前作:アイマス×歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒』序幕<吉原仲之町見染の場>
   アイマス×歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒』二幕目<立花屋見世先の場><大音寺前浪宅の場>



<兵庫屋二階遣手部屋の場>


ともみ「これはこれはお待ちしておりました」
 
雪歩「お久しぶりですね」
 
ともみ「久しくおいでにならないと噂していたところですよ。ささこちらへ」
 
雪歩「ではこちらで待つとしましょう」
 
ネリア「あなたさんこなたさん、こなたさんあなたさんありがとうございマス。花魁お召しかえ!」

貴音「佐野さん、よう来なましたね」
 
雪歩「また御厄介になりに来ました」
 
千早「引けたら遊びに行きんすよ」
 
雪歩「待ってますからすぐに来てください」
 
真美「いやあ上玉ですな!まるで人形のようだ!」

響「な、名前を今の若い衆に聞いてみよう」
 
雪歩「聞かずとも知っていますよ。先のが九重、後のが七越と言って上玉でございますよ」
 
真美「さすがは次郎左衛門殿ですなあ」
 
響「な、なら今の二人がお相手してくれるのか!?楽しみだなあ」
 
ネリア「ともみさん、八ツ橋さんはどの部屋に?」

ともみ「六番の部屋にお通しして」
 
ネリア「ハイハイ…と、ともみさん!」
 
ともみ「?…栄之丞さん!?よくいらっしゃいました」
 
真「いつも繁盛で結構ですね」
 
ともみ「ご、権八さんもご一緒に」
 
小鳥「ええ」
 
真「八ツ橋は?」

ネリア「す、すぐ連れてきますから、六番の部屋でお持ちになっててくださいマシ」
 
小鳥「栄之丞さん、あれが佐野の」
 
真「あいつが…」
 
雪歩「?」
 
ネリア「ささこちらへ」
 
真「…ふん」
 
雪歩「おきつさん、今のお客さんは?」

律子「え!?…あ、あの方は花魁の一座のお客さんですよ。ねえともみさん」
 
ともみ「さ、左様でございます。八ツ橋さんのお仲間の四谷一座のお客さんですよ」 
 
雪歩「そうですか。だから八ツ橋って言ってたんですね。」

真美「今のはなかなかいい男でしたな。あれはもてるでしょうなあ」
 
雪歩「では私は、六番の部屋で八ツ橋と…」

律子「あ、ああちょっと、ま、まだ八ツ橋さんは来てませんからもう少しこちらでお待ちになっててくださいまし」
 
雪歩「はあ、わかりました…早く来ないかなあ」

美希「他の部屋はどこもいっぱいだから、この部屋で我慢してほしいの」
 
真「……」
 
美希「栄之丞くん、なんで怒ってるの?」
 
真「自分の胸に聞いてみたらどう?」
 
美希「?、意味が分からないの」

真「八ツ橋、身請けの話は本当なの?」
 
美希「ど、どこからその話を!?」
 
真「どこからでもいいだろ!あまりにも袖ない仕打ちだから、こうしてやって来たんだ!」
 
美希「み、身請けの話なんて嘘なの」
 
真「いや嘘じゃない。佐野次郎左衛門っていう奴に身請けされるんだろ?全部知ってるんだ!」

美希「一体誰からそんなこと聞いたの!いくら栄之丞くんでも、あんまりなの…」
 
小鳥「その証人はあっしだよ八ツ橋」
 
美希「ご、権八!」

小鳥「養父の俺にも何の連絡もなし、しかも栄之丞さんにも話して無かったとは…八ツ橋お前は本当に不人情な女だなあ。俺は身請け金を貰えるからいいが、栄之丞さんはどうなるんだ!おう八ツ橋、なんか言わねえか!」

美希「た、確かに次郎左衛門様は最近よく遊びに来てくれるの…だ、だけど栄之丞くんに連絡しなかったのは、身請けなんてされないからだよ!されないなら連絡なんてする必要ないでしょ?」

