「ただいまー」


特に何もなかった今日一日。学校から帰ってくると今日もまた弟達の面倒を見るいつもの日常が始まる。やよい姉ちゃんはアイドルの仕事が大変だし、少しでも役に立ちたいから面倒を見る事なんて別になんとも思わない。


「あっ、おかえり長介!」

「やよい姉ちゃん……うん、ただいま」


今日は早く仕事が終わったのかな? 俺よりも先に帰ってきていた。仕事が早く終わる日、遅く終わる日……姉ちゃんはいつも帰ってくる時間がバラバラ。それでもいつも面倒を見ながら家事をしている。

だから自分が早く帰ってきた日はやよい姉ちゃんが帰ってくるまでずっと面倒を見て、やよい姉ちゃんの方が早く帰ってきた日はすぐに手伝いを始めるっていうのがいつもの日常。

少しは休んだ方がいいよって言うけど、大丈夫だよって笑顔で言うから、少しでも早く休めれるように手伝うんだ。早速、玄関の靴を綺麗に並べて、洗濯物を畳む手伝い。


「姉ちゃん、洗濯物終わったよ」

「ありがとう長介!」

「やよい姉ちゃん、そう言えば……」

「うん、どうしたの?」

「あっ、いや……やっぱりなんでもない! それより浩三のミルク入れないと」


授業参観……来週の昼から授業参観があるんだけど、やよい姉ちゃんに来てもらうわけにはいかないよね……。父さんも母さんも忙しくて来れないだろうけど、やよい姉ちゃんも忙しいし頼めるわけない。

そもそも、授業参観に来てくれなんて頼んだ事はないし、頼んだ所で来てくれるかどうか分からない。でもなんだろう、どこか寂しい所があるのかもしれない。でも姉ちゃんに迷惑掛けれないし今回も授業参観の事は言わないどこう。

浩三にミルクを飲ませた後、学校のクリアファイルの中から授業参観のプリントを取りだし投げ捨てた。授業参観の事はもう忘れる事にしようと自分に言い聞かせて、やよい姉ちゃんの手伝いをしに行くことにした。


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「長介……さっき何か言いたそうにしてたけど、何を言おうとしてたのかなぁ……」


夜、皆を寝せた後に思い出しました。長介が手伝いをしてくれてる時、長介は何かを言おうとしてた。伊織ちゃん、響さんが来た時も言いたい事溜め込んだりして喧嘩になったし、長介は言いたい事言えないで溜め込んじゃったりしちゃうし……心配かなー……。


「学校で何かあったのかなー……」


家の手伝いばっかで遊びに行ったりしてないし、それが嫌になってるのかなー……。それで学校の友達と上手くいってなかったりなのかな……長介、相談してくれてもいいのに……。

前の喧嘩があるから、長介が何か溜め込んでるんじゃないかと思ってしまう……。どうにかして元気にしてあげたいけど、何も話してくれないから……うっうー……心配です……。


「あっ、ごみ出ししなきゃ!」


長介の事ばっかり考えていて忘れてた! 今日はゴミ出しの日! うっかりしてましたぁ……。各部屋のごみ箱からごみ袋を剥いでいる時、ぐしゃぐしゃに丸められている紙がある事に気付く。いつも長介が浩三にミルクを飲ませている部屋の床に落ちていた。


「うん?」


なんだろうと思い、丸まった紙を広げてみると、授業参観のお知らせという文字が目に映る。このプリントを見て、長介が何を言おうとしていたのかなんなく分かったかもしれません。


「そっか、長介、授業参観に来てほしかったんだ……。そうだよね、お父さんもお母さんもいっつも大変だから、私に頼もうとしたんだ……。来週、でも仕事があったような……」


長介の授業参観……。行ってあげたいけど、その日はお仕事があるし……。長介の授業参観、誰も行ってあげれてないから……なんとかして行けるように頑張ってみよう! あっ、その前に早くごみ出ししないと!!

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「プロデューサー!」

「どうしたんだやよい?」

「あぅ……やっぱりなんでもないですぅ……」


次の日、事務所に来てプロデューサーに話そうと思っていたけど……あぅ……やっぱり話せない。長介の授業参観も大事だけど、アイドルのお仕事も大事だし……どうしたらいいのかな……。話した所でどうにもならないような気もするし……。


「あら、どうしたのやよい」

「あっ、伊織ちゃん……」


プロデューサーに話せずにいたら、伊織ちゃんが話し掛けてきました。伊織ちゃんになら話していいかもしれない、少し相談してみようかな。もしかしたら良い事言ってくれるかもしれないです!


