←その3



【おおかみ少女】

  響「すごいよっ、たかね! 早く起きて、早く早く!」

たかね「…… んん…… いちおう、たずねますが、なにがあるのですか」モゾモゾ

  響「雪だよ! きれいに積もってるんだ、ホワイトクリスマスになったぞ!」

たかね「ひびき。わたくし、きょうというきょうは、だまされませんよ」

  響「今までさんざん引っかけたのは悪かったってば。今日こそは、ホントにホントだから!」

たかね「ふっ…… そのてにはもう、かかりません。わたくし、きょうこそはひゃああっ!?」

  響「えーい、それなら実力行使! このまま抱えて窓際まで連れてってやるさー!」

たかね「ひ、ひきょうなっ!? くちでかてないからと、ちからにうったえるなど、やばんで……」




たかね「…… ふわあぁ、すごい!! いちめん、まっしろです!!」

  響「ねっ、言ったとおり自分、今日はウソついてないでしょ?」

たかね「ひ、ひびき、はやくおそとへでましょう! いっこくもはやく!」

  響「まずはご飯食べてからね。これだけ積もってたら、すぐにはとけないから大丈夫」


【だいのじ(XS)】

たかね「ひびき、ひびき、みてください、みわたすかぎり、ゆきが……!」

  響「うん、すごいなー! こんなに積もったのは自分もあんまり見覚えないよ」

たかね「はやく、はやくまいりましょう!」タタタッ

  響「ちょっと、気持ちはわかるけど落ち着いてってば、たかね。そんなに走ったら――」

たかね「ふふ、ついてこないのなら、わたくしゅぶほっ」ボスッ

  響「うわああっ!? だ、だから言ったのにーっ! 大丈夫!?」

たかね「……」ムクリ

  響「あーあー、顔がまっしろだぞ。ほら、じっとしてて、雪払ってあげるから」

たかね「……とうっ!!」バフーッ

  響「え、ええっ!? たかねっ、なんでわざわざ自分からっ!?」

たかね「……」ムクッ

  響「うわあ、もっと雪まみれになっちゃって…… どうしたっていうの、一体」



【だいのじ(XS&S)】

たかね「みてください、ひびき! わたくしのからだのかたが、はんこのように!!」

  響「う、うん、それはわかったから。でもたかね、身体が冷えちゃうよ、もう……」

たかね「ふわふわで、ひんやりしていて、たいへんここちよいです! もういちど、えいっ」ボフー

  響「な…… っ、なに考えてるのさ、もーっ!? 三回もやればもう十分でしょ、ね」

たかね「さあ、ひびき、つぎは、ひびきもいっしょに!」

  響「はあっ!? い、いや、自分はいいよ、それより早く事務所に行こ?」

たかね「えんりょするものではありませんよ、ひびき、さあさあ」グイグイ

  響「ちょっ…… わわ、いきなり引っ張んないでって、ああっ、うぎゃーっ!?」




  響「……ぷあっ!? もう、何するのさたかねぇ!」ムク

たかね「ふふっ、ひびきのおかおも、まっしろです! わたくしとおそろいですよ!」

  響「…… ……ぷっ、くくく、あはは! ホントだなー、まったくもう!」



【福利厚生のためにお休みなのであって仕事がないわけじゃありませんってば!】

ガチャ

  響「みんな、おっはよー! メリークリスマース!」

やよい「あっ、響さん、それにたかねちゃんも! おはようございまーすっ」ガルーン

たかね「めりー、くりしゅみゃ…… こほん、くりすましゅ!」

 千早(言い直してもなお言えていない! ……のに、勝ち誇った顔したりして、ふふっ)

 春香「おはようっ、二人とも! ステキなホワイトクリスマスになったねっ」
 
 伊織「まーたにぎやかなのが増えたわね…… 約一名言えてないけど、メリークリスマス」

  真「もー、遅いよ響ってば。たかねと響のこと、みんな待ってたんだから」

  響「え? 自分たち、集合時間には遅れてないよね。何かあるんだったっけ?」

 真美「おやおやー、とてもカンペキなひびきんの言うこととは思えませんなー?」



 亜美「そーだよっ! こんだけ雪積もってるのになんにもしないとかモグリっしょー!」

あずさ「時間もあるし、この雪でしょう? みんなで雪合戦しよう、ってことになったのよ~、うふふ」

たかね「かっせん!? みなで、かっせんをするのですか!?」

 雪歩「た、たかねちゃん、あくまで遊びだからね? 雪で玉を作ってね、みんなで投げあうの」




 律子「……まったく。本当なら、クリスマスにそんな暇があることを気にするべきなのに」

 小鳥「ふふ、いいじゃないですか、律子さん。みんなが揃うこんな機会、この先あるかわかりませんよ?」

   P(…… 片手にビデオカメラ握り締めてさえなければ、もっとキマる台詞なのになぁ)

 美希「えーっ、ホントに雪合戦するの……? ミキ、お留守番しとくから寝てていーい?」

 律子「あんたはあんたで、ちょっと寒い思いするくらいがちょうどいいのよ。ほら起きなさい」グイ

 美希「やーん、なのー」



【小鳥謹製あみだくじ:情熱の赤組】

 美希「あふ…… ぅ、これもう、チームわけの時点で勝ち確定だって思うな」

 真美「だーよねぃ! あっちで気をつけなきゃいけないの、ひびきんくらいっしょ」

 春香「ほんと、ものの見事に偏ったよね……」

  真「でもクジ運も勝負のうちだからね、手は抜かないよっ!」

やよい「わたしもがんばります! ……あれ、亜美、どうかしたの? 浮かない顔しちゃって」

 亜美「いやぁ、たぶん大丈夫だとは思うんだけどさー…… あっち、律っちゃんいるじゃん?」

 真美「なーに言ってんの亜美っ! 律っちゃんのひとりやふたり、どーってことないってば」

 春香「そうだよ、わたしはさておき、運動神経のいいメンバー、ほぼ全員こっちだもん!」



【小鳥謹製あみだくじ:純情の白組】

 律子「みんな、いいわね? この作戦でいけば、たぶん勝てるわ」

 伊織「……いや、確かに可能性はなくもないだろうけど、どうなのよ、それ」

 雪歩「か、考え方がえぐいですぅ……」

 千早「あの、律子…… 遊びにそこまでする必要はあるのかしら?」

 律子「やるからには勝ちを狙わなくてどうするの。それに本人、すっごく乗り気よ」

たかね「ええ! うでがなります!!」

あずさ「あらあら…… うふふ、これは頼もしいわね~」

 伊織「わたし、止めたからね」

  響「う、うーん、そんなにうまくいくかなぁ……」



【いくさがはじまる】

 小鳥「それでは、不肖音無小鳥、本日の審判をつとめさせていただきます!」

   P(ホイッスルまで持ってきて気合入ってるなー、音無さん)

 小鳥「両チーム、準備いいわねっ? では…… 開始ーっ!」ピピー




  真「よおーっし、さっそく…… !?」

たかね「まことがあいてですね! さあ、きなさい!」

 春香「た、たかねちゃん一人だけが突出して……!?」

やよい「はわっ! ほかのみんなは、遠すぎてねらえないですー!」

  真「えっ、ちょっと…… え、これ、ぶつけちゃっていいの?」

 美希「真くん、ためらってる場合じゃないの!」

  真「そんなこと言ったってさぁ!?」




たかね「そこですっ、まこと! すきあり!」ヘロッ

  真「え、ああっ……!? しまったーっ!」ベシャ

 小鳥「ヒットぉ! 当てられた真ちゃんはコートから出てねー!」ピーッ

 真美「ああ!? こっちの最強こーほのまこちんがあっさりと!」

 亜美「だーっ! やっぱこれ絶対、律っちゃんが裏で指示してるっしょー!?」




 律子「読み通りね。たかねにためらいなく雪玉投げられる子なんて、うちにいるわけないもの」

 伊織「ねえ、これ、やってることは割とはっきり外道よね?」

  響「…… まあ、本人、盾にされてる自覚ないみたいだし、いいんじゃないかな」

 律子「みんな、コートの端ぎりぎりからたかねの援護に徹すること! 絶対近寄らないのよ!」


たかね「さあさあさあ! つぎに、わたくしのゆきだまのえじきになりたいのはだれです!?」




【うらみはらさで】

  真「あのさ、提案があるんだけど。チーム替え、しようよ」ゴゴゴゴゴ

やよい(ま、真さん…… 笑って言ってるけど、目がぜんぜん笑ってないですっ!)

 亜美「そんで、そのとき、律っちゃんとおひめっちだけは絶対別チームでね?」

 美希「……っていうか、メンドーだから、たかねをこっちのチームにくれるだけでいーの」

 真美「うんうん。あ、なんならはるるんとおひめっちのトレードでもいいよん」

 春香「ひどくない!?」

たかね「ふふふ…… わたくしのようにつよいものが、ひくてあまたなのは、とうぜんですね」

 律子「…… いいわ、じゃあ、たかねだけチームチェンジってことでいきましょう」



 伊織「ちょっと律子! あっさり要求に応じちゃってどうすんのよ!」

 雪歩「うう…… 絶対、あっちもたかねちゃんを盾にしてくるはずですぅ……!」

 千早「しかも、メンバーの運動神経的に、遠巻きにされるとより不利になってしまうわね……」

あずさ「勝ち負けがすべてじゃないのよ~。楽しかったらいいんじゃないかしら?」

 律子「いいえ。もちろん次も勝ちに行きます」

 雪歩「えっ、律子さん、なにかいいアイディアがあるんですか?」

 律子「当然よ。というわけで雪歩、それに響、ちょっと耳貸しなさい」

  響「え…… ええっ、自分!?」

 伊織「……だいたいどんな手で行くのか、もう察しがついたわ、わたし」



【リベンジマッチ】

 小鳥「じゃあ改めて、両チーム、覚悟はいい? 二回戦、始めーっ!」ピピーッ




  真「よぉし、じゃあさっきあっちでやってたみたいに頼むよっ、たかね!」

たかね「おまかせください!」

 亜美「バンバンやっちゃっていーかんねおひめっち、んっふっふー」

 美希「あふぅ…… ミキ、今度は寝てても大丈夫そーなの」




たかね「ふっふっふ…… ちーむがかわっても、わたくしはむてきです!」

  響「おーい、たかねー」

たかね「む、ひびき。さきほどはみかたでしたが、いまはおたがい、てきどうしで……」



  響「いいこと教えてあげる。実はさっき、あっちで霜柱見つけたんだ」

たかね「しもばしら!? まことですかっ! どこですか?」

  響「んーとね…… ずーっとあっちの方。今日は、たかねが全部ひとりで踏んでいいぞ!」

たかね「なんと! やくそくですよ、ひびき!」タタタッ




  真「…… あ、あれっ?」

やよい「ちょっ…… ええっ、たかねちゃん!?」

 真美「おひめっちーっ!? カムバーック!」

 小鳥「たかねちゃん、コート外に出てしまったので失格でーす!」ピピピー

 春香「ひ、響ちゃん、そんなの反則でしょー!?」

  響「なにが? 自分、霜柱があった、って世間話しただけだぞー」




たかね「しもばしら♪ どこでしょうかっ、しもばしら♪」



 美希「……響がこんなこと考え付くわけないの、これゼッタイ律子……さんの作戦なの!」

  響「ちょっと待つさー、美希、さりげなく自分にすごく失礼なこと言ってない!?」

 美希「はっ…… ってことは!? みんな、気をつけ……」


 律子「混乱してる今がチャンスよ! 全員とーつげきーっ!」バッ

 千早「……!」ダッ

 伊織「あーっもう、こうなったらヤケクソよっ!!」ダダダ


やよい「わあぁっ、あっちのチームみんな、まとまって突っ込んできましたーっ!?」

 真美「まずいYO! みんなおひめっち任せだったから、早くゲーゲキしなきゃ――」

あずさ「よぉし、頑張っちゃうわよ、え~い!」ポイポイ

 真美「ぶへえっ!?」ボスッ

  響「え…… あ、あずささん!? 自分は敵じゃな…… うぎゃーっ!」ベシャ-

 亜美「ああ! 真美ついでにひびきんまであずさお姉ちゃんのノーコン球のギセーに!」

 小鳥「真美ちゃん、それに響ちゃんもアウトー!」ピーッ



 千早「まずは美希、次に春香、あとは亜美と真美、真の順……」ビュッ

 美希「ちょっ、千早さんっ…… 一人狙いはズルいの! なんでミキばっかりーっ!?」

 千早「高槻さんは天使だから除外」ヒュッ

  真「み、美希が危ない! 待つんだ千早、ボクが相手――」

 千早「さっきも言ったとおりで、今はまだ真の番じゃないの。そこをどいて」

  真「あっ……、はい、ごめんなさい……」スッ

 美希「ま、真くん!? 真くーんっ!?」




やよい「も、もう、あっちもこっちもめちゃくちゃで…… わけがわかんないです!」

 亜美「えーい、こうなったらこっちもやってやろうわあああーっ!?」ズボォォ

 雪歩「……うふふふふふ、雪って、すっごく掘りやすいから助かりますぅ」

 春香「み、みんな、気をつけてーっ! このへん落とし穴だらけだよっ!?」




たかね「おお、ここにも…… それにこちらにも! ふふ、えいっ♪」ザクッ



【ノーサイドとは名ばかりの】

 高木「今年も皆、よく頑張ってくれたね。ささやかだが本日のパーティ、楽しんでくれたまえ」

たかね「なんと……! すばらしい、ごちそうのかずかずが!」キラキラ

 高木「それでは、見事なホワイトクリスマスを祝して、また来年の我々の成功を祈って、乾杯!」

 小鳥「はーい、乾杯ーっ!」

元白組「「「「「「かんぱーいっ!!」」」」」」

元赤組「「「「「「…… かーんぱーい」」」」」」

   P「か、乾杯!」




 高木「キミ、一部アイドル諸君が浮かない顔をしている気がするのだが、何かあったのかね?」

   P「……ええ、と、いえ、特に問題はない、と思います、多分」

 高木「それに美希君や亜美君・真美君の、律子君を見る目に妙にトゲがあるような気もする」

   P「は、ははは、まさか! きっと社長の気のせいですよ!」

 高木「ふむ、それもそうか。どうも年をとると心配性になっていかんね、ははは!」



 美希「律子……さんは、やることがえげつないの」

 亜美「そーだそーだー、それがオトナのオンナのやることなのかーっ!」

 真美「コドモを盾にしよーなんてヒキョーだぞーっ!」

 律子「別にルール違反はしてないでしょ。それに2戦目は、油断しきってたそっちにも問題あるわよね」

 亜美「ぐ…… ぐぬぬー、テラス口をたたきおってー!」

 真美「…… やめよう亜美、口ゲンカじゃあ律っちゃんにはかなわないよ……」

 律子「だいたい亜美も真美も動きが直線的すぎるわ。こういうときこそ連携して動かないと」

 亜美「ちょっ、律っちゃん、こんなときまでダメ出しとかやめてよね!?」

 美希「……じゃーミキは、おコゴト言われるまえにさっさとソファで――」ススッ

 律子「待ーちなさいってーの。あんたのやる気のなさはそれ以前の問題なのよ」ガッ

 美希「やーん!?」



 千早「さっきから一体どうしたの、真。私が何かしてしまったのなら教えて、謝るから」

  真「い、いやっ、ホントになんでもないんだってば千早!」ビクビク

 春香(千早ちゃん、自分がどんなオーラ出してたかとかぜんぜん自覚ないんだろうなぁ……)




