☆シャッフルSS☆



真「お願いしますっっ!!!」


響「…………………………へ?」


響が事務所に入ってきていつもの、「はいさーい!」を言うのと、
僕が響に頭を下げるのは僕が遅れてほぼ同時だった。
それは、いつも通りでいつもと違う事務所でのことだった。


真「お願いしますっ!! 教えてください!!!」

響「え、えぇっ!? お、教えてくださいってなにをだ!?」

真「んもぅ! こんなに言ってもダメなの!?」

響「い、いったいなんなんだー!?」

頭を上げて頬を膨らませる。 視線の先には何が何だかで頭を抱えてる響が居た。
解っている真と、解っていない響の一生進みそうにない話に助けの船を出したのは春香だった。

春香「……真真、何をお願いするか言ってない」


真「……え? ……あぁっ!! そうだった!!」

チョイチョイと手を扇ぎながら苦笑を浮かべる春香を見て、その言葉を理解するのにたっぷり20秒は掛かった。
改めて響に向き直り、頭の中で予定していたよりも随分と拙い過程になってしまった事を後悔しながら、
今度こそ、と気合を入れ、再度頭を下げる。


真「僕に、マフラーの編み方を教えてください!!!!!」

その声量は、876プロの日高愛ちゃんにも勝るとも劣らないほどだったらしい。

・ ・ ・ ・ ・

場所を少し変えて応接間にあるソファに三人で向かい合って座っている状況。
僕の目の前に響、僕の隣には春香、そしてテーブルの上にはまるで仲介人のようにハム蔵がどっかと腰を降ろしてる。

響「…………で、なんでマフラーなんだ?」

その後ろに束ねた大きなポニーテールと同時に頭を揺らしながら問う響に、
ばつが悪そうに右手を頭の後ろに回して、出来れば聞かれたくなかった質問に答える。
…………上手く隠し通さなきゃ。

真「……えーっと……。 その、女の子らしい趣味を身につけたいなぁ~って」

春香「え? でも真、結構料理とかするって聞くよ?」

真「えっ!? え、あ、あぁ、そうそう……。 けど、もっと範囲を広げたいなー……と」

響「範囲を広げる? もっといろんな女の子らしい趣味を増やしたいって事か?」

真「あぁ~、うん! そんな感じ!!!」

春香・響「………………感じ?」

真「あ、いやその……」

しまった、こんな事ならもう少しまともな嘘を昨日の間に考えてれば良かった。
思わずしどろもどろになる僕を見て、春香が嬉しい勘違いをしてくれた。

春香「んー……。 ……あっ、響ちゃんがあまりにも女の子として素敵だから、それに近づこうとしてとか?」

響「……え、えぇっ!?」

真「……あ、そうそう!! そのとおりだよ春香ー!!!」

響「そ、そんな自分ステキなんて……」

春香「手芸も料理も得意だもんね~、確かに憧れかも」

真「そうなんだよ~!! 少しでも近付けたら僕も可愛くなれるかなと思ってさ~!!!」

響「そぉんな~、えへへ~はじかさぁ~」

春香・真((かわいい))

響「…………よし! 真の言いたいことは解ったぞ!! うん!!」

自分の両足をバンと叩いてすぐに、腕を組んで頷き始める響。
その姿は、まるで漫画かアニメで見るような渋いおじさんみたいなリアクションだった。

春香「響、あんまり良くわかってないよね?」

響「わっ、わかってるぞ!! ……真、自分の教えは厳しいぞ?」

春香の鋭めなツッコミに少しうろたえる響だったけど、
すぐに長い睫毛が綺麗なオーシャンブルーの瞳を引き絞りこっちを見据える。

真「それくらい承知の上だよ!! 765プロの中で一番手芸が得意なのは響だってよっく知ってるからね!!」

その海のように深い瞳に溺れないように、強く強く言葉を返す。

響「いーぃ返事だ!! よーし、早速必要な毛糸を買ってこよう!! 道具なら貸すから!!」

まるでさっきまでが全て演技だったのでは無いかと思い込んでしまうほどに、
先ほどまでの冷たい表情とは打って変わって、八重歯が覗く太陽のような笑顔で、
思い立ったら吉日と言わんばかりにソファから腰を上げ、外へ続く事務所の扉を指差しながら提案する。

