jpg large


10年後m@s




私の歌声
今となっては全国……いえ、全世界で知られてる歌声。

765プロで皆と頑張っていた頃と比べ、私の活動範囲はとても広くなった。
そして今は「アイドル」としてだけではなく、本物の「歌姫」として名を馳せている。

歌姫になったからと言って私が765プロから離れる訳でも無く
765プロは私が安心して前へと進んでいけるように、とその活動範囲を広げ
私が765プロに居続ける事ができるよう、皆で支え続けてくれた。

そして、それができるように皆を動かしてくれたのが……プロデューサー。
私は彼に対して、そして動いてくれた皆に対して、恩を返しきる事が出来るなんて思ってもいない。
でもその代わり私が765プロで歌い続ける事によって
少なからずその恩に対しての心持ちを示したいと思いながら今日までずっと歌い続けてきた。

……そして彼は、皆は私の心を聴き、感じ、そして信じ続けてくれた。
今日は久々の休日。
皆は忙しいから集まれないと言う事だけれども
プロデューサーは忙しいスケジュールの合間を縫って私に会いに来てくれる。

――何を話そうか、何を聞こうか
そんな嬉しい考え事が脳裏を巡る中、既に太陽が沈み風が冷たい夜道を歩き続けた。

――そして、とある喫茶店へ辿り着くとそこには
「ああ、千早! こっちだ!」
私達が出会ってからもう十年経つと言うのに、全然変わらないプロデューサーの姿。

「プロデューサー、お久しぶりです。 お元気でしたか?」
「俺は元気だ! 千早こそ、元気だったか? 海外公演で忙しそうにしてただろ?」
……そう、今日は海外での公演を終えて帰国した後初めての休日。

「ええ、確かに忙しくはありましたけど私の歌声を届ける事ができましたから」
「そっか。 それにしても、他の皆が忙しくて残念だなぁ……俺しか来れなくて、本当にゴメン!」
彼は私に向かって申し訳無さそうに手を合わせた。

「それは仕方のない事ですし、忙しくなったのは私がこうして765プロに居ながらも海外へ進出した結果ですから」
そう言った後、私は向かい合うように座っている彼に対してこう続けた。
「だからそんなに頭を下げないでください。 プロデューサーは私の恩人なんですから……むしろ頭を下げるのは私の方です」
すると、プロデューサーは顔を上げて

「でも、本当に良かったよ。 千早が765プロに所属しながらも、世界中で歌姫として頑張る姿を見る事が出来て」
「……私も、この765プロに所属し続けながら活動が出来て本当に嬉しいです。 プロデューサーのお陰ですね」
私は嬉しそうにしている彼に対し、そっと微笑みかけた。

「俺のお陰だなんて……皆のお陰だよ、確かに呼びかけたのは俺だけどそれに応えてくれたのは皆だからさ」
「そう言って遠慮がちな所も、昔と変わりませんね? 皆、今どうしてるかな……」
ふと、今此処に居ない765プロの仲間達が何をしているか気になって。

「皆も千早に負けないぐらい頑張り続けてるよ、それだから忙しくて今日集まれなかったんだ」
「そうですか。 でも、それなら私も負けないように頑張らないとですね」
楽しげにそう話す彼。その笑顔に釣られ、私まで笑顔になってしまう。

「確かに昔とは変わらない所も多いけど、前へと進んで行くのに従って成長した部分も多いと思う」
彼はその嬉しげな表情で改めたように私の方を向き直して
「千早だって、そうだろ? 変わらない所もあるだろうけど、変わった所も多い」
「確かに、そうかもしれませんね。 私も十年前とは変わった所も多いですけど、変わらない所もあります」
変わらない所は変わらない所、変わった所は変わった所で大事にしていきたい。
それが私の事を変えてくれた765プロでの日常に対しての恩返しでもあるから。

「昔は千早、歌の事だけしか考えてくれなかったもんな……でも今はこうして皆の事を考えてくれている」
「それは私が765プロの皆と約束した事ですから。 歌えなくなってしまった時、立ち直らせてくれた皆との約束」
私が過去を乗り越える為に、そして私が歌声を取り戻す為に皆は支えてくれた。
そして「約束」と言う素晴らしい歌まで作り上げてくれた。

「私は歌へ、そして支え続けてくれた皆への約束を守るように前へと進んできたんです」
「あの時は本当にびっくりしたけど、立ち直ってくれて本当に良かったよ。 皆で一致団結して色々考えたからな」
私はあの時、皆がくれた想いや願いを絶対に忘れない。
私を変えるきっかけとなったあの歌と共に……

