←その4



  響「じゃあみんな、おつかれー! 自分たちはお先に失礼するぞー」

 雪歩「あれっ…… 響ちゃん、もう帰っちゃうの?」

  響「うん、冬休みもそろそろ終わっちゃうし、今日はたかねのことかまってあげるつもり!」

 伊織「なるほど、そういうこと。よかったじゃないの、たかね」

たかね「……ええ、そうですね」

 伊織(あら……? てっきり大喜びしてると思ったのに、意外と反応薄いわね……)

 律子「正月休み終わりがけで交通量も増えてきてるし、気をつけて帰りなさいよー」

 小鳥「今日もお疲れさまでした、響ちゃん」

あずさ「また明日ね~、響ちゃん。たかねちゃんも、ばいばい」

  響「うん、また明日! たかねもほら、ちゃんとあいさつしよう?」

たかね「あ…… そうでした。みな、おつかれさまでした」






  響「はーっ、寒い寒い……! こんな日は急いで帰って、こたつであったかいもの食べなきゃね」

たかね「……そう、ですね。それがよいでしょう」

  響「あれ…… ねえたかね、具合でも悪いの?」

たかね「はい? いえ、とくには…… なぜですか?」

  響「だっていつもなら『ほんじつのめにゅーはなんですか!?』って、すぐ食いついてくるのに」

たかね「…… じつは、すこし、かんがえごとがございまして……」

  響「考え事?」



たかね「あの…… ひびき。こんばんが、まんげつなのでしたね?」

  響「そうだよ。よく晴れてるし、きっときれいに見えるぞー。たかねがいい子にしてたからさー」

たかね「そこでわたくし、おりいって、おねがいがあるのですが……」

  響「あはは、今日はまたえらく神妙だなぁ。なに、どうしたの?」

たかね「またてんたいかんそくをしたいのです。あのおかへ、つれていってくれませんか?」

  響「え…… えぇ!? こんな寒い日に、わざわざ? たかね、また風邪引いちゃうよ」

たかね「わたくしなら、だいじょうぶです」

  響「今日はベランダから見ればいいでしょ。あそこに行くのはもっと暖かい日にしない?」

たかね「どうか、おねがいします、ひびき。わたくし…… どうしてもこんやは、あのばしょがよいのです」

  響「……もーっ、しょうがないなぁ。それじゃ、しっかり寒さ対策してかなくっちゃ」







  響「よーし、とうちゃーく、っと! ……ううー、わかってたけど、すっごい冷えてるなー……」

たかね「…… ……」

  響「たかねは大丈夫? ホントに寒くない?」

たかね「ひびき」

  響「ん? なあに?」

たかね「いつも、わたくしのわがままをきいてくれて、ありがとうございました」

  響「……ちょっと、今日はどうしちゃったのさ? たかね、ずいぶんおとなしいじゃないか」

たかね「そう、でしょうか」

  響「間違いないぞ、口数も少ない感じだし。なにかあったの?」

たかね「…… ……ひびき、じつは、わたくしは……」

  響「うん、たかねが?」

たかね「ひびきと、おわかれせねばなりません」

  響「……え?」








【きみのふるえる手を】








  響「お別れ、って…… えっ、たかね、なんの話してるの?」

たかね「てんたいかんそくがしたいのは、ほんしんですが…… ここにきたのは、べつのりゆうです」

  響「な、なに言ってるのさ。あのね、そういう冗談ってぜんぜんおもしろくないぞ」

たかね「きょう、このよる、おむかえがある、とれんらくがありました」

  響「お迎え……? だから、いったい、なんのことなのか――」




たかね「…… ……きた、ようです」

  響「えっ?」






  響「……なに、あれ?」







  響「え…… え、ええ!? ゆ、UFO!?」

たかね「こちらでは、そのようによぶことがおおいようですね」

  響「なに平然としてるの、たかね!? 早くここから――」

たかね「だいじょうぶです。ひびきに、もちろんわたくしにも、きけんはありません」

  響「…… ……ねえ、待って、『こちらでは』ってどういうこと?」

たかね「あれが、わたくしのおむかえです」

  響「さっきからさっぱり意味がわかんないよっ! たかねのお迎えって、なんなのさ!?」

たかね「わたくしが…… "くに"へかえるときがきた、ということです、ひびき」

  響「くに? くに…… って、かえる、ってそれ、どういう意味……?」







  響「…… なんだあれ、今度は、人が出てきて…… どうなってるの、これ……」

たかね「……」

  響「夢、きっと、夢だ…… 早く覚めてよ、こんな意味のわかんない夢なんかうんざりだぞ……!」






???「お久しゅうございます、姫君。先般お伝えしました通り、お迎えに上がりました」

たかね「…… ……おやくめ、ごくろうにぞんじます」



  響「だ、誰なんだ、あんた! たかねのこと、どうするつもり!?」

???「姫君。これは?」

たかね「こちらでの、わたくしのかぞくで、ともです」

???「…… ご家族で、かつご友人…… ですか?」

たかね「はて。それになにか、おかしなことがありますか」

???「いえ、これは失礼を。承知仕りました」

たかね「ひびき。こちらは――」


 使者「そのようなお気遣いは無用です、姫君。いずれにせよこの方とは二度とお会いしませんゆえ」




  響「だから、自分を残して勝手に話を進めないでってばっ!!」

たかね「あの…… どうか、どうかおちついてください、ひびき……」

  響「これが落ち着いてられる!? それよりたかね、自分から離れるんじゃないぞ!」

 使者「……ご友人、ということですので大目に見ますが、あまり気安い口をおききになりませんように」

  響「うるさい! さっきも聞いたけど、姫君うんぬんより前にまずあんた誰なの!?」

 使者「私は、姫君にお仕えする家臣がひとりに過ぎませぬ」

  響「家臣だの姫君だのって…… まるで、たかねが本当にお姫さまかなんかみたいな、」

 使者「実際に姫君であらせられるとしたら?」

  響「……え?」

 使者「この方こそ、月世界の第一王女である姫君でございます」

  響「月……? 月、って、あの…… あそこで空に浮かんでる、あの月?」

 使者「いかにもその通りです」

  響「……はは、あはは、は! 冗談、冗談だよね? ドッキリとか…… そういうの、でしょ……?」

 使者「お信じになるかどうかは、ご随意に。こちらとしては事実をお伝えするのみですゆえ」



  響「…… ……じゃあ、その、月の人、が…… なんで急にたかねを迎えに来るの?」

 使者「所定の期間が経過したゆえにございます」

  響「期間? 所定の、って……」

 使者「姫君がこのたび地球に参りましたのは、王族の子女としての試練をお受けになるためでした」

  響「し…… 試練? はは、ははっ、アイドルやるのがなんの試練だっていうのさ!?」

 使者「そうではありません。地球を訪れること、それ自体が試練でございます」

  響「…… つまり、大事に育ててきた子に、あえて一人で旅させる…… みたいな?」

 使者「概ね、そのようなものと捉えていただいて結構です」

  響「一応…… 理屈としてはわかるよ。でも、なら、なんで貴音はちっちゃくなっちゃったの?」

 使者「ああ、そうでした。その点で大きな認識の齟齬があるのですね」

  響「そご? ……どんな勘違いがあるっていうんだ?」







 使者「姫君は "小さくなってしまった" のではございません。"元にお戻りになった" のです」




  響「…… ……はっ?」






  響「な、なに言ってるの……? 小さくなったんじゃない、って、でも現にいま、こんなちっちゃい子に――」

 使者「おわかりになりませんか。現在のそのお姿こそが、姫君本来の風采である、ということですよ」

たかね「……」



  響「えっ、ま…… 待って! どういうこと!? 自分、意味がわかんないよ!」

 使者「そのままの意味でございます。一時的に成長しておられたのが、こうして元に戻られただけのこと」

  響「バカ言わないでよ!! そもそも一時的に成長だなんて、そんなこと、できるわけが……」

 使者「我々の技術をもってすれば、さほど困難なことでもありません」

  響「でも、じ、自分のよく知ってる貴音は…… 自分より2歳も年上で、背だってずーっと高くって!」

