前作:アイマス×歌舞伎『三人吉三巴白浪』序幕<大川端庚申塚の場>



尾崎「おいおちょう。言いたいことがあるなら言ったらどうだ。返せ返せと言うが、そっちこそ貸しがあれ、こっちが借りた覚えはねえんだよ」

ネリア「何言ってんデスかこのロン毛!一昨日の晩は蕎麦が二杯、帰りがけに夜明かしで、きらず汁に酒が一合、今朝も沢庵を買う時四文貸し、丁度それで百ばかり貸しがありマス!」

尾崎「そりゃあ手前がこの間、和田の中間に達引く時、72文貸しがあらあ!まだその上に、この前十二文の棒鱈を二つ食わしてやったから、こっちも百貸しがあるんだよ!」
 
ネリア「べらぼうめ!あの棒鱈は、手前が歯がなくて食えねえって言うから代わりに食ってやったんデス!」

絵理「何だか知らないけど…二人とも、静かに言っても…わかろうじゃないか?」

尾崎「ええい!何でもいいから俺の方へ、百返してから理屈を言え!」
 
ネリア「アンタに返す銭なんて無いデス!返す気がないなら腕ずくでも取ってやりマス!」

尾崎「はははは!取れるもんなら、取ってみろよ」
 
ネリア「どうでも取らずにおくものか!」
 
尾崎「痛たたた!何すんのよ!」
 
ネリア「さあ返せ!返せ!」
 
絵理「二人とも…やめねえか?」
 
尾崎「アンタがその気ならやってやろうじゃないの!」
 
ネリア「かかってこい!相手になってやりマス!」

絵理「もう…しょうがない…待った、待った…待った、待った!一番待って…もらおうか?」
 
尾崎「いらぬとめだて!」
 
ネリア「のいた」
 
尾ネ「のいた!」

絵理「いいやのかねえ…のかれねえ?…危ない煙管と薪のなか 見かねて止めに入ったは ばばあおはぜにトラフグおちょう 互いに争う百の銭 その貸し借りは夜鷹湯の 下水に流してさっぱりと ま綺麗に流して…おくんなせえ?」

ネリア「そう言うことなら預けもしようが」
 
尾崎「そうして百の貸し借りは?」
 
絵理「中へ入ったわっちが不肖 足らぬところは両腕の…代わりに二本の蛸の足 これで百にして…おくんなせえ?」

ネリア「さすがせん…名代の腕蛸おいぼ!両足出しての扱いを」
 
尾崎「まさかこのまま取られもしめえ」
 
絵理「そんならここへ…二合ばかり残った酒で仲直り?」

ネリア「物は当たって砕けろか」
 
尾崎「はぜとふぐとの噛み合いも」
 
絵理「これから兄弟同様に」
 
ネリア「三人揃って」
 
絵尾ネ「義を結ぼうか」
 
絵理「二人とも…もう少し仲良くして欲しい?」
 
絵尾ネ「ワイワイガヤガヤ」

まなみ「もうあなた達はまだ支度をしてないんですか」
 
絵理「支度はしないどころか、もうしちまって…あなたが来るのを待っていた?」
 
まなみ「そうですか。私はちょっと遅くなったから、場所へ小屋を掛けてきたんだ」
 
尾崎「そりゃあ良い手回しだ」
 
まなみ「親方は奥?」
 
ネリア「親方なら奥にいマスよ」
 
まなみ「そう、親方!」

あずさ「おう、権次!帰ってきたか!」
 
まなみ「はい、遅くなってしまいました」
 
あずさ「それで娘は、娘の居所は知れねえか?」
 
まなみ「ちょっとでも当たりがあるところは残らずまわってきましたが、どうにも居所は知れません。もしかしたら辻斬りにでも…」
 
あずさ「俺もそれが心配で、今朝からろくろく飯も食えねえ…こんな気弱じゃなかったが 俺もだんだん取る年で 先から先を考えるのでほんに余計な苦労をするよ」
 
まなみ「もしかしたら昨日誰かの家に泊まって、昼に帰るのも間が悪いから、そのままいつもの場所に行ったのかもしれません」

あずさ「何にしてもお前達は、これからすぐに場所へ行き、おとせが居たなら誰でもいいから戻ってきてくれ」
 
まなみ「はい、わかりました」
 
尾崎「さあ、じゃあ行こうか」
 
絵理「それじゃ親方…行ってきます?」
 
あずさ「行く道も気をつけてな」
 
まなみ「合点です」

あずさ「ただなら良いが、から身でないゆえ…」
 
まなみ「はい?」
 
あずさ「ああ、いや、唐傘を持って行くがいい」
 
まなみ「ああ、ほんに悪い雲行きだ」
 
絵理「水晴れは真っ平?」
 
ネリア「ばれないうちに」
 
まなみ「道を急いで」
 
絵尾ネ「さいでさいで」

あずさ「…案じられるは娘の身の上 大枚百両という金ゆえ もし間違いでもある時は 俺は元より奥にいる 昨夜助けた木屋の若い衆 家へ帰すこともならず とんだ金を拾ったばっかり 余計な苦労をしなきゃならねえ 早く便りが、聞きてえものだなあ…」

