1:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:18:52.56 ID:FUgtm0nK0
 
765プロダクション、アイドル。
所属人数は12名を超え、アイドルアルティメット3連覇を誇る超強豪プロダクション。

その輝かしい実績の中でも、特に最強と呼ばれ無敗を誇った10年にひとりの天才が3人同時にいたユニット竜宮小町は、キセキの所帯と呼ばれている。

が、キセキの所帯には奇妙な噂があった。

誰も知らない、活動記録もない。にもかかわらず天才3人が一目置いていたアイドルがもうひとり。
幻のアイドルがいた、と。


ナレーション(双海亜美)


2:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:20:09.11 ID:FUgtm0nK0
 
律子「……小鳥さん? なんなんですか、いったいこのビデオは?」

小鳥「み、見たんですか!?」

律子「質問に答えてください」

小鳥(うわ、律子さんマジだ……)

小鳥「それそ、それはその……プロデューサーさんが……」

律子「プロデューサーが?」

小鳥「律子さんを、もう一度アイドルに……って。それでその売り込みVを作成しよう、って……」

律子「ぷろでゅうさあああぁぁぁーーーっっっ!!!」


3:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:20:41.28 ID:FUgtm0nK0
 
私、秋月律子。元アイドル。

今は所属していた765プロで、新米プロデューサーとしてがんばっています。

趣味は分析と資格取得。

そう、この世はデータに溢れている。
そのデータを綿密に、詳細に検討すれば、どんな状況でも活路を見いだせる。
道は開ける。

それが私の信条だ。

データで解明できない事なんてない。

そう思っていた。

思っていたのに……


4:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:21:19.18 ID:FUgtm0nK0
 
律子「それで? 弁明があるなら、うかがいましょうか。亜美、ストップウォッチ!」

亜美「サ→! イエッサ→!」

律子「ただし弁明は10秒にまとめてください。ではスタート」

P「あ、あのな、これはつまりその、あれだ。要するに……」

亜美「時間であります。律子軍曹」

P「いやいやいや、いくらなんでもまだ時間経ってないだろ? 短くないか、亜美!?」

亜美「さあ? イエッサ→!」

律子「では裁判長、判決を」

伊織「主文。被告人Pを有罪とする」

P「横暴だ! こんな裁判はデタラメだ!! これじゃあまるで、スペイン宗教裁判だよ!!!」

伊織「異議は却下よ。あのビデオ、律子の許可を取ってなかったなんて私達は聞いてなかったんだから」

P「言ったら、協力してくれないだろ?」

伊織「当たり前よ。だから有罪」

P「律子さん、冤罪ですよ! 冤罪!!」

律子「うっさい! こんな恥ずかしい企画で、こんな無駄な予算を使って……」

P「恥ずかしくないし、無駄じゃない! 律子はアイドルとして十分やっていける!」

律子「やりませんっ!」


5:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:22:00.44 ID:FUgtm0nK0
 
亜美「ねえねえ、あずさお姉ちゃん。りっちゃんがもしアイドルに戻ったら、竜宮小町のメンバ→になるのかな→?」

あずさ「それはそうなんじゃないかしら~。なにしろ律子さんの担当ユニットなんだし」

亜美「……亜美、それならりっちゃんがアイドルに戻ってくれてもいいな……」

伊織「まあね。本音を言えば別に、悪いアイディアとは思わないけど」

あずさ「本人があの調子ですもんねえ~」

律子「これに懲りて、二度と馬鹿な企画を考えないように!」ビシッバシッ

P「あ、あきらめない……俺はあきらめない……ぞ」ガクッ

竜宮小町のみんなが帰り、2人きりになると再びプロデューサーは私のアイドル復帰について説得を始めた。

P「なあ、やろうぜアイドル。絶対にイケるって!」

律子「だからやりません」

P「すごいもん見れるわよ」

律子「やらないって言ったらやりません!」

何を考えているのよ。

私が、アイドルに復帰するなんて。

私が……

アイドルに……


6:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:22:41.54 ID:FUgtm0nK0
 
美希「ハニー、何を読んでるの?」

P「これか? 山田芳裕の漫画『へうげもの』だ。これはみんなをプロデュースするのに参考になるなあ、うん」

美希「ハニーのおすすめなら、ミキも読みたいのー☆」

P「俺が、読み終わったらな。あ、でも最初の方で良かったら、ほら」

春香「あ、私にも貸して下さいよ!」

美希「春香はミキの後なのー!」

P「おいおい、仲良くな」

律子「プロデューサー。みんなまだ学生で、アイドル活動で忙しい身なんですから、あんまりマンガとかばっかり読ませないでください」

P「まあまあ、そう言うなよ。息抜きも大事だぞ、息抜き」

律子「プロデューサーは、抜いてばっかりじゃないですか! 何かといえば、マンガのことばっかり!!」

P「失礼な!」

律子「なにか反論でも?」

P「俺は、マンガだけじゃない! アニメもゲームもなんでもいけるぞ!!」

律子「はあ、もういいです」

そう、ちょっと年上の同僚プロデューサーは、いわゆるオタク。
別にそれが悪い訳じゃない。


7:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:23:19.95 ID:FUgtm0nK0
 
私だって、時にはマンガを読んだりもする。
まあ、小鳥さんが薦めてくるようなマンガは遠慮しているが。

問題なのは、のべつまくなしに読んでいる事だ。
いや、読んでいるのはまだいい。

じゃあなんなのか? と言えば、それをアイドルのプロデュース活動に使いたがる事だ。
マンガのネタを、アイドルのプロデュース活動に、だ。

無論、人を惹きつけるような作品は、それがマンガであろうとなんであろうと、それなりに人を惹きつけるノウハウが秘められているのであろうとは思う。
だから、マンガをプロデュースに活かしてはいけないとは私も思わない。

……要するに、何を私が言いたいかといえば、
マンガのネタで、あのプロデューサーは、確かな成功と実績を挙げている事だ

だからまあ、それはオタクであろうと有能であり、つまり……

律子「私、何が言いたいんだろう?」

伊織「どうしたの? なんか悩みごと?」

律子「……ううん。大丈夫よ」

分析してもわからない。

どうして私は、あのプロデューサーがこうも気になるのだろう?

いくら詳細にデータを検討しても、わからない。

先程のように、思考が迷路に迷い込むだけだ。

いつものように、分析しても回答が得られないなんて……


8:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:23:46.47 ID:FUgtm0nK0
 
律子「そうよ!」

伊織「なに?」

律子「分析してもわからない、それはデータが不足しているからよ!」

伊織「意味はわからないけれど、客観的にはその言葉におかしな点はないわね」

律子「でしょう。よし、データ収集よ」

これからしばらくは、あのプロデューサーを徹底的に観察してデータを集めよう。
そう考えただけで、心がウキウキしてきた。

これで自分の気持ちが、分析できる!


9:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:24:14.92 ID:FUgtm0nK0
 
P「そうじゃない、美希。そこはもっと『ぬしゅぱあっ』と踊るんだ」

美希「ぬしゅぱあっ?」

P「そうだ。今の美希の踊りじゃあ、視てる人は『ぬぱあ』という印象しか持たない。『ぬぱあ』ではない、もっと『ぬしゅぱあっ』だ」

美希「よくわからないけど、わかったの」

春香「私はどうですか?」

P「今日の春香はいいぞ! 良いと思い始めたら、春香の何もかもが良く見えてきた」

春香「えへへ。ほんとですか」

P「欲を言えば、歌い終わりの足運びを『めたぁ』から『めたっ』にするとなお良い」

春香「わかりました!」

律子「……なんでわかるのよ、あれ」

亜美「来る途中で、ミキミキもはるるんも兄ちゃんのマンガを読んでたからだと思うな→」

律子「そんなんでわかるもんなの!?」

あずさ「でもほら~」

2度目のリハは、美希も春香も最初よりも確かに良く見えた。
それは間違いない。
しかし……

P「ほらほら2人とも! 『みゅきん』だ! 『みゅきん』を忘れるな!!」


10:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:26:10.37 ID:FUgtm0nK0
 
数日後、事務処理がたまっていた私はいつもより早めに出勤をした。

P「おー。おはよう律子」

驚いた事に、先にプロデューサーが来ていた。
何かを、デスクで熱心に目を通している。

律子「おはようございます。今日は早いですね」

P「ん? いや、毎日こんなもんだが」

律子「え?」

P「業務前に、仕事のイメージをしつつ読むマンガは、最高だ」

律子「……よくそんなもので、仕事ができますね」

P「んん? いや、マンガってのは馬鹿にできないぞ。今も、素晴らしいアイディアを思いついた」

律子「別に聞きたくありませんから」


11:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:26:47.84 ID:FUgtm0nK0
 
P「昨日、春香にバラエティでのツッコミで相談を受けてな」

律子「興味ありません」

P「そこで思い出したのが、この『ダイの大冒険』だ!」

律子「知りません」

P「大魔王バーンの必殺技から、春香の為に編み出したのが『天地無用の構え』だ!!」

律子「私、仕事があるので」

P「なんと、1つのボケに対し3つの超ツッコミを同時に返すという……」

律子「プロデューサー!」

P「え?」

律子「今、忙しいので。失礼します」


12:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/10(火) 13:27:13.93 ID:FUgtm0nK0
 
P「あ、ああ。悪かったな、なんか律子が来てくれて、はしゃいじゃって」

律子「……」ピクッ

P「2人っきりって、珍しいじゃないか」

律子「……そうですか?」

P「あ、あのさ。今度、良かったら……」

今度?