真「押忍!! ……ってあぁ! 押忍なんて女の子らしくないよ!!!」

春香「いってらっしゃ~い」

最初の掛け声をスターターピストルの銃声の代わりにして、僕と響、二人扉の向こうへと駆け出す。
そんな中、僕は毛糸に頭の中で考えている通りの色があるのだろうか、と悠長に考えていた。

・ ・ ・ ・ ・

響「……さてっ! 毛糸も買ったし!!!」

ホームセンターで購入し、袋に入った毛糸を指差し

真「道具も持ってきてもらった!!」

響のトートに入ってる道具を指差し

響「午後からの仕事も無し!!」

仕事の予定が書いてあるホワイトボードを指差し

真「時間もたっぷりあるね!!!」

壁にかけてある、企業ではこういう形なのが決まってるのだろうか、
とても簡素で飾りっ気の一切無い、真っ白なボディが唯一の特徴の壁時計を指差した。

響「よし! 早速教えてあげるぞ!!」

真「はい! 響先生!!」

響「先生!? 先生……、えへへ。 よーし、じゃあ響先生の教えにしっかりついてくるよーに!!」

響に、勢いに任せてそう言ってしまったのだけれど、効果覿面だったようだ。
先生と呼ばれて一瞬驚くが、ふにゃふにゃした笑顔を浮かべて照れた笑顔を見せる。

真「はい!! ……って、何から始めればいいのかな?」

響「あっ、そっか……。 んー……、やっぱりかぎ針の方が簡単だし、かぎ針を使うぞ!!」

真「かぎ針???」

響「うん、「棒針」と「かぎ針」とってあるんだけど、かぎ針と比べると棒針の方が少し難しいんだ」

響は、765プロの中でも結構喋る方だと思う。 正直だし。
けど、やっぱり自分の得意分野だからか、いつもよりも更に舌が滑っている気がする。
棒針を左手に、かぎ針を右手に持って解説している響を見ながらそう思った。

真「へぇ、そうなんだ! ……その棒針とかぎ針ってどう違うのさ?」

響「えっとね、かぎ針にはこうやって返しがついてるんだけど、棒針には無いんだ。 名前の通りだね!」

確かに、百聞は一見にしかずと言ったところか、見ればその名前の意味はすぐにわかった。
だがしかし、なんでどうかぎ針の方が簡単なのかはわからないのだった。

真「でも、なんでかぎ針の方が簡単なの?」

響「んー、そうだなー。 どう説明すれば良いかなぁ……」

右手を顎に当てて「むー……」と言う度に頭を逆側に振っている。
すると言いたいことをまとめたのか、小さく頷くとその口が開かれた。

響「えっとな、棒針はかぎ編みと比べて細かい工夫が可能になるから飲み物の下に敷くコースターみたいなのとか、
  小物とかも作れたりするんだけど、かぎ針がそれが苦手なんだ」

真「うん……。 あれ、それじゃ簡単の説明つかなくない?」

響「大丈夫だぞ! その代わりかぎ針はマフラーみたいな直線に伸び続ける編み物が物凄くやりやすいんだ。
  実際、棒針自体かぎ針と比べてコツがつかめないと上達出来ないからそういう意味でもかぎ針の方が簡単なんだけど、
  今回丁度マフラー作るからかぎ針の方がもっと楽なんだよね」

僕の少し意地悪な質問にも難なく答えているのを見ると、本当に得意なんだろうな、と思う。
こういうどんな方向からでも答えられるっていうのは、好きだから知ってる、からなんだろうな。