「あのね、伊織ちゃん。来週、長介の授業参観があるんだけど、その日はお仕事があって……でも長介の授業参観も大事だし……」

「つまり、長介の授業参観に行きたいけど仕事があるの伊織ちゃん助けてーって事かしら?」

「すごいですぅ!! 長介の授業参観に行ってあげれてないから、来てほしいみたいで……でもお仕事と重なっててどうしたらいいのかなーって……」

「そうねぇ~……」


伊織ちゃんは目を閉じて何かを考えてるように見えます。私も目を閉じてどうにか対策方法がないかを考える。お仕事を頑張ってお昼までに間に合うように終わらせたらそれでいいけど、そんな簡単にいくわけないし……お仕事を休むのは絶対嫌です……。

お仕事か授業参観……どっちか一つを選ぶしかないのかなー……。伊織ちゃん、プロデューサーさんに相談しても結局は私自信が決めなきゃいけない……。どうしたらいいのか分からないせいで頭の中が混乱してきました……。


「アイツには相談したの?」

「アイツ……あっ、プロデューサーかな。プロデューサーには言いにくいから伊織ちゃんに相談したんだ……」

「アイツ使い物にならないから……。分かったわ、来週のその日までにどうにかしましょ。私も力になるから」

「ありがとう伊織ちゃん!」

「じゃあ私は行くわ。またねやよい」


そう言って伊織ちゃんは事務所から出ていきました。結局、解決策は出てないけど、伊織ちゃんならどうにかしてくれるよね! あっ、でも自分でも解決策を出せるようにしないと!

うっうー! 長介の授業参観の為に頑張りまーす!! 心の中でやる気を出しながら、今日も仕事に取り掛かるのでした。


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「えぇ、授業参観では自分の家族の事を思った作文を発表してもらいます。お父さんでもお母さんでも兄弟の事でも……普段から色々してもらってる家族の人への感謝の気持ちを書きましょう」

「自分の家族の事か……」


家族の事を発表しろーなんて言われても、どうせ誰も来ないし、どうしようかな……。やよい姉ちゃんには授業参観の事言ってないし、授業参観のプリントも捨てたし。誰も来ないのに作文発表って言われても何を書いたらいいのか分からない……。

父さん母さん、二人の事を書こうかと思い作文用紙に書こうとするけど、手が止まる。父さん母さんには感謝してるしありがとうって気持ちはある……でも内容が思い付かない。かといって弟達の事でもやっぱり内容は思い付かない。

自分にとって父さん、母さん、姉弟……大切な家族だけど、いざ書こうと思っても手が進まない。家族への感謝の気持ちか……。

「やよい姉ちゃん……」


そうだ、やよい姉ちゃんの事を書こう。やよい姉ちゃんの事ならいっぱい書ける。やよい姉ちゃんが来るんなら恥ずかしいけど、どうせ来ないしやよい姉ちゃんの事を作文に書こう。


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「って言う訳で、やよい! 明日の授業参観には間に合うわよ!」

「ほんと伊織ちゃん!?」

「ほんとよ! この仕事、昼前に終わってもいいって書類に書いてるし大丈夫みたいね。だから、やよい、やよいは安心して明日の授業参観に行っていいわよ!」


授業参観の前日、お仕事の書類が届いてそれを見た伊織ちゃんが伝えにきてくれました!その書類を見る所、お仕事は朝から昼までで長介の授業参観には間に合いそうです! お仕事もできて授業参観も行ける……嬉しいですー!!

やっぱり伊織ちゃんに相談して良かったですー!! 本当に解決できましたー!!


「しかし、本当に使えないわねあのプロデューサー」

「プロデューサーも忙しいから仕方ないよー」

「だって、今日届いたってありえないわよ。前日に仕事の内容が書いてある書類が来るなんて……本当はもっと前から来ててそれを管理できなかったんじゃないかって睨んでるわ」

「そうかなぁ?」


どちらにしても、お仕事の時間が分かって良かったです! これで明日の事はもう心配いらない。私の為に色々考えたりしてくれた伊織ちゃん……本当にありがとう! 今度何かお返ししなきゃ!

長介……私が授業参観に来たらビックリするだろうなー!! よし、明日のお仕事頑張ろう!


