。なんていうか…… 俺のせいで、すみません」

 小鳥「プロデューサーさん! おはようございます、それより貴音ちゃんが!」

   P「ええ、幼児化してるんですよ…… もう直接会ったそうですね」

 小鳥「なんでそんなに冷静でいられるんですか!? ロリ貴音ちゃんですよロリ貴音ちゃん!!」

   P「…… まあその、俺は事前に響から聞いて、それに画像も見てましたので……」

 小鳥「画像!? 響ちゃん、なんでわたしには見せてくれなかったの!? いいえ、今からでも」

  響「うん、きょうのピヨ子の反応見てる限り、送らなかった自分の判断は正しかったよね」



 小鳥「……で、あれ? そのたかねちゃんはどこにいるんですか?」

  響「!?」

   P「!?」


  響「…… い、いない! 自分たちが話し込んでるスキに出てったな!?」

   P「まずい! もうぼちぼちみんな事務所に来てる時間だ、先に見つけないと!」

 小鳥「……どうして隠さなきゃいけないんです? 事務所の仲間なんですし、別に問題は――」

  響「仲間だからこそだよピヨ子ぉ!! 亜美や真美がたかね見つけでもした日にはどうなるか!」

   P「みんな仕事どころじゃない騒ぎになることは確実です! 音無さんも手伝ってください!」




たかね「…… ちょっとだけ、おへやをみてまわるだけのつもりだったのが……」

たかね「かってのわからないばしょで、うかつにうごいてはなりませんね……」

たかね「ひびきと、ぷろ…… あのかたと、それからことりじょうのいるおへやに、はやくもどらねば……」


  響「やっぱりもうビルの外に出てるんじゃないか!?」

   P「可能性はあるな…… 響、音無さんも、手分けして探しましょう!」

 小鳥「は、はいっ!」




たかね「はて、どうしたものでしょうか…… む?」

たかね「あちらのほうから、あしおとがきこえますね。きっと、ひびきがきたのでしょう」




 春香「ふふふふーん♪ ふふふ ふふふっふーん♪」

たかね「ひびき、さがしましたよ、はぐれてはこま」ヒョコ

 春香「ふふふ ふんふん♪ ふーんふふふー」

たかね「なっ!?」

 春香「んッ!?」


 春香「…… え、貴音さ…… えっ、あれ、なんか…… ちっちゃい?」
 
たかね「……ぬかりました!」ダッ

 春香「あっ、ちょ、ちょっと貴音…… さん、待っ、あっわっ、きゃあああああっ!?」


ドンガラガッシャーン


 千早「!? 着いて早々に…… いったいなんの音?」




 千早「こっちの方だった気がするのだけれど…… って、ちょっと!」

 春香「っ、あいったたたぁ……」

 千早「どうしたの春香、大丈夫!? 怪我はしていない!?」

 春香「あっ、ち、千早ちゃん! あのね、幼女が、古風で! 銀髪の、ていうか貴音さんが、ちっちゃくなって!」

 千早「どうしたの春香、大丈夫!? 頭を打っていない!?」

 春香「ほ、ほんとなんだってば!」


 雪歩「あずささーん、お茶、入りましたよぉ」

あずさ「は~い。ありがとう、雪歩ちゃん」

 雪歩「きょうは寒いですから、ほうじ茶にしてみました」
 
あずさ「素敵、温まりそう。そうだ、頂きもののお饅頭、持ってくるわね」

 雪歩「あっ、いいですねぇ。じゃあわたし、これ注いでおきますから」




あずさ「お待たせ~。はい、これ、どうぞ」

 雪歩「わぁ、ありがとうございます」

たかね「きょうしゅくです」

 雪歩「!?」


あずさ「じゃあ、わたしも…… うん、美味しい!」

 雪歩(えっ…… えっ!? いつの間に…… この子、誰!?)

たかね「ふむ、まこほ、よひあひでふ」

 雪歩(あ、あずささん、全く動じてないけど…… 知り合い、なのかなぁ?)

あずさ「またこのほうじ茶が、お饅頭とすごく合うわ~…… うふふ、しあわせ」

 雪歩(…… 銀髪で、きれいな目の色…… 四条さんがちっちゃいころって、こんな感じだったのかな……)

たかね「あのう、もし」

 雪歩「……は、はいぃ!?」

たかね「わたくしも、おちゃをしょもうします」

 雪歩「あ…… は、はいぃ、すみません、すぐに!」パタパタ

あずさ「お饅頭もまだいっぱいあるわよ~、もうひとつ食べる?」

たかね「なんと! ぜひに!」


たかね「たんのうしました…… では、わたくしはこれで」

 雪歩「あ、ああ、それじゃあ……」

あずさ「あら、そうなの? じゃあ、またね~」フリフリ




 雪歩(…… 行っちゃった……)

あずさ「ところで雪歩ちゃん、今の子、雪歩ちゃんの知り合いかしら?」

 雪歩「え、えええっ!? わ、わたし、あずささんの知り合いだとばっかり!」

あずさ「あら~…… どうしましょう、お饅頭、みんなの分に足りなくなっちゃったかも……」

 雪歩「あずささん、今気にするべきは絶対そこじゃありませんよね!?」


 亜美「ねえー、まーみー、ヒーマーだーよー」

 真美「真美だってヒマだよ亜美ぃー……なーんか面白いことないのー」

 亜美「ないから真美に聞いてるんじゃーん……」

 真美「んー、そーだよねー…… モンハンでもやるー?」

 亜美「そだねいー…… とりあえず、ひと狩りいっとこっかぁ」

たかね(……! あれがひびきのいっていた、あみとまみにそういありません!)

