☆シャッフルSS☆



「ねーねー、真美」

その呼び掛けはもう電車に乗り込んでから五回目。ん、もしかしたら六回目だったかも。よく覚えてないけど、とにかく今が初めてじゃないのは確か。


「なに?亜美」

真美のこの返事も五回目か六回目。こんなやって掛け合いの回数を重ねるうちに、窓の外で流れてく風景は大分見慣れないものに変わっていた。

「もう全然知らない景色だね」

「そだねぇ、他のお客さんもほとんど居ないや」

辺りを見渡してみても席はガラガラで、扉に近い端っこのとこにお婆ちゃんがポツンと一人、膝に荷物を乗せて目を閉じてる。あれは寝てるのかな、それとも単にお疲れなだけかな?

「暇ですなぁ」

「全くですなぁ」

口元を白い、パリッとしたマスクで覆った亜美がモゴモゴしてる。少し不満げな顔を作って「これ、やっぱり蒸れるね」と呟いた。真美の口周りも自分の吐く息で生暖かくて、それに微妙に息苦しい。耳に掛けたゴムもなんだか痒い、気がする。

「りっちゃん様の命令だかんねぇ」

「別に、今から付ける事ないのにね」

「全くだよー。心配し過ぎっしょ」

「ねー」

だけど勝手に外したりはしないあたりが真美達のお利口さだと思う。
だってこれを付ける事が、りっちゃんに出された条件だから。

「まあ、ちかたないよね」

真美達のミッションは、こんな所で終わる運命には無いからね。

「ちかたない、ちかたない」

マスクの下で亜美も諦めの同意を繰り返す。


電車が揺れる。知らない土地の線路を走る。脇に大事に置いてある、真っ白い箱も電車に釣られて小刻みに揺れる。
貰った地図、ちゃんと分かるかな。

「ねーねー、真美」

六、七回目。

「なに、亜美」

これも六、七回目。

「あと、どれくらいかな?」

「えーと…20分?」

「ながーいー」

「全然停まらないしねー」

「何処までも走り続ける勢いだよぉ」

「もう、ちゃんと目的の駅で停まってよー?」

「ほんとほんと。停まるの忘れたりしないよね?」

「そうならないようお祈りするよ…」


電車の走るスピードは緩まない。いっそ、このまま一直線にお家の前まで届けてくれたらいいのに。あずさお姉ちゃんに比べたらまだ迷わない自信あるけど、それでも初めての場所は不安だし。
だから亜美が一緒に居る状況はやっぱり心強い。二人なら、迷ったとしても怖さも不安も半分こだもん。知らない道でも、なんでだろ。
二人なら不安をワクワクにだって変えれるから。



「…それ、日ぃ当たってるけどだいじょぶ?」

亜美がふいに視線を落とす。その先の箱は太陽に照らされて、ちょっと眩しくなってた。

「あっ、ほんとだ。影に入れなきゃ」

大事な大事なお見舞いの品。駄目になっちゃったら申し訳ない。

「危ないとこだったね」

「これで痛んじゃったりしてたら、はるるん二重苦だもんねぇ」

「そんでりっちゃんや兄ちゃんからは大目玉だよ」

「ふぃー、気付いてよかったぁ…」

病人に痛んだお見舞いなんて、片道二時間掛けてまでするイタズラじゃないよ。



「ねぇねぇ」

カタカタ、カタカタ。電車が揺れる。そのリズムに耳を立てながら今度は真美から呼んでみる。お婆ちゃんの方を見たら、肩が少しだけ前に傾いていた。

「なにー?」

「…はるるん、どうしてるかな」

「んー…たぶん寝てるんじゃないかな」

「一人っきりかな?」

「どうだろ…」

真美達はいつでも二人一緒だから寂しくないけど。だけど、きっと今頃、心細いんだろうなぁ。真美だって風邪っぴきの時は凄く心細いから。はるるん、二段ベッドじゃないだろうし。
一人だけの部屋で一人きり。
マスクで蒸れた唇で、静かな部屋でうんうん唸ってるのかな。


「ね、真美」

片道二時間、遠距離お見舞い。

「駅ついたらさ。ダッシュで行こ」

真美の片割れも同じ寂しさを想像したみたい。

「…そだね」

真美は亜美が居るから迷っても平気だけど、はるるんはきっと一人ぼっちだから。迷わずまっすぐに早く行ってあげて、風邪菌なんか追っ払わなきゃ。

「そっこーではるるん家に突撃御宅訪問だよ!」

「いえっさー!」

多忙を極める765プロ代表、はるるんお見舞い係として!




「はるるん、ビックリするかなぁ」

お見舞いのお菓子は大事に、傾けないよう気をつけながら。