美希「今日はミキの誕生日だから、ミキが主役に決まってるの!」

律子「そんなこと聞いてるんじゃないわよ!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■1999年 東南アジア某国

「2番と4番、それに5番脚が損傷。走行不能です」
「残りの脚で車体を戻せるか?」
「やってみます」

「ゴング0より各車。後方に地雷原。その場で停車せよ」
「ゴング1より指揮車。前方に目標多数、接近中」
「目標小隊規模、なお増加中」
「警戒、右方向に熱源反応」
「方位040、移動目標」
「距離1200、移動目標多数。装甲車らしき熱源反応。RPGの射程に入ります」
「ゴングより本部。当該勢力の脅威、更に増大中。発砲の許可を要請する」

『交戦は許可できない。現在、カナダ隊がそちらへ急行中。

 ――――繰り返す。”交戦は許可できない”。全力で回避せよ』

「回避不能! 本部、聞こえるか!」
「前方よりRPGらしき熱源!」

『イジェクト不能!』
『前方よりさらに熱源。なおも増加中』
『脱出できません!』

『隊長おおおおおぉぉぉっ!!』

「…………っ!!」




■2002年 水瀬重工八王子工場・試験棟

L.O.S. " Boot, OK. "
L.O.S. " System normal. Type XL. STAND-BY. "

春香「システム、起動終了」

伊織「OK。視覚操作モードに入って」

春香「了解」

春香「視覚調整よし」

春香「下方視界よし」

春香「背面視界よし」

(視界、中央に伊織)

伊織「……ちょっと。遊びじゃないのよ、春香」

春香「オートバランサー正常作動。下方視界良好」

春香「前方、障害物なし」

伊織「よし、上出来よ春香。リセットしてもう一度はじめからいくわよ?」

春香「了解」



■水瀬重工八王子工場

伊織「装備課から出向して3ヵ月ね。大分慣れたみたいじゃない?」

春香「全然。伊織も被ってみればいいんだよ、あのギア」

伊織「試したわよ」

春香「それで?」

伊織「背中やお腹の下に目が付いてるみたいで、気持ち悪いわ」

春香「でしょ? どうして今までのシステムじゃいけないわけ?」

伊織「レイバーのインターフェイスとしてはあれが理想なのよ。地底、水中、宇宙空間。アイボールセンサーだけじゃ、追い付けないのよ」

春香「アイボールセンサー? なにそれ?」

伊織「目玉よ。肉眼」

伊織「それにね。自転車にしたって、発明された当時は教習所があったのよ。自動車がレーサーだけのモノじゃなくなって、何年経つ? 人間なんにだって、慣れてしまうものなのよ」

春香「でもねぇ!」

伊織「はいはい、わかったわかった。じゃあ気分直しに、例のとこ行きましょ。ね?」



■水瀬重工・格納庫

伊織「お邪魔しまーす!」

春香「こんにちは」

(春香、イングラムを見上げる)

春香「つい1年前なんだよね……これに乗ってたの」

伊織「ええ。実際あっという間だったわね。今となってはこいつもデータ収集用の実験機だものね。……ねぇ、乗ってみる?」

春香「まさか」

伊織「どうして?」

春香「うまく言えないけど……もういいの」

伊織「…………」

春香「さあ、行こ? 急がないと、食堂また混んじゃうよ」

伊織「あら、そうだったわね。ごはんごはん、っと……どうも。お邪魔しました」



■特車隊員養成学校

響「こらぁ! どこを狙って撃ってんだー! グランド5周! おーい! 坂上に石原ぁ! ダラダラ走るんじゃなーい! 直線は全力疾走だー! ダッシュダッシュダッシュ! 何をヘラヘラしてるんだ中川ぁ! キミだけ5周追加だぁ!」

訓練生「教官、質問!」

響「ん? なんだい?」

訓練生「あの、なぜマニュアルで操作を? FCSを使用してロックオンすれば、98%の命中率と聞いておりますが……」

響「……そのFCSが、故障したらどうするんだ?」

訓練生「はあ……? でもレイバーによる警備活動はペアが原則ですし」

響「その僚機が、行動不能だったら!?」

訓練生「いやしかし、そんなケースは万に一つの……」

響「その万に一つに備えるのが、自分たちの仕事なんだぞー!」



小鳥「……まあ面倒見はいいし真剣だし、よくやってるとは思うんだけどねぇ」

   響『気合を入れるんだ! 射撃用意っ!』

小鳥「別に甲子園に行こうって言うわけじゃないしねぇ……」

   響『標的出せぇ!』

小鳥「根性論振りかざしても、ついていけないわよ。戸塚ヨットスクールじゃあるまいし」

   響『あーもーヘタクソだなぁ! どいて、自分がやってみせる!』

小鳥「ついでって言ったらアレだけど、せっかくこんなところまで足運んでくれたんだし、本庁の総務課長として、なんか言ってあげてくれる?」



響「いいかい? 射撃は瞬発力と集中力の勝負だぞ。根性を入れて撃てば必ず当る。標的!」

(移動標的、訓練機前方に出現)

響「喰らえ!」

(射撃、初弾命中。移動機停止も、訓練機が警棒を抜いて突進)

響「まだまだぁ!」

(停止した移動機を、警棒で真上から串刺しに)

響「ふっふーん、見たかー! 初弾が当ったからって気を抜いたらだめさー! トドメを忘れるなよー、トドメを!」

雪歩「……何やってるの、響ちゃん! 苦しい予算の中から調達した備品を、何だと思ってるんですかぁ! ただちに降車してくださぁいっ!」



■特車2課・整備ドック

2小隊員「隊長ぉー」

2小隊員「すいませーん、うちの隊長見かけませんでした?」

整備班員「班長、星井さん見かけなかったかって!」

真美「あー? ミキミキがどうしたって!?」

整備班員「星井さん、捜してるんだって!」

真美「さっき、裏の方へ行くのを見たよー!」

2小隊員「どうも」



■特車2課・ビニールハウス

2小隊員「高槻先輩、隊長見かけませんでした?」

やよい「あー、倉庫から双眼鏡を持ち出してたから、たぶん岸壁ですよー!」



■岸壁付近

2小隊員「隊長ー! 隊長ぉー!」

美希「……あふぅ。どうしたの?」

2小隊員「課長代理から連絡が入りまして、帰隊時刻が多少遅れるそうです」

美希「会議押しちゃったのかな。それとも渋滞?」

2小隊員「さあ、そこまでは……」

美希「ふーん。そう……」

2小隊員「…………」

美希「それで、どうかしたの?」

2小隊員「あの、定刻を過ぎましたので、第1小隊に待機を引き継いで帰宅しても……」

美希「それはいいけど、千早さんがまだ戻ってないし……」

2小隊員「やっぱ、まずいですよね?」

美希「んー……でも、まっ、いっか!」

2小隊員「いいですかね?」

美希「いいんじゃないの? ミキも残ってることだしね!」

2小隊員「第2小隊、待機任務終了。明1200より、準待機に入ります!」

美希「はい、ご苦労さまなの!」

2小隊員「じゃ、失礼します!」

美希「またねー!」



美希「……いいわけがないの」



■警視庁・大会議室

千早「これは昨年終了した首都圏湾岸開発計画、バビロンプロジェクトの工程と、レイバーの稼働状況を表示したものですが、本計画の中枢を為していた、川崎~木更津間の大突堤の完成から、その稼働数は減少の傾向にあります。
   その一方、大阪国際空港第2次拡張計画など、地方都市での工事計画の開始ともあいまって、レイバーの拡散の傾向がみられ、レイバーによるトラブルや犯罪も、各地で増加しつつあります。
   これに対処すべく、大阪府警、神奈川県警は、昨年レイバー隊を新設。さらに愛知県警、宮城県警、千葉県警の交通機動隊についても現在設置を検討中であります。

   次に――――」



■警視庁

男1「如月さん!」

千早「……誰か来てるとは思ってたけど、それにしても久しぶりね」

男2「そりゃないだろ。何度誘っても、埋立地に篭もって出て来やしないくせに」

男1「警部昇進に次いで、課長代理だって?」

千早「何を聞いてたの? 特車2課そのものが本年度中にも改編される、それまでのつなぎよ」

男1「昇進は昇進さ。遅すぎた位だよ」

男2「ところでどうかな、今夜、765プロの卒業生が集って一席設けるんだけど」

男1「技本の、渡辺や田中も来るんだ」

男2「今度こそ引っ張って来いって、厳命でね」

千早「……悪いけど、今日は遠慮させていただくわ」

男1「そんな。プロデューサーとのことならもういいじゃないか」

男2「おい!」

千早「……どのくらいになるのかしらね?」

男2「PKOから戻ったプロデューサーが行方不明になってから3年か……」

男1「ねえ……プロデューサー、君にも何にも言わずに」

男2「おい、いい加減にしろ!」

千早「……一度だけ、帰国した直後に手紙を貰ったわ」



千早「本当にごめんなさい。今夜からうちの小隊が、待機任務なので。皆によろしく伝えて」

男2「……お前が無神経すぎるんだよ」

男1「警視庁きっての才媛と言われた彼女の……ただ一つの、傷か」



■首都高速横羽線・千早車内

真美『はい、特車2課』

千早「真美? 千早よ。ようやく終わったわ。そちらの状況は?」

真美『出動要請もないし、静かなもんだよ。ヒマヒマでグダグダなカンジ→』

千早「ふふっ。美希いるかしら?」

真美『呼んでこよっか? ちょこっと時間かかるかもだけど』

千早「美希にはちゃんと公用の携帯も持って歩くようにしてもらわないとね……。いいわ。今、横羽線に乗ったところだから、渋滞がなければ15分程で――――
   ――早速捕まったわ」