 雪歩「うう、またやっちゃいましたぁ…… 簡単に掘れるからって、ついハイになっちゃって……」

 伊織「雪歩、あんたの落ち込むポイントも毎度よくわかんないわね……」

 雪歩「落ち込む…… あ、穴だけに?」

 伊織「ねえ、ほんとは全然気にしたりとかしてないでしょ?」




あずさ「うーん、最高! たくさん運動したあとは、お料理がいつも以上に美味しく感じるわ~」モグモグ

やよい「ホントですねっ、あずささん! みんなはあんまり食べてないみたいですけど……」ムグムグ



【常在戦場】

  響「はー…… ちょっと遊ぶくらいのはずが、こんなにハードとは思わなかったさー……」

たかね「ひびき! じっとしているばあいではありませんよ!!」

  響「……一人で霜柱踏んでた分、元気なのはわかるけど、たかねはもうちょっとじっとしときなよ」

たかね「あっ、あちらにあるおりょうり、わたくし、まだいただいておりません!」

  響「大丈夫だって、そんなすぐにはなくならないから」

たかね「いいえ、わかりませんよ? さあ、ひびき、さあさあ」

  響「もう全種類制覇しそうな勢いだなぁ。ちゃんと味わって食べなきゃダメだぞ」

たかね「とうぜんです。ですが、すべていただくことも、おなじくらいじゅうようです!」

  響「やれやれ…… それで? たかね、どれが食べたいって?」

たかね「ほら、そこの、それです! めろんにおにくがのっているそれです!」キラキラ

  響「生ハムメロン、ねぇ…… また人を選びそうなものに行くんだなー」

たかね「わたくし、てがとどかないので、ひびきがたよりなのです! はやくとってくださいませ!」



【音無小鳥の場合】

 小鳥「さすが社長の知ってるお店のケータリング、レベル高いわ…… あ、これ、おいしい」モグモグ

たかね「あの、ことりじょう」
 
 小鳥「そしてこの、春香ちゃんのおみやげのケーキがまた……! ああ、幸せ……」ムグムグ

たかね「ことりじょう!」

 小鳥「きゃっ!? ……あ、ああ、たかねちゃん? どうしたの、急に」

たかね「どうです? その…… ことりじょうは、たのしめていますか?」

 小鳥「えっ?」

たかね「その、わたくしは、くりすますをたいへんたんのうしているのですが」

 小鳥「うふふ、そうでしょうね。さっきの雪合戦じゃたかねちゃん、大活躍だったじゃない?」

たかね「ひょっとするとことりじょうは、たのしめていないのではと、きになりまして……」

 小鳥「……もしかして、わたしが前にぼやいてたの、気にしてた?」

たかね「はい、おせっかいかとはおもったのですが」

 小鳥「あっちゃー、たかねちゃんに気を遣わせちゃうなんて、事務員失格だわ……」



 小鳥「たかねちゃん。わたしももちろん、今日のクリスマス、すっごく楽しんでるわ」

たかね「しかし、ゆきがっせんでもことりじょうは、いっしょではなかったでしょう?」

 小鳥「ふふ、それは確かにそうね。でもね、わたしの場合、みんなを見てるだけでも満足なのよ」

たかね「みんな?」

 小鳥「そう。たかねちゃんもだし、響ちゃんや、春香ちゃん、千早ちゃん…… 765プロのみんな」

たかね「ですが、みなといっしょにうごきまわるほうが、もっとたのしいのではありませんか?」

 小鳥「そうできたら楽しいかな、と思うこともあるけどね。そばで見ててこその楽しみもあるの」

たかね「そういうもの、なのでしょうか」

 小鳥「そういうものなのよ。見守る楽しみ…… っていうのかしらね」




たかね「なるほど…… やはり、ことりじょうは、みなのははうえのようなひとです」

 小鳥「は…… 母上!? そこ姉上ってわけにいかない!? ねえっ!?」



【あなたのお目目はなぜあかい】

  響「たかね、お買い物して帰る前にさ、ちょっとそこの公園に寄り道して行こうよ」

たかね「まだだいぶ、つもっていますね…… はっ! もしや、ふたりでゆきがっせんですか!?」

  響「それ絶対くたびれるし、それ以上にすごく空しくなると思うぞ……」




  響「あったあった、これこれ」

たかね「これはなんのきですか、ひびき?」

  響「ナンテンって言うんだよ。お薬とかに使えるって聞いたことがあるぞ」

たかね「あかいみが、あざやかで、おいしそうです!」

  響「食べられるって聞いたことはないなー、さすがにそれはやめとこうか」

たかね「ふむ、そうですか…… ざんねんですが、あきらめましょう」



  響「それより今は、この実と葉っぱがほしかったんだ」

たかね「えっ? しかし、たべられないのでしょう? なんにつかうのですか?」

  響「ふふふ、それはまだナイショ」

たかね「む…… ひびき、なにをかくしているのですか。あやしいです!」

  響「それからさ、たかね、両手で持てるくらいの雪玉作ってくれる?」

たかね「ゆきだま? ……やはり、ゆきがっせんをするのですね!?」

  響「違うってば。このナンテンがあれば、かわいいものができるのさー」

たかね「かわいいもの?」

  響「そうそう。ほら、雪玉、早く早くー」



たかね「ひびき、いわれたとおり、ゆきのたまをつくりましたよ」

  響「お、ありがと。これに、今とった実と葉っぱを、こうやってくっつけると……」




  響「よーし、できたぞー。ほらっ、たかね、これなーんだ?」

たかね「……おお!! これは、うさぎさんです」

  響「そう、雪でできてるから、雪うさぎっていうの」

たかね「なんてんのはっぱがおみみで、あかいみは、うさぎさんのめですね!」

  響「うさ江の目も赤いけど、この子の目はもっと真っ赤だなー」

たかね「それに、おみみがみどりのうさぎさんは、めずらしいです、ふふっ」



たかね「おや? このゆきうさぎさんは、つれてかえってあげないのですか?」

  響「うん、あったかいお部屋だとこの子はすぐとけちゃうから、ここにいた方が幸せじゃない?」

たかね「たしかに…… そのとおりです。では、ひびき、ゆきだまをひとつ、つくってください」

  響「雪玉? なんで?」

たかね「ゆきうさぎさんも、ひとりではきっと、さびしいでしょう?」

  響「……! ふふ、そうだね。じゃあたかねは葉っぱと実、とってきてよ」

たかね「はいっ!」




たかね「おみみと、めをつけて…… できました!」

  響「よし、そしたら、さっきの子の隣に並べてあげよう」

たかね「おともだちがまいりましたよ、ゆきうさぎさん。これで、さびしくありませんよ」



たかね「ひびきのつくったゆきうさぎさんは、さきほどのゆきうさぎさんより、ちいさいですね」

  響「そっちがたかねで、最初にできた大きい方が自分なんだぞ」

たかね「ふむ、いわれてみれば…… いろじろで、めもあかいですし、わたくしににているきもします」

  響「おっ? たかね、ちっちゃいって言われてるのに怒らないのー?」

たかね「ええ。だって、さびしがりのひびきのために、わたくしがきたことになります!」

  響「…… うまいこと、言っちゃって。今日は、自分が一本とられたことにしとくさー」




  響「さ、それじゃ、そろそろ行こっか」

たかね「そうですね。ひびき、つぎにゆきがふったときは、ゆきだるまをつくりましょう!」

  響「うん、そのときは大っきいのを作ろうなー。たかねや自分より背の高いやつ!」

たかね「おやくそくですよ? つぎはいつ、つもるでしょうか、あすでしょうか?」

  響「たかねがいい子にしてたら、きっとすぐ降るよ。それまでのお楽しみだぞ」



【吸引力の変わ(ry】

たかね「しかしきょうは、せかいじゅうで、けーきをたべるひなのだ、とききましたが」

  響「いやいやいや。事務所で春香のもって来てくれた分とか、さんざん食べてたでしょ、たかね」

たかね「それはそれ、これはこれ、ですよ、ひびき」

  響「まーた妙なことばっかり覚えてきて。ほら、帰るよ」グイ

たかね「そんな!? あえてよのながれにさからうひつようは、ございません!」

  響「よそはよそ、うちはうちなの!」

たかね「おうぼうです! わたくし、けーきをようきゅういたしますーっ」グググ

  響「ヤモリじゃあるまいし、どうやったらショーケースにこんなに吸い付けるんだー!?」ググググ

たかね「よいでは…… あり、ません、かっ! ひびき、よいではありませんか!!」グググググ

  響「ちっ、ともっ、よく、なーい! いいから、っ、離れるさーっ!」ググググググ



【丸太とか薪とか】

たかね「……」ムスー

  響「おーい、たーかねー」

たかね「……」プイッ

  響「ちょっとこっち見てみてよー、ほらほらー」

たかね「……どうせ、ここあかなにかで、わたくしをつろうというのでしょう」

  響「ん、ココア飲みたい? 作ってあげようか?」

たかね「なんと、まことで…… ち、ちがいます! わたくし、いまは、おかんむりなのです」

  響「そうなの?」

たかね「そうなのです。ここあくらいでは、わたくしのこのぜつぼうは、いやされません!」

  響「そっかー。じゃあ、このブッシュドノエルでもダメかなー」

たかね「…… ぶ…… ぶしどう? の、える? それはなんのじゅもんですか、ひびき」クルッ



たかね「!!」

  響「二人用にと思って作ってたけど、たかねがいらないんなら自分ひとりで……」

たかね「いりますっ!! おまちください、いります!!」

  響「あれれ、たかねはおかんむりだったんじゃないの?」

たかね「お、おかんむり…… では、ありますが、いえ、おかんむりだからこそ、いります!」




たかね「まっはふ、ひびひも、ひふぉがわるいでふ」ムグモグ

  響「ごめんごめん、せっかくだから、たかねをびっくりさせたかったの」

たかね「はるはのふくっふぁものとは、いんひょうふぁ、ことなひまふね」モゴモゴ

  響「これ、ビスケット使って作ったんだ。その分、ケーキとしてはちょっと独特かも」

たかね「んぐ…… みためも、まるたのようで、おもむきがあります!」

  響「フランスとかじゃこれが普通なんだって。まだあるけどおかわり、どうする?」

たかね「!! しれたこと! ぐもんですっ!!」

  響「あはは、だよね」



【ジェルジェム】

たかね「ところでひびき、それは?」

  響「飾りつけの余り、もらってきちゃった。窓に貼ったらにぎやかかなーと思って」ペタ

たかね「おほしさまや、もみのきに…… あっ、それは、ゆきだるまですね」

  響「さわった感触も、ぷるぷるしてて面白いぞ。ゼリーっていうか、グミみたいな」ペタ

たかね「わたくしも、わたくしもはりたいです、ひびき!」ピョンピョン

  響「よーし、じゃあ、たかねは窓の下半分お願い。上半分は自分がやるよ」

たかね「こころえました!」




  響「思ったとおり! ね、ずいぶんクリスマスっぽくなったでしょ」

たかね「はい! きらきらして、いろとりどりで…… みているだけで、たのしくなります!」







  響「それで、たかね。なんでこんなことしたの」

たかね「な、なんのことでしょうか?」

  響「このジェムについた歯形、どう見ても、いぬ美でもねこ吉でもないよね」

たかね「…… ぜりーや、ぐみみたい、といったのは、ひびきです」

  響「自分、さわった感触が似てる、としか言ってないよね?」

たかね「いいえ! みためもよくにています!!」

  響「そこは否定しないけど! どうしてそこでかじってみようと思うのさ!」

たかね「…… しょうじきなところを、もうしますと……」

  響「うん、間違っちゃうことは誰にでもあるんだ、そこでちゃんと謝れるようになれば」

たかね「しゅねぇけんよりも、おいしくありませんでした」

  響「誰も聞いてないぞ!?」



【Present for】

  響「たかね、きょう一日過ごしてみて、どうだった?」

たかね「はい、ゆきがっせんも、ぱーてぃも…… ぶしどうおのれも! どれも、さいこうでした!」

  響「それはなによりだぞ。じゃ、最後にこれがなくちゃ、クリスマスは終われないよね」ゴソゴソ

たかね「なんと! まだ、なにかあるのですかっ!?」

  響「前に説明したときにも言ったでしょ。家族とかに贈り物をあげる日なんだって」

たかね「あっ! だからきょうは、はむぞうどのやぶたたどののごはんも、ごうかだったのですね?」

  響「そうそう。あの子たちも、なんとなくわかってくれてるんじゃないかな」

たかね「たしかに、ゆきもつもりましたし、とくべつだ、とかんじているかもしれません」



  響「ってことで、たかねにはこれ、あげるよ」

たかね「ちいさいですが、きれいなはこです! すぐに、あけてもかまいませんか?」ワクワク

