雪歩「真美ちゃんはさ、子供の頃に憧れたものってある?」

真美「アイドル、とか?」

雪歩「そういう模範的な解答じゃなくて」

真美「いや、アイドルなんだから正解だよね? なんならそう教えられてきたけども」

雪歩「もっとこうさ、あるでしょ? 探せ?」

真美「命令口調なのに疑問系だから可愛いな、くそぅ」

雪歩「思い出すだけで恥ずかしくなるようなブツあるでしょ?」

真美「えーっと……花嫁、とか……////」

雪歩「違う違う、だってそれは真美ちゃんなら叶えられるもん」

真美「え~? 顔を赤らめた真美の純心を蔑ろにされた気分」

雪歩「もっと思い出しただけで発作的に喉をかきむしるくらい苦しむやつ」

真美「例えが怖いし、真美はそんなの無いよ!? じゃあ、ゆきぴょんは何に憧れたの?」

雪歩「私はね~、カレーライス」

真美「カレーライス」

雪歩「別にカレーライスが食べられないほどの貧乏だった、とかじゃないよ?」

真美「それは貧乏な人にも失礼でしょ。貧乏でもカレーくらい食べるよ」

雪歩「カレーくらい!? きぃさまぁああああ!!」ガシッ

真美「開始数十秒で逆鱗に触れてしまった!? なんでカレーライス!? カレーライスに憧れるってどういうこと!?」

雪歩「なりたかったんだ、カレーライスに」

真美「なりたかった」

雪歩「でも、なれなかった」

真美「なれなかった」

雪歩「残念ながらね」

真美「でしょうね!? 残念なのはゆきぴょんの頭だよ」

雪歩「いや、カレーライスだよ!? 子供の大好きなもの一位のあのカレーライス様だよ!?」

真美「いや、まあ、それはなんか、うん……ごめん。そこまで感情が高ぶるなんて思ってなかったもんだから正直、面食らっちまったい」

雪歩「カレーライス様はねぇ、宝なんだよ」

真美「家宝は寝て待て的な? 寝るルーは育つ的な? 取り敢えず寝かせとけば美味くなる的な?」

雪歩「もしかしてカレーライス様を馬鹿にしてる?」

真美「真美が馬鹿にしてんのはカレーライスを崇めてる雪ぴょんだけども」

雪歩「ハヤシライスのことを馬鹿にするのは構わないけど私の事を馬鹿にすることは許さないからね?」

真美「ハヤシライスに何の恨みが? んで、なんでカレーライスになりたかったの?」

雪歩「あのカレールーに飲み込まれ沈み行くライスを見てるだけでゾクゾクするんだよね」

真美「……真美はどうして雪ぴょんを相方に選んでしまったんだろうね? 後悔先に立たずってやつだこれ」

雪歩「じゃがいも先に茹(う)だつ、だね」

真美「そんなことわざ聞いたこともないよ」

雪歩「まあ、具材をいっぺんに煮ても、ちゃんとひとつに纏まるからカレーは偉大」

真美「何でもカレーに結びつけるんだね」

雪歩「真美ちゃんは私にとっての福神漬けだよ」

真美「添え物じゃんか! せめてそこはライスであって欲しかった! なんだよライスであって欲しかったって」

雪歩「カレーとライスは混然一体であり、それが宇宙の摂理だから」

真美「ちょっと何言ってるか分かんない」

雪歩「あはは。またまた~。好きモノのクセに~」

真美「イヤらしい子みたいな言い方しないでよ。いやそりゃ真美だってカレーのことは好き寄りではあるけども」

雪歩「気になっちゃう存在?」

真美「いや、そういうクラスの男子とかそういう甘酸っぱさは全くない」

雪歩「そうだね。カレーは男子より、女子。女子と言うか織姫様だもんね」

真美「んんんんんんんんんんん、なるほど。真美には分かんないや、それ」

雪歩「そしてライスが彦星様」

真美「ますます意味が分かんない。んじゃらば、短冊は福神漬けなの?」

雪歩「真美ちゃん」

真美「違うよね、真美もそれはちょっと違うかなって」

雪歩「正解!」

真美「適当ほざいたのに正解だったことに驚きを隠せないよ。だいたいカレーとライスは混ざるんだから会えるわけじゃん? それは七夕的には良いの!?」

雪歩「ハッピーエンドだから全然OKだよ。も~、なんだかんだ言いながら真美ちゃんも実はカレーライサーになりたかったんだね? 本当は」

真美「勝手に理解した気にならないで! カレーライサーってなに!?」

雪歩「真美ちゃんこそ、それくらいでカレーライスの真髄を分かった気にならないで!」

真美「なってない! 矢継ぎ早に疑問が襲いかかってくるから! 分からないまま進行してるから!」

雪歩「カレーは三日にしてならず、だからね」