真「それなら今座敷に居る、その次郎左衛門様に愛想を尽かせば僕も許してあげるよ」
 
美希「じ、次郎左衛門様にはいっぱい遊びに来てくれた御恩があるの。そのお客様に愛想尽かしをしろなんて…」
 
真「それなら、僕との縁もこれっきりだね」

美希「そ、そんな!」
 
真「それが厭なら佐野のお客と縁を切るんだ」
 
美希「そ、それは…」
 
真「厭なの?」
 
美希「……」

真「さあ!」
 
美希「さあ…」
 
真「さあ!さあ!さあ!早く返事を、聞かせてくれ!」
 
美希「う、うう……」


<同 八ツ橋部屋縁切の場>


真美「しかし、治六は遅いねえ」
 
響「道でも間違ったのか?」
 
真美「あずさお姉ちゃんじゃあるまいし」
 
響「そうだな!」
 
真美、響「はははは!」

雪歩「今度来たら花魁を買ってやると言ったら、まだかまだかとずっと言っていたので来るなと言っても来るでしょう」
 
ネリア「治六さんがお見えになりました」
 
真美「噂をすればですな」
 
春香「いやあお待たせいたしました!」
 
律子「治六さん、あなたのお相手はこの初菊花魁ですよ」

伊織「一服おあがりなんし」
 
春香「も、もったいねえようでございますなあ」
 
雪歩「治六、みっともねえから黙って受け取りなさい」
 
春香「へ、へへこりゃあ失礼しました。で、では…」
 
真美「相変わらず治六はひょうきんですな」
 
響「ははは!」

美希「……」
 
真美「お!八ツ橋花魁!」
 
雪歩「八ツ橋さん、よく来てくれました」
 
美希「……」
 
雪歩「八ツ橋さん?」
 
美希「気分が悪いから…話しかけないでほしいの…」
 
雪歩「き、気分が悪い!?そりゃいけない、医者を呼びましょう!」

美希「医者を呼ぶほどのことじゃないのだけど…一つだけ、気に障る事があるの…」
 
雪歩「気に障る事?それなら黙っていちゃ身体に悪いですから、何だか早く言ってください」
 
美希「言っても…いいの?」
 
雪歩「いいですよ早く言ってください。何が気に障るんですか?」

美希「次郎左衛門様と話すたびに…気分が悪くなるの…」
 
雪歩「え…あ、ああそういう事ですか。気分の悪い時は誰と話しても気分が悪くなるものですよね…なら私は黙ってますよ。あっ皆さん、八ツ橋さんの気分が治るまで黙っててくれませんか?」

美希「そうじゃないの…次郎左衛門様と話すと…気分が悪くなるの」
 
雪歩「え…」 
 
美希「次郎左衛門様と顔を合わせることが、厭でならないの」
 
雪歩「え、ええ!」

美希「前々から厭だったけど、立花屋さんのお客だったから相手してただけなの…そしたら今日の身請けの話…身請けなんて元々したくなかったの!もうここには来ないでほしいな」

雪歩「……は、ははは…や、八ツ橋さん、これは何か訳があるんですよね?訳があるなら謝ります、堪忍してください…そ、それに田舎に行くのが厭ならこの江戸に家でも建てて苦労はさせませんから、今夜のところはもう帰って寝てください」

美希「そんなお世話はいらない…これには深い…深い訳も何もないの。顔も見たくないただそれだけなの」
 
律子「や、八ツ橋さんそれじゃ私たちが困ります。身請けの話もまとまってるっていうのに…どういうことなのよ!」

貴音「これまで佐野さんへ愛想尽かしを言わなかったお前さんが、なぜ急にこんな…訳があるなら内緒で私に言ってくれればいいものを」
 
美希「さっき言った通り、訳も何もないの…身請けの話はしないで。気分が悪くなる…九重、ちょっとは察してほしいの」

響「次郎左衛門殿!こなた国で何と言った!今度江戸へ行ったらまず吉原を案内するから私の全盛を見てくれ!なんて言ったが、ありゃ何か、振られる自慢でもするためだったのか?」
 
