「プロデューサーさん、お疲れ様です~」

「ああ、あずささん、お疲れ様です。今日も大変でしたね、ゆっくり身体を休めてください…貴音もな」

「はい、プロデューサーも」

プロデューサーに送っていただいた先は、あずさの住むマンションの前。
今日は、久々のあずさとの共演でした。
竜宮小町となってからは、中々そう言った機会は無かったのですが、こうして共に仕事をすると言うのは良い物ですね。
その仕事が終わってから、あずさから食事をしようという誘いがあったのです。
あずさは、プロデューサーもどうかと聞いたのですが、まだこの後仕事が残っているそうで、断っていました。

私としては、少し嬉しかった…と言ってはプロデューサーに失礼ですね。

「うふふっ、貴音ちゃんもありがとう」

「いえ、あずさのお蔭で助かりました。礼を述べねばならないのは私の方です」

「うふふっ、久々に一緒の現場で、私も嬉しかったわ~」

「そうですね、最後に仕事をしたのは…いつでしたか?」

「そうねぇ…思い出せないくらい、前の事になっちゃったのね」

「ええ…」

あずさの部屋へと向かう途中で、ふと記憶の糸を手繰り寄せますが、目当ての記憶が届かない程遠い彼方にあるようです。

「ついたわよ~」

あずさが扉を開くと、あずさらしく、上品で可愛らしい部屋が見えます。
白を基調に、時折ピンクやグリーンの家具を配する辺りが彼女らしいと言えます。

「ごめんなさい、今から直ぐに用意するから、貴音ちゃんは待っていて~」

あずさは、そう言うと来ていたジャケットをハンガーにかけ、キッチンへと向かいます。

「あ、あの、私も手伝います」

「いいのよ~貴音ちゃんはゆっくりしてて~」

その内に、子気味良く野菜を切る包丁の音が聞こえ始め、それを炒めた香ばしい香り。
実を言うと、あずさの手料理を食すのはこれが初めてではありません。
しかし、前回はあずさの意外な凝り性な面を垣間見た気がします。
丁寧な盛り付け、味付け。味は私が食してきた今までの食事の中でも最高と言っても良いでしょう。
しかし、時間はそれに比例するが如くで、何と4時間後。
まあ、その分感動もひとしお、共にいたプロデューサーも涙を流しておられました。

「貴音ちゃ~ん、ちょっとお願いがあるのだけれど~」

「はい?」

「悪いけど、洗濯物を入れてもらってもいいかしら~?」

「は、はい、分かりました」

あずさのマンションは、アイドル活動が軌道に乗ってから転居したもので、保安面でもかなり気を使われた設計の様です。
ベランダも、高層階にあるからかサンルーフに覆われた半密閉式。
しかし、季節的にも心地よい風を取り入れるために、そのガラス窓も開かれています。
これまた、あずさらしい色遣いのブラウスやワンピース、そして…

「…妖艶な」

あずさの下着、ですね。
…この様な物の方が、殿方には好まれるのでしょうか?
いえ、しかしこれを見る事の出来る殿方とは…

「まさか…いえ、その様な事が…しかし」

手にしたショーツを、私は籠へ放り込み、室内へと戻ります。

「ごめんね~貴音ちゃん」

「いえ、この位の事は…」

「あ、そうそう貴音ちゃん。最近私ブラが小さくなっちゃって」

「またですか?」

「そうなのよ~。でね、この前大きなサイズも取り扱ってる素敵なショップを見つけたの~、今度貴音ちゃんも一緒に行きましょうよ」

「いえ、私は」

「うふふっ、貴音ちゃんの下着、私も選んであげるから、ね?」

…あずさが選ぶと、あのような下着になるのでは?
しかし、それもまた、一興かもしれません。

「…分かりました、機会があれば行きましょう」

「やった~、じゃあ、今度プロデューサーさんにオフの日程を計画してもらわなくっちゃ」

…それにしても、あずさは料理をしながら私と会話するなど、器用なのですね。
私も、料理を覚えたいですね。出来ない訳ではありませんが、他人様に出す様な物ではありませんし。