 使者「ですから、それらはすべて、この姫君の仮の姿であった、ということですよ」

  響「見た目だけの話じゃないよっ! 態度とか知識とか、話の内容とかも…… 貴音は!」

 使者「当然でしょう。身体の成長に合わせ、精神年齢を引き上げない理由などありますでしょうか?」

  響「そ……、んな! じゃあ…… 貴音と、自分が、初めて会ったときから、ずっと……?」




 使者「左様でございます。貴女が知っていたとお思いの"四条貴音"なる存在は、幻想に過ぎません」



  響「…… なんで、なんでそんなことしたの!? たかねを無理やり成長させて、なんの意味があるのさ!?」

 使者「先ほども申しました、試練をお受けいただくための準備のひとつです」

  響「こんなちっちゃい子を、大人に見せかけて…… それでよそにひとりぼっちで放り出すのがあんたのいう試練なの!?」

 使者「ああ、ようやくご理解いただけましたか。その通りですよ」

  響「ふざけてるのか!? そんな危ないことやらせるなんて、いったいなに考えてるんだ!」

 使者「どんなものであれ、試練というからには相応の危険が伴うものだと存じますが」

  響「そういう問題!? それに、あんたの話だとたかねは月のお姫様なんでしょ!? なのに!」

 使者「王族だからこそ、この程度も乗り越えられぬようでは到底務まらない、ということでございます」

  響「それで―― それで、もし万が一のことでもあったら、取り返しつかないじゃないか……!」

 使者「ええ。間引き…… とまでは申しませんが、ふるいにかけるような面もございまして」

  響「…… ……なんだって?」

 使者「過去には、政治的に対立する者らが試練の機会を利用し、王族を亡き者にした例もあったとか」

  響「…… おかしいよ、そんなの…… 絶対おかしい、間違ってるぞ……!」



たかね「いままで、なにもおつたえできなくて…… ごめんなさい、ひびき」

  響「…… たかねも、このこと…… 初めから、全部、知ってたの……?」

たかね「いいえ!! ちがいます! それだけはぜったいにちがいます、しんじてくだ――」

 使者「姫君は本当にご存知ありませんでしたよ。少なくとも、四日前の晩までは」

  響「なんであんたがそんなこと言い切れるのさ?」

 使者「その時点でようやく、我々と姫君との間で連絡が取れたからでございます」

  響「は!?」

 使者「お迎えにあがる旨、その日時…… 同時に、姫君がお忘れだった情報もお伝えした次第でして」

  響「忘れてた……?」

 使者「……致し方ありませんね。ここまでお話しした手前、もう少しご説明して差し上げましょう」



 使者「まずそもそも、試練に臨むにあたり、対象者は月の民としての記憶を一時的に抹消されます」

  響「えっ…… どうして?」

 使者「地球の民として溶け込めるように、ですね。その際、地球人としての仮の記憶も与えられます」

  響「それじゃ、貴音の名前なんかのプロフィールも、全部うそっぱちだってことなのか……」

 使者「苗字に関してはその通りです。『四条』という姓は、月の民が代々名乗ってきた仮の苗字でして」

  響「! つまり、貴音って名前だけは本名だってこと?」

 使者「はい。少なくとも音としては、もっとも近い表記と言って差し支えないでしょう」

  響「……そう、なんだ。少なくとも自分、貴音のこと、全然知らなかったわけじゃないんだね」

 使者「まあ、そういうことである、としておきましょうか」



 使者「ただ問題は、我々の有する地球についての記録がいささか現状に即していないことにあります」

  響「…… もしかして、貴音の言葉づかいがやたら時代がかってたのって……」

 使者「そういうことです。数十年、部分的には数百年単位での乖離が生じてしまっていたようですね」

  響「なるほど、ね…… さもそれが普通みたいな感じで喋ってたけど、そんな理由があったのか」

 使者「また、当然ですが、年齢を成長させる施術の維持にはそれなりの熱量を必要と致しまして」

  響「つまり、なに? 貴音が食いしん坊だったのも実はそこが原因だってこと?」

 使者「仰る通りです。もちろん、姫君にその意識はありませんので、無自覚だったはずですが」

  響「なんだか話が急すぎて、現実味はぜんぜんないけど…… 確かに、理にはかなってるね」




 使者「さて…… では改めて、私が今回姫君をお迎えに参るまでの経緯をご説明しておきましょう」

  響「うん。聞かせてもらうぞ」



 使者「本来であれば、定められた試練の期間が終わり次第幼子に戻られ、迎えの者がすぐ参ります」

  響「今あんたがここにいるのも、そのルールに従ったからじゃないの?」

 使者「その前に、そもそもまず私含め、ほとんどの者は試練の正確な期間を知らされておりません」

  響「……じゃあ、どうやって迎えにくるタイミングを合わせられるんだ?」

 使者「元に戻られたことが我々に自動的に伝わる仕組みになっており、それを確認してから伺うのです」

  響「おかしいじゃないか! だって、貴音がたかねになっちゃったのはもう一月くらい前なのに!」

 使者「今回に限り、少々事情が異なっておりましたゆえ」

  響「事情……?」

 使者「はい。姫君は、王位継承の優先権で言うと第一位にあたるお方です」

  響「女王様の候補として、優先順位が一番上、ってこと?」

 使者「その通りです。その分、試練も常と比べると困難なものとなります」

  響「あんたたち……、こんなちっちゃい子にどれだけ要求したら気が済むんだ!?」

 使者「そう申されましても、こちらにはこちらの慣例がございますので」



  響「っ……、もういいよ! それで、たかねの場合が普通とはどう違ったっていうの?」

 使者「単純なことです。姫君の側から、接触を図ってもらう必要がございまして」

  響「接触…… っていったって、たかねが自分から誰かに連絡を取る手段なんて…… ……まさか」

 使者「お気づきになりましたか。こちらで言う『満月』直前の月を、姫君がご覧になることが必要でした」

  響「じゃあ…… この間の晩、たかねが急にしばらく反応しなくなったのって……」

 使者「お察しの通り、その折に我々と交信しておられたためです」

  響「それで、貴音がたかねになっ…… "戻ってる"のがようやくわかって、あんたがのこのこ来たってわけだ」

 使者「ええ。すでに一月近くも経っているとは、さすがに思いませんでしたが」

  響「それで家来とかよく言えるよ! ふつう、心配でいてもたってもいられないんじゃないの!?」

 使者「我々は決め事に従うのみです。仮に姫君が失敗なさったとして、そこまでの器だっただけのこと」



  響「……もうこの際、あんたが本当に月の人で、たかねを連れ戻しに来た、ってのは信じるしかなさそうだぞ」

 使者「それは大変に助かります」

  響「でも…… なら、あんたが、たかねをちゃんと無事に連れて帰ってくれる、って保証は?」

 使者「かえって疑念を抱かせてしまいましたか。しかし、もしも私が姫君に害意を抱く身なら――」フッ


  響(なっ…… き、消え…… っ!?)


 使者「――貴女相手にゆるりと言葉を交わしている必要など、特にないのでございまして」


  響「…… ひっ!?」


  響(い、いつの間に自分の後ろに!? 見えもしなかったし、気配も、全然……!)

 使者「ここまでで『そうした行動』を取っていないこと、それ自体をもって信用していただければ、と」



  響「…… じ、自分のこと、どうにか、するつもり…… なの?」

 使者「申し上げましたでしょう。そうする必要があれば、最初からそのようにしております」

  響「っ……!」

 使者「むしろ貴女には感謝しているのですよ。この一月ほどの間、姫君を保護してくださったのですから」

  響「それ、は…… だって当然でしょ、友達が、困ってたんだから」

 使者「…… なんにせよ、おかげで何事もなく無事に試練が済みましたこと、改めて礼を申し上げます」

  響「あ…… ああ、ごていねいにどうも…… 別に自分、たいしたことはしてないけど」


  響(どうにもペースが狂わされちゃうぞ…… そういう意味では貴音と似てるけど、でも……!)