真美『ありゃ、ゴシューショー様。ま、留守は任せて、ゆっくり戻って来てね! それじゃ!』

『こちら、神奈川県警交通機動隊です。レイバーが頭上を通過します。危険ですので車から降りたり、ドアの開閉は行なわないで下さい。こちら、神奈川県警交通機動隊です』

千早「移動中のロードランナーへ。こちら、警視庁特車2課の如月警部。応答願います」

『こちらは交機201。如月隊長ですね。研修でお世話になった御手洗です。どうぞ』

千早「任務中失礼します。橋の両岸で通行規制の様ですが状況を、説明願えますか?」

『ベイブリッジに違法駐車している車に爆弾を仕掛けたと通報がありまして、橋の通過を全面規制。現在処理に向かうところです』

千早「了解。交信終わり。どうもありがとう」




――――ベイブリッジ爆撃




■報道番組

「今日午後5時20分頃、高速湾岸線の本牧と大黒埠頭を結ぶ横浜ベイブリッジで、大規模な爆発がありました。死傷者の数など、詳しい情報はまだ入っておりません」

「高速湾岸線は、ベイブリッジ爆発直後から全面通行止めになっています」

「爆破予告の電話により、ベイブリッジは事故当時交通規制が布かれていました。警察では予告電話の犯人の割り出しを急ぐ一方、一連のテロ事件との関連を調べています」

「爆発の状況とその規模から、大掛りなテロとの見方が強まっています」

「午後10時を回った現在も、首都高速横羽線の――――」

「大掛りなテロとの見方が強まる一方、事故発生時にベイブリッジ周辺でジェット機の爆音を聞いたという複数の情報も寄せられており、警察当局はその裏付けを急いでおります」

"...explosion or bombing. It is now eleven a.m. in Japan, six hours since the blast occurred,
and the area is still gripped in an atmosphere of utter confusion. "

" At this point we'd like to show you this one shocking scene from a home video tape. "

「SSNが入手した映像を専門家が分析した結果、この機体は米国製のF16の機体をベースに独自の改良を加え、1998年に実戦配備された航空自衛隊の支援戦闘機、F16Jであるとの見方が有力となってきました。同機は青森県三沢の第3航空団の2個飛行隊をはじめ全国で130機が配備されており、航空自衛隊では事故当時の各機の所在の確認を――――」

「横浜ベイブリッジ爆破事件と自衛隊機の関連について防衛庁は、自衛隊内には該当する機体は存在しないとの声明を発表しました」

「ベイブリッジ爆破事件で様々な憶測が飛びかうなか、自衛隊機の関与があったかどうかに論議が集中しています」

「防衛庁はいわゆる横浜ベイブリッジ爆撃事件で、自衛隊機の関与を繰り返し強く否定しています」

「ベイブリッジ爆撃事件に関して政府は特別調査委員会を設置し、真相の解明に全力を尽くすとの見解を示しました」

「この時間は番組を変更して報道特別番組をお送りしております――――」





■首都高速

真「……で、目撃者の一人が、機材に書かれたそちらの名前を覚えていましてね」

制作会社「おかしいな……」

真「は?」

制作会社「いや、確かにあの時うちのスタッフが撮影してましたよ、ベイブリッジ。でもそのテープはもう、証拠品として提出済みですけどね」

真「……!?」

制作会社「あんた、本当に警察の人?」



■ビデオ制作会社

制作会社「昨日の2時頃だったかな……しかし、妙な話だね」

真「どこの署の者か、名乗りませんでしたか?」

制作会社「いや? あんたと同じくらい、本物に見えたけどね」

真「ビデオを押収する際に、何か書類は?」

制作会社「そういうやりとりは発注元とやったらしくて。私が見たのはクライアントからの指示書だけでね。ま、なんだって言うなりだからね。うちは下請けだから」

真「コピーとか……」

制作会社「オリジナルすら満足に保存できないのに? マスターを納品したら素材は全て潰してしまうのが現状だから」

真「ところでテレビで放映した例のF16の映像、あなたも見ました?」

制作会社「嫌になるほど見たけど、それが何か?」

真「押収されたテープ、あれよりは鮮明なんでしょうね?」

制作会社「そりゃハイビジョンだからね。ホームビデオとは違うよ」

真「何か映ってましたか? 爆破の瞬間はあったわけでしょう?」

制作会社「瞬間というか、ま、直後のもんだね」

真「あなた見たんじゃないんですか、その目で」

制作会社「そりゃ見たさ、何度も何度も。私が編集したんだから。でも納期も迫ってたし、使える絵を探しただけで、何か映ってないかと思って見てた訳じゃないからね。映ってると知ってりゃ見えただろうけどさ」

真「…………」

製作会社「……もしかしたら、何か映ってたのかもしれないな」



■特車2課隊長室

美希「……なるほど。それは確かに気になるね。うん、お願い。面倒かけちゃって悪いんだけど。え? またまたぁ。ミキのカラダならいくらでも差し上げるの! じゃ、まったねー♪」

千早「……真ね?」

美希「う、うん。千早さんによろしく、って!」

千早「美希」

美希「はい?」

千早「また真と組んで何を始めたか知らないけど、動く時は一言言ってちょうだい。裏でこっそりってのは、なしにして」

美希「それって課長代理としての命令?」

千早「命令なんてしたくないわ、同僚としてのお願い」

美希「お願いじゃあ、聞かないわけにはいかないの……」

やよい「失礼します!」

美希「はいなの」

やよい「あのー、隊長にお客さんなんですけど……」

美希「隊長二人いるけど、千早さん? ミキ?」

やよい「さあ……」

美希「……そもそも誰なの?」

やよい「……さあ?」



■特車2課隊長室

美希「陸幕調査部別室の秋月さん、ね。住所も電話番号もないなんて変わってるね」

律子「ええ、まあ色々不都合がありまして」

美希「で、なんの用なの?」

律子「本題に入る前に、ちょっと見ていただきたいものがありまして……これなんですが、お願いできますか?」

千早「このテープでいいんですか?」

律子「いいんです。これで」

美希「……この曲、ミキ歌えるよ?」

律子「この辺は、まあどうでもいいんですが。歌いますか?」

美希「マイクないの」

律子「じゃ飛ばします……この辺です」

美希「教えてハニー、未来は何色?」

律子「いえ、その後です。日に日に胸がキュンキュン、ここです」

美希「……どこ?」

律子「ほら、右上の。この雲の切れ目のとこ」

美希「ん? んん? んー?」

千早「どこ? 私には見えないけど」

律子「ここですよここ! この黒い鳥みたいな影! 星井さんはもう、おわかりのはずだ」

美希「――このすぐ後に、ベイブリッジが吹っ飛んだの」

千早「……っ!」

律子「……これを踏まえた上で、もう一本のテープを見ていただきたい。改竄の余地のないよう、作業の過程を全て収録してあります」

美希「デジタル技術の驚異って奴なの」

律子「わかりますか?」

美希「あんまり詳しくないんだけど、テレビでやってたビデオの飛行機とは、形が違うって思うな」

千早「そういえば……」

律子「……これでどうです?
   左が今見たビデオのもの。そして右がテレビで放映されたもの。よくご覧なさい。左が最新型のステルス翼。そしてこれも、ごく最近開発されたベクターノズル。そしてここからが本題ですが、自衛隊はこのタイプのF16を、装備していない」

美希「ちょっと待って。その前に、どうしてミキたちにその話を?」

律子「無論、真相究明に協力していただきたいからですよ。それに最悪の事態に備えて、現場レベルでのパイプを警察との間に確保しておきたい。もちろんその為には我々の入手した情報は全て提供します」

千早「最悪の事態とは、どういうことかしら?」

律子「……どうです。ドライブでもしませんか? 近場をぐるっと」



■首都高速

律子「走る車の中にいると落ち着く性分なのよ。考えがよくまとまるのね。走ることで自らは限りなく静止に近付き、世界が動き始める」

美希「それに動く車なら話が外に漏れる心配もない、か……そろそろお仕事の話、しないの?」

律子「ベイブリッジが爆破された夜、三宅島での夜間発着訓練中に失踪した米軍機があったの」

美希「それがさっきのビデオの飛行機ってこと?」

律子「米軍自身がそれを認めて報告してきたわ。もちろん、非公式なものだけどね。私たちには独自のルートがあって……まぁ、軍は軍同士ってことね。意外に思えるかも知れないけど、事実を隠して我が国の防衛体制をむやみに混乱させるのは、彼らにとっても得策ではないのよね」

千早「でも何故、米軍がベイブリッジを?」

律子「無論、彼らに攻撃の意志があったわけじゃないわ。今回の事件に関して言えば、米軍も、そしておそらくはミサイルを発射したパイロットも、被害者に過ぎないの」

美希「……説明、してくれるよね?」

律子「私たちは1年程前からあるグループの内偵を進めていたのよ。国防族と言われる政治家や幕僚OB、それにアメリカの軍需産業。米軍内の一部勢力。まあそういった連中の寄り合い所帯ね。