  響「もちろんだぞ。そのためのプレゼントなんだから」

たかね「ありがとうございます、ひびき! では、さっそく……」




たかね「これは……?」

  響「イヤリング。耳飾りだよ」

たかね「そ…… それは、つまり、わたくしのみみに、あなをあけろと!?」

  響「そう来ると思った。安心してよ、それは穴を開けなくて大丈夫なやつだから」

たかね「ほ、ほんとうですか……?」



  響「それにほら、見てみて。これ、小さいけど、お月様のかたちしてるんだ。きれいでしょ?」

たかね「おお…… ぎんいろの、これは、みかづき…… でしたか?」

  響「そうそう、三日月。自分がつけてあげるからさ、たかね、ちょっと横向いて」

たかね「うう、しかし、だいじょうぶでしょうか…… ぜったいに、いたくありませんか?」

  響「痛くないって。気をつけてゆっくりやるから、信用してよ」

たかね「…… わかりました。では…… おねがいします、ひびき」




  響「…… はい、できたぞ! どう? 痛かった?」

たかね「い、いえ、しかし…… しょうしょう、きんちょうしました……」

  響「それより自分でも見てごらん、ほら、鏡あるよ」







たかね「…… どうなのでしょうか、ひびき」

  響「ん? どうって、なにが?」

たかね「わたくし、こういうものははじめてなので、よいのかどうか、わかりません……」

  響「あー、それはそうかもね。選んだ自分が言うのもなんだけど、ホントにすごく似合ってるよ」

たかね「そう…… なのですか?」

  響「たかねの髪の銀色と、白い肌に、銀のお月様が映えててさ。とっても綺麗」

たかね「まことですか? ひびきのおすみつきなら、こころづよいです」

  響「そりゃそうさー、カンペキな自分が選んだんだもん。似合わないわけないぞ!」



たかね「……あっ!?」

  響「わっ、びっくりした……! 今度はなんなのさ、たかね」

たかね「ど、どうしましょう、ひびき……」オロオロ

  響「何かあったの? 落ち着いてよ、いったいどうしたの」

たかね「わたくし…… あの、わたくし、ひびきへのおくりものを、よういしておりません」

  響「……ああ、なんだ、そんなこと? ぜんぜん気にすることじゃないさー」

たかね「しかし、わたくしだけおくりものをもらうのでは、ふこうへいです」

  響「不公平なくらいでちょうどいいよ。たかねがいるおかげで、毎日飽きないもん、自分」

たかね「いいえ、しゅくじょとして、それはみとめられません!」

  響「そうは言ってもねー…… あ、それなら、ひとつお願い聞いてもらおうかな?」

たかね「はい! わたくしにできることなら、なんでも!」



【つめたいよるに】

たかね「……ほんとうにこれで、よいのですか?」

  響「うん、お布団ひくのちょっとめんどくさかったし、今夜は特に温度下がるらしいしね」

たかね「だからといって、いっしょにべっどでねるだけでは、おくりものにならないのでは……」

  響「たかね、できることならなんでもしてくれるんでしょ?」

たかね「ええ…… たしかに、そうもうしましたが」

  響「じゃあ決まりー。ほらほら、入って入って」




たかね「……ひびき、まだ、おきていますか?」

  響「もちろん。たかね、眠れないの?」

たかね「わたくし、ゆきうさぎさんたちのことを、かんがえていました」

  響「へえ?」



たかね「あすにはきっと、あのゆきうさぎさんたちは、いなくなってしまいますね」

  響「…… うん、たぶんね。予報だと、明日は晴れるって言ってたし」

たかね「でも、おともだちがいっしょですから、さびしくないはずです」

  響「……」




たかね「ひびき。あの、おつきさまのみみかざりですが」

  響「あれがどうしたの?」

たかね「……ほんとうは、もっとまえから、よういしていたのでしょう?」

  響「!」

たかね「ちがいますか?」

  響「…… どうして?」

たかね「しょうしょう、わたくしには、おおきすぎるかんじがいたしました」



  響「…… たかねって、妙なとこで察しがいいから困っちゃうな」

たかね「ふふ、やはり、そうでしたか」

  響「でもさ、たかね"にも"きっと似合うって、心からそう思ったから、あげたの。それはホント」

たかね「ええ。わかっておりますとも」

  響「別に使いまわしとか、そういうんじゃないからね?」

たかね「もちろん、わかっておりますよ、ひびき」

  響「むーっ…… なんなのさー、そんな何もかもお見通しー、みたいな!」

たかね「わたくし、しっていますから。ひびきは、おおきくてもさみしがりの、ゆきうさぎさんです」

  響「う、うがーっ! ベッドに呼んだのはそういうんじゃなくて、今日は冷えるからだって――」

たかね「しんぱいせずとも、わたくしは、とけていなくなったりいたしませんよ」

  響「……当たり前でしょ。そんなことしたら、もうめちゃくちゃ怒っちゃうぞ、自分」

たかね「おこられるのは、いやですから、きをつけなくてはなりませんね。ふふっ」







たかね「まえに、ひびきはいいましたね。こうして、ふたりでいっしょのほうが、あたたかいと」

  響「ああ、そうだったね」

たかね「ゆきうさぎさんなら、とけてしまいますが、ひびきとわたくしなら、だいじょうぶです」

  響「ん、確かに。 ……じゃあ、今夜はすっごく寒いからさ、たかね、もうちょっとこっちに来ない?」

たかね「おや…… よいのですか? またわたくしのかみのけが、かぶさるかもしれませんよ」

  響「いいよ、それくらい。たかねが、すぐそばにいてくれるほうがいい」

たかね「しょうちしました。それでは、しつれいして」




  響「……ありがとね、たかね」

たかね「はて、なんのことでしょうか?」

  響「なんでもないよ。それじゃ、おやすみ。メリークリスマス」

たかね「おやすみなさい、ひびき。 ……めりー、くりすます」

◆◆◆◆◆

【年の終わりのためしとて】

たかね「ひびき、しまっているおみせがおおいのは、どうしてです?」

  響「年末だからねー。みんな、自分のおうちの年越しの準備とかで忙しいんだよ」

たかね「なんだか、さびしいかんじがいたしますね……」

  響「あと一週間もしたら、また元に戻るから大丈夫さー」

たかね「ふむ。ところで、おかいものは、これでおしまいでしょうか」

  響「いーや、まだまだ。次はいつものスーパーだぞ。たかね、そろそろ疲れちゃった?」

たかね「わたくし、げんきいっぱいです! ぼうけんでもしているようで、たのしいです」

  響「そっか、なら良かった。迷子にならないように、しっかりついてきてね」

たかね「はい! ちゃんとてをにぎっておりますから、だいじょうぶです!」



【※お姫様と王子様は入ってる具がちがいます】

たかね「ひびき、ひびき」

  響「どうしたの?」

たかね「おせちもいいけど、かれーもね、とは、どういういみですか?」

  響「また唐突な…… どこで聞いてきたのさ、そんなの」

たかね「あちらのうりばで、こえがながれておりましたよ」

  響「なるほどね。まあ確かに、ちょうどそんな時期だもんなぁ……」

たかね「そもそも、かれー、とはなんでしょうか」

  響「あー、そういえば、たかねが来てからカレー作ったことってまだなかったっけ」



たかね「わたくし、いただいたおぼえはありません。たべものなのですね? びみなのですか?」

  響「そりゃもう。子供ならだいたいみんなカレー大好きだもん」

たかね「となると、ひびきもすきなのですね」

  響「なんかちょっとひっかかる言い方だけど、もちろん自分も好きだよ?」

たかね「しかし、ひびきやおこさまがこのむおりょうりでは、わたくしのこのみにあうかどうか……」

  響「そう? 作ってあげようと思ってたけど、じゃあ止めとこうかな」




たかね「ごめんなさい、ひびき、しょくしてみたいです、どうか、つくってください」

  響「ん、よし。人間、素直なのが一番だぞ」



【雲をつかむような】

たかね「……」ジーッ

たかね「…… そこですっ!」バッ

たかね「む、もうすこしで、この、くっ」シュッ

たかね「あっ…… うう、やはり、かんたんにはいきません……」




  響「…… さっきから加湿器の前でなにしてるの、たかね?」

たかね「あっ、ひびき。わたくし、このけむりをつかもうとしているのですが、なかなか」

  響「それ煙じゃないし、そもそもなんでつかめると思ったのさ」

たかね「はて…… みていなかったのですか? いまも、おしいところだったでしょう?」

  響「いやいやいや」

たかね「さきほどは、てにかすりました。ふふふ、あといっぽです!」

  響(……ねこ吉ですら無理だって気がついて、最近やんなくなったのになぁ、これ)



【奥から手前へ上から下へ】

  響「さて、っと。そしたら、新年を気持ちよく迎えるために、まずは大掃除をするぞー!」

たかね「こころえました! おそうじですね!」

  響「……ん? たかね、大掃除だよ、お・お・そ・う・じ」

たかね「はい? いまから、おそうじをするのでしょう?」

  響「うん、お掃除はお掃除だけど、特に年末にやるのは"大"掃除っていうんだ」

たかね「…… ええ、ですから、おそうじ、ですね?」

  響「うーん、わかんないかなぁ。別に間違いじゃないんだけど、大掃除っていうのは――」

たかね「いったいなにをいっているのですか、ひびき。だいじょうぶですか?」

  響「自分はいつも通りカンペキだよ? どっちかっていうと、たかねの耳の問題かな」

たかね「よいですか、ひびき。じしんのまちがいをみとめるのには、ゆうきがいりますが」

  響「ねえ、なんで自分がおかしいことになってるのさ」



【aquascutum】

たかね「よいしょ、よいしょ……」キュッキュッ

  響「おっ、がんばってるなー、たかね」

たかね「じゃぐちどのにも、ひごろ、おせわになっておりますから」キュキュッ

  響「ふふ、いい心がけだね。自分、もうちょっと浴槽のほうやるから、しっかりみがくんだぞー」

たかね「もちろんです、おまかせを!」

  響「ところでそれはいいとして、たかね、ひとつ聞いていい?」

たかね「おや、なんでしょう。なにかございましたか」




  響「あのさ、お掃除するだけなのに、どうしてシャンプーハットかぶってるの?」

たかね「これはまた、いなことを…… おふろばでかぶるものだといったのは、ひびきですよ?」



【なんとかと煙は】

  響「こんどは窓拭き! 上半分は自分が拭くから、下半分はたかね、よろしくね」

たかね「それなのですが、ひびき」

  響「なあに?」

たかね「たまには、やくわりをこうたいすべきだとはおもいませんか?」

  響「えっ? でもたかね、背が届かないでしょ」

たかね「そういうひびきも、うえのほうは、だいにのってふいているでしょう」

  響「う…… ま、まあ、それはそうなんだけど」

たかね「ならば、わたくしがだいにのっても、おなじことでは?」

  響「んー、一理あるといえばあるか。じゃあ今日は、上をお願いしようかな」







たかね「ひっ、ひびきっ! だいは、まちがいなく、おさえてくれていますね!?」ブルブル

  響「だからちゃんと支えてるって。そんなに気になるなら、ほら、こっち見て確認してごらん」

たかね「このたかさで、したをみろと!? わたくしにしねというのですか!?」

  響「大げさだなー。もし仮に落っこちたって、自分がここにいるから受け止めてあげるよ」

たかね「え、えんぎでもない! そのようなこと、くちにしないでください!!」

  響「……ねえ、たかね、やっぱり今からでも自分と交代したほうがいいんじゃない?」

たかね「はっ、そういえば! わたくし、このたかさから、どうやっておりたらよいのです!?」ガクガク

  響「どうしてそのレベルで台にのぼって窓拭き、いけると思ったかなぁ」



【頭は下げるのがコツ】

  響「じゃ、あっちの廊下の端っこまで、どっちが早く雑巾がけできるか競争だぞっ!」

たかね「ふふふ。もちろん、わたくしがかつにきまっています」

  響「おっ、自信満々だなー」

たかね「まえにもいいましたが、わたくしの"どらいびんぐてくにっく"はすごいのですよ?」

  響「へえー? でも自分も運動神経にはけっこう自信、あるからね」

たかね「のぞむところです。では、かいしのあいずを」

  響「恨みっこなしの一本勝負だぞ。よーし、位置についてぇ…… よーい、どんっ!」


ダダダッ
ダッズルッベチンッ


  響(……べちんっ?)

