出囃子:虎退治


律子「梅雨は嫌ですね。蒸し蒸しとして暑い季節になってまいりました。東京は葛飾じゃ、
6月になると菖蒲祭りの時期になります。
梅雨どき、傘を指してこう、堀切菖蒲園を歩いていって、茶屋で団子を一齧りするなんてのが、
江戸っ子の嗜みです。
さて、まあ年頃の娘ら3人で菖蒲を楽しみにくる、なんていう、ちょっと色がないお話でございます」

律子「もう、あずさったら、ほんっとに一瞬目を離したらいなくなっちゃうんだから!」

律子「ごめんなさい、伊織ちゃん。でもね、あっちにいいお団子やさんがあったのよ、ね、行きましょう?」

律子「あずさの”あっち”はあてにならないんじゃないの?ねえ、小鳥?」

律子「えっと、でも園内案内には、確かに茶屋が書いてあるわ」


律子「なんて言いまして、茶屋に入って行くわけです」


律子「わたしはオレンジジュースね!」

律子「えっと・・・え、あずささんビールありますよ、ビール行きましょう!」

律子「ちょ、ちょっと小鳥!」

律子「あらあらー、いいですね!

律子「すいませーん、オレンジジュース1つとビール2つください!」

律子「小鳥、お団子も!」


なんて、こんな塩梅です。

律子「おねぃさんー、ビールーふたつー!」

律子「飲み過ぎじゃないの?小鳥、最近冷え性がしんどいって言ってたじゃない。お腹冷やすのもよくないんじゃないの?」

律子「ふっふっふ、伊織ちゃん、その心配はご無用よ。
この前、薬師さんにショウブコンっていう漢方薬を出してもらったら、たちどころに治っちゃったのよ。むしろ冷え性どころか下半身があつ」
律子「ショウブコンっていうと、そこに生えているショウブの根なのかしら?」

律子「まあ、ショウブコンっていう名前でたんぽぽの根っこってことはないわよね」

律子「あずささんも最近、冷え性で空調がきついって言ってましたよね。1本貰ってっちゃいましょうよ」

律子「ちょっとちょっと小鳥!それまずいでしょ!」

律子「まぁまぁいいじゃない伊織ちゃん~」

律子「ああもう酔ってんの!?二人とも!」


律子「と、なんやかんやありまして、酔った小鳥さんはコッソリとショウブを1本引き抜いてあずささんにプレゼントしてしまいました。そして翌朝のこと」


律子「あずささん、おはようございます。迎えに来ましたよ」

律子「あら、プロデューサーさん、あの…ちょっと上がっていただけますか?」

律子「え、ああはい…ってどうしたんですかその髪の毛!」


律子「プロデューサーが驚くのも無理はありません。前髪にぴょこっと飛び出たアホ毛、その先には薄紫の花が一輪」


律子「こ、これどうしたんですか?」

律子「朝起きたら咲いてたんです…」

律子「咲いてたって…なんでまたアヤメが?」

律子「アヤメ?いえ、これはショウブなんじゃないかと」

律子「ああ、ショウブと言ったほうが正確ですね。でも正確に言うならハナショウブですね」

律子「ハナショウブ?ショウブとは違うんですか?」

律子「ショウブっていうのはなんていうんですかね。きりたんぽというか、ちくわというか、
そんな感じの白い花が咲くんです。端午の節句に使うショウブ湯はそっちですね」

律子「あらあら、そうだったんですか。あの、プロデューサーさん、もしかして漢方薬の」

律子「ああ、ショウブコンですか?ええ。ハナショウブじゃなくてショウブですよ」

律子「やっぱり。小鳥さん許すまじですね」

律子「あずささん、何があったんです?」


律子「ということでハナショウブの根っこを、胃薬代わりにすりおろして飲んでしまったあずささんの頭に、
かわいいアホ毛、そしてハナショウブの花が咲いてしまったんですね」


律子「演劇役者をしているあずささん。本人は不安でしたが、いざ舞台に出てみると、美人、胸がでかい、妖艶、おまけに髪のアホ毛の先までかわいいと好評に次ぐ好評。
遂には、年末の女優番付で特級にランクされるという大出世を果たしました」

律子「しかししかし、あまりに急な売れ方だったのと、隠しようのない頭の菖蒲。
町を歩いては三浦あずさだ三浦あずさだと声をかけられ、
劇場の楽屋では陰口を叩かれ」


律子「何よあの三浦って女、あんな花つけてチヤホヤされて」

律子「あんなんで特級女優とるなんて詐欺よねー」


律子「あずささん、気にしないでくださいね」

律子「ええ、ありがとうございます。プロデューサーさん。でも、私今からでも特級は辞退した方がいいのかしら」

律子「あずささん、特級は、あずささん自身への評価なんです。辞退することなんてありません」

律子「その通りだよ、三浦くん!」

律子「番頭さん!」

律子「いいかね。キミ。今のままでは、三浦くんがひとり好奇の目で見られてしまう。これはいたたまれない」

律子「ええ」

律子「そこで、三浦くんのようにハナショウブのアホ毛を咲かせた女優をもう二人用意し、トリオとして活動してもらうことにしたよ!」


律子「さっそく菊地真、我那覇響の2名の飲み物にも、こっそりと小鳥さんがショウブの根を仕込み、二人もハナショウブのアホ毛を持った女優に。
あずささんと3人でユニット”アホ毛山”を組み、これが大人気。
たくさんのファンの歓喜を願う、その先には・・・3人揃って特級女優になるという快挙を果たし、後々まで神話として、語り継がれましたとさ」