歌舞伎十八番の内『勧進帳』
 
武蔵坊弁慶:我那覇響

源義経:四条貴音

亀井六郎:菊池真
片岡八郎:日高愛
駿河次郎:高槻やよい
常陸坊海尊:三浦あずさ
番卒:星井美希
同 :双海亜美
同 :双海真美

冨樫左衛門:秋月律子


貴音「弁慶」 
 
響「はい」
 
貴音「すでに兄頼朝の命により、各所に関所が設けられているようです。ここまで警戒されていると、陸奥まで行くのは難しそうですね…それに我々が山伏の姿をしていることも既にばれていると考えて良いでしょう…」
 
響「義経様…」
 
貴音「わたくしは既に自害する覚悟は出来ております。ですが皆の生きのびてほしいという言葉を無視することもできず、弁慶の指示に従って強力に変装してここまで来ました。皆はこの先どうしようと考えていますか?」 
 
真「そんなの決まってるよ!」

愛「今まさに、義経様に危機が迫っているんですよ!」 
 
やよい「ここまできたらもう後戻りできません!あの関所を強行突破しましょう!」
 
あずさ「あらあら~…皆、落ち着いて」 
 
真「悠長なことは言ってられないよ!」
 
愛「いでや関所を!」
 
三人「踏み破らん!!」

響「三人とも、ちょっと待つんだ!もうちょっと考えて行動しないと駄目だぞ。そんなことしたら余計に警戒が厳しくなって、陸奥へなんて絶対に行けなくなっちゃうぞ!ここは自分に任せてくれ!絶対に義経様を、無事に陸奥まで連れてって見せる!」
 
貴音「全て弁慶に任せましょう、皆、弁慶の言葉に従いなさい」 
 
四人「承知いたしました」
 
響「では、義経様は一番後ろで自分達についてきてくれ!さあ行くぞ!!……おーい!ここを通してくれー!」
 
美希「むむ!冨樫…様!大勢の山伏がここを通りたいって言ってるの!」

律子「そう…あんた達わかってるわよね」 
 
真美「モチのロンだよ!怪しければひっ捕らえて」
 
亜美「スパーンと首を刎ねて晒し首にしちゃうよん!」
 
美希「昨日も何人か斬っちゃったしね」
 
律子「判官殿の一行は山伏に姿を変えているという情報もあるし…さて行きましょうか」

響「お、やっと出て来たぞ」
 
律子「見れば旅の僧みたいね。私はこの安宅の関を守っている冨樫左衛門という者よ」
 
響「自分達は東大寺建立のための勧進をしているんだ。だからこの関を通してほしいぞ!」
 
律子「随分と殊勝なことをしてらっしゃる。だけどここは通せないわ。特に山伏達はね」

響「なんで山伏は通せないんだ?」 
 
律子「最近頼朝、義経様の二人の仲が悪くなってね。それで弟の九郎判官義経様が、なんでも藤原秀衝を頼って山伏姿で陸奥に向かっているらしいのよ。だから頼朝様の命令で私達がこの関を守ってるってわけ」

響「なるほど。でもそれは偽の山伏を捕まえろって命令だろ。本物の山伏を捕まえろなんて言ってないはずだぞ」
 
真美「いや、昨日も山伏を三人ほど捕まえて、斬ったからはもう例外は認められないよん!」
 
亜美「いくら本物の山伏でも絶対にここは通せないかんね!」

美希「無理に通る気なら、こっちも容赦しないよ?」 
 
響「その斬った山伏は判官殿だったのか!もし違うようなら…」
 
律子「あーもう!うるさいわね!!通せないものは通せないのよ!!命が惜しかったらさっさと帰んなさい!!」

響「言語道断だぞ!!……もう自分達の力じゃどうにもならなそうだぞ…なら皆で御祈りでもするか!集まってくれ」 
 
四人「わかりました」
 
響「(自分達を殺したら、とてつもなく恐ろしい神罰が下るぞ…それでもいいなら殺したって構わないぞ…)」
 
美希「冨樫…様、さすがにまずいの…」

律子「やってくれるじゃない。私達を脅すなんて…近頃にしては随分立派な覚悟をお持ちのようね…そういえば、さっき東大寺建立のための勧進…とか言ってたけど、それなら勧進帳は持ってるはずよね?ここでそれを読んでくれない?」 
 