春香「あなたの家はこのあたりですか?」
 
雪歩「あそこに見えるのが、私の家でござりまする」
 
春香「親御もさぞ案じていることでしょう。さあ、早く行きましょう……もし、お頼み申しまする」
 
あずさ「はい、どなた様でしょうか」

雪歩「ととさん、私です!」
 
あずさ「おとせ!?よく無事で帰ってきたな!」
 
雪歩「昨夜とんだ災難にあって、死にそうなところをこの方に助けてもらってここまで帰ってこれました。」

あずさ「おお、そうか!これはこれはどこのお方か存じませんが、娘の命をお助けくださりなんとお礼を申しましょうやら…ありがとうござりました」
 
春香「いや既に危ういところ、ようようのことでお助け申しました」
 
あずさ「それはもうありがとう存じました。して、おとせ昨夜の災難とはどういうことだ?」

雪歩「…さあ、お金を落としたそのお方を 尋ねに場所にいたなれど めぐりあわれず過ごすごと 帰る途中の大川端 道から連れになったのは 年の頃は…十五六 振袖を着た良い娘御 その娘御が盗人にて 持ったる金を盗られし上 川へ落とされ死ぬところ このお方に助けられ 危うい命を拾いました」

あずさ「それじゃあ金は、盗られたのか…」
 
雪歩「あいなあ…」

春香「その先は私がかいつまんでお話しましょう。私は八百屋久兵衛と言って、百姓半分青物商売 昨日東葛西から舟に牛蒡や菜を積んで通りかかった両国川 水に浮かんで苦しむ娘御 ようようのことで助け出して介抱し 我家へ伴い参りまして 今朝連れて参ろうと思う矢先にひょんな事 家の倅が奉公先から百両という金を持って行方が知れず それゆえ方々に尋ねしが未だに行方知れず…そのためにこのように遅くなってしまい、申し訳ございませぬ…」
 
あずさ「いや、もうこちらこそありがとうござりまする…したがこっちにも似寄った話がござりまするが…息子殿の年格好は?」

春香「はい、今年で十七になりまする」
 
雪歩「どうやら話をお聞き申せば、お金を落としたお方みたいです」
 
春香「それゆえもしや言いわけなく、身投げなどしないかと、案じてなりませぬ…」
 
あずさ「そりゃもう、誰しも同じ親心。そうしてお前さんの息子だが、十三さん、とは仰いませんか?」

春香「は、はい!十三と申しますが」
 
あずさ「それなら御安心なさいまし!達者でございますよ」
 
春香「えっ!?達者でありますと?」
 
あずさ「今会わせてあげましょう、十三さん!十三さん!」

  「ただいまそれへ、参りまする」

春香「十三!」
 
真「親父様!」
 
春香「よく元気でいてくれた」
 
真「面目次第もございませぬ…」
 
雪歩「どうしてあなたはこの家へ?」
 
真「金を無くした申しわけに川に身を投げ死のうといたせしを、伝吉さまに助けられ、昨夜から御厄介に」

雪歩「それはよう来て下さんした。実は今の今まで死のうと思っていましたが、死んだらここで会えませんでした。鶴亀々々、ふふふふ」
 
春香「それなら死ぬ気は無くなりましたか。それは良い了見。しかし、いかなる因縁や」
 
あずさ「こなたの息子は私が助け」
 
春香「あなたの娘は私が助け」

真「捨てる命は拾えども」
 
雪歩「拾うた金は盗まれて」
 
あずさ「今となっては」
 
春香「互いの難儀…」
 
真「こりゃどうしたら」
 
あ雪春真「よかろうなあ…」

あずさ「まあ何にしてもその百両、娘が拾って盗られたからはこっちも逃れぬ関わりあい、死ぬ身になって共々に金の調達しましょうから、まずそれまでは息子殿、行方の知れぬ体にして、私に預けてくださいまし。悪いようにはいたしません」