真美「八ツ橋太夫とこなたみたいな男では不釣り合いだとは思っていたが、厭々相手をしてたんだねえ」

春香「旦那さま、これだから言わぬことではない…女郎は客を騙すのが商売、惚れられた惚れられたと思っていると足元を掬われると国にいる時言ったじゃありませんか…」
 
美希「この話は終わり…身請けの話はもうしないでほしいな」
 
律子「あ、あなた!これほどいい身請けの口を」

美希「厭なの!!絶対に厭なの!!身請けはしないの!!」
 
春香「あ、あんた!!旦那がどれだけあんたが好きで、ここに通いつめたと思ってるんだ!今夜身請けということになって急に断るとは…そんな話があるもんかい!!こ、断るっていうなら今まで払った金を全て返してもらおうか!!」

美希「こっちから来てくれと行った訳じゃないし、佐野さんが勝手に来てただけだと思うな…金を返す義理は無いの」
 
春香「こ、この!!なら、腕ずくでも取ってやる!!!」
 
雪歩「治六!腹をたてればたてるほどこっちの恥だ…すっこんでろい」

春香「で、でも旦那!!」
 
雪歩「すっこんでいろというに!!!」
 
春香「だ、旦那…旦那…」
 
雪歩「すっこんでろい…黙ってろい…」
 
春香「へい……」

雪歩「…花魁…そりゃあんまり、袖なかろうに…確かに、こんな酷いあばた顔の私じゃ嫌われても仕方ありませんでも、なんでもっと早く言ってくれなかったんですか!」
 
美希「これに懲りたら、こういった所には当分来ないほういいと思うな」

真「ちゃんと縁は切ったみたいだね…」
 
雪歩「八ツ橋さん……!」
 
真「!、まずい見つかった…権八さん帰るよ」
 
小鳥「へい」

雪歩「ああ…そういうことか…さっき見た二人連れは…八ツ橋!お前の情夫だな!」
 
ともみ「い、いえ!さっきのお客さんは四谷の」
 
美希「いいの!もう隠さなくても…今の浪人は繁山栄之丞と言って、わちきの情夫なの」
 
雪歩「そうですか、よく行ってくれました…身請けは、しません」

美希「わちきも、清々したの…他の座敷に行ってくるね…」
 
貴音「もし八ツ橋さん、そんならどうでも佐野さんを今夜きりお断りかえ?」
 
美希「わちきはつくづく…厭になりんした…」
 
貴音「そりゃ浮世の義理も振り捨てて」 
 
美希「九重、堪忍してほしいの!

真美「ま、こんなもんだとは思ってたけどね→」
 
響「座敷を変えて仕切り直しだぞ。酒や太鼓も残らず隣の座敷に移してくれ!」
 
ネリア「へ、へい…ですけど、佐野の旦那は」
 
雪歩「私のことはいいですから…構わず行ってください…」
 
真美「じゃあ行こう行こう」

春香「お、お前さん達も旦那を振り捨てて行ってしまうのか!」
 
響「今夜恥をかいた腹いせに横っ面を張り倒してやりたいくらいだが、日頃世話になっているから勘弁してやるんだ!ありがたく思ってもらいたいね!」
 
春香「そんなことは言わずにどうか」
 
真美「余計な御託をぬかすんじゃねえ!」

春香「ああ!…もう堪忍ならねえ!あいつらひでえ目にあわせてやる!!」
 
貴音「堪忍強いあなたのこと、腹はたとうがどうか了見してくださいませ」
 
春香「くう、うう…忌々しい…ことだなあ…」
 
律子「佐野様…本当に申し訳ありませんでした…この責任は私がとりますので」

雪歩「いえ、女将さん大丈夫ですよ…私はすっかり諦めました…」
 
律子「そ、そんな佐野様!」
 
雪歩「女将さん本当に大丈夫です…一度国に帰って出直してくることにします…」
 
律子「それではどうでもお帰りで?」

雪歩「振られて帰る果報者とは、私のことでございましょう…」
 
貴音「どうか必ずこの後も、来てくださんせぬと…気になりんすえ…」
 
雪歩「あなたにも迷惑をかけました…女将さん、駕籠を二丁ほどお願いします」
 
律子「はい…」
 
貴音「そんなら佐野さん、この後は」

雪歩「ひとまず国へ、帰るとしましょうよ…では女将さん、ありがとうございました…ありがとう、ございました…ありがとう…ございました…」


三幕目<兵庫屋二階遣手部屋の場><同 廻し部屋の場><同 八ツ橋部屋縁切の場> 終