ガタッ

たかね(はっ!? ふ、ふかく!)

 真美「ん?」

 亜美「お?」

たかね「……」ダラダラ

 真美「んんん!?」

 亜美「……ねえ、亜美にはあの子お姫ちんに見えるんだけど、真美的にはDo-dai?」

 真美「ちょっと縮んでるよーな気もするけど、キホン的にはお姫ちんだね、まちがいない」

たかね(い…… いけません、これは)


 亜美「どーしよっか?」

 真美「そんなの聞くまでもないっしょ?」

 亜美「だよねー……? んっふっふー」




 真美「いっくぞぉ亜美ぃ! ミニお姫ちんをつかまえろー!」ダッ

 亜美「がってんだ真美ぃ! おっひめちーん!!」バッ

たかね「ひいっ!?」

たかね(なんというちゅうちょのなさ! つかまるとなにをされるかわかったものでは!!)ダッ

 亜美「あっお姫ちん逃げたっ!! こらー、まてぇーい!」

 真美「超絶レアモンスだよ亜美! のがすなー!」

たかね("ひとかり"とはこういうことですか!? なんとおそろしい!!)

 亜美「エモノはなかなかすばしっこいよ真美っ!」

 真美「だてに面妖やってないね!? 亜美右、真美左!」

 亜美「おっけぇーい!」

たかね(むれでれんけいのとれたかりをするなど、きゃつら、ほんとうにひとでしょうか!?)






 < マーテェー!

ドタバタ

 < ヒィィッ!

ダダダダ

 < ソッチイッタヨー!

バタバタ




 律子「…… またあの子達ね。がっつりお灸すえてやんなきゃ、わかんない、ってことね?」


 律子「いいわ。今日という今日は、お望みどおりにしてやろうじゃないの」



たかね「はぁ、はぁ……、はぁ……」

 真美「よーし、ミニお姫ちんだいぶスピード落ちてきてる!」

 亜美「あと一息ってトコだねっ真美、んっふっふー」

 真美「つかまえたらどうしちゃおっか!? んっふっふー!」


たかね(ああ…… まえが、もう、みえなく……)


バターン!!


 律子「くぉぉぉらぁああ! 亜美、真美、さっきからドタバタ何やってるの!?」



 真美「げぇっ! 鬼軍曹!」

 亜美「こんないいトコでそりゃないっしょー!?」

たかね(ま…… また、あらてが!?)

 真美「それよりまずいぞ亜美隊員、センリャク的撤退を――」

 律子「逃がすわけないでしょーが!」ガシィ

 真美「ぎゃーっ!?」

たかね(こ、これは、ねがってもないこうき!)スタタタ

 亜美「ああ真美隊員! くっ、キミの犠牲は決して無駄には」

 律子「わたしは おまえも つかまえた」ガシッ

 亜美「ひええーっ!?」


 律子(……ん? あれ…… 今、三人いたような気が……?)

 亜美「ねえちょっと律っちゃんってば大ニュースなんだよー!」

 真美「そうそう、そのへんにちっこいお姫ちんがいるの!」

 律子「……はぁ? 何バカなこと言ってるの、そんなので誤魔化されないわよ」

 亜美「あーん、ホントなのにー!」

 真美「お願い律っちゃーん、ちょーっと時間くれたらすぐ捕まえてくるからー!」

 律子「その前にちょっとあんたたちの時間もらうわよ」

 真美「へっ……?」

 亜美「り、律っちゃ…… いや律子さま、これからなにが始まるのかなぁ、なんて……」

 律子「そうね、胸に手を当ててよーく考えてみるといいわ」




      \\ ぎぃやーーーーっ!? //



たかね「なんとか、いわれていたとおり、あみとまみにはつかまらずにすみましたが……」

たかね「…… にげているうち、どこがどこやら、ますますわからなく……」グス




やよい「げんきにはじめればオールおっけー! ……って、あれ?」

たかね「っ!?」

やよい「こんにちは! ……ねえあなた、ひょっとして、迷子になっちゃったのかな?」

たかね「あ、あの、その、あやしいものでは……」

やよい「えらいなあ、むずかしいことば、知ってるんだね。お母さんとはぐれちゃったの?」

たかね「おかあさん…… とはちがうのですが、はぐれた、というか、その」

やよい「ここ、誰でも外から入れちゃうもんね…… よーし、わたしが一緒に家族の人さがしてあげる!」

たかね「いえ、そ、そんなことは、べつに、わたくしひとりでも」

やよい「遠慮しなくて大丈夫だよー。ひとりよりふたりの方が探しやすいし、ほら、おいで」

たかね(な、なんと、こがらなのにやたらとちからづよい……!?)ズルズル


やよい(何かお話してあげたら、気もまぎれるかなぁ…… そうだ!)