 使者「それでは、私どもはこれで失礼致します。もうお会いすることもありませんゆえ、ご安心を」

  響「…… 気に入らないぞ、自分。やっぱり、どうしても気に入らない」

 使者「礼ならば申し上げましたし、貴女をどうこうするつもりもございませんが…… 他に何かご不満でも?」

  響「いっぱいあるよ。その中でもいっちばん気に食わないこと、言っていいかな」

 使者「構いませんが、手短に願えますか」

  響「ありがと。じゃあ、教えてほしいんだけど」


  響「ねえ、あんたさ…… なんでたかねに謝らないの?」


 使者「…… はい?」

  響「さっきからずーっと気になってたんだ。自分でおかしいと思わない?」



 使者「私は役目通りお迎えに上がったまでで…… 姫君にお詫びするようなことは、特にないかと思いますが」

  響「…… たぶん、自分、あんたとは一生わかりあえないさー」

 使者「立場も何もかも異なる以上、当然かと。それで、つまり、貴女は何が仰りたいのですか?」

  響「なにが、って……? ホントにまだわかんないのか?」

 使者「ええ。解りかねます」

  響「こん…… っの、ふらー!! あんた、やっぱりどうしようもない大バカだぞ!」

 使者「…… どういうことでしょうか。さすがに聞き捨てなりませんが」

  響「迎えに来たあんたがいまここで、たかねに言わなきゃいけないことなんてひとつだけでしょ!?」




  響「『ずっとひとりぼっちにさせてさびしかったよね、待たせてごめんね』って!!」




  響「お姫様とかの前に、お母さんや、……お父さんと、一緒にいるのが当たり前の年の子なんだよっ!?」

たかね「……!」

  響「よくがんばったねって、もう心配ないよって…… どうして言ってあげられないのさ!!」



 使者「……やはり、貴女の仰ることは、私には理解の及ばないところが多いようです」

  響「自分も、だぞ。たかねの知り合い相手にこんなこと言いたくないけど、わかりたくもないよ!」

 使者「まあ、どうとでもご自由に。それでは、もうよろしいですね?」

  響「……」

たかね「あ、あの……」

 使者「お待たせ致しまして申し訳ございません、姫君。さ、参りましょう」

たかね「…… ……」






 使者「……はて。もうよろしいですね、と、つい今しがた確認させていただいたはずですが」

  響「…………」

 使者「私の袖を、放していただけますか?」



  響「…… 待って……、やっぱり自分、いやだ、これでお別れなんて納得できるわけない!!」

たかね「…… ……ひびき」

 使者「失礼ながら、貴女が得心されるかどうかは私になんら関わりのないことです」

  響「お願い、お願いしますっ、せめて最後にたかねと話をさせて!」

 使者「お断りします。貴女とお会いするのは勿論、ここまで時間を割いたこと自体、特例中の特例のようなもので――」

たかね「……よいのです。すこしのあいだ、はなれていなさい」

 使者「なっ、しかし姫君! この者の振る舞いはあまりにも目に余ります、本来ならば」


たかね「ひかえよ!!」


 使者「!?」

  響「っ、た、たかね……?」

たかね「すこしのあいだ、はなれていなさい、と、わたくしはそうもうしましたよ」

 使者「……っ。仰せの、通りに」




たかね「おおきなこえをだして、ごめんなさい、ひびき。あちらで、おはなししましょう」



たかね「…… あのもののことを、わるくおもわないであげてくださいね」

  響「う、うん。まあ実際、無理言ってるの、たぶん、自分のほう、なんだし……」

たかね「きっと、なれないばしょで、きんちょうしているのですよ。ふふ、いつぞやのねこさんのようです」




  響「…… たかね、ホントに、お姫様だったんだね」

たかね「はい…… しかし! ほんとうにおぼえていなかったのです。それはどうか、しんじてください」

  響「そこはもう疑ってないよ。たかねが最初から覚えてたら、隠しとけるわけないもんね」

たかね「む。どういういみです?」

  響「だって…… 自分にばれずに隠し事なんて、たかねはできないでしょ?」

たかね「そっ、そんなことはありません! わたくしのえんぎをもってすれば!」

  響「よく言うよ。サーターアンダギーつまみ食いしてたのとか、バレバレだったのに」

たかね「う…… ……ふふっ。たしかに、そのとおりですね」



  響「それより、ねえ、たかね…… ……ホントに、もう月に、"くに"に帰っちゃっていいの?」

たかね「……」

  響「あと5日もしたら、前に教えてあげた鏡開きだぞ。おぜんざいも、おしるこも、まだ食べてないでしょ」

たかね「そうでした…… きっと、ひびきがつくってくれたら、びみなのでしょうね」

  響「そうだよ、甘くて、あつあつでさ…… 食べたかったら、両方作ってあげたっていいし」

たかね「…… くすっ…… かがみもちだけでは、たりなくなってしまいそうです……」

  響「事務所のみんなにもお別れのあいさつ、していこうよ」

たかね「ええ、したかったですね…… これほど、きゅうなはなしでなければよかったのに」

  響「確かに急だけど、きっとみんなわかってくれるよ。自分もいっしょについてってあげるからさぁ!」

たかね「…… ひびきは、ほんとうに、やさしいですね」



  響「自分の家族だっているぞ! 今日のおでかけが実は最後だったなんて、みんな絶対さびしがるって!」

たかね「でも、おわかれをいうためだけにもういちどあうのも…… きっと、さびしいです」

  響「それ、は…… そうかもしれないけど、だけど……!」




  響「それにさ…… そうだ、たかね、まだお年玉のきっぷだって1枚も使ってないじゃないか!」

たかね「ああ、それについてはまこと、おしいことをしてしまいました」

  響「今からだって使えばいいよ! なんだったら、毎週2個くらいまでは食べたって――」

たかね「とてもみりょくてきな、ていあんですが…… それは、わたくし、おことわりいたしましょう」

  響「どうして!? たかねは立派な淑女なんだから、カップ麺のひとつやふたつ!」

たかね「ひびきとの、たいせつな、おやくそくです。わたくしのいままでのがまんを、むだにするのですか?」



  響「なんで…… なんでこんなときだけそんなに物分かりがいいんだよ、たかね!」

たかね「……わたくしも、わからないのです。なぜでしょうね……」

  響「無理にいい子ぶらなくていいから…… 自分に今までさんざん言ったみたいに、わがまま言いなよ!」

たかね「…… ふふっ…… これは、こまってしまいました」

  響「なにがさ!?」

たかね「いままで、ひびきに、たくさんわがままをきいてもらったから…… もう、おもいつかないのです」

  響「…… ねえ、やだよぅ…… たかね、行かないで、もっと自分にわがまま言ってよ……」

たかね「ふふ…… あべこべではありませんか、ひびきが、わがままをいって、どうするのですか……」

  響「あべこべでいい、わがままだって言うよ、たかねがいなくなるなんて自分絶対やだ、だから――」






 使者「さて。そろそろよろしいですか、姫君」グイ

たかね「あっ……!」




  響「そんな! ちょっと待ってよ、まだ話は―― っ!?」ガクッ


  響(な、なん……、で、こんな…… 急に、眠気が…… っ……!?)


  響(…… だ、めだぞ…… ここ、で、……寝ちゃ、っ、たら! たかね、と―― にど、と…… ……)








  響「……」

たかね「ほんとうに…… ぶじなのですか? ねむるだけ、なのですね?」

 使者「はい。時間が来れば、問題なくお目覚めになります」

たかね「ここはとてもさむいです。ひびきが、かぜをひいてしまいませんか?」

 使者「ご心配なく。目を覚まされるまで、危険がないよう、監視および温度の調節を行います」

たかね「……そう、ですか。それなら、だいじょうぶ、ですね」



 使者「さあ、もう十分でしょう、姫君。参りますよ」

たかね「あの…… まってください、さいごに、いますこしだけ」タタッ

 使者「……! 姫君、どちらへ?」

たかね「きてはなりません!!」

 使者「!」

たかね「すぐです。すぐにもどります。ですから、あとほんの、ひとときだけ」

 使者「…… やれやれ。お気の済みますように」






  響「……」

たかね「ひびき。これで、おわかれです」

たかね「いままで、わたくしも、ほんとうにたのしかったですよ」





たかね「……ひびきは、いつも、わたくしのあたまを、なでていましたね」


たかね「わたくしがとめてもきかず、それはもう、すきなように、わしわしと……」


たかね「じつはわたくし、ずうっと、ひびきにしかえしをするきかいをねらっていたのです!」


たかね「しかし、てがとどきそうにないので、あきらめていましたが……」


たかね「ふふふ…… ねているいまならば、わたくしでも、かんたんにさわれます」


たかね「かくごしなさい、ひびき。いままでのぶんの、おかえしですよ。ふふふふ……!!」







たかね「おお…… これが、ひびきのあたまのてざわりですか。これは、なかなか」


たかね「ふふふ。はるかにせのちいさいわたくしからなでまわされるとは、いいきみです!」




たかね「さきほど、わたくしが、ひびきにはかくしごとをできない、といいましたね」


たかね「それはほんとうですが…… わたくし、ひとつだけ、ひびきをだましおおせましたよ」


たかね「この、よっかかん…… ひびきと、おわかれせねばならぬと、しってから……」


たかね「そのことを、ひびきにけどられぬよう、わたくしはひっしでした」


たかね「どうです? ひびき、きづいていなかったでしょう? ……ふふっ、わたくしのかちです!」







たかね「それにしても……、ほんとうに、ひびきのかみは、くろくて、ゆたかで…… つのも、はえていて……」


たかね「……っ、つやつや、と、していて…… ふれて、いて、とても…… ここちがよい、ですね……」


たかね「これが…… さいご、ですから…… っ、いますこし、いま、すこし、だけ……」






たかね「…… ごめんなさい、ひびき。ちゃんと、さよならを、いえなくて、ごめんなさい」


たかね「どうか…… わたくしのことは、わすれてください」


たかね「わたくしが、ひびきをおぼえていれば…… それで、いいのです」












たかね「……じかんをとらせました。まいりましょう」

 使者「ご随意に」

たかね「もう、てはずはととのったのですか?」

 使者「万端です。もっとも難儀するであろうこの方には無事お休み頂きましたので、あとは順次」

たかね「ひびきも、ほかのみなにも…… くれぐれも、きけんなど、ないようにしてください」

 使者「もちろんでございます、姫君。すべて心得ておりますので、ご安心を」

たかね「ならば、よいのです」




















  響「…… ん、ううん……」




  響「んんー……? う、うわっ!?」


  響「寝て…… たのか、自分。ううー、それにしても寒いぞぉ……」

  響「…… ちょっと、だいたいここ、どこ!? 丘…… っていうか、山っていうか……?」

  響「あっ! そ、そうだ、スマホで見てみたらわかるかも!」ゴソゴソ

  響「えっと…… って、うぎゃー! もう真夜中じゃないか!? と、とりあえず、今は場所を……」

  響「うわー、うちから結構遠いなあ…… まあ、歩いて帰れない距離じゃなさそうだけど」

  響「ああもう、なんでこんなとこにいるんだ自分!? あのまま寝てたら凍え死んじゃってもおかしくないぞ!」

  響「とりあえず、そんなことより今は早く帰らなきゃ。明日にも差支えちゃう」














  響「……あ」

  響「今日、満月なんだ…… ここから見るお月様、すごく、きれいだなぁ……」




  響「は……っ、 くしゅんっ! …… ああ寒いぃ、風邪ひいてないといいけど……!」




















【"As Usual"】

ガチャ

  響「はいさーい、おっはよーっ!」

 小鳥「あら、おはよう、響ちゃん。今日はずいぶん早いわね」

  響「う…… うん。実は昨日の夜、あんまり寝られなくって……」

 小鳥「そうなの? まだまだ毎日寒いんだし、あんまり無理したらだめよ」

  響「ありがと、ピヨ子。でも自分カンペキだから、このくらいへっちゃらさー!」

 小鳥「ふふ、そうよね、響ちゃんなら大丈夫よね」



 小鳥「あら、そういえば…… 今朝は響ちゃん、一人なの?」



  響「えっ? うん、そうだぞ、特に誰とも一緒にならなかったもん。どうして?」

 小鳥「…… あれ? なんでわたし、わざわざこんなこと聞いたのかしら……」

  響「もー、自分みたいにカンペキになれとは言わないけどさ、しっかりしてよピヨ子ぉ」







   P「よーし、みんな揃ったなー? それじゃあミーティング始めるぞー」

   P「今日は…… スケジュール見ての通り、だいたいみんなレッスンとレコーディングだな」

   P「まず春香、真美、それに雪歩。午前中にボーカルレッスンだからすぐ移動な、遅れないように」

   P「あずささんと千早はスタジオでレコーディングだ。千早、あずささんの先導頼むぞ」

   P「伊織と亜美は…… と、そうか、雑誌取材だったな、ちゃんと律子の指示に従えよー」

   P「真に響、美希、それとやよいは、ダンススタジオでレッスン。俺が車で送ってく」




   P「えーと、とりあえずは以上だけど…… なんか確認しときたいこととか、あるか?」

   P「大丈夫そうだな。じゃあ、765プロ全員、今日も一日しっかり頑張ろう!」

 一同「「「「「「「「「「「「はーいっ!」」」」」」」」」」」」


◆◆◆◆◆

【Waning Gibbous / 15.8】

  響(……ん、 ……あー、朝かぁ)

