☆シャッフルSS☆



やよい「ぐすっ……」

P「落ち着いたか?」

やよい「……はい……すみません……」


オレンジ色の夕日が放つ光が事務所の窓から入り込んでいる

淡い光に包まれた事務所の中には、やよいと俺の二人だけしか居なかった

ソファーに座り、ようやく落ち着いてきたやよいの頭を撫でる

何故この状況になってしまったのか? 事の始まりは、仕事が終わったやよいを事務所に連れ帰った時に起こった

車の中に居る時点でやよいの様子はどこかおかしかった
何時ものように俺に見せる笑顔は引き攣っており

何時ものように元気に話す声に張りがなく

何時もの柔らかい雰囲気はやよいからは感じられなかった

その時俺は、やよいのそんな姿にただ違和感を感じていただけだった

そして舞台は事務所の中へと移る


P「ただいま戻りましたー……って誰も居ない?」

やよい「どうしたんですかプロデューサー?」

P「いや、音無さんも事務所に居ないんだ……まったく……急な電話入ったらどうするつもりなんだよ……」

やよい「き、きっと小鳥さんは何か仕方ない用事があったんですよ! そんな怒らないであげてください!」

P「……そうだな。 無意味に事務所を開けるわけがないよな。 有難うなやよい。 やっぱりやよいは優しくていい子だな」


そう言うと俺は何時ものようにやよいの頭を撫でた

その一瞬だが、やよいは何時も通りの笑顔を見せてくれた


やよい「へへ……」

P「流石お姉ちゃんだな。 本当に頼りになるよ」


俺は自分が思った事をそのまま言葉にしただけ

なんの悪気もなかったんだ

……けれどその言葉を発した瞬間に、やよいの表情は一気に暗くなった


P「……どうしたやよい?」

やよい「……」

P「やよい……?」

やよい「……私は……好きでお姉ちゃんになったわけじゃないです……」

P「え……」

やよい「わ、私は…………うわあぁぁあああああん!!!!!」


堰を切ったように、やよいの目から溢れ出す涙

事務所に響き渡るやよいの泣き声

俺はそんなやよいの姿を見ながら狼狽える事しか出来なかった

そんな俺に構う事なく泣き続けるやよい

狼狽える事しか出来ない情けない俺が咄嗟に取った行動は……黙ってやよいを抱き締める事

その瞬間、俺の腕の中でやよいはビクッと反応を見せながら、声を押し殺す為に俺の腹部へと顔を埋めた

腹部に生暖かい涙の感触と共に、嗚咽が俺の体内へと響いている

俺はそんなやよいを、黙って頭を撫で続ける事しか出来なかった



そして時は今へ戻る


P「なぁ……どうしたんだ、やよい?」

やよい「……最近お仕事が上手くいかないんです……」

P「……そういやそうだな」

やよい「けれど皆は『やよいなら大丈夫』 『お姉ちゃんなんだからくよくよしちゃダメだよ』 って言うんです……」

P「……」

やよい「……私はそんなに強くないんです……皆はそれを分かってくれないんです……」

P「やよい……」

やよい「も、勿論皆は悪くないんですよ! ……私が勝手に悩んじゃってるだけで……」


そう言うとやよいは小さな肩を震わせながら、少し俯き、声を発さなくなってしまった

……弱々しい小さい肩を見た俺は、酷く後悔していた

今までやよいをどのように扱ってきたか?

しっかり者だと決めつけ、任せっきりになってはいなかったか?

一人の小さな女の子だという事を忘れていたのではなかろうか?

考えれば考える程自分の愚かさに気付く

俺はやよいをちゃんと見ていなかったのではないか?

周りで勝手に決めつけたイメージを押し付けていただけではないだろうか?

大家族の長女だから

歳に見合わないしっかりした考えを持っているから

そんなの全てやよいの外観であって、内面ではない

その全てが周りを安心させようとしてくれているやよいの優しさと強さ

その“優しさ” “強さ” の部分を見ずに、それらが生み出す結果だけに目を受けていた

やよいの本質を見ようともしていなかった

情けない……本当に情けない……

気が付くと俺は自分の膝を力一杯握り締めていた

目の前にはそれに気付く事もなく、泣き声を必死に押さえ込んでいる一人の少女

十四歳になったばかりの高槻やよい

そんな少女を俺はこんな状態になるまで追い込んでしまっていた

反省

後悔

その二つの言葉が頭の中を駆け巡る

頭の中を掻き回す二つの言葉に耐えられなくなったのか……俺は自然と頭を下げていた

謝罪

ある意味逃げに等しいこの行為は、今の俺に出来る最善の行動だった


P「本当にごめん……俺は……プロデューサー失格だ……!!」


悔しさから溢れ出る涙を堪えながら必死に頭を下げ続ける

視界には入らないが、やよいは今どんな表情をしているだろう……

軽蔑?

