10年後m@s



プロデューサーさん。

ビデオカメラ片手に、いつか私に聞いたことを覚えてますか?


────あなたにとって『アイドル』とは?


まだ無名の新人だった天海春香は、こう答えましたよね。

『夢、ですかね。憧れなんです。小さい頃からの────』

ほんの一握りの限られた人だけが見ることの出来る景色。

憧れに手が届いた時。

『まるで海みたい』

そんな事をぼんやり思いました。

私の歌に応えるように波打つ、たくさんの赤いサイリウム。

そして私は応え返すように、声を、歌を、想いを。


みんなに届ける。


嘘みたいに綺麗な光の波。


でも同時に怖くもなりました。

『いつか私も飲まれてしまうんじゃないか』って。


その波の中に。


そう考えてしまった時、まるで溺れたみたいに私は息苦しくなって。

重圧や不安に押し潰されそうになるたび。

あなたが深い海から引き上げてくれました。

いつも私のすぐ側に居てくれた人。

息継ぎするように海面に出れば、いつだって波風から守ってくれる。

優しく、私を導いてくれる光。


『そんな人、好きにならないほうがおかしいですよ?』


私がそう言った時のあなたの表情がおかしくて。

でもそれ以上のことは私も言えなくて。

決して、光の当たる表舞台には立ちたがらない人。

だからその時、誓ったんです。

もっと輝ける場所に行こうって。

ここまで連れてきてくれたあなたにもっと光を見せたくて。

輝く私をもっと見て欲しくて。

もしかしたら、輝きの向こうには暗闇が待ってるかも知れない。

だけど、あなたが居てくれたら私はドコでだって輝ける。

そう思ったし、今も信じてます。


「もう一度、十年前のあの時みたいに質問して貰えませんか?」


────あなたにとって『アイドル』とは?


「誰かに憧れられるような『女の子』です……って、女の子って年齢でも無いですけど」


もうっ、そんな気を使ってくれなくても良いですよっ。

でも、いつも私の欲しい言葉をくれるから。

やっぱり『そんな人、好きにならない方がおかしい』……です。


「ここで、問題です。女の子が一番、憧れるモノとは何でしょう?」


────・・・・・・。


「プロデューサーさん!ウェディングドレスですよ!ドレスっ! だから────」


『私が誰かの憧れであり続けるために』

私がもっと輝ける衣装を用意して下さい。


「────今、私が欲しい言葉を……下さい。お願いします」


最初で最後のワガママ。

今なら許してくれますよね?


「あぁ。今まで、待たせてごめん」

次に続くあなたの言葉は私だけの宝物。

・・・・・・・・・・────。


「────はい。嬉しい……で……す……?」


あれ?


「ごめんなさい。つい……嬉しくて……涙が……グスッ……えへへ。泣いちゃいました────」



────祝福の鐘の音。


ヴァージンロードを引き返す。

あなたとふたりで。

私のイメージカラーの赤い絨毯の続く先。

開いたドアの向こうは、今まで見たことの無いほど光って見えた。

この輝きの向こう側。

きっとたくさんの幸せが待っている。

私はクスリと笑って並んで歩くあなたに聞きます。


プロデューサーさん。


あなたにとって『アイドル』とは?────と。


                      おしまい


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