  響(そうだ、もう学校始まるんだったぞ。ぐずぐずしてらんない)

  響(でも…… 寒いし、まだ時間は余裕あるし…… もうちょっと、あと5分だけ――)

いぬ美「ばうっ!」

  響「うわ、わわぁっ!? ……あー、いぬ美、ありがと。おかげで目が覚めたよ」

いぬ美「くぅーん……」

  響「あはは、大丈夫だってば。すぐ朝ご飯作るからね、ちょっと待っ……」


  響「……え? いぬ美、ごめん、もう一回言って?」


  響「あの、子……? はどこだ、って…… 待って待って、なんの話?」


  響「へ、変な冗談やめてよ、もう…… いくらカンペキでも自分、そういうの得意じゃないんだから」




【双海亜美&双海真美の場合:2】

 真美「ねーえ、亜ー美ー」

 亜美「なーにさー」

 真美「ヒマー。ヒーマーだーよーぉ」

 亜美「だねぃ…… にーちゃん、早く帰ってきてくんなきゃ、亜美たち待ちボケ殺しだよー」

 真美「あーあー。どーせレッスンまで待っとかなきゃだし…… ひと狩りしとこっか?」

 亜美「いやいやいやそれはダメっしょ。亜美たち、事務所じゃハンターはいぎょーって決めたじゃん!」

 真美「あっ……、そーだったそーだった! いやー、へへへ、うっかりうっかり……」




 真美「…… ありっ? ねえ、真美たち、どうしてモンハンやんないことにしたんだっけ?」

 亜美「何言ってんの真美、そりゃ…… ……えっ、と? あれっ、なんでだったっけ……」



 真美「あ、それはそーとさ、亜美?」

 亜美「なんだい、どしたい真美さんや」

 真美「これ、マシンセッティングさぁ、変えるのはいーけど、ちゃんと戻しといてよねー」

 亜美「は?」

 真美「トボけたってムダだよー? どーしてこんな初心者向けなのかは知んないけど」

 亜美「え、ちょっと待ってってば。最近、亜美はマリカーさわってもないよ?」

 真美「真美も久々だったから、すぐには気づかなかったYO…… ああ、別に怒ってるわけじゃないから」

 亜美「いやいやいや! 勝手に亜美が変えたことにしないでよ、知らないって!」

 真美「オージョー際が悪いよん、亜美ー。次から気をつけてくれればそれでいい……」

 亜美「違うよ! 亜美がこだわってるのはそこじゃないってば!!」

 真美「もー、なんなのさ、しつっこいなぁ……」



【Waning Gibbous / 16.2】

  響「まーったく、プロデューサーもいいかげんさー。レッスンの終了時間、勘違いするなんて」

  響「時間潰しといてくれ、って言われてもなぁ…… 落ち着いて、座れるようなとこ……」

  響「……あ! ちょうどいいところに!」




  響(どれにしよう。レッスンでちょっとくたびれてるし、甘いの飲みたいなー)

  響「えっと、じゃあ、このココアで」

  響「…… あの、ごめんなさい、やっぱり変えていいですか?」

  響「こっちのキャラメルマキアートにします。レギュラーサイズで!」

  響「えっ? セットのほうがお得? んーと…… それじゃあ、スコーンもください」

  響(……ここのお代くらい、あとでおごってもらってもバチはあたんないよね? くふふ)



【如月千早の場合:2】

 千早「…… ~♪ …… ♪ ♪」カリカリ

 千早「~♪ …… ~♪」ペラ カリカリカリ




ガチャ

 真美「ひゃーっ、たっだいまーっ!!」

 亜美「ううう…… なんで傘もってない日に限って雨なんかーっ! あ”ー、さぶいぃー……」

 千早「ああ、お帰りなさい、二人とも。エアコンの温度、ちょっと上げる?」

 真美「女神だ…… 千早お姉ちゃんマジ女神!」

 亜美「ぜひ、ぜひともおねげーします!」





 真美「あれっ? ねえねえ千早お姉ちゃん、なんで楽譜にわざわざドレミなんか書いてんの?」


 千早「…… ……えっ?」


 亜美「ホントだー。どしたのさ、千早おねーちゃんなら音符読むのなんかアホの子はいさいでしょ?」

 千早「あほの……? ひょっとして、お茶の子さいさい、かしら?」

 亜美「えへへ、うん、それそれ!」

 真美「あー、亜美ってば、今のひびきんに聞かれたらメッチャ怒られちゃうYo」

 千早「もう…… スマホやゲームもいいけれど、たまには本も読まなくちゃだめよ」




 千早(…… でも確かに、私、どうしてこんなことを……?)