今度なによ?

良かったら、なんなの?

なんだろう、顔が赤くなる。

胸がドキドキする。

律子「な、なんで……す?」

P「その、律子が良かったら……」

響「はいさーい! 今日は早起きしたから、自主トレに来たぞー!」


19:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:33:04.21 ID:+chc+OxW0
 
P「!」

律子「!」

響「な、なんだ? どうかしたのか2人とも」

P「い、いやー響があんまり練習熱心だから、驚いたんだよ。な、なあ、律子」

律子「え? あ、ああ。そ、そうですね」

響「? 律子、なんか変だぞ」

律子「へ、変ってどこが?」

響「いや、なんとなくだけどー……」

P「それより、自主トレだろ? 付き合ってやるから、レッスンルームに行くか」

響「ええっ!? こんな早くから自分に付き合ってくれるのか?」

P「がんばっている娘は、応援したくなるからな。じゃ、じゃあ律子、俺は響に付き合ってるから」

律子「わ、わかりました」

独りになると、なぜかホッとした。

律子「はあー。な、なんだったんだろう。さっきのあのドキドキは」

まだ鼓動が聞こえるような気がする。
いや、思い出したらまたドキドキしてきた。

律子「これもデータの一環か……それにしても、プロデューサーは何を言おうとしたんだろう?」


20:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:36:57.38 ID:+chc+OxW0
 
それから数日、私もプロデューサーも忙しく、全くのすれ違いで顔を合わせる程度しか出来なかった。

亜美「りっちゃん、どうかしたの?」

律子「え? なによ亜美、急に」

亜美「りっちゃん元気ないみたいだから」

こういう気遣いを、亜美がする時は事態は深刻だ。
しかし今回の場合、その深刻に心配されているのは私なのだ。

私が?

なんで? どうして?

律子「そんな風に見える?」

亜美「うん。なんかあったの?」

律子「別に……亜美に言われるまで、自覚も無かったわよ」

伊織「もしかして、この間言っていた分析の為のデータの事?」

なるほど。そう言われれば、それが気になっていたのだった。
しかもデータの収集は進んでいない。
対象者と会えていないのだから、無理もないけど。


21:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:37:54.79 ID:+chc+OxW0
 
そういえば今日は、竜宮小町の活動もこれで終わり。
事務所に帰れば、久々にその対象者に会えるんだった。

亜美「あれ? 急にりっちゃん元気になった」

律子「え?」

あずさ「ほんとね~。顔色が良くなってきたわよ~」

律子「ええ?」

なんだというのだろう?

律子「さあさあ! 帰るわよ、あんたたち」

亜美「は→い! なんだ→心配してそんしたYO」

伊織「そう言わないの」

事務所に帰ると、私の分析対象たるプロデューサーは、電話対応をしていた。

P「はい! ありがとうございます。はい、よろしく」

律子「帰りましたよー」

P「お帰り」

あずさ「今の電話、またお仕事ですか~?」

P「ええ。春香にアニメの主題歌と、声の出演依頼です」

律子「またアニメですか」

P「そう言うなよ。今や海外でも高く評価されているジャパニメーションだぞ。メディア展開されれば、春香のファンも増える!」


22:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:39:06.57 ID:+chc+OxW0
 
亜美「なんてアニメなの→?」

P「『おとめ妖怪 ばくろ』だ! 半妖、つまり人間と妖怪のハーフである主人公ばくろが、人間社会の建前や欺瞞を本音で暴露していく痛快アクションストーリーだ」

律子「説明されても、全くわかりません」

P「さあ! これから忙しくなるぞ……できたら、ウチの事務所からもう何人か声で出演させられたら……夢が膨らむなあ」

律子「……聞いてないわね」

亜美「りっちゃんが、不機嫌だよ→」

伊織「ほっときなさい。元気が無いよりいいでしょ」

普段から仕事熱心なプロデューサーは、事がアニメに関わるだけに張り切っていた。
それにより、プロデューサーは通常業務に加えアニメの仕事にかかりっきりとなった。

春香「♪ ねえこれは……これは故意ですか?
     聞いてた話と矛盾してるね
     すべてを今こそ、見せて♪」

P「いいぞ春香。疑惑を追及する、その感情を歌に込めるんだ」

やよい「うっうー! プロデューサー、私も声で出演するんですかー?」

P「ああ。なんだかんだで、スケジュール調整の難しい竜宮小町以外のウチのアイドルは、全員どこかの回に出てもらうからな」

千早「私もですか?」

P「ああ。声だけとはいえ、がんばってもらうぞ」

千早「まあ、なんでもいいですけど……」

ちらりとレッスンスタジオを覗くと、プロデューサーが春香に歌の指導をしていた。
おそらく、例のアニメの主題歌だろう。

あずさ「声、かけないんですか~?」

律子「あずささん……いいです」


23:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:40:24.67 ID:+chc+OxW0
 
もやもやした気持ちのまま、私は1人で事務所に戻る。

そうだ。データ収集、それを忘れていた。

ちょっとここで、整理してみよう。

まず容姿。
イケメン……ではない。まあ、普通。

律子「モテた事とか、あんまりなさそうよね。いや、もしかして意外に……?」

性格。
優しい。うん、それは間違いない。
気も利く。ただ、多少頼りない所もある。

律子「放っておけなくなっちゃう時があるのよね、年上なのに」

仕事について。
オタクだけど、別に支障はない。というより、それを活かしたりもしている。
なにより真面目で熱心。

律子「そこは尊敬できるわ。うん」

気配り。
年頃の女の子達を相手に、よくがんばっている。
彼女たちもプロデューサーを信頼している。

律子「結構、細かいのよね。でも、みみっちいことは言わないし」

後は……


24:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:41:53.14 ID:+chc+OxW0
 
P「ん? なに書いてんだ、律子」

律子「これは今、対象者のデータ整理を……」

P「対象者?」


律子「ぷ、ぷぷぷ、プロデューサー!? いつからそこに?」

P「いや、今来た所だけど。その対象者って……」

律子「な、ななな、なんでもありません! な、なにか用ですか!?」

P「ああ。この間、言ってた事だけどな。ちょっと訂正しとこうと思って……」

律子「この間……?」

『P「あ、あのさ。今度、良かったら……」』

ドクン

この間、言ってた事って……

ドクン

あの、言いかけた言葉のこと……?

ドクン ドクン


25:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:42:56.20 ID:+chc+OxW0
 
P「ほらこの間は俺、マンガだけじゃない! アニメもゲームもなんでもいけるぞ!! って言ったじゃないか」

律子「へ? ええ?」

P「あの後、よーく考えたら俺、マンガとアニメとゲームだけじゃ無かったわ。特撮!」

律子「……は?」

P「特撮だよ、特撮! 俺、特撮も大好きだったんだわ!!」

律子「はああ!?」

P「それ、訂正しとかないとな。いやー、俺がマンガとアニメとゲームだけの男だと思われてたら心外じゃない?」

律子「……そんな」

P「律子?」

律子「……そんな……そんなデータは……いらないわよおっ!!!」スパコーン

P「うぎゃあああぁぁぁーーー!!!」ガクッ

データ追加。
項目:デリカシー
数値:皆無


26:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:43:30.29 ID:+chc+OxW0
 
小鳥「随分、楽しそうでしたね律子さん?」

楽しそう? 今のどこをどうみれば、楽しそうに見えるのだろう?