真「へぇえぇ……」

響「あとかぎ針で編むと少し厚めに編んじゃうっていうのがあるんだ。 こう聞くとただの欠点だけど……」

真「あ、マフラーみたいな防寒具には丁度いい!」

響「当ったりー!!」

真「へへっ、やっりぃ~!」

響「ってことで、かぎ針での編み方を教えていくぞ!!」

真「はいっ、響先生!」

響「えへへ……。 ……あっ、そうだ! 大事な事を忘れてたさー!!」

真「??」



響「これだけは先に教えとかなきゃいけないんだ。 編み目のことなんだけど……」

真「うん」

響「糸を編むときには編み目の「目」って言うのがあって、一回編むごとにその目が増えていくんだ」

真「つまり、毛糸における単位みたいなものなのかな」

響「そんな感じ! だから、一目、二目、三目って感じに数えていくから、真も覚えててね!」

真「うん、わかったよ!」

言うほど大事なことでもないような気がしたけど、でもきっと大事な事なんだろう。
今まで聞いたことも使ったことも無いその数え方を、しっかりと記憶の中に留めておくことにする。

響「さて、今度こそ教えてくぞ! まずある程度毛糸を出して、左手人差し指で持ち上げる。 この時続いた二本の糸は手のひら側に来させる」

真「人差し指で……持ち上げる……っと。 で……手のひ、らっ……」

響「うん、いい感じ! で、手のひらの方にある糸を親指でおさえて、二本のうち内側の方の糸をかぎ針で巻き込む」

真「おさえて……。 内側を……、……ん? 引っ掛けるんじゃなくて?」

響「うん、くるっと回すんだ。 上からじゃなくて下にね。 そしたらねじって出来た糸の交差部分を中指と親指でおさえる」

真「下に……っ、で。 糸を……おさえる……」

「この時巻き込んだ糸は先端の方じゃ無くて少し下の方で巻き込んどくと良いぞ!」という忠告を素直に受け取り、
丁度かぎ針を持ってる指のすぐ上に巻き込んでおくことにした。
その様子を見て、好意的に頷いてくれる響を横目に見て、緊張が少し解けた。

響「そうそう! 今度はかぎの先端の部分からまた巻き込む。 今度は上からね!」

真「うぅ……ん? 手を内側に、上に回して……」

響「ここからかぎの出番だぞー。 このままかぎで引っ張って、最初に巻き込んだ糸の内側に通す!」

真「あっ、ここでかぎを! よし、このまま……通して……!」

響「とーとー! それが通ったら上に引っ張るんだ!」

真「引っ張って……。 よし! ここからどうするの?」

響「ここが少し難しいぞー。 そのまま上に引っ張って……」

少し意地悪な顔をしながら、難しいと言っておきながらさらっと見本を見せてくれる。
あたかも見せ付けるようなその行動に、僕の負けず嫌いが発動するのに時間はあまり掛からなかった。