響「か、勧進帳を読めって言うのか?」
 
律子「いかにも」

響「こ、心得て候!(まずいぞ…勧進帳なんて持ってないし…この巻物を勧進帳だって言って誤魔化すしかないぞ…)」 
 
響「そ、それつらつら…」
 
律子「……(怪しい)」 
 
響「惟れば……」
 
貴音「(弁慶…)」
 
響「あっ!!!??」
 
律子「!!(ち、ばれたか…)」

響「(そっちがその気なら…本気出してやるぞ!)大恩教主の秋の月は、涅槃の雲に隠れ、生死長夜の長き夢、驚かす人もなし!此処に中頃の帝おわします。御名を聖武皇帝と申し奉る。最愛の婦人に別れ、恋慕やみ難く、涕泣眼にあらく、涙玉を貫く思いを善路に翻し、上救菩提のため、廬遮那仏陀建立仕給う。しかるに去んじ治承の頃、焼亡し終んぬかほどの霊場絶えなん事を歎き、俊乗房重源、勅命の蒙って無常な観門に涙を流し上下の真俗を勧めて彼の霊場を再建せんと諸国勧進す!一紙半銭奉財の輩は現世にては無比の楽に誇り、当来にては数千蓮華の上に座せん。帰命稽首敬って曰す!」

律子「……勧進帳を持っているのなら、あなた達は本物の山伏みたいね」 
 
響「なら、この関を通らせてもらうぞ」
 
律子「その前に、ちょっとだけ質問してもいいかしら?」
 
響「質問?」

律子「仏門で修行する僧達は宗派とかの違いで様々な姿をしてるわ。その中でも山伏は特に恐ろしげな姿をしてるけど、その姿で仏門修行をしていると言ってもいまいち説得力に欠けるのよね。その姿をする意味は何かあるの?」

響「ふふん!そんなの簡単さ!修験道の説く仏法とは不動明王の説く中で、慈悲をあらわす「胎蔵界」と智をあらわす「金剛界」の二つを重要なものとしているんだ!そして険しい山や難所を踏み開いて、世の中に害を与える奴らを退治して、民達が平和に暮らせるようにするため、あるいは毎日修行に励んで仏功を積んで、その功徳で悪霊や亡霊を成仏させたりするんだ!だから山伏はこんな姿をしてるけど、それは人に害を与える鬼や魔物を倒すために、こんな姿をしてるんだぞ!」

律子「なら袈裟、法衣を身にまとって、仏に仕える姿をしているのになんで頭に兜巾をかぶっているの?」 
 
響「この兜巾と上着の篠縣は武士の甲冑みたいなもので、さっき言った鬼や魔物と戦う時に身を守るために着てるんだぞ!」

律子「寺にいる僧は普通錫杖を持ってるけど、山伏はなんで金剛杖で体を守ってるの?」 
 
響「愚問すぎて答える気にもならないぞ…金剛杖は元々天竺の壇特山にいた阿羅々仙人が持っていた霊力のある杖で、胎蔵界、金剛界の功徳を内包しているんだ!」

律子「実体のない死霊や魔物が仏法、帝の作った王法を邪魔しようとする場合は何を使って倒すの?」 
 
響「九字真言を使って倒すんだ。簡単なことだぞ!」
 
律子「へえ…して山伏のいでたちは!」
 
響「即ちその身に、不動明王の尊形に象るなり!」
 
律子「額に戴く兜巾ないかに!」

響「これぞ五知の宝冠にて、十二因縁のひだを取ってこれを戴く!」 
 
律子「かけたる袈裟は!」
 
響「九会曼荼羅の柿の篠縣!」
 
律子「足に纏いしはばきはいかに!」
 
響「胎蔵黒色のはばきと称す!」
 
律子「してまた八つのわらんずは!」
 
響「八葉の蓮華を踏むの心なり!」

律子「出で入る息は!!」 
 
響「阿吽の二字!!」
 
律子「そもそも!九字の真言とは如何なる儀にや事のついでに問い申さんささ!何と!!何と!!」

響「九字の真言はそんな軽々しく語れるようなことじゃないけど、自分達が偽の山伏でないという証拠に説明してやるぞ!九字の真言とは臨兵闘者皆陣列在前の九字。これを唱えて、その時に急々如律令と唱えれば、魔物を退散させることができるんだぞ!これだけ説明してまだ疑うって言うなら、いくらでも質問に答えるぞ!でも修験の道は広大、無限大で語りつくせるようなものじゃないんだ!諸仏諸菩薩、自分の言動に嘘偽りがないことをご覧くださいませ」

律子「ここまで淀みなく答えるとは…本物の山伏みたいね。疑って悪かったわ。お詫びにこの布施物を持っていってくださいな」 
 
響「ではありがたく貰って行くぞ!さあ皆行くぞ!」
 
四人「わかりました」
 
響「さあ早く行くぞ!」
 
貴音「……」

美希「冨樫…様!あの強力…」 
 
律子「なんですって!…そこの強力!止まりなさい!」
 
真「まずい義経様が!」
 
やよい「義経様を守らないと!」
 
愛「ばれたのなら仕方ありません!!強行突破しましょう!!」
 
あずさ「義経様の危機、やるしかないわ!!」

響「ま、待つんだ!ここは自分に任せるさあ!…強力!なんでついてこないんだ!」 
 
律子「私が呼び止めたのよ!」
 
響「なんでこんな強力を呼び止めたりしたんだ!」
 
律子「この強力が人に似てるって言うものだから引きとめたのよ」

響「人に似てるなんてよくあることだぞ。一体誰に似てるって言うんだ!」 
 
律子「判官殿に似てるのよ!本物かどうか確かめるまで、身柄はこっちで預からせてもらうわ!!」

響「こ、この強力が判官殿に似てるだって……そんな高貴な人に間違われるなんて良い思い出になるだろうな!!この強力風情が!お前のせいでこんな面倒なことに巻き込まれたんだ!全部お前が悪いんだ!!思い知らせてやる!!」 
 