律子「いろいろとデータを集めていたのに、邪魔されて」

小鳥「これですか? へー性格の分析ですか?」

律子「ちょ、小鳥さん!」

小鳥「性格といえばですね、この間みんなで心理ゲームやったんですよ」

律子「返してくだ……え? 心理ゲーム?」

小鳥「ええ。それがですね……」


27:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:44:10.27 ID:+chc+OxW0
 
小鳥の回想


春香「あれ、小鳥さんそれなんの本です?」

小鳥「これはね、ゲーム感覚で質問に答える事でその人の深層心理が解明できる、心理ゲームの本なのよ」

響「深層心理? なんだか面白そうだぞ」

真「ボクもちょっとやってみたいです。ね、雪歩」

雪歩「そ、そうだね……ちょっと興味、あるかも」

小鳥「そうね。ちょうど今日はみんないるし、みんなで一緒にやってみましょうか」

あずさ「あらあら~なんだか面白そうね~」

貴音「興味深いですね」

小鳥「じゃあいくわよ」


28:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:48:10.46 ID:+chc+OxW0
 
質問1『あなたは手紙を空き瓶に入れて、海に流しました。この瓶を誰かが見つけて手紙を読んでくれるのはいつになると思う?』


春香「うーん、1年?」

千早「海って広いのよね。誰にも見つけられない……という答えもありかしら?」

伊織「この間の震災の漂着物が、最近北米に流れ着いているのよね。だから1年半ぐらいかしら」

やよい「一週間ぐらいかなーって」

あずさ「私は翌日には誰かが見つけてくれると思うわ~」

真「石の上にも三年で、3年!」

雪歩「わ、私も千早ちゃんと一緒で見つけてもらえなかったり、見つけられても開けてもらえない気がしますぅ」

真美「一週間!」

亜美「3日!」

貴音「十年ぐらいはかかるのではないでしょうか……」

美希「ならミキは20年なの」

響「あれって結構流れ着くんだぞ。ひと月のうちには、誰か見つけるさー」

小鳥「じゃあこの質問に対する答えよ」


29:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:49:00.03 ID:+chc+OxW0
 
回答1『これは失恋をした後、あなたが次の恋を始めるまでの期間を表しています。流したボトルは、あなたの気持ちのメッセージ。それを誰かが見つけてくれるという期待。その期間なのです』


千早「……」ズーン

雪歩「ううぅ」ズーン

真「ま、まあまあ雪歩。あくまでゲームだから」

貴音「美希、見つかるとした中では一番長い期間ですね」

美希「ミキは絶対ハニーと結ばれるの。だから、次の恋とか考える必要ないの」

春香「へ、へー」ヒクッ

真美「逆に一番短いのは→」

亜美「あずさお姉ちゃんだYO!」

あずさ「あらあら~」(ほんとうはその日のうち、と思ったけど言わなくて良かったわ~)

響「小鳥、次の問題が気になるぞ」

小鳥「はいはい。じゃあ次にいくわよ」


30:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:49:51.00 ID:+chc+OxW0
 
質問2『あなたが家で独りテレビを見ていると、急にノイズが出て映らなくなりました。あなたはどうしますか?』


春香「テレビはあきらめて、友達に電話でもします」

千早「音楽を聴くわね」

やよい「家にひとりってあんまり想像できないんですけどー。もしそうなったら、家事をしてますー」

真「筋トレ、かなあ」

貴音「爺に相談してみます」

美希「寝るの」

あずさ「優しくお願いしたら、直らないかしらねえ~」

伊織「新しいのを持ってこさせるわ」

雪歩「お父さんを呼んで相談しますぅ」

真美「叩く! 真美パンチ!」

亜美「蹴る! 亜美キック!」

響「自分完璧だからな、直せるかもしれないからバラバラにしてみるぞ」

小鳥「じゃあ質問に対する答えよ」


31:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:52:41.40 ID:+chc+OxW0
 
回答2『その行動は、恋人に突然別れを告げられた時にとるあなたの行動です』


春香「確かに……」

千早「そうかも知れないわね……」

貴音「やよいと美希は、あまり動じていませんね」

やよい「うっうー」(正直恋人とか……よくわかりません……)

真「真美と亜美が、意外にバイオレンスだね」

亜美「う→ん、でもある意味ゆきぴょんが一番バイオレンスなんじゃ→」

真美「そ→そ→」

雪歩「? どうして?」

美希「ミキは、響の答えが一番怖いの」

伊織「猟奇なのはちょっとね……私でもひくわ」

響「なにさー!」

小鳥「はいはい、次にいくわね」


32:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:53:23.57 ID:+chc+OxW0
 
質問3『鍋パーティーをしていて、友達があなたのお皿に取り分けてくれましたが、それは実はあなたの嫌いな物でした。あなたならどうしますか?』


春香「うーん、友達だからやっぱりちゃんとゴメンって言って食べないですね。まだ口をつけてないなら、もらってもらうとか」

千早「栄養の摂取ですから、我慢して食べます」

響「家族の動物にわけてやるぞ!」

伊織「文句言って返すわよ。なんで私が無理して食べなきゃいけないのよ」

やよい「私、嫌いな食べ物ってないですー!」

雪歩「お、お皿に入れたままにしておきますぅ」

真「気合いで食べる!」

亜美「真美にパス」

真美「亜美に押しつける」

貴音「意外なる美味が隠されているやも知れません。とりあえず食してみます」

あずさ「ごめんなさい、って言ってお返しするわね~」

美希「他の人のお皿に入れちゃうの」

小鳥「じゃあ回答ね」


33:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:53:54.58 ID:+chc+OxW0
 
回答3『その行動は、好きではない人に告白をされた時にあなたがとる行動です』


春香「これって、例えば千早ちゃんみたいに我慢して食べるという答えはどうなっちゃうの?」

小鳥「我慢して付き合う、って事になるわね」

あずさ「あらあら~千早ちゃん、意外に押しに弱いのかしら~」

千早「そ、そんなことは!」

真「これ春香は、ちゃんとごめんなさいと言って断るけど、友達に紹介しちゃうってこと?」

小鳥「そうなるわね。ある意味、相手に優しいとも言えるけど……」

貴音「かえって殿方を傷つけるやも知れませんね」

春香「や、別に私もそんなつもりで答えたわけじゃ……」

小鳥「まあゲームだから。あんまり深刻に考えなくても大丈夫よ」

千早「萩原さんの、お皿に入れたままというのは?」

小鳥「お返事しないまま放置、かな? 聞かなかった事にしちゃう感じ」

真「ある意味、雪歩らしいね。断れないとか」

亜美「じゃ→じゃ→亜美達みたく、他の人にあげちゃうのは? やっぱはるるんと同じ?」

小鳥「そうね。別の娘に、紹介しちゃう感じね」


34:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/11(水) 12:55:04.98 ID:+chc+OxW0
 
小鳥「という事を、この間みんなでやってたんですよ。

律子「へえ。面白そうですね」

小鳥「ちなみに律子さんは?」

律子「え?」

小鳥「ほら、嫌いな物をお皿に取り分けられちゃったらどうするんですか?」

律子「私は……私は、ハッキリと嫌いだからと言って断ります。食べませんね」

小鳥「なるほどなるほど。それで、ですね」

律子「? なんですか?」

小鳥「今の質問を、プロデューサーさんにもしてみたいんですよ」

律子「は、はあっ!?」

小鳥「みんなも興味津々で」

みんなも興味津々。
それはつまり、みんなはプロデューサーの事を……

小鳥「どうです? 律子さん?」

律子「な、なんでそれを私に聞くんですか。聞いたらいいんじゃないですか」

小鳥「ふふ、そうですね。じゃあ、結果は後で報告しますから」

律子「要りませんよ、別に」

小鳥「これもデータですよ?」

律子「……」

プロデューサーが、好きじゃない人に告白されたら?

プロデューサーはどういう行動をとるの?

その日はそれから、仕事がまったく手につかなかった。


40:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/12(木) 11:58:13.35 ID:wXf6no6h0
 
数日後

春香「小鳥さんっ! どうでしたか?」

小鳥「おはよう、春香ちゃん。なんだったかしら?」

雪歩「おはようですぅ。ぷ、プロデューサーの心理ゲームですよ。聞いてみたんですか?」

ドキッ

まただ。

また、身体が硬直する。

小鳥「聞いたわよー。実に意外な答えが得られました」

春香「き、聞かせてください!」

雪歩「お願いしますぅ」

小鳥「はいはい。ええとね……」

話の話に加わっていない私。
それなのに無意識のうちに、私も話に耳をそばだてていた。


41:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/12(木) 11:59:22.74 ID:wXf6no6h0
 
質問1『あなたは手紙を空き瓶に入れて、海に流しました。この瓶を誰かが見つけて手紙を読んでくれるのはいつになると思う?』

P「え? なんですか、その質問」

小鳥「まあ、お遊びみたいなものですよ。それで? プロデューサーさんはどう思います?」

P「んー実は俺、前にやったことあるんですよね」

小鳥「そうなんですか?」

P「ボトルメールが流行った事あって。でも俺の周り、誰も返事が来なかったんですよ」

小鳥「実経験ありなんですか」

P「よってこの回答は、いつになっても返ってこない……ってことで」


春香「うう、プロデューサーさん一途なんですね」

律子「いや話を聞く限り、今のは心理とは関係ないんじゃ」

雪歩「別れてもその人だけを想い続ける……素敵ですぅ」

律子「……素敵?」


42:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/12(木) 12:00:28.28 ID:wXf6no6h0
 
