☆シャッフルSS☆



千早『春香の焼いたクッキー、また食べたいわ』

春香『本当に!?今度いっぱい焼いてくるね!えへへ♪』

千早『ええ、楽しみにしてる』

――
―――


ガチャ バタン

天海春香は、意気揚々と家を出た。

春香「えへへ、千早ちゃん喜んでくれるかな~」

今日はオフだったが、如月千早への差し入れを持って
サプライズを仕掛けようという、無邪気な想いで事務所へ
向かっていた。

いつも通りに電車に揺られながら、千早の驚く顔を想像してはニヤつく春香。
他の乗客の目は中々に冷ややかであったと思う。

春香(今日は絶対千早ちゃんに、このクッキーを手渡しする!)

忙しい日々の続く千早とは、最近携帯電話を通してのコミュニケーション
しか取れていないのが現状だった。
今日はそんな千早も予定の少ない貴重な日…のはずだった。

765プロのあるビルへと到着し、その何とも言えないニヤけ顔の
まま事務所へと入る春香は、まず音無小鳥に挨拶をする。
その砕けきったニヤけ顔で。

春香「おっはようございます!小鳥さん!」ニヤニヤ

小鳥「お、おはようございます、春香ちゃん…どうしたの?何か、嬉しそうね?」

春香「え?分かります?分かっちゃいます?」

小鳥「う、うん…だってすごく顔に出てるからね。いい事でもあったの?」

春香「もう、いい事しかないですよぉ!」

まだ何も起こっていないが。

春香は周りを見渡し、千早を探す。
が、影も形も見当たらない。
寧ろ、事務所には小鳥しかいない。

春香「あれ?千早ちゃんは?」

小鳥「今日は千早ちゃん、大忙しの日じゃない?予定ぎっしりで、朝早くからいないわよ?」

春香「えっ!だって昨日、私ホワイトボードを確認して…」

ホワイトボードを確認する。
確かに千早は打合せや取材等の仕事が多く書かれており、
とても暇な日では無さそうだった。

春香「あ…私、一日見間違ってる…昨日だったのか…」

昨日は当の春香本人が、激務の日で事務所に一度も来られないぐらい
にハードな一日だった。すれ違う二人。

そして早くも終わりを告げる、春香の最高にハイな一日、完。

春香「ああああぁぁぁ…こんな忙しいんじゃ千早ちゃんに会えないよぉ…」ガクッ

小鳥「電話でもしてみたら?連絡してお昼にでも合流すればいいじゃない」

春香「それじゃダメなんです!今日は携帯とか使わないって決めてたんです!」

小鳥「そ、そうなの?それなら…今の時間なら現場近いんじゃない?行ってみたら?」

春香「私、ちょっと行ってきますね!」

春香は、場所を確認し事務所を駆け足で出て行った。
小鳥はきょとんとして、転ばなきゃいいけど…と心配になった。

ァァァァァ!!!

遠くの方で、春香の叫び声が聞こえる。
やはり転んだ様だ。
やれやれと、小鳥は自分の机へと戻り、お茶をすするのであった。

小鳥「?あれ?春香ちゃん…コレ…」

春香の受難はここから始まる。

――走る。

春香は、現場へと走る。
千早に逢う為に。
自分の作った差し入れを届ける為に。

春香「ハァハァハァ…やっと…着いた」

閑静な並木道を超え、辿り着いたのはTV局のスタジオ。
春香は駆け足でスタジオへと入っていく。
予定表を確認し、収録現場へと急ぐ。
収録スタジオには、担当ディレクターが収録終わりの片づけ指示を
していた。

春香「お、おはようございます!」

D「おお、春香ちゃん!おはよう!今日はどうしたの?」

春香「ハァハァ…千早ちゃん…千早ちゃんは!」

D「千早ちゃんなら、もういないよ?次の現場へ向かったんじゃないかな?」

春香「えぇええええ!?一足遅かったのかぁ…」

春香は絶望に打ちひしがれて、がっくりと肩を落とす。

D「所で春香ちゃん、今度さ面白い番組の企画があってさ是非…あ、あれ?」

いない。
振り向くと、すでに春香はいなくなっていた。
ディレクターはやれやれ、といった様子で現場へと戻っていった。

――急ぐ。

春香は千早が次に向かう仕事先へと急ぐ。
次の現場も、然程遠くはない。
全速力で走る。転ぶ。全速力で転ぶ、いや走る。

次に千早の行う仕事は取材だった筈で、時間も十分取るだろう。
絶対に間に合う!
そう確信していた春香に、次なる悲劇が襲うのであった。

取材先。

春香「ええ!?取材が延期!?」

受付「はい、先ほど如月様とプロデューサー様がお見えになりましたが、弊社担当者に急用が出来てしまいまして、延期とさせて頂きました。手前の都合で大変恐縮でございましたが快くお受け頂きまして、先程お帰りになった所でございます…あの…あの、天海様?」