やよい「ね、あなたのお名前はなんていうのかな?」

たかね「わたくし、たかねともうします」

やよい「ええっ!?」

たかね「ど、どうかしましたか」

やよい(言われてみると…… はわっ、この子、貴音さんにそっくり!!)

たかね「あのう……」

やよい「ううん、ごめんね、ちょっとわたしの知ってるお姉さんと同じ名前で驚いちゃったの」

たかね「そうでしたか……」

やよい(髪の色とか、それにしゃべり方とかも…… 貴音さんがちっちゃくなっちゃったみたい!)


やよい(お母さんかお父さんがいるの事務所の外だろうから、まずはビルの外に出なくちゃ)

たかね(…… よくわかりませんが、どうも、さいしょのおへやからはなれているような……!)

やよい「あれ…… どうしたの?」

たかね「あ、あの、そとへでるほうにすすんではおりませんか?」

やよい「うん、そうだよ、お母さん…… お父さんかな? この中にはたぶん、いないからね」

たかね「いえ、それではわたくし、こまるのです、だってひびきが」

やよい「ひびき? ……響さん? えっ、あなた、響さんのこと」

 伊織「あら、やよい?」

やよい「あっ、おはよう伊織ちゃん!」

 伊織「おはよう。ねえ、こんなタイミングでなんでわざわざ外…… に……」

たかね「……」

 伊織「……え?」

やよい「あのね伊織ちゃん、これは」


 伊織(そろそろ朝のミーティングも近いのに、わざわざ事務所から出てくるやよい)

 伊織(しかも一人じゃなくて、銀髪紅眼なんて他じゃまず見ないルックスの幼女のおまけつき)


 伊織(……はっはーん、読めたわ。これいわゆるドッキリね、間違いない)


やよい「この子、家族とはぐれて、事務所の中にうっかり入っちゃったみたいなの」

 伊織(やよいと、それからこの貴音そっくりの子役。アイツの考えそうなことよね)

やよい「だからいったん外に出て、保護者のひと、探してあげようと思って」

 伊織(ここはまあ、テレビ的にはノってあげないといけないんでしょうね…… まったく、世話の焼ける)

 伊織「ふーん、そうだったの…… それにしてもどっかで見たような子ね、なんだか貴音みたい」

たかね(ま、またわたくしのながしられている……! ここはなんなのですか、ひがんですか!?)


やよい「す、すごい、伊織ちゃんなんでわかったの? この子のお名前も、たかねちゃんっていうんだって!」

 伊織「へえ、ホント? それは意外ねえー」

 伊織(裏表のないやよいにしてはなかなかの演技だわ。きっと結構前から動いてたのね、この企画)

やよい「うん、貴音さんにそっくりだよね。ねえ、伊織ちゃんもたかねちゃんの家族探すの手伝ってくれる?」

 伊織(……これも一緒に行かないとドッキリとして成り立たない、と)

 伊織「仕方ないわね、つきあってあげてもいいわよ。感謝しなさいよ、えーっと……、貴音」

たかね「は、はあ、その、ありがとうございます……」

 伊織(しっかしよくこんな子見つけてきたわね。ウィッグやカラコンはともかく、立ち居振る舞いが妙に似てるわ)


やよい「えーと、外に来たのはいいけど…… そうだ、たかねちゃんはどっちの方から来たの?」

たかね「わたくしは…… その、あちらのほうから……」

 伊織「……あのねえ、そういうお約束はいいから。なんでそこで真上を指さすわけ?」

やよい「あはは、そっちはお空だよー」

たかね「…… そ、そうでした、きょうは、こちらのほうから……」




< キキイッ

  真「……よーし、いい感じに温まってきたー! あっ、伊織、やよい、おはよっ!」


やよい「真さん! おはようございまーすっ!」ガルーン

 伊織「真、あんた…… この寒空に自転車通勤なの……?」

  真「だってせっかくのこの晴れ具合だよ? 冷えた朝の空気がまた気持ちいいんだ!」

 伊織「理解に苦しむわ」

  真「いいじゃないか、トレーニングにもなるしさ。ところでふたりともなんで中…… に……」

たかね「……」モジモジ

  真「……」

やよい「あっ、じつは、事務所でたまたま迷子になっちゃってた子がいたんです」

 伊織(ああ真、教えといてあげるけど、これ間違いなくドッキリだから……)ボソボソ


たかね「お、おはようございま……」

  真「なんなのさこの子ー! うっわあああ、かーわいいぃー!!」

やよい「へっ?」

 伊織「ちょ、ちょっと、まこ」

たかね「あ、あの、……ひゃあっ!?」

  真「すごいすごい! 髪の毛ふわっふわで銀色で、お人形みたいでかわいいなあ、連れて帰りたーい!」

たかね「ひ、ひい、あの、たかいです、おろし、ふりまわさ、ないで、ちょっ、めが、ああ」

やよい「真さん、真さん!? 落ち着いて、あのっ、下ろしてあげてくださーい!」


 伊織(……やよいの反応からしてもこの真は素ね。やれやれ、さぞドッキリ映えするでしょうよ)