質問2『あなたが家で独りテレビを見ていると、急にノイズが出て映らなくなりました。あなたはどうしますか?』

P「これは……痛いですね」

小鳥「そうなんですか?」

P「自宅でのリフレッシュタイム。アニメと特撮のスーパーお楽しみ時間ですよ? これ無くして、仕事だってがんばれないでしょう!?」

小鳥「よ、予想外のアツい反応ピヨ!」

P「そうですね……もし本当にそんな事があったら……」

小鳥「あったら……」ゴクリ

P「泣きますね」

小鳥「え?」

P「ちょっと平静でいられる自信がありません。きっと、泣いて……泣き叫んで……」

小鳥「そこまで!?」

P「捨てられた猫みたいに、どしゃ降りの雨の中を街をさまよって……」

小鳥「ええ?」

P「肩のぶつかった酔っぱらいのヤンキーとケンカして、ボロボロにされて……」

小鳥「そ、そんな……」

P「2人組の女性に、眉を顰めながら指をさされてヒソヒソと何かを言われて……俺は狂ったように笑いながら泣き続けるんです……」

小鳥「ど、ドラマティックですピヨ!」


春香「プロデューサーさん、可哀想……」グスッ

律子「いやいやいや、騙されちゃダメよ。アニメ視られないだけでそんな醜態を晒す男ってどうなのよ」

雪歩「恋人と別れて自暴自棄に……もしも私が恋人だったら、絶対にプロデューサーにそんな思いは……」

律子「こ、恋人って、雪歩!?」

小鳥「まあまあ律子さん。もしも恋人だったら、っていうお話ですから」

でも、本当にプロデューサーは恋人に別れを告げられたらそうなっちゃうんだろうか……?


43:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/12(木) 12:01:11.91 ID:wXf6no6h0
 
質問3『鍋パーティーをしていて、友達があなたのお皿に取り分けてくれましたが、それは実はあなたの嫌いな物でした。あなたならどうしますか?』

P「つまりグリンピースとかを、皿に入れられちゃったって事ですよね」

小鳥「それがプロデューサーさんの嫌いな物なら、そうですね」

P「それは無理ですね!」

小鳥「え? それはつまり」

P「ハッキリキッパリ、お断りします」

小鳥「そうなんですね。でも……でもですよ」

P「なんですか?」

小鳥「たとえば接待の席、営業相手のテレビ界の大物とかが相手でも同じ事を?」

P「無論です! たとえどんな相手からの接待であろうとも、グリンピースを食べるなんて、無理ですから!」

小鳥「そうなんですね。でも……でもですよ」

P「今度はなんですか?」

小鳥「たとえば事務所でみんなで打ち上げとかの場で、事務所のみんなが相手でも同じ事を?」

P「!」ピクッ

小鳥「春香ちゃんが、笑顔で……取り分けてくれたら……」

P「ぐ、ぐぬぬ……そ、それは……食べるしか……」

小鳥「雪歩ちゃん、プロデューサーさんが食べてくれなかったら、泣いちゃうかも……」

P「そ、それも食べるしか……」

小鳥「律子さんが、いかにもそっけなく、それでいて真っ赤になりながら取り分けてくれたら……」

P「あー食べます食べます。それは食べる」
 

44:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/12(木) 12:02:23.01 ID:wXf6no6h0
 
律子「……」

春香「えーと、それってつまり……」

雪歩「大嫌いな相手でも、私達が紹介したら無理をしてでもがんばって食べ……お付き合いするって事ですか?」

小鳥「そうなるわよね」


小鳥さんの報告のせいで、またしてもまったく仕事に身が入らない。

とはいえ、有益な情報・データを得たとも言える。

プロデューサーは、好きでない相手に告白されても頑としてOKはしない。

だけど、もしも私達が誰かを紹介したら……プロデューサーはその誰かと付き合う?

そうなの?

そう、なの……?


45:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/12(木) 12:04:21.93 ID:wXf6no6h0
 
この内容は、事務所内に瞬く間に知れ渡った。

なんとなく気がついていたが、事務所内でのプロデューサーの人気は高い。

みんなの中で、プロデューサーに女性を紹介したりしないように、という不文律ができたのもすぐの事だった。


小鳥「はい、はい、承っております。はい、お待ちいただけますか。プロデューサーさん! 876プロから紹介のあった……」

一同「「!!!」」ガタッ★

小鳥「お仕事の件でお電話です」

一同「「……ふぅ」」

P「はーい! あ、お世話になっております。ええ、はい。え? 本当ですか!?」

春香「またお仕事かな? しかもあの嬉しそうな雰囲気だと」

亜美「またアニメとかの、お仕事とみた!」

P「響! 貴音! 仕事だぞ!! それもお面ライダーだ!!!」

雪歩「お面……?」

真美「ちいっ! 特撮だったか→。亜美、ざ→んねん」

亜美「無念」

響「お面ライダー? それってどんな番組なんだー?」

P「特撮ヒーローものの、三巨頭の一角だ。お面をかぶったヒーローが正義のために戦う! 今回は新シリーズ『お面ライダークウガ』!」


46:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/12(木) 12:05:23.90 ID:wXf6no6h0
 
貴音「食うか? はて、なんとも面妖な」

P「シリーズ初の女性主人公だぞ、響!」

響「ええっ! じ、自分が主役なのか?」

P「謎の生命体グロンギ族と、アイドル対決をしていく番組だ!」

響「? アイドル……対決?」

真美「ええ→!? ひびきん、戦うんじゃないNO→?」

P「戦うさ! ただしアイドルとしてな」

亜美「???」

P「グロンギ族は、リント……つまり我々人間を、決められたルールに基づいてファンとして獲得していく。これを『ゲゲル』と呼ぶ」

雪歩「ゲゲル、ですか?」

P「グロンギはゲゲルの前に、時間と獲得ファン数を決められる。『8週で2000人』という風にな。それが達成できれば、ランクが上がって称号が変わる」

千早「なんだか……アイドル活動と一緒ですね」

P「ああ。響はクウガにとして、そのグロンギとアイドルとして対決していく」

貴音「それでわたくしは?」

P「貴音はグロンギでゲゲルを取り仕切る謎の女『腹にタトゥーの女』として、出演してもらう」


47:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/12(木) 12:06:24.86 ID:wXf6no6h0
 
貴音「ゴババグギダ、ササレンダデダギ」

響「だから見ててくれー! 自分の、衣装!!」

程なくして、クウガの台本読みが始まる。

それは当然に彼、プロデューサーがつきっきりになる事を意味する。


律子「……」

亜美「も→またりっちゃんが元気ないYO→」ヒソヒソ

伊織「原因はなんなのよ」ヒソヒソ

あずさ「もしかして~」

亜美「なになに? なんなの?」

あずさ「ん~やっぱり違うかも~」

伊織「?」

その日、仕事が終わってから私はあずささんに呼び止められた。

なんだろう? 珍しい事もあるものだ。


56:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/14(土) 12:39:44.77 ID:SIqttHOc0
 
あずさ「今日は私、律子さんにお説教をしますね」

律子「え?」

あずささんは、いつものように柔らかな表情だが、でもしっかりとした口調でそう言った。

あずさ「今は事務所のみんなが上り調子です。大事な時です」

律子「そ、それはもちろんわかってますよ」

あずさ「でも今日、亜美ちゃんも伊織ちゃんも、律子さんを心配してお仕事に集中できていませんでしたよ」

律子「ええ?」

あずさ「やっぱり気づいてなかったのね」

律子「本当なんですか?」

あずさ「本当よ。二人はまだまだ中学生だし、そういうのも仕方ないですよね。だから、少なくとも私達は気をつけないと」

律子「なんでかしら。私、そんなにぼーっとしてました?」

あずさ「顔に書いてありましたよ。プロデューサーと、会えなくて寂しいって」

律子「な、なっなな、な」

予想外の、あずささんの言葉。
だが彼女は、さらに続ける。

あずさ「お顔、真っ赤ですよ?」

律子「そ、そそそ、それじゃまるで、私がプロデューサーのことを好きみたいじゃないですか!?」

あずさ「あらあら~?」

律子「な、なんですか?」

あずさ「違うのかしら~?」

好き? プロデューサーの事を、私が好き?

想像だにしなかった事だ。

そもそも私がプロデューサーを気にしているのは……あれ? なんだっけ? なんで私は彼を分析しようとしたんだっけ?


57:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/14(土) 12:42:49.26 ID:SIqttHOc0
 
あずさ「私もプロデューサーさんのこと、好きですよ」

確かそもそも、気になって仕方ないから分析しようとして……え?

律子「す、好き? あずささんが、プロデューサーの事を好き!?」

あずさ「プロデューサーさんが、私の運命の人だったらな~と思います」

自分の胸がガラスで出来ていて、それがバリンと割れた気がした。

立っていられず、デスクに手を乗せて身体を支える。

あずさ「律子さん、大丈夫!?」

律子「え、ええ。ごめんなさい、立ち眩みかしら」

あずさ「……またそうやって~」

律子「え?」

あずさ「いいかげん、自分の気持ちに気がついてください」

律子「私がプロデューサーの事を、好き……だっていうんですか?」

もしかして、気になって仕方ないのは……

そうなの?

