765プロ事務所



美希「ねえハニー、ミキでも読めるオハナシの本を見つけて欲しいの」

P「ん? あぁ、あのバラエティ番組の企画か? そういえば、もうすぐ収録だったな」

美希「まったく失礼なの! 『読書なんかしたことないようなタレントを集めて感想文を発表させる』って」

美希「美希だって『ジョジョ』とか『進撃の巨人』読んでるの!」

P「それはコミックだろ! で、どんな小説がいいんだ?」

美希「すぐ読み終わって、恋愛要素があって、ミキでも簡単に感想文が書けるのがいいの!」

P「恋愛小説の短編か……。俺はあまり読んだことないからなぁ」マコトアタリニキイテミルカ?

美希「そういえばハニーって、普段どんな小説読んでるの?」

P「最近はあまり読んでないけど、学生の頃はSFとか怪奇小説とかが好きだったな」

美希「あふぅ……。ミキには無理そうなジャンルなの」

P「結構面白いぞ、ラヴクラフトとかキングとか」

美希「ラブラブキング?」

P「いや、やっぱり美希には無理か……。うーん、だがまてよ……、アイドルが出てくるSFなんてどうだ?」

美希「SFでアイドル?」

P「そうだ。『接続された女』ってSF短編だ。恋愛要素もあるしどうだ?」

美希「すぐ読み終わるんだ。なんかちょっと気になるかも」

P「ある程度大きな書店に行けば手に入ると思うし、これにしてみるか?」

美希「ハニー、あらすじを教えて欲しいの」

P「ん?」

美希「面白そうだったらそれにしてみるの」

P「俺もだいぶ昔に読んだきりだから、あまり良く覚えてないけどいいか?」

美希「ここがプロデューサーの腕の見せ所なの」

P「おいおい。ま、いいか……」

P「CMが法律で禁止された世界」

P「それでも企業は販売をのばすために『有名人』に商品を使ってもらってアピールしていた」

P「そんな時、ある企業が広告活動のための美しい姿をした女性型の人造人間を開発する」

美希「アイドルなの?」

P「そう、だけれども、この人造人間には『心』がなかった」

P「そこで、企業は自殺を計ったある女性に、このアイドルを動かす『心』になってほしいともちかける」

P「自分の姿にコンプレックスを持っていた女性は、『アイドル』になれてとても充実した毎日を送る」

P「そして企業の御曹司と恋に落ちたり、今までの自分とはまったく違う人生を謳歌する」

P「でも、本当の彼女は企業の一角でたくさんのコードに繋がれた醜い姿の女性……」

美希「うんうん! それで?」

P「美希……。これ以上話すとネタバレになるし、本を読む意味がなくなるんだが……」

美希「むぅ~。ハニーのいけず! なの」

P「貴音みたいなこと言ってもダメダメ! でもどうだ? 面白そうだったら文庫本買ってくるぞ」

美希「うーん、わかったの! せっかくのハニーのおすすめだし、おねがいするの!」






翌日、765プロ事務所






響「はいさーい!」ガチャッ

シーン

響「あ、あれ? みんないないのかー?」キョロキョロ

小鳥「……」ブンブン

響(ぴよ子が猛烈に手招きしてるぞ)タラー

響「どうしたんだ、ぴ……」

美希「……」ペラッ