「でも、歌に対する前向きな姿勢は変わらなかったよな。 それだからこうして歌姫にまで上れたと思うんだが」
「ええ。 それが私の歌に対する礼儀ですから」
今は歌が全てと言う訳では無い。私には大切な仲間達が居る。

「改めて言わせてもらうよ、本当におめでとう! 俺はこうして千早のプロデューサーをする事が出来て本当に幸せだ!」
「え? な、何言ってるんですこんな所で……」
少し驚いたのと同時に、顔が熱くなってくるのを感じる。

「皆が揃ってこその765プロだから、千早を海外へと送り出す時にどうしようか本当に悩んだんだ」
彼の表情は一瞬にして真剣な表情へと変わった。
「そして、悩んだ末に出した答え……無茶だとわかっていたけど、活動範囲を拡大しようって提案したら皆がそれを受け入れてくれたんだ」
「確かに今考えてみるととても無茶、と言うより無謀な挑戦でしたよね……」
765プロはトップの事務所として名は売れていたものの、海外となるとさすがに厳しいのでは?と思っていた。

しかし、皆は……彼は、この活動範囲拡大を成し遂げた。
「本当にな。 でも765プロが765プロである為に皆で頑張った結果、こうして今の俺達が居るんだよ」
「全員揃ってこその765プロですものね。 本当に、こうしてここに居る事ができて良かったです」
実際、私は海外へ行くかどうか当時は悩んでいた。765プロから離なければ、海外公演は行う事すらも難しかったから。
そんな時に活動範囲拡大の計画を掲げて私を送り出そう、と言ってくれたのがプロデューサーだった。

「千早が欠けてしまえば765プロでは無くなってしまう。 それを皆がわかっていたから実現したんじゃないかな」
「皆も、765プロの事を大切に思っていますからね……本当に私は感謝しても感謝しきれません」
するとプロデューサーは向かい合うように座っている私の肩に左手を置き、右手でガッツポーズを取りながら

「何言ってるんだ、千早がこうして歌い続けてくれるだけで十分だよ! 少なくとも俺はその為にこうして頑張ってきたんだから」
……やっぱり、彼は変わらない。その前向きな心も、私に対しての接し方も。
「ふふっ……それならこれからも歌い続けるまでですね」
そう言った時、喫茶店の窓の外でチラチラと白い雪が舞い始めた。

「プロデューサー、雪が……」
「あ、本当だ……! すぐ溶けてくれるかな……」
心配そうにしている彼とは違い、私は雪を見て少しだけ不安になった事があった。
「プロデューサー、少し……聞いても良いですか?」
私がそう呼びかけると、窓の外を見ていた彼は再び私の方を向き直してくれたので続ける。

「私と765プロの皆……そして、プロデューサーとの……何て言うんでしょう、絆でしょうか?」
上手い言葉が見つからなかった為、絆と言う言葉を選んだが案外合っているのかもしれない。
「その絆も……いつか雪のように溶けてしまうんでしょうか?」
「千早、どうしてそんな事思ったんだ? そんな事考えなくても良いんだ」
彼は優しくも真剣な表情をして

「俺達……仲間の絆は絶対に消えない。 雪のように溶ける事も無い」
「プロデューサー……ごめんなさい、急にこんな事聞いてしまって。 雪を見ていたらふと思ったもので……」
本当に突然浮かんできたこの不安。
しかし、プロデューサーの言葉によってその不安は無かった物になった。

「千早が俺達に約束してくれているように、俺も約束するよ。 絶対に絆は消えないって事を」
「……そうですよね。 ずっと前を向いて歩んできた私達の絆は……消える訳無いですよね」
もう私が約束を誓ってから十年が経つのに、この約束が消える事は無かった。
それと同じようにプロデューサーがしてくれた約束も……消える事は無いのだと思う。

「信じますからね? 私と、皆への約束を」
海外公演も沢山控えている中でこの約束は、私にとってかなり大きな物になる。
「ああ、約束するよ。 十年……いや二十年、三十年経っても消える事は無いって!」
彼のその表情は、とても輝いていた。
「……それなら、後一つだけ聞かせていただけますか?」
黙って頷き返してくれた事を確認して、私の中で一番大きな質問……いえ、一番大きな望みを彼に約束してもらう為に問いかける。

「これからもずっと……私達の事、見守ってくれますか?」
するとプロデューサーは輝いていた表情を優しい笑顔に変えて
「……ああ、それも約束するよ。 俺は千早の……皆のプロデューサーとして、ずっと見守り続ける!」
この約束も……十年、二十年。
いえ、ずっと続いてくれる事を願って私はこれからも歌い続ける。