春香「この取材の後は…えっと…確か…打ち合わせで…場所が…あああ…遠いよぉお」

全く、受付嬢の話など聞いちゃいない。
聞く耳など持てない程、春香は焦っていた。
電話か、電話をするしかないのか…だがそれはできない。
今日は携帯電話などでやり取りをせず、直接面と向かって会うと決めたのだ。

春香「えっと、ありがとうございました!」
受付「あ、はい。またのお越しをお待ち申し上げております」

――焦る。

春香は足早に、取材先を後にする。
次の仕事先は、別のTV局で歌番組の打ち合わせだった筈。
その後は、地方ソロイベントの打ち合わせで都内を出てしまう。
これが最後のチャンス。

春香「急がなきゃ!」

電車を乗り継ぎ、全力で走って次の仕事先へと急ぐ。
が、しかし。

春香「ふぅ…走り過ぎてのどが渇いちゃった、何か買って飲もう」

コンビニに立ち寄る春香。
その時、春香はようやくその大失態の事実に気付く。

春香「ん?…あれ?…あれ!?なんで私…千早ちゃんに渡すクッキー持って
ないのぉおおおお!?」

クッキーは事務所にある。
小鳥が忘れた事に気が付くも、携帯を使わないと決めた春香の意志は固いと
勝手に判断し、電話をしなかったのだ。

春香「事務所だ…予定表見て頭真っ白になっちゃって急いで飛び出して
来たから忘れてきちゃったんだ…」

どうやら小鳥の余計な気を使った行為が裏目に出て、
またも絶望の淵へと追いやられるのであった。

春香「はぁ…事務所へ戻るしかないかぁ…」ガクッ

春香はトボトボと、電車を乗り継ぐ事もなく事務所へ歩いた。
その様相は、とてもアイドルとは思えない程、項垂れて見苦しい物だった。

春香が、気の遠くなる距離を徒歩で歩き、事務所へ到着する頃には
日が暮れかかっていた。

春香「うう…千早ちゃんに会いたーーーーーーーーーーい!」

春香は叫ぶ。
そして後ろで声がする。

千早「春香?」

春香「…えっ!?」

P「春香じゃないか、今日はオフだろ?どうしたんだ?」

振り向くと、千早とプロデューサーがキョトンとした顔で立っていた。

春香「うわぁああああ!千早ちゃぁあああああん!」ガシッ

千早「ちょ、ちょっと春香!一体…」

事務所。

千早「ただいま戻りました」

小鳥「あ、千早ちゃん、プロデューサーさん!お帰りなさい!」

春香「ただいま戻りましたぁ…」

小鳥「春香ちゃんも一緒だったのね」

P「戻りました音無さん、春香とはさっき下でバッタリ会って」

小鳥「あ、そうだったんですか」

春香「そうだ!小鳥さん!私の持ってきた袋は!?」

小鳥「それなら…」

美希「クッキーはミキが美味しくいただいたの」

春香「えええええええええええええ!!!???」

嘲笑うかの様に、袋を逆さに振って見せる星井美希。
更なる絶望に苛まれる春香。

美希「ミキ、春香のクッキーは最高に美味しいって思うな、もっと焼いてきて!」

春香「嬉しいけどさ美希ぃ…それは千早ちゃんに差し入れるのに持ってきた
んだよぉ…」

美希「ん?そうだったの?食べちゃったからごめんなの、千早さん」

千早「え、ええ…残念だけど春香、またの機会にお願いね」

春香「うん…ごめんね千早ちゃん」

かくして、この日春香が千早にクッキーを食べさせる事は叶わなかった。
春香はリベンジを心に誓い、後日今度こそ千早にクッキーを差し入れる事
固く、固く決意するのであった。

最早、本来の目的がなんであったのかは本人もよく分からなくなっていた。
千早に会いたい、千早と会話がしたい、そんな単純な目的。

でも、何故か会いたい時は会えない。求めれば離れていく。

そんな時もある、そう春香は自分に言い聞かせ帰路へ就いた。

そして、春香がクッキーを再び焼いて事務所へと持っていく朝。

春香「今日こそ、千早ちゃんに食べてもらわなきゃ!」

春香は、あの日の様に意気揚々と自宅を出発し…

春香「わ、わわわっ!!」

ドサァッ

春香「いっててて…うわあっ!」

いつもの如く、豪快に転んだ春香は自分自身でクッキーを粉々に
してしまった。
天海春香の受難は、まだまだ続く様である。

春香「うう…千早ちゃぁああん、ごめぇえええん!」

千早にクッキーを差し入れ出来るのは何時になるやら…




おわり