響(うわ! 美希! ソファーに座ってたのか……。でもなんか違和感が)ソーッ

響「ぴよ子。今日の美希どうしたんだ?」ヒソヒソ

小鳥「美希ちゃん、事務所で一睡もしないで本を読んでいるの!」ボソボソ

響「そっか、寝てなかったから違和感があったのか」ヒソヒソ

小鳥「しかも本のタイトルを見て!」ボソボソ



『愛はさだめ、さだめは死』



響「なんか難しそうなタイトルだぞ」ヒソヒソ

小鳥「美希ちゃんがあんな本を読むなんて……。妄想がはかどるわ」ボソボソ

響「ぴよ子……ブレないな。ダメな方に」ヒソヒソ

美希「……」ポロポロ

小鳥「!」

響「え?」

小鳥「ミキミキが泣いてる。ミキミキが」ハァハァ

響「だめだこの事務員……。お、おーい美希! 大丈夫かー?」

美希「ひどいの!」バタン

小鳥「ご、ごめんなさーい!」ヒィィ

響「美希、ハンカチ持ってる? 自分のつかうか?」

美希「響! アイドルは使い捨てじゃないの!」グスッ

響「なんかよくわからないけど、落ち着こうな?」ドウドウ

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――――
――


響「なんだ、番組の企画で読書してたのかー」

美希「うん、ハニーにおすすめのSF小説を聞いて読んでたの」エヘヘ

響「プロデューサーが……。美希を泣かすなんて、変態だな」ユルスマジ

美希「ううん、小説は面白かったの……。と言うか衝撃だったの」

響「そんなに面白いのか『愛はさだめ、さだめは死』だっけ?」

美希「あ、この中にいっぱいオハナシはいっててその中の『接続された女』を読んだの」

響「自分、あんまりSFとか読まないからな。美希はいろいろ挑戦して偉いぞ」

美希「ミキ、もう読み終わったから、響もぜひ読むといいの!」キラキラ

響「う、うん。がんばって読んでみようかな?」

??「なにやら、話が盛り上がっておりますね」

響「ん?」

貴音「わたくしが、事務所に入ってきても誰ひとり気づかないとは」

響「あ、貴音、ごめんなー」

貴音「いえ、とがめるつもりではなかったのですが。小鳥嬢まで静かなので」

小鳥「……」ポワーン

響「ぴよ子は……。妄想の世界からまだ戻ってきてないだけだぞ」ヤレヤレ

美希「……」ジー

貴音「はて? 美希、わたくしに何か?」

美希「あやしいの」ジー

貴音「?」

美希「ミキ、貴音を見てると疑惑が持ち上がってくるの」

響「美希? 何言って……」

美希「貴音は謎が多すぎるの」

美希「もしかして、貴音は人造人間のアイドルで、誰かが操っているの?」

貴音「め、面妖な……」

響「うぎゃー! 美希まで妄想の世界へ行っちゃったぞ」

美希「貴音はたまに月を見てボーっとしていることもあるの」

美希「きっとその間、接続が切れてて……」

貴音「……」

美希「それにラーメンをあんなに食べたり、ものすごく人間離れしているところもあるし」

響「……わかったさ、この話はやめるさ。ハイサイ! やめやめ」

美希「ミキ、貴音の本当の姿がどんなでも、友達でいるから大丈夫なの!」ウルウル

響(自分の伝家の宝刀のセリフがスルーされたぞ……)

フフフフ

響(へ?)