真「む……、よーし。 引っ張って……」

響「今親指で押さえてる糸は二本あるよね? その二本のうちの、輪っかの方を離して、一番最初右側にあった糸を押さえてかぎ針を上に引っ張るんだ!」

真「えぇっ! 難しいな……、く……。 指がつりそう……」

響「コツは糸を通す時に、引っ張った方向とは逆にかぎを回して通すんだ。 引っ張ったらその分だけ空洞が出来るからな!」

真「空洞にかぎを回して……! …………っ、出来た!! これを上に引っ張って……」

響「んー、結構大きめに目を作っちゃったけど、これくらいなら大丈夫さー!! あとはこれの繰り返し!!」

真「くっ、繰り返し!?」

響は慣れてるから仕方ない、仕方ないんだけど、僕にとってはとても難しい事を、
ついでのように言う姿に僕は混乱していた。 繰り返し……。

響「そうだぞ! 繰り返せば繰り返すほど縦に編み目は出来ていくでしょ?」

真「う、うん」

響「この編み方は「鎖編み」って言うんだ! ほら、こんな感じに編んでいくと……」

その言葉を皮切りに、するすると編み目を作っていく。
まるでかぎ針を自分の体の一部のように、当たり前のように使っていた。

真「わ、凄い……」

響「ね? 鎖みたいでしょ?」

真「うん、左右の糸が輪になってて……。 あ、裏返すとその輪を繋げる糸が中央から出てるんだ」

響「そうだぞ! この左右の糸が「半目」って言って、裏にあるこの糸が「裏山」って言うんだ」

真「へぇ……。 本当に鎖みたいだ……。 これを編んでいくんだね」

響「うん、この最初の編み目こそが肝心だぞ。 この長さを基に横に広げていくからな!!」

真「あ、成る程!! へぇー、これだけだとただの一個の結び目だけど、これを何回もやるとマフラーになるんだねぇ……」

響「ちょっと違うけど、そんな感じ! さぁー、ばんない編んでいくぞー!」

真「はい先生!!」

響「うーん、マフラーだから……。 三十目くらい編めば十分かな!! じゃあ真、ちばりよ!」

真「うん、やってみるよ!! よーし……!!」

響「あ、そうだ! 一番最初に結んだ編み目は数えなくていいからね! あれは1じゃなくて0だぞ!!」

真「あ、そうなんだ……っ! ありが、と……っ!!」

響からの忠告をありがたく受け取りながら、三十という数字にしては少なめだけれども、
今の僕の状況からすれば、鬼のように多い編み目を作るのに勤しんでいた。
ただいまの編み目の数、3目。

響「しかし、毛糸沢山買ったなー。 色別に分けて五個、合計八十個もあるぞ……」

真「だって……っ、響が多めに見積もって買った方が良いって言ってたじゃないかっ!」

響「確かにそうだけど……。 こんなに買ってどうするつもりなんだ?」

真「………………それは……秘密っ!!」

ただいまの編み目、16目。

響「えー? ちょっとくらい教えてくれたっていいでしょー? なー、真ぉー」

真「ダメなものは……っ、ダメ!! 秘密の方が出来たとき嬉しいじゃないか!!」

響「そうだけどー……。 なぁなぁ、自分にだけ! 自分にだけ教えて!! うにげーっ!」

真「ダメったらダーメ!!! ……あ、ほら出来たよ、三十目!! 早く次教えてよ!!」

響「むー……!! 仕方ない、今回は見逃してやるぞ……!!」

「まるで悪役の台詞だね!」とツッコミをせざるを得なかった。
頬を風船みたいに膨らませてふて腐れた姿はとってもかわいいけど。

響「じゃあ、続き教えてくぞ!! そうだな……。 真、もう三つ編み目を作って!」

真「えぇっ!? ま、また作るの!?」

響「大丈夫、この三つの編み目は立ち上がりの為の編み目なんだ」

真「立ち上がり……?」

響「うん、この立ち上がりが横に伸ばす為の足がけになるんだ。 んーとね……、例えばなんだけど、
  この基の編み目があるでしょ? これにまた同じような編み目をくっつけていったって帯にはならないよね?」

真「あ、まぁ確かに、バラバラになっちゃうよね……」

響「うん、今回は長編みの平編みって言うんだけど、その編み方に必要な編み目なんだ!」

真「そうなんだ……。 ん? えっと? どう必要なの?」

響「うーん、口で言うのは難しいんだ……。 まず、この立ち上がりの三目にかぎ針をかけたまま、
  立ち上がりの目のひとつ下の作り目の「裏山」に! かぎ針を入れ込んで通り抜けるんだ」

真「ふんふん」

響「細かい過程はまた教えるけど、編み込んだらまた一つ下の裏山にかぎ針を入れ込んで同じように編みこんでいくんだ。
  つまり三回同じ工程を繰り返すって感じだな!!」