   冷戦終結後、拡大の一途を辿るアジアの軍拡競争の流れの中で、一向に軍備の増強を図ろうとしない日本に対して、彼等は根強い危機感を持っていたわ。そして、平和ボケの日本の政治状況を一挙に覆すために、連中は軍事的茶番劇を思いついたの。

   昭和51年。日本の防空体制と国防意識を揺さぶった、ソ連防空軍中尉の亡命騒ぎの再来よ。低空で首都の玄関先に侵攻し、その真白なドアにロックオンのサインを刻んで帰ってくる。そして作戦は、見事に成功したわ。ただ一つ、本物のミサイルが発射されたことを除けばね」

千早「……事故?」

律子「かもしれないけど、それが証明されない限り何者かの意志が介在したと考える方が自然ね。現にその場を離脱したF16は、現在に至るも帰還していないわ」

美希「そのヤバい人たちの茶番が、どこかの誰かに利用されたとして、その目的は?」

千早「ちょっと待って! その前に、そこまで分かってるなら公表して自衛隊への疑惑を晴らそうとしないの? 防衛庁はそのことを――――」

律子「もちろん知ってるわ。幕僚さんたちは公表を迫っているけど、政府はまだ迷っているの。第3者の犯罪の可能性といっても、状況から推測しているだけで確たる証拠は何もなし。事故の線で公表したって、収拾のつかないスキャンダルに発展することは避けられない。そんなもんで、取り敢えず真相の究明に全力を挙げつつ、事態の進展を見守ろう、と……。

   まあ、そんなとこね。馬鹿な連中よ。それこそアイツの思う壷だわ。現場を無視したこんなやり方が続けば、いずれは――――」

美希「……薮を突いて、蛇を出しかねない、か」

律子「そうなる前になんとしても犯人を押さえたいの。協力して貰えるわよね?」

美希「律子さん、だったっけ? 面白いお話だったけど、それこそ状況証拠と推測だけで、ちゃんとしたものは何もない。さっきのビデオにしたって、ビデオテープそのものが証拠だと言えないってことは、自分でバラしてみせちゃったわけだし。やっぱこの話、乗れないの」

律子「星井さん。あんたはやっぱり噂通りの人ね。私の人選は、間違っちゃいなかったわ。でも、二本のテープが二本とも虚構だったとして、吹っ飛んだベイブリッジだけは紛れもない現実よ。違うかしら?」

美希「…………」

律子「座席の背にあるファイルを」

(千早、ファイルを手に取り開く。美希、隣から覗きこむ)

律子「通称『プロデューサー』。例のグループの創立以来のメンバーで、現在所在不明。私たちが全力を挙げて探している、第一級の容疑者。レイバーに関わる者なら、その名前くらいは知ってると思うけどね」

美希・千早「「…………」」

律子「仕事柄、私たちはこの手の人捜しが苦手なの。事が事だけに、警察のご厄介になるわけにもいかなくってね」

美希「いちおうミキたちも、ケーサツの人なんだけどな」

律子「星井警部補はあちこちに強力なパイプをお持ちだそうね。それに、特車2課の超法規的活動、いやご活躍と言った方がいいのかしら? 噂は常々」

美希「ひどいな誤解なの。律子と同じ、タダの公務員だよ」

(自動車電話、着信)

律子「失礼……」

(律子、受話器を上げる)

律子「私よ……なんですって?」

(律子、左に急ハンドル)

美希「あっぶなっ! ちょぉっとぉ! 仮にも現役の警察官を2人乗せてるんだよ!?」

律子「奴の動きの方が速かったわ! 爆装したF16Jが3機、三沢を発進して南下中。約20分後に、東京上空に到達する!」



■中空SOC

『SIF照合。当該機、北部航空方面隊3空8飛行隊所属、F16J3機。
    コールサインワイバーン。応答ありません。
    エリアH2K1、ヘディング190、高度32,000、速度720ノット、なお南下中』

あずさ「三沢はどう? つながった?」

『北部SOCをはじめ、各飛行隊とも応答ありません』

「ダイレクトラインで基地の司令を呼び出せ。出るまで続けろ! ……まさか、三沢が?」

あずさ「まさか、そんなことがある訳ないわよ……」

『邀撃機、上がりました。百里204よりウィザードゼロスリー、小松303よりプリーストツーワン。会敵予想時刻、ウィザードネクスト2204、プリーストネクスト2210』

『Trebor, this is Wizard 03. Now maintain angle 32.』
『Wizard 03, this is Trebor. You are under my control. Steer 040, maintain present angel.』
『Roger.』

『ワイバーン、なお南下中。応答ありません』
『追尾、SS37よりSS27へハンドオーバー。Wizard会敵予想時刻修正、next05」

『Wizard 03, target position 030, range 90, altitude 32』

「部長、会敵してなお応答のない場合は?」

『北空SOC、つながりました』

あずさ「こちら中空SOC、どういうこと? 南下しているFSを、すぐに引き返させて! ……え? 上がっていない?」

『三沢管制隊は発進を確認していません。8飛行隊に保有機の所在を確認中ですが、回線が不通。ダイレクトラインも輻輳を起こしています』

あずさ「北空の飛行隊を、全部確認して。最優先よ!」

『了解』

「部長」

あずさ「SIFコードは確実に変更されているし、外部の偽装は不可能……システムエラー?」

「自己診断プログラムが常時走ってるんです。エラーのまま進行することはありえません!」

あずさ「ウィザード、コンタクトはまだ?」

『Target dead ahead 25. Wizard 03, how about contact?』
『Negative contact. Request target altitude.』

あずさ「目標は、あとどれ位で首都圏に入る?」

「約十分後です」

あずさ「入間の第一高射群に発令。ただちに迎撃態勢に入って。それと……長官に、緊急連絡を」

「…………」

『Trebor. Wizard 03. Negative contact. Bogy dope.』
『Target deadahead 15, heading 190, altitude 32, mach 1.2. Reduce speed.』
『No joy. Negative contact. I say again, no joy. Request target position.』

「危険です。一度退避させて、再度」

あずさ「時間がないわ。奴が進路を変えれば、プリーストのアプローチは手遅れになるかもしれない」

『Caution. Almost same position. Same altitude. Please caution』
『Wizard!!』

あずさ「ベイルアウト……撃墜された?」

「まさか……」

『目標、変針します。方位210、降下しつつ増速中。プリースト接近、距離20マイル』



■成田管制

「なんだこれは?」
「どうなんだ?」
「こっちにくるぞ」
「府中から連絡のあった奴か。無茶しやがる」
「まさか、ベイブリッジの続きじゃ?」
「冗談じゃねえ! アプローチに入った便を除いて、着陸待ちは全て上空待機だ。高度に注意しろ!」
「国際線は大阪にまわせ。急げ!」



■成田空港

『ただいま上空の天候が不安定なため、全ての到着便ならびに出発便の変更を行っております。いましばらくお待ち下さい』



■中空SOC

『成田上空を通過、東京へ向かっています 60秒後に首都圏に到達。プリースト、レーダーコンタクト。ワイバーンを捕捉しました』

あずさ「武器の使用を許可します」

「……しかし!」

あずさ「人口密集地に入る前に墜としなさい!」

『Priest 21, this is Trebor. Clear fire. Kill Wyvern.』
『Trebor. Say again.』
『I say again. Kill Wyvern.』
『Roger. Kill Wyvern.』

『…………03
 This is Wizard 03. Request order.』

あずさ「プリーストツーワン、待って!」

『Wizard, Wizard 03, this is Trebor. Are you normal?』
『Trebor, this is Wizard. Ah, we have heavy jamming, and now lost position. Request further instraction. I say again, request order.』

『ウィザードゼロスリー、確認しました。周辺空域にストレンジャーなし』

あずさ「プリースト、攻撃を中止」

『攻撃中止』

あずさ「ワイバーンが、消えた……?」

『FIが指示を求めています』

「警報解除。プリースト帰投せよ。ウィザードも帰投させろ」

『This is Wizard 03. Request order.
 This is Wizard 03. Request order.』



■水族館

律子「元々空自のバッジシステムは、その性格上閉鎖システムとして設計されていたけれど、政治的判断やら、安全保障体制への建前やら、色々あってね。結局在日米軍基地ともリンクしているのが現状よ……あんた聞いてんの?」

美希「……そのツケが、例のスクランブル騒ぎってことでしょ?」

律子「犯人はドイツにある情報サービス会社のゲートウェイから、アメリカの大学のネットを経由して在日米軍基地のシステムに潜り込み、府中COCのメインフレームを通して、幻の爆撃を演出してみせた。そういう仕掛けよ」

美希「原理的には可能でも、ホントにできるの? そんなこと」

律子「現行のバッジは1991年に旧システムを一新したものだけど、処理速度の向上を図って去年ソフトを書き替えたばかりなの。その計画に関わった技術者の中に、奴等のシンパがいたのかもしれないわね」

美希「今回もホントのところは公表されずじまい、かな」

律子「政府も防衛庁も、バッジにハッキングされたなんてことは公にしたくないでしょうしね。またしても泥を被るのは現場。それに真相を解明する前に次の状況に移るとしたら……」