貴音「フフフ。星井美希。どうやら、気づいてしまったようですね」

響「なんくる?」

美希「貴音……。やっぱりなの?」

貴音「そう! わたくしは『つくられしもの』なのです」

響「ないさー!」

美希「!」

響「う、嘘だよな?」

貴音「しかしながら、です」

響「お、おい、貴音ー」

貴音「それは、わたくしだけではありません」

美希「……」ゴクリ

貴音「あなた方ふたりも……。いや765プロのアイドル全員がそうなのです!」バーン

響・美希「な、なんだってー(なの)!」

貴音「気づきませんでしたか? わたくしたちのアイドルの活動が最近うまく行きすぎているということに!」

貴音「これは、大いなる存在がこの765プロに働きかけている証拠」

貴音「そして、そのものが楽しむためにこの状況を覗き見ているのです」

貴音「そう! わたくしたちは、誰かの意志によって創りだされた、かりそめの存在なのです」ゴゴゴゴゴゴ

響・美希「」

響「じゃ、じゃあ、春香がよく転ぶのも……」

貴音「そういうあざといキャラ付けなのです」

美希「千早さんが72なのも」

貴音「一定の需要があるからです」

響「雪歩が穴掘って埋まるのも」

貴音「お父様の職業は内緒ですぅ」

響「やよいが天使なのも」

貴音「はい、たーっち!」

美希「真くんに女性ファンしかいないのも」

貴音「へへっ、やーりぃ!」

響「亜美、真美のモノマネがすごいのも」

貴音「んっふっふ~」

美希「デコちゃんがツンデレなのも」

貴音「太陽拳!」

響「あずささんが迷子になるのも」

貴音「あらあら~」

美希「律子……さんがメガネキャラなのも」

貴音「すき? きらい?」

響「ぴよ子が美人なのに彼氏がいないのも」

小鳥「オイこら!」

美希「社長や黒井社長が黒いのも」

貴音「フェアリーで貴音ちゃんと呼ばれるのはいささか抵抗が」

響・美希「」

貴音「ですが! わたくしは運命を受け入れることに致しました」

貴音「ふたりも運命を受け入れて、前向きになって欲しいのです」

貴音「たとえ、かりそめの存在だとしても、それを楽しんでいただいている方々が」

貴音「わたくしたちを応援してくださっている方々がいるのですから!」

美希「貴音……」

響「うう……」

貴音「さぁ、気を取り直してまいりましょう! あの、遥かな高みへと!」

響・美希「オオーッ!」

……

響・美希「って、んな、わけあるかーっ(なの)!」ババン

貴音「真、長い間このノリに付き合っていただき、感謝いたします」

美希「貴音も最近バラエティ慣れしてきたの」

響「もう、自分疲れたぞ……」コノアトレッスンナノニ…

美希「でも、貴音のおかげで、面白い視点で感想文書けそうなの」アリガトウナノ

貴音「そ、そのような///。おだてても何もでませんよ」

響「でも、アイドルのSFなんて話もあるんだなー」

美希「しかも、この『接続された女』が出版されたのは1974年なの!」

貴音「もう40年ほど前なのですね」

響「自分もちょっと興味わいてきたぞ! 美希、この文庫本借りてもいいか?」

美希「ハニーに買ってもらった本だから、読み終わったら返しておいて欲しいの」

響「了解だぞ!」







後日







響「プロデューサー! 本、美希から借りてたんだけど返すぞ!」

P「お! 響も読んだのか。どうだ? 面白かったか?」

響「面白い、というか、美希も言ってたけど衝撃的な話が多かったかな」

P「『接続された女』以外も読んだのか?」

響「うん。でもちょっと恥ずかしい表現もあるんだなー///」

P「はは、そんな感じの話も多いからな」

響「やっぱり。プロデューサーは変態だぞ」ボソッ

P「結構きつい感じ? 特に男性が読むときついんだよな」

響「へー。そんなものかなー?」

P「まぁ、作者は女性だしな」

響「えっ! だって、作者の名前ジェイムズ……」

P「ああ、ペンネームでわざと男性名にしてあるんだよ」

響「それが一番衝撃かも……」

P「前書きとかに書いてあったと思ったけど、読まなかったのか」

響「自分、中身にしか興味なかったさー」

P「ま、これを機に昔のSFとかにも興味持ってもらえたならよかったよ」

響「プロデューサー、また面白い本とかあったら紹介してもらえるか?」

P「おう、いつでもいいぞ! ところでだ……」

響「ん?」

P「響……。実は俺、本体は違う世界にいる男が操っているんだ……」

P「アイドルを育てるために、この体だけ派遣されたプロデューサーなんだよ」

響「げぇッ!」

P「もし、本当の俺が違う男だとしても……。響、俺についてきてくれるか?」キリッ

響「……わかったさ、この話はやめるさ。ハイサイ! やめやめ」

小鳥「私も本当の世界ではモテモテなんですよ!」

響「うぎゃー」




おわり