真「成る程ね。 よし、二本引き抜いて……、また巻いて、引き抜いて……」

響「真結構上手いな! 手先が器用なんだな、上達が早いぞ!!」

真「そ、そうかな……。 えへへ」

響「これは意外と早く終わりそうで安心さー!! もうすぐで一応終わるからな!!」

真「えっ? まだ全然出来てないけど……」

響「これからはこの編み方をずっと続けて横に伸ばしていくだけだから、教えるだけならここで終わりなんだ」

真「ずっと往復行動の繰り返しなんだね……」

響「うん、だからこの後にあるもう一つの過程を教えたらもううわとんっさー!」

真「そっか終わりかぁ……。 よーし、頑張るぞー!!」

響「その意気だぞ! じゃあ続きだけど、引き抜き終わった後は、また二回巻きつけて今やったトコの一段下の裏山に入れ込むんだ」

真「あっ、成る程ね。 もう解ったよ、これを繰り返していけば良いんだね?」

響「そのとおりさー!!」

真「へへーっ、じゃあ一気に行くよー。 ……だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」

響「おぉ!? は、はやい!? どんどん編みあがっていく……!!!」

真「反復なら日ごろのトレーニングで慣れてるよ! 同じことを如何に自分の一番やりやすいやり方に持っていくかとかね!!」

それに、これから何千回も繰り返すであろう工程にそこまで時間を掛けていられない。
そんな遅いペースでやっていたら、いつになるか解らないから。

一つ編みこんではまた裏山にかぎ針を入れ込んでいく。
少し荒っぽくてもいいから、出来るだけ早く。 けど編み目の大きさがバラバラになってしまわないように。
自分自身にそんな命令を掛けつつ、どんどん編み上げていく。

真「……よし…………!!」

そしてあっという間に折り返し地点からゴールまで到達した。
けどこれは折り返しでもゴールでもなんでもなく、スタートから一歩前に出ただけに過ぎないんだ。
と、慢心に足を浸けないように気をつける。

響「……凄い、凄いな真! 自分でもこんな早く編み上げられないぞ!!」

真「へへっ、そうかな? ありがと」

響「これだったらもう教える必要なんて無いかもな!」

真「ちょっ、ちょっとそれは困るんじゃないかな……」

響「あはは、ジョーダンさー!! じゃ、ここで教える、実質最後の工程を教えるぞ!」

真「はい! 響先生!!」

きっとこうやって先生と呼ぶのもこの場では最後だろう。
すっかり言われても照れなくなった響を見ながら、ちょっぴり切なくなってしまう。
別に今生の別れでも無し、明日になればまた会えるっていうのにね。

響「ここまで編み終わったら、一度今まで編んだ、編地って言うんだけど、それをひっくり返して、
  一番最初にやった鎖編みの要領で三目編む!」

真「解った、三目だね? ……ん、なんで編地をひっくり返したのさ?」

響「ふっふっふ、ここまで来たのに解らないとは……。 真もまだまだだな!!」

真「むっ! もったいぶらずに教えてよ!」

響「ひっくり返したのはこの次に意味があるんだ! まず三目編んでみて」

真「…………。 出来たけど?」

響「ごめんごめん、そんな怒らないでよ。 わっさいびーん!」

真「……しょうがないなぁ、今回だけだよ?」

響「えへへっ、ありがとっ。 で、そしたらかぎ針に二回糸を巻きつけて、さっき編みこんだ編地があるよね?
  そこの上の部分、さっきは裏山を使ったけど、今回は半目にかぎ針を入れ込んでいくんだぞ」