春香「ありがとうございます。ご親切なそのお言葉、甘えましてのお願いは、そでないことではござりまするが、何を隠そう実の親子でないゆえに…」
 
あずさ「というと貰いでもしなすったのかい?」
 
春香「いえ、拾いましたのでござりまする」
 
あずさ「そりゃまたどこで?」

春香「忘れもせぬ、十七年前…実子が一人おりましたが、子育ちのないことから名をお七と名付けまして女姿で育てましたが、五つの時にかどわかされ、方々を探し回った帰り道、法恩寺の門前で拾いましたはこの倅」

あずさ「!?そ、そりゃ本当か!法恩寺の門前で…」
 
真「はい、僕は一体誰の胤なのか…実の親の名も知らず、今まで育ててくれた、大恩ある親父様へ御恩の一つも送れず、ご苦労をかける不孝の罪、どうもそれが済みませぬ…」

春香「そんなに思いつめなくても良い。息災であればこれに勝る喜びはないだ」
 
真「親父様…」
 
春香「勝手ながら私はこれから主人宅への言いわけに参りますので、どうかよろしくお願いします」
 
あずさ「そんなら息子殿は私に任せてくださいまし」

春香「どうぞお願い申します。なにぶんともに倅のお世話を」
 
雪歩「そ、そりゃもう私がどのようにも!もう手取り足取り…十三さんのことはナ、ナニもかも私にお任せあれ…ほほほほほ!」
 
春香「で、ではわたくしはこれで。さようなれば伝吉様」
 
あずさ「久兵衛殿」
 
春香「よろしくお願い申します」

真「親父様…」
 
春香「息災でな…」

あずさ「せっかく娘が帰ったらと、思った金もいすかとなり、今更どうしようもねえが、金は世界の湧物だ!明日にでもできめえものでもねえ。二人とも案じずとも昨夜からの心遣い…奥へ行って…休めば良い…」

雪歩「そ、そんならととさん!じゅ、十三さんと奥へ行ってようござんすか!!」
 
あずさ「お、おう良いとも良いとも。若い者は若い者同士好きにすれば良い」

雪歩「じゅ、十三さん!ととさんのお許しが出たので…これから奥でしっぽりと!!!あ、いえ…今宵はしっぽり降りそうなれば、寝ながら…話を…」
 
真「あ、いやだけど僕…まだ眠くなくて…」
 
あずさ「ああ、眠くなけりゃあ二人で炬燵にでも入りながら…話でもすりゃあいいや」

雪歩「あのようにととさんも言わしゃんすほどに…十三さん…」
 
真「それなら…御免下さりませ…」
 
雪歩「十三さん!さあ!ござんせえなあ」
 
真「はい」
 
雪歩「さあこっちですよ十三さん!!」
 
真「痛たた!…そんなに引っ張らなくても」

あずさ「何にも、知らずに…」
 
ゆきまこ「?」
 
あずさ「ん?ああ早く奥へ、行くがいいや…」
 
雪歩「では十三さん」
 
真「御免下さりませ」

あずさ「…何て、何てこった…」
 
やよい「♪…昨夜図らず、大川端の庚申塚で、お嬢、お坊の二人と兄弟分になった時私によこしたこの百両、久しく親父に会わねえからせめてお土産に、持っていきましょう」

やよい「御免よ」
 
あずさ「誰だ」
 
やよい「私です」
 
あずさ「何だ吉か、何しに来た」
 
やよい「何しにここへ来るもんですか。親父もだんだん寄る年波、変わることでもないかとちょっと見舞いによったんですよ」
 
あずさ「そりゃ奇特なことだが、私はまた無心にでも来たのかと思った」

やよい「もう、お父さんそれはもう昔の事です。今じゃ塩噌に困ることもありません。それというのも親のおかげ、小遣いでもやりたいと、思った壺に目が立って、昨夜ちょっと儲けましたから、それを持ってやってきたんです」

あずさ「その志は忝いが儲けた、というその金も噂の悪いお前ゆえ、どうも私は貰えねえ。僅か五両か十両のはした金でもその時に、苦労するのは嫌だ。志は貰ったから、金は持って帰ってくれ」

やよい「幾つになってもガキのように、あなたは思っているでしょうが、三年経てば三つになります。いくら私だって久しぶりにやってくるのに、五両や十両のはした金は持ってきませんよ」
 
