このSSは「ドラマ仕立て」になっております。


 
 ――今宵は、雨が降る。そう知っているのにも関わらず、傘すら持たずに私は黙って外へ出た。私は何の為に生き、そして何を残そうとしているのか。ただその『理由』を知る為に。
 冬らしく、吹き寄せた冷たい風が肌を切る。これから雨が降るという事を物語っているように、普段よりもその風は冷たくて。
 宵闇に包まれた街を一人で歩いていても、私が求める『理由』がやって来るとは思えない。では、何をするべきか……それすらも分からない。
 ただ、一つだけ私に『出来る事』がある。それについて私は特に理由を見出す事も無く、今までは何故それをするようになったのかすらも考えようとしなかった。

 街を抜けて、小高い丘にある公園に辿り着いて。辺りはすっかり暗くなり、この公園から眺める街は普段以上に光り輝いて見える。
 ……そんな輝きに満ちた街に私は住んでいると言うのに、何故こんなにも自分自身は輝いていないのか。輝く理由を持っていないのか。それらの疑問だけが、私を動かす原動力となっている。
 「青き歌姫、でしたか? 何をしに此処へ来たのですか」
 そう言って何処からか姿を現した、銀髪の美しい女性。私は一度この人に会った事がある、そして……私はこの人の言葉を聞いて、理由を探し求めて彷徨うようになったのだ。
 「貴女は……」
 私が彼女の方に視線を向けると、銀色の髪を風になびかせながら此方へ歩み寄って来る。今度は何を言いたいのか……不安と恐怖が私の心の中で渦巻き始める。
 「理由を、探しているのでしょう?」
 「……!」
 図星だった。そして、言い当てられた事によって驚き、その事すらも表に出してしまっただろう。
 すると彼女はくすりと笑い、硬直し続ける私の隣に立っては、ふうと息を吐いた。
 「輝きを求める貴女は、輝いている者よりも美しく思えます。そして、私はそうなる事を望んだ」
 言っている事が分からない。彼女は以前、私に「あの光輝く街と比べて、自分は輝いているのか」と言う事を問いかけて来たのだから。
 そして、更には「街と比べて、貴女のしている事は輝いていないでしょう?」とまで言い放った。そう言われたあの時、私は気付いてしまったのだ。

 ――私は何の為に歌っているのか、と言う事を。

 人は私を「歌姫」と呼び、そしてそれに舞い上がった私は、歌い続けた。理由なんてものを考える事も無く、自分がどれ程輝いているのかを気付く事も無く。
 「貴女の周りに、人は居ますか?」
 「…………」
 何も言えない。歌わなくなった途端、それまで私の事を「歌姫」と呼んでくれていた人達は、蜘蛛の子を散らすようにして離れていったのだから。
 私は、孤独なんだ。『歌』が輝いていたとしても『私自身』が輝いている訳ではない。そう、あの光り輝く街と比べて私は輝いていない。
 「教えて、貴女は何者なの? 私に何を求めているの?」
 視線を合わせる事も無く、私は銀髪の美女に問いかけた。しかし返答が返って来る事も無く、無言の時間が流れる。
 「何の為に歌うのか、その理由を見つける事。見つけさせる事。私はそれだけの任務を遂行する為に此処へ来た女、正体を明かす必要性はありません。貴女は歌声に輝きを持つ人間……私がこれ以上関与する必要性も無いでしょう」
 どこまでも冷え切ったような口調で、今までの私を全て否定されているようで。まるで、彼女は『そこに居ない』かのような錯覚すら抱いてしまう。
 「貴女にとって正体を明かす必要性が無くても、私にとっては必要性がある! だから、教え――!?」
 私がしびれを切らし、隣に立っているであろう銀髪の美女に食い付くようにして、そう言いかけた時だった。

 彼女は、そこに居なかったのだ。少し前までそこに立っていて、私に冷え切った言葉を掛け続けていた筈の彼女が。

 ――そしてその時、今までずっと待っていたかのように、雨が降り始めた。
 ポツリ、と落ちて来た一粒の雨粒は、次第に数を増やし、ザーザーと音を立て始める。
 「私が歌う、理由……」
 雨に濡れながら、私は自分の掌を見る。公園の電灯に照らされているものの、雨のせいで視界は安定しない。
 私に出来る事、そして輝きを得る為にはどうしたら良いのか……雨に濡れて、全てを洗い流して、ようやく分かった気する。
 「――――」
 雨の中、私はすっと息を吸い込んだ。
 「眠り姫……目覚める、私は今……」
 私は歌う、今までとは違うやり方で。今までとは違って、ちゃんとした『理由』を持って。
 「誰の助けも借りず、たった一人でも――」
 孤独で良い、それがスタートラインだから。誰の助けも借りないで、ただひたすらに自分の歌声を響かせる。
 「明日へ、歩き出す為に――!」
 ――今度は私自身を輝かせる為に、歌い始めよう。それが、私が歌い続ける『理由』になるから。