【Waning Gibbous / 16.4】

  響「そうだ、たまには違うルート通って帰ってみようかな。なにか新発見があるかも!」




  響「お! こんなとこにケーキ屋さんあったんだ、知らなかったぞ」

  響「うわー、どれもきらきらしてて…… 全部おいしそうだなー、目移りしちゃう」

  響「春香はここのお店、知ってるかな。今度教えてあげよっと」




  響「…… はっ、この匂い! これ、間違いなくラーメン屋さん……」

  響「ああ、ダメだー、ただでさえ寒い上、おなか空いてるときにこれ嗅いじゃったらダメだぞー……」

  響「今月はそんなにお金使ってないし…… うん、たまにはいいよね!」


 < イラッシャイマセー













【Waning Gibbous / 18.8】

  響「みんな、おはよー。ごはんできてるぞー、おいでー」

  響「はいはい、まだ、まだだぞー? 食べるのは全員にちゃんと行き渡ってからね」




  響「ふーっ。お正月気分もずいぶん抜けてきたなー」

  響「お飾りもそろそろ撤収しないと。……ああ、それに、そういえば今日って」

  響「んー、朝からそこまで甘いの食べたいわけでもないし。帰ってきてからにしよう」

  響「というか…… ひとりでおぜんざいとかお汁粉とかって、なんかわびしい気がするぞ」

  響「だいたい自分、いつもはそこまで準備しないのに。なんで今年はこれ買ったんだっけ……?」

  響「まあ、あるものは仕方ないよね。事務所で誰か、誘ってみようかな」



【菊地真の場合:2】

  真「さーてっ、今日もいつものコース行ってこようっと!」

 美希「こんなに寒いのにお外でランニングなんて、真くん、ホントに元気だね……」

  真「トレーニングは毎日欠かさないのが基本なんだよ。たまには美希もいっしょにどう?」

 美希「ヤなの。ミキ、毎日かかさずソファで寝なくちゃ死んじゃうもん」ボフ

  真「それなら、ひとっ走りしてから寝てみたら? きっといつも以上に気持ちいいよ!」

 美希「うーん…… そんなこと、しなくても…… 気持ち…… いい、から、だいじょーぶ……」




  真「…… まーた話してるうちに寝ちゃうんだから。これってもう才能だよ」

  真「いくら暖房きいてても、このままはちょっと…… タオルケット、どこかなぁ?」




  真「じゃあボクは…… っと、出かける前に、ちゃんと持つもの持ったっけ?」


  真「えーっと。タオルよーし、お金よーし、iPodよーし、飲み物よ……」


  真「…… あれー、おっかしいなぁ。なんでボク、アクエリなんか持ってきちゃったんだろ」


  真「これ、甘すぎるんだよねー…… ランニングで飲んでたら、すぐお腹たぽんたぽんになっちゃうし」


  真「……まあ、でもいつも水ってのもあれだし、たまにはいいかな?」


  真「よおーしっ、改めてしゅっぱーつ! いってきまーす!」




【萩原雪歩の場合:2】

 雪歩「さてと。今日もみんなのぶんのお茶、おいしく淹れられますように……」

ガチャ

 雪歩「はうぅ!?」




 伊織「ちょっと、今の声なに!? なにかあったの!?」

 雪歩「……えっ、な、なにこれ? どうして、こんなにたくさん……!?」

 伊織「雪歩? どうしたの、お茶がなんだっていうの?」

 雪歩「い、伊織ちゃん! 伊織ちゃん、お家からお茶っ葉持ってきてくれたりした!?」

 伊織「…… はぁ?」

 雪歩「だって、だってほら、給湯室のストックがいつの間にかこんなにいっぱいぃ!!」



 伊織「え……? いや、わたしは何もしてないわよ」

 雪歩「ええっ、そしたら…… わ、わたしが買ってきたんだっけ? うう、覚えがないよぅ……」

 伊織「そもそもここ、雪歩の聖域じゃない。誰も勝手に手を加えたりしないと思うけど」

 雪歩「そ、そうかな、うん、そうかも……?」




 雪歩「ああ、しかもこれ全部、ちょっとだけしか使った跡がないよ…… なんてもったいない!」

 伊織「ふーん。ねえ、これ、似てるように見えるけど全部違うやつ?」

 雪歩「そうだよ。せっかくだから今度みんながいる時に、飲み比べとか、してもらおうかなぁ」

 伊織「ああ、いいんじゃない? 普通はなかなかそんな機会ないもの」

 雪歩「うーん、でもでも、わたしの淹れ方のせいで、味がわかってもらえなかったりしたら……」



【Waning Gibbous / 19.3】




  響「んっ? なんだろ、これ」

  響「……あ、そっか。飾りつけの余り、せっかくだからってもらって帰ったんだった」

  響「自分でもらって貼っといて、自分で忘れてたら世話はないなー」

  響「クリスマスどころかもうお正月も過ぎちゃったし、固まっても困るし、はがしとこうっと」




  響「…… しっかし、これ、なんでこんな低いところに貼ったんだっけ?」




  響「うわっ、しかも噛んだあとまで! どうせねこ吉かブタ太あたりだろ、ほんとにもー……」












【天海春香の場合:2】

 春香「よーっし、時間ぴったり! さてさて、本日のマドレーヌはっと……」

 春香「どれどれー? ……わぁ、ばっちりきれいなきつね色っ♪」

 春香「でもお菓子って、見た目だけじゃダメだもんね。かんじんのお味はどうでしょうか!」




 春香「えへへ、焼きあがってすぐのお味見は、お菓子を作るひとだけの特権だよねー」

 春香「それじゃ、早速…… いただきまーす」

 春香「……んん! おおー! 我ながらこれはいい感じですよ、いい感じっ!」

 春香「よしよしっと。うち用のは別にして、今日の事務所のおやつ用にラッピングしよっ」







 春香「…… あれれ? おかしいなぁ…… やだなあ、わたしってホントにドジだなぁ」

 春香「なんか自信なくなってきちゃった、念のためもう一回、確認してみよっと」

 春香「千早ちゃんでしょ、あずささんでしょ、それに律子さん、伊織、亜美と真美」

 春香「真、雪歩、やよい、美希、響ちゃん、そして、わたし。うん、12人、誰も忘れてない」

 春香「それからプロデューサーさん、小鳥さん、社長で…… みんな合わせて15人。間違いないよね」




 春香「……なのに、なんでわたし、16人分作っちゃったんだろう?」




【Waning Gibbous / 19.8】

  響「よく晴れてるなー! 冬の朝は空気が澄んでる感じで気持ちいいさー」

  響「…… うぅー、しかし、つめた……! やっぱりホームは風がモロに来るからきっついぞー……」

  響「これ着ててまだ寒いってなんなのさー、もー! うちなーじゃこんなの、絶対いらないのに」

  響「だぼだぼな分、ちょっと子供っぽい感じもするけど…… 背に腹はかえられないや」

  響「それにしても、生地がもったいないなぁ。余裕ありすぎっていうか」

  響「ちっちゃい子一人くらいなら一緒に入れちゃいそう。そしたらきっと、あったかいだろうなー」

  響「…… なーんて。そんなの、まだまだずーっと先の話だよね」




  響「あっ、よかった、電車、時間通りだ。はーっ、やっと少しはマシになる!」



【Waning Gibbous / 19.9】

  響「お、もう明るいのに…… そっか、そろそろ下弦の月だっけ」

  響「夜空の月はもちろんきれいだけど、青空に月っていうのもいいよね」

  響「太陽と月がいっしょの空で見えるなんて、よくよく考えたら不思議っていうか」

  響「ふつうは対照的だけど、コンビにしたらそれはそれで――」




  響「……ん?」

  響「下弦の、月……? なんでそんな名前、急に出てきたんだろ」

  響「確かに習ったはずだけど、今見えてるあれ、それで合ってるんだっけ……」

  響「今度誰かに聞いてみようっと。律子…… それか、あずささんも占いつながりで詳しいかな?」












【Last Quarter / 21.8】

  響「よしっ、きょうもいい天気。傘はなくても大丈夫そう!」

  響「…… それはいいんだけど、この窓一面の結露。これ、なんとかなんないかなぁ」

  響「暖房入れる以上は仕方ないけど、なんかすっきりしないぞ」




  響「……」スッ


  響「…… うひゃっ、つ、つめたっ!?」




  響「もう、何やってるんだ、自分…… 窓にお絵かきなんて年でもないのにさ」



【高槻やよいの場合:2】

やよい「あっ、真さん! おはようございまーすっ!」

  真「おはよっ、やよい。そうだ、いつものあれ、やってくれる?」

やよい「! わかりましたっ! じゃあ、行きますよー?」

  真「よーし、思いっきり頼むよっ」

やよい「はい! せーのっ、はいたーっ――」

  真「いえ……」

やよい「………… あれっ……?」

  真「……っっとぉ!? ちょっとちょっと、やよい、なんで途中でやめちゃうの?」

やよい「え? …… あ、あっ、ご、ごめんなさい真さん! 大丈夫でしたか!?」

  真「うん、思いっきり空振りしただけだよ、あははは……」



やよい「…… 真さん。ちょっとだけ、ヘンなことお願いしてもいいですか?」

  真「変なこと? なーに?」

やよい「ハイタッチするときに、しゃがんでほしいんです」

  真「えっ? ……ん、んん、ええ? ボクがしゃがんだらそれ、ハイタッチにならなくない?」

やよい「あのっ、一回! 一回だけでいいんですっ、お願いします!」

  真「いやまあ、ボクのほうは別になんの苦労もないけどさ」




  真「えーと、そしたら……、よっと。こんな感じ?」グッ

やよい「あっ…… それ、その高さですー! ありがとうございます真さん! 今度こそ、いきますよっ」

  真「あはは、やっぱりこれじゃ低すぎて、やよいもちょっとかがみ気味じゃない」


   「「はいたーっち! いえい!」」パンッ




【Last Quarter / 22.4】


  響「うわっ、これ…… ちょっとねこ吉! またオウ助にちょっかい出したな!?」


  響「言い訳しない! こんなに羽とか毛とかが散らばってて、自分にばれないとでも思ったの?」


  響「ああもう、今からだと掃除機かけるには微妙な時間だぞ…… ん、そうだ!」




  響「あったあった、コロコロ。ちゃんとこういう時にも備えてる自分って、やっぱりカン……」

  響「…… あれっ、これ、開けてからそんなに経ってないよね?」

  響「残りがずいぶん少ないなぁ…… 今までしまいこんでたし、大して使ってないはずなのに」

  響「まあ、いいか。次の買い物のとき、買うの忘れないようにしとかなくちゃ」












【Waning Crescent / 22.8】

  響「この時間なら十分間に合うな、よしよし…… ん?」

  響「おっ……? キミ、このへんじゃ見かけない子だね。おっはよ!」

  響「そんなに緊張しないでよ。ねえねえ、キミはどのへんから来――」

  響「…… えっ、ごめん、そうだっけ……? 前にも会ってたっけ? ど忘れかなあ」

  響「前のときに、一緒にいた…… ちっこいの? ちっこいの、って…… 子猫とか?」




  響「じゃあ、自分はそろそろ学校に行かなくちゃ。呼び止めてごめんねー」

  響「あ、待って、そっちはやめといたほうがいいよ。このあたりのボス猫の縄張りが……」

  響「それも聞いた……? そっか、ならいいんだ、何度もごめん」