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「はぁ……」


結局何も言えないまま授業参観前日の夜が来てしまった……。何回かやよい姉ちゃんに言おうとしたけど、言えなかった。作文は姉ちゃんの事書いて恥ずかしいけど、やっぱり来てほしかったなー……。

授業参観の事忘れよう忘れようと自分に言い聞かせてたけど、結局ダメだった。そして姉ちゃんに言おうとしたけど、やっぱりダメで、全部ダメダメ……溜め息が口から漏れてしまう。


「長介ー、ちょっといい?」

「やよい姉ちゃん? うん、いいよ」


やよい姉ちゃん……言うチャンスは今しかない。明日授業参観に来てほしいって……やよい姉ちゃんは忙しいかもしれない。でも聞くだけ聞いてみてもいいんじゃないかって。


「どうしたのやよい姉ちゃん?」

「お姉ちゃんね、長介の為にも明日一生懸命頑張るね!」


明日一生懸命頑張るか……やよい姉ちゃん、明日も仕事があるって言いたいのかな? そっかでも仕方ないよね。姉ちゃん来れなくても俺も頑張ろう……。


「 姉ちゃん……明日も頑張ってね……!」

「うん! 長介も頑張ってね! おやすみー!」


姉ちゃんは来れない。分かってはいたし頼むこともしなかった。でもなんだろう……何で涙が出ちゃうのかな……。何も行動しない自分の弱さ? それともやよい姉ちゃんが来ない明日の授業参観の事?

涙を拭き、電気を消して今日はもう寝ることにした。明日誰も来ないだろうけど、姉ちゃんは笑顔で頑張ってるんだ……俺も笑顔で頑張らないと……。

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「お仕事終わりましたー!!」


授業参観当日。イベントのお仕事だったけどなんとかお昼前に終わらせる事ができました!! 今から長介の小学校に向かったら丁度いいぐらいに到着するかな。お仕事が少し早く終わってくれて良かったですー!!


「お疲れ様やよい。今日はいつもより良かったと思うぞ!」

「ありがとうございます! 長介の授業参観があるってのもあって頑張れたかもですー!!」


「すいません! 765プロさん!!」


すごく困ったような顔をしたイベントの人が私とプロデューサーの前に来ました。なんだろう、すごく急いでるみたいだし何か嫌な予感がしてきました……。プロデューサーさんが何か話してるみたいだけど……。

イベントの人はすぐに走っていきました。話は終わったようだけど、今度は話をしていたプロデューサーが困ったような顔をしていました。やっぱり嫌な予感がするかなー……。


「やよい……落ち着いて聞いてほしい……」

「どうしたんですか……?」

「イベントで必要なアイドルが一人足りないらしくて……まだ、もう少し居てくれないかって……だから長介君の授業参観は……」

「えっ……どんくらいか分からないんですよね……? 授業参観は間に合わない……」


嫌な予感は的中しました……。アイドルが一人足りない……まだ来ていないらしくて、その子が来るまでの間居て欲しいって……。その子が来ないって事を考えれば授業参観には行けないかもしれない、行けても間に合わない……。

授業参観は大事、でもお仕事も大事……昨日までは安心していたけど、一気に不安に変わってしまう。もう、今の状況だとお仕事をやらないといけないし……授業参観は諦めるしかないみたいですー……。


「今から電話しても間に合わない……。ごめんなやよい……折角の授業参観なのに……」

「あっ……いや……私! 頑張りますよ!」


「その必要はないぞやよい!」


後ろから聞こえてきた声。それはいつも聞き慣れている声で、自分の知っている声だった。後ろを振り向いて見ると、やっぱりその人は自分の知っている人だった。


「響さん!!」

「なっ、何で響がここに?」


声の持ち主、それは響さんでした。でもどうして事務所に居るはずの響さんがここにいるのかな? プロデューサーも驚いているけど、私もすっごくビックリしています。色々な事を考えているせいで、頭の整理が間に合わないです……。


「伊織に言われたからここに来たのさー! もしトラブルがあった時……念のためだってさ。今日は仕事も無かったし、ここに来たってわけだぞ! ほら、やよい、ここは自分が引き受けるから、やよいは早く向かうんだ!!」

「ありがとうございます響さん……!!」


伊織ちゃん……響さん……ありがとうございます……!! 二人のおかげで長介の授業参観に行けるし間に合いそうですー! ここからだと全然間に合う距離……あっ、でもそれは車の時……。うーん……ここから走って間に合うかな?