真「一回巻きつけてからの……、半目に……。 あ、これもしかして……」

響「多分合ってると思うぞ! 今さっきやった編み方と一緒なんだ!」

真「やっぱりそうだよね!! 成る程! つまり、またこうやって編んでいく、
  折り返しが来たらひっくり返して三目鎖編みをしていく!!」

響「そうそう!」

真「それでまた半目にかぎ針を入れて編んで、折り返しが来たら……!!」

響「ご明察! これをずっと繰り返していけば、どんどん長くなってマフラーになっていくんだ!!」

真「あー! 今すっごいスッキリした!! やっとどうやってマフラーが出来るのか解った気がするよ!!」

響「自分も、編み物の本読みながらやってた時、そんな感じになったなぁー」

真「よし、これでマフラーが作れるようになったんだよね僕!!」

響「うん、ひとまず自分のマフラー講座は終わりだな~! 後はひたすら編んでって……」

真「あ……、あの、さ、響」

響「ん? どうしたんだ?」

真「その……、後は帰って僕だけでやってみても良い、かな……」

響「……どうして?」

真「わかんない事は、電話やメールで聞いて、出来るだけ一人でやりたいんだ……」

響「………………」

真「その、わがままでごめん。 けど、これだけは自分で頑張りたいんだ……!!」

響「……………………わかった」

真「あは、やっぱダメだよね……ごめ…………え?」

響「真が何を思って一人でやりたいのか解らないけど、それよりも真を信じてるから、任せるぞ!」

真「響…………、ありがとう……!」

響「気にしない気にしない! まくとぅーそーけー、なんくるないさー!!」

真「まくとぅ……?」

響「頑張って努力してやれるだけやったなら後はなんとかなる!! って意味さー!!!」

真「そっか……、ありがとう響!! この埋め合わせは必ずするよ!!」

響「そんなの気にしなくていいの! ほら、早く行った行った!!」

真「ありがとう響!! またね、本当にありがとう!!!」

「もう! 何回ありがとうって言ってるんだーっ!」という響からのツッコミを背中に受けながら、
事務所を後にする。 自然と足も駆け足になっていった。


その後、僕は脇目も振らずマフラーを編み続けた。
仕事の後も、学校の後も、一切寄り道をせずに帰った。

トレーニングの時間だって一時間減らしたし、買い食いも全くしなくなったので財布の中身も中々減らない。
料理やファッション雑誌にだって時間を割かなくなった。

指が痛くなったって、筋を痛めてしまったって、諦めずに編み続けた。

真「二回巻きつけて……半目に入れ込む…………」

あの後、響に色々なことを聞いた。

毛糸が途中で無くなった場合、どうやって新しい糸を編み合わせるか、とか、
途中で毛糸の色を変えたい場合、どの工程から糸を挟めば良いのかとか。

フリンジって言って、マフラーの両端に房のような飾りをつけること。
編みあがった後、編み始めと編み終わりの糸はどう処理すれば良いのかも全部教えてもらった。

「当分、響には頭が上がらないかもしれないなぁ」なんて一人ごちたりもした。

真「ひっくり返して……、鎖三目…………!」

この前、みんなとご飯を食べに行かないかってプロデューサーに誘われた、断った。
やらなきゃいけない事があるからって、そう言って。

その時みんなは一瞬残念そうな顔をしてたけど、すぐ笑顔に戻って「頑張って」と言ってくれた。
それを思い出すと、折れかかった心もあっという間に立ち上がろうと燃え上がる。