私があの、プロデューサーを?


58:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/14(土) 12:44:54.09 ID:SIqttHOc0
 
あずさ「顔、赤いわよ~?」

律子「! そ、そんな」

あずさ「でもいい表情よ~。正直、律子さんはものすごいライバルだけど~。でも、大好きな仲間だから」

律子「ありがとうございます。でも、正直まだよくわかりません」

あずさ「ふう、困ったわね~。でも、よく考えて欲しいの」

律子「……はい」

あずささんに、こういう事を言われるとは思わなかった。

やはり普段、おっとりしていても年上なんだなと実感する。

と、同時に亜美や伊織に、自分がそういう姿を見せられていなかったのは、残念だ。
年長者として、そしてプロデューサーとして情けない。

律子「はあ……」

大きなため息。

そうだ、問題はもうひとつ。

プロデューサーの事だ。

好き……

好き、か。

予想もしなかったアプローチ。

輪のようにグルグルしていた思考が、ようやく帰結する。

そっか。

律子「好きだから……気になってたんだ」

P「なんの事だ?」


59:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/14(土) 12:46:05.70 ID:SIqttHOc0
 
律子「だから私が……ぷ、プロデューサー!?」

P「? ああ」

律子「か、帰ったなら声をまずかけてください!!」

P「いや、かけたんだけど」

律子「え?」

P「なんか考えごとしてるみたいで」

律子「す、すみません!」

P「いいよ、別に。また仕事の事だろ。実は俺も、またまた新しい仕事、ゲットしちゃったんだよねー」

屈託のない笑顔。
悪くない。

そう考えると、顔が赤くなっているのが今は自分でもわかる。

律子「ま、またアニメですか? それともゲームで、ですか?」

P「ふぅふぅふぅふぅ、今度は有名推理小説の映画化だ」

律子「! それってまさか……」

P「『容疑者Xの変身』だ!!!」

律子「決まったんですか!? あの企画!!」

P「ああ、765プロのオールキャストでいくぞ! 主役は雪歩と真だが、竜宮小町のメンバーも出演してもらうからな」

律子「はい!」

プロデューサーが差し出した手を、私は自然に握った。

が、自然だったのはそこまでだ。

律子「あ……」

P「あ! ご、ごめ……」

律子「い、いいえ」

何も言えなくなったしまった。

ただ時間だけが過ぎていく。

それも手を握りあったままだ。

なにこれ?

なんなの?


60:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/14(土) 12:47:09.87 ID:SIqttHOc0
 
P「律子の手、暖かいな」

律子「そ、そうですか? プロデューサーの手もですよ」

P「あ、ありがと」

律子「……いいえ」

なに?

なにこの会話?

P「怒らないんだな、律子」

律子「え?」

P「触れられたりしたら、怒るかと……思った」

律子「そりゃ、いきなり触られたら……怒りますよ?」

P「律子、怒ってない」

律子「え?」

P「今、怒ってないだろ?」

律子「怒ってはない、ですけど……」

P「けど?」

律子「……なんでもありません」

心臓がバクバクいっている。

もう、何かをしゃべる余裕もない。

P「じゃ、じゃあもうちょっと先へ進んでも……怒らない、か?」

律子「へえ?」

プロデューサーは、私の返事を待たなかった。

私は抱きしめられていた。


61:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/14(土) 12:47:52.61 ID:SIqttHOc0
 
アイドル時代、局のお偉いさんに肩を抱かれたことがある。
私はそのお偉いさんを、ひっぱたいた。

大問題にはならなかったが、小問題……いや、中問題にはなった。

それによって……いや、そんなことはいい。

問題は今、だ。

肩どころではない。
今私は、男の人に全身を抱きしめられている。
ひっぱたく以上のことをしてもおかしくない。

なのに私は、なぜかプロデューサー殿の背に手を回し、自分も彼を抱きしめていた。


62:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/14(土) 12:57:23.35 ID:SIqttHOc0
 
時間の感覚がおかしくなったみたいに、どのくらいそうしていたのかわからなかった。

P「律子、怒ってない?」

間の抜けた質問。
吹き出しそうになるのを、私は堪える。

律子「こんなことして……怒ってますよ!」

わざとそう言ってみる。

なんだろう。なんだか楽しい。

P「……ごめん」

もう、せっかく堪えていたのに吹き出してしまった。

律子「ぷっ、くくくっ」

P「あれ? 律子、怒って……」

律子「あはは、あはははは」

P「な、なんだよ……本気で怒ったのかと思ったじゃないかよー」

律子「あはは。あら、怒ってないなんて言ってはないわよ」

笑いが止まらないけども、ちょっとだけキッとした目でプロデューサー殿を睨んでみた。

P「やっぱり……」

律子「あら、なに?」

P「綺麗だな、律子」

律子「ふえ、え?」

P「あー……お、俺さ。前から律子って美人で、性格もその……はっきりしてて好きだなーって」


63:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/14(土) 12:58:13.26 ID:SIqttHOc0
 
律子「……うそ」

P「いや、いやいやいや、ほんとほんと。ずっと好きだったんだって!」

律子「……うそじゃないにしても、軽過ぎません?」

P「今なら……言えるかな、って思ったからさ。それで、どう?」

律子「どう、って?」

ちょっと意地悪かな、と自分でも思う。
いくら私でも、相手が何を知りたがっているかはわかる。

P「律子は、俺のこと……どう思う?」

律子「……」

正直、自分の気持ちはまだよくわからない。

あずささんに言われなかったら、そもそもプロデューサーに対しても考えていなかっただろう。

でも、さっきプロデューサーに抱きしめられた時、私は彼の背に手を回した。
あの時、私は何を考えてそうしたんだろう?


68:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/18(水) 09:15:31.02 ID:VvQ5XQ/T0
 
そういえばこの間、小鳥さんとやった心理ゲーム。
私、なんて答えたんだっけ?

好きではない人に、告白されたら……

『私は……私は、ハッキリと嫌いだからと言って断ります。食べませんね』

そうだ、私はそう答えたんだった。

どうする?

どうするの私?

好きじゃない人に告白されたら、ハッキリと嫌いと言って断るのよね?

それでどうするの?

ねえ、律子。

P「あ、いや、あの、答えはさ、今じゃなくてもいいから」

律子「え? あ、はい」

P「考えてみて、くれるか?」

律子「わかりました」

そう言うと、急に会話が途絶えた。

私もプロデューサーも、何もしゃべらない。

気まずい空気が流れる。

律子「それじゃあ、私はこれで」

P「ああ……また明日な」

まだ仕事は残っていたが、空気に耐えかねて私は帰宅した。


69:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/18(水) 09:18:12.69 ID:VvQ5XQ/T0
 
帰ってお風呂にはいる。
浴室の鏡に向かい、私は自問した。

律子「告白……されちゃった。どうなのよ? 私」

驚いた。

鏡の中で、私はこれ以上無いほどだらしなく笑っていた。

慌てて私は、手についていた泡で鏡を覆う。

律子「なによ、その顔……」

お風呂からあがり、ベッドに横になる。

眠れない。

眠ろうとして目を閉じても、頭の中はさっきのことが浮かぶ。

プロデューサーに手を握られ、抱きしめられ、告白される。
それがぐるぐるぐるぐると繰り返される。

わかった。

もう認めよう。

私はプロデューサー殿が好きだ。

認めるから落ち着け、私。

律子「私はプロデューサー殿が好きで、その好きな人から告白……されちゃった」

口にすると、気持ちは落ち着いたが猛烈に恥ずかしくなってきた。

枕を抱いて、足をバタバタとさせる。
きっと顔は、さっき鏡で見たような顔をしてるんだろう。
だが、まあいい。


70:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/18(水) 09:19:17.34 ID:VvQ5XQ/T0
 
律子「返事……どうしよう」

プロデューサー殿は私が好きで、私も彼が好き。
けれどそれだけではつき合えない。

そもそもプロデューサー殿の事務所内での人気は、尋常ではない。

もしも私達がつき合うとなると……

事務所のみんなのモチベーションは、著しく低下するだろう。
いや、春香や美希、そして雪歩とかは辞めるとか言い出すんじゃないだろうか?

