☆シャッフルSS☆
「ただいまー。あら、千早ちゃんだけ?」
「はい、律子は竜宮のみんなを迎えに行きました」
「律子さんに留守番頼まれちゃったの? ごめんなさいね待たせちゃって」
「いえ……あの、音無さん? ちょっと話を聞いてもらってもいいですか?」
「え? うん、ちょっと、買ってきたお茶とか給湯室においてくるから待ってて」
「すみません」
「はい、おまたせ! それで? 改まって、千早ちゃんが私に質問なんて珍しいわね?」
「実はちょっと……悩んでいることがあって……」
「そういえば、ソロライブが決まったんですってね! そのことかな?」
「それとは少し違うことなんですが」
「……うむ! 不肖、この音無小鳥が力になれるなら相談にのるわよ!」
「しあわせって、何なのか、どういうものなのか分からなくなってしまって」
「ち、千早ちゃん? それって……」
「音無さん! しあわせってなんだか教えていただけますか?」
「ちょ、ちょ……」
「あ……えーと、私の歌ってしあわせを追い求めるテーマのものが多いじゃないですか」
「あ!? うん。『蒼い鳥』とかそうよね」
「私も自分なりに心をこめて歌ってきたつもりなんですが、ふと、しあわせってなんだろうと思うようになったんです。以前の私なら歌さえ歌っていれば、それだけ
でしあわせでした。でも、今はそれだけがしあわせじゃないと気付いて。そうすると以前のようには歌えてないような気がして」
「うんうん。若いっていいわねー」
「音無さん?」
「それは、千早ちゃんがいろんなことを経験して、しあわせの価値が広がってきたからよ」
「そう……なんでしょうか?」
「小さな子供の頃は、プリンを食べたり、面白いお話を聞いただけでしあわせだったでしょう?」
「……」
「それが、千早ちゃんは『歌』になって、そしてまた更に違うものも含めて、しあわせと感じられるようになっていってるのよ」
「私の、しあわせ……。今の私はみんなと。765プロのみんなと一緒にトップアイドルを目指すことが楽しい。春香や美希達と一緒に」
「それが、千早ちゃんの『しあわせのお皿』のようなものになっているんじゃないかな? 昔は小さいお皿だったけど、今ではみんなをすくえるぐらいに大きくなったんだと思う」
「でも、そうしたら私は? 私の歌は?」
「大丈夫! 今のしあわせをそのまま千早ちゃんの歌にのせれば、大丈夫よ! 昔の歌い方とは変わってしまうかもしれないけれど、きっと前よりいい歌になるわ」
「そう……でしょうか?」
「そうだ! せっかくだから、一曲、私の歌を披露してもいいかな?」
「お、音無さんの歌ですか!?」
「みんなには内緒よ! プロデューサーさんにも。この歌のタイトルは「しあわせ」を漢字一文字にしたもの……。それを、私の今のしあわせをこめて歌うね」
「ぜひ、きかせてください!」
「じゃ、失礼して……」
~♪
「ずっとずうっと~幸あれ~♪」
「……」
「ど、どうだった?」
「心が暖かくなるような歌ですね。すごくいいです!」
「いやあ、千早ちゃんに褒めてもらえるとうれしいかな」
「この、しあわせの歌は、音無さんの歌だったんですよね?」
「まあ、女には色々過去があるのよ。それにね、昔はこんな風には歌えなかったの」
「え?」
「みんなと出会えて、みんなとしあわせを共有できたから、こんなふうに歌えたのよ。千早ちゃんやアイドルのみんな、律子さんやプロデューサーさんや社長のおかげね」
「音無さん……。それで私にきかせてくれたんですね」
「現役アイドルに、歌をきかせて……ってちょっと恥ずかしいけれど。歌の悩みには歌で応えるのがいいかなって」
「ありがとうございました。私のために」
「いえいえ。それにね」
「?」
「今の『しあわせ』に関して言えば、千早ちゃんは私のライバルかなって」
「そ、それって……」
「私も千早ちゃんに負けたくない、ってつい歌っちゃったのかもね~」
ガチャリ
「只今戻りましたー。お、千早、待たせてゴメンな」
「!」
「プロデューサーさんおかえりなさい! じゃあ千早ちゃんをきちんと送ってあげてくださいね」
「音無さん、すいません、千早を送ったらすぐ戻ってきますんで!」
「事務仕事まだだいぶ残ってますからね~」
「それでは、音無さん。相談にのっていただいてありがとうございました」
「千早ちゃんも気をつけて帰ってね、あと」
「?」
「がんばってね、ライバルさん」
「ん? 二人で何の内緒話してるんだ?」
「女同士の秘密です! ねっ! 千早ちゃん?」
「え……ええ。プロデューサーには内緒です」
「うーん。気になる」
その日、車で送られる途中、私はプロデューサーにわがままを一つお願いした。
「しあわせのうた」 完
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