真美「うん、一度ローマの人に謝ろうか。あとテンポに緩急付けないでよ、酔っちゃいそうだよ……」

雪歩「真美ちゃんは何カレーが好き?」

真美「え~? 牛スジ、カレーとか?」

雪歩「あ~↑ 良いとこ行くね~♪ やっぱりカレーライサーの素質あると思う」

真美「あれ? 意外と高評価を頂いちゃったね!?」

雪歩「それでそれで? 野菜はどうする!? 何をチョイスするの!?」

真美「めちゃんこグイグイ来るなぁ……。え~っと玉ねぎと、にんじんと」

雪歩「うんうん。オーソドックスなところは押さえときたいよね! あとは!?」

真美「あとは、アスパラ……ガス?」

雪歩「それは有り得ない」

真美「えっ!? なんか地雷踏んだっぽい!?」

雪歩「アスパラガス!? アスパラガスなんて入れても牛スジの旨味は引き立たないでしょ!?」

真美「で、でも、青み欲しくない? えぐみというか……ダメ?」

雪歩「確かに……それは革新的な試みかもしれないね!! あえての、あえてのえぐみ!!」

真美「うわっ、めっちゃ食いついてきた」

雪歩「ルーは!? ルーはどうするの!?」

真美「ジャワ……カレー…………の、辛口……………」

雪歩「…………………………………………ジャワだけ?」

真美「あ、市販のやつ使うのはお咎め無しなんだ?」

雪歩「ジャワだけだと、ちょっと味が尖らないかな?」

真美「じゃあ、バーモント?」

雪歩「バーモントっ!?」

真美「あっ、これも地雷!?」

雪歩「ジャワの辛さをバーモントの甘さで引き立てるんだね!? 良いよ! すごく良い!」

真美「お眼鏡に適ったようで何よりだよ」

雪歩「割合どうする!? やっぱり5:5かなっ!?」

真美「8:2くらいで」

雪歩「8:2!? はぅ~、真美ちゃんそれは攻め過ぎだよ~!!? 仕上げの隠し味はどうされちゃうの!?」

真美「隠し味か~……味噌?」

雪歩「味噌!? 味噌って、あのお、おおお、お、お味噌汁の、あの味噌!?」

真美「慌てふためきすぎっしょ。落ち着いて」

雪歩「落ち着いてなんかいられないよ!? 蜂蜜でも生クリームでもなくて!?」

真美「味噌で」

雪歩「ひゅお~!?」

真美「何その呼吸音!? 大丈夫!? 過呼吸とかならない!?」

雪歩「まっ、ま、真美ちゃんは今まさに、歴史が動いてる気配を感じないの!?」

真美「えっ、ちょっと真美は鈍感だから……」

雪歩「まあ、そういう何事にも動じないところがやっぱり違うよね! 風格が漂ってるもん!」

真美「雪ぴょんがめっちくちゃ褒めてくるから真美も何だか勘違いしちゃいそうだよ」

雪歩「それでそれで!?どんな入れ物に入れるの!?」

真美「そりゃ、あのお店とかに出てくる、あのランプみたいな入れ物に入れてだよ」

雪歩「グレイビーボート?」

真美「グレイビーボートって言うんだあれ。あの銀の高級感が良いよね」

雪歩「…………………………………………はあぁ」

真美「あれ?」

雪歩「私、さっき言ったよね?」

真美「な、なにを?」

雪歩「カレーとライスは混然一体だって」

真美「う、うん。そう言えば言ってたね」

雪歩「それをなに? グレイビーボートに入れる?」

真美「え~っと」

雪歩「カレーライス様への冒涜だよ、それは!!!」

真美「うわぁ、まさかのグレイビーボートが本命の地雷だったとは」

雪歩「もういいよ、分かった。真美ちゃんのカレーに対する情熱は所詮その程度だったんだね」

真美「勝手に失望された!!?」

雪歩「でも、言い争っても仕方ないよね。だってカレーライスの本質は調和なんだから」

真美「調和?」

雪歩「それがカレー道の真髄」

真美「真髄教えられちゃったよ!」

雪歩「免許皆伝だね、これで」ギュッ

真美「否定からの免許皆伝されても何の実感も湧かない!」

雪歩「NO CURRY, NO LICE」

真美「NO MUSIC, NO LIFEみたいに言われてもまったく心に響いてこないから!」

雪歩「辛口だね~、もうすっかりいっぱしのライサーだね。このこの~」

真美「肘でつついてこないで。そのノリ苦手だよ、真美は」

雪歩「これからもどんどんカレーをかけて行こうね!」

真美「いかないよ! だって真美はお茶漬けが好きだもん」

雪歩「お茶漬けカレーも良いね!」

真美「なんでもありなんだ!?」

雪歩「カレーはフリーダムだから!」

真美「もういいよ!」ビシッ