折角授業参観に行けると思ったのに、車がないと間に合わなさそうです……。


「やよいー!!」

「ぷっ、プロデューサー?」

「話はタクシーの中でしよう!」


プロデューサーに連れられて、タクシーに乗る。さっきまで響さんの所に居たはずなのに、何でここに居るのかな……。色々戸惑っているけど、タクシーには乗れました!!


「どうしてプロデューサーが?」

「響から、自分は大丈夫だからやよいの所に行くさーって。俺も、やよいの事は心配してたから……」

「プロデューサー……ありがとうございます!! おかげでタクシーに乗れました!!」

「間に合うといいな!」


どうなるかと思っていたけど、なんとか授業参観には行けそうです。伊織ちゃん、響さん、プロデューサー……三人が助けてくれなかったら私はダメだったかもです……。

本当に三人には感謝しないといけないです! 無事、タクシーにも乗れたし、後は長介の小学校に向かうだけ、時間も大丈夫、安心して授業参観に行けますー!!


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「はぁ……はぁ……」


なんとか間に合いました……。プロデューサーは戻るって事で学校に着いたらまたすぐにタクシーで行っちゃいました。間に合うには間に合ったけど、少しだけ遅れちゃいました。

急いで小学校に入ると、長介の教室に向かいました。教室に入ると、やっぱり授業参観は始まっていたけど、長介の番は来てないみたいだったのでなんとかなりました……。


「次、高槻君」


丁度、長介の番です……。本当になんとか間に合いました~……。長介は私の事まだ気付いてないみたいだけど、どんな事するのかな?


「はい。僕はお姉ちゃんの事を書きました」


えっ? 私の事? 黒板を見てみると、家族への思いを書いた作文発表と書いてありました。だから私の事なんだ! でも何で私の事なんだろう……。


「僕のお姉ちゃん。僕のお姉ちゃんはアイドルです。でも、お姉ちゃんは家事や弟達の面倒を見たりします。アイドルの仕事が終わって帰ってきたらすぐ家事をして、それでも嫌な顔一つしないで、いつも笑顔です。

僕もそんな忙しいお姉ちゃんの力になれるように頑張りたいです。そしてお姉ちゃんの役に立てるように、もっともっと手伝いをしてお姉ちゃんがゆっくり休めるように頑張っていこうと思います。これで終わります」


長介の発表が終わると周りからは拍手。私はそんな長介の発表を聞いて目から涙が流れ出てきました……。長介、私の為に頑張ってくれてるんだなって……。そう思うと涙が止まらなかった。でも何でだろう、悲しい涙じゃなく、暖かい涙で私は笑顔でした。

ずっと面倒を見てあげていた長介もここまで大きくなって、私の事まで考えてくれるようになるぐらいまで成長して……。

伊織ちゃん、響さん、プロデューサー……ありがとうございます……。皆のおかげでいい授業参観を見ることができました……!!


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「ありがとう長介!!」

「やよい姉ちゃん……」


やよい姉ちゃんは来てくれた。授業参観の事は言ってなかったし、仕事があるから絶対に来ないとばかり思ってた。だからあの作文が聞かれたと思うと恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちの二つが頭の中をぐるぐると回る。

でも姉ちゃんが来てくれた事はとても嬉しかった……。忙しい中、わざわざ来てくれたやよい姉ちゃんにはありがとうの気持ちでいっぱい。


「やよい姉ちゃん……ありがとう……」

「うぅん、私こそありがとう……」


姉ちゃんは抱き締めて涙を流していた。そんな姉ちゃんを見てると自分も涙が出てきた。あの時の夜、やよい姉ちゃんと喧嘩した時みたいに涙を流した。でも何でだろう、あの時のごめんなさいって涙とは違う。ありがとうって気持ちなのかな……?

やよい姉ちゃんの明日頑張るって言うのは仕事を終わらせて授業参観見に来るねって事だったんだ……。でも何で授業参観の事知っていたんだろう? でも来てくれたし、いっか!


「長介、本当に成長したね!」


さっきまで、泣いていたのにもう笑顔になったやよい姉ちゃん。やっぱりやよい姉ちゃんには笑顔が一番だなー!! これからも姉ちゃんの笑顔の為にも頑張らないと。そして姉ちゃんがゆっくり休めるぐらいまで家の事をしよう。


「うん! やよい姉ちゃん……仕事あったのに来てくれてありがとう……嬉しかったよ!!」


「私も長介の作文聞けて良かった! そうだ、今日は長介も頑張ったし、夜ご飯は長介の好きなもの食べよっか!」


「うん!」


END