  真「ねえこの子どこの子なの? やよいの知り合い? うちの事務所も子役アイドル始めるとか?」

やよい「どっちも違うと思います、その子、さっきも言いましたけど、たぶん迷子で」

  真「そうなのかぁ、残念…… この子貴音そっくりだし、貴音の妹ってことにしてデビューとかどうかなぁ!」

たかね「ちが…… たか、ねは…… わたくしで…… ああ…… せかいが……」

 伊織「真、そろそろマジで止めてあげなさい、お姫さまがグロッキーよ」

  真「えっ? あ、ごめんごめん」


  真「安心してよ、いざとなったらボクが責任もって抱っこでもおんぶでもして連れてって……」

たかね「……」プルプル

 伊織「……大丈夫? お仕事とはいえ災難だったわね、同情するわ」サスサス

やよい「落ち着くまでちょっとじっとしてようね、たかねちゃん」サスサス

  真「…… んーと、なんとなくボクが悪いみたいな空気感じるんだけど、気のせいかな?」

 伊織「なんとなくで終わってるんなら、悪いのは空気じゃなくてあんたの頭よ」

  真「んなっ、そんな言い方ないだろ!? ちっちゃい子といえば高い高いって常識じゃないか!」

 伊織「程度があるでしょうが! それにどっちかっていえばそれは男の子向けの遊びでしょ!?」

  真「だれが男の子っぽいだって!?」

 伊織「まだ言ってないわよ!!」

やよい「ちょ、ちょっとふたりとも落ち着いてっ、ね、けんかは……」




たかね(こ、これいじょうここにいては、いのちにかかわります……)ヨロヨロ







  真「……まあ、確かにボクも、ちょっとはしゃぎすぎてたところはあったよ」

 伊織「わたしももう少し言葉を選ぶべきだったわね。反省してる」

やよい「えへへ、そうそう、ちゃんと仲直りすればだいじょーぶですっ」

 伊織「……さて、そろそろネタバレしていいころじゃないの、やよい?」

やよい「えっ?」

  真「そういえばさっき伊織が言ってたドッキリって、いったい何のこと?」

 伊織「真もほんとに純粋ねー、あのミニ貴音のことに決まってるでしょ」

  真「ええっ!?」

やよい「あのたかねちゃん、どっきりだったんですかー!?」

 伊織「えっ」


 伊織「待ちなさいよ、やよいは仕掛け人のほうでしょう?」

やよい「しかけにん……? なんのこと、伊織ちゃん?」

  真「えええっ、じゃあさっきのお姫さま、あれメイクとかそういうのなの!?」ガーン

やよい「そ、そうだったんですかー!? 全然気づきませんでした!」ガーン

 伊織「ちょっと待って、お願い、二人でいちいちパニックを倍にするの、やめて」




 伊織「らちがあかないわ、当人に確かめたら済むことでしょ…… ……あら?」

やよい「……た、たかねちゃんは?」

  真「いなくなっちゃった!? あの子実在すらしてないの!? お化けとかなの!?」

 伊織「そんなわけないでしょうが! いいからすぐ探しに行くわよ!」

やよい「う、うん!」

  真「どっ、どうしよう伊織、ボクさっきあの子のこと思いっきり触っちゃったよ!」

 伊織「そんなことわたしが知るかぁ!!」


たかね(ああ…… まだ、ふらふらします、どこかで、やすみたい……)

たかね(…… おおきないすがあります、ふかふかで、ここちよさそう……)


 美希「ふにゃ…… あふぅ……」


たかね(すでに、せんきゃくがいますが…… ねていますし、あいているところで、すこし……)

たかね「……」ソローリ

 美希「……んにゃ?」パチ

たかね(な、なんと!? あしおとはたてていないのに!)

 美希「あー…… たかね、なにしてるのぉ?」フラリ

たかね(なんたること……! ここでもまた、なまえをしられているとは!)ゾーッ


 美希「ほーらぁ、そんなとこ立ってないで、こっちおいでよ、貴音ぇ」ガシィ

たかね「な…… なにをするのです、はなしなさい、はなすのです」

 美希「んー……? あれぇ、貴音、なんだかちっちゃくなってない?」

たかね「や、やめなさい、わたくしは……!」ジタバタ

 美希「……まー、そんなこと、どーでもいいのー、あふ」ボスン

たかね「ふみゃっ!?」ポスッ




 美希「…… すぴー…… むにゃむにゃ……」ギュー

たかね(これは…… どうしましょう、かんぜんに、とらえられてしまいました……)