みんな今、大事な時期だ。

律子「はあ……」

ため息が漏れる。

律子「どうしたらいいのよ……」


71:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/18(水) 09:21:16.59 ID:VvQ5XQ/T0
 
次の日、私は早めに事務所に出勤した。
案の定、プロデューサーは既に出勤していた。

律子「おはようございます」

P「あ、ああ。おはよう……」

なんとなく、ぎこちない挨拶。

私は意を決して言った。

律子「昨日の話ですけど」

P「え? あ、ああ」

律子「私もその、プロデューサー殿が好き、みたいです」

P「みたい?」

いや、違った。
そこは昨夜検討して、結論を出したんだった。

律子「いえ、好き……です」


72:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/18(水) 10:09:52.51 ID:VvQ5XQ/T0
 
P「!」

律子「それでですね、色々と考えたんですけ……」

P「うおおおぉぉぉーーーっっっ!!!」

律子「え? な、なに!?」

P「やったー! やったやった!! やったぞーーー!!!」

ギュッ

まただ。
またプロデューサー殿に抱きしめられる。

まだ私の話は終わってない。

大事な事を説明しなきゃいけない。

なのに、なんでよ!

なんで嬉しそうに、私を抱きしめてるのよプロデューサー殿!!

それから律子、あんたも彼を抱きしめかえさないで!!!

まったく……


73:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/18(水) 10:10:44.55 ID:VvQ5XQ/T0
 
ようやく二人の身体が離れると、私はおずおずとプロデューサーに言った。

律子「でも聞いて下さい、プロデューサー。私達、おおっぴらに付き合うというか、交際はできませんよ」

P「……え?」

律子「私達、付き合うにしても誰にも内緒でこっそりとしないと」

P「なんで……なんでだよ!?」

はあ……
やっぱりこの人、わかってなかったか。

律子「プロデューサー殿は、事務所のアイドル全員から好かれています。私達がおおっぴらに付き合ったりしたら、みんなの士気に関わります」

P「え?」

律子「みんな今、大事な時期です。私達の個人的な感情やつき合いで、彼女達の夢や努力を無にするわけにはいかないんです」

P「いや、ちょっと待ってくれ。それ……ほんと?」

律子「どうしてプロデューサー殿は、そう鈍いんですか!?」

言ってから、自分で気がついた。
自分で自分の気持ちになかなか気がつかなかった私も、相当鈍い。


74:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/18(水) 10:12:05.15 ID:VvQ5XQ/T0
 
P「伊織とか、けっこう俺に厳しいし」

律子「あれは照れてるんです」

P「千早はそっけないぞ」

律子「千早は自制心が強いですから」

P「雪歩もいまだに、オドオドしてるし」

律子「恥ずかしがってるんです。怖がってるのとは違います」

P「んー……」

律子「いいかげん、わかってください」

P「律子の勘違いじゃね?」

律子「わかってください! お願いしますから!!」

P「でもさー。俺、今までそんな女性にモテた事なんてないぞ?」

律子「今はモテてるんです!!!」

だんだん腹が立ってきた。
この人は、状況を分析するとか理解するという考えは無いのだろうか。


75:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/18(水) 10:14:11.85 ID:VvQ5XQ/T0
 
P「まあ……律子がそういうなら、そこは認める事にするよ。わかった、俺は今モテている」

律子「ふう。それで? どうします? 私はやめて、あの娘達の中から誰かつき合う娘を決めます?」

冗談半分。
だけど半分本気で、私は彼に聞いた。

P「いや、俺は律子が好きだ」

嬉しくて泣きそうになる。
こういう所はプロデューサー殿の、いい所だ。
まっすくで、嘘偽りが無い。

律子「だっ、だから私達がつき合う事は、誰にも内緒です」

P「誰も知らない、知られちゃいけない……そういう事だな?」

律子「ようやく見解が一致して、嬉しいです」

P「でも逆にいえば、誰にも知られなければ俺と、その……つき合ってくれるんだな?」

律子「それは……はい。ふつつか者ですが……お、お願いします」

プロデューサー殿の顔が、近づいてきた。

いってる側からこれだ。

誰かが入ってきたらどうするんだろう?

私が今言った事、理解していないとしか思えない。

ここはひとつ、思い知らせてあげなくては……!

そう思いながら、私は彼を見上げて目を閉じていた。

唇と唇が触れあった。

まったく!
あんたは私が今言った事、理解してないの? 律子……


79:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/19(木) 10:56:02.54 ID:YRiSCrUz0
 
律子「とにかく、作戦を立てましょう」

P「作戦? みんなには内緒にしておけばいいんだろ?」

律子「それが良くないんです! 無策でコトに臨むなんて失敗しようって自分で言ってるようなものですよ」

P「えー? じゃあどうするんだ?」

律子「ちょっと考えたんですけど、私達が気が合わないって風に振る舞うというのはどう? 同時にプロデューサー殿のイメージダウンをアピールしていきます」

P「イメージダウン!?」

律子「だって今はつき合うのは内緒ですけど、いつかは……そのみんなにも公表したいですし」

P「そりゃそうだけど」

律子「公表した時、プロデューサー殿の人気が下がっているとみんなもあきらめやすいでしょ」

P「理屈はわかるけど……」

律子「もちろん、プロデューサー殿だけに損な役回りはさせません。私は、そのダウンしている部分に対してヒステリックというアピールをしていきますから」

P「へ?」

律子「プロデューサー殿はダメ男、私はそれに対してイライラしているヒステリー女。これで二人は不仲でというアピールをしつつ、お互いに損な役回りができるという……」

P「律子……」

律子「? なんです?」

P「そういう凝った事はやめないか? 俺、自信ないし……律子がヒステリー女を演じているトコなんて見たくないよ」


80:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/19(木) 10:57:11.61 ID:YRiSCrUz0
 
律子「それは別に私だって、やりたくてやるわけじゃ……」

P「策士策に溺れ、才士才に溺れるって言うじゃん」

驚いた。
そういう、ちゃんとした言葉も知ってるんだ。

いや、もちろんプロデューサー殿が、頭いいのはわかっているけど……

律子「でも、でも……」

失敗したくない。
自分の手の中に、小さな幸せが今はある。
これを手放したくない。

プロデューサー殿は、ため息をつくと言った。

P「わかった。やってみよう」

律子「! ありがとうございます」

P「……いいよ。律子がそうやって笑顔になるなら。それで? どうするんだ?」

律子「はい。色々と調べたんですけど、年頃の女の子に好感を持たれない一番の要素は『服装がだらしなかったり清潔感がない』だそうです」

P「服装、ねえ……」

律子「まあプロデューサー殿は、背広もルクタイも曜日ルーチンですし、今更それを崩すのも変で……」

P「え!? な、なんで知ってんだよ?」

律子「みんな知ってますよ。千早とやよいは、よくプロデューサー殿のネクタイを見て曜日を確認していますし」

P「……知らなかった」

律子「とりあえずこういう作戦でいきましょう……」


81:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/19(木) 10:58:16.24 ID:YRiSCrUz0
 
律子「……」ニコニコ

P「……」ヘラヘラ

真「……」チラチラ

雪歩「……」ジー

真「律子、なにかいいことあったのかな?」ヒソヒソ

雪歩「プロデューサーも、すごく機嫌がいいみたいですぅ」ヒソヒソ

亜美「おはよ→」

伊織「おはよう」

あずさ「おはようございます~」

律子「あらみんな、おはよう」ニコー

P「よう、おはよう」ヘラー

亜美「!」

伊織「!」

あずさ「?」

真「みんな! こっちこっち」

雪歩「待ってたよぉ」
 

82:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/19(木) 10:58:51.99 ID:YRiSCrUz0
 
給湯室


伊織「なによ? あれ!」

亜美「りっちゃんなんで、あんなにニコニコ四天王→?」

真「聞きたいのはボク達の方だよ」

雪歩「二人ともすごく嬉しそうで。でも、一言も口をきかないんですぅ」

真「険悪じゃないけど、なんていうか……」

雪歩「とにかく今までとは、どこか違うんですぅ」

亜美「え→? またケンカってゆ→か、そんなんじゃないの→?」

伊織「あのすぐに顔に出る律子が、あんなニコニコしてるのよ?」

あすさ「……」

雪歩「ど、どうしよお……」

伊織「と、とりあえず様子をみましょう。今日は真と雪歩はプロデューサーと、映画の打ち合わせでしょ?」

雪歩「うん」

伊織「私達は竜宮小町で営業だから、律子の様子をみておくわ」

真「じゃあボクらはプロデューサーの様子を」


83:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/19(木) 11:00:02.43 ID:YRiSCrUz0
 
P「お、なにやってたんだ? 出るぞ」

真「あ、はい」

律子「ちょっとプロデューサー殿!」

あずさ「!」

P「あ? なんだ律子」

律子「ネクタイ、曲がってますよ。まったく……そんなんじゃウチの事務所の沽券に関わりますから!」

P「あ、ああ。すまん……」

律子「プロデューサー殿は、服装とかに気をつけて、もっとしっかりしてもらわないと困りますからね!!」

私はプロデューサー殿に歩み寄ると、ネクタイに手をかけた。

律子「ほら……ちゃんとしてください!!!」

P「ああ。ありがとうな」

律子「……いいえ。さ、さあ、あ……あんた達も行くわよ!」

照れ隠し気味に、私は竜宮小町の3人に声をかける。

演技とはいえ、ちょっとやり過ぎたかな?