「――それなら私はその約束を守り続ける為に歌い続けます。 これまでそうしてきたように、これからも」
雪が降り続ける中、私は皆へ、そして彼への約束を再び固く誓った。

例え十年経っても私達の絆は変わらなかった……これからもその絆がずっと続く事を願って私は歌う。
彼が、皆がくれたこの歌声と約束を持って。

「そうだ、千早。 忙しければ別に構わないんだけど24日、空いてるか?」
「24日ですか? 少し待ってください、確認します」
私はスケジュール帳を取り出し24日に予定が入っていないか確認する。

「24日は……大丈夫です、26日からまた海外ですが」
「そうか! それなら、ちょっと一緒に行きたい所があるんだけど……良いかな?」
何故かプロデューサーは私と視線を合わせようとはしない。
それに関して違和感を抱きつつも、予定は特に無かったので

「わかりました、何処に行くんですか?」
「それは当日まで秘密にしておくよ。 外を出歩く事になるから、千早も人目に気をつけてな?」
確かに私はもうかなり名が知れてしまっているので気をつけないと沢山の人に囲まれる事になってしまう。
何処に行くのかはわからない、でも楽しみなのは事実。

「はい……っと、もうこんな時間ですね。 今日はそろそろお開きにして24日にまたお会いしませんか?」
「それもそうだな、そうしようか。 雪はそこまで降ってないけど、風邪を引かないように気をつけてな」
そう言って彼は席を立ち、どうやら私の分まで会計を済ませてくれたみたいだった。
そして私に向かって軽く手を振ってから行ってしまった。

――そして、24日。
クリスマスイブだと言う事を全く考えていなかったので、緊張してしまう。
時刻は午後八時過ぎ。クリスマスだからか、綺麗に飾り付けられた街灯。
街灯やすれ違う人々を見てクリスマスだと言う事を実感しながら私は待ち合わせ場所へ向かって歩き続けた。

そして待ち合わせ場所のすぐ近くまで来ると、そこには既にプロデューサーの姿があった。
待たせてしまったのでは無いかと言う不安、そして緊張が重なって私はその場に立ち止まってしまう。
……クリスマスに誰かと過ごすなんて、何時ぶりだろう。
ここ数年間はずっと765プロのクリスマスライブに出演していた事もあって
誰かと二人で過ごす、なんて事は全くしていなかったから。

「千早、来てたのか!」
私に気付き手を振りながら駆け寄ってくるプロデューサー。
しかしそれと同時に人々が私達の方をチラチラと気にし始めてしまう。
「もしかして私、気付かれてしまったのでは……?」
周囲に居る人々の仕草、そして少しだけ聞こえてくる話し声から察するに気付かれてしまっている。

「悪い……! 俺とした事が、うっかりしてた。 人目も避けないと行けないし、急ごう!」
「え、ちょっとプロデューサー!?」
彼は私の手を取り、早足で歩き出した。

周囲を見回すと、少し懐かしさを感じる。
恐らく、今歩いているのは765プロ旧事務所の近くだろう。
事務所が移設されてからずっと来ていなかった懐かしい道をプロデューサーに手を引かれながら歩き続ける。

「懐かしいな、もう事務所が移転してから何年が経つんだろう……」
彼は歩き続けながらそう呟き、辺りを見回している。
「確かに、もう結構経ちますからね。 此処の辺り、何かありましたっけ?」
一体彼が何処に行こうとしているのかが気になって仕方がない。

「もうすぐわかるよ。 ほら、見えてきた!」
プロデューサーが指差したのは昔、事務所が入っていた建物だった。
「……懐かしいですね。 プロデューサーが来たかったのって、此処だったんですか?」
私が問いかけると彼は嬉しそうに頷き返してくれた。

その後、彼に連れられて建物の中に入り昔、事務所が入っていた部屋の前に立ちプロデューサーは
「俺達が使ってた事務所だけど、今は何も無いのか……寂しくもあるけど何だかほっとしたよ」
少し悲しげな横顔をしながらドアに触れたプロデューサー。
そしてその後、再び彼と共に真っ暗な建物の中を更に上へと階段を上っていく。

階段を上りきってドアを開き屋上へ出ると、冷たい風に吹かれ私は思わず身を震わせた。
「ずっと俺が来たかったのは……此処なんだ」
そう言って彼は空を見上げながら
「昔、ここで皆集まって願い事をしたよな」
……そう、私達は昔確かにここで願い事をした。