 美希「…… えへへぇ…… おにぎりなのー……」

たかね「おにぎり!? どこです、どこなのですか」キョロキョロ

 美希「んー…… ええ、こんなにいいのぉ? ミキ、しあわせぇ……」

たかね「お、おにぎり、おにぎりはどこにあるのです!?」ジタバタ






 千早「おはよう、萩原さん。ねえ、プロデューサーがどこにいるか知らない?」

 雪歩「あっ、おはよう千早ちゃん。わたし、今日はまだ会ってないけど…… なにか用事があるの?」

 千早「実は、春香がちょっと調子を悪くしてるみたいで……」 

 雪歩「えっ、そうなの? 大変!」

 春香「ち、違うよ雪歩! 千早ちゃんが勝手に言ってるだけで!」

 千早「さっきから、四条さんそっくりの小さい女の子を見たって言って聞かないの」

 雪歩「えっ」

 千早「萩原さんもおかしいと思うでしょう? でも春香は――」

 雪歩「そ、その子なら、さっきわたしとあずささんのところにも来たよ!?」

 千早「えっ」

 春香「ほらぁー!! だから本当だって言ったでしょ千早ちゃん!」

あずさ「あらあら…… じゃああの子、やっぱり誰かの知り合いだったのかしらね?」


 亜美「その話ちょーっと待ったぁぁ!!」

 雪歩「ひぅっ!?」ビクゥ

あずさ「あら亜美ちゃん、おはよう」

 春香「あれっ、亜美、それに真美も…… なんで涙目なの?」

 真美「そのへんは置いといてさ、その前! お姫ちんそっくりのちっちゃい子って言ったよね!?」

 春香「う、うん」

 亜美「ほら律っちゃん!! ミニお姫ちんの目撃じょーほー、亜美たち以外にもあったよ!?」

 律子「え、えええ…… だってそんな、本当、なの……?」

 真美「はるるんにゆきぴょん、それにあずさお姉ちゃんまで見たって言ってるんだよー!」

 千早「偶然にしては、確かにできすぎている気も……」


バタバタ

 伊織「ねえ! ちょっと聞きたいんだけど、貴音そっくりの子がここに来なかった!?」

やよい「えっと、小学生くらいの身長で、髪が長くて銀色で、あっ、名前もたかねちゃんっていうんですっ!」

  真「で、でもそれはどっきりの演出で、ほんとはメイクで、ひょっとしたら幽霊かもしれなくて!」

 千早「…… また新しい目撃談? どうなっているの……」

 雪歩「ゆ、幽霊っ!?」

 亜美「ちょっとまこちん、言ってるイミがぜんぜんわかんないんだけど」

 律子「どっきり? ……そんな企画あるなんて話、聞いてないわよ?」

あずさ「ええと…… 律子さんが知らないってことは、冗談ではないんですよね」

 真美「でもこれだけの人数が見てるんだよ、ゼッタイなんかいるっしょ!」

 春香「と、とりあえずさ、みんなで手分けして探してみよう!」


   P「どうだ響、見つかったか!?」

  響「ど、どこにもいないぞ…… どうしようプロデューサー、ねえ、どうしよう……!」

 小鳥「とりあえず一度事務所に戻ってみましょう! 帰ってきてないとも限らないですよ!」




 伊織「ひとりだけいないと思ったら、この騒ぎの中ですら例によって寝てたのね、美希……」

 律子「……で、プロデューサー殿。これについて説明をお願いできますか」

   P「…… だそうだぞ、響」

  響「う、うがーっ!? よりによってそこで自分に振るのか!?」




 美希「ふにゃ…… くぅ……」ギュー

たかね「すー…… らぁめん…… ひびき、らぁめんが……」

 小鳥「●REC」






  響「……ってわけで、きのう朝起きたら、貴音がこんなことになっててさ」

  響(ダメだ、自分で言っててうさんくさいにもほどがあるぞこれ!)

  響「その、自分もまだ信じられないところがあるし、みんなもそうだと思うんだけど……」

 一同「……」

  響(ああ…… そりゃそうだ、絶句しちゃうのも当たり前さー……)