美希「ま、実際そうなったしね……」

美希「『プロデューサー』について、他には?」

律子「『765プロ』のことは?」

美希「ちょっとは……ね。『多目的歩行機械運用研究準備会』、だったっけ? 通称、『765プロ』。

   レイバーの軍事的価値に逸早く注目し、様々なシミュレーションモデルによってその有効性を実証。第一人者たる中心人物が『プロデューサー』と呼ばれるようになって、そのプロデューサーによって自衛隊技術研究本部と民間企業との連携に多大な成果を挙げた。

   ……資料の丸暗記だけどね。PKOへの海外派兵が決まったとき、プロデューサーが派遣に志願したのは、そのときの研究成果を試してみたかったから……なのかもしれないね」

律子「レイバーの運用に最も向かない高温多湿の熱帯雨林で、十分なバックアップもなしに単独で投入された機械化部隊がどうなるか、彼が一番よく知っていたでしょうよ」

美希「それでもプロデューサーは行った……なんでだろうね?」

律子「その前に……。警視庁レイバー隊創設直前、レクチャーを受けるために本庁から一人の警察官が『765プロ』に派遣されたわ」

美希「……如月千早。
   千早さんは765プロの優秀な『アイドル』で、プロデューサーの最高のパートナーだった。まあ、ちょっとした『不祥事』があって、記録には残ってないけど。立場がどうあれ男と女だもん。そういうことだって、あると思うな」

律子「プロデューサーに妻子がなければそれで済んだかもしれないけどね……調べたの?」

美希「あの頃本庁にいた人なら誰でも知ってるよ、そんなこと。ミキはね、いちいち仕事仲間の過去をほじくり返すのなんてヤなの」

律子「同僚ね……まあそういうことにしておきましょうか」

美希「ケーサツってとこは、そういうのにうるさいの。本当ならキャリア組として、警備部のエリートコースまっしぐらのはずだった千早さんが、埋立地に島流し……それが理由なのかな?」

律子「……さあね」



■川岸

2課隊員「隊長ぉーーー!!」

律子「しかし派手ね、あんたたちの制服は」

美希「派手なのはいいけど、なんかカッコわるいの。私服の律子のほうが羨ましいよ」

律子「なぁに。これはこれで苦労があるのよ。地味ならいいってもんでもなくってね。敵とは異なっていながら、しかも目につきにくい服装ってのは難しいものよ。私の仕事では、それが特に重要だから」

美希「……ねえ。プロデューサーがしたいことって、なんなの? その人、一人で戦争でも始めたいのかな?」

律子「戦争ですって? ……そんなものはとっくに始まってるわ。問題なのは、如何にけりをつけるか。それだけよ」

美希「…………」



■高速艇上・美希回想

律子『ねぇ。警察官として、自衛官として。私たちが守ろうとしているものってのは、なんなのかしら。前の戦争から半世紀。私もあんたも生まれてこの方、戦争なんてものは経験せずに生きてきたわ。

   平和……私たちが守るべき、平和。
   ……でもこの国の、この街の『平和』っていったいなに?

   かつての総力戦とその敗北、米軍の占領政策。ついこの間まで続いていた、核抑止による冷戦とその代理戦争。そして今も世界の大半で繰り返されている内戦、民族衝突、武力紛争。そういった無数の戦争によって合成され支えられてきた、血塗れの経済的繁栄……それが、私たちの『平和』の中身よ。

   戦争への恐怖に基づくなりふり構わぬ平和。正当な代価を余所の国の戦争で支払い、その事から目を逸らし続ける不正義の平和」

美希『……そんなインチキな平和でも、それを守るのがミキたちの仕事なの。不正義の平和だって言うけど、正義の戦争より余程ましだって思うな』

律子『あんたが正義の戦争を嫌うのはよくわかるわ。かつてそれを口にした連中にろくな奴はいなかったし、その口車に乗って酷い目にあった人間のリストで、歴史の図書館はいっぱいいっぱいだもの。

   ……でも、あんたは知ってるはずよ。正義の戦争と不正義の平和の差は、はっきりしたものじゃないわ。『平和』という言葉が嘘つき達の正義になってから、私たちは、私たちの『平和』を信じることができずにいるのよ』

美希「…………」

律子『戦争が平和を生むように、平和もまた戦争を生む。単に戦争でないというだけの、ネガティブで空虚な『平和』は、いずれ実体としての戦争によって埋め合わされる。そう思ったことはない?

   その成果だけはしっかりと受け取っておきながら、モニターの向こうに戦争を押し込めて、ここが戦線の単なる後方に過ぎないことを忘れる……いいえ、忘れた振りをし続ける。そんなゴマカシを続けていれば、いずれは大きな罰が下されると」

美希『……罰? 誰がやるの。神様?』

律子『この街では、誰もが神様みたいなものよ。いながらにしてその目で見て、その手で触れることのできぬあらゆる現実を知る。何一つしない神様ね。神がやらなきゃ、人がやる。

   いずれわかるわ。私たちが、アイツに追い付けなければね……』



■特車2課棟・格納庫

真美「おーらいっ! おーらいっ! おーらいっ!」



■特車2課隊長室

千早「……それは十分分かっております。はい。ですからそういうことでは……しかし部長!」

(美希、千早の様子を察知し、別の受話器にて内容を傍受)

高木警備部長「だからこそ我々としても万一に備えて可能な限りの対応をせねばならんのだ。これは長官の命令でもある。改めて命令する。明朝7時より特車2課はその総力を挙げ、所轄の警察署及び第4機動隊と共に練馬駐屯地の警備に当たりたまえ。以上だ」

(電話、一方的に切れる)

美希「……出動するつもり? ……千早さん?」

千早「三沢の各飛行隊に、飛行禁止命令が出たのは知ってるわね?」

美希「…………」

千早「今から30分前、青森県警が抗議のため車で東京に向かおうとした基地司令を事情聴取のために連行したそうよ。しかも基地ゲート前でね」

美希「青森県系の本部長は、警備部時代から黒井のおじさんの腰巾着と言われてた人だよね。それにしても無茶するね……自分家の玄関でそんな真似をされたら、黙ってられないよ」

千早「三沢基地は現在外部との交信を途絶して実質的な篭城に入ったそうよ……こんな時にあなたはいったい、どこをうろついてたの! 準待機とはいえ無断外出で持ち場を離れ、高速艇の迎えまで出させるなんてどういうつもりなの!? 裏でこそこそ動かないと言った、私との約束なんかどうでもいいってことなの ね!」

美希「ごめんなさい、千早さん! この通りなのっ!」

(美希、ほぼ直角に上半身を倒して詫びる。その姿勢のまま、首だけ正面を見る)

美希「……でもさ、あの律子に会いに行くと言ったら、許可してくれた?」

千早「するわけがないでしょう。よりによってこんな情勢下に、自衛隊のそれも情報関係の人間と警備部の人間が密会するなんて!」

美希「こんなときだから、会う必要があるんだけどなぁ……」

千早「なんですって?」

美希「ねえ千早さん、落ち着いて考えてみて? 今、ミキたちが何をしなきゃなのか。自分たちの縄張りで何かしなくちゃ、何かしよう。そのことが問題をここまでこじれさせちゃってる。そう、思わない?」

千早「でも、万一の事態に対応できるように、やれるだけのことはやっておく必要が……」

美希「万一の事態って、いったいなんなの?」

千早「…………」

美希「みんなそんなこと有り得ないって思ってるのに、心のどこかでひょっとしたらとも思ってる。あのベイブリッジ以来ね。この間のスクランブル騒ぎがいい例じゃないかな? 府中の防空司令なんて撃墜命令まで出しちゃった、って言うくらいだものね。

   あの腹黒部長、このチャンスに良い子ぶってお偉いさんのご機嫌取りをするだけじゃなくて、自分の偉くなるのも狙ってるんでしょ。こんなときに警察が、その向き先を自衛隊に向けたら?」

千早「…………」

美希「プロデューサーって人、もし今回の事件のリーダーだったら、すごくアタマが良いよね。たった一発のミサイルでこれだけのパニックを起こして、しかもどんどん大きくなってる……ねぇ、やっぱり明日の出動やめようよ?」

千早「私だって行きたくないわ。でも高木部長からの正式な出動命令なのよ」

美希「うちの小隊、動かないよ?」

千早「課長代理として命令することもできるのよ?」

美希「してみれば? 命令」

千早「結構。では第1小隊もこれより独自に行動します。私もたった今から課長室の方へ移りますから」

美希「いや、あの、でも、千早さん?」

千早「私物は後で取りに来るわ。では、失礼」

(千早、退出)

美希「そんな。ねえ! そんなことしたって、ミキ絶対に行かないんだからね!?」

(その後、黙ってだるまストーブに当たっていた美希が、内線電話をかける)

美希「あ、千早さん? ……気、変わった。今、変わったの」



■練馬駐屯地警備

記者「はい、こちら練馬区にある陸上自衛隊の駐屯地上空です。昨日実質的な篭城に入った三沢基地に呼応し、各地の自衛隊駐屯地でこれに同調する動きがみられます。首都に駐屯するここ第1師団でも、今朝から警戒にあたっている警視庁警備部、第4機動隊および特車2課との間に、無言の睨み合いが続いております」