星が綺麗な夜、皆で屋上に集まりトップアイドルになれる事を星に願ったんだっけ。
そしてその後、私達は本当にトップアイドルとなりこの事務所から去る事になったけども。

「私達が願い事をしたのも、もうずっと前の事ですよね……」
「ああ。 本当に叶ったんだよな……皆の願い事」
私も彼と同じように空を見上げ、夜空に輝く星を眺める。

「俺は昔、皆が願い事を終えた後にもう一回此処に来て願い事をしたんだ」
「そうだったんですか? 一体、何を?」
すると、彼は星を見上げるのを止めて私の方を向き直して
「皆の絆が何時までも続くように願った。 でもその願いは叶う事は無い、叶って欲しく無いんだ」
「どうしてですか? 皆がバラバラになって欲しいとでも言うつもりなんですか?」

突然の言葉に私は驚き、少し声を強くして問いかけた。
しかし彼は首を横に振って
「叶ったらそこで終わりじゃないか。 俺は……ずっと皆の絆が続いて欲しいから再び願い事をしに来たのさ」

「昔願った事が叶いませんよう。 絆が、約束がずっと消えないように……」
星に願う彼の表情は昔から変わらない、それこそ本当のプロデューサーたる表情。
……叶わない方が良い願い事もある事を私は初めて知った。
そしてそれを私に教えてくれたのもまた、プロデューサー。

私は本当にずっと彼から与えられてばかり。
私が彼に与えられた物なんて、歌と約束ぐらいしか無い。

「……それと、千早にも一つ願い事があるんだ」
突然彼は真剣な表情をして私の方を真っ直ぐ見つめてくる。
「これを……受け取って欲しい」
彼が私に向けて差し出して来たのは小さな箱。

「それは……? ま、まさか!?」
今日は聖なる夜……人々の想いや願いが交差する日。
突然の出来事に混乱していると、彼は箱をそっと開いた。

「……叶う事の無い願い。 でもそれによって終わらない事だってあるんだ」
箱の中には……輝く指輪が入っていた。
「約束を、絆をこれからもずっと繋いで行く為、千早の傍に居続けたい」
気がつくと私の目からは涙が溢れ出てきていた。

「千早、俺と結婚してくれ」
「……その願いは、私じゃないとダメなんですか?」
声が震えて。涙がどんどん溢れ出てきて。
「私以外にも……皆が居ます、それなのに何で私を選んだんですか……?」
「約束したからだ。 千早がそうしてくれたように、俺も千早に約束した」
溢れ出る涙とは違い、言葉は全く出てこない。

「……また一つ、約束を増やす事になる。 でもそれは他の約束をずっと忘れない為でもある」
彼の表情は見た事も無いぐらい真剣なのに、昔の彼を見ているような気もしてきてしまう。
「俺もずっと悩んできた。 千早一人を取るのか、皆と一緒に過ごす日々を取るのか」
……でも、彼が変わらないからこそこうして私も悩んでいるのかもしれない。
「でも悩み続けているうちに、気付いたんだ。 俺は千早の事をずっと支え続けて行きたいって」

「千早を支え続けていく事で皆との絆を繋ぐ事もできるかもしれないって。 だから……俺は今日、こうして願いに来た」
「……何か、私が踏み台みたいな感じですね」
くすっと笑いが込み上げて来る。でもこれは……悲しい意味では無い。
「そ、そう言う訳じゃ無いって! 千早と一緒に約束を守り続ける事で――」
慌てて誤解を解こうとする彼の言葉を遮るようにして私は輝く指輪を手に取った。

「……指輪をはめて、戴けませんか?」
彼と一緒なら……これからもずっと約束を忘れずに歩んでいけると思ったから。
「そ、それじゃ――!?」
「お受けします、約束を……守り続ける為に」
震えている手を彼の手が優しく包み込み

「……お願いしないとな。 俺達が一緒に居続けられる事も、約束を守り続ける事も」
彼が手を離した後、自分の指を見ると輝く指輪がはめられていた。
「そうですね……ずっと変わらないように……」
言葉とは違い、どんどん溢れ出る涙。
……涙と同じぐらいに嬉しさも溢れ出て来る。

「これから先、俺達を待っているのは普段とは一味違った未来かもしれない。 約束が揺らがないように二人三脚で歩んで行こう」
「ええ……何時までも前を向いて歩んで行きましょう……約束が何時までも変わらないように」
そして気がつくと、私は彼に優しく抱きしめられていた。
「こんなに泣いて……全く、俺まで泣きそうになるからやめてくれよ」
そう言いながら彼は私の背中をさすってくれる。

「……泣いてる場合じゃないですよね。 星空にお願いしないと」
抱きしめられたまま私は空を向いて。
そして私が空を向くのと同じように彼も空を向いて。

「約束が、私達の愛が何時までも変わりませんように」

共に想いを乗せて星空に願った――





jpg large