  響「記憶もなくなっちゃってるけど、でもこの子、貴音なんだよ! お願い、信じて」

 春香「うん、いやまあ、そういうこともあるんじゃないかなぁ」

  響「は、はぁ!?」


 雪歩「あの悠然とした態度は四条さんそのものって感じでしたし……」

あずさ「お饅頭もほんとに美味しそうに食べてたもの。貴音ちゃんなら納得だわ」

 律子「……というかそもそも、その見た目で貴音じゃないって言われる方が意外よね」

 亜美「うんうん、それにミョーにカンがいいし」

 真美「亜美と真美のタンデムアタックから逃げ切るくらいだもんねぃ」

やよい「や、やっぱりたかねちゃんが貴音さんだったんですねー!」

 伊織「ドッキリじゃなかったけどドッキリどころじゃない感じね、これ」

  真「よかったぁぁー! お化けでもメイクでもなくて貴音だったなら安心だよ!」

  響「自分が言うのもなんだけどみんな適応するの早すぎじゃないか!?」


  響「そ、それに、どうしてこんなことになったか、原因もぜんぜんわかんないし……」

 千早「それは多分我那覇さんの言うとおりなのだけれど、それ以前に……」


 美希「…… 貴音ならそういうことがあってもしょうがないかな、ってフンイキがあるの」


 一同「確かに」

  響「……そ、そうかなあ」




たかね「むにゃ…… ひびきぃ…… そのおにぎりは、あげませんよ…… わたくしの、ものです……」


   P「まあ結果論だけど、これだけ大々的にバレたのはかえってよかったのかもしれない」

  響「うーん、そうといえばそう、なのかも」

   P「しかし、結局のところ問題は解決してないわけで…… どうしたもんだろうな」


 小鳥「……じゃあ、響ちゃんの手が空かない間、たかねちゃんを事務所で預かってあげたらいいんじゃないですか?」


  響「え?」

 小鳥「ここなら毎日、少なくともわたしはいるわけですし、お金もかかりませんよ」

   P「いや…… でも音無さん、それだと音無さんの負担が増えちゃいませんか」

 小鳥「まったく増えないって言ったら嘘になりますけど、そのくらいの余裕はありますから」

あずさ「そうだわ~、レッスンやお仕事の合間で、わたし、遊び相手くらいはしてあげられますよ」

 律子「…… 私も常に外回りってわけでもありませんから、手伝うことは可能ですし」

 春香「それに、わたしたちだって学校終わったあとならお世話できちゃいますねっ!」


 亜美「それなら亜美たちの方が学校早く終わるから、お姫ちんと長く遊べちゃうってスンポーだよ!」

 真美「そうそう、中学生の特権ってやつだね? んっふっふー」

やよい「たかねちゃん、うちの弟とも歳が近いですし、わたしも役に立てると思いますー!」

  響「そ、そんな! ピヨ子にもみんなにも悪いよ!」

 美希「んー、それくらいいいんじゃないの?」

   P「いいんじゃないの、って、美希お前なぁ」

 雪歩「でも実際、響ちゃんの負担を考えてもそれが一番じゃないですか?」

  真「そうだよ、いくら響でも、通学とお仕事とたかねの世話を全部一人でってのは無理があるよ」

 千早「それに我那覇さんの場合、ほかの家族のみんなもいるわけでしょう?」

 伊織「頼れるところは素直に頼っときなさいよ。みんな進んで言ってるの、わかってるでしょ?」

  響「う、うん、それは確かにそうだけど……」


 高木「ではそれで決まりだね」

   P「うおっ!? 社長! いらしてたんですか!」

 高木「事情はどうあれ、事務所のメンバーの苦境に違いない。できることはしようじゃないか」

   P「それはもちろんですけど、社長にまでわざわざお手伝いいただかなくても」

 高木「私だって音無君と同じく、日中はだいたいここにいるからね。話し相手にくらいはなれよう」




   P「……じゃあ、とりあえず、だ。明日から響は通学前にたかねをここに連れてきて、音無さんか社長が迎える」

  響「うん、わかったぞ」

 小鳥「ええ、大丈夫です」

 高木「うむ」

   P「そして、響のレッスンなり仕事なりが終わったら、こっちに寄って連れて帰る、ってことで」

  響「それが今のところ、たかねのためにも一番いいよね」

   P「そうだな。で、たかねが事務所にいる間、余裕があるメンバーは相手してあげる。みんな、それでいいな?」

 一同「はーい!」


たかね「…… ん、んん……」

 伊織「ああ、お姫様の目が覚めたみたいよ」

 律子「この状況で今までずっと寝てられるあたり、貴音らしいっていうか、大物ね……」


たかね「……ひびき? ひびき、どこですか……?」

  響「あー、はいはい、ここにいるぞ。それより勝手に動き回っちゃダメじゃないか、たかね」

たかね「あの…… その、ちょっとだけ、たんけんしてみようと……」


 春香「あはは、かわいい、目が覚めたらまず響ちゃん探すんだ。鳥のひなみたい」

あずさ「一日しか経ってないのに、ずいぶん響ちゃんになついてるわね、たかねちゃん」

やよい「動物にもあんなに好かれる響さんだから、当然なのかなーって気もします」

 美希「それに響と貴音の付き合い、かなり長いし。たぶんあんなカンジで当たり前なの」

 千早「とりあえず、ここは我那覇さんに任せておきましょう。急に私たちが出張ったら混乱させてしまうわ」






  響「ってことで、たかね。明日から、日中はここで自分のこと待っててね」

たかね「…… なんだかわたくしひとりのために、おおごとになってしまったきがいたします」