そうこう話すうちに、あずさはニコニコとしながら、テーブルに配膳を始めました。

「うふふっ、貴音ちゃんが来るから、ちょっと私も気合を入れてみました~、らぁめんじゃないけどごめんね~」

「いっ、いえ…これはまこと、美味なる物の予感が致します」

並べられたのは、白身魚のムニエル、じゃがいも一杯のポタージュ、ご飯とパンどちらが良い?と最初に聞いたのは私を気遣ってでしょうか?ご飯が並んでいます。

「うふふっ、お口に合うと良いのだけれど」

「頂きます……何と。ムニエルはふっくらとしている中に白身魚の甘味を損なわず、ポタージュも良いですね。体が温まります。とても、美味で御座います」

「そう、それならよかったわ~」

あずさが、頬に手を当てて微笑んでいます。
私も、その顔を見るだけで頬が緩みます。
食事をしながらの他愛もない会話。
私の心は、温かく、満たされていく。

私は、幸せなのでしょう。
あずさだけでは無い、他の皆とも知り合えたことが。

「ところで貴音ちゃん」

「はい、何でしょう」

「貴音ちゃんは、どう思う?プロデューサーさんの事」

「…どう、とは、殿方として、という事でしょうか」

頷いたあずさの顔は、真赤になって居ます。
…私よりも、そう言った恋路の事は春香に聞くのが適切だと思うのですが。

「…誠実で、生真面目。私達に対しても常に真正面から向かってくる。一生懸命でともすれば自分を犠牲にしてでも、私達をお守りくださる。そう思っております」

「…そうね、そうだと思う」

「だからこそ、美希や春香の心を掴むのでしょう…そして、あずさもまた」

「…何時から、気づいて居たの?」

「ふむ、寧ろあずさがプロデューサーに恋心を抱いていないと気づいて居ないのは、当の本人だけかと」

「えええ?!」

「…あずさ、一つ忠告しておきましょう。プロデューサーを狙う者は、皆強敵揃いですよ」

「え?」

「ふふふっ、あずさ、スープが冷めてしまいますよ、さあ食べましょう」

「ねえ、貴音ちゃん、もしかして貴音ちゃんも」

「…ふふふっ、それは、とっぷしぃくれっと、です」

「あっ、ずるいわ貴音ちゃん!」

「ふふふ、戦いは手の内を明かすものではございませんから」

「…やっぱり」

「幾らあずさでも、これは譲れませんよ」

「ふふっ、ライバル、かしら」

「戦友、ともいえるかもしれません。何せ相手はあのプロデューサーですから」

「そうね」

「宣戦布告、という事ですか?」

「望むところよ~」

「そうですか…ふふっ」

とは言え、私はすでに、この戦いの行く末をある程度予測できていますが。
そして、それは決して不幸な結果にならない事を。
そんな事を話している内に、食事も終わり、湯あみをして来た私は、そこで気づきました。

「あずさ…その、申し訳ないのですが…」




「…これは、際どいですね」

「ごめんなさい、ブラは私のでも良いかな?と思ったのだけれど…」

あずさが、私に貸してくれた下着は、淡い紫のブラジャー、そして…それに合わせた、紫のショーツ、それも…何と言いますか、とても布の面積が狭い、と申しますか…

「…あずさは、この様な下着をいつも付けられているのですか?」

「ち、違うわよ?!それは、その、たまたま」

「…勝負下着、という奴ですか?」

「そ、それはその」

「…むしろ、私が着てもよろしかったのですか?」

「うふふっ、貴音ちゃんなら良いわよ~。でも、やっぱり貴音ちゃん、スタイルが良いわねぇ」

「あっ、あずさ、お戯れはやめてください」

「うふふっ、ごめんなさい、つい」

「あずさの方が、美しいではありませんか」

「貴音ちゃんの、お尻は綺麗だわぁ~」

「や、やめてください恥ずかしいです!」

「うふふっ」

天然、と言いますか。
これはプロデューサーも大層苦労するでしょうね。
先程、当の本人が知らぬ、と言いましたがアレは嘘。
…当事者が知らぬ同士の両想いというのは、中々見ていて歯がゆい物です。


あずさが湯浴みから帰ってくると、早々に床に就く支度を始めます。

「貴音ちゃんは温かいわねぇ~」

「あ、あずさ、私は下で寝ますゆえ」

「いいのよ~どうせ大きなベッドなんだから~」

と、言いつつなぜあなたはこうも近くに来るのです?!

「あらあら~恥ずかしがらなくても良いじゃない~」

「あ、あずさ!」

「…ねえ、貴音ちゃん」

「はい?」

「…貴音ちゃん、私ね…貴音ちゃんの事も好きだけど、やっぱり、プロデューサーさんの事も好き」

「…私も、あなたの事を好いておりますよ。あずさ」

「…そう…嬉しいわぁ…」

あずさが、私の背中の後ろで、どういった顔をしているのかは分かりません。
しかし、その声には安堵の様な物も感じられました。

「…あずさ、私は」

思わず、振り向いたときには、既にあずさは心地よさそうに眠っておりました。

「…寝つきの良い事ですね。結構な事です…」

さて、私も眠るとしましょう…
あずさに対して私が抱いている感情の正体に気付くのは、いつになるのでしょうか?もう気づいて居るのでしょうか?私自身にも分かりません。
しかし…それは敵わぬものなのかもしれませんが。
二兎を追う者は一兎も得ず。
そう、何もかもを欲しても、手に入らないのですから。

「…あずさ、私は…貴方の事を、そしてあの方の事を…」