たかね「…… う、ぇ、うぁ、うわあああああん……!」







  響「うん、痛かったね、よしよし…… スタートダッシュはすごかったぞ、うん」ナデナデ

たかね「う"ぇぇぇぇ"ぇ"ん……」ギュー

  響(あれだけ見事に顔面ダイブしちゃうとは、さすがに予想してなかったさー……)

  響「ほーら、たかね、こんなときのためのおまじない、してあげるよ」

たかね「ひっぐ、えぐ、…… おま"、じない?」

  響「そう、これですぐよくなるぞ。痛いの痛いの、飛んでけー」

たかね「…… ……い"っごうに"、どん"でゆぎまぜん"!!」

  響「え…… えーと、そこはほら、気の持ちようっていうか、言葉のあやっていうか……」

たかね「うう"、ぐしゅっ、えほっ…… うえ"、うああぁん」

  響「……ちょうどいいや、少し休憩しよ? あまーいココア作ったげるからさ、ね、泣かないの」



【cocoa break】

たかね「……」ズズ

  響「どう、おいしい? ちょっと落ち着けた?」

たかね「…… まだ、おはなが、じんじんします」グスッ

  響「勢いつけて思いっきり床にぶつかっちゃったんだもん、仕方ないさー」

たかね「あのじこさえなければ、わたくしが、かっておりましたのに!」

  響「うんうん、きっとそうだったなー。惜しかったよ、たかね」

たかね「……ほんしんから、いっておりませんね、ひびき」

  響「えっ、い、いや、そんなことないぞ」

たかね「いいえ! わたくし、わかるのです! いまからあらためて、もういちどしょうぶを――」

  響「そういえばココアのおかわりあるんだけど、どうする?」

たかね「…… あ、あまっては、もったいないですね。さめないうちに、くださいませ」ソワソワ

  響「はーい。ちょっと待っててねー、ふふふっ」



【こな耳べた耳】

  響「はい、じゃあたかね、ここに横になって」ポンポン

たかね「わ…… わたくし、これから、なにをされるのです?」

  響「さっきのやりとりで、たかねの耳がちょっと気になってさ。耳そうじ、してあげる」

たかね「わたくしのおみみと、ひびきのおひざにねるのは、なんのかんけいがあるのですか?」

  響「だって横になってくれなきゃ、耳の中が確認できないでしょ」

たかね「し、しかし、けいけいに、おみみをのぞかれるのは……」

  響「だーいじょぶだって、優しくするから。実家でも自分、上手だって評判だったんだぞ?」

たかね「むむ…… そうまでいうならば、いたしかたありませんね」コロン

  響「はいはい、ありがたき幸せです、姫さま」



  響「どれどれ…… おおー、これはこれは……」

たかね「あ、あまりみないでください、ひびき」

  響「だけど、まずは見て確かめなきゃ取れないからね。じゃ、さっそく」

たかね「ひゃあぁ!?」

  響「おっ、と……! ごめん、たかね、痛かった?」

たかね「いえ、いたいわけでは…… ただ、これは、おみみをこちょこちょされるようで、その……」

  響「そっか、痛くないなら大丈夫だよね。続けるよー」

たかね「ちょっ…… そんな、ひびき、おまちを、ふにゃんっ!」

  響「もー、たかね、あんまり変な声出すもんじゃないぞー」

たかね「だって、くすぐったいのです! わざとやっているのではありませんか!?」

  響「まっさかー、そんなことないってー。くっくっく」

たかね「そ、そのあやしげなわらい、どういうことです!? ひびき! ひびきーっ!?」







  響「よし…… こんなもんかな? はーい、おしまいっと」

たかね「…… はぁ、はぁ……」グター

  響「お疲れさま、たかね。ほら、けっこう取れたぞー」

たかね「よ、よくも、わたくしをもてあそびましたね、ひびき……」

  響「だから違うってばー。自分、ちゃんと真剣にやったんだからね?」

たかね「つぎは、ひびきがおみみをのぞかれるばんですっ!!」ガバッ

  響「えっ」



たかね「ほら! ひびき! はやく、わたくしのおひざに!」バシバシ

  響「……い、いやあ、自分は遠慮しとこうかな、うん」

たかね「なぜです? わたくしは、ひびきをしんじ、みを…… みみを、まかせたというのに!」

  響「だいたい、たかねのひざに自分の頭は重たすぎるだろうしさ」

たかね「かんけいございません! それに、わたくしだけそうじしてもらうのでは、ふこうへいです!」

  響「気持ちはうれしいけど、自分は耳掃除くらい自分でできるから大丈夫だよ」

たかね「ひとりではみえないでしょう? わたくしがみたほうが、かくじつにきまっています!」

  響(うっ…… たかねのやつ、妙なところで正論を……!)

