前作:アイマス×歌舞伎『三人吉三巴白浪』序幕<大川端庚申塚の場>
   アイマス×歌舞伎『三人吉三巴白浪』二幕目 第一場<割下水伝吉内の場>


真美「あの鐘はもう八つか。さっきの伝吉の家の前で思わず拾ったこの百両。んっふっふ~♪これがほんとの棚からぼた餅だね!ラッキー!…夜道に金は剣呑だから、早く帰ろう」
 
夢子「剣呑なら私が預かってあげましょうか?」
 
真美「へ?」
 
夢子「今言った百両を、預かろうと言うことよ」
 
真美「お竹蔵前は物騒と、とうから噂に聞いちゃいたけど、そんならこなたは物取り?」
 
夢子「知れたことよ。隠さずここへ出してしまえ」
 
真美「な、情けないなあ、せっかく拾った百両だけど、命には代えられないよ→…すなおに差し上げましょう」

夢子「そうまたすなおに出されちゃあ、取りにくいのが人情だけど、命を元手にするからは、そうかと言って返されねえ。これは私が貰って行くわよ」
 
真美「そ、その代わりに命と着物は許してよ」
 
夢子「身ぐるみ脱げ!と言いてえが、金をすなおに出したから、他のものは助けてやるわ」

真美「へへ、ありがとうございます。じゃ、じゃあこれでお別れさせてもらいますね…こいつは春から」
 
夢子「え?」
 
真美「と、とんだ厄落としだよ…」

夢子「さて更けねえうちに」
 
あずさ「お侍さん!ちょっと待ってくださいまし」
 
夢子「私に何か用?」
 
あずさ「ちょっとお願いがございまして」
 
夢子「で、その願いとは」

あずさ「他の事ではございませんが、ただいまお手にしたその金をどうか、お貸しなさってくださいませんか?」
 
夢子「そんなら…今の様子をば」

あずさ「残らず聞いておりました。何をお隠し申しましょう。その金は元私の手元にあった金。ふとした事のいきさつから、今のあの男の手に渡りましたが、どうしても無くてはならない金ゆえに、ご無心申すのでございまする」

夢子「おう、それはただ盗った金だからただ貸せというのだろうが、命を元手に盗った金、気の毒ながらお断りねえ」
 
あずさ「そりゃもうごもっともではございますが、こちらの方にもせつないわけ、どうかお聞きなすって下さいまし」

あずさ「今の倅が養子先から奉公に出ましたが ふとした事の間違いで 主人の金の百両を失い 主人の難儀は養家の迷惑 見ていられぬは実の親 どうか不憫と思ってお貸しなさってくださいまし 娘を売ってでもお返しいたしますからどうかお貸しなさってくださいまし」

夢子「見ればアンタも寄る年だけど 額の傷を見るにつけ 堅気と思えぬぐれ仲間 素人なら不憫と思い 小遣いくらいなら貸してやるけど そんな甘口な筋書じゃあ びた一文も貸されねえなあ」

あずさ「それじゃあこれほどお願い申しても貸してはいただけませんか?」
 
夢子「知れたことよ!私をただの者と思いやがるか 十二の歳から檻に入り 禁足なしたも幾度か うぬらにけじめをくうような そんなそんな私じゃあねえ 見損なうんじゃないわよ!」

あずさ「おい小僧!もう言うことはそれだけか!」
 
夢子「どうしたと!」

あずさ「そんなセリフも幾度か もう言うまいとこの如く 数珠を掛けて信心するが 貸さぬというならもうこれまで おう!いかにも手前の推量通り 私も以前は悪党だ! 若い時から性根が悪く押借ゆすりぶったくり 暗い所も生き飽きて 今度行きゃあ百年目と 命の蔓のさんだんに 風を喰らって旅に出て 長脇差の附き合いに 場業の上の達引きにゃあ 一六勝負の命のやり取り その時受けた向う傷だ! 手前のような駆け出しの スリ同様の小野郎とは又悪党の立ちが違う そんな悪い了見も ふとしたことから後生を願い 片時離さぬ肌の数珠 切ったからには以前の悪党! 腕ずくでも取らねばならねえ!」

夢子「そこまでぬかしゃあ命はねえぞ!」
 
あずさ「ぬかしゃあがれ!」
 
夢子「何を言いやがる!」
 
あずさ「ぬう!?…野郎!やりやがったな!」
 
夢子「死にやがれ!」
 
あずさ「ああ!?……」
 
夢子「はあ…はあ…思いがけねえ、殺生をした…まずい、人が来た…」

雪歩「何故か胸騒ぎがしてなりません…ととさんはどこに行ったんでしょうか…」
 
真「もうそのあたりまで行ったならきっと会えるさ。さあ行こう。このあたりは道が悪いから気をつけてね」

雪歩「お気遣いありがとうございます…あっ!?」
 
真「大丈夫かい、気をつけ…ひ、人が倒れてる!」
 
雪歩「…ととさん!?ととさん!いやあ!」
 
真「伝吉様!伝吉様!」
 
夢子「…この隙に…」
 
真「誰がこんな惨たらしいことを…これは…吉の字菱の片々の目貫」
 
夢子「!?…あれは私の」

真「?…」
 
夢子「!…逃げるしかないわね…」
 
真「気のせいか…伝吉様、伝吉様!」
 
雪歩「ととさん!ととさん!目を開けて!ととさん!いやああああ!!」