あずさ「何、はした金は持ってこねえだ?」
 
やよい「ちょっとしても、一本あります」

あずさ「…!?そ、そんならこれは!」
 
やよい「またいるなら持ってきましょう」
 
あずさ「たかが五両か十両のはした金と思ったが、こりゃあ小判で大枚百両…丁度こっちに入用の」
 
やよい「?」

あずさ「ああ、欲しい金でも貰えねえ!以前と違って悪事を辞め、今じゃ信者講の世話人だ。袖ねえ金は貰えねえ…」
 
やよい「親の難儀を貢ぎのため子が金を持ってくるのは、言わずと知れた親孝行。お上に知れれば辻々に張札が立って褒美もんですよ」

あずさ「そりゃあご褒美が出て辻々に、張札がでりゃあ良いけれど、こう百両とまとまればこの江戸中を引き廻し、その身の悪事を書き記した捨て札がでなきゃならねえ。この金は貰えねえよ」

やよい「たとえこの金が理由で、私の首が飛んでも、お父さんに難儀はかけません。びくびくせず取っておいてください」

あずさ「いやいやこれは受け取れねえ…若い時分にした悪事が だんだんこの身に報って来て 今も今とて現在も…この金を受け取ったらどんな憂き目を見るかも知れぬ! 恐ろしいこった南妙法蓮華経 南妙法蓮華経!」

やよい「寄る年波とはいえお父さんも随分けちな了見になったね。それじゃあどうしてもこの金はいらないっていうの?」
 
あずさ「唾が出るほど欲しいけれど…」
 
やよい「そんなら取っておきなせえな」
 
あずさ「…早く持って帰ってくれ!」

やよい「…いらざあよしねえ上げますめえ 悪党ながら一人の親 ちょっとは楽をさせてあげようと 持ってきたこの金も 気に入らざあ上げますめえ」

あずさ「他に用が無いなら、お前がここにいると目障りだ!早く帰ってくれ!」
 
やよい「ええ、言われなくても帰りましょう。こんなところに居られるものか」
 
あずさ「その根性が治らねえなら、もう家に来てくれるな」
 
やよい「来いと言っても、来やしません」

あずさ「おう来てくれねえのが 孝行だよ」
 
やよい「そんならお父さん」
 
あずさ「何だ」
 
やよい「首にならにゃあ逢わねえよ……あのお父さんの様子なにかあるに違いない…」

あずさ「…昨夜からの疲れが出て、ぐっすりと寝入った様子…あの寝姿を見るにつけ思い出すのはこの身の悪事……親の因果が子に報うと 可愛や奥の二人が 知らずにいるが…双子の兄弟…生まれたその時世間をはばかり 女のガキは末始終 金にしようと家に残し 藁の上から寺へ捨てた 男のガキはあの十三…しかも十年あとの事 以前勤めた事のある 海老名軍蔵様に頼まれて 安森源次兵衛が家に忍び込み お上からお預かりの庚申丸の脇差を 盗んで出たる塀の外 吠えつく犬に仕方なく その短刀でぶっ放したが はずみにそれて脇差を 川に落として南無三宝…その夜は逃げて明くる日に 素知らぬ顔で行ってみたが 遂に刀の行方は知れず… 斬ったは雌の孕み犬 その時かかあが孕んでいて 生まれたガキは体中 斑のような痣があるので 初めて知った犬の報い…一部始終を女房に 話すとすぐに血が上り 生まれたガキを引っ抱え 川へ身を投げ非業の最期… それから悪心発起して 罪滅ぼしに川端へ 流れ着いたる土左衛門を 引き上げちゃあ葬るので あだ名になった土左衛門伝吉…今じゃあ仏になったゆえ 捨てる命を助けたる 十三が双子に又候や 犬の報いの畜生道…悪いことは出来ねえと 思うところに吉三が来て 私へ土産のあの百両 手に取られぬはだんだんと 積もる悪事の〆高に 算用される閻魔の寵愛…ああ、恐ろしいことだな……」

やよい「……」(お父さん…百両ここに置いときますね…さよなら…)
 
真美「ん?今すれ違ったのは確か伝吉の倅の和尚吉三。おとせを女房に貰いたいけど、あいつが兄(c)だから玉に瑕だよね→。伝吉に会ってかけあってみよっと」

あずさ「これを思うと非業ながら、死んだかかあが遥かにマシだ…どれ線香でもあげてやろうか…!?こりゃあさっきの金!ん?まだそこに居やがったか!この金持って、おととい失せろ!」

真美「ん?小判で百両!ラッキー♪」
 
あずさ「あっ!この声は武兵衛だな!あいつに渡してなるものか!待ちやがれい!!」



二幕目 第一場<割下水伝吉内の場> 終


次作:アイマス×歌舞伎『三人吉三巴白浪』二幕目 第二場<本所お竹蔵の場>