たかね「さあ、ひびきっ! かんねんして、わたくしにおみみをみせるのです!!」

  響「いや、いらないって…… ちょ、こらっ、耳ひっぱるのはやめ、あでででっ!?」



【いんたらぷしょん】

たかね「ひびき」

  響「どしたのー」カリカリ

たかね「せっかく、あそんであげようとおもったのに、いぬみどのがねているのです」

  響「そっかー。ちょっと待っててあげてねー」カリカリカリ




たかね「ひびき!」

  響「んー?」カリカリカリ

たかね「はむぞうどのが、けーじからぬけだしました!」
 
  響「えっ!? もー、またあの子はっ」ガタッ

たかね「ですので、つかまえて、つれてきました」

ハム蔵「ジュイィ……」

  響「あ、なーんだ…… よかった。ありがと、たかね」



たかね「ひびき?」

  響「なーにー」カリカリ

たかね「なぜ、ふゆはさむいのですか」

  響「……うえっ!? え、えっと…… そうだ、あれだよ、雪の妖精さんがね」

たかね「そういうこどもだましは、わたくし、もとめておりません」

  響「うがっ!?」




たかね「ひびきー」

  響「ねー、たかね、あのさぁ」カリカリカリ

たかね「なんでしょう?」

  響「さっきから、自分が宿題してるの、わかってやってるよね?」

たかね「…… は、はて?」

  響「はてじゃなくて」



  響「いくら自分がカンペキでもさ、勉強するからには集中したいんだけど」

たかね「ほんとうにかんぺきなら、そのくらい、きにならないでしょう」

  響「うぐっ…… いやでも、そういうことじゃなくてね」

たかね「わたくし、あえて、ひびきにしれんをあたえているのです」

  響「試練? ……宿題の邪魔しにくるのが?」

たかね「しゅういにまどわされない、つよいこころをえられますよ」

  響「なんちゃって、本当はたかね、自分にかまってほしいだけなんでしょー」

たかね「なっ、ちっ、ちがいます! しっけいな!」

  響「ごめんね、今やってるこれ終わったら、たっぷり相手してあげるからさ」

たかね「ちがう、ともうしております! かってに、きめつけられては――」

  響「あと15分…… いや、10分で片付けちゃうぞ。それまで、ねっ?」

たかね「……じゅっぷん、ですね。おやくそくですよ」



【長毛種の宿命】

いぬ美「はっはっはっはっ」

たかね「ひいっ!? ちかよらないでください、いぬみどの!」

いぬ美「くぅーん……」

たかね「そ、そのようなこえをだしても、だめなものはだめなのです!」




  響「あれ、たかね、どうしたの? いぬ美が起きるの、待ってたんじゃなかったっけ」

たかね「それが…… さきほど、いぬみどのにふれたとき、いたみがはしったのです」

  響「えーと、それってなんかこう、ちくっとするって言うか、ばちっ! て来る感じ?」

たかね「そう、そうです! なにがあったのか、わたくし、わからなくて」

  響「まあ、たかねも体格に対する髪の量で言えば、自分とあんまり変わんないもんね……」

たかね「かみのりょう? どういうことですか?」



  響「そのばちっとするの、静電気って言ってさ。この時期、毛の多いいぬ美とかに近づい…… あ」

たかね「ひびき? きゅうに、どうし――」

ねこ吉「ニャーゴ」スリスリ

バチンッ

たかね「な"ぁっ!? ……ねこきちどの! ひごろはよりつかないくせに、なぜこんなときだけ!」

ねこ吉「ゴロニャー」スリスリ

バチッ

たかね「あいたっ! な、なにゆえわたくしにすりよるのです!? どうせなら、ひびきに!」

  響「…… ねこ吉、たかねがもっと遊んでほしいって言ってるぞー」

たかね「なんと!? ひびき、や、やめっ」

ねこ吉「ウナー」スリスリスリ

たかね「めんようなー!」 バチィッ







たかね「…… この『ばちばち』は、どうにかならないのですか、ひびき」

  響「壁にまめに触ったりすればある程度予防できるけど、完全になくすのは無理かなー」

たかね「そうなのですか……」

  響「それにいぬ美たちに限った話じゃなくて、人どうしでも起きることあるからね、これ」

たかね「えっ!?」

  響「特に、たかねや自分みたいに髪の毛が多いと、ねこ吉とかと条件はあんまり変わんないもん」

たかね「そ、そんな、こまります!」

  響「まあでもそうしょっちゅう起きるわけじゃないし、自分は別に静電気体質じゃないから――」



たかね「……」ススッ

  響「んー? あれれ、たかね、どこ行くのー?」

たかね「い……、いえ、べつに、どこ、というわけでは……」

  響「どうしたのさー、なんか腰が引けちゃってるぞー」ニヤニヤ

たかね「そのようなことは…… きっと、ひびきの、きのせいで」

  響「ふーん? あ、なんか急に、美希みたいにたかねのことハグしてみたくなってきたぞ、自分」

たかね「…… はいっ!?」

  響「たっかねーっ!」ダッ

たかね「ひ、ひびき、わかってやっておりますでしょう!?」ダダッ




  響「ふふん、つかまえたー。ね、あれだけ逃げ回ってたけど、案外大丈夫でしょ?」ギュ

たかね「……たしかに、いたいめをみずにすんだので、よしとします」



【そこに触れたらあとはもう】

  響「せっかくお正月迎えるからには、おせちも作らないとね」

たかね「おせちとは、どんなおりょうりなのです?」

  響「うーん、けっこういろんな種類があるから、一言じゃ言えないかなぁ」

たかね「ほほう」

  響「まあ、今回はちっちゃいたかねと自分の二人しかいないし、簡易版って感じでいこっか」

たかね「む。おまちなさい、ひびき。ちっちゃい、というのはとりけすのです」

  響「そこはどう転んでも事実なんだからさ、そろそろ認めなよ、たかね」

たかね「…… まえまえからおもっておりましたが、ひびきだって、ちいさいではありませんか!」

  響「う、うがーっ!? そんなことないよ!」

たかね「ぷろぢ…… ぷろじゅーさーどのや、あずさのほうが、ひびきよりずっとおおきいです!」

  響「うっ、で、でもそれは…… そう! プロデューサーもあずささんも自分より年上だから当然なの!」



たかね「ですが、とししたのみきや、それにあみも、まみも! ひびきよりおおきいではありませんか!?」

  響「う、うるさーい! あんまり身長のこと言うと、もうたかねのおせち作ってあげないからね!?」

たかね「なんと!? そのようなおうぼう、ゆるされません!」

  響「だいたいたかねと自分とで比べたら、たかねの方がずーっとちっちゃいんだし!」

たかね「とうぜんでしょう? ひびきのほうが、としうえなのですから」

  響「ぐっ…… い、いきなり立場変えたりして、たかね、ずるいぞっ!?」

たかね「これこそ、おとなのよゆうというものです。ひびき、もっとせいちょうしなさい」フフン




  響「……へび香! ワニ子も! 今すぐ台所に集合ーっ!」

たかね「な、ひ、ひびき!? えんぐんなどと、ひきょうです!!」

  響「卑怯だっていいもん! 大人には引けない戦いってやつがあるのさー!」

たかね「まるでだだっこではありませんか! それの、なにがおとなですか!?」

ギャーギャー







  響「……はあ。さんざんバカみたいに騒いだおかげで、ちょっとは落ち着いたぞ……」ゼーゼー

たかね「き、きぐう……、ですね、わたくしも、です」ハーハー




  響「で、おせちってのはね、お正月に食べる特別なお祝いのお料理なの」

たかね「なかなか、てがかかりそうですね」

  響「なんて言っても、かんたんなものいくつか作るだけで十分それっぽくなるんだよ」

たかね「あらためて、どのようなものができるのか、おしえてください!」

  響「そうだなー…… 黒豆を煮て、伊達巻ときんとん作って、あとは紅白なますくらいあればいいかな?」

たかね「くろまめ……? だて…… こうはく、なまず?」

  響「ごめんごめん、いっぺんに言われちゃわかんないよね。まず、黒豆っていうのはさ……」



【だぶる・らいすけーき】

たかね「ところでひびき、それは?」

  響「これ? 鏡餅っていって、新年の飾りつけみたいなものだよ」

たかね「はて…… あたらしいとしのものを、まえのとしからかざるのですか?」

  響「自分もよくは知らないんだけど、年が明ける前に出しといていいんだって」

たかね「それに、かがみ、とはいいますが…… おかおがうつりませんよ」

  響「あー、そういえば確かにこれ、なんで鏡って言うんだろうね」




  響「お餅…… あっ、お餅といえば……」

たかね「……」ジリッ

  響「あれ、たかね、今度はどうして後ずさるの?」

たかね「なんというか、まえにもおぼえのある、とてもわるいよかんがするのです」

  響「へえー…… どんな?」ズイ

たかね「ひ、ひびき、わたくしのほっぺに、てを、のばひゅのは、ひゃめっ」



【細くて長ければいい(急進派)】

ハム蔵「ジュジュイイ」カラカラカラカラ

たかね「はむぞうどのは、はしるのがすきなのですね」

ハム蔵「ジュッ!」カラカラカラ

たかね「ふふ、きっと、まことときがあいま…… ……この、かおりは?」スンスン




パタパタ

  響「おっ、早速来たなー、たかね。匂いで反応したんでしょ」

たかね「らぁめんのかおりがいたします!! らぁめんが、わたくしをよんだのです!」

  響「テーブルで座って待っててよ。すぐ持っていくから」

たかね「いそぎましょう! ひびき! のびてしまいます! はやく、はやく!」

  響「大丈夫だよ、まだゆで上がっては…… お、ちょうど時間だ」



たかね「いちねんのおわりのゆうげを、らぁめんでしめくくる…… なんとすばらしい!」

  響「ふつうは年越しそばだけど、まあ、麺類には違いないわけだからね」

たかね「ひびき、あまりおしゃべりしていては、さめてしまいますし、のびてしまいます」ソワソワ

  響「ふふ、はいはい、そうでした。じゃ、いただきます!」

たかね「いただきますっ!!」




たかね「いまさらですが、としこしそばとはなんですか?」ズズ

  響「一年の最後におそばを食べる習慣があるんだよ。いわゆる縁起物ってやつ」ズズッ

たかね「ほほう。なぜおそばなのですか、ひびき」

  響「いろいろ説があるらしいぞ。おそばは切れやすいから、厄を切る意味がある、とかさ」

たかね「となると、らぁめんではいけないのでは……?」

  響「いいのいいの、気持ちの問題だから。ラーメンのこと中華そばとか言ったりするし」



  響「それともたかね、ラーメンよりおそば食べたかった?」

たかね「いいえ! おそばもすきですが、らぁめんのほうが、もっとすきです!」

  響「聞くまでもなかったね。で、今日は大晦日だから、ラーメンも特別仕様にしてみたの」

たかね「とくべつしよう?」

  響「……じゃーん! ほらこれ、麺だけ別に追加で買っといたから、替え玉ができるよ」

たかね「かえだま、というと…… はっ! お、おかわりがあるのですか!?」

  響「麺だけだけどね。だから、あんまりスープ飲んじゃわないようにするんだぞ」




たかね「……! ……!!」ズズズズゾゾゾゾ

  響「たかね、麺は逃げないし、自分は替え玉いらないからさ、落ち着いて食べてねー」



【Bath Tour】

たかね「きれいになったおふろは、いつもいじょうにここちよいですね……」

  響「うん、大掃除がんばったかいがあったぞー」

たかね「ほんじつの、にごっているこれは、どこのおゆなのです?」

  響「えーっとね…… これは熊本の黒川温泉ってところなんだって」

たかね「くまもと、ですか。そこは、とおいのでしょうか」

  響「そうだね、けっこう離れてるよ。九州っていう、ここからかなり南の方にあるの」

たかね「ひびきのいた『おきなわ』よりも、みなみですか?」

  響「ううん、そこまでじゃないさー。沖縄はそれよりももっとずーっと南なんだ」



たかね「いつか、わたくしもいってみたいものです」

  響「お、いいねー、その時は自分がいろんなとこ案内してあげる!」

たかね「まことですか! たとえば、なにがおすすめですか?」

  響「いっぱいあるぞ。まずは首里城でしょ、万座毛もいいし、それに美ら海水族館とか……」




たかね「あの…… ひびき」

  響「そこにね、地元の人しか知らないすっごくきれいな砂浜が…… ん、たかね、どした?」

たかね「おきなわの、おはなしの、せいか…… あ、あづい、です」 キュウ

  響「…… わーっ、ごめん! テンション上がって喋りすぎちゃった、早く上がろう!」



【源平試合】

たかね「ひびき、ひびき! すごいですよ、あんなにたくさん、ひとがならんでいます!」

  響「おー、ほんとだー。もうこれ、年末恒例のお祭りみたいなもんだしね」

たかね「このかたがたは、これからなにをするのですか?」

  響「踊ったり喋ったりいろいろだけど、メインはやっぱり歌うんだよ。歌合戦、だからさ」

たかね「それでは、うたがどれだけじょうずか、きそいあうのですね!」

  響「うーん…… 建前としては、そういうことのはずなんだけどなー」

たかね「たてまえ?」

  響「たかねは気にしなくていーの、大人の事情ってやつ。ほら、続き見よう」



たかね「ひびきや、じむしょのみなは、このぶたいにでないのですか?」

  響「あはは、出られたらよかったんだけどね。さすがにまだそこまでは難しいさー」

たかね「なぜですか? まいにち、あんなにうたやおどりをがんばっているのに」

  響「んーと…… 今はね、まだちょっとだけ実力不足なの。でもいずれ、みんなで絶対あそこに立ってやるんだ」

たかね「おお、そのいきです! きっと、ひびきとみななら、だいじょうぶですよ」

  響「…… そのときは、貴音…… それともたかねかな、も、一緒に立てるといいなぁ」ボソ

たかね「? ひびき、なにかいいましたか?」

  響「いーや、なんにも? ……おっ、たかねの好きなサバニャン出てきたぞー!」

たかね「なんとっ! ああ、さばにゃんどの!! きょうもちあいのいろが、さいこうです!」



【進捗どうですか?】

たかね「♪ ……♪」アミアミ

  響「たかねの編み物姿も、ずいぶん堂に入ってきたね」

たかね「ええ。わたくしにかかれば、このていどはとうぜんです」アミアミ

  響「どれどれ、今どんなふう? ……おー、長さもこれだけあれば、たかねが巻くには十分だぞ」

たかね「そうですか? せっかくですから、もうすこし、あみます」アミアミ

  響「でも、あんまり長すぎると今度は取り回しが悪いかもよ?」

たかね「ながいほうが、たくさんまけますから、あたたかいにきまっております!」アミアミ

  響「まあ確かにそうか。にしても、あんまり根詰めすぎないようにね」

たかね「はい、そのあたりはわたくし、こころえておりますので、だいじょうぶです」




たかね「…… くぅー……」コックリ

  響「あーもーほら、たかね! せっかく編んだとこによだれ垂れちゃうってばー!」ユサユサ



【Ring out the old, and ring in the new】

たかね「……さきほどまでのばんぐみから、きゅうに、しずかになりましたね」

  響「この落差がいいのさー。いよいよ年が変わるんだなー、って感じで」

たかね「このいちねんも、いろいろなことがございました……」

  響「あはは、なに言ってるの。うちに来てからまだ一月も経ってないくせに」

たかね「きもちのもんだい、ですよ、ひびき」

  響「えーっ、それはちょっと違うんじゃないかなぁ?」




たかね「…… それにしても、こんなさむいよるに、おおぜいひとがいるものです」

  響「年越しの瞬間を誰かと一緒に迎えたいんだよ、きっと」

たかね「しかし、それなら、わたくしとひびきのように、おうちにいてもできますよ?」

  響「……ふふっ、ほんとだなー。ここなら、こたつもあってぽかぽかだしね?」

たかね「ええ、それに、おみかんも、ここあもそろっております!」



【乙未】


  響「…… あと10秒、9……」

たかね「はち、なな、ろく、ご、」

  響「4、3、2、1、ゼロ!」


たかね「…… こほん。あけまして、おめでとうございます、ひびき!」

  響「新年明けましておめでとう、たかね。よくこの時間まで起きてたね?」

たかね「わたくし、もうごさいですから、ねむくなったりしないのです」

  響「へーえ? そんなこと言うわりには、紅白の間もけっこう船こいで……」

< ヴィーッ ヴィーッ

  響「おっ? 一気にメール何通も…… あっ、そうか! うっかりしてたぞ!」

たかね「こんなよなかに、めーるですか。はためいわくな……」

  響「今日この日ばっかりはそうでもないんだよ。えーと、これは春香と、亜美も真美も……」

たかね「なんと!? みなが、めいわくめーるを!?」

  響「いやいや、だから、そうじゃなくって」



< ヴィーッ ヴィー  ヴィーッ

  響「わわ、どんどん……! すっかり忘れてた、すぐ返事書かなくっちゃ」

たかね「きょうは、やけにみじかいあいだに、たくさんおくられてくるのですね」

  響「…… そうだ! たかね、ちょっとこっち来てくれる?」

たかね「はい? しかし、ひびき、わたくしたちはおなじこたつにはいっておりますが」

  響「いいからいいから。ほら、早くー」

たかね「もう、しかたがありませんね…… いったい、なんだというのです?」

  響「よし、そしたらここ、自分のひざに座って?」

たかね「やれやれ。ここでよいのですか」ポス

  響「そうそう、いい感じ! あっ、そうだ、あとこれ、頭にのっけてね」

たかね「はて…… なんですか、このもこもこは」

  響「こないだのクリスマスパーティのとき、事務所の飾りつけに使ってたわたの余りだよ」

たかね「これを、あたまに、というと…… このようなかんじでしょうか?」モフッ

  響「おおー、うん、ばっちり!」



  響「じゃ、1枚だけ写真撮るよー」

たかね「またなのですね。みな、なぜそのようにしゃしんがすきなのでしょう……」

  響「まーまー、すぐ済むからさ。それに魂抜いたりもしないし? くくっ」

たかね「そ…… そのはなしは、もうおやめください、ひびき」

<ピピッ カシャッ




