出囃子:都鳥


小鳥「えー、齢を重ねるというのが楽しみなのは10代まで、1年どころか1日1日、老化を感じる音無小鳥でございます」

小鳥「だからって、例えば遠距離恋愛してる、なんて話になると、会えない長い期間のうちに女を磨かなきゃ、いけません。それがこの世でも、あの世でも」




小鳥「おい、あずさ!俺を残して逝かないでくれ!」

小鳥『あなた、ごめんなさい…ちょっと、こんどばかりは無理みたい』

小鳥「バーロー!なに弱気になってんだよ!」

小鳥『あなたこそ、弱気にならないで』

小鳥「チックショウ、どうしてあずさが…」

小鳥『あなた、わたしが逝ったら、新しく妻を娶ってくださいね?あなた、ひとりだと家のことなんて何もできないじゃないですか』

小鳥「そんなことできない!あずさが逝ったら一人で生きていく!」

小鳥『あらあら、そんなこと言われたら安心して逝けません・・・。それじゃ、私、逝ったら化けて出ようかしら?』

小鳥「それだ!」


小鳥「かくして、妻あずさは鬼籍に入り、町いちばんの美人の葬式は、しめやかに行われました。すると早速ご隠居が」

小鳥『なあP君、昨日の今日でなんなんだが、君も一人で生きていくというのは大変だろう。どうかね、新しい嫁を貰うというのは』

小鳥「ご隠居、お気持ちはありがたいのですが、やはり私にはあずさが・・・」

小鳥『いや、君、その気持ちはよくわかるが・・・まあ頭の片隅に置いておいてくれたまえ。また落ち着いたころに話そうじゃないか』

小鳥「初七日、四十九日と日は進み、喪があけると、またご隠居がやってきます」

小鳥『あずさくんもきっと君に感謝してると思うよ。どうかね、彼女に不安をさせないためにも、また奥さんを貰っては』

小鳥「いえ、その、もう少し時間をいただけませんか」


小鳥「さすがに彼も、嫁さんが化けて出てくるのを待ってるんで、なんて言ったら大騒ぎになるから、そんなことは言えません。時間を稼ぐためにとにかくごまかします」


小鳥『まぁまぁ、一度でいいから会ってみてくれたまえよ。百か日の法要も過ぎたことだし』


小鳥「もうさすがに、お世話になっている高木屋の主人の顔をつぶすわけにもいかず、一度見合いの場が設けられます」

小鳥「2度、3度、4度と、相手の猛烈なプッシュもあってデートを重ねますが、心の中では、あずさは早く化けて出ないかと、そればかり考えている。
見合い相手の女の子、音無屋の箱入り娘も、男と付き合ったことがないもんだから、
ああ男の人って、普段からうわの空でいるものかしら、とPさんの気持ちには気づかない」

小鳥「そこでそろそろどうだ、と高木屋の主人が二人をくっつけにかかる」


小鳥『なあP君、音無屋の彼女はどうかね』

小鳥「どうかね、と言われましても・・・」

小鳥『いい子だろう?』

小鳥「まあ、俺なんかに付き合おうなんていうんだからいい子には違いないですね」

小鳥『そうかそうか、それじゃああとは私に任してくれたまえ』

小鳥「ちょ、ちょっと待ってください、俺は」

小鳥『どうした、まだそんなことを言っているのか?しょうがないねぇ』

小鳥「せめて、あずさの一周忌を迎えるまでは待ってくれませんか」

小鳥『ふむ、それが君の、彼女へのけじめ、ということかな。わかったよ』


小鳥「こうして結婚は先延ばししたものの、一周忌が近づいてもいっこうにあずさが化けて出る気配がない。そして、あれよあれよと一周忌のその前夜も丑三つ時のこと」


小鳥『・・・なた・・・あなた・・・』

小鳥『あなた、あなた、起きて』

小鳥「zzz、zzz」

小鳥『もう、わたしが起きてと言ったら起きてくださいよ、めっ!』

小鳥「っっあ、あ、あずさ!?」

小鳥『ずいぶんお待たせしちゃったわね』

小鳥「いったい今までどうしたってんだ?なんですぐに化けて出てこなかった?まさか、道に迷った?」

小鳥『いくらなんでもこの一世一代のタイミングで、道には迷いません!』

小鳥『ほら、私が死んだとき、髪剃したでしょう?』

小鳥「ああ、それは決まり事だから」

小鳥『さすがに頭がツルツルの状態であなたの前に化けて出たら、あなたはびっくりしますよね?』

小鳥「それは確かに」 

小鳥『だから、髪が伸びるのを待っていたんです』

小鳥「それにしては、死んだときに比べて髪が短くなったような」

小鳥『だって、明日になったら高木屋のご主人が、あなたに結婚をさせようとしてくるから・・・この髪型、変かしら?』

小鳥「そんなことない、かわいいよ、あずさ。」



小鳥「明けて翌朝、Pさんは朝一番でお寺を訪ねて、一周忌法要をキャンセルして、その足で高木屋へ」


小鳥「すいません、音無屋さんの娘さんとの結婚の件、無しとしてください!」

小鳥『それは、どういうことかな』

小鳥「俺は、やはりあずさの夫なんです。これからもあずさとやっていきます!」

小鳥『いや君、しかしあずさ君は去年の今日、亡くなったじゃないか』

小鳥「何言ってるんですか、ちゃんといますよ。俺の"隣に"・・・」



小鳥「一人を除いてだいたいみんなが幸せになったという、一年目という一席でございます」