出囃子:都鳥


小鳥「えー、お足元の悪い中お運びいただきまして、御礼申し上げます」

小鳥「梅雨は嫌だね、なんていう方も多いですが私はこの時期、
いつもドキドキワクワクとしております。この夏のコミケの当落発表直前というのは、
そりゃもう不安なんですがそれと同時に、当選したらああしてこうして、と、
取らぬ狸を皮算用するのも楽しいものでございます」

小鳥「アイドル活動、というと華やかで楽しそうなものですが、
その裏ではたくさんのレッスンを積んでおりまして、それはなかなか楽しい、と言える代物ではない、
むしろトレーナーによってはくぎゅ、いや苦行でしかない場合も、しばしばございます」

小鳥「さて、そんなアイドルでもトップアイドルを目指す、はずがイマイチ気が乗らず、
レッスンをさぼってばかりの美希ちゃんと、その姉菜緒さんが2人で暮らしておりました」

小鳥「美希、今日もレッスンサボちゃったの?いい加減にしないとクビになっちゃうわよ!」

小鳥「えー、でもミキ、レッスンなんてちょっとやればテレビオーディションもフェスも楽勝だよ?」

小鳥「そんなこと、言って、プロデューサーさんに嫌われちゃうわよ?」

小鳥「ハニーに嫌われるのは嫌だけど、ミキはずっと寝てたいの!もうお仕事で疲れて充電したいの!」

小鳥「しょうがないわね・・・それじゃ今日は好きなだけおにぎりを作ってあげるから、明日からレッスンに行くのよ?」

小鳥「好きなだけ?うーん、それじゃあ・・・」


小鳥「こんな具合に美希、うまく乗れられまして、ツナマヨや焼き鮭といったオーソドックスなものから
筋子、牛カルビ、五目おこわといったものまで、ありとあらゆるおにぎりを食べると、
美希ちゃん、すぐに寝てしまいました」


小鳥「美希、起きて!」

小鳥「むにゃむにゃ、もうちょっと寝たいの」

小鳥「何言ってるの!今日からレッスンちゃんと行くんでしょ!」

小鳥「えー、あ、でも準備全然してないし」

小鳥「お洋服、ハンガーにかけてあるわ」

小鳥「朝ごはん」

小鳥「おにぎり、握ってあるわ」

小鳥「むー、それじゃ仕方ないの」


小鳥「お姉ちゃんに外堀を埋められた美希ちゃん、仕方なくレッスン場に向かいます。
長屋を出ると、京王井の頭線に乗ろうと浜田山駅に来ました」


小鳥「いくらなんでも早く家を出過ぎたの。電車の間隔が10分以上空いてるなんで異常なの。
今日は風も強くていろいろゴミや葉っぱが飛ばされてるし、こんな早起きしてもいいことないの」


小鳥「と思った刹那、何やら紙がびゅーんと飛んできて、美希ちゃんの顔にバサっとヒットします」


小鳥「もーなんなのなの!こんな紙屑ま・・・え、何これ、婚姻届?しかもハニーの名前とハンコが押してあるの!
これあったら美希もうアイドルなんてやめてもいいの!ハニーと結婚するの!」


小鳥「事務所のプロデューサーの名前が入った婚姻届に大喜びした美希、レッスンをさぼってそのまま
長屋に帰ると、すぐに寝入ってしまいました」


小鳥「美希!起きなさい!もう朝よ、レッスンに行くんでしょ!」

小鳥「あ、お姉ちゃん、おはようなの。あふぅ。でもレッスンは行かないで大丈夫なの」

小鳥「大丈夫ってどういうこと?」

小鳥「カバンの中にハニーの婚姻届が入ってるの。16歳になったらハニーと結婚するの」

小鳥「カバン?えーと、うん?婚姻届なんて入ってないわよ?」

小鳥「そんな筈ないの!ちょっとカバン貸して!」


小鳥「カバンには婚姻届の影も形もありません」


小鳥「え、婚姻届は・・・夢だったの?」

小鳥「昨日もレッスンさぼったんでしょう?プロデューサーさんから電話があったのよ」

小鳥「え、ハニーから?電話!?」

小鳥「そうよ。次さぼったら、もう美希のプロデュースから降ろされるって」

小鳥「そんなのってないの!」


小鳥「それからというもの、美希ちゃんはレッスンをさぼらず頑張りました。
テレビに雑誌、コンサートにファッションショーと八面六臂の大活躍。
気が付くと、あれよあれよとAランクにまで上り詰め、
明日のフェス次第では念願のSランクに昇格する、というところまでやってきました」


小鳥「美希、あなたの明日のフェスのこと、テレビでも話題になってるわ。
史上最年少、18歳Sランクアイドル誕生なるか、って」

小鳥「お姉ちゃん、ミキ、絶対Sランクになるよ!ミキをSランクにするのが
プロデューサーの夢だったんだもん、だから絶対にSランクになるの!」

小鳥「私、あなたに謝らないといけない」

小鳥「どうしたの?」

小鳥「3年前、あなたがプロデューサーさんの名前が入った婚姻届を拾った、って言って、
それが夢だったでしょう?あれ、夢じゃなかったの。
実際に婚姻届はあったの。プロデューサーさんは別に彼女さんとかはいなかったんだけど、
婚姻届を書く練習、と思って書いていたら、開けていた窓から飛ばされてしまったんだって。
あの日あなたがレッスンをさぼっているって電話があって、
何の気なしにカバンを見たら婚姻届があって」

小鳥「お姉ちゃん、ありがとう」

小鳥「え、どうして」

小鳥「お姉ちゃんはミキのために婚姻届を隠してくれたんだよね。
あの婚姻届を頼りにしてたら、ミキ、アイドル辞めちゃってたと思う。
それじゃ、プロデューサーの夢を叶えられなかったの」

小鳥「でも、去年プロデューサーさんが結婚しちゃったって」

小鳥「うん、そうだよ」

小鳥「あの婚姻届を使っていたら・・・」

小鳥「よく考えたら、プロデューサーがその気がないのに婚姻届を勝手に出しても、
キラキラしたお嫁さんになれないの」

小鳥「キラキラ?」

小鳥「うん。プロデューサーはキラキラしたミキが好きだって言ってくれたし、
ミキをSランクにするのが夢だって言ってくれたの。
だから、お嫁さんにはしてもらえなかったけど、
プロデューサーの夢を、夢のままにしちゃいけないって思うの!」