だが、これでプロデューサー殿のだらしなさと、私のヒステリーをさりげなくアピールできただろう。

うん、よしよし。

亜美「いおり→ん……」ヒソヒソ

伊織「待って、待って亜美。状況に頭がついていかない……」ヒソヒソ

真「雪歩お! 今のってまるで……」ヒソヒソ

雪歩「……新婚さんみたいだったね」ヒソヒソ

あずさ「……」


91:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/20(金) 10:32:32.54 ID:0WWZkexY0
 
真「変……身! えーっくす!!」

雪歩「真ちゃーん!!」

P「いいぞ。今回の映画『容疑者Xの変身』は、本格推理特撮アクションだ。巧みな心理戦の法廷劇だからな」

真「……はい」

P「どうかしたのか? 雪歩も、元気ないみたいだし」

雪歩「……」

P「どうした? 本当に」


92:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/20(金) 10:33:17.34 ID:0WWZkexY0
 
律子「♪ 机の中 書きかけのラブレター♪」フンフーン

亜美「……」

伊織「……」

あずさ「……」

律子「亜美ー? どうかしたの? 今日はおとなしいじゃない」

亜美「う、う、うん! そ、そっかな→?」

伊織「律子は……なにかあったの?」

律子「? べっつにー」フフーン

亜美「……いおりん、亜美もう恐いよ」ヒソヒソ

伊織「あずさ……私達、どうすれば……」ヒソヒソ

あずさ「帰ったら……みんなで集まれる? 外で」ヒソヒソ

伊織「? 連絡しておくわ」ヒソヒソ

律子「さー! 今日もお仕事、お仕事ーーー!!!」


93:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/20(金) 10:35:36.66 ID:0WWZkexY0
 
春香「つ、つきあってるー!?」

真美「つっつきあってる→!?」ツンツン

貴音「律子嬢と……」

千早「プロデューサーが?」

あずさ「きっとね。間違いないと思うわ~」

春香「あー」ガックリ

千早「春香、元気出して」

美希「間違い……ないの?」

亜美「今日のりっちゃん見たら、ミキミキも絶対なっとくだよ」

美希「うう……」ガックリ

春香「美希ぃ……」ポロポロ

美希「春香ぁ……」ポロポロ

春香・美希「うえええぇぇぇーーーんんん!!!」

貴音「抱き合って泣く二人の姿……まこと、美しいですね」

伊織「意外にも、雪歩が冷静よね」

真「いや、これもう呆然としてるだけだと思うんだけど」

雪歩「……」ボー


94:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/20(金) 10:37:05.66 ID:0WWZkexY0
 
亜美「けどさ→、りっちゃんも兄ちゃんも機嫌がいいのはつきあってるからだとして→。なんで亜美達に黙ってんNO?」

あずさ「私達みんなが、春香ちゃんや美希ちゃん、雪歩ちゃんみたいになるとわかってるからじゃないのかしら~」

真「なるほど」

真美「ナットクだよ」

春香「うええ……」ボロボロ

美希「あーん」ボロボロ

雪歩「……」ボー

あずさ「まあ最重症の3人はちょっとおいておいて~ここにいるみんな、少なからずショックよね~」

伊織「私は……別に……」

千早「ショックです」

伊織「千早!?」

千早「でも、なんとなくわかってたわ。プロデューサーは律子が好きなんじゃないか、って」

貴音「私も、残念ではありますが薄々は気がついておりました」

真「律子もボクらの仲間なんだし、そう思うと……」

千早「ええ。やっぱり嬉しいし、諦めもつきそうよね」

あずさ「そうよね~やっぱりみんな、そうよね~」


95:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/20(金) 10:37:32.82 ID:0WWZkexY0
 
貴音「これ。そこな三人、いいかげんに落ち着きなさい」

春香「うう……」グスッ

美希「うう……」グスッ

雪歩「うう……」グスッ

あずさ「それで~これから私達は、どうしましょうか~」

やよい「はわわ! お、お赤飯を炊きましょうかー?」

伊織「うーん。なんか変だけど……まあおめでたいと思って、なにかしてやらなきゃね。材料を買いに行く?」

貴音「失恋するとお腹が空くもの……高槻やよいの炊く、お赤飯……わたくし、腹が高鳴ります」

あずさ「いいわね~だけど……」

伊織「?」

あずさ「やっぱりちょっと、悔しくない~?」

春香「そうです! 仕方ないけど……」

美希「律子に一言は言いたいのー!」

雪歩「そうだよぉ。そうじゃないと、私も踏ん切りがつかないよぉ」

真「確かに……そう、かな?」

真美「でもさ→なにすんの→?」

あずさ「うふふ~私にちょっと、考えがあるのよね~」


96:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/20(金) 10:56:19.90 ID:0WWZkexY0
 
P「みんな……行っちゃったな」カタカタ

律子「なんか、全員で夕食を食べるって」カキカキ

P「小鳥さんは?」カタカタ

律子「アニメ見ないといけないって、帰っちゃいましたよ」カキカキ

P「ああ、黒バスの日か」カタカタ

律子「プロデューサー殿は、いいんですか?」カキカキ

P「今だけだからな、律子といられて話ができるのは」カタカタ

律子「……バレませんでした? 真と雪歩に」

P「うーん、なんかいつもとは違ったけど、どうだろな」カタカタ

律子「私は大丈夫でしたよ」

P「流石、元アイドル」カタカタ

律子「ふっふーん」

P「もう一回、アイドルは……」カタカタ

律子「それはやりません」カキカキ

P「……そうだな、もう俺だけのアイドルだ」カタカタ

律子「……」

顔が真っ赤になるのがわかる。

プロデューサー殿のこういう臆面もない所は、やはり恥ずかしい。

でも……少し、いやかなり嬉しい。


97:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/20(金) 10:57:34.39 ID:0WWZkexY0
 
P「ひとつ、お願いがあるんだけど……」カタカタ

律子「なんですか?」カキカキ

P「ふ、二人っきりの時は……だ、ダーリンって呼んで、く……くれない、か?」

律子「え?」

P「律子、もうアイドルじゃないだろ。もうアイドルにも戻らないし」

律子「ええ」

P「だから、俺だけにダーリンって呼んでくれるんなら……嬉しい、から……」

律子「今さら……そういうの、恥ずかしいですよ」

P「なんか律子の特別になれた、って気がするからさ」

律子「別に……そんな呼び方を変えなくても、私はプロデューサー殿の彼女ですよ」

P「……そっか」

律子「だから……二人っきりの時だけですよ。ダーリン」

P「え!?」

律子「好きですよ、ダーリン」

P「律子……ありがとう」


103:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:17:36.58 ID:cKmrA5ov0
 
律子「こまりますよ、プロデューサー殿! もっとしっかりしてください!!」

P「ああ、悪いな。経費の計算、やっといてもらって」

律子「プロデューサー殿は、ほっとくと経理は後回しなんですから、まったく!!!」

P「助かったよ」

本日のアピールは、金銭管理に疎いプロデューサーだ。
女の子は、金銭感覚の無い男に幻滅をする。

春香「……」

美希「……」

雪歩「……」

ほら、全員が呆れ気味だ。

うんうん、よい傾向。

あずさ「亜美ちゃん、そろそろ~」ヒソヒソ

亜美「おっけ→」ヒソヒソ

P「あれ? 亜美、今日はひとりで行くのか? 収録」

亜美「うん! パ→ソナリティ→の千早お姉ちゃんは先に行ってるし、大・丈→夫だよ」

P「そうか?」

亜美「うん!」


104:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:18:03.88 ID:cKmrA5ov0
 
あずさ「プロデューサーさん~。過保護は良くないですよ~」

P「まあ、亜美もプロ意識が出てきたもんな。律子に鍛えられたかな?」

律子「そんなことないですよ。亜美も自発的にがんばってるんですよ、ダーリン」

春香「!」

美希「!」

雪歩「!」

P「り、律子!? 律子ー!!」

律子「え? ……あ! い、いや、その……だー……たーりん……ぷ、ぷぷぷ、プロデューサー殿の、ノータリン……なんて……」

P「い、いやあ……り、律子はキツいなあ! あ、あはははははは……」

春香「……」ジー

美希「……」ジー

雪歩「……」ジー

危なかった!
今のは危なかった!!

あやうく、2人がつきあってるのがバレる所だった!!!


105:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:18:50.64 ID:cKmrA5ov0
 
それから2時間ほどして、千早と亜美のラジオが始まる。

千早「今日は同じ事務所の可愛い妹分、双海亜美に来てもらってます」

亜美「……亜美だよ」

P「!?」

プロデューサー殿が、びっくりして立ち上がる。

律子「なに!? 今の亜美の超低テンション」

P「プライベートでも聞いたことの無いダウナーさだったな」

律子「出る時は、元気だったのに……」

不安が募る。
まさか、途中でなにかあったのだろうか?