  響「自分も、まさかこんなことになるとは思わなかったさー」

たかね「もうしわけありません、ひびきにも、みなにも、めいわくを……」

  響「なんでたかねが謝るの?」

たかね「えっ?」

  響「原因はわかんないけど、たかねにもどうしようもないことなんだしさ」

たかね「…… それは、そうなのですが……」

  響「誰かが大変だったら助け合うの、普通のことだもん。たかねも含めて、みんな事務所の仲間なんだから」

たかね「ひびき…… …… ありがとう、ございます」


  響「ん、いいってば。 ……っていうか、むしろ、たかねが大変な目に遭うのは今からだぞ?」

たかね「はい? ……それは、どういう?」

  響「うん、自分が説明しなくてもすぐわかると思うから、がんばって」

たかね「…… あの、ひびき、わたくし、わるいよかんがいたしま――」




 亜美「ひびきーん! もうお話終わったー!?」

 真美「ひびきんばっかりずるいよー、真美たちもミニお姫ちんと遊びたいよー!」

たかね「ひい!?」

  響「あー、ごめんごめん、今説明すんだとこ」

 雪歩「四条さんの…… あの四条さんの、幼女時代の姿がぁ……!」

  真「雪歩、ねえ雪歩? ……ああダメだこれ、聞こえてないや」

 小鳥「メモリもバッテリーも十二分にあるわ、さあ撮るわよぉ……!」




  響「みんなたかねのこと、"歓迎"したくて待ち構えてたんだ。 ……大丈夫、命までは取られないぞ」

たかね「!? め…… めんようなああぁぁ!?」


  響「どうしたのさ、たかね。くたびれた顔しちゃって」

たかね「…… ほぼいちにち…… みなに、もてあそばれて、わたくしはもう……」

  響「あはは、みんなたかねに初めて会うから興奮してたのさー。明日からは大丈夫だよ」

たかね「だと、よいのですが……」

  響「それに、誰もたかねのこといじめたりしなかったでしょ?」

たかね「…… あさのだんかいで、まことにふりまわされました」

  響「自分のいないとこで何があってたの、それ」

たかね「あみとまみには、あやうく、かられそうになりましたし……」


  響「かられそう……? 刈られそうに? なんでまたそんなことに……」

たかね「みきはわたくしにだきついて、はなしませんでしたし」

  響「それは自分も見たけど、っていうかたかね、一緒にぐーすか寝てたよね?」

たかね「きわめつけに、ことりじょうは…… えんえんと、めんようなきかいをもって、おいかけてきて……」ブルブル

  響「それはまあ…… でも、結局いま魂抜けてないんだからなんくるないでしょ」

たかね「そういうもんだいではありません!」

  響「ピヨ子の密かな楽しみみたいなもんだから、我慢してあげてよ」

たかね「ほほえみ、はなぢをだしながらはしるすがたが…… どれほどおそろしかったか……!!」ガクガク

  響「…… うん、あれは確かにちょっと同情するぞ」


  響「さて、ほかの家族の分の買い物もあるし、ちょっとスーパー寄ってくぞー」

たかね「すうぱあ?」

  響「ああ、お店だよお店。すぐ近くだから」




たかね「おお……! なんとひろく、そして、なんとたくさんのものが!」

  響「初めて見たらそうなるよね。ほら行くよたかね、ちゃんとついてきて」

たかね「……はっ!? ひ、ひびき、あれは!」

  響「んー? なにかあった?」


たかね「あのつつのようなものは、まさしく! さくじつしょくした『かっぷめん』!!」キラキラ

  響「お、よく覚えてたね。よっぽど気に入ったんだな」

たかね「しかし…… こんなにも、たいりょうに…… むむむ」

  響「最近はたくさん種類があるからなー。で、なにをそんなにうなってるの?」

たかね「これだけあると、わたくしといえど、たべきれないおそれが」

  響「なんでたかねが全部食べていい設定になってるのか知らないけど、買わないぞ?」

たかね「なにゆえ!?」ガーン

  響「いや、なにゆえって」


たかね「あれほどびみなものを、なぜかわないのです!?」

  響「昨日も言ったでしょ、いくらおいしくてもたかねの身体によくないんだよ」

たかね「しょうしょうのことにはめをつぶるべきです!」

  響「いーや、大人もカップ麺ばっかりじゃすぐ身体壊すんだから。たかねみたいなちびっ子はよけいダメだぞ」

たかね「いいえ、わたくしはしゅくじょですから、もんだいございません!」

  響「そもそも淑女はふつう、カップ麺食べたいなんてダダこねないからね?」

たかね「むぅぅ…… ああいえば、こういう……!」

  響「どっちがさ!? はいはい、ほら、行くよ」

たかね「ああ…… とうげんきょうが、はるかかなたへ……」

  響「ずっとたどり着けないから桃源郷なのさー」

たかね「だ、だれがうまいことをいえともうしました!?」


たかね「ひびき…… せんこくから、おかしいとおもいませんか?」

  響「なにが?」

たかね「たしかに、いまはふゆです。さむいきせつです」

  響「うん、その通りだぞ」

たかね「しかし…… 『すうぱあ』のなかでも、このあたりにきてから、よりつめたさをかんじます」

  響「ああ、言われてみれば、多少は」

たかね「それになにか、しろいけむりのようなものがみえるきも……」

  響「そういえば、目をこらしたら見えなくもないね」

たかね「ひびき、ゆだんはなりませんよ…… なにやら、あやしげなくうきをかんじます……!」




  響(…… 冷蔵コーナーのこと説明しても…… たぶんわかんないだろうなあ、これ)