真「べ、弁慶!?」

愛「義経様を金剛杖で、あんなに打つなんて…」 
 
響「この!この!どうだ!!思い知ったか!!さっさと立って関を通れ!!」
 
律子「何を言おうが、何をしようが、通すこと!」
 
みきあみまみ「まかりならぬ!!」

響「ははん、わかったぞ!お前達はこの強力の背負ってる笈の中身が欲しいんだな!この盗人ども!!」
 
律子「なんですって!!」

響「そんなにこの強力が怪しいって言うのなら、荷物の布施物も一緒に預けてやる!好きなだけ取り調べると良い!それともここで、自分がこの強力を打ち殺してやろうか!!」 
 
律子「ま、待ちなさい!そこまでしなくていいわよ!」

響「それなら、なんでこの強力を疑ったりしたんだ?」 
 
律子「わ、私の部下が似てるって言うから…」
 
響「だったらその疑念を晴らしてやる!この強力は今ここで、自分が打ち殺してやるぞ!!!」

律子「待ちなさい!!!……判官殿でもない人を疑ったのは悪かったわ…私が間違っていたみたいね……早くその強力を連れて通りなさい…」 
 
響「そこまで言うのなら…強力、今後は気をつけるんだぞ…」
 
律子「………」
 
亜美「と、冨樫様、良いの?」
 
律子「行くわよ……」

美希「と、冨樫…様!待ってなの!」 
 
あずさ「行ったみたいですね…」
 
貴音「弁慶」
 
響「………」
 
貴音「あなたのおかげで、どうにかこの危機を脱することが出来ました。わたくしをあのように散々に打って関守を騙すとは、さすが弁慶です」

真「関守に呼び止められた時はもう駄目だと思ったけど…」
 
やよい「さすがは武蔵坊弁慶さんです!あんなこと弁慶さんしか思いつきません!」
 
愛「これならすぐに陸奥へ行けそうですね!」

響「……いくら相手を騙すためだと言っても…義経様をあんな風に…御免なさい…御免なさい、義経様……御免なさい…」
 
貴音「弁慶、良いのですよ、泣かないで。この手でわたくしを助けてくれたのですね…ありがとう弁慶」
 
響「義経様!?、そんな…ありがとうござりまする…」

貴音「わたくし、義経は兄頼朝の為に一生懸命に戦ってきました」
 
響「ずっと戦いに明け暮れてきました」
 
貴音「思い出に浸ってる場合ではありませんね…さあ早く行きましょう」
 
律子「旅の僧達!少し待ってくれない!」
 
響「義経様、下がって」
 
貴音「ええ」

律子「先ほどは失礼をしたわ。そのお詫びとして酒を持って来たの。飲んでくれない?」
 
響「おお!ありがたく頂戴するぞ!」
 
真美「じゃあ注いであげるねん!」
 
亜美「好きなだけ飲んでね!」
 
響「ちょっと杯が小さすぎないか?あのでっかい盆を持ってきてくれ!」
 
真美「え…う、うん」

響「じゃあ注いでくれ!」
 
亜美「このくらい?」
 
響「もっと」
 
真美「このくらい?」
 
響「もっと!もう自分で注ぐ!」
 
真美「うえ!?そ、そんなにいっぱい!?」
 
亜美「す、すげー…」
 
響「ぷはあー!旨いなあ!!へへ…良い気分だぞ…あれ?あそこに何かあるぞ」
 
あみまみ「え、どこどこ?」

響「えい!」
 
あみまみ「痛っ!ちょっとぉ!」
 
響「あはははははは!!悪かった悪かった!…酒を貰ったお礼として自分も一つ延年の舞を舞わせてもらうぞ」
 
律子「お願いするわ」

響「では…万歳ましませ 巌の上 万歳まいませ 巌の上 亀は棲むなり ありうどんどう これなる山水の 落ちて巌に響くこそ(義経様、さあ早く!)」
 
貴音「(弁慶…ありがとう)」
 
響「ふう…じゃあ自分もそろそろ行くぞ!世話になったな!」
 
律子「ええ、達者でね…」

響「ああ!!……ここまで来れば大丈夫か……義経様達も大丈夫そうだな。冨樫殿、この恩は絶対に忘れないぞ…ありがとう…さあ早く追いつかないと!!ハアッ!!!」



歌舞伎十八番の内『勧進帳』 終幕


参考リンク:勧進帳 - Wikipedia