  響「で、今のをちょいちょいっと加工して……、こんな感じで! ほらたかね、どう、これ?」

たかね「…… おおっ!? わたくしが、このように、へんしんして!?」




  響「えーっと、そして文面はどうしよう。なんて書こうかな…… ……よし」

  響「『遅れてごめん、あけましておめでとう! 今年もたかねと自分のこと、よろしくお願いするぞっ!』」

  響「そして、たかねのとこに吹き出しくっつけて…… 『めぇぇんような』、なんちゃって」

  響「よーし、できたー! これでみんなに送信っと!」



【りあくしょんず】


 春香「もー、返信遅いぞー、響ちゃん…… って、なにこれ、たかねちゃんが羊になってるっ! かーわいいー!!」




 千早「写真を撮るのに時間がかかったのかしら? それにしても、め、『めぇぇんような』って…… くっ、くくくっ」




 美希「あふ…… たかね、まだ起きてるんだ…… いくら…… 新年でも、ミキ、もーゲンカイなの…… すぴー」




やよい「うちの弟たちも、たかねちゃんみたいにおりこうだったらなぁ…… 長介っ、歯はみがいたのー!?」




  真「すごい、こんなスマホのスナップでも写真写りいいなあ、たかね! ボクもコツ教えてほしいくらいだよ」




 雪歩「二人とも楽しそう。ああ、わたしも四条さ…… たかねちゃん、お膝に乗せてみたいなぁ、えへへ」





 真美「おおーっ! おひめっちの部屋着姿って初めて見たよ、すっごいレアじゃない!?」

 亜美「ひびきんのプライベート部屋着も実はお宝だってば! まずは画像保存しなきゃだよっ!」




あずさ「まぁ…… うふふ、かわいい羊さん。響ちゃんが羊飼いさんみたいなものね、ぴったりだわ~♪」




 律子「こんな時間まで夜更かしさせたりして、全く! ……たかね、これ案外デビューとか狙えたりして」




 伊織「へぇ、見たとこ、たかねもすっかり写真に慣れたみたいね。撮ってるのが響だから、かしら?」








 小鳥「1ヒビ2タカ3ヒビタカッ」バターン




【2 in 1】

  響「さ、もうそろそろいい子は寝る時間だぞー」

たかね「そうですか? わたくし、まだまだおきていられますよ?」

  響「そりゃちょこちょこ居眠りしてたからね。でも夜更かししすぎると、明日がつらいよ」

たかね「はっ、そうでした! あしたはみなと、はつもうでにいくのでした」

  響「明日っていうか、もう今日だけどなー。晴れたらいいね」

たかね「それより、ゆきがふってほしいです! みなと、またゆきがっせんができますゆえ!」

  響「あはは、明日はみんな晴れ着で来るだろうから、ちょっと難しいんじゃないかな?」







たかね「……ひびき。しんねんになったことですから、ていあんがあります」

  響「えっ? なあに、急に。改まっちゃって」

たかね「まいばん、ひびきにふとんをしかせるのはこくであると、わたくし、こころをいためております」

  響「ふとん? いや、別にそれくらい大したことでもないけど……」

たかね「それにわたくし、このべっどというものについても、じゅうぶんけんしきをふかめました」

  響「ベッドってそんなに奥深いものだったのかぁ。知らなかったなー」

たかね「つきましては…… としのかわりめですし、その……、こんご、ねるときは――」

  響「ま、続きはちゃんと中で聞くからさ、早く入りなよ。からだ冷えちゃうよ?」



  響「ああー、あったかい! やっぱり毛布はお布団の上からかけるに限るさー。ね、たかね」

たかね「……」

  響「そうそう、ごめん、提案があるって話だったね。なあに?」

たかね「…… もう、いいです」プイ

  響「えー、なんで? 聞かせてよ」

たかね「しりません。ひびきの、いけず」




  響「えーと、『今年からは毎晩、響と一緒にベッドで寝ます』、ってことで合ってる?」

たかね「……いいえ! ちがいます! ねてあげても、かまいませんよ、ですっ!」

  響「あははっ、そうか、嬉しいなー! じゃあ毎晩、自分がおうかがい立てなくちゃね」ワシャワシャ

たかね「で、ですから、わたくしのあたまを、きやすくなでないでくださいませ! もう!」

◆◆◆◆◆

【はうめに】

  響「あ、そうだ、たかねはいくつにする?」

たかね「はい? ひびきもしってのとおり、わたくしはごさいですよ」

  響「ああ、いや、年の話じゃなくて、お雑煮のお餅のことさー」

たかね「おぞうに……? けさは、『おせち』をたべるのでは?」

  響「おせちだけじゃ物足りないよ。お雑煮っていうのは、具がいろいろ入ったスープみたいなやつ」

たかね「すうぷですか。めんは、はいっていないのですか?」

  響「残念ながら麺は入れないなー。だけど、お餅が入ってるぶん、ボリュームはあるから」

たかね「なるほど、それはそれでたのしみです!」



  響「うん、もうちょっとでできるからね。で、お餅、いくつ欲しい?」

たかね「そうですね…… ならば、わたくしのとしにちなんで、いつつで!」

  響「はぁっ!? い、5つ!?」

たかね「む、なにかおかしいですか」

  響「いくらたかねでも、それはちょっとないんじゃないかなぁ……」

たかね「…… わたくし、しょうしょう、せんたくをあやまったようにおもいます」

  響「そうそう、わかってくれればいいの」




たかね「ではここは、やっつでおねがいします!」

  響「あのね、数が多いとえらいとか、そういうやつじゃないからね」



【アミロペクチン】

たかね「これが、おせち…… それに、おぞうに!」キラキラ

  響「本格的とまでは言わないけど、我ながら雰囲気は十分だと思うぞ!」

たかね「いちねんのはじめの、おめでたいおしょくじです。こころして、いただかねば」

  響「うん、自分が腕によりをかけて作ったんだから、気合入れて食べてね」

たかね「はいっ! それでは、いただきます!!」




たかね「ふぬぬぬぬぬぬ!!」

  響「…… おおー……」

たかね「お、おもひ、とは…… ほ、ほのように、のびゆものほは!」

  響「そんな長さまで切らずに伸ばせるなんて、たかねは器用だなあ」



【西と東でモノがちがう】

たかね「……おや? ひびき、かがみもちは、そのままなのですね」

  響「んー? そうだよ、あれは新年の飾り物なんだって言ったでしょ?」

たかね「わたくし、おぞうにのおもちが、かがみもちだとおもっておりました」

  響「鏡開きっていって、鏡餅には食べる決まったタイミングみたいなのがあるんだぞ」

たかね「ふむ、それはいつなのです?」

  響「1月の…… えーっと、だいたい10日くらいかな。もうすぐだよ」

たかね「そのときはまた、おぞうにをつくるのですか」

  響「決まりはないと思うけど、おぜんざいとか、おしることかにすることが多いかも」

たかね「おぜんざい? おしるこ……?」



  響「そのふたつはあんまり違わないんだけどね、甘く煮たあずきとお餅を一緒にして食べるの」

たかね「あまい、あずき……! それも、たいへんにおいしそうです」ジュルリ

  響「寒いときにはあったまるしね。ってわけで、そのときまでは、鏡餅はおあずけ」

たかね「ああ、おしるこに、おぜんざい! どのようなあじなのでしょう、まちどおしいです!」




  響「…… えっ、ちょっと待って、両方は作んないよ?」

たかね「なんと!?」

  響「いや、だって、ほとんど同じもの作ったってしょうがないし」

たかね「そ、そんな! わたくしのいきるたのしみのはんぶんを、うばおうというのですか!?」

  響「さっき存在知ったばっかりで何言ってるの、たかね」



【debutante】

たかね「あの、ひびき。ほんじつの、わたくしのこおでぃねえとなのですが」

  響「それなら心配ないぞー。新年最初のお出かけだもんね、ばっちりおしゃれに決めてあげる!」

たかね「そこはひびきのことですから、しんようしております」

  響「うん、自分に任せといて! で、コーディネートがどうしたの? なにか注文ある?」

たかね「そうなのです。ひとつ、ぜひともみにつけたいものがございまして」

  響「ふんふん、じゃあ今日はそれをメインにしよっか。どれが着たいの?」

たかね「いえ、その…… おようふくではなくて、ですね」

  響「洋服じゃない? ……たかね、前にも言ったけど、シャンプーハットはお外には――」

たかね「ちがいます!! それではありません!!」



【周囲に植わってる】

  響「やっぱりお正月の街って、独特な雰囲気があるなー」

たかね「ひびき、さきほどから、あちこちにたけがたててあるのはなぜですか?」

  響「ああ、あれ? あれは門松って言って、鏡餅とかと同じお正月の飾りのひとつなの」

たかね「ほほう…… しかしなぜ、『かどたけ』ではなく『かどまつ』なのでしょう」

  響「えっ?」

たかね「たけが、まんなかで、とてもめだっています。しゅやくはたけなのでは?」

  響「…… いい、たかね。目立ってる人やものが、いつも主役だとは限らないんだよ」

たかね「はっ……!」




たかね「いえ、そういうことではなく、りゆうをきいたのです。ごまかさないでください」

  響「さあてたかね急がないとみんなとの待ち合わせに遅れちゃうぞー」

たかね「ひびき、ひびき! こちらを! わたくしのめをみてはなすのです!!」



【暗くないところで】

 亜美「おっ、二人とも来たみたいだよん」

 真美「やっほーひびきん、おひめっち! あけおめー!」

  響「ごめんみんなー、お待たせー! あけましておめでとーっ」

たかね「あけましておめでとうございます。ことしも、よろしくおねがいします」

あずさ「うふふ、こちらこそよろしくね~、たかねちゃん」

 律子「ああそうだ、響? ゆうべのメールだけど、あんな遅くまでたかねを起こしとくのは……」

 真美「げげっ……!? り、律っちゃん、その話は今はしなくていーっしょ!」

 亜美「そーそー律子サマ、年のはじめくらいカタいこと言いっこナシでさ、ね?」



【ふぁっしょんちぇっく】

たかね「みき、それに、はるかも、いつもとおようふくがちがいますね」

 美希「ミキはメンドくさいからいいって言ったんだけど、ママがせっかくだからって」

 春香「わたしはみんなでお参りするこの機会に、と思ったの。どう、たかねちゃん、似合うかな?」

たかね「はい! はるかもみきも、とてもきれいで、すてきです」

 春香「本当? えへへ、ありがとう!」

 美希「……まあ、ホントはこういう和服って、貴音のほうがぴったりってカンジもするけど」

 春香「ああ…… うん、それはわかるかも」

たかね「? わたくしが、どうかしたのですか?」

 春香「んーん、なんでもないよ。きっと、たかねちゃんが着ても似合うよね、って話」

たかね「おお! まことですかっ!」



 美希「……あれ? たかね、イヤリングなんて前からつけてたっけ?」

たかね「ふふふ、ほんじつはわたくし、おめかししているのです!」

 春香「えっ? あっ、ホントだ! おしゃれさんだねー、たかねちゃん」

たかね「ふたりとも、さすが、おめがたかいですね。どうでしょうか、にあっておりますか?」

 春香「うん、とっても! 銀色がたかねちゃんの髪と引き立てあってて、すごく綺麗だよ!」




 美希「へえー…… それに、これ、三日月の形してるんだ」

 春香「…… ねえ、たかねちゃん。これ、響ちゃんからもらったんでしょ?」

たかね「ええ、そうです。やはりわかりますか」

 美希「ミキたちにはすぐわかっちゃうの。たかね、それ、大事にしなくちゃダメだよ」

 春香「きっとね…… 響ちゃん、選ぶのに時間とかいっぱいかけたと思うんだ」

たかね「もちろんです。ひびきが"わたくし"にくれた、たいせつな、おくりものですから」



【ご対面の前に】

たかね「としのはじめから、たくさんのひとがあつまっているのですね」

  真「初めだからこそ、だよ。お参りしたら、なんとなくいいことありそうな感じがするしさ」

たかね「いちりあります。では、さっそくまいりましょう!」

 雪歩「あっ! ちょっと待って、たかねちゃん。まずこっちで手とお口をすすがないと」




たかね「そういえば、ゆきほも、きょうはわふくなのですね?」

 雪歩「うん、わたしはお洋服にしようと思ってたんだけど、お父さんがどうしてもって……」

  真「いいなあ。ボクも振袖着てみたかったんだけど、父さんがどうしてもダメだって……」

たかね「…… よのなかは、いずこも、かなしいすれちがいばかりです」



たかね「ところでわたくし、おうちをでるまえに、てはあらっておりますよ」

  真「うーんとね…… 今から神様に会うんだから、もう一度ちゃんと洗うのがルールなんだよ」

たかね「そういうものなのですか」

 雪歩「ちょっと面倒かもしれないけど、そういうものなの。はい、たかねちゃん、ひしゃくをどうぞ」

たかね「ありがとうございます。これで、おみずをくむのですね?」

 雪歩「そう、それで両手を片方ずつ洗ってね、それからお口もすすぐの」

たかね「こころえました!」




たかね「ところで、このおみずは、のんでもよろしいのですか?」

  真「うん、よろしくないね」

 雪歩「マナー的にも衛生的にもやめとこうね、たかねちゃん」



【いざお目見え】

たかね「……」

 千早「…… あら? たかねちゃん、どうしたの?」

 伊織「あとは参拝するだけでしょ? なにをぼーっと突っ立ってるのよ」

たかね「その…… じつは、さほうが、わからないのです」

 千早「ああ、なるほど……」

 伊織「日ごろの振舞い見てると忘れそうになるけど、あんた5歳だものね……」




 伊織「いい? まずは、この紐をひっぱって鈴を鳴らすのよ」

たかね「…… あっ、よくみると、うえにまるいものが! あれが、すずなのですね」

 伊織「そうよ。この鈴の音には、神様をお招きする意味があるんですって」



ガラガラガラ

 伊織「……っと、こんなものかしら」

たかね「……」ジー

 伊織「ん? なあに、鈴を鳴らす仕草もパーフェクトな伊織ちゃんに思わず見とれちゃった?」

たかね「いえ、いおりがせのびをしているのは、あまりみないものですから」

 伊織「なぁっ!?」

 千早「…… くすっ」

 伊織「ち、千早、あんた今笑ったわね!? あとで覚えてなさいよ!」

たかね「はて…… せのびをするのは、なにかはずかしいことなのですか?」

 伊織「たかね、いい!? 念のために言っとくけど、響よりはわたしの方が身長高いんだから!」

たかね「なんと! ほとんどおなじとおもっておりました」

 伊織「なんですって!? 1cmよ!? 1cmも違うんだから今後は気をつけなさいよね!」

  響「ところで念のために言っとくけど、自分、ちゃんと聞いてるからなー?」



 千早「さて、それじゃあたかねちゃん、改めて参拝のしかたを教えてあげるわ」

たかね「ちはや、よしなにおねがいします」

 伊織「ちょっと待ちなさい千早、なにさらっと流してるの!?」

  響「それより伊織はさ、身長の件で自分とちょっと話、しようか」ガッ

 伊織「い、いやああああ!?」ズルズル




 千早「最初は、さっき水瀬さんがしたように鈴を鳴らしてから、お賽銭を投げるの」

たかね「おさいせん、というのはしっております! ひびきから、このごえんだまをもらいました」

 千早「そうだったのね。それは、目の前の賽銭箱に投げ込めばいいわ」

たかね「はい! では…… とおっ!」

チャリン

 千早「ふふ、上手。この後はいくつか決まった作法があるけど、すぐ覚えてしまえるから」

たかね「わたくしに、おぼえきれるでしょうか。しょうしょうふあんが……」

 千早「大丈夫。少しくらい間違ったとしても、神様はそんなことで怒ったりしないわ」







 千早「まずは、おじぎを二回するの。神様に尊敬の気持ちを表すためね」

たかね「さいしょは、おじぎがにかいですね」

 千早「そう。そうしたら次は、手を胸の高さに持ち上げて、手のひらを重ねて」

たかね「むねのたかさで、りょうてを…… ゆびは、のばしていてよいのですか?」

 千早「それでいいわ。じゃあ、合わせた手をこうして、肩幅より少し狭いくらいに開きましょう」

たかね「……はい! ひらきました!」

 千早「そして、二回、拍手(かしわで)…… つまり、手を打ち合わせて音を立てるの」

たかね「なんと。それでは、かみさまがびっくりしてしまいませんか?」



 千早「たかねちゃんは嬉しいときや驚いたとき、思わず手を叩いてしまいたくなることがない?」

たかね「そういえば、ほんとうにするかどうかはべつで、あります」

 千早「もともとこの拍手は、そういう自然な感情の表れが由来だと聞いたことがあるわ」

たかね「なるほど…… かみさまにあえた、うれしさがこもっているのですか」

 千早「そうね。素敵な音楽や歌を聴いたときに思わず拍手(はくしゅ)をするのも、きっと同じ」

たかね「すると、ごちそうをまえにしたとき、てをうちたくなるのもおなじですね!」

 千早「ふふっ…… そうね、それも一緒に違いないわ」




 千早「ここまで済んだら、最後にもう一回おじぎをして、それでおしまい。簡単でしょう?」

たかね「おじぎ、おじぎ、てをうつ、てをうつ、おじぎ…… で、あっておりますか?」



 千早「ええ、ばっちりよ。ああ、それと最後のおじぎのときに、お願い事をするのも忘れずに」

たかね「おねがいごと?」

 千早「拍手までが神様へのご挨拶みたいなもので、その後でお願いをする感覚ね」

たかね「おねがいごと…… といっても、どのていどのことをおつたえすれば?」

 千早「確かに、複雑だと神様も困ってしまうかしら。じゃあ、好きなもののことを考えてみたら?」

たかね「おや、それだけでよいのですか」

 千早「シンプルなほうがわかりやすくていいと思うわ。神様もきっと、察してくれるでしょう」

たかね「それならかんたんです。わたくしのおねがいごとは、もうきまりました!」

 千早「そう? だったら早速、実際に参拝しましょうか」



【でざいあ】




ガラガラガラ


        パン  パンッ


 千早(…… さすが元四条さん、ちゃんと一度の説明で全部覚えているわね)