【秋月律子の場合:2】


 律子「……」カタカタカタカタ


 律子「…… ……ふぅっ。あとは細かいところ詰めたらオッケー、かな」


 律子「よし、もうひと頑張り…… と、その前に……」ゴソゴソ






 亜美「ねーえー、律っちゃーん」

 真美「軍そ…… 律っちゃんどのぉー」

 律子「…… ふぁによ」カタカタカタカタ



 真美「真美たち、ヒマでしょーがないんだけどー…… って」

 亜美「あれれ、なに今の? 律っちゃん、今日カツゼツすっごい悪くない?」

 律子「ひょうろいいわ、これあふぇるから、おとなひくひてなさい」コロン

 真美「えっ? おおっ、キャンディだー!」

 亜美「これ亜美たちがもらっちゃっていいのー? わーい!」

 律子「わたひ…… ん、ん、こほん。私の好みで選んでるから、味の文句は受け付けないわよ」

 亜美「ぜんぜんいーよ! あんがとー律っちゃん!」
 
 真美「…… でもさー、なんか意外ってゆーか、めずらちーね」

 亜美「だよねー、お仕事しながら律っちゃんがお菓子食べてるなんてさー」

 律子「べ、別に、それくらいいいでしょ? 最近、飴舐めてる方がはかどるのよ」



【星井美希の場合:2】

 律子「……」ペラッ

 小鳥「……」カタカタカタ ターンッ

ガチャ

 美希「ねえ小鳥、律子…… さん」

 律子「あんた、寝てたんじゃなかったの。どうしたのよ」ペラッ

 小鳥「あら美希ちゃん、何かあった?」カタカタカタカタ

 美希「ミキね、眠れないの」

 律子「ああ、そう」ペラ

 小鳥「へえー、珍し」カタカタカ




 律子「なんっですって!?」ガタタッ

 小鳥「み、美希ちゃんがおかしくなった!」ガタッ

 美希「ちょっ…… な、なんなのなの、二人して」



 律子「美希あんた、熱でもあるんじゃないでしょうね」

 小鳥「だ、大丈夫なの? 病院にはもう行った?」

 美希「ミキのこといったいなんだと思ってるの!? いまいち寝つけないだけなのー!」

 律子「あんたが眠れないなんて異常事態以外のなにものでもないわよ……」

 美希「むー…… あ、ねえねえ小鳥、抱き枕みたいなものってなーい?」

 律子「あのねえ、毎度のことだけど、あんたこそ事務所をなんだと思ってるの?」

 小鳥「うーん、タオルケットくらいしかないわね…… これ、丸めたらかわりにならないかしら」

 律子「小鳥さんも! そんなに甘やかしてやらなくていいんですよ!」

 美希「んー…… もっとあったかくて、もふもふしてて、ぎゅってできるくらいのサイズのがいいな」

 小鳥「ああ、そうなるとちょっと難しいかなぁ……」

 律子「だいたいあんた、今までそんなのなくてもぐーすか寝てたじゃない」

 美希「そのハズ、なんだけど…… なーんか、物足りないの」



【Waning Crescent / 23.4】


  響「…………」カリカリカリ


  響「……」カリカリ ペラッ


  響「…… ……あ、違った。こっちか」


  響「…… ……」カリカリ


  響「…………」ペラ カリカリカリ




  響「…… ふーっ。でーきたっ!」


  響「今日はなんだかいつもより集中できた気がするなー。なんでだろ?」


  響「ああ、そっか、誰も邪魔しに来なかったからか! いぬ美、ねこ吉も、ありがとね」












【Waning Crescent / 24.8】

  響「さてと、忘れ物はしてないよね? よし、大丈夫……」

  響「……あー! 透明ピアスつけてなかったぞ、危ない危ない」




  響「よーし、今度こそばっちり…… って」

  響「…… ……? あれ、自分、こんなイヤリング買ったっけ……」

  響「記憶にないぞ…… これ、誰かうちに来たときに忘れて帰ったんだったかな?」

  響「銀の、三日月かー。デザイン的には…… シンプルだし、伊織か千早あたりが好きそう」

  響「でも付けてるの見た記憶はないし、置いてったら自分に聞くだろうし……」

  響「うーん。今度事務所で、みんなに確に…… って、うぎゃー! 時間ーっ!!」



【水瀬伊織の場合:2】

 伊織「…… どう考えても、おかしいわ。いったい誰が……」

やよい「あれっ、伊織ちゃん? 冷蔵庫になにか探しもの?」

 伊織「えっ?」

やよい「えーっと、用事が済んだなら、扉は早めに閉めたほうがいいかなー、って」

 伊織「あ…… ああ、そうね、うっかりしてたわ、ごめんなさい」




やよい「それで、どうしたの? 伊織ちゃん、なにか困ったことでもあったの?」

 伊織「…… 誰にも言わないでくれる?」

やよい「ええっ、そんな大変なこと……!? う、うん、わかった、わたし、約束する」

 伊織「実は…… オレンジジュースが、減ってるの」

やよい「えっ?」

 伊織「名前書いたびんに入れて、勝手に飲むな、って注意書きまでしてるのに!」



やよい「でも、みんな伊織ちゃんがオレンジジュース大事にしてることは知ってるし、そんなこと……」

 伊織「だから悩んでるんじゃないの…… まさか、プロデューサー……?」

やよい「そんな、それこそありえないよ。プロデューサーは黙ってそんなことしないよ!」

 伊織「わ、わかってるわよ。言ってみただけ」

やよい「うーん、でもたしかに、どうして少なくなっちゃったんだろう……」

 伊織「……わたしが自分で、無意識に飲んだのかしら」

やよい「それはちょっと無理があるんじゃないかなぁ、伊織ちゃん」

 伊織「疲れてたりで記憶にない、とか…… あるいは、誰かに分けてあげたのを覚えてないとか」

やよい「ひょっとして、そういう心あたりがあるの?」

 伊織「ぜんぜん。そうとでも考えないと、この状況に説明がつかないってだけよ」



【Waning Crescent / 25.5】


  響「…… んー。なんか、寒いなぁ」


  響「あれ、なあに、ねこ吉。どうしたの?」


  響「…… いや、これはこの順番でいいの。毛布を上にかけたほうがあったかいんだよ」


  響「なんででも! ふとんの上に毛布ってしたほうが熱が逃げないんだぞ!」




  響「そのはず、なのに、どうしても、なんか寒い感じがするぞ……」


  響「…… 誰かいっしょにいてくれたら、この寒いの、少しはマシになるのかなぁ」


  響「って、うぎゃー!? じ、自分のバカ、なに考えてるんだ!?」


  響「ああもう、ねこ吉でいいよ、おいで…… って、どうしてそこで出て行っちゃうのさー!」












【Waning Crescent / 25.8】


<  『そして今日最も悪い運勢なのは、ごめんなさーい、てんびん座のあなた!』


  響「うがっ…… 今日の自分、ワースト!?」

  響「いやまあ、別に本気で信じてはいないけど、朝からこれだとテンション下がっちゃうぞ……」


<  『でも大丈夫! そんなてんびん座のツキを回復させるラッキーパーソンは「最近会ってない人」!』


  響「最近会ってない友達、かぁ…… うちなーのみんな、元気にしてるかな」

  響「でもこれ、ラッキーパーソンって、つまりはその人に会えってことだよね?」

  響「しばらくぶりの人にばったり会えるなら、それ自体がラッキーなことなんじゃ……」

  響「……ま、どうでもいいか。さっさと準備しなくっちゃ」



【三浦あずさの場合:2】


あずさ「…… ふむふむ?」


あずさ「えーっと、ああ、でも、そうねえ、それなら……」


あずさ「じゃあ最後は…… さあて。何が出るかしら~、っと!」


あずさ「…… ……あら? 今度も、まただわ」




 雪歩「あっ、あずささん、タロットですか。いい運勢でした?」

あずさ「ああ雪歩ちゃん、おかえりなさい。それが、ちょっと変なのよねぇ」



 雪歩「ヘン? そういえばあずささん、すっごく難しい顔してましたね」

あずさ「ええ。レッスンの時間まで、ちょっと暇つぶし程度のつもりで始めたんだけど……」

 雪歩「…… ま、まさか、すごく悪い結果が出ちゃったとかですかぁ!?」

あずさ「ううん、そんなことじゃないの。むしろ運勢自体は好調そう♪」

 雪歩「そ、そうですか? よかった…… ほっとしました」

あずさ「ただ…… さっきから、何度やってもおんなじカードが必ずどこかに出るのよね~」

 雪歩「それって、やっぱり珍しいことなんですか」

あずさ「そうね、78枚もあるのに毎回、ってなると、ちょっと気になっちゃうかも」

 雪歩「へえ…… ちなみに、よく出るのはどのカードなんですか?」

あずさ「『月』と『太陽』の2枚。う~ん…… 不思議ねぇ。もう一度、やってみようかしら」



【Waning Crescent / 26.1】

ガタンゴトン

  響「ぁーっ、くたびれたぞ…… でも、レコーティング、大変だったけどいい感じ!」

  響「事務所戻ったら次は即ダンスレッスンだっけ。急がなくちゃね」


   「ねえ、おかーさん、しりとりしたい!」

   「いいわよ、ふふっ、ほんとに好きなのねぇ。じゃあ、――ちゃんからスタートよ」

   「よーし、それじゃあ…… しりとりの"り"!」

   「り、ね? そうね…… さっきいっしょに買った、"りんご"」

   「ご、ご…… うーんと、あっ、あった! "ごみばこ"!」


  響「……子供って、なんであんなにしりとりが好きなのかな?」


   「何にしようかしら。"こ"で始まることば、たくさんあるし……」


  響「しりとり、かぁ…… 最後に自分が真剣にやったのって、いつだったかなぁ」



【音無小鳥の場合:2】

 小鳥「…… なんだか、そろそろ降り出しそうですね」

 高木「ん? ああ、確かにね。予報では午後もせいぜい曇りと言っていたはずだが」

 小鳥「にわか雨で済めばいいんですけどね。けっこう冷えてますし」

 高木「まったくだ。音無君は傘の用意はあるのかね?」

 小鳥「わたしより社長、みんなの方が心配なんです。今日はほぼ全員、現場の移動がありますから」

 高木「ああ…… いかん、アイドル諸君のことにまで頭が回っていなかった」

 小鳥「一応、傘のストックはあるので、事務所に寄って帰る子たちのフォローはできると思うんですけど」




 小鳥「…… あー、やっぱり。響ちゃんと真ちゃん、それに伊織ちゃん、今日は直帰だわ」

 高木「ふうむ…… 彼女たちが傘を持っていてくれることを祈りたいものだ」



 小鳥「伊織ちゃんには新堂さんがいらっしゃるので大丈夫でしょう。問題はあとの二人ですね……」

 高木「……音無君は、まるでアイドル諸君の母のような存在だな」

 小鳥「はは? 母…… え、ええっ、急になに言い出すんですか社長!」

 高木「いや、変な含みはないよ。君は本当に、皆のことを娘のように思っているのだな、と、今更感じたまでだ」

 小鳥「そんな、大げさですよ、わたしにできることはしてあげたいな、ってだけです。それに」

 高木「それに?」

 小鳥「一番年下の亜美ちゃん真美ちゃんだって、わたしの娘としてはまだまだ大きすぎますっ!」

 高木「ははは、確かにその通りだね。幼児、せいぜいが幼稚園生くらいなら――」

 小鳥「社長?」ギロッ

 高木「……と、すまない。軽口が過ぎたようだ」

 小鳥「ホントですよ、もうっ」




















【我那覇響の場合】

  響「うひゃーっ、思いっきり降られちゃった…… みんなー、ただいまー!」