あずさ「どうしたのかしら~?」

千早「あれ? 今日は随分と元気ないわね」

亜美「うん……聞いてよ千早お姉ちゃん。最近ね、亜美……事務所の空気がトゲトゲしてて嫌なんだ……」

千早「ああ……でも亜美、それは収録の後で……」

亜美「もうイヤだよ! 亜美、兄ちゃんやりっちゃんがケンカしてるのヤだよぉ……」

ラジオから流れる、亜美の泣き声。

律子「そんな……」

ショックだった。

最年少の亜美に、そんな思いをさせてたなんて……
管理者……いや、大人として失格だ。


106:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:19:25.88 ID:cKmrA5ov0
 
律子「亜美……ごめんなさい」

わざと不仲のフリをする。
なんてバカな事をやっていたんだろう。

思わず涙が、頬を伝う。

ごめん、亜美。
ごめん……

あずさ「律子さん……亜美ちゃんだけじゃないのよ。みんな、色々と心配したり不安になったりしてるんですからね」

いつかのような、すこし厳しいあずささんの声。

周りを見渡す。

みんな……

みんな、複雑な表情だ。

そうか。私のバカな考えは、かえってみんなを傷つけていたんだ。

あずさ「付き合ってるなら、そう言えばいいのに~」

律子「……もしかして、全員?」

春香「気づいてますよ!」プンスカ

美希「律子……さん、ひどいの!」プンスカ

雪歩「私達を信用してないんですか?」


107:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:20:11.41 ID:cKmrA5ov0
 
P「いや、律子が悪いんじゃなくて俺が悪いんだよ。みんな、ゴメン」

頭を下げる、プロデューサー殿。

律子「ちが、違います! 全部、私が言い出したことで……ほんとにごめんなさい」

あずさ「……ですって。どうする~みんな?」

春香「プロデューサーさんは……律子さんが好きなんですね?」

美希「どうなの!? ハニー!!」

雪歩「そうなんですか?」

P「……そうだ。俺は律子が好きだ!」

春香「そっか……」

美希「じゃあ、くやしいけど……」

雪歩「しょうがないです」

律子「え?」

貴音「みんな、祝福いたしますよ。お二人を」

パーン☆☆☆

クラッカーが鳴る。
伊織だ。

そしてやよいが、ワゴンを押して現れる。

やよい「うっうー! 高槻家特製の、お赤飯ですよー!! お祝いに、みんなで食べましょう!!!」

律子「え? え?」

真美「このままパ→ティ→に突入だYO!」


108:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:20:56.25 ID:cKmrA5ov0
 
律子「あんたたち……最初から用意してたの?」

P「じゃあさっきのラジオも!?」

春香「トランスミッターで、事前に録音した音声をラジオに飛ばしたんです」

春香が、iPodを私達に見せる。

P「……気がつかなかった」

律子「じゃあ、さっきの亜美の声は……演技?」

美希「そうなの。迫真の演技だった、ってミキ思うな」

律子「よかった……」

腰が抜けるとは、この事だ。
そんな私を見て、みんなが笑う。

春香「それで、2人はどこまでいったんですか?」

律子「ちょ、春香!」

雪歩「それぐらい聞いても、罰はあたらないと思いますぅ」

P「いや、まだ全然」

美希「ホントなの?」

P「ああ。な、律子」

律子「そ、そうよ」


109:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:21:25.98 ID:cKmrA5ov0
 
美希「キスも? なの」

P「あー……それは」

律子「も、黙秘します」

P「したよ。でも、そこまでな」

一同「「ヒュー!!!」」

律子「ちょ! プロデューサー!」

真美「おりょりょ→りっちゃん、真っ赤だよ→」

P「隠し事はもう止めよう。その代わり、公私の区別はつけるから」

あずさ「う~ん。でも律子さんにはそれ、難しいかもね~」

律子「へえ?」

伊織「バレバレだったわよ。ここんトコ、ずっと」

律子「嘘……」

雪歩「むしろバレて無いと思うほうがおかしいですぅ」

がっくし。

じゃあ私の努力は……まったくの無駄だっのか。


110:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:21:55.90 ID:cKmrA5ov0
 
美希「じゃあハニー……プロデューサーは、まだ全然この先の事も考えてないの?」

P「……いや」

プロデューサー殿が、何かを取り出す。

P「いちおう……こういうものは、用意してある」

春香「それって……」

雪歩「うわあ、いいなあ。うらやましいなあ」

美希「ミキに見せて!」

なに?
なんなの?

P「律子……これ、受け取ってくれるか?」

プロデューサー殿は、私の目の前で方膝をついて何かを差し出した。

それは……指輪だった。

律子「やだ……こんな、そんな……」

両手で口を覆う。

ダーリンったら、こんな時にこんな所で……

美希「律子……さん、要らないのー?」

伊織「へえ! 結構、奮発したじゃない。これって3ヶ月分? にししっ」

春香「それなら私が……」

律子「ダメ! それは私の……」

みんながニヤニヤして、私を見る。
しまった。


111:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:22:46.06 ID:cKmrA5ov0
 
律子「……おほん。あ、ありがたく受け取ります。ありがとう、ダーリン」

春香「♪ えんだーーー☆♪★♪♯」

伊織「春香……音、外れてるわよ」

春香「のワの……」

響「千早が帰ってくるの、待って歌ってもらった方がいいぞ!」

雪歩「律子さん、指輪してみてください」

律子「そうね」

私は、指輪をおずおずと取り出し、薬指に……

律子「あれ?」

春香「これって……」

雪歩「サイズが……」

美希「合ってないの」

P「えええぇぇぇーーー!? だって律子、前にサイズは12号だって……」

律子「それは服のサイズです! 指輪は11号ですよ!!」

あずさ「ええ~? それじゃあもしかして……」

あずささんが、薬指に指輪をはめてみる。

あずさ「……ぴったりですね~」

春香「これって……」

雪歩「あずささんの、運命の人って……」

美希「ハニーなの?」

律子「だあああぁぁぁりいいいぃぃぃんんん!!!」


112:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:23:26.00 ID:cKmrA5ov0
 
結局、指輪はサイズ変更することで落ち着いた。
が、なんだか釈然としない。

その内、帰ってきた千早と亜美を加え、なぜか赤飯が主菜のパーティーが始まった。

みんなからさんざんからかわれながらも、祝福された。

そして、みんなが帰った後……

P「指輪、ごめんな」

律子「……いいです。あんまり何もかも完璧にじたいが収まると、かえって不安になります」

P「そうか」

律子「私、みんなの事をちゃんとわかっていませんでした。なんでも物事を分析していれば、間違いないと思っていたのに、肝心のみんなの優しさを考慮に入れてませんでした」

P「確かにな。でも、そういうのも含めて律子だと俺は思うぞ」

律子「? どういう事です?」

P「真面目で、美人で、ちょっと固くて、スタイル良くて、頭が良くて、笑顔が可愛くて……それで最後に」

律子「最後に?」

P「ちょっと抜けてる所、がな」

律子「もう!」

P「律子、怒ったか?」

律子「怒ってませんよ。だって、その通りですし……」

P「ま、俺もそうだし」

律子「え?」

P「指輪」

律子「あずささんに、あげなくていいんですか?」

P「俺は、律子が好きだからな」

律子「……私もですよ、ダーリン」

二人のカラダが近寄る。
そして私達は、やさしくキスをした。


113:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:23:55.52 ID:cKmrA5ov0
 
小鳥「……あの、これは……これはどういうことピヨ?」

律子「え?」

P「あ、あれ?」

小鳥「私が出張に行っている間に……な、なにが……」

小鳥さん? あれ? そういえば今日……いなかった!?

小鳥「ひどいピヨー!!」

やれやれ、私達はまた一から説明をし直した。

やっぱり私は、ちょっと抜けてる。

……ダーリンの言う通りね♪


おわり


114:Swing ◆VHvaOH2b6w:2012/07/23(月) 09:28:29.58 ID:cKmrA5ov0
 
以上で終わりです。
理知的で頭のいい才女であるりっちゃんが、そうであるが故にぎこちなくイチャイチャする話がやりたくて書きました。
私的な事情で忙しく、なかなか更新できませんでしたが、完走できて良かったです。

次は、また律子で今度はコメディか、雪歩がペットを飼う話になるかな、と思います。
もしかしたら全然違うかも知れませんが。
どこかでお見かけになられましたら、またよろしくお願いいたします。

あ、ふーどふぁいと!!! もがんばります。

ありがとうございました。


117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/07/23(月) 13:02:10.79 ID:ate1K13Qo
 
乙 素晴らしい律子ssでした

120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/07/23(月) 23:08:26.29 ID:XLtVcVn1o
 
乙!
終始ニヤニヤできてよかった
ちょっと抜けてるりっちゃんかわいい



元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1341893932/