 店員「いらっしゃいませ。袋はおつけしますか?」

  響「お願いします。それと、別に小さい袋をひとつもらえますか?」




  響「はい、これはたかねの持つ分」

たかね「このちいさいふくろは……? なぜ、わたくしに?」

  響「ちょっとくらいお手伝いしてくれても、バチはあたんないでしょ?」

たかね「たしかに、それはそうですが……」

  響「ん、じゃあ、よろしく。 ……ついでに中も見てみたら?」

たかね「なか、といっても…… ……こ、これは、かっぷめん!! いつのまに!?」パァァ

  響「ふふん。たかねが見てないときに、こっそりカゴに入れといたのさー」


  響「あのさ、たかね。1週間に1個だけなら、カップ麺食べてもいいよ。買ってあげる」

たかね「はい、はいっ! なのかかんに、いちどですね!」

  響「…… たーだーし!」

たかね「?」

  響「これ、自分との約束だからね。けさ事務所でやったみたいに勝手なことしたら、もう絶対買わないぞ。できる?」

たかね「…… はい! ちゃんと、まもります!」

  響「よーし、じゃあ指きりしよう」

たかね「はいっ」


   「「ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたらはーりせんぼんのーます! ゆーびきった!」」







たかね「みてください、ひびき、いろとりどりで…… まるで、ほうせきばこのようです」キラキラ

  響「ホント、綺麗だね。たかね、なかなか詩的なこと言うじゃないか」

たかね「ふふ、わたくし、そのみちのさいのうがあるでしょうか?」

  響「その歳でそれなら立派だと思うさー。ケーキのこと、宝石だなんて」

たかね「ほんとうに、うつくしくて…… おもわず、ほおばってしまいそうです……」キラキラ

  響「あんまりショーケースに張り付いちゃダメだぞ、お店にも迷惑だしね。 ……そういうわけで」




  響「たかね、ほら、行くよ、ってば……!」ググググ

たかね「いま、すこし…… ひびき、いますこしだけ……!」グググ

  響(さっきまで、あんなにへたばってたくせに……! ケーキ屋さんの前で急に、根っこでも生えたみたいに……!)


  響「ぜえ、はあ、やっと動けたぞ…… たかね、あとはまっすぐ家に…… っ!?」

たかね「ひびき!! このおみせ、かんばんに『らぁめん』とかいてあります!!」

  響(…… よし。明日からはこのルート通るの、絶対やめよう)

たかね「それに、なかから、かっぷめんとにたにおいがただよってきます!」

  響「そりゃね、ラーメン作ってるからね」

たかね「まさか…… ここは、かっぷめんをつくるおみせなのでは!?」

  響「それはかなり失礼だから、あんまり大声で言うのやめような、たかね」




  響「だから、ね、もう、今日は、おとなしく、帰ろう!?」グググググ

たかね「いま、すこし、いますこし、ここに、おり、ましょう、ひびきぃ!」ググググ






  響「たかね、おいでー、お風呂だぞー」

たかね「……」

  響「どうしたの? ほら、こっち」

たかね「…… また、しゃんぷうをするのでしょう?」

  響「そりゃまあ。たかね、ただでさえ髪の毛多いんだから、ちゃんと洗わなきゃ」

たかね「いやです」

  響「え」

たかね「わたくし、にどとしゃんぷうはいやです」


  響「でも、シャンプーしないと、どんどんきたなくなっちゃうぞ」

たかね「いやです、ひとはしゃんぷうなどせずとも、いきてゆけます」

  響「そんな大げさな話じゃないってば。すっきりして気持ちいいよ?」

たかね「なんといわれようと、おことわりします!」
 
  響「…… お、へび香! そんなとこにいたのか!」

たかね「ひいぃっ!?」クルッ




  響「よし、捕まえたぞー」ガシィ

たかね「!? ひ、ひびき、はなしてください、はなすのです、いやああああ!」ジタバタ

  響「はいはい、いけずいけず」


たかね「はなしてくださいませ! おに! あくまー!」

  響「で、これを、よいしょ、っと」

たかね「ふぎゅ…… なんですこれは!」

  響「おー、なかなか似合ってるぞ、たかね」

たかね「ひびき、わたくしになにをかぶせたのです!?」

  響「とっておきの秘密兵器だよ」

たかね「ひみつへいき……?」

  響「さてと、じゃあシャンプーするぞー」

たかね「みゃっ!? ひびき、お、おねがいです、やめてください、いいこにしますから!」

  響「よーしたかね、いい子でじっとしてようなー」


たかね「い、いやあああああ! ……おや?」

  響「たかね、かゆいとこないー?」

たかね「これは…… ひびき、めが、めがいたくありません!」

  響「そのためのシャンプーハットさー。やっぱり買っといて正解だったぞ」

たかね「しゃんぷう、はっと?」

  響「そ、これかぶってたら、目に水が入んないでしょ」

たかね「なんと……! このような、すばらしいものが……!」




  響「いや、だからね、それはお風呂でかぶるためのものなの!」

たかね「いいえ! おでかけにもかぶってゆきます!」


たかね「 …… すー、くぅー…… むにゃ……」

  響「ふー…… さすがに、あっという間に寝ちゃったな」


  響(まあ実際、きょうは一日みんなに引っ張りだこだったからね……)


  響(とりあえず、明日からは事務所でピヨ子や社長、みんなも手伝ってくれる分、だいぶ安心だぞ)




  響「……あ、そうだ、忘れないうちに」



  響「もしもし、プロデューサー? 遅くにごめんね、お願いがあるんだけど」


  響「ん、自分のスケジュールのこと。あのね、夕方以降のレッスンとかお仕事とか…… ちょっとだけ減らせないかな?」


  響「え? うん、そう…… できるだけ、たかねと一緒にいてあげられるようにしたいんだ」


  響「もちろん大丈夫さー、自分、日中に倍がんばるから! 迷惑はかけないぞ!」


  響「……ありがと! うん、また明日、おやすみ!」

 
◆その2→