(美希、おにぎりを頬張りながら、車に肘を付いてリラックス)

機動隊長「おい」

美希「ん? どうしたの?」

機動隊長「君の小隊のレイバーは起動せんそうだが、どういうわけだ」

美希「へ?」

機動隊長「レイバーだ。なぜ寝たままなんだ。わけを言いたまえ」

美希「ああ、これ? 故障なの」

機動隊長「なに、故障? 特車2課は故障したレイバーを担いで出動するのか。嘘をつくな!」

美希「ホントなの」

機動隊長「よし。だったら立っているだけでもいい。デッキアップしたまえ」

美希「うーん、でも故障中だから、もしかするとバターンって倒れちゃったりして、それってちょっと警備部としては全国的に恥ずかしいカンジになっちゃうと思うけど……それでもやっちゃう? デッキアップ」

機動隊長「これは現場指揮に対する明白なサボタージュだ。警備部長に報告する。覚悟しておけ」

(美希、形だけ神妙な顔を作って敬礼。直後、美希の車内から着信音)

美希「ミキなの」

律子『私よ。テレビで拝見してるわ。宮仕えは辛いってとこね』

美希「お互いの子供同士のケンカで、引っ込みがつかなくなった親みたいなものだしね。偉いだけのバカの下にいると、苦労ばっかりなの」

律子『こちらも同じよ。悪い軍隊なんてものはないわ。あるのは悪い指揮官だけだってね。各地の篭城の責任を取るってことで、陸海空の幕僚長達が一斉に辞任したわ』

美希「……マジ?」

律子『30分程前にね。じきに報道されるでしょうよ。連中はこれで公明正大にベイブリッジの一件をばらすつもりでしょうけど、遅すぎたわ。国防と公安の関係がここまでこじれた後じゃあ、ね。米軍が掌を返せばそれまでだわ。真相を公表するタイミングを逸しただけでなく、事態を収拾する手段も消し込んだ。また一つ、タガが外れたのよ……ちょっと。聞いてるの?』

美希「あふぅ……聞かなきゃって思ってるんだけど、眠気に耐えられないの」

律子『起きてて貰うわよ、ここからが本題なんだから。政府は自分たちのことは棚に上げて、ここまで事態を悪化させた警察を逆恨みしているわ。頼るに値せず、ってね。それで、シナリオは変えずに主役を交替することにしたってわけ』

美希「……それって、まさか」

律子『ええ。そのまさかよ。ステージはミスキャストでいっぱい。誰もその役を望んでやしないのにね。素敵な話じゃない? これが私たちの『シビリアンコントロール』ってやつの実態よ。プロデューサーは3年前、自分の部下を死なせたのと同じルールで、今度は私たちがどんな戦争をするのか、それを見たがっているのかもしれないわ……』



■自衛隊治安出動

「ヤタガラスよりタカマ。カムヤマトの通過を確認。送れ」

■新宿ALTAビジョン

(チャイム音声。「緊急放送」のテロップ)

『東京および近県の視聴者の皆さんにこれから緊急放送をお送りします。テレビの近くにいる方はできるだけ多くの方に声をかけ、放送をご覧になるようご協力をお願いします』

■女子寮ラウンジ

『先程五十嵐内閣官房長官は緊急記者会見を行い、首都圏の治安を維持し予測される最悪の事態に備えるため、陸上自衛隊内の信頼の置ける部隊に出動を要請したと発表しました』

春香「…………」

■伊織私室

『今回の要請について五十嵐長官は、次のような政府の公式見解を表明しました』

伊織「…………」

■雪歩自宅

『一連の自衛隊関連事件について十分な検討を行なった結果、最早現在の警察力のみでは、予測される最悪の事態に対応できないという判断に基づくものであり――――』

雪歩「…………」

■特車隊員養成学校

『この決定を受けて現在配備が進んでいる部隊は、陸上自衛隊東部方面隊――――』

小鳥「座ってなさい」

響「しかしぴよ子!」

小鳥「いいから、座ってなさいって、もう!」

■特車2課棟最寄りコンビニ

『第1師団第1普通科連隊、同第31普通科連隊、同32普通科連隊、同第1特科連隊、同第1戦車大隊、――富士教導団、同特科教導隊、同戦車教導隊、同普通科教導隊、同東部方面第1飛行隊――』

整備班員1「はいこちら買い出し部隊」

真美「んっふっふー、真美だよ→。いーかい兄ちゃんよーく聞いてちょうだい! たった今から、兄ちゃんたちは買い占め部隊だ! そのお店の食べ物を、ありったけ買って来るのだー! 今、増援部隊を送ったよん!」

整備班員1「了解! 直ちに買い占め、突入します! かかれ!」

店員「いらっしゃいませ」

整備班員1「ああ、亜美先輩!?」

亜美「ぶわぁっかもーん! こんなとこで、なにモタモタやってんでーい! ピクニックに行くんじゃないんだよ、ちょっとは保存ってことを考えてよー! 倉庫だよ! 倉庫行ってラーメンを箱で買うんだよ、箱でっ! おう、そこのカワイ→お嬢ちゃん! この店の食料は、たった今特車2課整備班が買い切ったのだー!」



■特車2課棟・格納庫

真美「電源をチェック! 予備のバッテリーも全部充電にかかってね! 特車2課整備班はこれより、24時間の臨戦体制に突入するよ→! 長期戦を覚悟して、じゅーぶんに備えようね! 今日からはトイレットペーパーも、一人一回15センチまでだかんねー!

美希「真美! 真美ってば!」

真美「おん?」

(美希と真美、周囲の雑音に隠れるようにひそひそ話)



■特車2課・屋外

整備班員「来たぞ!」
    「90式に、小松の2式もいるぞ!」

『ヤタガラスより移動。オオトリ1および2タカメ到着確認。送れ』
『移動。オオセグロ208集合。セグロ4、および5、220.10。送れ』



■新帝都航空

美希『はい、特車2課』

真「美希?」

美希『ああ、真くん。元気?』

真「元気じゃないけど、まあ取り敢えず息災ってとこかな。そっちの様子はどう?」

美希『今のところ平静だけどね。都内に入った部隊の中に、プロデューサーの息がかかった部隊が紛れ込んでるとしたら、いつ何が起こってもおかしくない状況かな。今どこ?」

真「福生の郊外。新帝都航空って飛行船会社を張ってるとこだよ」

美希『飛行船? なにそれ?』

真「荒川の資料にあった連中の公然組織、東亜安全保障って会社を洗ってたら浮かび上がってね。ダミーを介してだけど、1年前に倒産寸前だった会社を買収して経営者も送り込んでる。半年前にアメリカ製の飛行船を3機購入。こないだから都内を飛び回ってるじゃない? ちょっと気になっててね」

美希『あれかぁ。しかしよく調べたね』

真「犯罪の陰に女と金。女は専門外なんで、金の流れを追いかけたってわけさ。お偉いさん達はプロデューサーの暴走に恐れを為して逃げちゃったけど、銀行や税務署の記録は消せないからね」

美希『そんなもの、どうやって見たの?』

真「へへっ、営業上の秘密って奴だよ。ま、軍人さんには無理だけどね……と、いたいた。ずいぶんとゴツい人たちが、やばそうなのぶら下げてるよ」

美希『剥き身で? ずいぶん大胆だね』

真「それと、例のベイブリッジ爆撃の一週間程前だけど、この会社相当大きな買物してるよ。何だか分からないけど、同じものを三つ。とんでもない金額をアメリカに送金してるよ」

美希『また三つなの? 核ミサイルでも買い付けたかな?』

真「さあね。ここは横田からも近いし。米軍経由なら税関もノーチェックだからね」

美希『じゃあ直接、調べるしかないね』

真「まさか潜り込めってんじゃないだろうね?」



真「器物破損。住居不法侵入。多分窃盗。もしかしたら暴行障害。警察官のやることじゃないなぁ」



「動きが素人だな。こそ泥か」
「いや、どっかで見たような」
「そうか。例の特車2課の星井って隊長とつるんでる捜査課の刑事だ」
「消すか?」
「無用な殺生は可能な限り避けろとのお達しだ。眠らせて放り込んどけ。どうせもう何をする時間もないさ」
「やれ」



■如月家

千早「……私に?」

千種「どうしても今夜の内に連絡を取りたいとかで、2課の方に電話したらこちらに向かった後だったからって」

千早「わかったわ。有難う」

千種「食事は?」

千早「書類と着替えを取りに来ただけよ。すぐ戻るから」

千早「……もしもし。如月と申しますが」

  『――――元気そうだな』

千早「…………っ!?」



■貯木場

千早「止まりなさい!」

律子「よしなさい。この暗さでは無駄よ。上の班に連絡、地上から追わせなさい。ライト消して!」



律子「……やっぱり女ね」

千早「どうしてここを?」

律子「人は敵意でなく善意ゆえに通報者になる。子供のためなら何でもするのが、親ってものよ。ごく普通のね」

千早「あの人が……あなたに」

律子「あいにく私は、あの手のご婦人が苦手なのよ。意外な人間に、人望があるものだわ」

(千早、振り返る)

千早「…………」

美希「…………」



■川沿い

(ヘルハウンド3機、離陸)



