★シャッフルSS第2弾★


雪の降りだす冬が来て、積もった雪をゆっくり溶かして桜を咲かす春が来る。友達関係も同じ、ゆっくり仲良くなって、いつかは別れがやって来る。出会いは突然、別れも突然。

私にとって最後の中学生活、卒業式が終わった。色々な事があって大変だった記憶ばかりが残っている。でも、一番思い出に残っているのはやっぱりあの子との事かな。一番大切で一番可愛い私の後輩ちゃん。

桜を咲かした木の下で、私は一人思い出していた。ここは私のお気に入りの場所で思い出の場所。辛くて、泣きたくて挫けそうになった時はいつもここに来ていた。


「あー! 雪歩先輩! こんな所に居たの……」

「あっ、春ちゃん」

「探したんですよ! 大切な話もあるのに、卒業式が終わるとすぐ居なくなるし……」


息を切らしてやって来たのは天海春香。そう、私の一番大切で大事な後輩ちゃん。一つ年下で私よりも身長が少し高くてお菓子作りが好きで……私の知らない事をいっぱい教えてくれた女の子。


「その、リボン……」

「雪歩先輩がくれたリボンですよ」

「ふふっ、懐かしいね」

「雪歩先輩と出会ったのは一年前の冬でしたよね」

「雪が降ってるのに土手で歌ってて、凄く楽しそうで。もしあの時、春ちゃんが歌ってなかったら出会ってなかったかもしれないね」


私と春ちゃんが初めて出会ったのは去年の冬。私が中二で春ちゃんが中一の時。部活帰りに聞こえてきた元気な歌声が気になって、探してみたら、そこには春ちゃんがいた。合唱部で歌えなかった私を歌えるようにしてくれたのは春ちゃんのその元気な歌声のおかげ。

それから私と春ちゃんはよく遊ぶようになって、今まで知らなかった外の世界を教えてくれた。恥ずかしがり屋で消極的だった私に仲良くしてくれた。もし春ちゃんに出会ってなかったら、私はずっと一人のままだった。


「あの雪歩先輩」

「うん?」

「私、神奈川に引っ越すんです」

「そうなんだ、ふーん……」


春ちゃんの言った事に私はなんて返せばいいのか分からなかった。ただ、素っ気ない返事をするだけ。頭の中は真っ白だった。やっとできた私の友達、やっと仲良くできたのにどこかへ行っちゃう……。

もし、今泣いちゃったら春ちゃんを困らせてしまうかもしれない。でもどうしたらいいのかな……どんな顔をすればいいのかな……? 春ちゃんの事をちゃんと見れない。

「親の都合で神奈川に行く事になったんですよ。でも! 神奈川に行っても先輩の事忘れません!」

「うっ、うん……!」

「あはは……泣かないでくださいよ先輩……」


駄目だった。泣かないで春ちゃんを送り出さないといけないのに、熱い涙が止まらない。次から次へとこぼれ落ちてくる。涙で霞んだ視界が春ちゃんをはっきり写さない。


「春ちゃん……」


自分も泣いてるくせに私の事を優しく抱き締めてくれた。サラサラと通り抜けていく春ちゃんの髪。そっと頭を撫でるとシャンプーの香りが鼻をくすぐる。私も春ちゃんの事をそっと抱き締めた。


「私も寂しいです……。先輩の事が好きだったから、先輩を尊敬してたから……!!」

「私もだよ……!ずっと一人だった私と一緒にいてくれた、ダメダメな私に色々な事を教えてくれた。そんな春ちゃんの事が大好きだよ……!」


自分の気持ちを伝えると、やっと涙を拭いて春ちゃんの事をしっかり見れた。涙を流してるのに笑顔な春ちゃん。そんな春ちゃんの笑顔を見るとやっぱり元気を貰える。少しだけ気が楽になったかもしれない、でもやっぱり心のどこかにモヤモヤとした気持ちが残っていた。


「雪歩先輩、神奈川に行ってもアイドル目指して頑張ります!」

「そっか。私は……春ちゃんみたいに夢はないし、目標もない。でも、今の自分を変えるために頑張ってみようと思うの……!」

「先輩も私も頑張らないとですね。あっ、そろそろ行かないと……先輩! 高校でも頑張って下さいね!!」


春ちゃんは立ち上がると私を見て微笑んだ。前を向いて行こうとする腕を咄嗟に掴んでしまった。何か言わないといけないのに何も思い付かない。考えなしにただ、春ちゃんの腕を掴んだ。


「待って……!」

「先輩?」

「あの、その……」


私は春ちゃんの腕を掴むと顔を近付けた。そして振り返った春ちゃんの唇を奪った。柔らかい唇が触れあって、荒々しく暴れる心臓の音が止まらない。今、春ちゃんがどんな顔をしているのか、どう思っているなんかも考えられない。

時間も忘れてただ、春ちゃんを感じていた。そっと唇を放すとそこでやっと春ちゃんの顔を見た。頬を真っ赤に染め上げて、私と目が合うと恥ずかしそうに目を逸らした。自分でも分かる、頬が熱くて真っ赤に染まってるって。

雪歩はズルいよ……」

「ごっ、ごめんね! でもこうでもしないと自分の気持ち……」

「……もっと」

「えっ?」

「もっと……先輩の気持ちを教えてください。だから、もう一回……」

「春香ちゃん……」


目を閉じてゆっくり顔を近付けてくる春ちゃん。私は春ちゃんの手を握って、唇と唇を重ね合わせた。柔らかくて暖かい春ちゃんの唇、気持ちがよくて溶けてしまいそう。こんなに近くに感じているのにまだ足りない、もっともっと春ちゃんを感じていたい。

春ちゃん、今声出した。恥ずかしがってて可愛いなぁ……。でも私も声が出ちゃいそう。恥ずかしいのに気持ちがいい。舌と舌とが絡み合って頭の中が真っ白に。

風の音、心臓の音、春ちゃんの声と私の声だけで二人だけの空間。何も考えず、時間も忘れて何度も何度もキスをした。桜の香りに包まれて。


「大好きだよ春ちゃん」

「私もですよ雪歩先輩……」

「こんな事したんだから私の事忘れないでね!」

「忘れないですよ! じゃあ本当に行きますね。次いつ会えるか分からないけど、頑張って下さいね先輩!!」

「春ちゃんもアイドル目指して頑張ってね!!」


さっきまであんなに近くに春ちゃんを感じていたのに徐々に徐々に離れていく。背中を見詰めながら春ちゃんとの一年間を思い出していた。

優しくて暖かい、いつも元気で可愛くて。恥ずかしがり屋で消極的な私とは真逆。そんな私に元気をくれる、春みたいな女の子。そんな春ちゃんの事は忘れない、次に春ちゃんを見るのはテレビかな?

桜の舞ってるこの季節、出会いもあれば別れもある。手の平に乗った桜を見て少し微笑んだ。


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「ゴホン! 君達、今日は765事務所の新しい仲間を紹介しようと思う。これから君達とトップアイドルを目指す新たな仲間だ!!」


「はっ、萩原雪歩です……!! 自分を変えるためにアイドルを頑張ってみようと思いますぅ……!!」


「ゆっ、雪歩……先輩……?」


「はっ、春ちゃん……?」



END