色々な日。




私は、スープを作る。




何かの日。




私は、スープを作る。




大事な日。




私は、スープを作る。












「それでは765プロ、アイドルオーディションを始めます」
「と言っても、今日は貴女だけなんですけどもね、ははは」

とても緊張した日。
私は、やさしい味のスープを作る。

「はい! 以上です! これからどうぞよろし……あっと…………け、結果は追って連絡しますね、あ、あははは」

未だ身体に残る緊張を、ゆっくりと溶かしてくれるような気がするから。






「おはようございます! 三浦あずささん! オーディション以来ですね」
「よろしくお願いします! 俺が貴女のプロデューサーです」

嬉しい驚きがあった日。
私は、爽やかな味のスープを作る。

「頼りないかもしれませんが、一杯頼って下さいね!!」

嬉しさだけを残して、驚きを優しく消してくれる気がするから。






「へぇ! 運命の人を探しているんですか」
「いやぁ! あずささんの運命の人になる人は幸せ者ですね」

微妙な気持ちになった日。
私は、すっぱいスープを作る。

「俺なんかじゃあ、あずささんと釣り合わないですしね、あはははは」

脳をしゃっきりとさせて、言われた言葉を忘れないように。






「いやぁ、まさか春香から……ビックリしましたよ」
「……はい、断りました……アイドルとプロデューサーはそうなっちゃいけないんです」

哀しい事が有った日。
私は、具だくさんのスープを作る。

「それに……俺には……決めた女性がいるんです…………」

具材を切っている事に夢中になれば。
その間だけは、それを、忘れられるから……。





「やりましたねあずささん!! アイドルアカデミー大賞ですよ!!」
「もう、俺!! ……っごめんなさい……本当に嬉しくて……っ」

信じられない事があった日。
私は、作った事が無いスープを作る。

「今日はもう! 沢山泣いちゃいましょう! 二人で!!」

その味が、思い出をよみがえらせてくれるから。





「え!? 辞める!? アイドルを!!??」
「何でですか!? いや、困りますって!! ちょ、ちょっと!! あずささん!?」

決心をした日。
私は、苦いスープを作る。

「せめて理由を聞かせて下さい!! あ、あずささん!!」

その決心が成就するまで、口の中に苦味を残したいから。





「え…………」
「い、いや!? え!? アイドルじゃないからって? いや!? あ、あの!? でも!!」
「あの……いや!! 嬉しいですけど!! もちろん嬉しいです!!」


告白が成功した日。
私は、甘いスープを作る。

「俺の方こそ……よろしゅくおね……/// わ、笑わないで下さいよ///!!」

それは……苦いスープと対になる味だから。





「緊張してる? い、いや、それはしますよ!! だって……」
「その……あずささんが、凄く綺麗だから……」

皆に祝福された日。
私は、いつもより多めのスープを作る。

「おいしい……おいしいです、あずささ……え?……あ、はい……あ、あずさ」

だって、これからは、貴方も食べるのだから。





「ご、ごめん! あずさ……あの今日の結婚記念日なんだけど、あの打合せが……」
「必ず埋め合わせはするから! 本当に! あ、切らないであずささん!!」

腹が立つ事があった日。
私は、自分が飲むスープと別にもう一つスープを作る。

「お、遅くなってごめんなさい……頂きます……辛っっっっ!!!!」

だって……絶対に、絶対に許せなかったんだから。






「頑張れあずさ!! あずさ、あぁ! もう! 何で俺はこんな時なにも出来ないんだ」
「手? 手を握れば良いのか? うん! うん!! 頑張れっ!! 頑張れっ!!」

今までに無いほどの痛みを感じた日。
将来、作るスープの事を思った。

「あ…………っっっっ!! やったっ!!!! やったぁ……ぁあああ……」

貴方の涙のように……少しだけしょっぱい、けど、暖かくて優しいスープを、この子に。





「大丈夫、任せてくれよ! この子と俺なら大丈夫だからさ!」
「解ってる解ってるって! ほんの二伯くらいだろ? 心配し過ぎだって!」

凄く心配だったあの日。
私は、日持ちするスープを作る。

「よかったぁ……コレさえあればあの子はご機嫌だからなぁ……助かったぁ」

きっと、こうなってしまっているだろうから。





「え? ず、ずいぶん昔の話をするんだな」
「えっと……それは……う、うん、こ、コラ! 子供はもう寝る時間だぞ!」

ずっと気になっていた事を聞いた日。
私は、あの日の、具だくさんのスープを作る。

「うん……あの日言った、決めた女性って言うのは…………母さんだよ……」

貴方の照れ隠ししやすいように、貴方の言葉が包丁の音に隠れるように。





「え~~本日は皆様、御足元のわる……あ! は、晴れてましたね……これ雨用の原稿だ」
「今は少し寂しくもありますが、素直に嬉しいです!!」

貴方のようにやさしく育ったあの子が、私達の元を離れた日。
私は、少し、塩気の薄いスープを作る。

「俺は……っっ……本当に嬉しっっ…………良かった……けどっ…………寂しいなぁ……」

貴女の涙で、丁度良い味になるから。





「これからは二人だけの時間になるなぁ……母さん」
「……なぁ母さん? お願いがあるんだが」

3人分のスープが、2人分のスープになった日。
私は、貴方とスープを作る。

「あずさ、って呼んで良いかい?」

残り少ない二人の時間を、分かち合いたいから。





「まぁた来たのか~? どれ、じいちゃんが抱っこしてやろう!」
「大きくなったなぁ! あ痛っ!! こ、腰が!!」

多くの家族が集まる日。
私は、暖かいスープを作る。

「おーいあずさ、台所はもういいから、皆で一緒に食べよう」

いつまでも、スープのように暖かい家庭であってほしいから。




「50年……か」
「二人で写真を撮るなんて、いつ振りだろうな? あずさ」

忘れられない記念日。
私は、豪華なスープを作る。

「あの…………手を握っても、良いかい?」

貴方と私だけが分かち合える、幸せな気持ちを沢山込めたいから。





「なぁ、あずさ? …………あずさのスープが飲みたいよ」
「もう、何も要らない……あずさのスープがアレば、俺は、それで」

病室のベッドで、横になる貴方をずっと見つめていた日。
私は、味のしないスープを作る。

「あぁ……美味しい……とても美味しいよ……あずさ」

貴方と少しでも長く……長く、一緒にいたいから……。











『ねぇ貴方?』



真っ直ぐに、煙が天に昇る日。



『スープを作ったの』



貴方が一番好きだったスープを作る。



『腕によりをかけてつくったんだから』



必ず貴方は言ってくれたから。



『だから……』



どんな時だって言ってくれたから……。



『美味しいよって……言ってよ……』



言ってくれた……んだから。











今日もまた、私はスープを作る。



いつか貴方にまた会えた日に。



美味しいよって、言ってもらいたいから。











今日も私は。



スープを作る。










『さぁ、スープが出来ましたよ』


「まってました! いただきま~す!」