 千早(あとは一礼して…… ふふ、小さな手を合わせて、いったいどんなことをお願いし――)



たかね「らぁめん!!!!」



 千早「!?」

 周囲「ブフォッ」



 千早「ちょっ、ちょっと、四じ…… たかねちゃん、別に声に出す必要はなくて――」



たかね「それから、もちろん…… ひびき!!!!!」



 千早「!」

 周囲「……」ザワザワ

たかね「……はっ!? わ、わたくし、ねんじるあまり、つい、くちに……!」




  響「なんか大声で呼ばれた気がしてこっち来たんだけど…… たかね、どうかした?」

たかね「い、いえ、なにもありませんよ、ひびき」

  響「そうなの? ねえ千早、たかねと一緒にいたんでしょ、何か知らない?」

 千早「さあ? 私は何も。それより我那覇さん、今年はきっといい年になるわ」

  響「?」



【Green-Eyed-Carmine Eyes】

 伊織「まったく。わたし、本当のこと言っただけなのに……」ズズッ

やよい「でも伊織ちゃん、人が気にしてることを言うのって、あんまりよくないかも」ズズ

 伊織「う…… わ、わかってるわよ」




たかね「あっ! ふたりとも、それはなにをのんでいるのですか?」

やよい「たかねちゃん、おかえりー。これはね、甘酒っていうの。あっちでもらえるよ」

たかね「おさけですか。わたくし、もうごさいですから、だいじょうぶかとはおもいますが……」チラ

  響「はいはい、飲んでみたくてしょうがないんだよね?」

たかね「とうぜんです! いろいろなあじをしってこその、しゅくじょですから」

  響「仕方ないなー。やよい、伊織も、いっしょに行かない?」

やよい「ええっ? でもわたし、もう一杯もらっちゃいましたし……」

 伊織「まあおめでたいお正月だし、神様もそうケチじゃないでしょ。付き合ってあげるわ」



たかね「…… こうしてみると、たしかにいおりのほうが、ひびきよりも、すこしおおきいですね」

 伊織「ちょっと!? たかね、やめなさい、その話はもういいから!」

  響「そりゃしょうがないさー、1cm"も"違うんだもん。1cmも」ジトー

 伊織「だ、だから、悪かったって言ってるじゃないの」

やよい「でも、うらやましいなあ。わたしなんて、まだ150センチにもとどいてないんですよ」

  響「なに言ってるの、やよいはそれがいいんじゃないかー」ナデナデ

 伊織「そうよ、突き詰めたら小柄なのも立派な個性になるんだから」ナデナデ

やよい「えへへー、そうですかー?」

  響「うん、絶対そうだぞ!」ナデナデ

たかね「……」




  響「もう事務所で自分よりちっちゃいのやよいくらいだし、いっそ連れて帰っ…… ん?」

たかね「ひびき、はやく、あまざけをもらいにまいりましょう」クイクイ



  響「どうしたのさ、たかね。焦らなくたってなくならないよ」

たかね「……」ギュッ

 伊織「…… よく考えたらわたしたち、わざわざ二杯目もらいに行くこともないわね、やよい」

  響「え?」

やよい「うん、まだたっぷり残ってるもんね。待ってますから、二人で行ってきてください!」

  響「急になに言い出すの、二人とも。さっきまでは一緒に行こうって……」




 伊織(…… 響、ちょっと耳貸して)

  響(えっ、なになに? なんか内緒話でもある?)

やよい(あの、響さん。たかねちゃん、すごくむくれちゃってます)

  響(え、ええっ!?)チラッ

たかね「……」

 伊織(きっと、あんたがやよいにとられちゃったような気がしてるんでしょ)



  響(だって自分、ちょっとやよいの頭なでたくらいだよ?)

やよい(ちっちゃい子って、そういうのよく見てますし、けっこう気にするんですよー)

 伊織(しっかりしてるように見えても、まだまだ子供ってことよ。ちゃんと安心させてあげなさい)




  響「…… よし、たかね。それじゃ改めて、甘酒もらいに行こっか」

たかね「……」

  響「あったかくて、ちょっと不思議な味で、おいしいぞ。期待してていいよ」

たかね「…… ひびき」

  響「なあに?」

たかね「ひびきは、わたくしよりやよいのほうが、かぞくにほしいですか?」

  響「!」



たかね「たしかに、やよいは、しっかりしていて、おうちのこともできますし――」

  響「…… ここで、たかねに問題!」

たかね「は、はい?」

  響「お餅はお餅でも食べられないお餅って、なーんだ?」

たかね「たべられないおもち? …… そのようなめんようなものが、あるのですか?」

  響「あるんだよ。しかも今、ちょうどたかねが持ってるね」

たかね「わたくしが? というと…… ひびきがよくいう、わたくしのほっぺですか?」

  響「ブッブー。それじゃないぞ。ほかには?」

たかね「む、むむむ…… おもち、たべられない、おもち……」

  響「どう、もう降参?」

たかね「うう…… こうさんいたします。こたえはなんですか?」

  響「…… "やきもち"」



たかね「む…… わたくし、べつに、やきもちなど、やいておりません」

  響「ごめん。自分、ちょっと無神経だった」

たかね「……やよいがこがらで、かわいいのはじじつです。でも、わたくしだって、こがらです」

  響「うん、たかねは自分より、やよいより、ずっとちっちゃいもんね」

たかね「けっしておおきくはないひびきが、かんたんに、あたまをなでられるほどに!」

  響「そうそう。ちょうどいい高さだから、ついなでちゃうんだよなぁ」

たかね「どうせ、いやだといっても、ひびきはやめないのですから」

  響「そんなことないよ。はっきり言ってくれたら、自分、やらないように……」




たかね「いまだけは、もんくをもうしません。ですから、その…… すきになでても、かまいませんよ」

  響「お、そうなんだ? それじゃ遠慮なく、お言葉に甘えて」ナデナデナデ

たかね「…… んふふ、ふふ」







たかね「あっつ、あちっ…… あちちっ!?」

  響「無理しないほうがいいよ、たかね。冷めるまで自分が持っといてあげるってば」

たかね「いいえ! これは、あち、わたくしがいただいたぶんですから、わたくしがじぶんで!」

  響「心配しなくても、誰も取ったりしないって」

たかね「そうではないのです! おとなとして、そのくらいのことは、じしんで、あちち!!」

  響「大人ならちゃんとそのへん、聞き分けてくれたっていいでしょ!?」

ギャーギャー




やよい「あっ、響さんとたかねちゃん、帰ってきたよ! 大丈夫だったかなぁ?」

 伊織「…… ここからでも見えるくらい、にこにこしてるじゃない。心配するだけ損ってやつよ」



【実力のうち】

 亜美「さーて、おひめっち! 亜美たちとことし最初の勝負といこーぜぃ!」

たかね「ほう…… わたくし、まけませんよ。なにでたたかうのです?」

 真美「んっふっふー、読みが甘いぞよおひめっち。みんなで初詣とくれば、アレっきゃないっしょ?」

たかね「はて、あれ、とは?」

 亜美「これだよこれっ! 年のはじめの運だめしといえばこれ、おみくじなのだー!」




 律子「はぁ、全く、勝負って…… あの子たち、縁起物だってことわかってるのかしら」

あずさ「でもお正月には引きたくなりますよね~。そうだ、律子さん、わたしたちもやりましょう!」

 律子「は!? え、いえ、私は別に……」

あずさ「わたしもたまには、誰かに運勢を見てもらいたいんですよ。ほらほら♪」

 律子「ちょっ、あずささん、わ、わかりましたから、引っ張るのは!」



 真美「そんじゃ、いっせーのせ、でみんな開くんだよっ!」

 亜美「おひめっち、負けを認めるならいまのうちだよん」

たかね「ふっ、なにをいっているやら…… あみもまみも、てきではありません」

あずさ「うふふ、何が出るかしら~。どきどきしちゃうわ」

 律子「…… ねえあずささん、なんで私たちまで一緒に混じってるんです?」

 真美「よーし、行っちゃうかんねー!? いっせえのー…… せっ!!」




 亜美「…… しょ、小吉…… うあうあー、ビミョーすぎてコメントしづらいよー!」

 真美「真美は吉ゲットだーっ! ……ねえ亜美、小吉と吉ってどっちがいいんだったっけ?」

あずさ「えいっ…… わあ、中吉! 二番目にいいのを引けるなんて、いい年になりそう♪」

 律子「どうして私までこんな…… …… あっ、大吉……」

あずさ「まあ、おめでとうございます律子さん。きっと今年は最高の年ですよ~!」

 真美「あーっ、いいなー、律っちゃん」

 亜美「ていうかもうこれで勝者確定じゃーん、つまんないのー!」



 真美「あ、そーいえば、おひめっちはどうだったのさ?」

 亜美「黙りこくってるとこ見るとー? んっふっふ、さては……」

たかね「…… ……ふふ、ふふふ」

 律子「た、たかね? どうしたの、大丈夫?」

あずさ「たかねちゃん、前も言ったけど、占いやおみくじの結果ってそんなに気にしなくていいのよ?」

たかね「ふふふ。わたくしがだまっていたりゆうは、そのようなことではないのですよ、みな」

 真美「んんー……? どゆこと?」

 亜美「およっ、てことはおひめっちも大吉だったの?」

たかね「さあ、これをごらんなさい! きっと、たいへんにめずらしいものにそういありません!!」



   「大凶」 バァーン










 真美(……ねえ亜美、おひめっちアレ読めてないっぽいから、ホントのこと教えてあげなよ)

 亜美(うええっ、なんで亜美!? そーゆーのはズノーどーろ担当の律っちゃんっしょ!)

 律子(それこそどうして私なのよ! ……確か一番いい運勢引いた人が勝ちで、偉いのよね?)

あずさ(り、律子さん、どうしてそれをわたしの方を見ながら言うんですか~!?)

 律子(だって占いやおみくじに一番造詣が深いのはあずささんじゃありませんか!)

あずさ(で、でもっ! たかねちゃん以外でいちばん結果が悪かったのは真美ちゃんですよ!?)

 真美(にゃ、にゃんだってー!? あずさお姉ちゃん、真美のこと売るつもりなの!?)




たかね「ふふふ、みな、わたくしのごううんに、こえもありませんか」ドヤァ…

 亜美(声が出てないのはホントだけど理由が全然ちがーう!!)



【氏名住所を忘れずに】

 春香「うーんと…… どうしようかなぁ……」

 美希「あふぅ…… ミキは、こんなカンジでいーかな、っと」

 春香「は、はやっ! え、美希、もう書いちゃったの!?」

 美希「神様へのお願い、でしょ? ミキの自力じゃできないことなんて、ケンコー祈願くらいなの」

 春香「う、うわあ…… これだけ言い切られて説得力があるの、なんかくやしい……!」

  真「雪歩ー、できたー? あんまりのんびりしてたら、いい場所とられちゃうよー」

 雪歩「あ、あうぅ、ごめんね、真ちゃん…… もうちょっと待ってて」

  真「待つのはいいけど…… そんなに熱心になに書いてるのさ、ちょっとボクにも見せてよー」

 雪歩「わあっ!? ダメ、見ちゃダメー!」




たかね「はて。みなできのいたをてに、なにをしているのです?」

 春香「あっ、たかねちゃん。これ、絵馬っていう、お願い事を書くものなんだよ」



たかね「…… おねがいごとは、さんぱいのときにおつたえするのではないのですか?」

 春香「あ、そういえば……」

  真「言われてみればそうだね…… 絵馬って、なんのために書いてるんだっけ」

 美希「単に口で伝えるだけじゃなくて、書いてショーコも残しとく、ってことじゃないの?」

 春香「証拠、かぁ…… なんか世知辛いけど、そんなところかもね」

 雪歩「…… ええっとね、みんな。昔は、本物のお馬さんを神様に捧げてたんだよ」

  真「ええ!?」

たかね「なんと!?」

 雪歩「貴重なお馬さんをあげるから、かわりにお願いを聞いてください、ってことだったの」

 春香「じゃあ絵馬って、本物の馬のかわりにこれで、ってことだったんだ……」

 美希「ふーん。それでオッケーなんだったらずいぶん安上がりなの」

 雪歩「ちょっ、美希ちゃん!? ストレートすぎるよぉ!」



  真「さてと、せっかくだからたかねも書いていけば?」

たかね「それはよいですね。かみさまに、ねんをおしておきましょう!」

 春香「そうだ。たかねちゃん、絵馬の書き方のコツ知ってる?」

たかね「いえ、わたくし、みるのもはじめてですので」

 春香「あはは、だよね。これ、お願いするんじゃなくて、言い切るといいんだって」

たかね「いいきる?」

 美希「『○○できますように』じゃなくて、『○○する!』みたいに書くといいってコトだよ」

たかね「なるほど! では、すこし、かえまして……」




たかね「これで…… できました!」

  真(三文字!)

 美希(ミキよりシンプルなの!)