■福生・新帝都航空

(真、目が覚めると飛行船3隻が離陸する様子が窓に写っており、立ち上がろうとする)

真「……うああっ!?」

(転倒。左手に手錠がされ、空調用と思しきパイプに繋げられている。どうにかパイプを切断し、太いパイプごと担いで新帝都航空を脱出。しかし、真の乗ってきた車は既にコクピットが破壊されている)

真「……くそっ。電話はどこだーっ!!」



■東京上空

『前方を飛行中の編隊へ。攻撃ヘリの出動要請は出ていない。所属、官姓名を名乗れ。どうした』
『ゴング0より各機。時間だ。状況を開始せよ』
「了解。状況を開始する」
『おい今のはなんだ! 状況ってなんだ!?』



■警視庁警備部緊急会議

高木警備部長「早朝にも関わらず、全幹部職員を緊急召集したのは他でもない」

高木「現今の情勢下に、警備部としてその任務を全うするにあたっていかなる方針で臨むべきか。それを討議する為である。状況が状況であるので、今日は特に警視総監の列席をお願いした……が、その前に。今朝未明、神奈川県警交通機動隊レイバー隊に対し特車2課課長代理名をもって出動要請がなされた。如月警部。これはいったいどういうことか?」

千早「その前に、ここにお集まりの方々に申し上げたい」

高木「君の意見等を求めてはおらん。警備部長である私の承諾も得ず、これは全くの越権行為だ。君の行なったことは警察内部の秩序を乱し、延いては社会に無用の混乱を招く軽率な行動だったとは思わんのか?」

千早「では確たる根拠も具体的な要請もなしに行なわれた自衛隊駐屯地への警備出動や、基地司令に対する予防検束に等しい不当な拘束は、軽率ではなかったのか。今回の非常事態の原因は、一連の事件によって醸成された社会不安に乗じ、上層部内の一勢力がその思惑を性急に追求したことにあるのは、今いる全員が承知のはずではないのですか?」

黒井警視総監「……貴様!」

高木「如月君。警察内部に一種の政治的策謀があったとする君の発言は聞き捨てならんが、上層部内の一勢力とは、いったい誰のことかね?」

千早「……ご自分の胸に聞かれてはいかがですか?」

(美希携帯電話、着信音)

美希「ちょっとごめんね!」

黒井「あっ、こら!」

高木「放っておきたまえ」



■会議室付近階段

(美希、着信ボタンを押す)

真『美希?』



■公道上

真「ああ、ちょっとしくじっちゃったよ。それより15分程前だけど、3機とも飛んでっちゃった、飛行船……うん。うん? よし、わかった!」



(特車2課、攻撃に遭い壊滅)



■警視庁警備部緊急会議

(美希、会議室に戻ってくる)

千早「首都圏の治安を楯に、要らざる警備出動を繰り返していたずらに彼等の危機感を煽り、事態をここまで悪化させた責任を誰がどのように取るのか。部内の秩序を論じるなら、まずそのことを明らかにしていただきたい!」

高木「防衛庁内部には警察OBも多数いることを知らん訳ではあるまい。事は既に政治の舞台に移されている。今は彼等を刺激することなく、その行動において協調を図り、撤収の早期実現を模索すべきだと、私は思うがね」

美希(どうにもならないって……だいたい……)

千早「そのためにも、警視庁上層部がその責任を明確にし、自らの非を世間に正されては?」

高木「この地上にはわが国だけが存在する訳ではない。この状況が長引くと、万に一つとはいえ、内戦まがいの状況が出現することにもなる。そうなれば、日米安保条約に基づいて米軍の介入すらあり得る」

美希(第2小隊…………みんな…………)

高木「治安を預かる警察が、自らの失態を認めるがごとき行動は、いたずらに社会の不安を増長させることにもなるだろう」

千早「この期に及んでも、まだそのような妄言を……あなた方はそれでも警察官か!?」

高木「レイバー隊をここまで育て上げた功労者の一人と思えばこそ大目に見てきたが、その暴言は最早許せん。如月警部。特車2課課長代理および第1小隊隊長の任を解き、別命あるまでその身柄を拘束する」

(千早の身柄を拘束するために、控えていた職員が千早の肩に手を掛ける)

千早「私に手を触れるなっ!!」

高木「美希君。君はどう思うかね?」

美希「……現場が遠くなると、ノーテンキな妄想が現実に取って代わる……。現場を知らない、戦争をモニター越しの向こうに追いやった偉い人の決め事に、本当の現実とか言うのは、割とフツーに存在しない――――戦争に負けている時は、特にそうなの」

高木「何の話だ? 少なくともまだ戦争など始まってはおらん」

美希「始まってるよ、とっくに。気付くのが遅過ぎたの。プロデューサーが、この国へ帰って来る前……ううん、そのずっと前から戦争は始まってた。

   ……突然だけど、お爺ちゃんたちには愛想が尽き果てたの! もう付き合ってられないってカンジ! だからミキも、千早さんと共に行動するね!」

高木「……美希君。君はもう少し柔軟な思考ができる子だと思っていたがな」

黒井「二人とも連れて行け!」

職員「報ぉ告ぅ! たった今自衛隊機の爆撃により、東京湾横断橋がっ!!」

(ざわめく幹部職員たち)





美希「だからあ!! ”遅過ぎた”って言ってるんだよっ!!」





■警視庁

(美希、護衛職員の顔面をエレベータ壁面に叩き付ける)

千早護衛「貴様、何をするか!? ……うぐっ!」

(美希、攻撃が不十分だったのか、護衛職員に羽交い絞めにされる)

美希「ちーはーやーさーんっ!!」

(千早。素早く当身を食らわせ、美希の護衛役を倒す。その間、千代田庁舎はヘルハウンドの機銃掃射を受け、窓ガラスが機銃掃射によって打ち破られる)

職員たち「わあああああっ!?」

(降ってくるガラスの破片を、機動隊員が角盾で上から防御している。その横を、猛スピードでパトカーが駆け抜けてゆく)



■パトカー内

美希「……千早さん、辞めるつもりだったでしょ?」

千早「…………」

美希「今は降りちゃダメなの。プロデューサーを止めることはできなかったけど、ミキたちの勝負は、終わってないんだから」

千早「……でもどうやって? もう2課にも戻れないし……」

ミキ「2課は壊滅しちゃったよ、多分……でも、戦力はあるよ」

千早「…………」

ミキ「戦力は、まだあるの」



■都内各所

「オジロ。こちらキニス。226.06。送れ」
「第2小隊指揮車より中隊本部。応答せよ。2号車、聞こえるか。3号車、答えろ」
「本部。こちら201守備隊。本部応答せよ。本部、聞こえるか」
「オナガよりツバメ。都心上空に民間機と思われる飛行船を確認。送れ。
 オナガよりツバメ――――」



■城南島・特車2課棟

やよい「土をほじれば虫さんもいるし、寒さはビニールハウスでがんばれるよね?」

真美「あー、きっと大丈夫だよ。2課育ちはたくましさが違うからねー」

2課隊員「真美さん。整備班の人たちキャリアにあんなもの積んで、どこ行こうっていうんです?」

真美「あー、もしもの場合にって、ミキミキと段取っておいたのさ。黙っててごめーんね♪ じゃ、出前のツケとかプロパン屋の支払いとかいろいろあるけど、後始末よろしくー!」



■四条家

ラジオ音声『羽田、成田両空港も閉鎖されています。今回の事件について政府は、自衛隊内の一部勢力による反乱、クーデターであるとの――――を示しており――――依然として分かっておりません。繰り返します。ただ今通信網が大変混乱しておりま――――』

貴音「……切ってください。そのような声を聞いておりますと、とても切ない気持ちになります」

(美希、ラジオオフ)

美希「がんばってるとこがまだあるんだね。ミキ、全滅かと思ってた」

貴音「あれは電波妨害ですね。時々漏れ聞こえるところが、なんともやりきれません。無駄だとわかっていても、つい耳をそばだてて期待をしてしまう……それで、どうなのです?」

美希「そりゃあいろいろイヤなことはあるだろうけど、今この国で反乱を起こさなきゃいけないな理由が、例え一部であれ自衛隊の中にあると思うの? これだけ派手な行動を起こしておいて、霞が関を占領するわけでもなければ、国に対して無茶苦茶なわがままをこねるわけでもない……そんなクーデター、あったらおかしいよ。わがままが出ないのは、欲しいものがないからなの。

   情報を寸断して社会を混乱させる……ただ、それがしたかっただけ。クーデターを偽装したテロ。それもある種の妄想を実現するための、確信犯の犯行ってことだね。戦争状況を作り出すこと……ううん、東京をステージに『戦争』というドラマを演出する。

   ――――犯人の狙いはこの一点にあるよ。犯人を捜し出して逮捕する以外に、このドラマにエンドマークは付けられないの」

貴音「しかしわかりませんね……いったいなんのために……」

美希「想像はできるけど、捕まえて聞くのが一番だって思うな。じゃ、出かけてくるから、後はよろしくなの!」

貴音「美希、そちらは勝手口にございますよ?」

美希「あはっ、ミキ、これでもお尋ね者なんだよ! あ、そうそう貴音! 念のために言っておくけど――――」

貴音「整備班の皆に命令も強制もすべからず、にございしょう。存じておりますよ」

美希「……あ、そ。じゃあねー」

(美希、勝手口より脱出)

