このSSは
あずさ「二人だけの時間」アフターSSです





壁時計の針は、2本とも『12』を指そうとしています。

隣にいるあずささんの少し赤くなった顔を横目に見ていると、なんだか得をした気分。

ピアノからはシューベルトの『トロイメライ』
その緩やかな旋律に合わせたみたいに、溶けだしたグラスの氷がカラン、って音を立てました。

「あずささんもどうですか、ウィスキー」

「私、あんまり強いお酒はちょっと……」

「うふふ。薄めに作ってもらえば大丈夫ですよ」

そう言って勝手にフェイマス・グラウス水割りを2杯オーダーする私。
少し赤くなっている横顔を、もう少しだけ赤くしてみたいから。

「可愛いですね、鳥」

ボトルのラベルを指差しながら、あずささんが言いました。

「『雷鳥』って種類の鳥らしいですよ、あれ」

そう返しながらグラスを受けとると、この日何度目かの乾杯。

「美味しいです。小鳥さんが一緒だから、ですね、きっと。うふふ」

「もう。持ち上げてもなんにも出ませんよ」

ピアノの旋律に2つの笑い声が重なりました。
その声に小さく揺れるカウンターのキャンドルが、とっても綺麗。

壁時計の針はもうすぐ日付変更線を越えるところ。
お客さんたちも徐々に席を立ち始めました。

「まだ大丈夫ですか、あずささん」

「もちろんです」

私の顔もきっと赤くなってるんだろうな。
隣の横顔に負けないくらい。

旋律が途絶えた店内に流れる、二人だけの時間。
もう少しだけ、このままで。

お し ま い