  響「おー、よしよし、ちょっとだけ待っててね。すぐ着替えないと自分、風邪引いちゃう」




  響「さて…… と、みんなお待たせ。はいっ、じゃ、食べていいよーっ!」

  響「あとは自分の分だな。ううー、おなかすいた……」

  響「でもなー、外すっごく寒かったし、まだ雨はひどいし。買い物に行くの、めんどくさいなぁ……」

  響「帰りにスーパーでも寄っとくんだったぞ…… 冷蔵庫になんか残ってないかなー?」

  響「……あっ! よかった、卵がまだあった! 今日はこれでなんとかなる!」

  響「何つくろっかなー…… お腹空いてるし、ちゃちゃっとできる炒り卵にでもしようっと」




  響「2個でいいかな…… いや、今日は豪勢に3ついっちゃおう!」


  響「あ、バターも少なくなってる。今度買ってくるの忘れないようにしなきゃ」




  響「固まりすぎないように、火を通しすぎないように、外から中に、寄せる感じで……」


  響「まだ、ちょっとだけ、やわらかすぎる、かなー? ……ってタイミングですぐお皿にあける!」


  響「…… よしよし、いい感じにとろっとろのふわふわさー。ふふふ、我ながらカンペキっ!」


  響「生クリームあったらもっとふわっとするんだけどなー、今日は牛乳でがまんだぞ」


  響「この前作った時は自分でも最高の出来だったもん、   だってあんなに大喜びして――」





  響「……ん? そういえばこの前炒り卵作ったのって、いつだったっけ?」


  響「やだなー、こんなことも思い出せないなんて。自分、ボケちゃってるんじゃないか? あはは!」


  響「ああ、そうだ! 卵が余ってて、使い切っちゃいたいから卵料理にしよう、って、   に言って」






  響「んん……? …… あれ…… うーん……?」








  響「なんだろ、これ…… おかしいぞ?」




  響「あはは、まいったなぁ…… ホントに、自分、きょうは、どうしちゃったんだろ……」








  響「………… なん、で…… なみ…… だ、とま、ら、 な、っ…… ……」











  響「そ、うだ…… よ、そう、だ……」




  響「そう、だっ、た、…… これ……、炒り卵、じゃ、ない…… スクランブル、エッグ、だ」




  響「…… そうだ、自分…… 前にも、おなじ、こと……、炒り卵の、つもりで…… お願いされて、」










  響「誰に?」




  響「…… ……決まってる…… じゃないか、そんなの、っ」










  響「たかね」






  響「貴音」






  響「貴音!」






  響「なんで…… なんで、自分、こんな大事なこと…… 大事な友達のこと、今の今まで!!」
















【いまだにぼくは】


◆◆◆◆◆

【我那覇響の場合:2】

ガチャッ

   P「おはようございまーす」

やよい「あっ…… よかった、プロデューサーっ!!」

   P「お、やよい。おは……」

 伊織「あんたやっと着いたのね!? いいからこっち、すぐ来て! お願い、早くっ!!」

   P「うわっ、い、伊織っ!? 待ってくれ、一体どうしたんだ? わけが――」




   「――だからっ! なんで、どうしてみんなわかってくれないんだ!?」

   「落ち着いてよ!! おねがいだから話を聞いてほしいの!!」




   P「な、なんだ!? 誰か喧嘩でもしてるのか?」



  響「美希、美希なら覚えてるよね!? プロジェクト・フェアリーは、三人のユニットで!」

 美希「…… やめてよ…… なに、言ってるの? 響とミキは、二人で、ずっといっしょに……」

  響「ちがう、違うよっ、美希と、自分と…… それに貴音と! 三人で一緒にやってきたんじゃないか!!」

 美希「ねえ…… さっきからずっと言ってる、その"たかね"って、いったい誰のこと……?」

  響「……美希、まで? 美希も、やっぱり、忘れちゃってるの……?」




 春香(あっ…… プロデューサーさん!!)

   P(今来たところなんだ、状況がわからない! 春香、二人に何があったんだ?)

 春香(わたしもわからないんです! わたしが来たときから響ちゃん、ずっとあんなふうで……)

   P(あんな風、って?)

 春香(この事務所にはもう一人、"たかね"ってアイドルが所属してるはずだ、って言い張ってるんです!)



   P「お、おい、響……」

  響「プロデューサー……? プロデューサー!! プロデューサーは貴音のこと、思い出せるでしょ!?」

   P「たかね……?」

  響「そうっ、貴音! 髪が銀色で、すっごく背が高くて! 自分と一緒に765に入社したアイドルの!!」

   P「…… あのな、響、落ち着いて聞い……」

  響「ちょっと不思議な、でも高貴な感じでっ、そう、だから亜美や真美はお姫ちんなんてあだ名を――」




   P「………… すまん、響。嘘はつけない。お前の言ってることが、俺には…… わからない」

  響「~~~~~~~~っっ!!」




ガチャ

 小鳥「おはようござい…… って、あれ? みんな集まって、何かあったんですか?」



  響「ピヨ子…… ……あっ、そ、そうだ!! そうだよ、ピヨ子っ!!」

 小鳥「え……? わ、わたし!? わたしが、なに?」

  響「ピヨ子はさ、事務所にたかねがいるとき、たっくさんビデオ撮ってたよね!?」

 小鳥「なに、なんの話!? ちょっと落ち着きましょ、響ちゃん、ねっ?」

  響「あのビデオカメラ、どこにあるの!? メモリーにきっと映像が残ってるはず! 」

 小鳥「カメラの…… メモリー? それがなにか必要なの?」

 律子「…… いい加減にしなさいよ、響。小鳥さんも困ってるでしょう」

 小鳥「いえ、大丈夫ですよ、律子さん。よくわかりませんけど、響ちゃんの役に立つなら」




 小鳥「ええと、最近だと…… これね。ここ1ヶ月くらいずっと使ってたと思うわ」

  響「ほんとにありがとっ、ピヨ子! これがあれば絶対みんなも思い出してくれるぞ!」



  響「じゃあ、いい? みんなよく見ててよ……」

 千早「我那覇さん……? その映像で、いったい何が……」

  響「あっ、これ、ほらここっ! 朝のミーティングのあとで、プロデューサーと、たか…… ね……」




   P『みんな、ちゃんと確認できたな? それじゃ各自、時間が来るまで――』




 亜美「…… ねえ、これさ…… ずーっとにーちゃんしか写ってないよ、ひびきん……」

 真美「しっ! 黙ってなよ亜美、それがなんか大事なのかもしれないっしょ!?」




  響「…… そんな、なんで…… あ、あっ、そうか、たかねが小柄すぎて写せてないんだ!」

 美希「響、あのね――」

  響「そっか、そうだ、美希がたかね抱えて寝てるとこだったらもっと見やすいはず!」







 伊織『例によって寝てたのね、美希……』

 美希『ふにゃ…… くぅ……』




 美希「……ミキが、ソファで寝てるだけだよ。その、えっと…… たかねだっけ、その子、どこにいるの?」

  響「なん……で、どうして!? あんなにずっと事務所にいたのに、なんでどこにも写ってないの!?」

 小鳥「響ちゃん…… わたし、確かによくビデオまわしてるけど、そのたかねちゃんって子は、一度も……」

  響「……ピヨ子! ピヨ子もグルなんだな!?」

 小鳥「えっ?」

  響「後から編集してたかねのことだけ消しちゃったんだな!? ピヨ子ならきっとそんなの簡単に!」

 小鳥「きゃっ……!? やめて響ちゃん、待って、わたし、そんなこと全然……!」

  響「そうなんでしょ、ねえっ!? そうだって言ってよピヨ子ぉぉ!!」



  真「ちょっと響っ!? 小鳥さんに何してるんだよっ! やめ――」

  響「放してよ!! こんなのありえない、おかしいよ、自分絶対信じないぞ!」

  真「うわっ、この……っ、落ち着いてってば響! プロデューサー、押さえるの手伝ってくださいっ!」

   P「あ…… ああ、すまん!」


  響「うがああああっ!! 放して! 二人とも、放せよっ、はなせぇえーっ!!」

   P「響、いったいどうしたっていうんだ、落ち着け、頼むから落ち着いてくれ!」


あずさ「音無さんっ、大丈夫ですか!? 怪我とか、してないですか」

 雪歩「わ、わたし、救急箱取ってきますっ!」

 小鳥「けほ、っ、げほっ…… わたし、っ、だいじょうぶ、ですから、響ちゃんを……!」




  響「うそだ、うそだ、うそだ、こんなの絶対うそだぞ! 映像にも写真にもどこにもたかねがいないなんてうそだ!」







   P「…… 社長。これから響を自宅まで送り届けてきます。すみませんが、その間……」

 高木「わかっている。事務所は私と律子君で取りまとめておくよ。幸い、音無君も大事ないようだ」

   P「申し訳ありません、お手数をおかけします」

 高木「何、気にしないでくれたまえ、いつもキミには苦労をかけているからね。それよりも」

   P「はい?」

 高木「我那覇君を、しっかり支えてあげてほしい。彼女に何があったのか、私にはわからないが……」

   P「……はい。正直なところまだ原因はわからないんですが、全力を尽くします」

 高木「うむ。とはいえ、今日のところはまず、しっかり休ませてあげるべきだろうな」

   P「そう思います。話を聞くにしても、もう少し落ち着いてからがよさそうですね」



   P「それじゃあ社長、しばらく空けます。後のことをお願いします」

 高木「ああ、引き受けたよ。大変だと思うがキミも、よろしく頼む」

   P「もちろんです。失礼します」

ガチャ

   P「……! お前たち」

 春香「あのっ、プロデューサーさん! 今から響ちゃんのこと、送っていくんですよね?」

   P「……ああ、そうだ。今日の響は、レッスンとかできる状態じゃなさそうだからな」

 春香「だったらお願いします、わたしにも手伝わせてください!」

   P「春香…… 気持ちはありがたいが、いまの響には……」

 春香「何ができるわけじゃなくても、響ちゃんのそばにいてあげたいんです」



  真「ボクも、一緒に行きます。万が一、またさっきみたいなことになったら危ないですし」

 美希「ミキもついていくの。みんなの中で、響といちばん一緒にいる時間が長いの、ミキだから」

   P「ダメだ…… って言っても来るんだろうな、三人とも」

 春香「はい!」

  真「へへっ、もちろんですよ」

 美希「トーゼンなの」

   P「…… 女の子の部屋に俺だけで入るのはマズいだろうし、どうしようかと思ってたとこだ」

 春香「じゃあ!」

   P「今日は三人ともレッスンだけだったな?」

 美希「えーっと、そうだったっけ? でもこの際、そんなのどーでもいいよ」

  真「こら、美希、何言ってるのさ。プロデューサー、ボクら三人とも午後からですよ」

   P「……よし、わかった。それまでには戻れるようにしよう」







ガチャ

 春香「…… おじゃま、しまーす」

 美希「ミキ、響の家族とはだいたい顔見知りだから、ちょっとアイサツしとくね」

 春香「そうなんだ? 助かるよ、そっちはよろしくね。……真、大丈夫?」

  真「うん、オッケー。響、歩ける? ゆっくりでいいからね」

  響「……」

   P(…… 真、俺も手を貸そうか?)