真「よし……! 二回巻きつけ、半目に入れ込む……!!」

その度に、僕はいろんな人に支えられてるんだ、と実感する。
この皆の優しさを、気持ちを、形にしたくて、少しでも返したくて……。


真「…………っっ!!! 出来たぁーーーーー!!!!!!!!」



だから僕は、このマフラーを編んでいるんだ。


・ ・ ・ ・ ・

その次の日、プロデューサーやみんなに無理を言って全員事務所に来てもらった。

P「ひーふーみーよ……。 うし、これで全員だな」

小鳥「社長も来られました」

高木「みんな元気でなによりだねぇ!」

律子「竜宮も来ましたよー、あずささんも回収済みです」

P「回収済みってひどいな、俺があずささんをプロデュースしてた時はもっとステキな言い方してたっつーのに」

律子「ほう?」

小鳥「詳しいお話を聞かせていただきましょう!!」

P「聞いて驚かないでくださいね……。 「運命の赤い糸を手繰り寄せに行って来るか」って言ってた」

律子・小鳥・高木「うわキツ」

P「社長まで!?!??!?」


伊織「…………で、結局何の為に連れてこられたのよ?」

美希「ミキまだ眠いの…………あふぅ」

あずさ「あら、ダメよ美希ちゃん。 ちゃんと起きてないと」

美希「……んー、あずさがそう言うなら、ちょっとだけ頑張るの」

亜美「おぉ~、さすがあずさお姉ちゃん!」

真美「一瞬でミキミキを起こすことに成功するとわ!!」

やよい「この前、私と亜美と真美三人がかりで起こしてもダメだったもんね」

亜美「ミキミキのダブルマウンテンの前には亜美たちもむりきだった……」

真美「やよいっちが止めてくれなかったら危なかったぜぃ……」

伊織「触ろうとしてたんじゃないの!」


春香「……ふふ、皆楽しそう」

千早「思えば、全員が集まるなんて久しぶりね」

春香「ねー、最近忙しくなったもんね」

千早「……それもあるかもしれないわね、皆が浮き足立ってるのって」

貴音「かも、しれませんね。 尤も、盛り上がるのはこれからでしょうが」

雪歩「……? 四条さん、なんで集められたのか、知ってるんですか……?」

貴音「いいえ、わたくしは何も。 ですが、響は少しだけ解ってるようですよ」

響「じじっ、自分は何も知らないぞ!! なーんにも知らないからな!!!」

春香「あはは、隠し通せてないよー」

貴音「ふふっ……。 楽しみですね……」


律子「はいはーいみんな! 少し静かにしなさーい!!」

高木「まぁまぁ律子君、今日はせっかくみんな集まれたんだから少し穏便に……」

律子「ダメです! 甘やかしたらこの事務所幼稚園になっちゃいますよ!!」

P「幼稚園……!?」

小鳥「アイドルのみんなが幼女化……!?」

P・小鳥「……アリだ!!!!!!!!!!!!!」

律子「はいそこのロクデナシ二人もさっさと黙るー!!!!」


真「お待たせしましたー!!!」

P「お、真打とうj……ってでっか!!! 何その箱!!!!」

真「へへっ、これをみんなに見て欲しくて!!!」

事務所のドアにギリギリ入るか入らないかくらいの大きさの箱、
全体的に赤い包装紙で巻かれていて、蓋には黄色いリボンがついている。
それを持ってきたのを見て、プロデューサーが驚きの声をあげる。
確かに、こんな大きな箱あるんだと、見た時僕も驚いた。

響「あ、あれ? 自分が教えたのはマフラーの作り方だったような……」

この中で一人だけ、響の上に疑問符が浮かんでいる。
その答えを出してあげるためにも、矢継ぎ早に話を進める。

真「えーっと、今日みんなに集まってもらったのは、僕のみんなへの日ごろの感謝をしたいと思ったからです!!」

ガヤガヤとしていた事務所もシンと静まり返る。
僕の声は変わらず明るいままだけど、聞き取った話から、大事な話だと解ったからだろうか。
オーディションの時よりも、僕は緊張していた。