貴音「……千早。できなかったこと悔やんでも始まりません。これからどうするか。そのことを考えるべきかと、存じ上げますが」

千早「…………」

玄関先『……姐さん!』

貴音「……ふふっ、いらっしゃったようですね」

整備班員「姐さん!」

真美「お→いみんな→! やることはばーっちしわかってるよねーっ!?」

整備班員「「へいっ!」」

貴音「2課は壊滅したそうですが、私たちはまだ諦めたわけではありません……決着は特車2課の名に賭けて! 有りったけの兵を集めて八王子へ! 難渋する者には、多少手荒な手を講じても、不問に処しますっ!!」



■雪歩宅

雪歩母「雪歩! 行ったらお終いなのよ。せっかく課長さんになったのに、どうしてあなたが行かなきゃならないの!?」

雪歩「ごめんね……でも行かなきゃ、仕事より大事なものをなくしちゃう。それじゃあ、皆が待ってるから……」

雪歩母「……お見合いのお話があるの」

雪歩「ふぇっ!?」

雪歩母「お父さんも随分乗り気でね……そろそろ雪歩も良い人見つけなきゃ、って」

雪歩「えっ、ういっ、えうういっ!?」

(雪歩の背後に有るドアが急に開く)

真美「ちょっと! いつまでやってんの。時間がないんだよ時間が! じゃあゆきぴょんお借りしていくんで→。どうも→!」

雪歩母「鬼! 悪魔! 人でなし! 雪歩死なないでえ!」



■特車隊員養成学校

小鳥「助かるわ。あの子、訓練生たちを扇動して都内に進撃やらかそうとして……」

整備班員1「で、何人集まったんです?」

小鳥「まさか。養成学校のヌルい子たちが、あんな熱血感120%のアジに乗せられると思う? ……響ちゃーん。お迎えよ?」

整備班員1「どうもどうも」

整備班員2「響ちゃん、元気してた?」

響「遅いっ!!」



■春香と伊織、移動中車内

(伊織、車を路肩に寄せて停車する)

春香「……どうしたの?」

伊織「ここから引き返してもいいのよ? 正規の任務じゃない。行けば、警察官の資格は勿論、レイバーの搭乗資格剥奪ってこともあり得るわ。それでもいいの?」

春香「私より伊織の方が迷ってるみたい」

伊織「迷うわよ、普通」

春香「私……いつまでもレイバーが好きなだけの女の子でいたくない。レイバーが好きな自分に甘えていたくないの。

   ――――お願い。車出して」



■東京上空

航自隊員「やはり無人だ。自動操縦で周回飛行しているだけだ」
    「陸自のヘリが上がる前に俺達の手で片付けるぞ。外すなよ?」
    「あんなでかい的、外しようがあるかよ」
    「鳥が邪魔だな……」
    「鳥くらいなんだ、一緒に落としちまえ」

(発砲。無人のコックピット内でシステムリブート発生。高度漸減低下開始)

航自隊員「どんどん下がってくぞ。おい、どこ撃ったんだ!」
    「冗談じゃねえ。ポート以外、傷一つ付けちゃいないぞ」



■新宿・飛行船墜落地点付近

陸自隊員「逃げろ!」
陸自隊員「状況、ガス!」

『こちら第3管区―――ー落下した飛行船よりガスが発生。急速に―――ー』

陸自隊員「装備のない部隊は―――ーまで退避させろ。できるだけ―――ーんだ!」
陸自隊員「おい、何ぼさっとしてるんだ! マスクを装備している者は住民の避難の誘導を……?」

(足元にマスクをしていない、ごく健康そうな犬を見つけ呆然とする、マスク装着の隊員2名)



■都内某所、車中

美希「ただのガス?」

律子「虫も死なない程度の、ほぼ完全に無害な着色ガスらしいわ。でも効果は絶大ね。あれが本物だったとしたら……」

美希「ハッタリじゃないのかなぁ」

律子「船内からは本物のボンベも発見されたわ。本当に使う気があるかはわからないけど、少なくとも上の連中にそれを試す度胸はないわ」

美希「なんの考えもなくあんなおっきいものをフワフワさせとくわけはないと思ってたけど、10万単位で人質をとるのと一石二鳥とはね……あふぅ。アタマ良いんだね、膠着状態だよ」

律子「それがそうもしてられないのよね。これを見てちょうだい」

美希「……埋立地の航空写真だね」

律子「18号のね。2枚目がその拡大よ」

美希「……ん?」

律子「転がってるのは爆破されたヘリの残骸。そしてそのパラボラは、専門家の分析によると野戦用の強力な通信装置だそうよ。敵の本部といったところね」

美希「コレであの飛行船を?」

律子「それ以外の用途は考えにくいわ。これだけの広域を完全にジャミングできるわけがないもの。恐らく任意に選択された周波数を使って、暗号化されたコードを圧縮して送信すれば、あの強力なECMを解除できるはず。スタンドアローンで制御不能な兵器なんてナンセンスだもの」

美希「……で、その周波数とコードは?」

律子「プロデューサーに聞くわ。間違いなくそこにいるもの」

美希「ここにミサイルを撃ち込むってのはダメなのかな?」

律子「今も通信が続いていて、それが中断することが飛行船のプログラムの発動条件だったとしたらどうする? 私ならそうするわ。その写真、誰が撮影したと思う?」

美希「……米軍?」

律子「今回の事態は、その当初から米軍の厳重な監視下にあったの。1時間程前に大使館経由で通告があったわ。明朝7時以降、状況が打開の方向に向かわなければ、米軍が直接介入する。現在第7艦隊が全力で西進中。各地の在日米軍基地も出動準備に入ったわ」

美希「そんな……無茶だよ」

律子「やるわよ。国家に真の友人はいない。連中にとっては願ってもないチャンス。そうでしょう? この国はもう一度、戦後からやり直すことになるのよ――――」



■水瀬重工・八王子工場

貴音「電装品の換装確認が終わった機体からシステムを転送! 装甲を着けたらやり直しはききませんよ!」

整備班員「3号機、出ます!」

貴音「……流石に手慣れたものですね」

真美「この機体で一人前になった連中ばっかだかんねー。このペースでいけば、なんとか!」



■水瀬重工八王子工場・会議室

千早「敵の野戦本部のある18号埋立地へは奇襲という作戦の性格上、空や海からは攻め込むわけにはいかないわ。そこでバビロンプロジェクト2期工事の際、作業用レイバーを搬入するために使用された地下道を使う。次のステップへ」

雪歩「はい。汐留から中継の人工島を経て、目的地まで全長約1,200m。問題なのは、この最終行程だね。ケーソン工法で作られた典型的な海底トンネルで、全長250m。人工島側から傾斜エレベーターで海面から50mの深さまで降下、続いて高さ約9m、全長約200mの一本道を抜けて、最後に埋立地側のエレベーターで上昇」

響「待ち伏せには絶好の場所だぞ」

千早「敵も、このトンネルの存在について知っていると考えるべきね」

伊織「ちょっと聞きたいんだけど。この地下ルートまではどうやって? 都内は敵味方不明の部隊が入り乱れてるんでしょう?」

雪歩「それは現在、美希ちゃんが手配中だよ」

響「ええっ、美希がぁ!?」



■水瀬重工八王子工場

整備班員たち「すげえ……」
      「すげえや。本物の対戦車ライフルだぜ!」

響「だから! 機関砲とかバルカン砲とか、もっとすごいのないのかー!?」

亜美「ライアットガンだってライフルスラグ弾使えば、装甲車や軍用レイバー程度なら、結構イケイケだよー? 要は当てることだって。片目瞑って、よく狙う。じゃ亜美、忙しいから」

響「戦車が出て来たらどうするんさー!?」

亜美「そん時ゃもう片方も瞑るさー!」



千早「……二人とも、ここで何してるの?」

雪歩「真ちゃんが手に入れたディスク、何かのコード表じゃないかと思って」

千早「コード表?」

伊織「おっと。出たわよ!」

" Do you suppose that I come to bling peace to the world? "
" No, not peace but division. "
" From now on a family of five will be divided, three against two and two against three. "
" Fathers will be against their sons, and sons against their fathers; "
" mothers will be against their daughters, and daughters against their mothers; "
" mothers-in-law will be against ther daughters-in-law, "
" and daughters-in-law against their mothers-in-law. "



■地下鉄銀座線・新橋駅

律子「……こんなところが、東京の地下にあるとはね」

美希「ウォーターフロントに浮かれてた頃の、夢の跡ってヤツかな。昭和18年に閉鎖されてから半世紀以上眠っていた地下鉄銀座線、幻の新橋駅と湾岸の工事現場を結ぶ新旧の結節点。ま、結局は使われなかったんだけどね。

   ……この街にはきっと、こういう場所がいくつもあるんだろうって思うな」

律子「誰に知られることもなく、か……」

美希「……来たの」

(運搬車両、停車)

千早「全員降車。整列」

美希「……みんな、来てくれてありがとう。でこちゃん。春香。雪歩。響。それにやよい。

   みんなのお仕事は千早さんと一緒に、18号埋立地で隠れんぼ中の今回の事件の首謀者を逮捕することだよ。あとは全部、千早さんの指示に従って欲しいな。誰かにジャマされたら、そんなの全力でぶっ飛ばしちゃって。特車2課第2小隊最後の出撃だから、存分に暴れちゃってね!」