哀れみ?

蔑み?

どんな表情でも良かった

自分が悪者なのだから

いっその事、罵倒でもしてもらいたかったのかもしれない

そんな自分勝手な謝罪をし続ける俺の頭上からやよいの声が聞こえた

それは俺が望む罵倒の言葉ではなく……悲しそうな声


やよい「や……止めてください……そんな言葉聞きたいわけじゃないんです……」


俺は涙を拭い、ガバっと顔を上げた

……そこには悲しそうな表情のやよいがいた


やよい「なんで……プロデューサーが謝るんですか……」

P「お、俺はやよいの事を傷付けてしまった……だから……」

やよい「そんな事されても私がもっと苦しくなるだけですっ!!!!!」

P「っ……!!」

やよい「……私は本当の私をプロデューサーに分かって貰いたかっただけなんです……」

P「や、やよい……」

やよい「……子供らしく扱って貰いたかった……けど……大人の女の人としても扱って貰いたかった……おかしいですよね……」

P「……」

やよい「だから私はずっと笑顔でいました……辛くてもどんな時でも……大人の女性として見てもらいたかったから……」

P「……」

やよい「け、けど! 子供らしく頭を撫でて貰いたいのもあったんです! ……もう自分がどうしたいのか分からなくなって……」

やよい「……だからプロデューサーに相談しようと思ったんです……だけど……我慢できなくて……」

P「……やよい。 ちょっとした昔話を聞いてくれないか?」

やよい「……え?」

P「昔々ある所に大家族の長男である少年がいました。 その子は共働きで大変な両親の代わりに一生懸命、家事や兄弟の面倒を見ていました」

やよい「え……プロデューサー……?」

P「少年は両親に褒めて貰いたい一心で兄弟を支え続けました。 だけど両親はそれに気付く事なく弟や妹達にばかり目を向けていました」

やよい「……」

P「両親が少年に向ける言葉は『あんたがしっかりしてるから私達はほっと出来るよ』『お前が俺らが居ない時に皆を支えてやってくれよ』 という、決して少年に向けられた言葉ではなく、兄弟達に向けられた言葉でした」

やよい「……」

P「少年は悲しい気持ちになりました。 どれだけ頑張っても両親は自分を見てくれない。 どれだけ頑張っても自分は報われない……」

やよい「プロデューサー……」

P「……そんな少年を支えてくれたのは兄弟達の笑顔でした。 それを見るだけで少年は頑張れました」

やよい「……もういいですよプロデューサー……だから…………泣かないでください……」

P「……ごめんな……自分でこんな体験をしておきながら同じ様な境遇のやよいに気付いてやる事が出来なかった……」

やよい「いいんです…………私は……幸せだって事に気付けましたから」

P「……え?」

やよい「……だって……私にはプロデューサーが居ます。 こんな私の我儘に涙を流しながら答えてくれるプロデューサーが居ます」

P「やよい……」

やよい「これからはいっぱい甘えますよー! だから……プロデューサーも私に甘えてください!」

P「……やよい……有難う……有難うな……」

やよい「プロデューサーが昔甘えられなかったんなら今いっぱい甘えてください! 私は受け止めます!」

P「だ、だけど……俺は……」

やよい「その代わり私が辛くなったらいっぱい甘えます! お互い支えあっていきましょー!」

P「……はは……これじゃどっちが悩んでたのか分からなくなっちゃったな……」

やよい「えへへー。 難しい事はいいんですー! 笑っていきましょう! スマイルが一番です!」

P「……うん。 そうだな! これが新たなスタート地点だ!」

やよい「うっうー! それじゃあ何時ものいきますよー! せーの!」

やよい・P「「ハイ、ターッチ!!」」


窓から差し込むオレンジ色の夕日

その光源を目で追うと、夕日を覆う不揃いな雲達

歪な形のオレンジ色の雲や、大きく構えているオレンジ色の雲

小さく他の雲に隠れているオレンジ色の雲や、朧気で、もう直ぐ消えてしまいそうなオレンジ色の雲

全てが不揃いながらもしっかりとした自己主張を見せている

この窓から観える景色をしっかりとしたものへと仕上げる雲と夕日

雲と夕日、このどちらかが欠けてしまうと、この景色は意味の無いものになってしまう気がした

そして俺の目の前に、夕日より眩しい笑顔を見せてくれている少女の姿

オレンジ色の服がよく似合う女の子

優しく、強い女の子

俺はそんな少女に照らされて今は笑顔になっている

不揃いなオレンジ色の雲と同じように

だから俺は少女の傍を離れない

少女の笑顔を壊さないように

少女の幸せを壊さないように

この幸せな空間を保ち続けよう

夕日とオレンジ色の雲達と同じように












おわりおわり