真「みんなは本当に優しくって、いっつも僕を支えてくれる。 その感謝を形にしたいと思って、これを作りました!」

箱を開けてマフラーの端を取る。
それを持ってみんなの元へと駆け寄っていく。

マフラーは、途切れることなく、色を変えてどこまでも続いてみんなの元へと羽ばたいていく。


真「はい響! 今回はありがとね!」

響「なんくるない! お、これはエメラルド? 浅葱色だっけ?」

響には海のように煌く浅葱色を

真「春香!」

春香「わわっ、マフラー? ……あ、赤い!」

春香には熱く燃え上がる情熱を色にしたような赤色を

真「千早!」

千早「ありがとう。 ……青、いえ、蒼ね」

千早にはどこまでも澄み渡る声のような蒼色を

真「貴音さん!」

貴音「これは……。 臙脂色、ですか」

貴音さんにはどこか秘密を秘めた臙脂色を

真「雪歩!!!」

雪歩「あ、ありがとう真ちゃん。 ……わぁ、真っ白」

雪歩には淡く透き通るような白を

真「伊織!」

伊織「…………あ、ありがと……。 あら、可愛らしいピンク色」

伊織には「可愛い」を色にしたようなピンク色を

真「あずささん!」

あずさ「うふふ、真ちゃんありがとう。 まぁ、紫ね♪」

あずささんには綺麗と可愛いを両立させたような紫色を

真「美希!」

美希「真クンからのプレゼントなんて嬉しいの! んーと、黄緑色、かな?」

美希には可能性を秘めた黄緑色を

真「亜美、真美!」

亜美「んっふっふ~、ありがたくもらっちゃうぜぃ!!」

真美「ふむふむ、これはイエロー色ですな!!!」

亜美と真美には活発さをそのまま色にしたような黄色を

真「やよい!」

やよい「わわっ、ありがとうございます~! うっうー! 綺麗なオレンジ色ですー!!」

やよいには暖かくも優しい色をしたオレンジ色を

真「律子!」

律子「ありがと。 へぇ、やっぱり緑?」

律子には知的で聡明さを表したような緑色を

真「小鳥さん!」

小鳥「真王子からのプレゼント……!! あら、これは黄色? いえ、亜美ちゃんと真美ちゃんのより少し明るい色ね……」

小鳥さんには可愛らしくてちょっと照れ屋なひよこ色を

真「社長!」

高木「うむ、ありがたく……。 ほほぅ、黒かね」

社長には何にも染められることの無い黒を

真「プロデューサー!」

P「わっほい真からのプレゼントォ!!! ……お、灰色か」

プロデューサーにはいつまでも火の消える事無い灰色を

真「そして……!!!」

マフラーの終わりが近付き、自分の番がやってくる。
皆の色の毛糸をすべて混ぜ込んだ色のマフラーをぎゅっと握り締める。


真「……よし、皆に行き渡ったよね?」

春香「……うん、皆持ってるよ」

真「……完璧!!!」

大きくサムズアップ。
そして目を閉じて、今日みんなに伝えたいことを思いのままに言葉に乗せる。

真「……僕は今日まで、みんなに沢山助けてもらった、そしてこれからもみんなに助けてもらうと思う。
  けど、それと同時に、僕もみんなの助けになりたい!!」

真「きっとこうやって、人の繋がりって続いていくんだと僕はそう思ってる」

真「その……だから…………」

視界が滲む。 何故なのか、どうやら僕は泣いているらしい。
そんなつもりじゃなかった、僕はもっとこの場を盛り上げたかった。
こんな重い空気にするつもりなんかこれっぽっちも無いのに。

真「あれ、おかしいな……。 なん、で……、なんで涙が出ちゃうんだ、ろ……」

涙の正体が解ったかもしれない。 きっと今の僕は不安なんだ。
本当にみんなが喜んでくれているのか、僕のこのプレゼントはみんなにとって迷惑ではないだろうか。
それが解らなくて不安で、きっと泣いてしまったんだと思う。

響「…………真」

真「…………ぁ、響、ごめん、ね……? こんなハズじゃないんだけど……」

響「真、まくとぅーそーけー、なんくるないさ。 だぞ」

真「え………………?」

その言葉、聴いたことがある。 ……そうだ、あの時響がその言葉で背中を押してくれたんだ。
確か意味は、頑張って、努力してやるだけやったなら…………。

その時、首筋に暖かい感触を覚えた。

真「………………雪、歩?」

どうやら、暖かいのは雪歩が僕を抱きしめているかららしい。
まるで赤子をあやすかのように、僕の頭を撫でながら雪歩はこう言った。


雪歩「真ちゃん、良く頑張ったね。 とっても嬉しいよ、本当にありがとう」

それは、とても優しく、安心する言葉だった。
僕の中の不安が消え去ったような、そんな気がした。

真「ゆき……ほ…………」

雪歩「みんなだって喜んでくれてるよ」

雪歩に促され、言われるがまま滲んだままの視線を見やると、
そこには、みんなが僕の作ったマフラーを首に巻いてくれている情景があった。

ストールのように肩にかけたり、普通に首に巻いたり、みんな別々のマフラーの巻き方だけど、
全員揃ってとっても笑顔だった。 迷惑なんかじゃない、と行動で示されているようだった。

真「……う……うぅうぅぅ……。 みんな……ありがとぉ…………」

僕がそう言うと、わっとみんなが一斉に僕の元へ駆け寄って抱きしめてくれる。
みんながみんな僕を抱きしめるのは無理だったけど、とっても暖かくて心地よかった。

マフラーが本当の意味で繋がったような、そんな気がした。




お わ り