出囃子:一丁入り

春香「えー、みなさん、夢は御覧になりますか。ええ、その将来の夢、とかじゃなくって寝床で見る夢。
夢ってのはいいですね。いい夢を見た翌朝は目覚めもいいし朝飯も旨い。転んだって痛くないって。いや、そりゃちょっとは痛いんですけどね」

春香「とりわけ今と違ってテレビもラジオもパソコンもない昔は、夢っていうのは
まさしく新作ドラマなわけでして、他人の見た夢の話すら、娯楽になる時代でございます」

春香「まだEランクで稼ぎがなく、貧乏長屋に住んでる真さんとお雪さんの夫婦にゃ、
銭を払ってする娯楽なんてまさしく夢のまた夢でして、
寝起きの夢の話なんてのは、そりゃもう貴重な娯楽でございます」
春香「真ちゃん、いい加減起きて!遅刻してプロデューサーにどやされても知らないよ!
そんなよだれまで垂らして寝ちゃって!」

春香「ゴメンゴメン、あ、朝ごはんできてるんだね」

春香「とっくだよ!早く食べて!」

春香「わかったよ、お雪はせっかちだなあ」パクパク

春香「ところで真ちゃん」

春香「え、なに?」

春香「今日はどんな夢を見たの?」

春香「夢?夢、夢、うーん、今朝は見てないなあ」

春香「いやいや、あんな幸せそうな寝顔で、よだれまで垂らしてたんだから、
大層面白い夢だったんでしょう?」

春香「いやだから見てないって」

春香「夢の中でお芝居見に行ったとかさ、少女漫画読んだとか、あるでしょ?」

春香「だから見てないってば、お雪、ちょっとしつこいよ」

春香「ひどい!自分だけ楽しい夢を独占して教えてくれないなんて、真ちゃんのバカ!ハンサム!」


春香「ちょっとうるさいわよ!朝っぱらから犬が吐き出すような夫婦喧嘩なんてやられちゃかなわないわよ!」

春香「あー、ちょうどよかった律ばあさん、ちょっとお雪が話を聞いてくれないんですよ。
見てもいない夢の話を話せ話せって」

春香「なるほどねえ。わかったわ。ちょっとお雪さん、いいかしら」



春香「やはりこういうのは女同士のほうが話が通るんでしょうか。
律ばあさんがちょっと話すと、お雪もスッと引きまして、律ばあさんが、ちょっと旦那を借りてくよ!なんて言って、真を連れ出します」



春香「いやあ律ばあさん、助かりました、よくお雪を諫めてくれました」

春香「こういうのは年の功かねえ。ところで真や、ちょっと話があるんだけど」

春香「はい?」

春香「実際のところ、どういう夢を見たのよ。教えなさい」

春香「いや、だから見てないってば!」

春香「大丈夫だから、お雪ちゃんには黙っとくからさ。あれでしょ、コッチ系の夢でしょ?」

春香「だから見てないものは見てないって言ってるでしょ!」

春香「真、あなたそういうこというの、わかったわ。(スゥー)岡っ引きさん!ちょっと!」

春香「なんでぇなんでぇ、律ばあさんどうした?」

春香「真があたしに嘘をつくのよ、よくしてやったのにさ!さぁさぁ真を捕まえておくれよ!」



春香「さて、こんな具合に真は捕まってしまい、お白洲の場に連れて来られました。
このお白洲を取り仕切るのは、これまた3食よりも寝るのが好きという、星井越後守美希」


春香「美希、信じてよ~!僕は本当に夢なんて見てないんだって!」

春香「お白洲でミキのことを呼び捨てとは歓心しないけど、マコトくんの言ってること、信じてあげるの!
無罪なの!」

春香「美希、ありがとう!!」

春香「同心や岡っ引きのみんなは下がって欲しいの、ミキはマコトくんと2人で話があるの」



春香「と、美希はみんなを引きあがらせて、お白洲の場には美希と真の2人だけとなりました。
美希と真が二人きり、ね。どんな雰囲気なのかなーというと、」



春香「で、マコトくん?」

春香「な、なに?」

春香「本当はどんな夢みたの?いやミキもこういう仕事してるから、
口は堅いの、誰にも言わないから、ね!」

春香「いやいやいや、だってさっきボクのこと信じるって言ったよね?」

春香「方便なの!」

春香「そんなー!でも本当に見てないんだってば!」

春香「そんなこと言って!もういいの!者ども、出会えなのー!」


春香「美希の怒鳴り声に岡っ引きたちがドドドドドっと現れると、あっという声をあげる間もなく
真を取り囲みます。さあさあ困った、とうとう僕もお縄なのかと真が目を瞑って歯を食いしばると、
真の体がふわーーーっと宙を舞っていきます。
どうしたことかと思えば、その頭上には緑色の女天狗。
真を掴みあげ、飛び去ってしまいました。真はというと、急激な気圧の変化に耐え切れず、
気を失っちゃいました。仕方ないよね。」


春香「そろそろいい加減に起きなさい」

春香「え、ここは」

春香「ここは私、緑天狗の棲処よ」

春香「一体どうして僕を連れてきたんだ!?まさか僕を食べるつもりじゃ!」

春香「いーえ、話は全て聞かせてもらったわ。あなたの夢の話、教えなさい!」

春香「いや、すべて聞いてたんでしょ?夢は見てないんだってば!」

春香「そんなこと言って、ちょっとエッチな夢だったから人に言えなかっただけでしょ?
私は天狗、人じゃないんだから教えなさいよ!ゆきりつなの、みきりつ?」

春香「いやなんで自分の嫁をばあさんのカップリングに献上しなきゃいけないんだよ!
どっちも見てない、夢なんてそもそも見てないの!」

春香「そう、じゃあいいわ!妄想で楽しもうと思ったけど、
リアルに真ちゃんの体をいただくわ!ガバー!!」

春香「うわ、やめて!うわーーーーーーー!」


春香「ちょっと真ちゃん、起きて!大丈夫?」

春香「うわーーー…え、お雪?」

春香「そうだよ、お雪だよ!ねえひどくうなされてたよ、大丈夫なの?」

春香「うん、大丈夫だよ、ありがとう」

春香「一体、どんな夢を見てたの?」

春香「え、夢?」


春香「真が無限ループに入っていくってそんな寸法のおはなしでございました。
お後がよろしいようで」