  真(ありがとうございます、ボクひとりで大丈夫ですよ)


 美希「みんな、久しぶりー。ごめんね、今日はちょっとだけお騒がせするの」


 春香「えっと…… 響ちゃん、まず、シャワーでも浴びてきたらどうかな? きっとさっぱりするよ」

  響「……」







 春香「じゃあ、すみませんけどプロデューサーさん、リビングで待っててもらえますか?」

   P「ああ、わかった、そうする。お前たちに来てもらってよかったよ」

 美希「ぜーったい、のぞいたりしちゃダメだからね?」

   P「なっ…… なに言ってるんだバカ! そんなこと、するわけないだろ」

  真「あははっ。それまで響の家族のこと、ちょっと見といてあげてください」

   P「そ、そうだな…… 三人とも、よろしく頼む」




   P(…… 響の部屋、か。こんな形で足を踏み入れることになるとは思わなかったよ)

   P(大家族がいる分広めだけど、それ以外はいたって普通だな)



   P(……少なくとも昨日までの響は、特に変わった様子はなかったと思う)

   P(だから恐らく、何かあったとしたら、昨日…… それも事務所を出た後のことなんだろうが)

   P(響の場合、一人暮らしだから、ご家族に話を聞くって手も使えないし……)

ねこ吉「ニャーゴ」

   P「…… お前さんに話が聞ければいいけど、俺は響と違って、そんなことできないからなぁ」

ねこ吉「ウニャー」

   P「ああいや、それより、まずは謝らなくちゃな……」

ねこ吉「……」

   P「お前のご主人の様子が違うことに、すぐに気づいてやれなかった。すまない」

ねこ吉「ニャッ」

   P「…………ん? お前、なにくわえてるんだ?」

ねこ吉「……」ジリッ

   P「おい、ちょっと待てってば。ダメじゃないか、それ、ご主人様のだろ」

ねこ吉「……!」タタタッ

   P「あ、こら! ……っと、持って行っちゃったか」







ガチャ

   P「!」

 春香「お待たせしました。プロデューサーさん、もういいですよ」

   P「ああ、ありがとう。……響はどんな様子だ?」

 美希「なんとかベッドに入らせて、やっと寝ついたの。泣き疲れちゃったカンジ」

   P「そうか、よかった。今はまず何よりも休息が必要だろうからな」

  真「わりと落ち着いてはいました。ただ、すごく沈み込んでて、反応も薄くって……」

   P「そうなるのも当然だよな…… 誰とも話が合わない状態になってたわけだし」



   P「担当として本当に恥ずかしい話だけど、俺は思い当たる原因が何もないんだ……」

 春香「それは…… 仕方がないと思います。わたしたちも、ほとんどついていけてませんでしたから」

   P「お前たちはなにか心当たりがないか? どんなことでもいいんだ、聞かせて欲しい」

 美希「やっぱり、響がずっと言ってた『たかね』って名前がヒントなんじゃない?」

   P「そうだな、そこは間違いないと思う」

  真「その子がまるで、ずっとボクらともいっしょにいた、みたいな口ぶりでしたもんね」

   P「そもそもこの『たかね』って名前自体、響は前に口にしたこと、あったか?」

 春香「えっと、響ちゃんの学校のお友達のこととか、全部は知らないですけど…… 記憶にないです」

 美希「ミキも、なの。961プロにも…… たぶん、いなかったと思うな……」

  真「……あ! いっしょに仕事したことのある、べつの事務所のアイドルとかじゃないですか?」

   P「そう思って、待ってる間、今まで付き合いのあった事務所のHPとかを記憶の限り確認してみた」

 春香「それで…… どうだったんですか?」

   P「『たかね』という名前も、それに苗字も…… 今のところ、どこにも該当がないんだ」



 美希「…… 今までずっといっしょにいたはずなのに、ミキ、響のこと全然知らなかったのかも」

  真「美希よりは響との付き合い、短いけどさ。ボクも同じこと思ってるよ」

 春香「響ちゃん…… なにか、わたしたちがしてあげられることってないかな……」

   P「今はそっとして、休ませてやるのが一番大事だと思う。それに、三人とも、そろそろ時間だ」

 春香「……そうだ! プロデューサーさん、レッスンまでまだ余裕ありますよね?」

   P「まあ…… 車だし、直接スタジオに向かえばいいからな。もうちょっと大丈夫だけど」

 春香「じゃあ、響ちゃんごめんね、ちょっとだけ台所借りちゃいます!」

  真「え? 春香、何するの?」

 春香「ちょっとねー。そうだ、真と美希、それにプロデューサーさんは、その間に……」
















  響(……ん、 ……あー、朝 ……?)


  響(………… ちがう、ここ、自分の部屋だ…… あれ、事務所に行ったんじゃ、なかったっけ?)


ムクッ


  響(いまは…… うわっ、もう暗くなっちゃってる。どうして……?)

  響(…… ああ、そうか。思い出した…… 自分、事務所でパニックになって……)

  響(そこから…… どうしたんだっけ、覚えてないぞ…… ん?)

  響(なんだろ、これ。何枚も…… 書置き?)ガサッ




    響へ

    とりあえずきょうはゆっくり休むといい。
    明日についてもレッスンのみの予定だったから、こっちでオフにしといた。

    響の許可もなく勝手に部屋に入るのはよくないとは思ったんだが、
    緊急だったし、春香と真、美希に一緒に来てもらったので勘弁してほしい。
    実際のところ俺はろくに何もしてない。三人が全部やってくれたから安心してくれ。

    気が向いたらでいいので、目が覚めてから余裕があるときにでも連絡をくれると助かる。

    それとは別に、困ったこととか、悩みとかがあるなら、いつでも相談してほしい。
    俺がすぐに解決できるようなことじゃなくても、できるかぎり力になりたいんだ。




  響(…… プロデューサー……)



  響(こっちの…… この字は真ので、これは、美希の……)ガサガサ


    響へ

    春香がいまおいしそうなお料理作ってくれてるから、起きたらまずはしっかり食べなきゃだよ!
    おなか空いてると人間、頭まわんないし、気も弱くなっちゃうから。

    実は、響の家族みんなにもごはんをあげるべきかなって話になったんだけど、
    下手なことしないで響にまかせたほうがいいよね、ってことでなにもしてないんだ。
    響のことすごく心配してるみたいだから、春香のごはんで元気出たら、相手してあげてね。

    いろいろ考えちゃうときは、思いっきり体動かすのもかえっていいと思うんだ。
    言ってくれればトレーニングとかいっくらでも付き合うからね、ボク。

    今度のダンスレッスンのときにはいつもの調子取り戻してくるの、待ってるから。
    響がうかうかしてたら置いてっちゃうよ!




    響サマ

    よく眠れた?
    心配ごととかって、寝ちゃえばわりとカイケツしちゃうの。

    ミキはね、響のこと、とくに心配はしてないよ。
    だって響は、ちょっとちっちゃいだけでカンペキだって知ってるもん。

    でも、ミキにこっそり話したいこととかあるんだったら教えてね?
    ずっとコンビ組んでた響とミキの間にかくしごとなんてナシなの!

    そうそう、響の家族ね、みんなミキのこと覚えててくれたみたい。
    あらためてミキからよろしくって伝えといてほしいな!
    じゃ、また事務所でね☆




   響(最後のこれは、春香のだ……)




    響ちゃんへ

    わたしもプロデューサーさんにくっついてお邪魔しました。
    響ちゃん、きっとすごく疲れちゃってるんだと思うから、たっぷり眠れますように。

    さすがの響ちゃんも、起きてすぐはおなか空いてるんじゃないかな? と思って、
    お台所を借りてかんたんなごはんを作っておきました。よかったら食べてね。
    ちなみに材料は冷蔵庫の中身を勝手に使わせてもらっちゃいました! ごめん! >_<

    いつもがんばり屋さんな響ちゃんだから、たまにはちょっとお休みしても大丈夫。
    くれぐれも無理はしないでゆっくり過ごしてほしいです。

    P.S.
    いつでも連絡待ってるからね!
    わたし、最近は夜更かし気味だから、ちょっとくらい遅くても大丈夫だよー!







  響(…… プロデューサーも、春香も、真も美希も。それにきっと、事務所のみんなも)

  響(自分のこと、本気で心配してくれてる。それはわかるし、すごく嬉しい)


  響(――でも)


  響(ここでいま、たとえば自分が、プロデューサーに、それか春香に、電話でもかけて)

  響(もう一度…… 今度は落ち着いて、全部、説明できたとして)

  響(心配とか同情はきっと、今以上にしてくれる。大変なんだなって、心から気遣ってくれる)


  響(でも…… ……でも、それだけ、それでおしまい)


  響(一番わかってほしい、思い出してほしい、貴音のことは―― 伝わらない)




  響(みんなが忘れてるのは、貴音がたかねになっちゃってからのことだけじゃない)

  響(そもそも、貴音が…… 最初から、いなかったことになってるんだ……)

  響(けさ、事務所についたときからそうだった。春香も、千早も、やよいも、伊織も)

  響(あずささんも、律子も、亜美も真美も、雪歩も、真も、みんな…… みんな、覚えてなかった)

  響(最後に来た美希に聞いても―― そうだ、それで自分、かっとなって)

  響(そうだ…… それから、ピヨ子に、最低の八つ当たりして…… 謝らなくちゃ……)

  響(まず誰よりもピヨ子に謝って、迷惑かけたみんなにも、プロデューサーにも謝って……)




  響(謝って、 ……それから? それから、自分、どうしたらいいんだ?)




  響(みんなに謝って? "貴音"なんていなかった、自分の勘違いだった、って、言って?)


  響(勘違いなんかじゃないのに? 貴音は、たかねは…… たしかに自分たちの仲間で、友達で)


  響(自分は―― 自分だけは、こんなにはっきり、全部、全部覚えてるのに!?)


  響(…… なんで…… なんで、なんで、なんで、っ!!)






  響「………… わかんない…… わかん、ない、よ、貴音ぇ…… 自分、どうすればいいの、わかんないよぅ……」


◆その6→