千早「直ちに出発する。全員乗車」

美希「……千早さん。相撃ちなんてイヤなの。プロデューサーを逮捕して、必ず戻ってきて。ミキ、待ってるから」

千早「……出発」

(運搬車両、発車)

律子「なぜ? どうしてあんたが行かないの?」

美希「ミキにはやらなくちゃいけないことが、いっぱいあるの。すごくいっぱいお世話になっておいてアレだけど――――律子……さん、逮捕するよ」

真「全員そこを動くな! 秋月律子。破壊活動防止法その他の容疑で貴様を逮捕する!」

律子「……説明はあるんでしょうね?」

美希「この事件に関する律子の情報はめっちゃ正確だったし、素早かった。そりゃそうだよね。律子自身が内偵を進めていた、っていう例の組織の一員だったんだもん。

   律子はプロデューサーの仲間だった。そしてプロデューサーに裏切られたんだね。ただの打ち上げ花火に過ぎなかった計画を変更して、本気で戦争を始めるためにプロデューサーが姿を消したことで、律子は窮地に立たされたの。

   コトがコトだから、おおっぴらに捜査することもできないしね……そこで特車2課に目をつけた。千早さんの監視も兼ねて一石二鳥だしね?」

律子「全部あんたの推測じゃない」

美希「あの日の夜、律子は貯木場でプロデューサーを見逃したよね。別に当たらなくても、一発でも撃ったら治安出動中の自衛隊の人たちが集まってくる。狭い水路だからプロデューサーを逮捕するのは簡単だったのに、律子はそうしなかった。

   ――――どうしてだろうね?

   律子はどうしても、律子の手でプロデューサーを押さえる必要があったからだよね。プロデューサーの計画は阻止しきゃいけないけど、プロデューサーの口から組織の全容がバラされちゃったら、律子が困るの。だからこんな状態になっても、ちゃんとした部隊が動かせなくて、アヤシゲな集まりのミキたちに頼るしかなかったの。それが完全に、決定打だと思うな……まともな役人のすることじゃないよ」

律子「それはお互い様じゃないの?」

美希「まともじゃない役人には2種類の人間しかいないの。悪人か、正義の味方。

   律子のお話、面白かったよ? ゴマカシだらけの平和と、真実としての戦争。でも律子の言う通り、この街の平和が偽物だって言うんなら、プロデューサーが作り出した戦争もやっぱり、ただの偽物でしかないの。この街は、リアルな戦争には狭すぎるよ」

律子「ふ、ふふふっ……戦争はいつだって非現実的なものよ。戦争が現実的であったことなど、ただの一度もありはしないわ……」

美希「ねえ。ミキがここにいるのは、ミキが警察官だからだけど……律子はどうして、プロデューサーの隣にいないの?」

律子「…………」

真「……行こうか」



■18号埋立地海底トンネル

伊織「やっぱりいたわね……。あれはアメリカ陸軍が開発した戦術ロボットで、イクストルって奴よ。有線操縦の移動砲台みたいなものだけど……この状況だと厄介ね。レイバーに攻撃を引き付けて、私と雪歩で回り込んでケーブルを切断、3号機でECMをかける。これを基本に、後は出たとこ勝負よ。どうかしら?」

千早「……それしかなさそうね」

伊織「響、前衛に出なさい。春香は千早を守って続いて。やよいはこの場で援護。目眩ましを上げたら、行くわよ!」

(2号機、銃乱射)

響「どうしたどうしたこのー!!」

(2号機、返り討ちにあう)

伊織「響! 馬鹿じゃないのアンタ!?」

響「うるさーい!」

春香「何やってんの、響ちゃん!」

響「亜美のヤツいい加減なことばっかり言って! 一発狙う間に百発撃ってくるぞー!」

伊織「当たり前よ! こんな距離で撃ち合って勝てる相手なわけないでしょ! やよい! 援護はどうしたの!?」

やよい「それが、目の前が真っ白になっちゃって……」

春香「私、眩しくて転びそうだよ」

伊織「はぁ……どっちにしろこの手はもう駄目ね。あいつ自体の頭は響並みでも、後で操作してるのは人間だから……」

響「なんだと!?」

雪歩「……どうするの?」

響「ごたごた言ってても始まらないさー!」

伊織「あっちょっと! 待ちなさいよ馬鹿!」

春香「私も出る!」

千早「春香!?」

伊織「しょうがないわね! やよい! 撃ちまくって!」

(銃撃戦。2号機頭部被弾損傷)

響「うぎゃー!?」

春香「響ちゃん!」

響「喰らええええっ!」

(2号機、撃ち返しで更に被弾)

響「うぎゃろがぼえれー!!」

伊織「響!」

(イクストル銃撃、伊織と雪歩の歩いていた足場破損で転落危機)

雪歩「伊織ちゃん……もう、だめえええっ……」

(足場落下)

伊織・雪歩「「きゃああああああっ!?」」

春香「伊織!?」

(伊織、雪歩を肩で担ぎながら)

伊織「響! 響、生きてる!? 返事をして!」

響「すごくきれいな花畑が……素敵な香りの白い花がいっぱい…………」

春香「動き始めた……?」

(イクストル銃撃、1号機被弾)

春香「うっ……がぁっ!!」

伊織「千早! 千早応答して!」

千早「こちら千早」

伊織「ECMをスタンバイしなさい!」

千早「水瀬さん、今どこにいるの?」

伊織「ケーブルが切れるとオートモードに入って、識別信号に反応しないものを無条件で攻撃するようになるわ。一気に叩いて! 響、もう目は覚めたかしら?」

響「お、おう……覚めたぞ……」

伊織「アンタの大好きな接近戦よ。準備して!」

(千早、ECMシステム作動準備)

伊織「千早!」

千早「各員へ。最大広域帯でジャミングをかける。
   開始後は全てのセンサーを切り、有視界で対処せよ」

伊織「行くわよ!」

(伊織、雪歩、ケーブル切断。イクストル、オートモード突入。2号機、白兵戦)

響「喰らえ、この火星野郎が! ……これでどうだっ!」

(イクストル1体、一時機能停止状態に)

響「春香! 早くこいつに止めをさすんだ!」

(イクストルもう1体、響の至近でオートモードで天井に向かって数十発の砲撃)

響「おおっと!」

伊織「天井が抜かれた!?」

雪歩「浸水だよ!」

春香「千早ちゃん……行って。早く!」

千早「でも!」

春香「早くっ!」

(やよい、浸水からぎりぎり回避。3号機、L-12エレベータ到達。

 降りてきたカゴに、イクストル最後の1体)



千早「……どけえええええええええええええええええええええええええっ!!」





■18号埋立地

(3号機、L-12エレベータで地上に。最後の戦闘の熾烈さを物語るように、ボロボロの状態。乗降口を無理矢理ぶち破って、千早が3号機から脱出)

千早「…………」

P「ここからだと、あの街が蜃気楼の様に見える。そう思わないか」

千早「例え幻であろうと、あの街ではそれを現実として生きる人々がいる。それともあなたにはその人たちも幻に見えるのですか?」

P「3年前、この街に戻ってから俺もその幻の中で生きてきた。そしてそれが幻であることを知らせようとしたが、結局最初の砲声が轟くまで、誰も気付きはしなかった…………いや、もしかしたら今も」

千早「今こうしてあなたの前に立っている私は、幻ではありません」



■18号埋立地、別地点

美希「それじゃ、よろしくなの」

放送車員「送信開始。出力最大」



■18号埋立地

千早「――――我地に平和を与えんために来たと思うなかれ。
       我汝等に告ぐ、然らず、むしろ争いなり。
       今からのち、一家に5人あらば3人は2人に、
       2人は3人に分かれて争わん。
       父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に」

P「あれを憶えていてくれたのか」

千早「帰国したあなたが最後にくれた手紙は、それだけしか書かれていなかった。あの時はそれが、向こうでの体験を伝えるものだとばかり」

P「気付いたときには、いつも遅すぎるのさ。だがその罪は、罰せられるべきだ。違うか?」

千早「プロデューサー……あなたを逮捕します」



■18号埋立地エレベータ

美希『デコちゃん、聞こえる?』

伊織「! こちら伊織よ。美希?」

春香「地上で美希の声が聞こえるってことは……」

伊織「妨害電波が……消えたんだわ!」

伊織・春香・雪歩・響・やよい「「「「「やったあっ!!」」」」」



     ―――― 美希ぃー!! ――――

   ―――― 美希さーん!! ――――

         ―――― 美希ちゃーん!! ――――



美希「……結局ミキには、みんなだけか……あふぅ」



■東京上空、護送ヘリ

真「先程連絡が入りました。ボートで脱出したあなたの部下たちは、全員治安部隊に投降したそうです。死傷者不明。被害総額はどれ位になるか見当もつきません」

P「…………」

真「……一つ、教えてくれませんか。これだけの事件を起こしながら、なぜ、自決しなかったのです?」

P「もう少し、見ていたかったのかもしれんな」

真「見たいって……何を?」



P「――――この街の、未来を」



《IDOL@VOR2 The movie - fin.》



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