 雪歩(漢字はまだ難しいよね。あの字は、特に)

 春香(ふふっ、たかねちゃんなら当然、そうなるよねっ)



【注連/三五七】

たかね「ひびき、さきほどから、きになっているのですが」

  響「なあに、どうしたの?」

たかね「おみせやおうちのとびらのまえに、みかんがあります! ほら、あそこにも、ここも!」

  響「…… さっきからやたらそわそわしてると思ったら、それが原因だったんだな」

たかね「どれもたいへんおおきく、いろもきれいです! いただいてもよいのでしょうか」キラキラ

  響「ダーメ。っていうかそもそもあれ、みかんじゃないからね?」

たかね「ぬ…… わたくしをあきらめさせようとして、うそをついていますね、ひびき」

  響「嘘じゃないよ。確かにみかんの仲間だけど、ダイダイって言って、種類が違うんだぞ」

たかね「だいだい?」

  響「お家や子孫が代々栄えるようにって、そういう願いをこめてあるの」

たかね「なんと! ただのだじゃれではありませんか!」

  響「縁起物なんて、どれも案外そういうものさー」



【いま明かされる衝撃の】

たかね「えんぎもの、といえば…… ひびきは、おみくじはひきましたか?」

  響「おみくじ? ああ、そういえば今年は引かなかったなー」

たかね「おや、それでは、わたくしとしょうぶできませんね」

  響「たかねは引いてたんだ。 ……ちょっと待って、勝負ってなに?」

たかね「もちろん、おみくじのけっかのよしあしできそいあうのですよ」

  響「どうせ亜美と真美が言い出したんでしょ、それ。で、たかねはどうだったの」

たかね「このとおり、わたくしにふさわしい、さいこうのものでした!」ピラ

  響「へえー? まあ、初詣のときは大吉多めに入れてる、なんて話もあ――」




たかね「ふふふ、どうです? それをみるとみな、ひびきのように、おしだまってしまうのですよ」

  響(……ってことはつまり、その場にいた誰もまだホントのこと言ってないんだな!? もー!!)







たかね「……」ズーン

  響「えーとね、その…… そう、珍しいのは間違いないから、ある意味運はいいんだって!」

たかね「…… そのようななぐさめ、けっこうです……」ズーン

  響「ただの運試しなんだから、そんな気にするようなことじゃないさー」

たかね「よりによって…… あたらしい、いちねんのはじめに……」

  響「いやでもおみくじってだいたい、年の初めくらいにしか引かないし」

たかね「それにくわえ、みながこのことをひみつにしていたのもゆるせません!」

  響「みんな、たかねがショック受けないようにって気を遣ってくれたんだよ、きっと」

たかね「あとできかされるほうが、よりしょっくです!!」

  響「…… あー、そこはさ、あのー…… あれだよ、ほら、その……」



  響「…… でもさ、たかね、考えようによっては大凶って、すごくいいのかもよ」

たかね「なにがですか!? まずみかけない、さいあくのけっかなのでしょう!」

  響「今が最悪なんだったら、これから先はいいことしか起こらない、ってことじゃない?」

たかね「え? …… あっ、なるほど……」

  響「それに、たかね一人だったら大変だけど、自分もいっしょにいるんだから大丈夫だよ」

たかね「…… ふふふっ。それならば、わるいことはすべて、ひびきに、ひきうけてもらいましょうか」

  響「えーっ、何それ。ひっどいなぁ」

たかね「おみくじをひいていないひびきへの、おすそわけですよ」




  響「…… 夕飯、たかねの食べたがってたカレーの予定だったけど、やめちゃおうかな?」

たかね「な、そ、そんな!? さっそく、わるいことがはじまっているではありませんか!?」

  響「いーや、これに関してはたかねの自業自得だぞー」



【もはや日本料理】

たかね「おおお…… これは、はじめてかぐ、えもいわれぬかおり……」スンスン

  響「確かにこの匂いって、これでしか味わえないからね」

たかね「みためにも、こがねいろ…… ともうしますか、つやつやと、かがやいていて!」

  響「あんまり眺めてばっかりいると冷めちゃうから、早く食べようよ、たかね」

たかね「なりません! まずは、めとはなで、しっかりとたのしまねば!」

  響「まったくもう。どこの美食家なのさ……」




たかね「んん! んんんん!!」ムグモグムグ

  響「どう? これが、日本人のソウルフードのひとつとか言われることもあるカレーだぞ!」

たかね「んんむ…… こ、これは、まさしくびみです!!」



たかね「ほどよいからさで、とろみが、ごはんとからみあって!」

  響「そうそう、カレーはお米でこそだよね。いや、ナンとかでもおいしいけどさ」

たかね「なん……? ごはんのほかにも、かれーとくみあわせられるものが!?」

  響「え? ああ…… うん、外国のパンみたいなのがあるんだよ」

たかね「なんと! それは、ほんじつはないのですか!?」

  響「ごめん、今日は準備してないや。次にカレー食べるときはそっちにしようね」

たかね「むぅ…… いたしかたありませんね。つぎのたのしみに、とっておきます」




たかね「さきほどひびきのいっていた、"そうるふーど"とはなんですか?」

  響「ようは、その国の人ならたいてい好きで、よく食べるお料理のことさー」

たかね「ではたとえば、ごはんや、おにぎり…… それに、おみそしるなどでしょうか」

  響「そういうのだぞ。それ以外に、カレーとか、ラーメンもそうだって言う人もいるね」

たかね「らぁめんもですか! ではわたくしは、みもこころも、まぎれもないにほんじんです!」



  響「間違いないね。ちなみに、組み合わせたカレーラーメンなんてのもあるよ」

たかね「まことですか!? ではつぎのときは、ぜひそれを!」キラキラ

  響「それはいいけど、そうするとナンが食べられなくなっちゃうぞ?」

たかね「あっ…… うう、それはこまります……」

  響「ふふふ、いっぱい悩むといいよ。そうだ、ラーメンとカレーならどっちが好きだった?」

たかね「どっち? ……らぁめんと、かれーで?」

  響「そ、あえてひとつだけ選ぶとしたら、たかねはどっちが好き?」

たかね「……」




たかね「…… ……」ポロポロポロポロ

  響「ちょっ!?」




  響「ホントにごめん、ちょっと聞いただけだから、ね、自分が軽率だったぞ、ごめんね」

たかね「う、うう…… わたくし、じしんのこころは、うらぎれませんでした……」ポロポロ



【計画倒れ】

たかね「『いちねんのけいは、がんたんにあり』…… たいへん、よいことばです」

  響「昔の人はためになること言うよね」

たかね「それにまなび、わたくし、ことしのもくひょうをたてることにします!」

  響「ほほー。まさかと思うけどラーメン何杯食べるとか、そういうのじゃないよね?」

たかね「ふっ…… わたくしをあまくみないでください、ひびき。もちろん、ちがいます」

  響「へえ、じゃあ、どんなの?」



たかね「ことしは…… たくさんたべて、わたくし、ひびきよりもおおきくなってみせます!」



  響「……たかね、目標って、一般的には努力でなんとかなるものにするんだよ?」

たかね「やってみないで、あきらめるのはよくありませんよ」

  響「何事にも限度ってあると思うぞ、自分」



【昔は大人ももらえました】

たかね「ときに、ひびき。なにかわすれていることがございませんか?」

  響「え? ……あれ、自分、なにか約束とかしてたっけ?」

たかね「おやおや、そのようなことでは、かんぺきのながないてしまいますよ」

  響「えーっと…… ごめん、まだ思い出せないや。なあに?」

たかね「いたしかたありませんね、おしえてさしあげます。わたくしの、おとしだまですよ」

  響「えっ」

たかね「おとしだま、です。 ……ま、まさか、しらないのですか!?」

  響「いやもちろん自分は知ってるぞ。じゃなくて、なんでたかねが知ってるのかなぁ、って」



  響「やっぱりこれも亜美と真美が元凶かー…… ほんと、ロクなこと教えないんだから」

たかね「それはさておき、わたくしにも、もらうけんりがあるはずです」

  響「ちょっと待ってよ。むしろ、自分だってまだもらってておかしくない立場なんだからね?」

たかね「ですが、いまのわたくしのほごしゃは、ひびきでしょう?」

  響「そりゃそうだけどさー」

たかね「ならば、まずはひびき、ほごしゃとしてのせきむをはたしてください!」

  響「お年玉あげるのが保護者の義務だなんて話、初めて聞いたぞ、自分……」




  響「はい、じゃあ、たかねにはこれあげる」ペラッ

たかね「まっておりました!」



たかね「…… はて、これは? きっぷ、ですか?」ピラピラ

  響「できたてのほやほや、しかも自分のお手製で、ほかじゃ手に入らない超レアものさー」

たかね「しかし、ひびき。おとしだまとは、おもに、おかねだとききましたが」

  響「たぶんそれ、たかねにとってはお金よりよっぽど嬉しいと思うよ」

たかね「そうなのですか? なぜですか?」

  響「そこに使い方も書いといたから、まずはちゃんと読んでみて」

たかね「む。そのようにてまをかけずとも、ひびきがせつめいしてくれれば、すむのでは?」

  響「たかねももう5歳のりっぱな淑女なんだし、たまにはお勉強しなくっちゃ」

たかね「…… いわれてみれば、たしかにそうです」

  響「ん、がんばってねー」







たかね「ひ、ひびき! ひびき!!」タタタッ

  響(おっ、きたきた)

たかね「このきっぷにかいてあることは、まことなのですか!?」

  響「もちろん、まことだよー」

たかね「では、これをだせば…… しゅうにふたつめのかっぷめんをしょくしても、よいのですね!?」

  響「うん、自分も大人として、アイドルとして、二言はないぞ」

たかね「なんと……、なんとすばらしいのでしょう!! ゆめのようなきっぷです!」キラキラ

  響「でも使えるのは週に一枚限り、全部で七枚だけだから、タイミングはよーく考えるんだよ?」

たかね「む、むむむ…… たしかにこれは、いつつかうか、はんだんがじゅうように……!」

  響(……苦しまぎれの思いつきだったけど、喜んでるみたいでなによりだぞ。ふふふ)



【Waxing Gibbous】

たかね「あっ、そうです! ひびき、ことしさいしょのおつきさまをみましょう!」

  響「初日の出見に行くかわりの、初お月見かー。うん、風流でいいかもね」

たかね「もうそろそろ、まんげつになっているでしょうか?」

  響「んーと、ちょっとタイミングが早いかなぁ。でも、あと一週間もしないくらいのはずだよ」

たかね「そうですか、わたくし、はやくみてみたいです」

  響「そっか、そういえば、たかねはまだ満月見たことないんだったっけ」




  響「おおー。もう、半月よりけっこう大きくなってるなー」

たかね「こんばんも、おつきさまはきんいろで、あかるくて…… とてもうつくしいです!」

  響「うん、ホントに。今日は雲もないからよく見えるね」

たかね「まんげつのばんは、あれがまんまるになるのですね?」

  響「そうだよ。この感じなら一週間もかかんないかな、あと三、四日くらいだと思うぞ」



たかね「そういえばひびき、しっていますか? おつきさまには、うさぎさんがいるのですよ」

  響「へえー、たかね、それは誰に教えてもらったの?」

たかね「むっ…… だれでもありません。これはわたくしのはっそうです!」

  響「そうだったんだ。ごめんごめん、その言い伝え、もともと有名なんだよ」

たかね「おや、そうだったのですか? ざんねんです」

  響「それにしても、どうしてうさぎさんがいると思ったの?」

たかね「せんじつのゆきうさぎさんが、きっと、おつきさまへいったとおもいまして」

  響「なるほど。じゃあ、お友達も一緒に、かな?」

たかね「もちろんです!」




たかね「それより、そのいいつたえは、なぜできたのでしょうか?」

  響「満月じゃなくても、これだけ大きかったらわかるかな。ほら、あのお月様の模様がさ」

たかね「もよう?」

  響「そう、影みたいになってるでしょ。あれがうさぎに見えるって、昔から――」




























  響「――ね! たかね? たかね、ねえ、たかねってば、聞こえてる!?」



たかね「……おや、ひびき? どうしました?」

  響「あ…… もうっ、『どうしました?』じゃないぞ!? 急に黙り込んで、ぼーっとしちゃってさ」

たかね「…… ……わたくしが、ですか? ぼおっと?」

  響「気になったから声かけても全然返事もしないし。自分、心配したんだからね?」

たかね「こえをかけていたのですか? ひびきが、ずっと?」

  響「…… ちょっとたかね、ホントに大丈夫なの? 自覚もなかったなんて……」

たかね「い、いえ、なにもないのです。だいじょうぶ、ですよ」

  響「まぁ、今なんともないならいいんだけどさ」




  響「さ、もう十分見たでしょ? まだまだ寒いし、お部屋に戻ろうよ」

たかね「…… そう、ですね」



たかね「ひびき。さきほどの、おはなしなのですが」

  響「先ほどの? どの話?」

たかね「あとどれくらいたてば、まんげつになるのか、というおはなしです」

  響「あはは、そんなに楽しみなんだ。ちょっと待っててね、ちゃんと調べてみるから」




  響「えーっとね…… うん、自分の見立てで合ってるみたい。あと四日ってところかな?」

たかね「よっか…… まんげつは、よっかごなのですね?」

  響「うん、そしたら真ん丸なお月様が見られるぞ! もちろん晴れてれば、だけど」

たかね「きっと、はれますよ。そんなきがいたします」

  響「だといいね。そうだ、前の日になったらてるてる坊主とか作ろっか!」


◆その5→